夜を裂く1 



 ひどく暗い木々の下を数刻歩いた先、見た事もない景色が目の前にはあった。
それを覆う植物も初めてみるものばかりで、ナルトはぱちくりと瞬きを繰り返した。


「……何かすっごいってばよ。木の葉とは全然感じが違うってば」
「そりゃあ分野から違うからね。入口はこんな感じだけど、施設は地下に広がってるよ」


素直な反応をするナルトにカブトは微笑んだ。










「音隠れの里の実地調査をしようと思う。薬師カブトを引率に、綱手様が木の葉の統率者。あとは手の空いてる上中忍かき集めて………、」
「ほおー……って、私は?」
「カブトが指名出してきてね。直々の監査はナルトがいいって」
「ほおー……」

(イタチさん任務で里にいなくてどうせ暇だってばよ)



ナルトは了解だってばよ!と頷くと、監査部隊隊長の綱手の元に向かった。








 そして今に至る。


 木の葉から出ることを禁止されている大蛇丸の代わりのカブトに案内され、ナルトたちは音隠れの里の入口を通過した。


「各班地図と報告書は用意できているな? 時間はどれだけかかっても構わない。計画通り、始めてくれ」


綱手の合図に固まっていた者たちがわらわらと別れていった。
最下部のこの監査室にいるのはカブトに、綱手、そしてナルトだった。
ナルトはカブトの見張り番も兼ねているので、手持ちぶさたにカチャカチャと機械をいじっている彼のそばへと行った。
綱手は棚に置かれた薬瓶を確認しているようだった。


「何してるんだってばよ?」
「鍵を開けてるんだ」

カブトは答えて、少し下がった眼鏡に指をあてた。


「大蛇丸様が集めた能力者たちの収容場の鍵を、ね。火影様はすべて解放するように命令したから早めにやっとこうかなって。全員に通達はしたから、彼らと今 調査に来てる木の葉の忍が衝突する事はないはずだ」
「……能力者の収容所って……。ここってそんな施設もあるんだってば?」
「木の葉とは分野が違うって言ったろ? …あ、そうそう」


カブトは機械から離れると壁に掛かっていた鍵の束を手にとってナルトに差し出した。
それにはナルトだけでなく綱手も首を傾げた。


「報告にはない鍵だな。どこの部屋のだ?」
「特別医療室のものです。ここのすぐ隣の部屋で、見取り図にはここに吸収される形で明記されていたはずです」
「ここだってば?」


布や呪符のかけられた壁の端の古ぼけたドアを差してナルトはカブトを振り返る。
彼が頷いたのを見て、ナルトは鍵を差し込んだ。
ガチャン、と金属の割れるような音がしてドアがこちら側に傾いた。


「んん?」


中を覗いたナルトは唸った。
ドアの雰囲気から暗い部屋を想像していたのだが、それに反し、中はとても明るかった。
そして片側の壁一面に配された医療機器やたくさんの書物に、医療室と言われるのに納得した。
規模なら木の葉病院に綱手が用意させた部屋よりも整っているかもしれない。
 部屋はいくつものカーテンで仕切られていた。
その間にベッドが置かれ、その周りの床はいくつもの管が散らばっていた。





「…………あれ…?」





一番手前のベッドを覗いたナルトは声を上げた。
視界を遮るカーテンを手でおさえ、ベッドに近づく。
じー…っとそこに横になっている人物を見つめた。
ベッドの中の人物は目を閉じ、微かに呼吸をしている。


「……どっかで見た気がするんだけど……、」


見つめるのは男性。
ただ髪や髭が伸び放題になっているせいで顔の輪郭がはっきりしない。
唯一露わになっている目元にナルトは首を傾げていた。


   そこにあるのは、隈。




「………まさか………」
「……、…?」






ナルトが呟いた時、男性の瞼が震えた。
じっとナルトが見つめる中、男性はひどくゆっくりと手で顔を撫で、のびた髪にくしゃりと指を差し入れた。
そしてまたゆっくりと身体を起こす。


 ベッドに端に手をつき、乗り出しているナルトに気が付いて、その男性は眠たそうな目を微かに見開いた。


「……うずまき、ナルトさんじゃないですか。どうしてこんなところに?」


その声を聞いてナルトは確信した。
ぱあっと表情を輝かせて、青白くやせ細った男性の手をとる。


「やっぱり中忍試験の時の試験官の先生だってばよ!!えっ、でも先生って砂のやつに殺されたって聞いてたってばよ?」
「……どうせなら名前で覚えていてほしかったですね」


ごほごほと咳をしつつ悲願がましく言う男性に、ナルトは慌てて記憶を辿った。
何しろ数ヶ月も前に紹介で一度聞いただけの名だから記憶があやふやなのだ。
それでも必死に頭を働かせて、ナルトは叫んだ。

「えっと、えっと、月光ハヤテ先生だってばよ!!」


達成感に満面の笑みを浮かべるナルトに、ハヤテも笑みを浮かべて、自分の手を包む手の温もりに泣きそうになった。









「砂の爪が甘くてですね、朝方まで息があったんですよ。でも気づいたのが遅くて僕が殺しちゃうと明らかに証拠が残っちゃうって事で緊急に身柄を音のほうに 持ってきたんです」
「だが怪我がひどかったためにここで治療をしていた、と?」
「特別上忍でおられる方ですから、それなりに情報もあるだろうとの判断で」


にっこり笑うカブトに綱手は眉を顰めて、今は身支度を調え、備え付けの衣服に袖を通したハヤテを仰いだ。


「もう起きて大丈夫か?」
「はい、きちんと処置は受けてましたので。寝ていたのは時間の感覚がなくなってきてるたからです」


ハヤテはそうして顔を改めて撫でた。
身分的に自由に動けるようになったのでさっそく髭を剃り、ナルトに手伝ってもらいながら髪も簡単に整えた。


「ハヤテ先生、ほんとよかったってばよ!」
「ありがとうございます」


えへへ〜〜、とほのぼのとした空気を発しているナルトとハヤテに、綱手は微笑むと、カブトに声をかけた。


「一応医療室を見させてもらうよ」
「どうぞ。どうせ廃棄になるのですからほしい機材がありましたら持ち帰り下さい」


カブトは答えて踵を鳴らせて歩く綱手に付き添った。
しかし2人は大して進むこともなく足を止めた。
綱手は一際厚くカーテンの引かれたベッドの前で目を細めると、そのカーテンを開けた。


 その瞬間、凄まじい速さで彼女のすぐ脇を細長い物が通り抜け、後方の壁に突き刺さった。
その音にナルトもハヤテも顔色を変えて医療室へと向かった。
そして壁に刺さった物に目を見開く。


「………ほね?」


長さにすれば30センチほど。
乳白色の鋭い矢が壁に大きな穴を開けて垂直に埋まっている。
その独特の形にナルトは素直に口にのせた。
カブトが肩をすくめた。


「警戒する必要はないよ、落ち着きなって」
「カブト、こいつは…?」


綱手は掠った頬に手をやり、滲んだ血を擦るとベッドで半身を起こした相手を睨んだ。
カブトは苦笑するとカーテンをすべて取り去った。


「…もともとこの部屋は彼のための物でしてね」
「……この機材、すべてか?」
「ええ、大蛇丸様のご命令で。彼は我々にはなくてはならない人材だったのですが、身体を壊してしまいまして」


ね? とカブトは振り返った。


「……君麻呂、腕を下ろしなさい」


全身に印を描き、顔色も悪く綱手を睨んでいた君麻呂は、カブトの声に素直に腕を下ろした。





「かぐや一族?」


チチチ、と外から鳥の囀る音が聞こえる。
医療室を事実上閉鎖し、一時地上へと戻ったナルトにカブトは話した。

「かつて霧隠れの里を戦闘を求めるが故に襲撃し、結果全滅。まあ、そういう性質の一族でね。特殊な骨格を持っていて、特に君麻呂は如実にその血継限界の素 質を表してる」
「…あいつは生き残りって事だってば?」
「大蛇丸様が彼だけ助けたんだ。それから彼は大蛇丸様のそばですごし、いずれは器として大蛇丸様のものとなるはずだった」
「はずだったって……?」
「彼は原因不明の病気でね。寿命も残り僅かだ。かぐや一族の文献が少ない分、まともな治療もできない」
「病気………だってば…」


塀にもたれ、カブトは息を吐いた。
それにナルトは頬を手で押したり引いたりしつつ首をひねった。
隣の綱手を見る。


「綱手のばあちゃんでもあいつの病気治せないってば?」
「どうだろうな。一度診てみない事には何ともいえないな」
「それって治せるかもしれないって事?」
「まあ、そうなるが…」


そう答えた綱手にナルトは表情を輝かせた。
パタパタと駆けだして地下への階段へと向かおうとしたのをハヤテが止めた。


「ナルトさん?!」
「あいつつれてくる!」


ナルトは叫んだ。


 君麻呂はあのまま地下の医療室にいる。
音の木の葉への吸収が本格的に始まったらここを離れなければならないだろうが今はまだ関係ないということで……ここに残るつもりなのだ。
でも治る可能性があるなら、少しでも早くここを離れるべきではないか。

ナルトの行動にハヤテは隠す事なく眉を顰めた。


「危険です。先ほどの様子を見たでしょう?」
「だけど、治るかもしれないなら! あいつ同じ部屋にいたハヤテ先生に何もしなかった。あいつ、そんなやなやつじゃないってばよ!!」
「ナルトさん!!!」
「行かしてやりな」


ナルトはハヤテの脇をすり抜け階段を下りていった。
その跡を追おうとしたハヤテを綱手の鋭い声が止める。
怪訝そうに振り返ったハヤテに綱手は腕を組んだまま肩を竦めた。


「あいつは言い出したら聞かないやつだ。好きにさせてやりな」
「しかし……」
「大丈夫だって。私もあのガキは心配する必要はないと思うしね」


そう言って笑った綱手にそれ以上出る事もできず、ハヤテは視線を戻すと暗い階段を見つめた。









カンカンカン、と石階段に自分の足音が木霊する。
見えるのは、吸い込まれそうな、闇。










どうして私ばっかりこんな目に合うんだってばよ……。














誰もつれてってくれない……。でも月読様ならつれてってくれる。お母さんが言ってたもん












大切な人を護りたい

その人の為に働き
その人の為に戦い
その人の夢を叶えたい







隠れ里に戦いを挑み、そしてたった1人生き残った、お前。










死を、望む、もの。
 目が、同じだった。





その事に、ズキズキと胸が痛む。















「君麻呂………ッ」


お前は、まだ生きてんだろ……………?