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Brazil / MPB / Bossa Nova Review 01
since 2006/01/15

Azimuth
Azimuth
1675/BRA 【Som Livre】
90年代のクラブ・シーンで人気が再燃し、今ではジャズ/クロス・オーヴァー、あるいはブラジル音楽のファンを中心に絶大な人気を誇るアジムスが、75年にリリースした伝説の1stアルバムが本作です。ちなみに『Azimuth』という綴りは後に『Azymuth』に改められるので、この1stのみが『Azimuth』でのリリースになります。
やや硬質でファットなドラムスとベースによるバッキング・トラックの上を浮遊するエレピやシンセ。ブラジルならではのざっくりと風通しのよい質感。そして、フューチャリステックとサウダージを同時に感じさせるメロウ・グルーヴ・・・。彼らが生み出す独特なフィーリングとサウンドには、アメリカやヨーロッパのレコードでは得られない味わいがあり、それが現在のポスト・ロック勢に影響を与え、またレア・グルーヴ・シーンを活気付けているのです。
一番人気はやはり、マルシオ・ロッチのヴォーカルが何とも切ない名曲『Linha do Horizonte』ではないでしょうか。個人的には、スネア・ロールに強烈なポルタメントを効かせたシンセが切れ込んでくる、超個性的な『Melo dos Dois Bicudos』にやられました。『Esperando Minha Vez』もいい曲ですし、定番の『Manha』や『Brazil』も最高です。
この度、ボンバ・レコードさんから初の国内盤化が成されましたし、この機会に改めて聴きたおしたいところですよね。 (Nov 2007)
Elis Regina in London
Elis Regina
1969/BRA 【Philips】
史上最も表現力に優れたヴォーカリスト、エリス・レジーナ。ロンドンでレコーディングを行った『In London』は彼女の最高傑作とも言うべき1枚で、DJユースなキラー・チューンを満載していることから、若いリスナーにはとりわけ支持されている作品です。
『Corrida de Jangada』の爽快さ。『Se Voce Pensa』や『O Barquinho』のカッコ良すぎるグルーヴ。『Giro』や『Wave』の軽快なスキャット。『Zazueira』のダブリングされた、エキセントリックなしゃくり上げ。『Watch What Happens』の味わい深さ。『How Insensitive』のドラマチックなストリングス・・・。どのトラックにも特筆すべき聴きどころがあり、そこに差し掛かる度に何度でもKOされてしまうのです。
バッキングを担当するのはエリスに帯同したブラジルのバンドですが、さらにイギリスのオーケストラ46名が加わり、時に優雅に、グルーヴィに、捨て曲一切無しの楽曲群を形にしています。ブラジル・チームの方はアルバム『Como & Porque』(コチラも必聴の名盤!)と同じ顔ぶれなのですが、バッキングの完成度という意味では、個人的には本作の圧勝と感じています。それだけイギリス・チームによるオーケストラが利いているという証拠でしょう。
ただし、そんなあまりに素晴らしいバッキングも、やはりエリスの唄声にはかなわない。わずか2日間(!)で、ほとんどが一発録音にて吹き込まれたという、ライブ感に満ちた『In London』は、まさに彼女の表現力を後世に残す為の、絶妙なシチュエーションだったのです。 (Jan 2006)
Feminina
Joyce
1980/BRA 【EMI】
シンガー・ソングライター、ジョイスが80年にリリースした『Feminina』は、今日の日本におけるブラジリアン・ミュージック観を決定付けた定番中の定番にして、避けては通れない重要な1枚です。優しい陽射しと柔らかな涼風、それに洗いざらしのクロスの様な質感。アコースティック・ギターのナチュラルな響き。儚いサウダージな調べ・・・。90年代以降クラブ・シーンで再評価され(いえ、むしろ“発見された”と言う方がしっくりくるかも知れませんね)、またサバービア周辺で取り上げられたことで、ジョイスのサウンドはカフェや自宅にも急速に浸透していきました。もはやアコースティカルなブラジリアン・グルーヴと言って、このサウンドを頭に浮かべない人は少ないハズです。それだけ時代の先を行っていたとも言えますし、60年代や70年代ではなく、80年にリリースされた作品が90年代初頭の雛形になったことに面白さも感じます。
本作に針を落とすとすぐに踊り出す、(その名の通り)フェミニンで小気味好いタイトル・トラックも最高なのですが、やはりロンドンのDJを虜にした『Aldeia de Ogum』がNo.1でしょう。これを下敷きにしたハウスやクラブ・ジャズのどれだけ多かったことか。オリジナルである本作には、そんな雨後の竹の子たちとは一線を画した気品があります(もちろん、後発にも良いものはありますが)。ギターやパーカッション類が生み出す爽やかなグルーヴの上で気持ち良さそうに唄うフルートやサックス、そして高速スキャットがあまりに素晴らしい!まさに絶品です。
それにしても驚くべきは、彼女のミュージシャン・シップの豊かさですね。ほとんどの楽曲を自ら手掛け、ギターも弾き、ヴォーカルも務め、しかもそのどれもが高いレベルにあるわけです。雰囲気ばかりで中身に乏しい今時のヴォーカリストやDJとの決定的な格の違いを感じます。 (Sep 2010)
Os Catedraticos 73
Eumir Deodato
1973/BRA 【Equipe】
エウミール・デオダートが73年にリリースしたクロス・オーヴァー系ジャズの傑作アルバム。「CTI」作品、具体的にはアルバム『Prelude』と同時期の72年に制作されたのですが、『Prelude』との決定的な違いはブラジル録音であること(ただしホーン・セクションと鍵盤の一部は、『Prelude』セッションの前後にニュー・ヨークでレコーディングされた様です)。このブラジル・セッションが功を奏していて、グルーヴの気持ち良さとか、ざっくりした質感とか、「CTI」作品とは違った魅力を宿していると思います。少なくとも屈指の人気ブラジリアン・ジャズ・ファンク『Skyscrapers』においては、後に『Deodato 2』に収録されるお馴染みのヴァージョンよりも、本作収録の原作(ここでのタイトルは『Arranha Ceu』)の方が僕はずっと好きです。
デオダートの才能には心底憧れております。特にこの時代、彼のアレンジや楽曲は例外なく素晴らしいですよね。収まりの良さ、なんて表現してしまうとこじんまりして聞こえてしまうかも知れませんが、とにかくサウンド・デザインのセンスが良くて、すっきり整理されて耳に届く感じがするワケです。例えラフな部分であっても、その感覚は崩れません。その秘訣が知りたくて、真剣にアレンジを耳で追ったりするんですが、あまりの心地良さに、いつの間にやらただぼんやり浸ってしまっていたり・・・。そういうのも彼が施した音楽のマジックという気がして、ますます感服してしまうのです。
マルコス・ヴァーリらのペンによる作品も含めて、どのトラックもコンポーズ、アレンジ、プレイ全て完璧な出来栄えです。グルーヴィでキャッチーでラウンジィで、とにかく楽しい。例えば落ち着いた楽曲でも、ちょっとキッチュな遊び心があるのがすごくポップですし、メイン・ストリーム/アンダー・グラウンド問わず支持を受けるのも納得できますよね。これからもずっと研究したい、本当に大好きな1枚です。 (Jul 2008)
Brazil Now !
The G/9 Group
1968/BRA 【CBS】
某コンピレーションなどで一部の音源を耳にして以来、本当に欲しかったG/9 Groupのアルバムが待望のリイシューを果たしました。
わくわくしてプレイヤーにかけてみると、冒頭からジャズ・フレイバー溢れるピアノが煌びやかに踊りだし、いきなり“大当たり”を実感!そこからは、涼風の様に駆け抜ける11曲が至福の時間を演出してくれました。捨て曲なし、全曲マストのジャズ・ボサ。休日に部屋でじっくり聴くもよし、ラウンジで流すのもよし。激キュートなフィメール・ヴォーカルものなので、ポップス感覚で楽しむのもアリです。
音色もアレンジも完璧と言えるくらいお洒落で、とにかく全編通してハッピーでスマート。残念なことに、リイシュー盤では人気トラック『Dexia』でドロップアウトがありますが、この超レア・アルバムを再発してくれただけでも充分ですよね。 (Jan 2006)
Entre Nos
Luiz Claudio
1968/BRA 【Musidisc】
60年代中期に録音されたルイス・クラウヂオの作品です。クラウヂオはボサ・ノヴァの創世記を担ったひとりとして知られ、ジョアン・ジルベルトらとも親交が深かった様です。
深みのある大人のジャズ・ボサを堪能できる贅沢な1枚で、甘さと渋みが混在する魅力的な声で呟く様に歌いだすと、まるで夜の情景が広がってくるかのよう。お酒の席でかけたらもう完璧でしょう。ピアノといいサックスといい、ジャズ・フレイバー溢れる作品ですから、ブラジルものが苦手な方も入りやすそうです。元々情報が少ない1枚でしたから、この度のリイシューにおいてもクレジットなどはモアシール・サントスらの名を確認出来るに止まります。先入観なしで本作を味わうには、それもいいのかも知れませんね。
『Razao』の口笛、雰囲気良すぎな『Cidade Do Interior』や『Amelia』、本作の主役である『Coisa No.10』でのスキャットなどなど、聴きどころ満載。ほどよき時間でサラっと終わるテンポ感も実に好みです。ジャズ・ボサ好き必携のアイテムと言えるでしょう。 (Apr 2006)
Manfredo Fest Trio
Manfredo Fest Trio
1965/BRA 【RGE】
後にボサ・リオでも活躍する鍵盤奏者、マンフレッド・フェストによるピアノ・トリオ作品です。
メンバーはマンフレッド(p)、マチアス・マットス(b)、エイトル・グイ(d)。かつてはオルガン中心の作品もリリースしていたマンフレッドですが、ここでは一部の曲を除いてピアノに専念し、その超絶にして華麗なピアノ捌きで僕たちを楽しませてくれています。盲目の彼が紡ぎだすサウンドはイマジネーションに溢れ、ドライヴし、音楽的な視界は極めて良好かつ自由なのです。マチアス&エイトルによるバックアップも安定感抜群で、頼もしいの一言に尽きますね。高いスキルと阿吽の呼吸でマンフレッドを盛り立てています。時は1965年、サンパウロではタンバ・トリオやミルトン・バナナ・トリオといった名だたるピアノ・トリオが熱いジャズ・サンバを繰り広げ、酔客や音楽ファンを歓喜させていました。このマンフレッド・フェスト・トリオもその中で鎬を削っていたワケですから、体幹が鍛えられたのでしょう。加えて、彼らはチーム・ワークの良さにも定評があったそうで、一枚岩の強靭さをも獲得したのです。
日々のライヴ・セットで練り上げられたアレンジをそのまま活かしたグルーヴィな名演がたっぷり詰め込まれたマンフレッドの3rdアルバム『Manfredo Fest Trio』。まずは、本作の旨味を凝縮した様なトラック『Enquanto A Tristeza Nao Vem』をチェックしてみて下さい。きっと惹きこまれることになると思いますよ。 (Aug 2010)
Previsao Do Tempo
Marcos Valle
1973/BRA 【Odeon】
日本で特に人気の高い、マルコス・ヴァーリ10作目のアルバム。個人的に、エリス・レジーナの『Elis Regina In London』と並んでブラジルものの最高傑作と位置づけている作品です。中毒性が高すぎて、とにかく一度聴いたら当分の間は抜け出せません。
初めて聴いた時は、あまりに完璧な楽曲とアレンジ、ミックスに度肝を抜かれました。愛らし過ぎる人をくったメロディ、琴線に触れるコード使い、アジムスの卓越した構成力が光るバッキング・トラック、アープやモーグによる超クールなリードやSE・・・。全てが洗練されていて、可愛くて、そして美しいです。ポスト・ロックを通過した耳には、その原点とも言うべき音像処理もまさに衝撃でした。
イントロやブリッジの展開が魅力的な『Flamengo Ate Morrer』、サビが印象的な『Nem Paleto, Nem Gravata』、ハイラマズの作品と言われても信じそうな『Mais Do Que Valsa』、クラブ受け抜群の『Mentira』などなど、好きな曲を挙げれば枚挙にいとまがありません。
ジャケも大好きですね。夏の定番は、もうコレしかありませんよ! (Jan 2006)
Mario Castro Neves
& Samba S.A.
Mario Castro Neves
& Samba S.A.
1967/BRA 【RCA】
カストロ・ネヴィス兄弟の兄、マリオ率いるピアノ・トリオ+女性ヴォーカルのデュオという編成で唯一残されたアルバム作品。かつては激レア・アイテムとして知られる存在でしたが、リマスターされてめでたく復刻と相成りました。
ジャズ・ボサのマスト・アイテムと謳われるだけあって、抜ける様な青空(大好きなジャケさながら!)にベスト・マッチする爽やかかつグルーヴィな、まさに「欲しかった音」でいっぱいのアルバムです。例えば、スキャット&コーラス好きには堪らない『De Brincadeira』、ピアノ・ソロが素晴らしい『Vem Balancar』、高速リム・ショットが気持ちいい『Morte De Um Deus De Sal』などなど、ジャズ・ボサ/ジャズ・サンバの名作揃い。メロウな作品も良いですが、やはり本作においては躍動感溢れるキラー・チューンが贅沢なほど充実しているところに価値を感じます。
そして何より、ちょっとクセのあるコーラス・ワークで聴き手を楽しませてくれる美人デュオ、タイスとビバが魅力的であること。これが大きいですよね。ヴィジュアル面においても音楽面においても、彼女たちの存在感が本作をぱっと明るいものにしているのです。 (Jan 2006)
Nara
Nara Leao
1964/BRA 【Philips】
ナラ・レオンが22歳の時に録音した1stアルバム。
エレンコのモノクロ・ジャケが気に入って購入した日のこと、よく覚えています。ナラと言えば、“ボサ・ノヴァのミューズ”。このあまりに有名な異名をイメージして初めて聴いてみた彼女のレコード、その第一印象は「少し暗くて重い」といった感じでした。まぁ今にして思えば稚拙な感想なんですが、後に彼女のナショナリズムへの傾倒などを知るにつれ、ある意味、多少なりとも重いと感じた当時の直感をバカにもできないなんて思えてきます。脱ボサ・ノヴァを必死に図る当時の彼女の意思が、盤面にしかと刻み込まれた証拠であり、また、平凡で明るいボサであってはならない使命を持っていたとも言えるワケですから。この内なる情熱を、若気の至りと見る向きも多い様ですが(後のナラ当人も含めてです)、表現者として明確なプランがあることは素晴らしいと思います。
カルロス・リラやバーデン・パウエルといったキーマン達の作品を、丁寧に紡いでいくナラの落ち着いた歌声が胸に響きます。声だけでなく、その存在感とか佇まい、顔立ちに至るまで、理由はわかりませんが心惹かれてやみません。例えばエリスに感じる魅力とは、まったく異質のものなんですが・・・。余談ですが、エリスとナラは相当に仲が悪かったそうですね。どちらも気が強そうですし、わかる気もします。 (Mar 2007)
Os Ipanemas
Os Ipanemas
1964/BRA 【CBS】
オス・イパネマスがオリジナル・メンバーで残した唯一の作品。イパネマスと言えば、近年の再評価にも後押しされてか、ウィルソンとネコの2人で新作をリリース(実に37年ぶり!)して話題になりました。
本作最大の魅力は、涼しげなテンションで演奏されるざっくりした手触りのジャズ・サンバを堪能出来ることでしょう。女っ気のないコーラス・ワークやアフロ・グルーヴには内に秘めた熱さがありながら、あくまでクールに決めている様がカッコ良すぎです。
5人の名手が集まっているだけに、アレンジとアンサンブルの良さも保証付きですよ。『Garota De Ipanema』や『Nana』の様な超定番でも、彼らにかかれば新鮮に響きます。特にアフロなアレンジが光る後者は名作!忘れちゃいけないビリンバウ(民族楽器の名前です)は、僕も大好きな『Jangal』や『Berimbau』で個性を発揮しています。
そして何よりジャケがお洒落すぎですよね。色味まで含めて一発で気に入りました。 (Jan 2006)
... E Deixa O Relogio Andar
Osmar Milito
1971/BRA 【Som Livre】
世界中のブラジル/ソフトロック・ファンが思わず「おぉ!」と感嘆の声を上げるCD復刻がここに実現しました。アナログ盤が高騰しまくりだったオズマール・ミリートのファースト・アルバムです。本作をブラジルものの最高傑作に挙げる人もいるとか。それも納得、とにかく全編に渡って最高に気持ちのよい涼風が吹いているかの様な作品です。ブラジル系の復刻レコードについては現在高いレベルで安定して供給されているだけに、良い作品にちょっと慣れてしまったきらいもありますが(贅沢な時代です!)、そんな日和った僕らに再び新鮮な衝撃をこの上なく爽やかに与えてくれる、そんな逸品なのです。
まず参加ミュージシャンがすごい。ヴォーカル、コーラスにクァルテート・フォルマ。管弦のアレンジではルイス・エサ。そして嬉し過ぎなのが自らの楽曲でローズを弾いているマルコス・ヴァーリ。収録作品のレパートリーも豊富そのもので、オズマール、ヴァーリ、ジョビン、ジョルジ・ベンらブラジル勢に加えて、何とハービー・ハンコックまでを幅広くチョイス。しかも、全ての素材を最高のブラジリアン・ソフトロックに仕上げています。ポップでジャジィでグルーヴィなトラック目白押しで、個人的に最も好きなレコードのひとつであるヴァーリの『Previsao Do Tempo』とも相通じる質感も魅力です。
インストもいいのですが、絶対に聴いて欲しいのはクァルテート・フォルマがキュートな歌声を重ねる『Rita Jeep』。ドラムの音も最高ですよ! (Jul 2006)
Rio
Paul Winter
1964/US 【Columbia】
アルト・サキソフォニスト、ポール・ウィンター。彼のボサ系作品は特にニーズが高く、本作『Rio』も、そのジャケの良さもあって人気の1枚となっております。
『Rio』が今日の人気を得るのに一役買ったのは小西康曜さんでした。93年頃、当時ピチカート・ファイヴだった小西さん監修のもとでCD復刻が果たされ、より多くのファンへと認知されたわけです(僕が所有しているのも93年盤です。ひょっとしたら現行品の方が音はいいかも知れませんね)。後にレディメイド/サバービア系のファン必携のクラシックとなった礎は、この時に築かれたのだと思います。
ジャズ・プレイヤーであったポールが、ルイス・ボンファ、ロベルト・メネスカル、ルイス・エサといった、今の価値観で考えたらとんでもなくゴージャスなブラジル勢との競演を果たしている本作。レパートリーも彼らやジョビンの作品がラインアップされ、『Vagamente』、『Inutil Paisagem』、『Rio』、『Adriana』といった名作ばかり。その美しい調べを、ポールの温かみのあるブロウがなぞっていくと、たおやかでクールな空間が生まれるのです。シンプルで優しい、誰からも愛されるであろう素敵なアルバムです。 (Mar 2008)
Vol.1
Sambalanco Trio
1964/BRA 【Som Maior】
エリス・レジーナの旦那さんでもあったピアニスト、セーザル・カマルゴ・マリアーノと、後のウェザー・リポートでの活躍で人気を博すアイアート・モレイラが若い頃に在籍していたことで知られるサンバランソ・トリオ。その1作目にして最高傑作の呼び名も高いジャズ・サンバのクラシック。特にセーザルの奏でるピアノが僕は大好きです。
60年代、ブラジルのナイト・クラブにて夜な夜な繰り広げられた数々のピアノ・トリオによるライヴ。その1場面を、現場に渦巻く情熱と衝動ごと切り出しかの様な本作は、それでいて、この上なくクールにソフィスティケイトされて記録されました。
例えば、定番である『Berimbau』や『Consolacao』は誰のヴァージョンが最良か、なんて議論は絶えないところです。ただし、ことセーザルの代表作『Samblues』に限って言えば、おそらく本作収録のトラックがNo.1であることに異論を唱える人は少ないでしょう。それほど、ここでのテイクは理知的で芳醇な名演なワケです。スキャット・ワークが素晴らしい『Sambinha』も、傑作と呼ばれるアルバムにはもってこいのエンディングだと思います。 (Dec 2006)
Spiced With Brazil
Sonia Rosa with Yuji Ohno
1974/JPN 【Sony】
ウワサの激レア・アイテムが2001年、遂に復刻されました。復刻と言っても、もともとはソニー製のオーディオ・セットを購入した人だけにプレゼントされたオーディオ・チェック用のレコードだった経緯を考えると、市販されたコト自体が初めてだったワケで、いわゆる再発とは意味が違います。このリイシューを手掛けたのはBrisa Brasileiraで、いつもジャケは大人しくなっちゃいますが、良質な作品を低価格で流通してくれるので本当に嬉しいですよね。
・・・といった有名な経緯はさておき、一聴して、とにかく高品位な作品であることに驚かされました。ソニア・ローザの悪戯心と躍動感に溢れた超キュートな歌声が跳ね回る、『Garota De Ipanema』のグルーヴィなヴァージョンで幕を開け、アダルトなボサではエレガントに歌い上げる。最後まで彼女の魅力がギッシリと詰まっています。ちょっと例えに相応しくないかも知れませんが、彼女の歌声にはシュガーキューブスで衝撃を与えてくれたビョークばりの、他とは一線を画した魔力みたいなものが潜んでいる様です。また、大野雄二が素晴らしい仕事をしています。トータル・プロデュースも手掛けた彼が集めたジャズの手練たちが、ボサとジャズをクールに行き来する見事な演奏を聴かせてくれていて、ソニアとの強力なコンビネーションを成り立たせているのです。大野氏と言えば、僕らの世代(だけに限った話ではありませんが)にとっては憧れである『ルパン三世』の世界観を音楽で表現していた、まさに「ジャズの入り口」としてあまりにも大きな影響を与えてくれた人。本作は「大野雄二=ルパン三世」の図式が成り立つ以前の作品ではありますが、聴けば「あ、ルパン!」と連想させられるアレンジが次々登場し、もう贅沢この上ありません。
サウンド・チェック用だっただけに音が高品質に録れているのはもちろん、楽曲もジョビンやエドゥ・ロボ、ジェームス・タイラーらの名曲を取り上げており、安心のクオリティ。類まれなソニアのヴォーカルと、大野雄二のゴージャスなアレンジを9曲に渡って楽しめることも踏まえれば、極めて価値の高い1枚と断言できるでしょう。 (Sep 2007)
Pais Tropical
Tamba 4
1970/BRA 【Orfeon】
ブラジルのみで流通していたタンバ4の「Orfeon」音源が、ついにリイシューされました。ピアノのルイス・エサがラエルシオ・ヂ・フレイタスに代わり、70年にレコーディングされたものだそうです。
後のブルー・タンバの様な洗練の極みはありませんが、ハッピーな雰囲気を楽しむにはコチラが最適でしょう。『Zazueira』や『Se voce pensa』といった定番&キラーな逸品や、イントロが愛らしい『Pais tropical』などポップでグルーヴィな歌モノも最高ですし、独自のグルーヴが気持ちいい『Lenga-Lenga』や、フルートが美しい『Pensando』といったインストもまた素晴らしい出来です。
全体としてクラブ映えするトラックを多数抱えており、まさに今日のリスナーにベスト・マッチなジャズ・ボサ/ジャズ・サンバと言えそうです。 (Jan 2006)
Tenorio Jr.
Tenorio Jr.
1964/BRA 【RGE】
ピアニスト、テノーリオ・ジュニオール唯一のリーダー作は、ジャザノヴァのメンバーもベスト・アルバムに挙げたと言われる、ジャズ・サンバのマスター・ピースです。
レコード屋さんでたまたま耳に飛び込んで来て即・購入。以来、僕もすっかり虜になってしまいました。何より軽妙で涼しげなピアノが最高ですし、トロンボーンも聴きどころ満載。ミルトン・バナナのドラムも、例えば彼のリーダー作品でのそれよりずっと好きです。
更に素晴らしいのが、文句のつけようがない楽曲の数々です。実に半分がテノーリオのオリジナル。ソング・ライティングの才能もトップ・レベルであったことがわかりますね。カバーの選曲も絶妙で、『Fim De Semana Em Eldorado』などは卒倒モノのカッコよさ!
捨て曲ゼロ、ポップでラウンジィ(という言い方は語弊があるかも知れませんが)な11曲が、贅肉なしで矢継ぎ早に展開していく至福の時をぜひ味わってみて下さい。 (Jan 2006)
Vagamente
Wanda Sa
1964/BRA 【RGE】
後にセルジオ・メンデス作品に参加したことで有名になるシンガー、ワンダ・サーのデビュー・アルバム。定番として広く愛される(普段ポップスとかを聴いている人にとっても、最初に好きになるであろうボサ・ノヴァ・アルバムの大本命ではないでしょうか?)一方で、コアなリスナーにも高い支持を受け続ける1枚でもあります。
まず目を引くのが、その美しいジャケット・デザインです。フレームとして切り取られたのは、白い砂浜と青い海、その上に大きく広がるグラデーション掛かった空。ギターを引きずりながら横断していくワンダの、鮮やかな色目のワンピースとのコントラストが見事です。
ジャケ写だけでなく、歌声もカワイ過ぎなところがワンダの魅力ですね。ノン・ヴィブラートでまっすぐ伸びる、落ち着きと少女性とが不思議に入り混じった彼女の歌声は、力みも気負いもなく、どこか不安定。ボサとの相性で言えば、これ以上ないハマリ具合です。同じく拙さを感じさせ、故にボサの代表的な人気シンガーに数えられるアストラッド・ジルベルトと比べても、さらにガーリィ度が高いのがワンダだと思います。
そして何より忘れてはならないのが、ワンダの愛らしいヴォーカルを支えるバッキング陣の充実っぷり!プロデュースを手掛けるロベルト・メネスカル(g)始め、テノーリオ・ジュニオール(p)、エウミール・デオダート(cond/org)といった、個人的に最も好きな面子が勢揃いしているものですから、これはもう嫌いになれるハズもありません。完成度の高い、ジャジィなアレンジが多いのも嬉しいですね。特にオススメなのが、マルコス・ヴァーリ(これまた、ブラジルもので一番好きなヴォーカリスト/作曲家です)の名曲『E Vem O Sol』。マルコスの極上メロディを引き立てる、メネスカルやドン・ウン・ロマン(d)、ルイス・カルロス・ヴィーニャス(p)らによるトラックが本当に素晴らしいです。とりわけヴィーニャスのピアノ・プレイは絶品ですから、ぜひお聴き逃しなく。 (Nov 2009)

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