黒塚の型
平成28年1月10日、新設
粟谷明生師が次のように書いています(粟谷明生『夢のひとしずく 能への思い』ぺりかん社、2015年)。
「そんなだらけていた私を目覚めさせてくれたのが『黒塚』でした。昭和60年3月の「粟谷能の会」のとき、あと半年余りで30歳になろうというときです。公演の寸前に従兄の能夫から言われたひとことが、私の演能への意識を一変させてくれました。
『”月もさし入る”と、喜多流の型付では右上を見上げ、月を見る型でしょう。でも観世寿夫さんは”月もさし入る閨の内”、とあばら家の床に差し込む月光をじっと見たんだよ』
月といえば上を見る、型付け通りにするものだと思っていた私には衝撃でした。詞章の深い読み込みでろいろな演出が出来ることを知ると途端に気持ちが明るくなり、やる気がふつふつと湧いて来ました。演じることに規制が効き過ぎ、自由のない能の世界、そう思っていたものが、意外と自由な演劇だと気づいたのです。能は完成された演劇で、決まりごとを粗相なく伝承していれば無難にこなせる、余計な創造性は無用と、知らぬうちに思い込んでいた自分を大きく揺るがすものでした。流儀内の決められたもの以外に、いろいろな解釈と表現がある、これは何て面白いのだろうと、心が震えました。」
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