空の声

                                                                  20041128日 versionT

 

私の体験の中で、トップクラスの怖い体験ですが、どういうわけか、

この話を聞いた人の感想は、「それがどうしたの?」「どこが怖いの?」

と、そっけないものです。

人名と地名だけは変えてあります。

そして、実際の会話は、deepな九州弁なので、標準語に翻訳してあります。

 

私が高校3年生の時だから、30数年前です。

あまり親しくなかった樋口君が急に山登りに行こうと誘いました。

とにかく、ありとあらゆる体験をしようという行動基準の私は、喜んで行きました。

佐賀県と福岡県の間には、1000mクラスの山並みが続いていてハイキングや山歩きには、最適です。

日曜日に麓のO駅までディーゼルカーで行き、2時間かけていくつかの小さな山頂を縦走して、

反対側のT駅まで2時間かけて降りてこようというプランでした。

当日は、うす曇の絶好な山歩き日和でした。

 

1時間半ほどかけて小さな頂にかかったころでした。

天気は、うす曇からいつの間にか雲が厚くなり、ひくくたれこめてきました。

ちょうど天井のところに雲があるような感じでしたが、それ以上くずれる様子もなく、

十分に明るい雲でしたらから、気にせずに歩くことにしました。

その時、急に大きな声が聞こえました。二人ともだれか呼び止めたのかなと思い、立ち止まりました。

しかし、周りには、誰もいません。

それでも、その声は、やみません。

樋口君が「誰か馬鹿なやつがラジオを持ってきて、ボリュームあげてきいているんだ。

まったくこの自然を楽しんでいる雰囲気を壊すつもりかよ」

と、憤慨しました。

 

しかし、声の方角は、見渡す四方の山なみからではなく、何となく上の方向からするような気がしました。

その内、二人ともその声が奇妙な言葉であることがわかりました。

日本語はもちろん、中国語、朝鮮語、英語でもありません。

(九州は、大陸に近いのでラジオにいくらでも中国語、朝鮮語の放送が入ります)

いや、まったく人間の言葉とは思えません。

あえて言うならば、猫がごろごろ咽を鳴らすような意味不明の音です。

そして、それが何故声という感覚を持ったかというと、二つの違った声が会話のように抑揚があり、

あきらかにコミュニケーションをとっている感じです。

 

二人は、顔を見合わせました。

「だれか、外国人がしゃべっているんだよな」

「ああ、麓の村か何かで外国人の会話を有線で放送しているんだよ」

「それが、この低い雲に反射して聞こえるんだな。気にしないで行こうか」

「おお、そうしよう」

と、二人は、そのまま進むことにしました。

その声は、途切れることなく大きく聞こえています

すると、尾根道の向こうから二人の夫婦らしき人が歩いてきます。

向かい合ったとたん。

「あの声は、何ですかね?」

と、向こうから話しかけられました。

「さあ、変な言葉ですよね。私たちの耳に聞こえるんだから人間であることは、間違いないですよね」

と、私は、応えました。

「いや、あれは、人間じゃないですよ。あんな大きな声で空の上のほうからしゃべれる人間はいないでしょう」

と、男性のほうが思いつめた様子で断定します。

「人間じゃないって....じゃあ 何なんですかね」

「何か判らないし、気持ち悪いので私たちは、降りることにしました。あなた達も早く降りたほうがいいですよ」

その会話中も音(声?)は、ずっと聞こえています。

私たちは、その話を聞いて気持ち悪くなり、夫婦二人と一緒に山を降りて行きました。

その声は、かなり麓近くまで降りたときにようやく聞こえなくなりましたが、それまでは、空の上から聞こえていました。

 

驚いたのは、O駅に着いたときに数組の下山者が居ましたが、

その十数人の人たち全員が同じ声を聞いて下山した人たちでした。

そして、その後、ディーゼルカーでT駅までいったらそこにも同じように体験者が集まって同じ話をしていました。

つまり、その時、数Km四方の山の上に居た人たちは、同じ声を聞いていたことになるわけです。

 

この話は、これで終わりです。

新聞にも載らなかったし、誰に話しても信じてくれません。

何であったかも判りません。

その前後に特別な事件もありませんでした。

だから、私の中でもいまだ持ってかたのついてない不思議な体験です。