ポケモン小説 vol.1
いがいなさいかい!? きけんなバトル!(1)
ジョウトリーグ出場をめざすサトシとその一行。今日もサトシは元
気いっぱい・・・、
「・・・は〜〜〜らへったあ〜〜〜・・・。」
「・・・ぴ〜〜〜かあ〜〜〜・・・。」
・・・でもないみたい・・・。
サトシ達は、山あいの街、マウントタウンにきていた。
「どっか〜〜・・・、食べるとこ〜〜・・・。」
虚ろな声を出しながら、一歩一歩踏み出すのもやっとという感じで、
ふらふらと頼りなさげに歩き続けるサトシ。ピカチュウに至っては、
サトシの頭の上でぐったりとしてしまっていて、歩く気力もなさそう
だ。
「おおげさねえ。飢え死に寸前じゃああるまいし。」
「なんだとお〜〜・・・、今度こそダメかもしれないんだぞお〜〜
・・・。」
カスミのつっこみに答えるぐらいの気力はあるようである。
「お?あれレストランじゃないか?」
「ほんと!?いくぞピカチュウ!!」
「ぴか〜〜!!」
タケシが指し示したころには、すでにサトシは50Mほど先の店に
むかって猛ダッシュ状態となっていた。
「・・・今度こそダメかもしれないんじゃなかったの・・・?」
「・・・まあ、いつものことだろ・・・。」
「チョゲ♪」
「ええ〜〜〜!? 満席なのお〜〜〜!?」
「申し訳ございません。少々お待ちいただけますか?」
なにか食べたい一心で、一目散に駆け込んできたサトシを、再び脱
力感が襲った。
「はああ〜〜〜・・・。」
がっくりうなだれるサトシの頭から、ピカチュウも力無くぽてっ、
と落ちてしまった。
「ちゃあああ〜〜〜・・・。」
少し遅れて、カスミとタケシも店に入ると、入り口近くのベンチの
上で、ただ力なく腹の虫を鳴かせて、一人ぐったりと座っているサト
シの姿が目に入った。
「サトシ〜・・・。どうしたんだ・・・?」
おそるおそるタケシが聞こうとすると、
「あら?ピカチュウは?」
カスミが、ピカチュウが見あたらない事に気づいた。
「へ・・・? あ、あれ?ピカチュウ?どこいったんだ!?」
さっきまで床にころがっていたピカチュウの姿は、今は見渡せる視
界の中にはどこにもいない。
「やばいな〜。もし空腹に耐え切れずに、なにかつまみ食いとかし
てたら・・・。」
「オレのピカチュウがそんな事するかよ!!」
「とにかく、さがすわよ!」
三人は、とりあえず客席を手分けして探すことにした。
「ピカチュ〜ウ、どこだ〜あ?隠れてたらなにも食えないぞ〜?」
タケシがあてもなくうろついていると、
「ん? あああ〜〜〜っ!!」
なんとだれかのテーブルに座って、皿の上のサンドイッチを手に取
り、あ〜んと大口を開けて今にも食べようとしているピカチュウの姿
が目に入った。
「ちょっちょっちょっ駄目じゃないかピカチュウ!!人様のものを
勝手に食べたりしちゃあ!!」
タケシはあわててテーブルからピカチュウを取り上げた。
すると、
「何か用かね・・・? 私のピカチュウに。」
その席に座っていた男性が、タケシに言った。
「へ・・・?」
よく見ると、タケシの手の中でもがいているそのピカチュウは、右
手首に腕時計のようなバンドを着けている。
「あ・・・、なあ〜〜んだあ〜すいませ〜〜ん!てっきりうちのピ
カチュウかと思っちゃって・・・。あはははは〜・・・。」
タケシは、照れ隠しに笑うしかなかった。
「ごめんな〜?ピカチュウ〜。」
ピカチュウと顔を合わせて微笑みかけるタケシ。
しかし、ピカチュウの頬からはすでにパチパチと放電の音が聞こえ
ていた。
「あ、タケシ〜、ピカチュウ見つかったわよ〜。なんかいい匂いに
誘われてふらふらしてたみたい。」
「 ・・・はやくいってくれ・・・。 」
カスミが見つけたときには、すでにタケシはウェルダンと化してい
た。
「ぴ!」
バンドを着けたピカチュウは、タケシの元からぴょんと離れると、
席にいる男性の膝の上に飛び乗った。
カスミは、何があったのかをなんとなく理解した。
(間違えちゃったのね〜・・・。)
「すまない事をしてしまったね、私のピカチュウが・・・。」
男性が言った。
「あ、いえいえこちらこそ・・・。」
カスミは男性の方へ向き直った。
が、そこでカスミの言葉は止まった。
カスミは目の前の男に見覚えがあった。
がっしりとした体格には不釣り合いな程の色白な肌。
涼しげで、どこか冷やかな紫色の瞳。
ちょっと変わった形の黄緑色の髪。
そして、この声、
あの時、自分に言いはなった台詞・・・。
(・・・私はポケモントレーナーではない。
私は・・・コレクターなのだよ。)
記憶の隅にあった姿と声が一致する。
あの時・・・アーシア島の伝説のポケモンをむりやり捕獲して、
・・・ ポケモンをモノ呼ばわりした男!
「あああああ〜〜〜〜〜っつ!!」
先ほどのタケシよりも数段階上の声で、カスミは叫んでしまってい
た。
「・・・・・?」
「ちょっちょっ・・・、おいどうしたんだよカスミ!」
おもわずカスミを制止するタケシ。
「タケシは知らないだろうけどねえ、こいつはとんでもない奴なの
よ!!」
カスミも続ける。
「こいつって・・・、一体何があったっていうんだ!?」
「ほら、オレンジ諸島にいたころ、いきなり海が凍ったり、ひどい
嵐になったり、とにかく大変だった時があったでしょ!?」
・・・が、話を聞いていたタケシは、いきなりどよ〜〜んとなって
しゃがみこんでしまった。
「 ・・・聞かないでくれ・・・。 」
「余計なことまで思い出さなくていーのっ!!懐かしすぎよそれ!
・・・とにかく!その異常気象の原因をつくったのが!この男なの
よ!!」
カスミは男をびしっ!!と指さした。
「・・・は? おいおい何言ってるんだよ。あれは深層海流の異常
が原因だって話じゃないか?」
タケシは、怪訝そうな顔で返した。
「だ〜〜か〜〜ら〜〜〜っっ!!その元の元があ〜〜っっ!!」
カスミのいらつきにも関わらず、当の論争の的といえば、相変わら
ず窓際についた肘に寄り掛かりながら、二人のやりとりを、まるで他
人事の様になんとはなしに眺めていた。
「ちょっと!!あんたさっきからなに人事みたいな顔してんのよ!
なんとか言ってみななさいよ!!」
カスミのいらだちは、当人に向けられた。ある意味無茶な要求では
あるが。
だが、彼が発した言葉は、
「・・・失礼だが、どこで会ったかな・・・?」
・・・・・ぷちーーん・・・・・・。
「や・・・やばい・・・カスミが切れた・・・。」
「チョゲ♪」
「おいおいカスミぃ、さっきからなに騒いでるんだよ。」
間の悪い時に、ピカチュウを抱えたサトシが来てしまった。
「おおっおいサトシ・・・来るな〜・・・そのまま離れるんだ〜・
・・。」
タケシが小声で必死に呼びかける。
「え?なにタケシ?よく聞こえないよ。」
そのまま近づいていってしまうサトシ。 そして・・・、
「・・・サあぁぁトおぉぉシいぃぃ〜〜〜!!! あんたこんな時
になにのんきなコトいってんのよおぉぉ!!!」
カスミの怒りの矛先は、サトシに向いてしまった。
静かな水面が突然噴火でもしたかのような勢いで、覆いつくさんば
かりの威圧感がサトシに襲いかかる。
「ひ・・・いいいっ!!?」
「ぴ・・・いいいっ!!?」
思わず血の気をぬかれるサトシとピカチュウ。
「あんたもなんか言ってやんなさあぁぁい!!!」
そう言うと、カスミはすごい剣幕でサトシを男の前に押しやった。
「う・・・わたたたっ!!」
「・・・!?」
目の前に来たサトシが目に入ると、今まで手の甲に乗っていた男の
頭が、ぴくんと軽く動いた。
「・・・っとになんだよ〜・・・、・・・あれ?」
男の顔を見たサトシも、反応を示す。
「ほら、あいつよ!なんとか言ってやんなさいよ!!」
せかすカスミ。
「・・・ああっ! お前は・・・!!」
「・・・君は・・・。」
「・・・・・・誰だっけ?」
ーーーずでーーん・・・ーーー
倒れ込むカスミとタケシ。
無理もない。サトシ達と彼が対面していた時間は、5分にも満たな
いわずかな時間だったのだ。
ある意味、覚えていたカスミのほうが凄いといえるだろう。
「あ・ん・た・ね〜〜・・・!、ほら!アーシア島の事件で、サン
ダー達をゲットしようとしてた・・・!」
「アーシア島の・・・サンダー達を・・・、・・・あああっ!!」
カスミに詰めよられ、ようやく思い出したサトシ。
改めて、男の前に向き直り、再び口を開く。
「お前、こんな所でなにしてるんだ!!」
「・・・食事中だが?」
「あ・・・まあそりゃそうだけど・・・。・・・いやそうじゃなく
てえ!!」
あっさり返されてしまい、言葉につまってしまうサトシ。
そうしていると、
「ぴか!!」
今まで男の膝の上にいた一匹のピカチュウが、テーブルの上に立ち
上がり、彼とサトシ達の間に割って入った。
小さな手足を懸命に大の字に広げて、きっとサトシ達の方を睨みつ
けている。
「ピカチュウ・・・。」
様子を見ていた男も、ようやく体をこちらに向ける。
「あ・・・。」
サトシも、そんなピカチュウの姿を前にして何も言えなくなってし
まった。
と、次の瞬間、
ぐりゅりゅりゅりゅりゅ〜〜〜・・・。
気の抜けるような、サトシの腹の虫が響いた。
「あ〜〜・・・、なんか気が抜けたらまたいっきにハラへってきた
ぁ〜〜〜・・・。 もおだめぇ〜〜〜・・・。」
サトシは、その場にへなへなとへたりこんでしまった。
「ぴかぴ〜!」
「サトシ〜!あんたねえ〜!」
「んな事言ったって〜〜・・・。」
「・・・・・・。」
ピカチュウを自分の手元に戻すと、男はサトシの様子を少しみつめ
ていた。
「すいませ〜ん!! あとナポリタンとミックスサンド追加お願い
しま〜す!!」
すでにサトシの目の前には、空になった皿が積み重ねられている。
「ちょっとサトシ!少しは遠慮しなさいよ!」
「え〜・・・、だってせっかく『好きなだけ食べていい』って言っ
てくれてるんだからさあ〜・・・。
『そういう好意は、うけなきゃ失礼』って言うじゃんか〜。」
サトシ達は、男の席に相席させてもらっていた。
サトシとカスミ、ピカチュウが男と向かいになり、男の隣には、タ
ケシが申し訳なさそうにちょこんと座っていた。
それというのも、男の申し出があったからなのだが・・・。
「にしてもあんた、食べすぎよ!」
カスミが言い返す。
タケシは、近くに伏せてあった伝票をそ〜っとめくってみた。
(い・・・・・!?)
青くなるタケシの手から、男は伝票をさっと取り上げた。
(あ・あ・あ・・・・・!!)
さらに青くなるタケシ。だが、
「これだけでいいのかね?遠慮する事はないんだが・・・?」
(へ・・・・・・?)
「いえ〜、充分いただきました!な、ピカチュウ!」
「ぴか!」
男の太っ腹な一言を聞いて、タケシはテーブルにへた〜・・・、と
倒れこんだ。
「いや〜、いい人だったんだな〜!おじさんって〜!」
「ちゃ〜!」
「まったく、単純なんだから・・・!あっさり買収されてどうすん
のよ・・・!」
カスミは、まだぶつぶつ言っている。
「おいおい、そう言えばさっきからおまえら、あんただのお前だの
おじさん・・・だのって、ちょっと失礼じゃないか?」
”おじさん”を注意するのには少し間があったが、タケシは二人に
言った。
「いや〜・・・、そういえばさあ・・・、名前知らないんだよねえ
・・・。なぁ、カスミ?」
頭を掻きながら、サトシがつぶやいた。
「は・・・!?」
タケシは面食らった。
「・・・ってお前ら、さっきは名前も知らない人に対してあーだこ
ーだ言ってたのか!?」
「いやぁ・・・、そんなに大したこととも・・・。」
サトシが苦笑いしていると、
「・・・ジラルダンだ。」
『・・・へ・・・?』
サトシとタケシが、思わず同時に聞き返す。
「それでいい・・・。」
ジラルダンと名乗った男は、先ほどと同じ肘をついた姿勢で、窓
の外を眺めながら呟いた。
「あ・・・、ジラルダンさんっていうんですか!オレは・・・、」
「サトシ君・・・だったね。・・・で、私の隣にいるのがタケシ君
で、目の前がカスミ君・・・だったと思うが?」
ジラルダンは、一人一人の方に軽く頭を向けて言った。笑っている
様にも見えた。
「あ・・・なぁんだ、もう覚えられてたのかぁ!すごいなあ〜!」
サトシは、無邪気に笑っている。
ジラルダンは、そんなサトシの方にしばらく首を傾けていた。
膝の上では、ピカチュウがうとうとしはじめている。
「お待たせいたしました〜。」
「お!来た来た!」
またサトシの注文した料理が運ばれてきた。
「・・・あんた、まだ食べる気!?」
「なんだよ〜、カスミだって注文したくせに〜。」
「あたしは、トゲピーがおなか空かせてるから・・・!それよりあ
んたはおなか大丈夫なの!?」
「オレはだいじょうぶ〜!ピカチュウは?」
「ぴかぴっちゅ〜!」
「よおっし!!いっただっきま〜〜す!!」
相変わらず遠慮もしないサトシの食いっぷりを見て、カスミはげん
なりしてきた。
「ちょっと〜・・・、タケシもなんか言ってやってよ〜・・・。」
さっきから何も言わないタケシに話をふるカスミ。だが、
「あ〜・・・、よろしかったら自分を選んでくださ〜い・・・。」
カスミは、なんでタケシが黙っていたのかを理解した。
隣の席に、美人のおねえ様二人組が入ってきたのだ。
メニューを見ながら話をしているだけの姿を、タケシは鼻の下を伸
ばしてでれ〜〜っと見つめている。
「・・・だめだこりゃ。」
ふと、視線に気づいたのか、女性達はタケシの方に目をやった。
「あ!!」
おもわずときめくタケシ。そして次の瞬間・・・、
なんと女性達が、”ぽっ”となったのだ。
「うおおおぉ〜〜〜っっっ!!? これはついに脈ありかあぁ〜〜
〜っっ!?」
いままでにない反応に、おもわず号泣するタケシ。
・・・だが、
また次の瞬間、タケシは、女性達の視線が自分の頭上を通り過ぎて
いるのに気づいた。
そしてその視線の先は・・・。
(がーーん!!!)
・・・タケシの涙は、悲しみの象徴に変わった。
女性達が見ていたのは、窓際で横顔だけを見せている長身の男の方
だった。
タケシがはらはら涙していると、女性達の視線に気付いたのか、ジ
ラルダンの方もそちらに目をやった。
目があった女性達は、思わずどきっとなる。すると・・・。
・・・どうやら彼は、女性の扱いには相当慣れているらしい。
まるで条件反射のように、女性達にむかって軽く微笑みかけた。
・・・それだけで向こうは大騒ぎになってしまった。
「きゃ〜〜っっ!!」「ど〜しよ〜〜!?」
(ずがーーーんん!!!)
・・・タケシは真っ白になってしまった。
風が吹けば、今にもさらさらと崩れてしまいそうである。
「・・・タ・・・タケシ・・・大丈夫・・・?」
カスミの言葉も、タケシの耳には届かない。
「オレなんか・・・何回声かけてもダメだったのに・・・。
”フッ”て・・・”フッ”って笑いかけただけで・・・。
なんでかなぁ・・・なんで個人差ってあるんだろう・・・。」
「ちょ、ちょっとタケシぃ!!」
本当にハネッコとでもいっしょに飛んでいってしまいそうなタケシ
を懸命に呼び止めようとするカスミ。だがタケシはなかなか戻ってこ
ようとはしない。 そうしていると、
「・・・まずは相手の気持ちを読むことだ。自分の気持ちを押し付
けるだけでは向こうはすぐ逃げてしまう。」
「へ・・・?」
「始めは自分よりも相手優先で考える。求めているのはこっちなの
だから当然といえば当然だ。相手がどうして欲しいのかを相手の身に
なって考える・・・それで駄目なら一度は退いてみるのも手だ。」
「は・・・はいいぃぃっっ!!!そ・・・それで!!?次は・・・
!!?」
ポーズこそ崩さないものの、女性への接し方をアドバイスし始めた
ジラルダンの言葉を聞いて、タケシは懐からばっとメモ帳を取り出す
と、見違えるように生き生きと彼の言葉を記帳し始めた。
「君の様なタイプが一番注意すべきなのは、自分の感情で突っ走っ
てしまわない様にすることだ。求めるだけでは相手は何も与えてはく
れない。かといって親切の押し売りもいけない。
・・・用は、普通の人間関係と大差はない、という事だ。さっきも
言ったが、相手の身になって考えるのが一番重要なのだよ。」
「は・・・はいっっ!!!勉強になりますっっ!!!」
すっかりジラルダンのペースに乗せられてしまったタケシを見て、
カスミはまた不機嫌モードに入ってしまった。
「ま・・・ったく男って単純なんだから・・・!食べ物や女の子で
簡単に丸め込まれちゃうなんて・・・!!」
呆れ半分でつぶやくと、目の前の男をじと〜〜・・・っと睨みつけ
た。
(だいたいこんな”おじさん”のど〜こがいいっていうのよお〜・
・・、みんな見た目に騙されてるだけじゃない・・・!
・・・まあ、言われてみれば・・・確かに見た目はちょっとはキレ
イかもしれないけどさ・・・。)
カスミは男を凝視した。
がっしりとした体型には不釣り合いかと思っていた白い肌だが、そ
れだけでは貧弱に見えかねない白さを、体のたくましさがカバーして
見事なバランスをとっている様にも見えた。おそらく体格から見てみ
ても、同じ事がいえるだろう。
その肌一つとって見ても、黒子一つなく、まるで年齢を感じさせな
い様な張りつやは、見ただけでも分かる。触れたらさぞかし心地いい
だろう。
涼しげな目つきも、よく見ると、長いまつ毛とまぶたに落とす影と
が相俟って、なんとも言えない色気を醸し出している。淡い紫の瞳に
しても・・・、
「・・・あ・・・!?あ・・・っ・・・と・・・。」
カスミは、男の瞳がいつのまにか自分の方に向いていたのにようや
く気がついた。
あわてて視線をそらすカスミ。
(べ・・・別に見とれてたとかじゃないんだからねえ〜!!勘違い
しないでよお〜〜!!)
頭の中で必死に訴えながら、カスミはおそるおそる男の方に目をや
ってみた。
(え・・・っ!?)
当のジラルダンは、カスミの方に視線を送ったまま、優しく微笑ん
でいた。
(ちょ・・・ちょっと何よ・・・、そうやってさっきの女の人達み
たいにひっかけるつもり!?そうはいかないわよ!!)
カスミは男の自信満々な態度が気にいらなかった。こいつの思う通
りにさせるもんか、という気持ちでいっぱいになっていた。
「ちょっと・・・なに人の方見て笑ってんのよ!失礼じゃない!」
カスミは言ってやった。すると、
「気に触ったかね・・・?・・・残念だ。すまない・・・。」
それだけ言うと、彼はすっと目を伏せてしまった。
(・・・え・・・!?)
予想外の反応に、思わず動揺するカスミ。
(・・・なによ・・・『おやおや』とでも言うかと思ったのに・・
・。
・・・これじゃまるで、あたしがきつい事言ったみたいじゃない・
・・!)
「・・・ちょ、ちょっと・・・、なにもそんな落ち込んだ様なポー
ズとる事ないじゃない・・・!どうしたのよ・・・!」
少しあわてたような様子で、カスミはジラルダンに言った。
「・・・いや・・・私が失礼だったんだ・・・。
君の仕草が・・・可愛らしかったものでね・・・つい・・・。」
男は、言いながらゆっくり顔をあげていった。
カスミは、聞きながら顔がかあ〜っとなっていくのが自分でも分か
った。
動揺を悟られまいと、少しうつむいたまま話しだした。
「あ・・・あれはちょっとびっくりしただけよ・・・!
あたしは・・・ただ『おじさんの割にはきれいな肌してるから、
どんなお手入れしてるのかな〜』って思って見てただけだからね!」
「・・・知りたいかね?」
「・・・え?」
思わぬ返事に顔を上げると、さっきの様な流し目の視線ではなく、
まっすぐカスミの方を向いて微笑んでいるジラルダンの姿があった。
「あ・・・。」
少しどきっとするカスミの心情を知ってか知らずか、彼はカスミに
耳を貸すように軽く合図する。
「本当は秘密なんだがね・・・。」
カスミが、多少おずおずとしながら体を少し乗り出して耳を向けて
みると、ジラルダンも、眠ってしまったピカチュウをそっと膝から降
ろし、身を乗り出す。
そして、
カスミの耳もとの髪を指先で軽く持ち上げると、息がかかるくらい
に唇を近づけ、何事かそっと囁きかけた。
(あ・・・りゃ・・・!?)
それは、はたで見ていたタケシが、思わずどきっとしてしまう様な
絵だった。
「・・・・・っ!?」
男の言葉を聞いたカスミは、急にかあっと真っ赤になってぺたんと
座り込むと、そのまま黙ってうつむいてしまった。
怒ったり、悲しんでいるといった様子はない。
ジラルダンは、席に座ってピカチュウを戻すと、声はたてないもの
の、心なしか楽しそうにくすくすと笑っていた。
それを見ていたタケシと言えば、
「おおっっ!!あのカスミをひとことふたことであんな風にしてし
まうとは・・・! い、いったい何と言ったんですか!?」
「 きかなくていーのっっ!!! 」
すごい剣幕でタケシに怒鳴るカスミ。
「は・・・はい・・・。」
タケシは、そのまましぼんでしまった。
気迫負けしてしまったタケシは、まだ睨んでいるカスミの気をそら
そうと、必死で何か別の話題を考えた。
「ええっとお・・・、あ、そういえば! ジラルダンさんってお金
持ちみたいですけど〜、どうして今日は普通のファミレスに?」
おもわず余計なお世話な質問をしてしまったタケシ。だが、
「いや・・・こういう所でないと、ピカチュウと一緒には入れない
のでね・・・。」
そう言うと、ジラルダンは、膝の上で眠っているピカチュウの頭を
そっと撫でてやった。
「・・・は〜〜・・・。」
少し間をおいて、相づちをうつタケシとカスミ。
「あ・・・ほ〜いえは、ほほほひはふ〜ほ〜ひはんへふは?」
「・・・ちょ、ちょっとサトシ!食べながらしゃべんないでよ!」
今の今まで、食べるのに夢中だったサトシが、ようやく話に加わっ
た(?)。
「ん・・・んっぐん。 ・・・あ〜悪い悪い。
そう言えば、そこのピカチュウどうしたんですか?
確か、前は見なかったと思うんですけど・・・。」
「そういえば・・・そうよね・・・。
あんたポケモンに関してならちゃんと覚えてんのね・・・?」
「・・・・・・。」
サトシの言葉を聞くと、ジラルダンはすっとピカチュウに目線を落
とした。
「・・・雷の島に落ちた時に会ったんだ。島に住んでいたようだっ
たが、なついてきたのでそのまま連れてきた。」
「・・・あ〜〜・・・。」
そう言えば、サトシとカスミは彼の空飛ぶ乗り物(?)は墜落(と
いうか不時着)していたのを思い出した。
・・・そういえば、あれからどうなっていたのか、まるで気にして
いなかった。
とりあえず、無事に帰れはしたようである。
「・・・あ〜〜、そうですか〜〜。それで・・・今は・・というか
・・・、今日は、この街でなにか・・・?」
なんとはなしに、サトシは聞いてみた。
「いや・・・ちょっと立ち寄っただけだが。」
「あ〜・・・そうですか・・・。立ち寄ったって・・・オレ達みた
いに旅でもしてるんですか?
あ、ちなみにオレ達は、ジョウトリーグ出場を目指しながら、ポ
ケモンマスターも目指して大爆進!!ってとこだけど!」
「ちゅう〜!」
「・・・・・・。」
サトシの話を黙って聞いていたジラルダンは、少し間をおいてから
口を開いた。
「そうか・・・、私とは少し違うようだね・・・。」
「え・・・?」
言い終わるまえに、ジラルダンは脇に簡単にたたんで置いておいた
コートを手にとると、内ポケットの中を探りだした。
「?」
サトシ達が見ていると、ジラルダンはポケットから何か取り出し、
サトシ達の前にすっと置いた。
見覚えのあるものだった。
「・・・これって・・・。」
「・・・ぴか〜・・・!」
「・・・ポケモン図鑑・・・!?」
手帳より少し大きい位の赤い装置。
サトシはおもわず自分の図鑑を取り出した。
まぎれもないポケモン図鑑だった。
「・・・って事は・・・。」
ジラルダンに目を向けるサトシ。
「まさか・・・。」
カスミも驚きを隠せない。
「トレーナーに・・・なったの・・・?」
ジラルダンの返事を待つサトシ達。
そして、
「・・・まだ駆け出しだがね・・・。」
一瞬訪れる静寂。 それを破ったのは・・・。
「・・・ほ〜んとお!?やぁるじゃん!!それって絶対いいよ!!
な〜ピカチュウ!?」
「ぴ? ぴか〜!」
サトシは思わず立ち上がって喜んでいた。トレーナーへの道を選ぶ
人が増えたのは嬉しかった。
まして相手は以前ポケモンを私利私欲でゲットしていた男である。
ちゃんとポケモンと向き合ってくれるようになった。サトシには、
それが何より嬉しく思えた。
「・・・・・?」
ジラルダンは、そんなサトシの様子を不思議そうに見ていた。
「ちょっとちょっとサトシ・・・、こんな所でやめなさいよ。」
「え〜?カスミは嬉しくないのかよ?」
「嬉しい・・・? ・・・っていうのはよく分からないんだけど・
・・。」
カスミは言葉を続けた。
「な〜んか・・・、あたしには・・・自分のやった事正当化しよう
としてる様にも見えるのよね・・・。
『これならいいだろ』みたいな感じにさ・・・。」
目を細めて、ジラルダンに視線を移すカスミ。
「確かに・・・トレーナーとしても、珍しいポケモンには惹かれる
がね・・・。
・・・それをいけないと言われてしまっては・・・、どうしようも
ないな。」
そう言うと、男はすっと目を伏せた。
「・・・まあ、何にせよ・・・。ゲットしたポケモンを大事にして
くれるなら・・・、オレは何だっていいと思うけどな・・・。」
タケシが口を開いた。
「少なくとも・・・そのピカチュウは、ジラルダンさんの事すごく
慕ってるみたいだしな。」
「あ・・・。」
皆の視線が、ジラルダンのピカチュウの方に集まる。
当のピカチュウは、ジラルダンの膝の上で安心して寝息をたててい
る。
まるで、見ている方もほっとしてしまう様な寝顔を浮かべていた。
「・・・・・・。」
カスミも、それ以上何か言う気にはなれなかった。
「・・・珍しいポケモンで思い出したが・・・。」
沈黙を破ったジラルダンは、そう言うとジャケットの内ポケットか
ら、ポケモン図鑑より一回り小さい位の、なにやら厳重そうな黒い箱
のような物を取り出した。
開けるのに少々手間がかかるらしく、テーブルの下に持っていって
少しごそごそやってから、ちょうつがい型に開いたそれを出し、中か
らカード状のものを取り出した。
「これなんだが・・・」
「?」
サトシ達が見ていると、ジラルダンは取り出したカードを指で挟ん
だまま、絵柄を前方に向けて自分の手前に出した。
「・・・それって・・・?」
「・・・ぴか・・・?」
「何でも、古代のポケモンの事を記してあるらしいんだが・・・、
詳しい事は私にもよく分からない。君達は・・・何か聞いた事はない
かね?」
「・・・いや〜〜・・・、そ〜いうのはちょっと・・・。」
「・・・ぴ〜〜か〜〜・・・。」
悩んでしまうサトシ達。だが、横からのぞき込む様にしてやっと見
ていたタケシが提案した。
「オーキド博士なら、何か知ってるんじゃないか?」
「あ、そうか!じゃあ後で電話してみよう!」
「・・・オーキド博士? 知り合いなのかね?」
ジラルダンが尋ねる。
「あ、はい!オレのポケモン図鑑と、このピカチュウも博士がくれ
たんですよ!」
「ぴかちゅう!」
「・・・・・・。」
「博士に聞けば、きっと何か分かりますよ!」
サトシが話していると、カスミが口を挟んだ。
「それ・・・調べてどうするつもりなの?」
少し怪訝そうに、ジラルダンに尋ねる。
「カスミぃ、お前疑いすぎだって!トレーナーならポケモンの事調
べて当たり前だろ?」
サトシが言い返す。
「・・・悪かったわね。」
カスミがふくれてしまうと、
「いや・・・、カスミ君が心配するのも無理はないだろう。
私としては・・・少し残念だが、ね。」
助けに入ったのは、当のジラルダンだった。
「・・・・・・。」
それを聞いていたカスミは、『調子狂うな〜・・・』といった顔を
している。
「どうすれば・・・分かってもらえるかな?
私は・・・、君にはぜひ分かってほしいと思っているんだが。」
「〜〜〜〜〜〜・・・(やめてよ〜・・・、それ・・・)。」
カスミは、恥ずかしそうに眉をひそめると、またうつむいてしまっ
た。
「よおし!それなら・・・!」
突然、サトシが声をあげた。
「やっぱ、トレーナー同士はバトルで語るもんだぜ!!な!ピカチ
ュウ!」
「・・・ぴ〜か?」
一人はりきるサトシを、タケシがあわてて止めようとする。
「お、おいおいちょっとまてサトシ!この人はまだなったばかりだ
って話じゃないか・・・、それなのに・・・。」
「・・・構わんよ。」
「・・・は?」
おもわず聞き返すタケシ。だが、
「あまり面白い勝負にはならないかもしれないが・・・、それでも
よければ・・・ね。」
視線をどこかにそらせたまま、ジラルダンが答えた。
「ようし!そうこなくっちゃ!!」
「ちょ、ちょっと待ってよサトシ!それってあたしに戦えって事な
わけ!?」
あわてて口を挟むカスミ。
「え?だってその必要があるのはカスミじゃないのか?」
「ちょっと、勝手に決めないでよ!!あたしは別に分かりあおうな
んて思ってないんだから!!」
「え〜?なんだよそれ〜!?それじゃ何にも変わらないじゃんか〜
〜!?」
サトシがぶ〜こいていると、
「なんだ・・・てっきり君が戦うのかと思っていたよ。」
ジラルダンが、サトシの方を見ながら言った。
「え?」
「確かに・・・、みょ〜に張り切ってたもんな、サトシ。俺も一瞬
そうかと思ったぞ。」
タケシも付け加える。
「あ〜・・・、まあ確かにバトルはしたいけどさ・・・。」
「・・・私は構わないよ。戦っているのを見るだけでも違うだろう
し・・・ね。」
ちらっとカスミの方を見ながら話すジラルダン。
「・・・〜〜〜!!」
カスミは困っている。
「あ・・・そうですか?じゃあ・・・、よおっし!!やるぜピカチ
ュウ!!」
「ぴっかちゅう〜!!」
やはり、サトシはやる気まんまんだった。
そんなサトシの様子を見ながら、ジラルダンがすっと目を細めたの
に、タケシは偶然気づいた。
「・・・・・・?」
「どうも、ごちそう様でした〜!!」
店を出てから、サトシはジラルダンに深々とお礼をした。
ジラルダンは、まだ眠っているピカチュウを肩に乗せると、サトシ
と一緒に歩きだした。
「構わんよ。値段にしてみれば大した事じゃあない。
それより・・・、こんな事を気にされて、バトルで手加減でもさ
れたらそっちの方が困るね。」
「あれ?そんなこと言って大丈夫? オレのポケモンけっこう強い
よ?」
「・・・それは楽しみだ。」
割と楽しそうに話をしながら、バトルによさそうな広場かなにかを
探して歩くサトシ達。
だが、通りは土産物屋などがたくさん並んでいて、広い場所はなか
なか見つからない。
そんな二人と二匹の後を、数歩遅れて歩くカスミとタケシ。
「サトシったら・・・、すっかりあのおじさんになじんじゃったわ
ね。ほんっとに単純なんだから・・・!」
「・・・そうだな・・・。」
「あら?ど〜したのタケシ?てっきりタケシもなついちゃったかと
思ってたけど?」
皮肉っぽく返すカスミ。
「おいおい・・・そんな言い方はないだろ!?
オレはただ、お姉様達と仲よくなる方法を知りたかっただけなん
だ!!」
「あ〜・・・、はいはい。」
ある意味、そっちの方がタチ悪い・・・と思ったが、カスミは何も
言わないでおいた。
「まあ・・・それは置いといてだ。」
タケシが続ける。
「あの人がトレーナーとしてどうとか言うのは別にしても、オレは
どうも・・・、あの人には何か別の考えがあるような気がするんだ・
・・。」
「・・・別の考え・・・?」
「それが何なのかは分からないが・・・他にもちょっと気になる事
はある。」
「なに・・・?」
「カスミ・・・、あの人とサトシって、前会った時なにかあったり
したか?」
「・・・は・・・?ううん、別に・・・と言うか、全然・・・。な
あ〜んにも!だって話しもしなかったもの。」
「へ・・・?おい、本当かそれ!?」
「ほんとよ? 何で?」
「・・・いや・・・、あの人何だか・・・サトシの事は覚えてるみ
たいな感じだったから・・・。サトシの顔を見た時にな。」
それを聞いたカスミは、
「・・・それほんと・・・?」
「ああ・・・オレにはそう見えたんだが・・・。」
「・・・何で唯一話しかけたあたしの事は忘れてて・・・ただ睨ん
でたサトシの事は覚えてるわけ・・・?あのおじさん・・・!」
また怒りがこみ上げてきそうになるカスミ。
「ま・・・まあその辺の事情はよく分からんけどな・・・。
どうも・・・あの人サトシに対して何か思う所がある様な気がす
るんだ・・・。
・・・それがどういう意味か・・・いい意味か悪い意味かも分から
ないがな・・・。」
「いい意味か・・・、・・・悪い意味か・・?
ちょ、ちょっと、変な事言わないでよ!
どっちにしろ、バトルはサトシの勝ちに決まってる様なもんじゃ
ない!」
「ああ・・・それはな・・・。」
「あ〜〜!!あそこ良さそう!!」
タケシたちの心配も知らず、無邪気に目の前の公園に駆け込むサト
シとピカチュウ。
けっこうな広さのありそうな公園で、サトシは近くに人がいない所
を見つけると、両手を振りながら皆を呼んだ。
「おお〜い!!こっちこっち〜!!」
ジラルダンは、もう目を覚ましたピカチュウを肩に座らせたまま、
さして急ぎもせずサトシの所へやってきた。
後ろの二人も、間もなく追い付いた。
「対戦方法はどうする?そっちが決めていいよ!」
余裕を見せるサトシ。表情にも自信が見え隠れしている。
「そうかね?それじゃあ・・・。公式戦と同じ、3対3の勝ち抜き
戦でどうかな?」
「オッケー!じゃあ、オレから出すよ!」
「も〜・・・、サトシったら余裕見せすぎよ!何があっても知らな
いからね!」
あきれるカスミ。
タケシは、固い表情を崩さない。
「手加減する事はない・・・。一番自信のあるポケモンで構わない
よ。来たまえ。」
そう言うジラルダンの表情には、余裕の色すら見える。
「ふーん・・・、そう言うんなら行っちゃうよ。
よし、行けピカチュウ!」
「ぴか!!」
たたっと走り出ていったピカチュウ。
「・・・・・・。」
そのピカチュウを見つめたまま、すこしの間動かずにいるジラルダ
ン。
「どうしたのー? 早くそっちも出してよー!」
せかすサトシをさほど気にもせず、ジラルダンはジャケットの下か
ら内側に手を入れると、ベルトに付いていたと思われるボールを取り
出した。
その表情に、何かの作意が含まれていた事に、サトシは気づかなか
った。
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