選べない商品         200546

 

           「お客様は、神様です」

           歌手の南春夫さんが言った言葉として有名になり、その後日本の消費社会やサービス産業で、

           企業とお客様との関係を言い表した台詞として、定着している。

           しかし、残念ながらこの言葉通りのサービスに出会うことが、

           宝くじに当たるより確率が少ないという現実は、大多数の人の共通した経験だろう。

 

           店頭に陳列してある商品なら、手にとって見て、そして、吟味することができる。

           レストランなどでも、だいたいの店の雰囲気や価格などで、

           どれくらいの料理を食べることができるか想像でき、そんなに失望することもない。

           (最近では、満足することもほとんど期待できないが..

           つまり、それだけ、可もなく不可もなくというレストランが増えた)

 

           ところが、「お客様は、神様です」の言葉とは、まったく無縁の

           “客が選べない商品”を売っている市場がある。

 

           それは、1に、タクシー、2にマッサージ。

           この2つのサービスだけは、運を天に任せて、

           いい運転手、いいもみ手さんに当たることを期待してサービスを受けるしかない。

           そして、どんなにサービスが悪かろうと、すでにお金を払う義務が発生しているので、

           釈然としないまま結局決まった料金を払うという結末が待っている。

           タクシーやマッサージなどで、サービスが悪いから料金を下げろとか払わないとか

           と、いう行動をとることは、ほとんどない。

           (ところが、実際にはタクシーの場合、無理難題をふっかけて料金を払わないとゴネル客が結構居る

           と、いうことを運転手をやっている友人がこぼしていたが、この場合は、

           正当なサービスに対する報酬としての交渉ではなく、単なるおかしい人だから、この話には、該当しない)

 

           タクシーの場合は、目的地まで運んでくれれば、それでサービスは、完了という考え方もできるが、

           私の場合は、大のつくタバコ嫌いで、タクシーに乗った瞬間にタバコの煙が残っていると、

           ムッとくるのを通り越して、切れそうになる。

           「俺は、こんな臭い空気を吸うために金を払うんじゃない」と...

           どんなに寒くても窓を全開にするんだが、密閉された空間にこもった臭いにおいは、すぐには取れない。

           タクシーの運転手の勘違いは、乗せてあげているという勘違いである。

           “目的地まで安全に快適に運んであげる”と、いう商品を売っているという認識がない。

           このことを持って、客が選べない商品を売っている商売という決め付けをしているのである。

           それでいて、世界一高い料金を取っている。

           国際空港の成田から東京までタクシーで200ドルだと言ったら、

           ほとんどの外国人は、ジョークとしても信用してくれない。

 

           マッサージの場合は、かかりつけの店で、知っている担当者以外の場合は、

           価格に見合ったコリの解消を期待することすらしなくなった。

           とりあえず最低限の揉み解しさえしてもらえばラッキーという感覚でベッドに横になる。

 

           “ツボを外す”と、いう言葉があるが、なんとなく日常的な言葉として使っているので、

           その本当の意味を深く考えたことなどなかったが、

           「この事だったのか!」と合点が行く体験をしたことがある。

           そのマッサージャーは、下手とか何とかを通り越して、本当に職業人かよ!

           と、いうくらいツボを外して揉むのである。

           最初は、(ふむふむ、ツボの周辺から攻めてきたな)と、思っていた。

           そして、ようやく揉んで欲しいツボに近づいてきたので、

           (よしよし、そこか気持ちいいツボにくるな)と、思っていたら、すっとツボを外してまた違う場所に移動する。

           (おい、おい、今外したところがツボだろうが!)と思っていると、

           また別の場所でも同じように正確にツボを外してくる。

           このマッサージャーは何か、私に対して邪険な意思を持って外しているのではと思ったほどだった。

           結局1時間の行程が終わった後は、コリが揉み解されるどころか、

           フラストレーションが爆発寸前だったという体験だった。

           その時初めて、ツボを外すという言葉の本当の意味を実感することができたのである。

           この場合も、お客様のコリを解消して気持ちよくなってもらうという商品を売っている感覚がないから、

           お客様が気持ちよいかどうかを検証することすら考えていないのである。

 

           すべからく、あらゆる商品は、お客がその価格に見合ったサービスを受けられる保証をしてから売るべきで、

           そうでなかったら、返品返金できる市場であるべきだろう。