雅楽のリズム Positive



<呼吸>
 雅楽には、大きく分けて歌、器楽、舞などがありますが、どの
ジャンルを聴いても、その単純な旋律、仕組みに反して、リズム
を把握するのは難しいと思います。
 一般的に聴くことがある雅楽の曲は、4拍子など、拍節を持っ
ているものがほとんどですが、拍の周期をあまり感じられません。
その原因を見ていこうと思います。


 現代では、器楽が雅楽の中心に見えますが、本当の起源は「歌」
です。この歌の延長として吹奏楽器が用いられるに至ったのでは
ないでしょうか。
 吹奏楽器というのは、息を使って吹く楽器ですが、ここで重要
になってくるのは、物理的に楽器を鳴らすことを第一に考えた息
ではなく、人間の呼吸を考慮に入れることです。

 歌を歌う時でも、楽器を吹く時でも、肉体的な限界があります。
雅楽のリズムを作っているのは、この「人間の息」で、簡単に言
えば「自然な一息の長さ」が周期になっているのです。

 曲に4拍という拍節が設定されていても、文章にある句読点の
ような区切りを設け、あくまで、基本的に一息で吹くフレーズを
1周期としながら曲を形成していくのです。これは、歌でも器楽
でも同様です。


 器楽の曲に「序吹き」という無拍節の曲があります。「序吹き」
とは、無拍節、つまりリズムを表していますが、「吹く」という
表現が与えられています。この「序吹き」は、拍節のある曲とは
違ったリズムが生まれますが、その理由は、主に篳篥や龍笛の息
継ぎのタイミングが変化することにあると言えます。一息のフレー
ズという考えが、ほとんどそのまま反映していると言えるかもし
れません。

 序吹きの演奏には経験と技術が必要とされますが、雅楽の起源
と言える歌を見てみると無拍節です。きっと器楽の曲も無拍節の
曲の方が始めに存在していたのでしょうか。一息のフレーズとい
うことを考慮すると自然に思えることでもあります。


 笙という楽器にある「手移り」という技法は、音を終始持続す
る演奏上行われない「息継ぎ」を模していると言えます。全ての
場所ではありませんが、篳篥・龍笛の息継ぎに合わせるかのよう
に音量の変化と指の動作を連結させ「手移り」は行われるのです。

 このように、音と同じように目には見えない呼吸をリズムとし
ており、合奏においては、複数の奏者が関わってくるため捉え難
く、その分複雑に感じます。

 「呼吸を合わせる」というのは、雅楽においては文字通りの意
味となっています。お互いの息遣いを感じ、演奏していくことが
リズムを作っていくのであって、設定された拍節は目安でしかな
いのです。


<拍に対する考え>
 楽器の機能的なこともリズムに影響しています。もともと日本
の楽器は、純粋に音の響きを味わうことを目的に整えられ、そこ
から機能性の改良を施されていません。ですから、俊敏に音を発
することに向いていません。よって、アクセントが付き難いため、
拍は常に滲んだようになります。その結果、リズムは柔軟になり
ます。

 合奏においても吹奏楽器が中心で、音量も大きく主旋律を担当
する篳篥が楽をリードしいるのですが、拍を数える主導権は、拍
毎に入れ替わっているとも言えます。
 例えば、太鼓が1拍目に打たれれば、そのアクセントに演奏者
全てが従います。次の2拍目から筝が音型を弾けば、今度は筝の
拍に注目します。そして、旋律に注目が移ると旋律の拍が中心と
なり、息継ぎによる間隙があれば、笙の手移りや、琵琶の所作に
一瞬注意が向き、強拍では再び旋律など、その時アクセントが生
じる楽器に主導権が戻ります。

 これは可能性であり、実際には奏者によって感じ方、注目する
拍の場所は異なるでしょう。しかし、文字通り皆で共有する、楽
に一貫して流れるリズムがあり、それをお互い手渡ししながら曲
は進んで行きます。
 ですから、どの楽器の奏法にも、あらゆるタイミングを受け入
れられるだけの許容範囲が用意されているのです。


<表意音>
 また、これは日本人の嗜好、思想でしょうが、便利ではないこ
と、滞ること、勿体ぶることで印象を深める、有難みを出すとで
も言えるかもしれません。
 一音一音発することに不器用で手間がかかるような楽器でこそ、
一音一音の重みを出すことが出来るのでしょう。それに伴い、拍
も軽快感よりは、腰を据えている感じが強くなります。例えるな
ら表意文字を並べるようなものです。

 漢字、日本語は本来縦書きです。横書きとは方向が違いますが、
音楽であれば、構成やリズムの違いとなるでしょう。
 しかも、日本語は「い」「え」など、母音一つでも意味を持て
る単語がありますが、これは世界でも稀なようです。何か関係が
あるかもしれません。このような音の認識は、リズムに影響する
可能性は高いのではないでしょうか。

 残念ながら、別の学問が必要になってくるようで、これ以上は
お手上げですが、音への意味の持たせ方でリズムが作られる部分
もあるのではないでしょうか。
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