黒き牙の1


























 視界を舐める、漆黒の焔。
 
 
 視界を染める、真紅の海。
























ああ、







そう呟いて、目の前で狂喜に笑む瞳が更に歓喜で細まった。







 作り物のような、整いすぎた容貌。
 微かに幼さを残しているせいで、一段と神々しい気配を放つ青年。







首の後ろで束ねられた漆黒の髪は、焔の熱風にはらはらと舞っていた。
長身の割に華奢な体躯を黒と白の装束で包み、その手には血を吸ってどす黒くなった刀がある。



 聞かなくともわかる。
この刀は何十人もの人を斬ってきた。
だというのに、刃は今だ輝きを失っていない。
本来ならあり得ない事だ。
一度でも肉に埋めれば鋭さを失うはずの刀。
そうなっていないのは、この青年の扱いがそれだけずば抜けているということ。
 






 そして、その刀が切った対象がありありとわかっている今、己も武器を手に、この青年に向き合う気は起きなかった。


自分が守れなかったもの。

その事実が目の前にある。
気力の湧きようがない。
 力無い眼で見つめれば、刀と同じ色に瞳を染めた青年は一際美しく笑んだ。







「やっと、俺は…、なれる……」





言葉が途切れ途切れなのは、それほど想いが強いからだろう。
 そうでなければ、このような惨殺をしない。









三代目火影は被っていた笠をとると執務室の四方で燃えさかる焔の中へと投げ入れた。
笠は激しい煙を上げて、そしてすぐに灰になった。







「……儂を殺すか」
「……」
「……そうまでして、お前の望むものとはなんじゃ…?」







そう聞けば、青年の笑みはますます鮮やかになった。
だがその双眸は冷えた光を宿している。







「…愚問ですね。お聞きになる必要が?」
「…お前がこんな事をしたと知ったらあやつはお前を……」
「殺すかも知れませんね。けれど、それならそれで…」




血の脂に照る刃を眺め、彼は悠然と微笑む。
三代目は目を細めた。





「何故そうもあやつに執着する?」
「それも、……愚問ですね」







彼は冷徹な色を強めると、刀を掲げた。




「俺は、あの人が還ってきてくれれば、それでいいんですよ」



赤い刃に、漆黒の焔の影が濃く映っていた。























































あれは偶然ではなく、必然。
そう思ってこれまで生きてきたのだ。