今から五千年ほど前、神農の治める中国は、乱世を迎えていた。 諸侯は互いに争い、天下万民を苦しめていた。しかし、神農には、そんな諸侯の争いを抑える力がなかった。 そんな世を憂えた黄帝は、天下の乱れを治め、万民の苦しみを救うため、軍事を学び、軍隊を整えて、世を乱す諸侯の討伐に立ち上がる。 そんな黄帝に対し、諸侯は感服し、次々と帰順してきた。こうして天下太平がもたらされるかに見えた。 ところが、蚩尤だけは、天下の安定に協力しようとはせず、あくまでも暴虐のかぎりをつくし、天下を乱すことをやめようとはしなかった。蚩尤は、霧と風と雨を自由自在に操る魔物で、いろんな兵器を生み出す能力をもっていた。 そこで黄帝は、蚩尤を討伐するため、軍を進める。 だが、蚩尤の操る霧にまかれて方角を見失い、蚩尤のくりだす暴風と豪雨に悩まされ、蚩尤の生み出す無数の武器による攻撃に太刀打ちできず、蚩尤を倒すことができずに終わる。。 そんなとき、半獣半人の炎帝が、黄帝に対して兵を挙げる。炎帝は、再び天下に君臨しようとした神農であった。両軍は阪泉の野において決戦し、三度にわたる大会戦をくりひろげ、ついに黄帝が勝利をおさめる。 そこへ蚩尤が、黄帝に対して反旗をひるがえす。蚩尤は、黄帝に従っておとなしくするつもりはなかった。そこで黄帝は、諸侯を招集し、これに反撃を開始する。 蚩尤は、黄帝軍を迷わせんとして、黄帝軍のまわりに霧をはらせた。そのうえ豪雨と暴風を発生させて、黄帝軍にぶつけた。暴風と豪雨にさらされ、濃い霧のなかで右往左往している黄帝軍に、蚩尤の生み出す無数の武器で奇襲攻撃すれば、いとも簡単に勝てる。蚩尤は余裕であった。 しかし、すでに黄帝は、前回の失敗を教訓にして、すでにその対策を講じていた。 ただちに八陣をしき、四方どこからの奇襲攻撃にも即応できる態勢をとると同時に、指南車を持ち出す。指南車は、つねに正しい方角を指し示してくれる新発明である。黄帝軍は、この指南車に導かれ、濃霧につつまれようとも、迷うことなく蚩尤の本陣をめざすことできた。 しかも、暴虐のかぎりをつくす蚩尤を倒すため、神女の西王母から黄帝のもとに遣わされた乾きの神・魃の活躍により、たちどころに暴風と豪雨はかき消され、まもなく霧も晴れ渡る。 目の前には、たく鹿の野が広がっていた。そこに異形の魔物に率いられている一団がいた。蚩尤の軍勢である。 こうして所在をつかまれてしまった蚩尤だが、蚩尤には黄帝軍をよせつけない自信があった。みずからの生み出す無数の武器を繰り出せば、黄帝軍の兵士を向かってくるそばから撃殺できる。 蚩尤は、不敵な笑みをうかべながら、その七十二人の側近たち、そして多くの配下とともに、黄帝軍が突撃してくるのを待った。 ところが、黄帝軍は向かってくることなく、遠くにいて、ただ陣形を整えるだけであった。 蚩尤は、黄帝軍がおじけづいたものと思った。が、その瞬間、整列の終わった黄帝軍の陣営から、思いがけず無数の矢が飛んできた。それは普通の弓では飛ばせない距離を飛んできた。 よく見ると、黄帝軍の兵士は、見たこともない武器を手にしていた。 そう、蚩尤にまともにぶつかっては勝ち目のないことをよく分かっていた黄帝は、蚩尤との決戦に備え、遠くまで届く機械じかけの弓−弩を開発していたのである。 油断していた蚩尤の軍勢は、その思いもかけない攻撃に、なすすべもなかった。ふりそそぐ矢の雨の下、蚩尤の軍勢は次と次と矢にあたり、倒れていく。蚩尤の陣営は、あわてふためき、混乱するばかりであった。 その混乱に乗じて、黄帝軍は一気に突撃を敢行する。蚩尤は、矢に傷つきながらも、鬼神のごとく反抗するが、しかし、勝機は黄帝軍にあった。 ついに蚩尤は力尽きて倒れ、ここに平和が回復する。 この黄帝の勝利は、人々に武力は弱小でも、工夫をすれば強敵に打ち勝てるのだということを教えた。 このことは、力がなくて悔しい思いをしていた多くの人たちにとって、大きな励みとなった。そのせいか、黄帝の戦い方は、多くの人々に学ばれ、そして、まとめられていく。 ここに中国の兵法が誕生し、その後、大きな発展を遂げていくことになる。 この後、兵法は、苦難に打ち勝ちたいと思っている人たちに学ばれ、そんな人たちを通して生きつづけていく。