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Haieの不定期コラム

2014年9月11日 (木) 

役に立たない?小さな歯

通説に異論を唱えるサメ好きの戯言
ホホジロプランクトン食のサメの歯は役立たずなのか?ニタリ


 よくサメ図鑑などではジンベエザメ、ウバザメ、メガマウスといったいわゆるプランクトン食のサメの歯は、捕食のためには全く役に立っていないと書かれています。
 「捕食」とは、文字通り獲物を捕らえて体内へ取り込む一連の行動を示します。
 ほとんどのサメの歯がエサとなる生き物に致命的なダメージを与えたり、しっかり捕えるために鋭くなっていたり、少数ですが固いものをかみ砕くような構造になっていたりするのに対し、これらのサメたちはあまりにも小さく用をなさないとみられています。

▲ウバザメの歯(京急油壺マリンパークでの液浸標本)

 いわゆる"退化した"(vestigial)とさえ表現される文脈が多くを占め、読者は「歯が小さい=役に立たない」というサメ知識を身につけることでしょう。

 でもその一般的な考えに対して私は、概して緻密な生物設計を誇るサメでも大きなサメが、用をなさないものにこんな精緻な機構を持っているはずがないと、歯や顎の構造を見るたび疑問を抱いていました。
 これらの小さな歯は本当に食べることに対して全く意味をなしていないのかどうか。※わざわざプロの研究者が言ったことを疑うなどというくだらないことを考えるサメ好きがいたものです。
 そんなくだらないことばかり考えるサメ好きのお話に少しお付き合いください。

●同一形状にして体が大きくなれば小さくなる歯●

 常識的に考えれば、体長5メートルを超える巨体に対して、下の図のような数ミリの小さすぎる歯(メガマウス10mm以下、ウバザメ・ジンベエザメ5mm以下)は無理やり考えてみても獲物をすりつぶすぐらいしかできないでしょう。

▲超簡単な歯側面の比較図(一応同縮尺のつもり…?)

 プランクトン食のサメたちは、捕食の際に海水ごと飲み込みエラにある鰓耙(さいは)というブラシのような突起で獲物をひっかけてから海水だけをエラから逃がして鰓耙にたまったそれらを飲み込んで食べると言われています。(鰓耙の形状は、メガマウスでは髭のような肉質の突起、ウバザメは鯨類のようなヒゲ、ジンベエザメはザル状のものと各々違う)

 つまり捕食では歯の役目を鰓耙が肩代わりしているともいえるでしょう。海水ごとエサを飲み込み、エサだけを濾し取る。
 しかし、一口に海水を逃がすと言ってもこの三種のサメたちはどれも大きな口でトン単位の水塊を一旦含むことになります。
 その際、もし歯が用をなさないとすればいったいどうやって口をしっかり閉じてエラから排水し、かつ濾した獲物を飲み込むことができるでしょうか。これが私の疑問です
 もし歯がなかった場合、くちびるや歯茎のようなものでその圧力を耐えねばならないでしょう。だとすれば上下だけでなく口の中からの圧力にも耐えられて密着できるほどの強靭な顎がなければ達成できないはず。
 でも彼らの顎は他のサメに比べて決して分厚く丈夫な顎ではないのです。
ジンベエの顎の骨(外部リンク・最下段参照)
ウバザメの顎の骨(外部リンク・Good Anatomy:Real Blackさんのサイト)

 そこで構造を単純に考えてみましょう。
 例えば、ビニール袋に水を詰め、手で口を閉じて袋を押すと開口部に圧力がかかり、隙間が生じてしまいます。
 つまり開口部を密閉できる仕組みがない場合、明らかにそこから水は漏れてしまいます。

 プランクトン食のサメの顎の骨は、体長に比べ細く(薄く)丈夫でないが、代わりに顎周りの筋肉はとても発達しているそうです。
 つまり袋となる部分は非常に強い構造であるにもかかわらず開口部は閉じる動作をそこまで強く支えられない。開口部へ逆流させない、密閉する仕組みは果たして何が補えるでしょう?

 ここであの微小で無数の歯が意味を成してくると考えられませんでしょうか。
 つまり袋を密閉(sealing)する構造がそこに備わっているんじゃないかと想像がつきます。

▲メガマウスの頭部側面(液浸標本) 顎は丈夫な方かもしれない

 私たちの身近なもので、食品用のチャックつき袋(商品名ジップロックなど)がいわゆるその仕組みと似たような意味合いを持つと。
 そしてその構造を見てみると袋全体の大きさに対して密閉をなす部分は非常にか細いにもかかわらず、わずかな上下の凹凸のみで多大な容量に対する圧力に耐えられるようになっています。この仕組みは、このほんのわずかな噛み合わせのみで密閉を実現しているのです。

 これこそがプランクトン食のサメが微小な歯を備える意味だと考えられなくはないでしょうか。
 これらのサメの顎の骨を見ると、細いにもかかわらずびっしりと歯が埋め尽くされているのがわかります。ジンベエで上下にトータルで3000本、ウバザメでも上顎でタテに6列、下顎でタテに8列でヨコ一列には100本近い歯がびっしりと並んでいるそうです。

 試しにウバザメの上下の列の数を横から見ると…
 ↑口外 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 内
 ↓ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

 一見噛み合わないように見えてますが、前後の動きに対しても耐えられるよう密に接触しているようにも見えます。そして他のサメが機能歯という実際に役立つ歯がほとんど1列なのに、多くのサメでは埋没している控えの置換歯の部分をわざわざたくさん露出させています。

 そしてそれぞれに共通する歯そのものの形はいわゆる「,(コンマ)型」で太い基部に爪状の鋭利な鉤が備わっています。しかし歯の先端はまるで上から押しつぶされたようにその部分を口の中へとに向けています。(例えるなら先が尖ったアポロチョコがぐにゃっと折れ曲がってるような形)
 鉤同士ならば、またそれは列車の連結器のようにガッチリとひっかけあうようにも見えます。
 噛みあわせそのものは果たしてどれほどのものかは詳細な実験と観察が必要でしょうが、少なくともこの小さく密集した歯は、それを実現できるであろう機能を備えていると考えられるでしょう。(メガマウスの場合、さらにパッキンの役割を果たす薄い皮膜もあるそうです)

▲メガマウス下顎の拡大図(千葉中央博のメガマウス標本)

 トン単位の水塊を顎の筋肉でもって支え、かみ合わせの密閉によって逆流を防ぎそれをエラのある方向へと押し出す。
   歯は、その大事な役割を捕食の時に担っている、だから役に立たないというなら密閉する機構などないはずなのです。(もちろん閉じるのに、上顎にお椀の蓋をする形で下顎が収まる形状も特筆すべきことですが)

 多くのサメ本にある「食べるのに役に立たない小さな歯」という表現は、この意味を考えると適切でないものになってしまうかもしれません。

 捕食以外では、サメは交尾の時にオスがメスを歯で逃がさないようにすることからその意味で歯が必要だと、多くの学者はその点では認めているようです。
 ただ繁殖行動というのは種の保存にかかる行動であってエサと接する口周りでは日常的な食事で用いられる方がウェイトがあるはずと思います。本当に無駄なら控えの歯まで何百本何千本も微小な歯を露出させる意味を逆に考えなくてはいけません。だから歯は口を閉じるためには必要なものだと、この一人のサメ好きは思ったのです。「食べるのに役に立たない歯ではない」と言えるのではと。

 ここまで私的な生態の考察をだらだらとお話してきましたが、こんなのはただのサメ好きが夜な夜な妄想した素人考えです。サメを本格的に勉強するのでしたら、私の持論はきっかけに過ぎないものです。でもサメを楽しむというのが、こんなことを想像することなのは多分サメ好きの皆さんがここまで掘り下げなくても常に思うところだと思います。

 サメは見れば見るほど計り知れない生き方を見せてくれる生き物だと私は思っています。それは彼らの体だけでなく、生命としての在り方にも共通するはずだと私は思いを馳せています。ここへたどり着いたあなたは、私よりもはるかに探究心旺盛な方です。きっとまだまだサメを楽しむ余地はあると確信を持てるでしょう。


▲濾過食板鰓類の揃い踏み(北九州市立いのちのたび博物館にて)
北のウバ、南のジンベエ。この2種が共に姿を現す日本の海


 さて、メガマウスを除くジンベエとウバザメは現在国際法によって保護の対象となっています。(将来メガマウスもそうならないことを願うばかりです…)
 動きが緩慢でヒレも大きく、ジンベエでは、アジア圏では高値で取引されていることで乱獲が懸念されてもいます。欧米の研究者の主張では反社会組織の資金源とも目されていたりして社会問題にも発展しています。
 一方で、水族館で展示することをこころよく思わない方もいるかもしれません。でも実際にはサメは乱獲危機の渦中にいて、展示による啓蒙がどれほど社会へ寄与しているか、改めて思い知らされることもまた少なくありません。
 私たちの意識を変え、訴えかけるのは間違いなく生きたサメたちなのですから。



※サメのことを考えて眠れなくなる時があります。
それはこんななぞなぞを見つけ出して推理する楽しさの虜になっているからでしょうね。寝てもサメても…。



関連リンク:
 メガマウスの歯の研究(外部リンク)
西オーストラリア博物館(Western Australia Museum)のメガマウス標本
(外部リンク)
 ジンベエザメ追跡調査コラム
その1その2(同様の調査を海遊館でも実施されてます)
 深海サメ王国レビュー
その1その2その3
大阪海遊館 東海大学海洋科学博物館
 リンク情報:>>サメのいる水族館



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