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インド>ダージリン・メイル |
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▲日本語を話すインド人紳士
10年前にダージリン・ヒマラヤン鉄道の存在を知って以来、ボクの人生も大きな波を何度もかぶった。そしてその数だけ沈没を回避する経験を積んできた。その途中に山登りへのあこがれを取り戻すことに成功した。 特に、インドアジア大陸にまたがってそびえるヒマラヤ山脈に対して。もちろん、8000メートル級の山にいきなりアタックしようとは考えていない。ただ、死ぬまでに一度でいいからこの目で見てみたいと思った。 そこでイロイロな条件を考慮するとネパールが情勢不安定になって以来、いちばん簡単に8000メートル級を眺めるにはダージリンから見えるカンチェンジュンガという結論に落ち着いた。 そこで、(1)ダージリン・ヒマラヤン鉄道への乗車、(2)8000メートル級の世界の屋根を展望する、という2つの大きな夢を実現することになったわけだ。どちらか一つだけだったら実現までにもっと時間がかかったことは間違いないと思う。 左右に線路が敷かれた島式プラットホームの反対側に停車するカンチェンジュンガ・エクスプレスの荷物車両に荷物を投げ入れる乗務員の仕事を眺めながめる。青系の荷物車、青系の寝台車、茶系の座席車、どれもくすんだ色合いだ。 きっと製造直後からこんな色合いなんだろうな、と思った。そんな楽しい想像をしながらプラットホームでダージリン・メイルの入線を待っていると一人のインド人紳士と目があった。眼鏡をかけたインテリ風の息子が近づいてきて丁寧な英語で質問を伝えてきた。 「貴男は日本人ですか?」 「はい、そうです」ちょっと身構えた。「どうしてご存知なのですか?」と尋ねてみた。 すると息子は控えめに、これ以上はない完璧な回答を示してくれた。 「貴男のクビに巻かれたタオルに日本語が書かれています。父がそれを見付けました。父は日本に長く住んでいたので日本語が読めるのです」 これは迂闊だった。何も考えずに使用していたタオルが機密情報を垂れ流しにしていたとはなんとも穴だらけのセキュリティーだ。 「はじめまして、日本人です」そうインド人紳士に英語で声をかけると、「はじめまして、私はシッキムに住むインド人です」と訛のない日本語で答えてくれた。 「これには驚いた。ボクが知っていたインド人の日本語のイメージが過去のものとなった瞬間だった巻き舌発音でもなく、早口でもない。さらに助詞の使い方も正確だ。これは高等な日本語教育を受けた証明なのだろう。
▲シアルダー駅へ入線するダージリン・メイル 「私は日本に暮らしていましたし、兄弟は日本のビクターの仕事を請け負っています」 「貴男の職業はなんですか」「インドの印象はどうですか」などと楽しい会話が続くと、やがてダージリン・メイルが入線して来た。驚いたことに出発定刻の30分前だ。 「10年前なら入線遅れ5時間というのも珍しくなかったというのに。しかし、そこでインド人紳士との日本語コミュニケーションが終わってしまうとかと思うと少し残念だった。 しかし、運命のいたずらが起こった。なんと、彼の家族とボクの座席はなんと隣同士。とはいえ、ボクはそんなことよりも4人家族がそろって乗車賃の高価な「AC3TIER(エアコン付き3段寝台車)に乗車している事実に驚いた。 AC車両はNON−AC車両と比べると運賃が倍以上に高い設定がされている。これはインドにおいても中国と同様に経済的に豊かな中産階級が増えてきたことの証明だろう。どうやら、ボクはインド勝ち組とお近づきになったようだ。 ロングシート形式の座席の下に大切な荷物をチェーンでロックして、ボクとインド人紳士の日本語コミュニケーションは続いた。付近の乗客たちの熱い視線を集めながら日本語で行われる会話は弾んだ。 「ガッツン、と軽い音と衝撃が伝わった。腕時計で確認すると22時05分、信じられないことに定刻の出発だ。まるで日本のJRのように時刻表が信頼できるようになったのだろうか? 「10年の間にずいぶんインドも変わりましたね。街にはATMが溢れ、インターネットカフェが溢れ、放置されたゴミも少なくなりました」 「インドは今、急激な発展の途中です。10年前も違っていますが、これからの10年後もまた全てが変わっていることでしょう」 「確かに」紳士の横で携帯電話のゲームで遊ぶ息子を見ながらと頷いた。「世界の変わり様がそのままインドに繁栄されていますね。携帯電話の普及率にも驚きました」 「インドは気候の厳しさや物理的な施設の保守作業が苦手なためにインフラ整備が苦手です。しかし、携帯電話のワイアレスなネットワークの登場でやっと電話が普及しました。この流れがインドを変え始めています。きっと日本の社会に近づいていくことでしょう」 シアルダー駅を出発してから1時間くらい経った辺りでさっきまで携帯電話の通話で騒がしかった回りの乗客たちが一斉に携帯電話をしまい始めた。日付が変わるのでそろそろ就寝時間という自粛なのかと思ったら、その事情を紳士が教えてくれた。 「この辺りに来ると携帯の電波が届きません。圏外になるのです。インドの携帯電話はまだ大都市近郊に限られているのです」 確かに広大なインドには人間密度にかなり隔たりがある。都市圏を離れると「イリジウム」のような衛星を利用した携帯電話でもないと通信ネットワークに加われないのだ。そこでやっとインド社会がいまだ発展途上という現実を肌で感じる事が出来た。
▲ダージリン・メイルの寝台車両内 |
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