<前書き>
綱手編です。このあたりからストーリーが完全にオリジナルです。














真の朱の1






 なぜ忘れていたのだろう……。


あの忌々しい出来事は、未だ心深く、言葉にもできない怒りを燃え上がらせているというのに。




 そして、己の過ちを、今更ながら悔いている………。
自己の感情のままに、あの夜一体いくつの命を己は喰らったのだろう。

ここ数百年、人という、その存在そのものを嫌い、関わる事を避けていたというのに、これではその存在と変わらないではないか。


 
 この身を封じる小さな身体は、あらゆるものすべて受け止めてきたというのに。


『吾が子』


微かに風が吹いた。求める者の匂いがする。
 かし……と金属音が鳴り、眼下に光が見えた。














 ぴーひょろろー………と真っ白な雲の向こうから鳶の澄んだ声が聞こえる。
田園風景の中を走る道にはさわやかな秋風が吹き、さらさらと用水の水が音を立てる上を蜻蛉が飛んでいる。
その脇のバッタが飛び交う草むらの中に人影が4つあった。
木の葉隠れの下忍7班の面々のものである。


「自来也様の情報収集ってどれくらいかかるのかしら」
「もう里を出てから2週間だってばよ〜」


愚痴り出した2人に少し遠くから声が飛ぶ。


「風来坊を捜してるんだから仕方ないでしょ。そんな事よりお前らは口を動かす前に身体を動かしなさい。まだ1日のメニューこなしてないでしょ」


木陰でひらひらと手を振るカカシに、サクラとナルトは無言の訴えを返すが、例のごとくイチャパラを読みふける彼には全く通じない。
2人はため息をつくと顔を見合わせた。
ちなみにサスケは2人の少し後方で黙々とメニューをこなしている。
サクラは息をついた。


「サスケ君を見習って地道にやりましょ。まだ腹筋が500回残ってるわ」
「了解だってば」


ナルトは頷いて草の上に転がった。















「君たちに特別任務をまかせたい」


山積みにされた書類の間から四代目火影がそう切り出したのは今から三週間前の事だった。


「任務内容は2つ。1つはある人を探して里につれてきてほしい」
「火影様が直々に説明なさるって事は相当凄い人なんですか?」


利発的にサクラが問うと、四代目は頷いた。


「うん、凄いよ。くの一の憧れだね」
「そりゃそうだろうて。なんせあいつはわしと同じ伝説の三忍の1人だからのう」


ふいに窓のほうから声がしたので7班は一斉にそちらを見た。
気配を全く感じさせず窓枠に腰掛けていたのは自来也だった。


「あ! エロ仙人だってばよ!」
「自来也だってーの!!」
「エロ仙人はエロ仙人だってばよ」


ぎゃあぎゃあと騒ぎ出した2人をよそにカカシは四代目に向き直る。


「つまり……綱手様ですか?」
「ピンポーン!大正解v」


ひゅーひゅーと四代目は手を叩くとちらりと自来也を見やる。


「居場所は自来也先生が同行して探してくれる」


 あの人は医療のスペシャリストだ。この先また里が襲われないという保証がない今、1人でも多くの有能な忍が里には必要だ。
三忍の1人となれば牽制にもなる。
それが四代目火影の見聞なのだが、今まで黙っていたサスケが口を挟んだ。


「なんでそいつを連れてくるのに俺たち行かなきゃいけねーんだ? わざわざ同行なんかしないで1人で行けばいいだろーが」
「確かに…サスケ君の言う通りだわ。1人のほうが動きやすいもの」


2人の言葉に四代目は苦笑した。


「それはもう1つの任務のほうに関係があるんだ。ナルト、自来也先生、いいですか?」


静かな声音だったがナルトと自来也はぴたりと口を閉じて四代目へと目を向けた。
れにひとつ頷いて四代目は座椅子から少し身を起こした。
視線はサスケに向けられている。


「単刀直入に言おう。君の呪印を早急になんとかしたい」


ぴくっとサスケの眉が動いた。


「なんだと?」 
「今回の大蛇丸の動向と三代目やカカシの話を総合してみると、あの人の目的は間違いなく君だ」


四代目の言葉に下忍3人は何ともいえない表情を見せた。
言葉にするならげーっ…という感じだ。


「…世の中にはそんな人もいるのね…」
「…サクラちゃんそれって…」
「…っお前ら黙れ! ……」


うへえっと肩を震わせる3人に四代目はきょとんと首を傾げた。


「あ……えーっと3人とも何考えてるのかな?」
「何って…」
「大蛇丸の事だってばよ?」
「まさかとは思うが…」


はあーっとカカシがため息混じりに聞く。


「大蛇丸が男色趣向でサスケを狙ってる…とか思ってるんじゃないだろーな?」
「えっ違うんですか!?」


えっ!うそっ!違うの!?と騒ぐ様子に大人たちは苦笑した。


「ははは………多少好みが入ってるかもしれないけど一応違うから」
「じゃあ何でサスケ君が狙われてるんですか?」
「厳密にはサスケの身体らしいんだけど…」
「その言い方やらしくないか?」
「ほっといてください…。…大蛇丸の目的は、写輪眼だよ」


あ、そっち!
こちらのほうが深刻なのだが、あからさまにほっとした様子の子供らに、四代目は眉をさげつつも、口調は堅く続けた。


「大蛇丸は他人の精神を自分の精神に取り込んで、その肉体を自分の肉体とする禁術を発案したらしい。現に先日の際には三代目が今のあの人の肉体が元々の身 体ではない事を確認している」
「あいつはこの世のすべての術を手にしようと昔っから妖しい実験をしとった。こう言うのは癪だがあいつは天才だ。時間があればそれも可能だろうが生憎人間 には寿命つーもんがある。だがその術を使えば死なずにすむ」
「……で他人の身体を奪うっていうのか?……ふざけてやがる」
「…俺もそう思うよ。でも、生憎と君にはその大蛇丸の印が付けられている。それがある限り、君は大蛇丸に呪われたままだ」



だから、まあ、急ぎということで同行してほしい。
仮に綱手が里に帰りたくない、ということであっても、サスケだけは視てもらわないと。


とにかく、いってらっしゃい。



 そうして、木の葉の里を出発したのだがーーーー。


「あ、そうそう。今回は念のためにもう1人、保険で行ってもらうから」


保険でもう1人??
小首を傾げる7班の下忍の面々の後ろで、執務室のドアがノックされる音が響いた。
グッドタイミングだね、と四代目がにっこりと入室を許可する。

 そうして入って来た人物に、ナルトは目を大きくした。


「イタチ…さん…?」
「ナルト…」


戸惑いを含んだ呼びかけに、うちはイタチはふっと口元に笑みを浮かべたが、火影に向き直るとすぐに表情を真剣なものにした。


「火影様、遅くなりました。申し訳ございません」
「いやいや、十分だよ。……ということで、今回の任務は第7班と自来也先生、そしてイタチの計6名であたってもらう。統括班長は自来也先生ということで、 よろしく!」


各自支度して一時間後に里の門に集合だよー、と明るく締めくくった自分の父が、こちらを一度だけ強く見たのを感じて、ナルトは引き締めた表情で、イタチを 見遣った。
彼は父に一礼した後、同じように自分を見た。


 綱手………初代火影の孫であり、三代目火影の教え子である自来也と同期で、木の葉の三忍と謳われるくの一だ。
医療忍術に長け、大戦では多大な功績を上げた。
波風ミナトが火影へと選出される前は、それこそ最も火影に近いとされた人物だ。
実力も度胸も兼ね備え、医療だけでなく、あらゆる忍術…体術へも精通している折り紙付きの忍だ。
だが、そんな彼女が火影に選出されなかったのは、大戦後、里を出たのが一番の要因だ。
そのいきさつを詳しく知らないが、深い事情があると思われる。


 それをーーー木の葉崩しがあり、確かに木の葉が窮地に立っている今であっても、今更綱でを探しに行くというのは、どういった了見なのだろう。


(サスケがいるうちの班に、情報を持っているエロ仙人はいいとして…なんでイタチさんまで……)


大蛇丸の呪印を解くための任務に同行するのだ……?


(まさか……)


は、っと気づいてナルトはイタチから目を離し、俯いた。
そんなナルトをよそに、カカシやサクラは支度をと執務室を後にし、サスケは突然の登場である兄に突っかかりながらも共だって部屋を出て行こうとしていた。
イタチが自分を見ていることに気がついてたが、ナルトは顔を上げると四代目火影を見た。

ーーーパタン、と執務室のドアが閉まった。
四代目が口を開く。


「月読に、任務だ」
「…うん……」
「……もう、そんな怖い顔しないの。本当に、もしかしたらの可能性だから」
「それは……綱手という人に、大蛇丸が接触するという可能性?」


大蛇丸は父の封印術で両腕が全く使い物にならないと聞いた。
彼はそれをなんとかしたいはずだ。
そして、それを治してもらうために、稀代の医療忍者である綱手を思い浮かべるのは不思議じゃない。
大蛇丸も、自来也と綱手と元は同じ班であり、同じ三忍であり、かつての仲間だったからだ。


だから、その可能性……?


「それとも……」


もう1つの可能性は……


「サスケとイタチさんを狙って、大蛇丸が接触してくる可能性?……」
「……両方だよ…。月読の任務は、それだ」


万が一、そうなった場合、大蛇丸を拘束してほしい。
イタチはこのことを知っている。
だから、里を出てからも適宜相談をして、備えてほしい。


「…わ、…わかったってばよ」
「…ごめんね。できる限り、こういう状況は作りたくなかったんだけど、…イタチと組むのであれば月読が適任であり、…ナルトが同行するのがいいという判断 をした」
「…ありがとうだってばよ」


ナルトは微笑んだ。
月読としての功績が認められ、大蛇丸という重要人物にあたる任務を与えられたのだ。
これはとてつもなく、光栄なことだ。
だから、ナルトは力強く父に向かって頷いた。
 自分が暗部であることを知らない、大切な人がいるところで月読になるかもしれないのは、正直怖い。
けれど、だからといって自分にもたらされた機会と責任から逃げたくはない。


「月読、行って来るってばよ!」










「綱手の居場所がわかったぞ」


その晩、拠点にしている宿屋の食堂で会した面々に自来也は早々に伝えた。
傍らにはイタチがいる。
 自来也とイタチが情報収集にあたり、第7班はそれを手伝ったりもするが、基本は修行していいと自来也が行ってくれたので、こうして会うのは朝と晩の食事 時だ。


「どこにいらっしゃるんです?」
「短冊街だ」
ぐいっと御猪子をあおぐと自来也はぷはーっと息をはいた。
「短冊街っていうと…ここからすぐですね」
「のんびり歩いても明日の昼にはつくだろう。あそこはあいつの好きな類がたくさんあるから移動される恐れもないし、まあ大丈夫だろうて」
「ああ、そうですね……ん?ナルト修行しにいくの?」


ごちそうさまっ!と食事を終えたと思ったらそそくさと忍具やらの入っているのだろうリュックを手に宿屋の入口に向かうナルトにカカシは声をかけた。


「そうだってばよ。今練習してる術がもうすぐできそうなんだってばよ!」
「お前の頑張りは偉いが、あんまり無茶しちゃ駄目だぞ。その術は疲労が大きいからな」
「わかってるってばよ!」


じゃ!と暖簾の向こうにナルトは走って行ってしまった。
 ナルトは里を出て以来、昼はカカシの元で身体的な特訓を、夜は自主トレを毎日行っていた。


「よく続くわねー」


呆れるように、尊敬するように言うサクラにカカシは笑った。


「サクラはいいの?」
「私は無理。昼間のやつだけで全身痛いもの。これで夜も運動したら明日動けないわ」
「サスケはたまに行ってるな。今日も行くの?」
「ああ」
「いつもの場所か?」
「…あ、ああ」


ちょうど食べ終えたサスケはイタチと目を合わせないようにしながらもぼそっとそう返し自分も暖簾をくぐっていった。
ゆとりがあるときは事実上保護者のポジションでイタチはナルトとサスケの修行を見に行っていた。




 残されたサクラは少し寂しそうだったが夕食を食べ終えるとポーチから巻物を取り出して膝の上に広げた。
 サクラは身体的な修行こそしてないが学術的な修行をこの3週間こつこつとやっていた。


(私はサスケ君みたいに忍術も体術もできないし、ナルトのようにスタミナもない)


だから特出した忍術や体術を極めるのは難しい。
 どうしたらいいのだろうと悩んでいた時、カカシはぽいっと巻物をよこした。


『サクラはチャクラコントロールが完璧だから試しに医療系やってみたら?』


医療系はチャクラの消費が激しいが使い方を工夫すれば戦場に置いて欠かせない力となる。


『戦いに怪我はつきものだ。特にうちの班はめちゃくちゃな戦い方をするやつが2人もいるから1人でも医療に通じたものがいると心強い』


そう言われてサクラが否というはずがなかった。


 いくつかの巻物を読んで大まかにどんなものかは理解できたと思う。


(とにかく手の平にチャクラを溜めて……それを維持する)


手の平にチャクラをため、ぼんやりとチャクラ波が見えるほどにそれを高める事は造作なかった。
しかしどうしても維持となるとできないのだ。
1人で部屋にこもり、じっと集中してるだけなら長時間維持することも可能だった。
でも誰かと話しながらとか歩きながらとか少しでも他の事に考えがいくとすぐにチャクラの膜がはじけてしまうのだ。
そんな事では実戦で使うなど到底無理だ。

 打開策として最近のサクラの修行場所はここ、食堂になっている。
否応なしに人の輪の中にいられるので集中力を養える。


(サスケ君もナルトもどんどん強くなってる…)


追いつきたい。










 今まで自分の目の前にいるのはこの世で1人だけだった。


絶対的な存在感とそれを裏付ける絶対的な力。
自分の目標であり、越えたい壁である。


 でも今はもう1人いる気がする。


破天荒なまでの力。
でもどこか絶対的なものを感じさせる力。

 自分と並んだ?いや、追い越されていないか?


「……っ」


サスケは舌打ちをして自分の左手を見下ろした。
手は全体が赤くなり、ところどころ皮膚がめくれてそこだけ白くなっていた。
それを見る彼の瞳は赤い。


「……ここまでか」


千鳥の発動回数を増やそうとチャクラの回復を見ながら思いつく限りの修行法を試してみたがどれもうまくいかなかった。
ただ疲れるだけの毎日にやるせなさを感じざるえない。

 小さく痙攣する手から視線をはずし、その場に座り込んだ時だった。
ごおうっという大きな音と「うわあ」という声が少し離れた所から聞こえてきた。


(あいつ何やってんだ?)


黒にもどった瞳で音のしたほうを見てサスケは立ち上がる。
背の高い芦を押しのけて進んでいくと、しばらくして草が円形に薙ぎ倒されているところに出た。
その円の中心に髪が砂で汚れるのも構わずにごろごろしているナルトを発見する。
サスケは顔を顰めた。


「うーっ……うまくいかないってばよ……」
「お前、何寝てやがんだ?」
「うわおおっ!? …あ、サスケじゃん」


いきなり現れたサスケにナルトが驚いて飛び起き、その勢いで尻餅をついた。
その反応にため息をつくと、サスケはナルトのそばに腰を下ろした。


「……」
「……?」


それきり身動きもせず何もしゃべらないサスケに沈黙にたまりかねたナルトは声をかけた。


「サスケ?どうしたんだってばよ?」


顔をのぞき込むが、月明かりに常よりも白く見える顔に変化はない。


「なあってば!」


むっとしてこちらを見ないサスケの肩をつかもうと伸ばしたナルトの手を、サスケは無造作に逆に掴むと、手の平が見えるように少しかえした。
その手を一目見てサスケは表情を曇らした。

自分に負けないほどぼろぼろだったのだ。
皮膚がめくれて赤い肉が見えている所もある。
痛々しいそれは、高密度のチャクラが生じた際にできるものだ。
サスケは低い声で言った。


「お前、どんな術やろうとしてんだ?」
「えっ…それは…」


口ごもったナルトにサスケは更に眉を顰めた。
ナルトの手を解放するが視線はきつく向けたままだ。


「まさか千鳥じゃないだろうな?」
「は!? 違うってばよ。ってか千鳥って写輪眼ないと敵にあたんないじゃん」


意味ないってばよー…と顔を背けたナルトにサスケは畳みかける。


「じゃあ何だよ。お前俺が何回聞いても教えてくれねーじゃねーか。いい加減言えよ」


そうしてじーっと睨んでいると、とうとうナルトが身をよじって怒鳴った。


「…っわかった! 言うから睨むなって!」


まじ怖いからやめて!
そう訴えると心なしか目元も緩めたサスケにナルトはしぶしぶ答えた。


「螺旋丸をやろうとしてるんだってばよ」
「螺旋丸?」


聞いた事がなかった。
疑問符を浮かべているとナルトが説明してくれた。


「お父さんの術なんだってば。私って印結ぶの下手じゃん? 螺旋丸って印がいらないからやりやすいかなーと挑戦してみたんだけどやっぱ難しくって」
「どんなやつなんだ?」
「んーっ…未完成だけどやるから見てくれってば」


ぴょんっと立ち上がったナルトはにっ!と笑うとサスケに離れるように言った。
サスケがまだ倒れていない草のほうまで行くのを見届けると、ナルトはすっと腰を低くして左手の手の平を上にして構える。


「っつ…!!」


次の瞬間すさまじいチャクラの波がナルトの手から吹き上がりそこを中心にごうごうと音を立てて風がうねり出した。
さながら小さな竜巻のようだ。
サスケは腕を顔の前にかざし何とか風を防いでいたがそれでも風の勢いに身体が押された。


(なんだ…っこれは…)


圧巻として見ているとナルトが左手を打ち払った。
ナルトがチャクラの波を止めた事で風は嘘のように止んだ。
呆然とするサスケにナルトは苦笑した。


「これを手の平サイズの球状にまとめなきゃいけないんだけど、コントロールが難しくて」


ぽりぽりと頭を掻いているナルトを、サスケは何とも言えない目で眺めた。


(お前は…一体…)


とふいに後ろの茂みががさりと鳴った。
2人が振り返るとそこには自来也がいた。


「威力はまずまずだがのー…しまりがないのお」
「げっエロ仙人!」
「げっとは何だ!! ったく師匠に向かって何て口の利き方をするんだ!」
「師匠っていうんなら何かアドバイスしてほしいってばよ! いっつもいっつも私1人残してどっか行って…」


ナルトはぷうっと頬を膨らました。
本人とても怒っているのだろうが自来也とサスケから見ればあんちくしょう! な可愛さである。
自来也はにやりと笑うとナルトの細い手首を掴んだ。


「何じゃナルト、寂しいなら寂しいとはじめっからそう言えばいいだろうに。ほれこうして手とり足とり…」


そのまま腕の中にひっぱりこまれ、ぎゃーっとナルトが暴れるがそんなことお構いなしに抱き込む自来也にサスケが切れた。
半歩下がって間合いを確認し、次の瞬間には自分の身長よりも高く跳躍した。


「ナルトを離せ!!」


ガン!!と手加減なしのサスケの跳び蹴りが自来也の顎にクリティカルヒットする。
自来也は痛みに仰け反った。
その隙にナルトを引っ張り出してサスケは怒鳴った。


「みすみす捕まってんじゃねーよドベ!!」
「仕方ねーじゃん!チャクラ使いすぎてヘトヘトなんだってばよ」


ナルトはそう言うとサスケのそばにへたり込んだ。
本当はすぐにでも自来也から遠くに離したかったが仕方なく自分も腰を下ろした。
そばにいないよりはいたほうがマシだ。
一方自来也も多少余裕はない座り方ですぐそばにうずくまっていた。


「…全くお前らはわしを誰だと思っとるんだ! 三忍だぞ! 伝説の三忍!」


意気込んで見せるがナルトとサスケの表情は変わらない。


「エロ仙人はエロ仙人だってばよ」
「大蛇丸と同格には見えねえな」


そうきっぱりと返されて自来也は正直泣きたくなった。


(そろそろ帰ってくるように呼びにきたっちゅーのにこんな扱いとは…自分が不憫で仕方ないのう)


自業自得だと露ほども思わないあたり誰かに似ているような気もするが自来也は蹴られて赤くなった顎をさすった。


「それにしても2人ともぼろぼろだのう。がむしゃらにやっても疲れるだけだぞ?」
「やらないよりはましだってばよ」


ナルトの言葉にサスケは眉間に皺を寄せた。


(…同感だ)


誰よりも強くなりたい。
そう思ったらじっとしていられない。
じっとしていたらきっと後で悔やむ。
 激しい焦燥感。何かしていなければ落ち着かないそれ。


(俺は……)


サスケは横目でナルトを見た。
自来也にあれこれ質問しているナルトはその視線に気付かない。


(……こいつに勝てるか…?)


ナルトは恐ろしい速さで強くなっている。
死の森で自分を叱った時の精神力。
戦いの中で生み出す戦略力。
誰にも負けない努力。気力。

そして彼女はあの日向ネジを倒し、我愛羅を退けた。
螺旋丸というものもそのうち会得するだろう。


(……俺は全然かわっちゃいない……)
 

 千鳥と会得したからといって何が変わった?

 
 俊敏に動けるようになったからって今のこいつにどこまで太刀打ちできる?


 そう思うと無性にそこにいたくなくてサスケは立ち上がった。
ナルトが気付いて顔を上げたので表情を見られないように背を向ける。


「サスケ?」
「……先に宿にもどってる」


どこか掠れた声に少し戸惑ったがナルトは頷いた。


「えっ…うん、わかった」


芦の向こうに姿を消したサスケをしばらく見つめていたが、すっと目元を引き締めると自来也に向き直った。


「サスケについてってくれってばよ。あいつ1人にしとくのはあぶないってばよ」


普段とは違うナルトの眼差しに自来也は目を細めた。


「大蛇丸か……ついていくのはいいが、お前はまだここにいるつもりか?」
「あと一回やったらすぐ帰るってばよ」
「よし、あと一回だぞ」


自来也はそう念押ししてサスケの後を追った。
サスケは別段急いでいたわけではないのでほどなく追いつけるだろう。
自来也の気配が遠くに行くのを待ってから、ナルトは無造作に右手を伸ばした。
ぐうん!と風が渦を巻いて生み出され綺麗な球状を作った。
呪印のない右手なら螺旋丸は完璧にできる。
ナルトはしばらくきゅるきゅると回るそれを見ていたがふいにチャクラを霧散させた。


「ナルト」
「あ、イタチさん」

自来也たちが行った先とはまた別の方向から現れたのはイタチだ。
毎日10分でもこうして二人で会い、状況を確認している。


 イタチは持っていたペットボトルを渡した。
修行をしている際に見に来てくれるときはこういった気遣いをしてくれる。
ナルトはそれをはにかみながら受け取った。
と、その手を手の平で包むように掴まれた。
 サスケは見ただけだが、イタチは眉をひそめながら確認するように血のにじむたくさんの傷を見て、そっと指の腹でふれてくる。
小さくだが走った痛みに小さく手が震えると、はあ、と彼がため息をついた。


「なぜここまで自分を痛めつける? 日常生活にも支障がでているだろう?」
「…痛いけど、痛い方がチャクラ加減がわかるから…」


あはは…、と笑ったナルトをイタチは細めた目で短くだが睨み、それからその手を離した。
 一度辺りを見渡して気配と音を確認してから一枚の紙をナルトに見せた。


「見覚えは?」
「…カブト…さん…」


イタチが見せたのは写真だった。
森の中を移動しているところなのか、写真の中にはたくさんの木々とその葉が舞っている。
そんな場面をなんとか撮ったというような写真はかなりボケているが、誰かはわかった。
中忍試験で世話になった先輩だ。
その薬師カブトが音隠れの里のスパイであり、大蛇丸の側近であることは聞いていた。
聞いたときはとても驚き、複雑な気持ちになったが事実だからと納得した。


 この写真をイタチが自分に見せるという事は、どういう意味か。
ナルトはイタチを窺った。


「これはどこで…?」
「短冊街近郊だ。…火影様の読みがあたった」


大蛇丸が綱手と接触をはかる可能性。
 ナルトは表情を曇らせた。