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●夜ひるとなくたもとおそ しほりける おやの思ひを おもひやりつつ
他42首は略
衛吉獄中歌
●石の上 古事ふみのつたえ見て かつ々もしる 敷島の道
●かにかゆく 横さの道の たねうへし 狂れ馬子といふは何奴 「出定笑語」を見て
●ちり残る ひと木の花も 吹あるる 嵐にたゑぬ ミ吉野の山 「残桜記」を見て
●春雨も いたくなふりそ 我心 思の晴る ひましなければ
●住馴ぬ ひなの荒磯の 浪の声 いふせかるらん 雲の上人
●ふる事を 荒磯浪の 打ち返し 思えハ思えハ 涙ぐましも
●あちきなや 醜の大樹の 枝しげみ 月影てらぬ 長門潟哉
●影かくす 大樹の枝を なき払い 早くあふかん 九重の月
●入しとき 紅葉せし木の めをはりて 花咲春に 成りにけるかな
●梓弓 春も深く なりけらし しきりに聞こゆ 鶯の声
●名に高き 名も大橋の かくるまて 霞にくもる 鏡川つら
●呉竹の 葉のさやさやと さゑかへり 猶影寒し 春の夜月
●散りしける 花と見まかふ 春山の 木影に残る 雪のむらきへ
●定なき 世をうしとや 思らん 谷のと出す 音鳴鶯
●野も山も 霞そめけん 久方の 日影もけふは 春めきにけり
●年月の 行衛も知らぬ ひと屋には 梅の匂ひに 春をしりぬる
●春雨や いたくなふりそ 心よく おもひにはるる ひましなけれは
●よつのとき 祝う日ことに たらちねの おやの思ひの いとゝますらん
●家ことの 軒はにさすや あやめ草 あやめもわかぬ 世にも有哉
●君の為 尽せし事も 鏡川 浮ふ水沫と 成そ悲しき
●露の身は よし消るとも 君の為 思ふ心の 消なましやハ
●もの思ふ われをしらでや 夜もすから 声ふりたてて こほろきの鳴
●さなきたに かわかぬ袖を いとと猶 しほりもあへぬ 秋の世の雨
●露時雨 みちわかぬまて ふりしけと 猶色かえぬ 森の松か枝
●露ならて きえもやられす たらちねの おやに思ひを かくる此身は
●もの思ふ わか身は秋の かりなれや 世をはうしとて なきわたるかな
●故郷の 紅葉の色は いかならん 都の山はかく 紅葉しぬ
●故郷は いかかなるらん 九重の 大内山は かくもみちしつ
●都には かく色つきぬ 故郷の 山の紅葉ば いかがなるらん
●秋来れば かくもみちして ちりて後 名をも高雄に あけさらめやは
●君の為 尽くせし事も 鏡川 浮ぶ水沫(みなわ)と 成そ悲しき
●露の身は よし消ゆるとも 君の為 思ふ心の きえなましやは
●清してふ 鏡の川は 名のみにて 濁し水の すまぬ悲しさ
●手も足も おれて命も 死するとも ふみはたかへし 武士の道
●君の為 思ふ心も いたつらに 獄のうちに としを経る哉
●うれたさを わすれける哉 新玉の 歳の初の けふのはつ空
●はれやらて 人屋のうちに 世をおもひ 袂もくつる 五月雨の頃
●梓弓 ひとやのうちに いるとても ゆめなわすれそ 武士のみち
●思ひきや 入りにしときは 紅葉せし おなし梢の 花を見むとは
●もの思ひ 獄のうちの いねかてに うらかなしきは まとの月かけ
●さためなき 世をはうしとや 思ふらん 谷の戸いて すねなく鶯
●あやなくて 色こそ見えね 梅の花 あはれ匂ひは 袖にしむまて
●花もなき ひとやに来鳴 鶯は もの思ふわれを なくさめむとや
●百鳥の さいつる声も たへたへて いととさひしき いりあひのかね
●おふかたの 人は何とも いはし水 清き心は 神そしるらめ
●君のため 尽せし事も 鏡川 うかふ水泡と なるそかなしき
●うき雲の しはしはかけを おほふ共 照らてあるへき 九重の月
●築羽山 みね吹風の つよくして 木の葉なすちる 醜のたふれまま
あきつかみ 吾大君を かしこくも たしなみまつる 鳥がなく 吾妻の はての 醜臣を 誅罰(うちきためん)と 武士のやそ供の雄(お)が 集ひつつ おたけびなして 白浪の うちよせしかと まがかみの 神の荒びか 木の葉なす 醜の奴(やっこ)
に さえられて つひに討得す 加茂川に 浮かぶ水泡の いたつらに なりてはなれと 敷島の 大和心を 鏡なす みかき立たる 大丈夫と 後の世まても
言そつたえん 大君の 宸襟(みものおもひ)をやすめんと 道も 狭(せ)にちる 武士の花
●鳴つれて 行かりかねに 夢さめて あふけはすめる 有明の月
●常ならは めつへきものを 中々に 言の葉もなく ぬるる袖かな
島村衛吉関係資料集から転写
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