笙とドビュッシー




パリ万博のポスター





笙と・・



ドビュッシー


 ドビュッシーは、パリ万博で紹介されたアジアの音楽を聴き、その中には
雅楽も含まれていました。そして、の和音に影響されたのでは、と言う人
がいると聞いたことがあります。どうでしょうか?
 ドビュッシーが雅楽を聴いたことは事実でも、影響されたかの真相は分か
りませんし、重要なことにも思えないので、ここでは、単に共通点を見るこ
とで交流を図れればと思います。

 雅楽では「順八逆六」と呼ばれている方法で十二律を抽出します。これは、
中国の「三分損益」の別称で、分かりやすく言えば、完全5度を積み上げて
いくことと同じです。

 音を抽出する途中、5つまでで取るのを止めれば、5音音階になります。
これが雅楽の基本的な音階ですが、ドビュッシーが好んで用いていた音階の
一つと同じと言えるでしょう。
 笙の「合竹」と呼ばれる和音の基本的な構成音は、「順八逆六」の最初の
5音、すなわち、5音音階の全ての音を同時に鳴らしてできています。

 例えば、琴やハープのような楽器をチューニングをする過程、または、完
了時に、グリッサンドのようなことをして響きの確認をするのではないかと
思います。笙も同じ主旨のことをします。それがそのまま和音として定着し
たのかもしれません。

 
 合竹全体を見ても、構成音はやはり完全5度に支配されています。完全5
度というのが最小単位で、それ以上崩すことはないと考えても差し支えあり
ません。正確には例外がありますが、完全5度が組み合わされて構成されて
いるのです。
 これは、もちろん「順八逆六」の完全5度を積み重ねていく方法の延長だ
と思います。ですから、当然、長2度がその影として響いているわけです。
完全5度が2回続けば、最初の音と3つ目の音で長2度の関係が生まれます。

 ドビュッシーの和音にも長2度を良く聴きますし、西洋音楽では禁則の平
行5度も頻繁に聴かれます。このような響きは、雅楽、笙では当たり前の音
で、鳴っていない時を探すほうが大変です。
 
 もっとも、西洋音楽と雅楽では調律が違っていますし、笙の合竹は機能和
声ではなく、音の変化は基本的に転回でしかありません。また、雅楽や日本
の伝統的手法に「機能」はありません。ドビュッシーは、行詰った調性や機
能和声を茶化すかのように、機能しない音使いに挑戦していたのではないで
しょうか。

 このように、ドビュッシーと合竹の間に共通点を見つけ出すことは出来ま
すが、私は笙を吹いていてドビュッシーの音、響きに近いと感じたことは、
全くと言っていいほどありません。
 
 西洋音楽には、調性という大きな体系が整えられ、和音は3和音をベース
としており、ドビュッシーの響きも完全5度やペンタトニック、全音音階な
どを用いても、そこから完全に飛び出すことはないのでしょう。
 そして、ドビュッシーや西洋音楽の特徴として、半音階的な動きが音楽に
深みを与える上で重要な役割を担っていると思うのですが、雅楽の楽器は、
どれを取っても半音の動きを得意としません。ただ、半音が、例えば終止を
する時、雰囲気を変える(転調のような)時などに重要な位置を占めている
ことは同じです。

 完全5度が自然な響きであり、音響学的に見ても重要であることは、万国
共通でしょう。西洋音楽は、完全5度の間の空間を埋めるために3和音へ行
き着いているよう私には感じられます。
 もしかすると、平均律で調律された5度というのは、不協和で間延びした
響きに聞こえたのでしょうか。それとも、作曲のうえで複雑で完成された主
題より、変奏の余地がある単純で未完成な主題を用いて技術を見せるように、
未完成な音程を選ぶことで、音楽構築の可能性を広げたのでしょうか。完全
5度という絶対的な音程は、音楽を作るうえで制限を強く感じ、避けられた
のかもしれません。

  
 ドビュッシーは、純粋に音の響きを楽しみ、遊び心があったに違いありま
せん。その一つとして、5度の強く豊かな響きを見逃すはずがなかったので
はないでしょうか。また、ドビュッシーは、仕事部屋に「海」のスコアの表
紙にも使われた北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」などを飾り、異国へ
の憧れを抱いたりもしたようですから、音楽という枠を超えた親炙があった
のかもしれません。

 雅楽や笙がドビュッシーの音楽に影響を与えたかはわかりません。正直、
個人的にはどちらでも良く、同じ時代を生きなかった異国の人であるのに、
雅楽、笙を通して会話をしているようで、「ドビュッシーがパリ万博で雅楽
を聴いた」。そう考えるだけで、胸が踊り楽しくなります。



     



Sho-window 〜笙窓〜
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