すべては猫に教えてもらった その5
タマの子育ては、順調に2ヵ月半を経過した。
仔猫も小さな、ころころした形から猫らしいすばやい動きを見せるほどになっていた。
2、3ヶ月したら乳離れするだろうから、それから貰う
と、いう約束だったので、そろそろ手放さなくてはならなくなっていた。
タマにとっては、初めての本当の子育てだったから持てる限りの愛情を注いでの子育てだった。
これまで、ことごとく産んだ仔を捨てられていたのを一気に取り戻すかのように懸命に子育をした。
仔猫の方は、魚などの餌も食べるようになっていたが、
母親のタマの方が、子離れできそうも無いほどの子煩悩だったので、
貰い手に渡すと何が起きるか不安だった。
しかし、その日は、来た。
タマが、外に出ているところを見計らって、2匹の仔猫を袋に入れ、家から連れ出した。
2匹の仔猫を貰い手に渡して帰ってみると、
案の定タマは、大きな鳴き声をあげて仔猫を探し回っていた。
それから、前に述べたように半狂乱になり、そして、想像妊娠をするのである。
(現在では、偽妊娠と言うらしい)
想像妊娠をして、出産をしたつもりになってタマは、平常に戻った。
通常、猫の妊娠期間は、2ヶ月ほどであるが、
もともと、想像妊娠なので、1週間ほどの短いものであった。
その想像妊娠の事件が過ぎ去った後、2匹の仔猫を貰ってくれた人から
2匹は、面倒見切れないので、1匹を返してもいいかという打診があった。
私は、今更飼い手を捜しても見つからないし、タマも想像妊娠をするくらいおかしくなったから、
本当の子供を育てさせるのが必要じゃないかと、親を説得して受け取りに行った。
貰い受けてきた仔猫を袋の中に入れ、急ぎ足で帰ってきた。
私の家は、小高い坂の上にあったが、その坂道の途中までくると、
袋の中で鳴いている小さな泣き声を聞きつけてタマが飛んできた。
袋を開けて、仔猫を出すとタマは、即座に首のところを噛んで、連れ去ろうとした。
本能的に、子供を隠そうとしたのだ。
とっさにタマを押さえつけて、仔猫を袋に戻すと家まで歩き出した。
私の足が家の方に向かって歩いていることと、袋を持っているのが私だったので安心したのか、
ミャアミヤア仔猫を気遣う鳴き声をあげながら、着いてきた。
捨てずに取っていた寝床の箱に仔猫を入れると、
タマは、箱の中に飛び込んできて仔猫の毛を嘗め回し始めた。
(タマ、今度は、正式に育ててもいいという許可を貰ったから、安心して一緒に生活できるんだよ)
と、言い聞かせた。
タマと、1匹だけではあったが、仔猫の生活が戻った。
貰われていくまでは、情が移るといけないからと名前も付けていなかったが、
正式に名前をつけることにした。
小さな身体と丸い小さなしっぽでちょこちょこ歩くので、チョコという名前を付けた。
タマは、痩身の雌猫だったが、チョコの方は、小さいときから餌をたくさん食べ、
少し丸っこい愛くるしい雌猫に育った。
1年を過ぎると立派な成猫に成長したが、母親のタマとは、ことごとく違う性格の猫だった。
タマは、聡明で神秘的なところがあったが、
チョコには、そうした猫特有のシックスセンスがなかった。
食い意地が貼っているお調子者の猫で、私とのコミュニケーションも
普通の飼い主と飼い猫という程度のものであり、
私が泣いている時にじっと顔を見つめながら慰めてくれるタマのようなことはなかった。
子育ても下手で、どうかすると自分の母親のタマに子育てをさせて遊びに行くくらいの能天気な猫だった。
ただ、単純に愛くるしく、かわいい猫だったのでタマに負けず劣らず好きだったが、
中学に入り、初恋をするようになるとこれが自分の恋人だったらどうかと思うようになっていた。
典型的に違うタイプの女性のモデルがこの2匹にあった。
親と子という関係でありながら、猫にもこれほどの性格の違いがあるという驚きを教えてくれたが、
女性の好みと言う点では、40年を経た今でも結論が出ていない。