第1部 現実を直視しましょう
第1章 やればできます
平成15年夏、全国の若者が長崎に集い、
「全国高等学校総合体育大会」が開催され
ました。このインターハイの愛称は「20
03年長崎ゆめ総体」として全国に発信さ
れました。私もメイン会場の「かきどまり
陸上競技場」での開会式に参列して、スポ
ーツにかける子供たちの勝ち負けを超えた
純粋な情熱に久しぶりに心を洗われまし
た。
今、私たち大人は、小学校、中学校、高
校、大学に通う若者たちに何を見ているで
しょうか。
若者たちに夢を与え、若者たちから夢をも
らっているでしょうか。
若者たちの将来を考えてあげているだろ
うか、と開会式が行われたスタンドで、思
うことしきりでした。
「2003年長崎ゆめ総体」は長崎県内の
高校生が一人一役でボランティアとして参
加し、総合開会式をはじめ各競技会場にお
ける運営を行いました。開会式での大会賛
歌「大空へ・・・」の素晴らしい900人の
高校生の大会賛歌演奏、2,100人の高校生
の素晴らしい公開演技、彼らのもつエネル
ギーを受験以外に少しその方向を変えてや
ると、素晴らしいパワーを発揮するな、と
感じたところです。
私たち大人は、どうして若者たちに働く場
を提供できないのでしょうか。長崎県内の
高校、短大、大学を平成17年3月に卒業し
た新規学卒者のうち求職希望者数は高校、
短大、大学を合わせて6,935名です。うち
就職内定者は5,762名となっています。
すなわち1,173名が就職できずに卒業し
ています。
実際のところ、1,173名とは別に就職する
ことや進学することを途中で断念して、卒
業後にフリーターやニートになった学生、
生徒は、相当数いますが、その実態は統計
では把握できません。
一方で平成13年の事業所センサス統計に
よると、長崎県内には76,403の事業所があ
り、うち従業員が10人以上の事業場は
14,168所もあります。一事業所で一人採用
する気構えで臨むと、この問題は簡単に解
決していきます。
若者たちの「やる気の無さ」,「無責任」,
「常識の無さ」を嘆く前に、そのような子
供たちの大量生産に手を貸して来た主犯格
は、私たちであることに気付くべきです。
今となっては、「家庭」、「地域」、「学
校」、「職場」の総ぐるみで若者たちを優
しく育てることが必要だと思っています。
皆さん 私たちで何とかしましょう!
私は、現在、長崎大学に勤務しています。
授業(労働環境論、キャリア概論、インタ
ーンシップ)を通して学生に自立への道を
模索させ、社会人としての覚悟を持たせる
よう心掛けています。元々は、旧労働省に
30年ほど勤務していましたが、ご縁があっ
て、9年ほど前から現職に就いています。
私が大学で若者と向き合ったり、高校での
講演などで分かったことは、彼らは、父母
に慈しみ育てられスクスクと成長し、多少
は受験力に偏ってはいますが知識も豊富
で、素直な青年たちだということです。
私が子ども時代を過ごした昭和20年代とか
高校、大学に通った昭和30年代後半から40
年代前半頃の若者たちに比べても、数段優
れていると思います。いまの若者が唯一、
持っていないものは、貧しい生活体験で
す。腹が減る、食べ物がない、畑からキュ
ウリやニンジンを失敬して空腹を満たす。
隣近所のガキ大将の家来にされたり、殴ら
れたり、怒鳴られたりする。悲しかった
り、くやしかったりの繰返しから得られた
ハングリーな体験です。私たちの世代はど
この家でも、父親が工場から油まみれ汗ま
みれで、汚れた作業服を着て帰ってきて、
家族全員が揃ってから、父親の一声で「イ
タダキます」。この時間にいないと食事に
ありつけない、という体験もしています。
そういえば、庶民の家庭では、風呂が家
に付いているところは少なく、家族である
いは隣近所の子供同士で、銭湯に通ったも
のでした。
消灯時間も早く、蚊帳をつって、その中で
家族全員が9時には寝るということもごく
当たり前のことでした。
最近は、アワやヒエ御飯や麦御飯が健康
食としてもてはやされています。また、ス
イトンも然りで、和食レストランで、スロ
ーフードとか称して一般の定食よりも高い
値段で提供されています。
私の子供時代は、白米が足りなくて、これ
らが代用食として、毎食、食卓を飾り、ま
たか、とウンザリした覚えが残っていま
す。
そうなのです。私たちは小学生、中学生、
高校生のころから若者たちに金を払ってで
も「苦労」を体験させる必要があると思い
ます。
それだけが彼等にないのです。
つまり、自分以外の人間との会話や対応
を、日常生活の中で自ら行い、それぞれみ
な異なる価値観を持ち、100人いれば100人
とも自分とは生き方、考え方において異な
ることを認識することが大切でしょう。
社会との接点を少しずつ開いて行くこと
が、自立のために必要と思います。
妥協、決裂、ウソ、裏切り、怒り、悲し
み、挫折、痛み、喜び、友情など、現実社
会で毎日繰り返されていることを、社会に
出る前に少しでも体験させることは人間力
を育てることに役立つと思います。
高校を卒業して就職の途を選ぶ18歳の子
供たちが、入学時点から卒業したら就職す
る、との自覚を持ち、その後の3年間を勉
強していたなら、素晴らしい社会人として
巣立つと思います。
学校、家庭、ご近所、企業が協力して、彼
等を将来の人材として、大切に育てるなら
ば、必ず成長すると確信します。
やればできます。
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「長崎新聞 平成15年5月29日号」 (注)平成 15年5月に開
催された県総体の入場行進

長崎ゆめ総体総合開会式平成15年7月28日での公開演
技
諫早の伝統芸能「まつりのんのこ」の13校1200名の演技

センター試験初日も終わりほっとする受験生たち

2005凧上げ大会での高校生の素晴らしい演奏

大学での授業風景

大学での授業風景

集団就職者の上京風景(1956年 東京・上野)

晴れやかな卒業証書授与式

巣立ちの頃

巣立ちの頃
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