<前書き>
このあたりから私のオリジナル世界に入ってます。
木の葉崩しのあと、慰霊祭とかあってもいいんじゃないーい?と書いたものです。
カカシ先生が残念なことに…!!ごめんなさいぃぃぃぃ。
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星の降る
西の空、山間が茜に染まり火影岩に夕日の光が照る頃、木の葉隠れの里は厳かな、だがひしひしと歓喜の湧く雰囲気に満ちていた。
数日前、木の葉の里は砂、音の里による襲撃を受けた。
幸い火影の健在なる力と、里の住民の迅速な行動で被害は最小限に食い止める事ができた。
首謀者が大蛇丸である事もわかり、砂隠れの里との和解を成し遂げることもできた。
だが完全に無傷というわけにはいかなかった。
「……慰霊祭か」
死者の魂を讃えると共に慰め、そして生者の祈りのための祭。
厳密にはこうなのだが、最終的にはお祭りのようになってしまう。
屋台が出て子供達がはしゃいで走り回り、花火が上がる。
今日の祭は生者の勇姿を讃える意味合いもあるので、木の葉を下る川に白い菊を流したら後は宴となるだろう。
戦に関わる生活をしていると生きていることに宴を開くのは仕方がない。
四代目は書類を机にほおると、夏の終わりが近づき、心なしか冷えてきた夜風の入る窓へと近寄った。
眼下に広がる大通りに点々と灯る赤い提灯に目を細める。
「少し平和になったと思ったらこれだもんな」
ふうー……と息をついて四代目は肩を竦めると窓を閉めた。
太陽が沈んだ時、黄昏の終わり目。
それが祭の始まりの時。
火影である自分がいないのはおかしいだろう。
四代目は身につけている白装束を一度撫でて部屋を出た。
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「ちょっと待ってってばよ!!」
冷や汗をだらだら出して後ずさるナルトに、だがサクラはじりじりと詰め寄った。
「待ったなし! …いの! 用意はいいわね……」
「当たり前でしょ! ナルト、あとはあんただけなんだから、観念しなさい!」
「…絶対これナルトちゃんに似合うと思う…」
答えたいのとヒナタもじりじりと詰め寄ってくる。
いつしかナルトは後退できなくなった。
理由は簡単。
後ろが壁でもう動けないのだ。
前方からは妙なオーラを漂わすサクラといのとヒナタが迫ってくる。
ナルトは必死に叫んだ。
「だーかーらー何で私がっ!!」
3人に同時にがばり! と肩口を掴まれてナルトは悲鳴を上げた。
**********
「何か騒がしくないか?」
そう言ってキバが見上げたのはナルトの家であるこじんまりとした木造家の二階だ。
さっきから何回もいくつかの影が彼女の部屋の窓を横切っているので部屋の中からの電気の光がちかちかとして見える。
それを下忍の男衆は呆然と眺めていた。
慰霊祭には下忍の自分たちも出席する。
どうせ行くならみんな一緒に行こうとサクラかいのが言い出したのはいいものの、ナルトの家に集合してからすでに30分は待たされている。
女衆を置いて先に行ってもいいのだが後でどうなるかわかったものじゃないのでそれも出来ない。
「ったく何してるっつーんだ。時間かかりすぎだろ」
いくら忍でも忍耐力には限界というものがある。
刻限が迫っているのなら尚更だ。
待たされることに慣れているサスケだったが、もたれていた塀から身体を起こすとスタスタと玄関に向かった。
「呼びにいくのか?」
赤丸を頭に乗せてついてきたキバにサスケは頷いた。
「無駄に遅れることもないだろ」
言いながらインターホンを押すと、意外にもすぐにばたばたと足音が聞こえた。
「はいはーいお待たせー!」
「ごめんねー! 着付けできるのがヒナタだけだから思ったより時間かかっちゃって」
謝りながら戸を開けて出てきたいのとサクラにサスケとキバは目を見開いた。
門から覗いたシカマルたちも同じような反応をしている。
「お…お前ら……何で浴衣なんか着てんだよ……」
そう、2人は浴衣を着ていた。サクラは退紅の地で袖先や裾に白い花の絞りのものを、いのは菖蒲色の地に所々に撫子が染められたものを着ていた。
2人ともかわいらしく髪を結って簪をさしている。
普段の印象とはがらりと変わった2人にキバが思わず指を差して言うと、いのがポーズをとって答えた。
「どうしてってお祭りだからに決まってんでしょ! ここ最近戦闘ばっかで全然女の子らしい事してなかったんだからいいじゃない」
「お前肝心な時に寝てたじゃねーか」
「シカマルうるさいわよ」
「そろそろヒナタたちも降りてくると思うけど……あっ来た来た」
「…遅れてごめん…」
少し駆けるようにして廊下を歩いてきたヒナタにキバは固まってしまった。
「ひ……ヒナタ?」
薄紅の地に手鞠の柄を散らした浴衣は色の白い彼女にとても似合っていて可愛らしい。
「かわいーでしょ。やっぱりヒナタって昔から着物とか慣れてるから着てもしっくりくるわよね」
どう?とサクラがキバのほうにヒナタを押しやってやると瞬時にキバの顔に朱が差した。
それを微笑ましく見ながらもサクラといのはきっ! と家の中を覗いた。
「ナルトー!! せっかくヒナタに浴衣貸してもらって髪もセットしてあげたんだからさっさと出てきなさい!!」
「……ナルトも?」
サクラは楽しそうに笑むと家の中に入っていった。
サスケはごくりと生唾を飲み込んだ。
ほどなくしてずるずると引きずられる音と特徴のある声が耳をついた。
「…恥ずかしいってばよ」
「何言ってるの、可愛いわよ?」
「可愛いわけないってばよー………あ…−何か足がすーすーするってばよー」
「文句言わないの。ほら!」
カラコロという下駄の音と共に外に追いやられてきたナルトはまるで別人だった。
群青の端々に繊細に散らされた白と金の花が可憐な浴衣に垂れる金糸。
高く結わえて瞳と同じ色彩の蜻蛉玉の簪をさしてあるが、ほつれさせた髪がどこか大人っぽい。
言葉を失って呆然と見つめてくるサスケに、それが見惚れているのとは露知らず、ナルトは仏頂面で唸った。
「何見てるんだってばよ」
「……お前…それで祭に行くのか?……」
「自分でも似合ってない事ぐらいわかってるってばよ!」
「いや、そうじゃなくて……!」
(そんな格好で行ったら襲われるだろうがっ!!)
かあっと熱くなる顔に手をあててサスケは踵を返した。
これ以上見ていたら感情が表に出かねない。
だがナルトにはサスケの心境などわかるはずもない。
背を向けたサスケにナルトは眉尻を上げると手に提げていた巾着を思いっきりサスケの後頭部にぶつけた。
反射的にサスケは振り返って怒鳴った。
「……!!っ……てっめえなにしやがる!」
「………恥ずかしいの我慢して出て来たってのに……何で黙るんだってばよ!………サクラちゃん、ごめんやっぱ着替えてくる」
「ちょっ……ナルト!」
「このウスラトンカチがっ! 早合点するな!!」
サクラが捕まえるより先にすばやく腕を伸ばして華奢な手首を掴むと、サスケはナルトが自分のほうを見るようにひっぱり、伏し目がちになりながらもちゃんと
言った。
「……似合ってる」
「……え?」
「見慣れないから驚いただけだ」
最後はそっぽを向きながらだったが、ちゃんと答えてくれたサスケにナルトは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうってば」
「! っ……もっ……もう時間がない、行くぞ!」
視界の端とはいえ間近でナルトの笑顔を見てしまい瞬時に顔を赤くしたサスケは彼女の手首を掴んだままずんずん歩き出した。
それについてぞろぞろと他の面々も大通りへと歩き出す。
「えっちょっと……!」
「いざ祭へレッツゴー!!」
「お前もうちょっと祭の意味考えたほうがよくねえか…?」
シカマルの言葉が空しく響く中、囃子の音が空に響き始めていた。
**********
手から離れた白い花弁が微かに散って夜の闇を身に宿した水に浮かんだ。
川にはすでに数え切れないほどの花が流れている。
提灯の明かりで照らされた表情は無のままに、イタチは静かに川を流れる滴型の白い花弁を見つめた。
「うっわー……すごい数……」
後方から砂利を踏む音が聞こえて少女特有の高い声がした。
他にも数人の子供が話す声がしてそちらを横目で見ると、薄紅の髪が鮮やかな少女が面々に花を配っていた。
…よくよく見れば見たことのある顔ばかりだ。
1人1人確認するように視線をやって、そしてはたと集団の一番後ろの所で目が止まった。
「……ナルト?」
漏れた声に全員が一斉にイタチを見た。
明らかに驚いている様子を見ると、自分の存在に気づいてなかったようだ。
普段のくせで知らずうちに気配を絶っていた自分をおかしく思いながらも関心はすべて1人にだけ注がれていた。
「えっ! イタチさん? …わっー嘘っー!!」
ナルトは急に慌て出すとそばにいたサスケの影に隠れた。
イタチが柳眉を顰めたのは言うまでもない。
砂利を跳ねさせながらナルトに近づくと、睨んでくるサスケには目もくれずに彼女をひっぱりだす。
「どうして隠れるんだ」
「えーいやー……その……」
「兄貴、ナルトにさわんなっ……もがっ!?」
サスケがナルトをそばに寄せようと腕を伸ばすが後ろから恐ろしい速さで伸びてきた手に阻まれた。
「はいはいサスケ君、私たちは向こうで花流して来ましょ! ね?」
「ふぉい! ひゃくら!(おい! サクラ!)」
サスケが藻掻くがサクラはびくともしない。
日常ではありえないサクラの行動にナルトは目を白黒させた。
「さ、サクラちゃん?」
「ナルト、私たち向こうに行って用済ませたら先にお祭り行ってるからあんたも来なさいよ。あっナルトの事お願いしますね」
「……あ、ああ」
サスケの口を塞いだサクラは有無を言わせない笑みをイタチに浮かべると、ずるずるとサスケを引きずって、いのに誘導されて移動している他のメンバーについ
て川上へといそいそと行ってしまった。
(どこで知り合ったのか知らないけど…なんだか恋の予感って感じ!! チャンスよナルト!!)
内なるサクラがゴーゴー!と拳を上げていた。
**********
しばらく呆然とサクラたちの後ろ姿を見ていたナルトだったが、気まずさに持っている目を伏せてしまった。
睫の影が提灯の明かりに揺れている。
イタチは目を細めるとそっとナルトの手に触れた。
ひんやりとした手にナルトが驚いて顔を上げると、イタチは少し顔を傾けて微笑んでいた。
「弔いに来たのだろう?」
「う……うん」
頷いたのを確認して、そのまま小さな手をとって川縁につれていくと、ナルトはしゃがんで花を水に浮かべた。
水面に浮かぶ白い花筏をみていると、何とも言えない気持ちに胸が詰まる。
水に指先を浸すと刺すような冷たさが伝わってきて、溢れそうになったものが引っ込んだ。
それに安堵してナルトは立ち上がった。
イタチの前で泣くのは、気がひけた。
泣いた事はあるが、やっぱり恥ずかしい。
ただでさえ今日はこんな格好をしているのだ。
それだけで顔から火が出そうなくらい恥ずかしいのに泣いてしまったら面子も何もない。
立ち上げってなお水面を眺めるナルトの横でぽつりとイタチが呟いた。
「綺麗……だと思うのは不謹慎なんだろうな」
「えっ……」
弾かれたようにイタチを見上げると、彼はさきほどの自分と同じように水面を見ていた。
闇夜の川の、点々と提灯の赤い光が反射してきらきらとした水面を真っ白な花弁を広げた菊が流れていく様は、とても悲しい儀式なのだがどこか神秘的で、確か
に美しい。
ぼうっとそれに見とれたナルトはだが慌てて俯いた。
(なっ何考えてるんだってばよっ……私の事なわけないってば…)
かあっと自分の都合の良さに顔が熱くなる。
そっと浴衣の袖を持ち上げてそこに散らばる花に目を落とした。
(可愛いけど……私には合わないってばよ…サクラちゃんとかが着た方が絶対似合うってば)
はあ、とため息をつくと、横で砂利が鳴った。
「ナルト」
「……?」
顔を上げるとすっと頬に手がそえられた。
びっくりしてナルトは目を見開いた。
「い、イタチさん?」
「見違えた…とてもよく似合っている」
えっ? とナルトは瞬きを繰り返した。
時が止まってしまったようにただ遠くに水の流れる音と、自分の心臓の音がやかましく聞こえた。
ナルトは満面の笑みを浮かべた。
「……あ……ありがとうってば」
やっと絞り出した声は上擦っていて、イタチが短く笑う声が聞こえた。
「今日はどうした。いやにしおらしいな」
「そっそんな事ないってばよ!」
「そうか? 俺にはそう見えるが」
「単に浴衣が着慣れなくて……だからっ……っうあっ……!!」
いつも通りだと見せようとしたナルトだったが、無理に駆けたせいで砂利につまずいてしまった。
通常なら足を一歩踏み出せばいいのだがいかんせん着物なので大きく足を開けない。
倒れそうになったナルトをイタチは難なく受け止めると意地悪く笑んだ。
「お前の言うとおり、いつものお前だな」
「うーっ……」
立たせてやると、ぷいっとナルトはそっぽを向いてしまった。
その様子に苦笑する。
「…何笑ってるんだってばよ」
睨んでいるつもりなのだろうが、それさえも可愛くて、イタチは何とかにやけるのを抑えると気をそらそうと話題をふった。
「そういえばお前、祭に行くのか?」
川沿いに生える木々の向こうを指して聞くと、ナルトは寂しそうな表情を見せた。
「私は……行けないってばよ。みんな嫌がる」
まだ幼い頃、一度だけ父と祭に来たことがあったのだが、周りの誰もが自分に冷たい眼差しを向けてくる恐怖感だけが思い出として残っていて、ナルトにとっ
て祭はあまり嬉しくないイベント事だった。
今日もまさか浴衣を着せてもらえるとは思っていなかったものの、花を流したらそれとなく帰るつもりだったのだ。
視線を外したナルトの横顔を見つめたままイタチは眉を顰める)
(……ここでも九尾か……どこまでナルトを苦しませれば気がすむ)
イタチは忌々しげに囃子の聞こえるほうを睨んだ。
里の人間にも、九尾自体にもえもいえない怒りが湧いてくる。
元々花葬を済ませたら帰省するつもりだったイタチだったが、ナルトの手をとると歩き出した。
「えっ何……?」
「春野サクラだったか…。彼女が祭に来いと言っていただろ。行くぞ」
「ちょっと待ってってば! ほんとに駄目だってばよ! 私なんかが行ったら……」
引かれる腕に力を込めると、イタチが突然止まった。
肩越しに漆黒の瞳をナルトに向ける。
「俺が一緒にいる」
「え…」
「悪い……無責任なことをしようとしてるのはわかってる。でも、何か言われても、俺が守るから」
そうして持っていた手を握り直すと、イタチは再び歩き出した。
しばらく唖然としていたナルトだったが、何度かイタチの横顔と手とを見比べると、そっとイタチの手を握り返した。
動いたぬくもりに驚いた目を向けると、ナルトがはにかんだ笑みを浮かべ、小さく「ありがとう」と言った。
イタチは微笑み返すと提灯の並ぶ大通りへと目を向けた。
満天の星空の下、2人を迎えたのは色鮮やかな屋台の壁と賑わいをみせる人の波だった。
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「っかーっうまいのう!」
「先生飲み過ぎですよ」
「うるさいのお。こういうときはどーんと呑ませんか」
どん! と持っていた杯を置いて自来也は弟子を睨んだ。
当の弟子は知らんふりを決め込んでいか焼きを口に運んでいる。
一番に花葬を済ませた2人は屋台の一角に設けられた休憩所で酒を酌み交わしていた。
一方的に自来也だけが酒を仰っているが、四代目も心なしか目元を赤くしている。
酒に弱くはないが、普段飲まないせいか回りが早いようだ。
「ん? なんだあれは……」
ふいに自来也が立ち上がって目を凝らした。
「どうしたんです? ……んん?」
くるりと後ろを向いた四代目は目を剥いた。
前方から綿菓子やら輪投げの景品やらの山ーーー否、持ちきれないほどのそれらを抱えて誰かが歩いてくる。
体格から見るに子供なのだが、荷物で顔が見えない。
ふとその隣にいる人物を見て四代目は驚嘆の声を上げた。
「イタチ何やってんのー? 君が祭に来るなんて珍しいねー」
「火影様……」
四代目にイタチは気づくと、前が見えなくてふらふらしている隣の肩を抱いて2人がついているテーブルの所まで連れて行った。
「おろして大丈夫だ」
その言葉にどばーっと荷物がテーブルに雪崩れ込んだ。
とっさに自来也が酒やらつまみやらをどけたのでテーブルが汚れる事は免れたが、荷物から顔を出した人物に思わず酒瓶を落としてしまった。
「くはーっ疲れたってばよー」
「ナルト!?」
「ええっ!! 何!? ナルト? ってその格好なに!?」
「あ、お父さんにエロ仙人だってばよ」
ナルトは紅潮した顔で微笑むと、空いていた椅子にイタチと並んで座った。
「浴衣はヒナタが貸してくれたんだってばよ」
「えーそうなの! ……俺……そんな着るなんて一言も聞いてない…! うわー、カメラ持ってたらなー!」
「こら馬鹿弟子、落ち着け。確かにナルトの浴衣姿は可愛くて制作意欲が湧いてくるが、今はこの大量の食いもんやら景品やらのほうが先だろうに」
ナルトの抱えてきた物を物色しながら自来也は言った。
「あっそれもそうだ。これどうしたの。戦利品?」
「ううん、全部貰ったんだってばよ」
荷物の山からニッキ水を出して飲みながらナルトはこれ以上ないほど嬉しそうに笑った。
「貰った? これ全部?」
「そうだってばよ」
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『あんただろ? 蝦蟇を口寄せしてあの砂の化け物と戦ったの』
大通りに入るとすぐに1人の女性が屋台の中から声をかけてきた。
反射的にびくりと身体を震わせたナルトを背に庇い前に出たイタチに一瞬目を見張ったようだったが、罰が悪そうに眉尻を下げて、女性は自分の屋台で売ってい
た綿飴を差し出した。
『……その……ありがとね。里が襲われた時、避難小屋にいたんだけどさ。あんたが戦ってくれなかったら今頃どうなってたか……』
『避難小屋…? ああ、我愛羅の時……ってえっとー…??』
拍子抜けしたナルトは初め戸惑っていたが、イタチの影から顔を出すと、おずおずと女性に近づいた。
『お礼って言っちゃーあれだけど、折角だから貰ってっておくれ』
『……私が貰っちゃっていいんだってば?』
『ああ』
『あ……ありがとうってばよっ!!』
ナルトが満面の笑みで答えると、女性も曖昧にだが微笑み返した。
それからは一歩進むごとに誰かしら声をかけてきて、皆が皆同じ理由でナルトに屋台の品を渡していった。
お礼だと言って渡すのは女性ばかりで、皆避難小屋でナルトが戦う所を見ていたのだという。
「………」
四代目はじんわりと目の奥が熱くなるのを感じた。
「………うわ…」
堪えきれず目から溢れた涙を四代目は慌てて拭った。
ナルトに気づかれないように顔を隠して何度も目元を指でこすった。
(……気づいた…変わってくれた…?)
12年間頑なにナルトの存在を認めなかった里の人間が、ナルトの戦う姿に考えを変えようとしている…?
「………良かったな」
ぽんぽんと肩を叩かれたので少し赤くなった目を向けると、自来也がにいっと笑っていた。
「期待して…いいんでしょうかね……」
掠れた声でつぶやいて、そっとナルトへと視線を流した。
彼女はイタチに屈託ない笑みを向けながら貰った物をなにやら分類しているようだった。
その光景に頬を弛ませて、自来也は足下に立ててあった新しい酒瓶を出して、四代目の杯に酒をついだ。
「心配ないだろ。木の葉の里も捨てたもんじゃないってことだ。…でも……なんだ。女はやっぱ強いな。男ならびびって何もできやしないからのう」
自分の分もついで、自来也は輝いている青い瞳を見返した。
「……そうですね」
かちん、と音をさせて、喉が焼けるようなそれを一気に飲み干した。
ずっと胸の奥にあったもやもやが少しはすっきりしたような気がして笑っていると、ナルトが不思議そうに見つめてきた。
「2人共何で笑ってるだってばよ」
「何でもないよ。ちょっとね」
「ちょっとって何だってばよ! 隠さないで教えてくれってばよっ…ってっうわっ!!」
食い下がろうとしたナルトだったが突然背中にタックルを食らってテーブルに突っ伏してしまった。
「ナールート!! ここにいたのね」
「……サクラちゃん……ひどいってばよー」
ぶつけた鼻をさすって振り返ると、サクラが「ごめんごめん」と言いつつもにこにこと笑っていた。
彼女の後ろには川のところで分かれた面々がいて、四代目や自来也に挨拶をしていた。
唯一サスケだけはイタチと睨み合っていたが。
「で、どうなったのよ」
小声で囁かれた言葉にナルトは首を傾げた。
「どうなったって……何がだってば?」
「は!? もしかして何もなかったの?」
「だから何がだってばよ!!」
「告白されたとか、キスしたとか……」
「!!?? ……こっ……告白!? きっ……キス!?」
「どうした?」
突然ナルトが叫んだのでイタチが顔を向けると、彼女はこれでもかと顔を真っ赤に染めてぶんぶんと首を振った。
「なっ……何でもないってばよ」
「そうか? ならいいが」
とりあえず納得したのかイタチはサスケに視線を戻すと吐き捨てるように言った。
「……サスケ、いい加減にしろ。鬱陶しい」
「それは兄貴だろうが。ナルトを連れまわしやがって、一体どういうつもりだ」
とごたごたサスケが騒いでいるのを尻目にサクラはため息をついた。
「…何にもなかったのね。なあーんだ、せっかく2人っきりにしてあげたのに」
「サクラちゃんの考えてる事がわからないってばよ。何で私とイタチさんがそゆ事するんだってばよ」
「………あーもういいわよ。あんたがとことん鈍い事がよーくわかったわ」
「??」
全く……と額に手をあてるサクラの様子に苦笑していると、ひょこりとヒナタが顔をだした。
「ナルトちゃん、花火見に行かない? ここでも見えるけどもう少し上に行ったほうが綺麗に見えるから…今からみんなで行こうって話してたの」
「行く! 花火見たいってばよ!! イタチさん! 花火見に行こうってばよ!」
「花火? いいよ」
イタチは返事を返すとサスケをどけるようにして立ち上がった。
成り行きが面白くないサスケは舌打ちをするとぷいっとイタチから顔を背けた。
「サクラちゃん、2人も行くって」
「よしけってーい! ほーらみんな移動するわよー。移動ー!」
とサクラが意気揚々と出発しようとした時だった。
「サクラ、ちょっと待って!」
いのが慌てた声を上げてサクラに駆け寄ったのだ。
何? と首を傾げる彼女にいのは前方を指差した。
「あの猛スピードで走ってくるのってあんたたちの担当上忍じゃないの?」
「え、カカシ先生?」
思いもよらぬ人物にサクラはいのの差す先に目を凝らした。
「ほんとだカカシ先生だ。何で走ってるんだろ」
確かに前方から白くも見える銀の髪をなびかせ、片目を額あてで隠したはたけカカシが短距離走での理想のモーションで走ってくる。
「ナールートーvv」
その声を聞いた瞬間サクラの顔が青ざめた。
(ナルト馬鹿なの忘れてたわ。先生が今日のナルトをほっとくわけないじゃない!!)
「あっのおエロ教師っ! ナルトの浴衣姿に目の色変わってるわ。ナルト! 早く逃げなさい! 食われるわよ!」
「はっ? 食われる?」
「あーもう!! いいから早く逃げなさいっ! 何とかここでカカシ先生を足止めしとくから!」
「ナルト、こっちだ」
さっと視線を走らせ、状況を確認したイタチはナルトに手を差し出した。
ナルトはわけがわからなかったが、サクラの必死の表情とどこか冷静さを欠いたイタチの表情に緊迫したものを感じてイタチの手をとった。
強くその手を握ってイタチは人の波を縫って走り出す。
すぐに2人の姿は人混みに紛れて見えなくなってしまった。
「こら兄貴! またナルトをっ!!」
地団駄踏むサスケにサクラの鋭い声が飛ぶ。
「サスケ君! 今はそんな事言ってる暇ないわよ! カカシ先生が来るわ!」
サクラたちの様子に自然と皆で陣を組むと、いろんな意味でやばい上忍を見据えた。
「よくわかんねーけどあいつ止めればいいのか?」
「そうよシカマル! 今こそあんたの影真似の術の本領発揮よ!」
「……褒められてるのか、けなされてんのかわかんねーけどとりあえずやってやるよ」
シカマルはぽつりぽつりとだが印を結ぶとぐっと地面を踏む足に力を込めた。
『忍法…影真似の術!』
瞬時にシカマルの影が伸び、夜の影をも糧にしながら真っ直ぐにカカシへと向かった。
かくん!とシカマルの身体が揺れるのと、カカシが動きを止めたのは同時だった。
「はっ……何? 誰よこゆ事するの」
咄嗟の事で何がなんだかわからないカカシは呆然と周りを見回した。
だがその頃にはすでに遅かった。
「今よ!」
どどどっと一斉にカカシに群がっていった下忍たちに、自来也と四代目は何ともいえない笑みを浮かべた。
「今のガキは過激だのう」
「あ、ははは………」
ナルトの置いていった荷物からりんご飴を発掘してかりかり食べながら四代目は肩を落とした。
対する自来也はするめをしがんでいる。
「それにしてもカカシは変態だのう」
「カカシも先生には言われたくないですよ」
かりかりかりかり。
「……お前そういう事いうとイチャパラの新作読ませんぞ」
「ええーっそれはちょっと」
かりかりかりかり。
「もうっほんと勘弁してほしいわー」
縛り上げたカカシをぽいっと2人のほうへほかったサクラに、大人2人は苦笑するしかなかった。
**********
必死に走っていたら、いつの間にか人混みを抜け、2人は花を流したとは別流の川付近の並木のほうまで来ていた。
祭の喧噪はとても遠くに聞こえている。
ここまでこればもう大丈夫だろう。
一応ナルトは後ろを気にしながらも、立ち止まって息を整えた。
「……っ」
ふと足に痛みが走った。
見ると、足の指の裏の皮がめくれかけている。
「いったー…」
「すまない、下駄だったな」
屈んで足を見ようとするイタチをナルトは慌てて止めた。
こんな綺麗とは言えない足にさわらせるわけにはいかない。
「イタチさんが謝る必要ないってばよ。それにこれくらいなら大丈夫だってば。気が抜けて痛くなっただけだから」
明るく言ったナルトだったが、頬が引きつっている。
先ほど少し見ただけだったが赤く見えたものは血だろう。
イタチは息をつくと有無を言わせずナルトを抱き上げた。
「イタチさん!?」
「座って休んだほうがいい」
「歩けるから降ろしてってば!」
突然の事に混乱したナルトは、間近で見るイタチの顔にどきりとしながらもどうにか降りようともがいてみたが駄目だった。
それどころかぴしゃりとイタチに注意されてしまった。
「川岸に行くだけだ。おとなしくしていろ」
「………はい」
ナルトは諦めると、落ちないようにイタチの肩をそっと掴んだ。
じんわりと布越しに伝わってくるぬくもりが気持ちよくて思わず目を細める。
(何かほっとする…)
無意識にだがぴたりと首元に顔をつけてきたナルトにイタチは微かに息をつめた。
抱きしめている身体はとてもやわらかく、肌にあたる髪からはどこか甘いにおいがして頭が痺れた。
(こんな事になるとはな……)
いつまでも抱きしめていたかったが望むままにしていてはナルトが不信がるだろう。
イタチは座りやすそうな石を見つけるとそこにナルトを降ろした。
そのまま川のほうまで行き、腰のポーチからハンカチを出すと、水に浸して湿らせた。
それをもってナルトのところにもどると、彼女が止める前に足につける。
ナルトは微かに顔をしかめたが申し訳なさそうに笑って言った。
「…何かイタチさんに手当てしてもらってばっかりだってばよ」
「お前は何かと怪我が多いからな。任務の時ばかりか修行に付き合っていて何度お前の血を見たことか……」
「うーっ…でも今日は仕方ないってばよ。下駄なんて初めては履いたから」
丁寧に血と、ついてしまった砂を拭き取ってもらいながらナルトは抗議の声を上げた。
イタチはふくれているだろう顔を想像してくつくつと笑った。
「イタチさん、結構意地悪だってば」
「そうか?」
「私で面白がってるってば」
「そんなつもりはないんだが…つい」
「つい!? ついってなんだってばよ!?」
「まあいいじゃないか。…ほら、これでだいぶ楽じゃないか?」
その言葉に下駄を履いて立ち上がったナルトは、からりと下駄を鳴らして数歩歩いてみた。
イタチは傷を洗ったあとに絆創膏を貼ってくれていた。
そのおかげか足は歩く分には痛まなくなっていて、ナルトは「うわあっ」と嬉しそうに声を漏らした。
「ありがとうってば! もう痛くないってばよ!」
「良かったな」
「イタチさん」
出したものをしまっていたところに声をかけられて目を向けると、月明かりに澄んだ瑠璃色の瞳が更に透明感を増してきらきらと輝いていた。
「…お祭り、つれてってくれてありがとうだってば。イタチさんが誘ってくれて…行けて…良かったってば」
いろいろあったけどこんなに楽しいなんて思ってなかったから。
そうとろけるような笑みをナルトが浮かべた時、突然空が割れるような音がした。
どーん!と腹に響いてくるほど空気が震えたかと思うと、ぱらぱらと何かが弾けて舞うような音が後に続いた。
2人は同時に空を見上げた。
「あーっ花火だってばよー!!」
丁度川の上流、火影岩の上空で花火が上がっていた。
少しここからでは遠いが、赤や緑と藍色の空に光が散ってとても綺麗だ。
「すごいってば! 何か流れ星みたいだってばよ!」
降ってくる花火の光を受け止めよるように両手を広げてはしゃぐナルトにイタチは破願すると少し屈んでそっと囁いた。
「俺もお前と行けて良かった」
びっくりして振り向いたナルトに、イタチはやわらかい眼差しで微笑んだ。
2人は星が輝いて見えるようになるまで、空に咲く大輪の光の花を見上げていた。
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