ニートにさよなら






まえがき


 長崎の美しい自然の魅力は、離島や半島に森林が残り、海が自然のままに残され
ていることにあります。また、歴史的にも16世紀中頃にはポルトガルから南蛮文化
が入り、それ以前の中国文化と一緒になり、その後のオランダとの交易で長崎の文
化が花開いたことも魅力的です。
 ところが、このような美しい長崎で育った若者たちが、ニートやフリーターとし
て今3万人を超えることになっている、という驚くべき現実があるのです。

 若者たちに不足しているものはといえば、かつては子供のうちに身につけさせら
れた、「挨拶」、「行儀」、「礼儀」、「敬意」の意味や所作が、今は家庭でもご
近所でも学校でも教えられないままに素通りして高校生や大学生、あるいは社会人
になっているという点でしょう。
 実に、このことが、挫折経験を持たない若者に育てあげ、コミュニケーション能
力の不足を指摘される若者にしていると考えられます。関係者が、子供たちと向き
合い、「手塩」にかけて厳しく育てれば立派な若者に育つと確信します。
 学校で、個性を持った一人一人の子供たちと向き合うのは、とても骨が折れ大変
なことです。

しかし、エネルギーと時間を使い、根気をもって向き合うことが必要です。

 子育ては、子が親から離れても、自立して生きていけるようにし、社会の構成員
になれるように、し向けていく一連の作業であり、子育ての最終目標は、子が親元
を離れ、親は子と別れるようになることでしょう。辛い作業ですが、親の重要な責
務です。

寂しいし、切ないけれど、子供と別れて暮らすようにしましょう。
それが子供をニートやフリーターにさせないで自立させる途です。
就職させ、家から追い出しましょう。生まれた時から、その覚悟で子育てをしまし
ょう。

 この本は、若者の現状をあらためて概観し、若者を大切に育て、ニートやフリー
ターにしないために、親、ご近所、学校、企業が為すべきことを考えるためのもの
です。

 この際、若者たちに期待を込めて「喝!」です。


                         平成18年2月  浜 民夫
  
第1部 現実を直視しましょう

第1章 やればできます

 平成15年夏、全国の若者が長崎に集い、
「全国高等学校総合体育大会」が開催され
ました。このインターハイの愛称は「20
03年長崎ゆめ総体」として全国に発信さ
れました。私もメイン会場の「かきどまり
陸上競技場」での開会式に参列して、スポ
ーツにかける子供たちの勝ち負けを超えた
純粋な情熱に久しぶりに心を洗われまし
た。
今、私たち大人は、小学校、中学校、高
校、大学に通う若者たちに何を見ているで
しょうか。
若者たちに夢を与え、若者たちから夢をも
らっているでしょうか。
 若者たちの将来を考えてあげているだろ
うか、と開会式が行われたスタンドで、思
うことしきりでした。
「2003年長崎ゆめ総体」は長崎県内の
高校生が一人一役でボランティアとして参
加し、総合開会式をはじめ各競技会場にお
ける運営を行いました。開会式での大会賛
歌「大空へ・・・」の素晴らしい900人の
高校生の大会賛歌演奏、2,100人の高校生
の素晴らしい公開演技、彼らのもつエネル
ギーを受験以外に少しその方向を変えてや
ると、素晴らしいパワーを発揮するな、と
感じたところです。


私たち大人は、どうして若者たちに働く場
を提供できないのでしょうか。長崎県内の
高校、短大、大学を平成17年3月に卒業し
た新規学卒者のうち求職希望者数は高校、
短大、大学を合わせて6,935名です。うち
就職内定者は5,762名となっています。
 すなわち1,173名が就職できずに卒業し
ています。
実際のところ、1,173名とは別に就職する
ことや進学することを途中で断念して、卒
業後にフリーターやニートになった学生、
生徒は、相当数いますが、その実態は統計
では把握できません。

 一方で平成13年の事業所センサス統計に
よると、長崎県内には76,403の事業所があ
り、うち従業員が10人以上の事業場は
14,168所もあります。一事業所で一人採用
する気構えで臨むと、この問題は簡単に解
決していきます。
若者たちの「やる気の無さ」,「無責任」,
「常識の無さ」を嘆く前に、そのような子
供たちの大量生産に手を貸して来た主犯格
は、私たちであることに気付くべきです。
今となっては、「家庭」、「地域」、「学
校」、「職場」の総ぐるみで若者たちを優
しく育てることが必要だと思っています。
 皆さん 私たちで何とかしましょう!


私は、現在、長崎大学に勤務しています。
授業(労働環境論、キャリア概論、インタ
ーンシップ)を通して学生に自立への道を
模索させ、社会人としての覚悟を持たせる
よう心掛けています。元々は、旧労働省に
30年ほど勤務していましたが、ご縁があっ
て、9年ほど前から現職に就いています。
私が大学で若者と向き合ったり、高校での
講演などで分かったことは、彼らは、父母
に慈しみ育てられスクスクと成長し、多少
は受験力に偏ってはいますが知識も豊富
で、素直な青年たちだということです。

私が子ども時代を過ごした昭和20年代とか
高校、大学に通った昭和30年代後半から40
年代前半頃の若者たちに比べても、数段優
れていると思います。いまの若者が唯一、
持っていないものは、貧しい生活体験で
す。腹が減る、食べ物がない、畑からキュ
ウリやニンジンを失敬して空腹を満たす。
隣近所のガキ大将の家来にされたり、殴ら
れたり、怒鳴られたりする。悲しかった
り、くやしかったりの繰返しから得られた
ハングリーな体験です。私たちの世代はど
この家でも、父親が工場から油まみれ汗ま
みれで、汚れた作業服を着て帰ってきて、
家族全員が揃ってから、父親の一声で「イ
タダキます」。この時間にいないと食事に
ありつけない、という体験もしています。


 そういえば、庶民の家庭では、風呂が家
に付いているところは少なく、家族である
いは隣近所の子供同士で、銭湯に通ったも
のでした。
消灯時間も早く、蚊帳をつって、その中で
家族全員が9時には寝るということもごく
当たり前のことでした。

 最近は、アワやヒエ御飯や麦御飯が健康
食としてもてはやされています。また、ス
イトンも然りで、和食レストランで、スロ
ーフードとか称して一般の定食よりも高い
値段で提供されています。
私の子供時代は、白米が足りなくて、これ
らが代用食として、毎食、食卓を飾り、ま
たか、とウンザリした覚えが残っていま
す。

そうなのです。私たちは小学生、中学生、
高校生のころから若者たちに金を払ってで
も「苦労」を体験させる必要があると思い
ます。
 それだけが彼等にないのです。
つまり、自分以外の人間との会話や対応
を、日常生活の中で自ら行い、それぞれみ
な異なる価値観を持ち、100人いれば100人
とも自分とは生き方、考え方において異な
ることを認識することが大切でしょう。


社会との接点を少しずつ開いて行くこと
が、自立のために必要と思います。
妥協、決裂、ウソ、裏切り、怒り、悲し
み、挫折、痛み、喜び、友情など、現実社
会で毎日繰り返されていることを、社会に
出る前に少しでも体験させることは人間力
を育てることに役立つと思います。

 高校を卒業して就職の途を選ぶ18歳の子
供たちが、入学時点から卒業したら就職す
る、との自覚を持ち、その後の3年間を勉
強していたなら、素晴らしい社会人として
巣立つと思います。
学校、家庭、ご近所、企業が協力して、彼
等を将来の人材として、大切に育てるなら
ば、必ず成長すると確信します。
やればできます。




















「長崎新聞 平成15年5月29日号」 (注)平成 15年5月に開
催された県総体の入場行進 


長崎ゆめ総体総合開会式平成15年7月28日での公開演

諫早の伝統芸能「まつりのんのこ」の13校1200名の演技


センター試験初日も終わりほっとする受験生たち


2005凧上げ大会での高校生の素晴らしい演奏


大学での授業風景


大学での授業風景


集団就職者の上京風景(1956年 東京・上野)


晴れやかな卒業証書授与式


巣立ちの頃


巣立ちの頃

第2章 大学での生活の自立のために

1進学率の向上で大卒就職者が大幅増加

 昭和40年・平成8年3月卒の新規学卒就職者は150万人で、そのうちの中卒者は62万5千
人と全体の42%、高卒者は70万人で47%と両者で90%を占めていました。
 この時代には、大学に進学する者は少なく、中学校や高等学校を卒業すると就職する
のが一般的でした。
 大学に入学する者が少なかったので、大学卒業後に就職する数も13万5千人と全体の
9%に過ぎなかった時代です。

39年後の平成16年3月の中卒就職者は9千500人、高卒就職者は20万9千人と大幅に減少
する一方で、大学卒の就職者数は36万6千人と、新卒採用数の学歴別では最も多くのシ
ェアを占めるに至りました。
 中学校も高等学校も大学に入学するための通過地点になっていて、生徒たちはひたす
ら大学受験のために必要な勉強だけを優先的にしていたため、大学生に対するキャリア
教育や社会性を付与する教育が重要になっています。


2本を読み、本当の勉強をしましょう

 受験に出る科目の「国数英理」だけとか「国英」だけしか勉強しないで大学に入学し
てくるということが起こっています。日本の歴史を知らない、世界史を知らない、そん
なことで国際化社会の中でどのように生きていくのでしょうか。音楽や美術のような授
業を軽視するために、幅広い人間性や教養、常識を培うことができないままに、大学生
になり、そして、欠落している部分を補えずに、就職活動の壁を越えることができず
に、また、内定をもらったとしても、卒業して社会に出たとたんに困難にぶつかりま
す。内外のバイヤーとの商談、パーティーの席上での雑談や座談で、教養のなさや歴史
観が無いことが露呈します。
本を読み本当の勉強をもっとすべきなのです。


3自己確立のための大学生活を送りましょう

大学の授業に出てみて、高校時代の授業方法と違いとまどいます。「授業の内容は全て
を尽くしているわけではなく、全体の体系の一部に過ぎません。足りないところや不足
しているところがあります。興味が有ればそれは自分で補いなさい」、「自分で問題を
見つけなさい。そして解決方法も考えなさい」、と教官に言われ、主体性を求められる
ことに学生は戸惑います。

 大学に入学することは、自立のためのあくまでも手段であってほしいのです。幸い、
長崎大学の学生は、他県からの学生が過半数を超えており、下宿やアパートで、自立生
活の第一歩を踏んでいます。


4コミュニケーション力を磨こう

キチンとした挨拶や会話を、親とか地域の人とか学校の教職員とか、日常生活の中で行
ってこなかったことの影響が、小中学生、高校生、大学生そして若年層に現れていま
す。
 学生の表現力の乏しさは、レポートとかプレゼンテーションに現れてきています。し
かも加速化が進んでいるように思えます。
 長い受験時代を通して作文や表現力に力を入れたりすることがなく、本を読むことを
軽んじていたことに輪をかけて、ケイタイ文化の氾濫が有効に効いています。
 携帯電話で「どこ、何してる、どうする」くらいで一日の用が済むような会話では、
ボキャブラリイは育たないし、コミュニケーション力は失われていきます。
日常生活の中で、積極的に自分以外の人との会話をしましょう。
兄弟、親、近所の人、学校の友人、先輩、後輩、学校の先生、事務の人、バイト先の人
や社会人、周りに沢山チャンスがあります。


5息子や娘をパラサイトさせないで下さい

 文部科学省の調査によると、日本経済がバブルのピークの頃の平成2年3月卒の新卒採
用数は、学歴計で121万人とかなりのものでした。
企業の成長、拡大に合わせて必要な要員が確保できるように、高等学校や短大・高専、
大学の入学定員数を増やし続けた結果なのです。
 バブル経済が破綻した後の、厳選主義の採用基準は、新卒者にとっては「学校は出た
けれど失業が待っている」というような悲惨な状況をつくり出しています。「組織の存
続のため」とリストラを実行してきたのは、組織の中枢にいるお父さんたちで、その犠
牲になっているのは自分たちの子供、との認識はあるのでしょうか。
そしてその親たちが、息子や娘にパラサイトを許したり、フリーターやニートを許した
りしているとしたら、息子や娘を本当に駄目にしている張本人は「親たち」でしょう
ね。
 「2、3年ならお父さんの収入で何とかなるから」とか「やりたいことが分かるまで良
く考えなさい」とかはいわないで下さい。
 学生が悩みや不安の相談相手として家族を挙げている割合は極端に少なくなっていま
す。積極的に子供と向き合って下さい。

 我が子を自立させましょう。

あとがき

やりたいことがわからない、やりたい仕事でなかった。
この言葉が高校生や大学生、そして既卒の若手会社員や二ートやフリーターにとって呪
文のようになっています。就職先を決めきれずに卒業したり、就職した会社をあっさり
と辞めたり、再就職を躊躇したりする若者たちからよくきかされます。
多くの職業人たちも、やりたいこととか、やりがいがある仕事を追い求めつつ、会社か
ら配置された職場で一つ一つの作業をこなしているうちに、仕事の成り立ちやチームで
仕事を行うことを理解するようになり、自分の仕事の達成感を味わうようになります。
このことを家庭での親子の会話のなかで、ご近所の集まりのなかで、学校の授業のなか
で、そして会社のなかで、体験も交えて子どもたちや若者たちに伝えることが大切だと
思っています。

 私はもともとの大学人ではありません。人生の後半からの途中入学の大学人です。
旧・労働省(現・厚生労働省)に30年近く勤め、長崎労働基準局長を平成6年から2年間勤
めたことがご縁となって平成九年から現職にあります。
長崎大学で学生たちの教育と就職支援に携わっているなかで、当時、長崎県庁の商工労
働部長であった横田修一郎さんから、長崎県における若者たちを中心とする雇用ミスマ
ッチに関する対策会議ができるので、その会議の委員と会長就任を依頼されたことが、
この問題に本格的に取り組むきっかけになったものです。その後、長崎県雇用ミスマッ
チ対策会議は、長崎県若者自立・就業支援協議会に衣替えをしましたが、その会長職を
通じて、今でもこの問題に取り組んでいるところです。

学生たちと10年も接してきて分かってきたことは、教室での授業だけではなく、学生の
成長を促すためには、教室外での授業も大事だということです。とくに合宿などによる
実践的な体験活動や体験学習は、いかに彼らを人間的に成長させていくか、ということ
です。社会性に乏しく、世の中の常識を知らない彼らが、社会人とつき合い、世のなか
と接することで、彼らに不足している、教室では教えることができない社会性を身につ
け、人間関係を構築する方法を学び、我慢することを体で覚えます。このような学生の
成長や変化のなかに、ヒントが隠されていると思います。
 つまり、二ートやフリーターに多少欠けている社会性や人間関係をつくり直し、我慢
することを自覚させ、社会や職場への復帰を図るためには、社会体験や仕事体験の場を
設定することが不可欠だと思います。トライアル的にも、実施してみたいと思っていま
す。
 若者たちは、些細なことや、ちょっとしたことで悩みます。
 相談する相手がいなかったり、どうしようかな、と思い悩んでいるうちに、タイミン
グを失してしまい、時間が過ぎ、就職も進学もせずに卒業してしまい、あるいは早期退
職をしているのでは、と実感しています。
 このことや教室外での体験活動の必要性を伝えたい、という思いが、本書を出版しよ
うかなと思い始めたきっかけです。そして、決定的には、常日ごろ、若年者の人材育成
に心を砕いていらっしゃる、長崎県の経済同友会代表幹事の扇道徳様からのおすすめで
した。
 本書の出版にあたりましては、本書の各所で使用しているアンケート調査の実施主体
である長崎県地域労使就職支援機構(高石哲夫代表)の志田融副代表と小林裕様に感謝す
るものです。
 また、調査の実施に当たりましては、長崎労働局やハローワークの皆様方にご協力を
いただきました。
 長崎文献杜の堀憲昭様にも編集や校正に関してお世話になりました。
本書がこの問題に関わる多くの方々の参考になれば大変に幸せです。



                        平成18年2月 浜 民夫


























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