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Merry X'mas
& Happy New Year
Fantastic Explosion
1997/JPN 【Transonic】
永田一直、スズキスキーらによる、「トランソニック」レーベルを代表するユニットの1997年度作品です。
「70年代のTV-CMをサンプリングしているらしい」という情報に飛びついた僕にとっては、モロにCMそのものをインタールードとして収録している本作『Merry X'mas & Happy New Year(ファンタスティック・エクスプロージョンのゆく年くる年)』が彼らの作品でもベストな1枚。もちろん、本格派ドラムンベースのトラックもクオリティが高くて大好きなんですが、つい70年代の質感を楽しむのを優先してしまうのです。ですから『ゆく年』、『白銀節』、『くる年』といった小作品が特にお気に入りです。他にも、『幸福駅』なんかが琴線に触れてきますね。僕は70年代生まれで、テレビっ子でしたので、この辺のノリには本当に「やられた!」って感じです。
アート・ワークに常葉響さんを起用するなど、いちいちセンスいいですよね。1stも含めて、デザイン関係にも唸りました。 (Jan 2006)
For Lost Friends
Jenna G
2006/UK 【Bingo Beats】
DJ ZINC主宰によるインディ・レーベル「Bingo Beats」からリリースされた、女性ヴォーカリスト・ジェナGのファースト・アルバムです。実は彼女、クラブ・アンセムともなった『Midnight』のヒットで知られるアン・カットの元メンバーで、特にイギリスのコアで熱いリスナーの間では、キャリアのごく初期から高く評価されてきた様です。アン・カット空中分解の後は、ドラムンベースの名手たちのフィーチャリングを受けながらその存在感を強固なものにし、遂にソロ名義での傑作アルバムを完成させるに至ったのです。
高いスキルに裏打ちされた、ソウルフルでエモーショナルな彼女の歌声はまさに主役の風格漂うものです。全然ジャンルの違う話で恐縮ですが、例えば、同じく「ソウルフルで上手い」と評価されがちな元ラブ・タンバリンズのエリとかのヴォーカルは、トラックとの一体感があまりに希薄で、独りよがりにしか聴こえないのに対して、ジェナの場合はヴォーカルがしっかり立っている上に、トラックとの兼ね合いも自然で完璧!本当の上手さってこういう事なんだろうなと感じます。もちろん良いプロダクションありきの話ですが、やはり資質の問題は大きいですよね。
プロデューサー陣も一線級揃い。ですからトラックの出来栄えも素晴らしく、歌ものでクラブ栄えする贅沢な作品がズラリと並んでいます。特にShy FX&T-Powerによる『For My Lost Friends』やKabukiの『Pleasure Ride』あたりが好きです。
ここに来て、ごく原始的な衝動を何のてらいも無くアウトプットするドラムンベース作品がまた増えてきた気がしませんか。本作もドラムンベース一色で勝負している純粋かつ潔いアルバム。こういう作品が、再びシーンを活気付ける日も近いのかも知れません。
まぁ理屈は抜きにしても、ジャケ買い間違いなしなんですけどね。 (Jul 2006)
Public Warning
Lady Sovereign
2006/UK 【Def Jam】
SOVことレディ・ソヴァリンのUSデビュー・アルバムです。
ロンドンのゲットー育ち、地元でスキルを磨いてきたというリアルで等身大(と言っても、彼女は153cmの小柄なんですが)、それでいて華のあるフィメール・ラッパーの登場ということで、グライム・シーンを中心にじわじわと話題に。そして「デフ・ジャム」からの全米デビュー(ジェイZ自らがロンドンに出向いて獲得したというエピソードはあまりに有名ですね)という幸運な出来事を経て、世界的にその名声を轟かせたレディ・ソヴァリン。その1stアルバムということで、非常に注目された1枚です。とは言え、コアなファンは別にデフ・ジャム云々という部分には大した興味はなかったハズで、妙にアメリカナイズされた作品を期待していたワケでもなかったと思います。その意味でも、これまでと変わらず相棒のメダシンをトラック・メイカーに据え、地に足の着いた作品に仕上げたことは、SOVとしてのキャリアを自ら肯定する、非常に意義深いことだったと思います。ファンも一安心といったところでしょうか。
内容はもう、文句なし。ダークな色味が目立つグライムにあって、カラフルでキャッチーなトラックが次々と現れる作風は異彩を放っています。しかもトリッキーでアイディアに溢れたものばかりなので、アルバム通して聴いてもまったく飽きることがありません。しかもSOVのMCも、これまた超カラフル!向こうっ気の強いリリックを叩きつけているのですが、20歳そこそこの女の子の感性から生まれるポップさは最強の武器だと思いました。 (Jul 2009)
Reality Checkpoint
Logistics
2008/UK 【Hospital】
マット・グレハムによるソロ・プロジェクト、ロジスティクスの2ndアルバム。2006年に名門「ホスピタル」からリリースされた1stフル・レングスが人気を博した実績もあり、待望のリリースとなりました。
・・・などと書きながら、実は個人的に前作は未聴でして、たまたま購入した本作をもって初めて腰を据えてロジスティクスに対峙したワケです。なるほど、ウワサに違わぬ完成度の高いビートを軸にして、“アルバム1枚持たせるのが難しい”と言われるドラムンベースにあっても説得力に満ちた作品に仕上げていますね。スムースでクールな、ソフィスティケートされたトラックばかり。さすがです。
しかしそのスムースさが災いして、大きな山場が少なくなってしまっているのは皮肉な話です。では本作が退屈なアルバムなのかと言えば、決してそんなことはありません。そもそもマットは多彩なジャンルの音楽が好きだそうで、ここでも意欲的にダブステップの要素を取り入れたりしながら、ほどよいフックを作っているのです。そのバランス感覚や、時代の空気を読む嗅覚の鋭さこそがマットの武器なのかもしれませんね。
僕が気に入っているのは『No Words』と、続く『Slow Motion』です。前者はスタートからテンションが上がるトラックなのに、能天気さは一切ナシ。そして後者は90年代・・・すなわちドラムンベースが一番アツかった時代の空気をどこか感じさせる、本アルバムのハイライト的なトラックです。ちなみに国内盤では曲順がシャッフルされているので、この流れは輸入盤に限ったものです。 (Mar 2010)
Journey Inwards
LTJ Bukem
2000/UK 【Good Looking】
「Good Looking」の顔であり、ドラムンベースの良心でもあるLTJブケム。その1stアルバムです。
僕がブケムのファンになったのは90年代中頃でしたから、2000年に初のソロ・アルバムと言うのは、正直、待たされ過ぎた感が否めませんでした。アートコア(でしたっけ?)なる言葉も一段落していましたし、もう1タイミング早く仕掛けた方がブケムにとっても得が多かったのでは?などと下世話な事も考えてしまいます。とは言え、そもそも時代に流されないタイムレスな作風を既に自分のものにしていた彼ですから、世の喧騒とは関係なく、マイペースに傑作をリリースしたということなのでしょうね。
CD2枚組の大作となったこの『Journey Inwards』は、70年代ジャズ/フュージョン/ソウルへの愛情を根幹に据えた、スペーシーかつメロウな仕上がりになっています。唄やファンク・ギター、弦など生音系をフィーチャーしているところがブケムらしいですね。
ここに聴くことができる、知的かつスピリチュアルなサウンドは本当に素晴らしいと思います。ただし、昼間に聴くと魅力半減な気がするので、ぜひ夜に聴くことをオススメします。 (Jan 2006)
Fabriclive 46
LTJ Bukem
2009/UK 【Fabric】
ロンドンの著名なクラブ「Fabric」が精力的にリリースし続けているミックスCD企画、『Fabric』と『Fabriclive』。レーベルの垣根を越えて旬のDJや大物DJが名を連ねる人気シリーズだけに、個人的にも注目しているタイトルのひとつです。ハウスやテクノを中心とした『Fabric』シリーズではクリックの雄、リカルド・ヴィラロボスや、ダブ・ステップの有望株、マーティンの作品が気に入っていますが(どちらもそのうち取り上げたいと思います)、ここで紹介するのは『Fabriclive』のシリーズ第46弾となるLTJブケム篇です。『Fabriclive』は毎週金曜日に開かれる、ドラムンベースやヒップホップなどにもターゲットを拡げたイベント。その熱気ごとコンパイルしたミックスCDシリーズに、ついにドラムンベースのレジェンドが登場したわけですね。
別項でも触れております通り、ブケムはかつて僕の憧れの存在でもありました。自身のレーベル「グッド・ルッキング」も近年リスタートしたそうですし、いよいよ彼が本格的にシーンの中心に戻ってきたのだとすれば、こんなに嬉しいことはありません。とは言え、しばらく彼の動向を追うことをサボっていた身からすると、多少の不安もあったことを白状いたします。つまり、彼のセンスが90年代当時の輝きを失っていたらどうしようという思いがアタマを過ぎったのです。
しかしいざ再生してみれば、そんなややこしい思いなど吹っ飛んでしまいました。彼の審美眼は当時から一切ブレることがなかった様で、スペーシーでクールでジャジィな“あの音”がノンストップで流れ出したのです。ドラムンベースに対するブケムの情熱は、一過性のスタイル云々で左右される様な陳腐なものではなかったのですね。まさに貫禄のミックス。性急なビートが何とも実用的で、日常の様々なシーンで本作を活用しています。
新しい刺激こそ見出せないかも知れませんが、その強靭な体幹に改めて感激すること請け合いの1枚。ジャケットも大好きです。 (Sep 2010)
Arular
M.I.A.
2005/UK 【XL Recordings】
ワイリーやディジー・ラスカルらを擁する「XL」が放つ超新星、M.I.A.ことマヤ・アルプラガサムの1stアルバムです。
はっきり言ってこれは凄い!グライム、ダンスホール、エレクトロのどれとも合致しないウソみたいなビートに、ラップとも唄ともつかない、これまた超個性的なヴォーカルが乗っかる唯一無二のストリート・ミュージック。これが何ともクセになるサウンドで、中毒者が続出したのも納得できます。
秀作揃いの『Arular』にあって白眉と言えそうなのは、やはりシングル『Bucky Done Gun』になるでしょうか。「何ソレ!?」っていう妙なリズム感(当時はバイレ・ファンキの存在もそれほど認知されていない状況でした)、リリックの繰り出し方、それらが実に気持ち良いんです。他にも、民族楽器を印象的に活かした『Amazon』、すわアホマイルド登場か!?という『Sunshowers』、エスニックなマヤ嬢が魅力的過ぎる『Hombre』などなど、オススメしたいトラック目白押しです。
ルックスも抜群の彼女ですが、なんとジャケなどの個性的なアート・ワークまで本人がこなしたそうです。まさに才女ですね。
スリランカの少数民族出身で、難民として英国に渡ったというタフさが、彼女の声を、表現を、ますますタフにしているのでしょう。次作も注目ですね。こなれたサウンドになんて絶対に落ち着かないで欲しいです。 (Jan 2006)
The Sound of Music
Nookie
1995/UK 【Reinforced】
レイヴ・シーンを大いに揺らしたヌーキーの傑作クラシック。
黎明期を経て、ドラムンベースがいよいよその全貌を世界的に知らしめようかというタイミングで、最も印象的な作品を送り出してきたのが4ヒーローと、このヌーキーでした。知名度では4ヒーローらに一歩譲るものの、時にハードに、時に知的に展開する音楽的レベルの高いヌーキーこそ僕のツボを捉えて離さない存在でした。
いかにもジャングリストらしいセレクトとなったピアノ、スネア、ハイ・ピッチのヴォーカルが印象的なタイトル・トラックは、高速4つ打ちに導かれる、ハード・ハウス仕込みの超キラー・チューン。ダビーなベースがうねる文句なしの代表作です。また、『Only You』はガラージ・ハウスのファンも一気に手繰り寄せる程のディープさを誇る名曲。こちらも必聴です。
彼の実力は、あのラリー・ハードやLTJブケムらも認めるところで、やはりモノが違うといった感じですよね。 (Apr 2006)
Treddin' on Thin Ice
Wiley
2004/UK 【XL Recordings】
2004年度のUKストリート・ミュージック・シーンを代表する存在と言えば、ディジー・ラスカルであり、またロール・ディープ・クルーの同胞・ワイリーであったことは、誰も否定のしようがないと思います。
彼の1stアルバム『Treddin' On Thin Ice』は、“打ち込みのトラック+高速ラップ”という、グライムの雛形とも言えるスタイルで形成されてはいますが、ビートとラップの切れ味で他と一線を画しています。また、UKガラージをベースにしながら、アメリカのヒップホップのエッセンスを微妙にミックスするセンスもさすがです。
とにかく、現在最も勢いがあるシーンを背負っていることは間違いありません。下品でヤバくてカッコイイ『Pick U R Self up』は特に注目です。 (Jan 2006)
LTJ Bukem Presents
Earth Volume Two
V.A.
1997/UK 【Good Looking】
「Good Looking」のLTJブケム監修による名コンピレーション、その2作目です。
本作の聴きどころは、文句なしにLTJブケムの『Cosmic Interlude』。ブケムの最高傑作であるばかりでなく、全ての音楽ファンに響くであろう永遠のクラシックです。エレピとベースが作り出す、まさに"コズミック"という言葉が似合うクールでスペーシーな空間に、あの知的な眼差しの奥に秘めたエモーショナルな一面が具現化したようなドラムが切れ込みます。かつて奇跡的なまでにその品位を高めていたスピリチュアル・ジャズの遺伝子を、ドラムンベースのアプローチで90年代に見事蘇らせたブケム。尊敬に値する人です。また、ブケムの作品以外にも、70年代のスピリチュアル・ジャズに想いを寄せるスペーシーなトラックが並んでいます。
たしかにこの1枚はすでに「旬」ではありませんが、決して当時を懐かしむ為のアイテムに成り下がったりはしていません。それはきっと、崇高な意思を持って宇宙をまっすぐに見つめていた男たちの濁りのないスピリットがきちんと収められているからでしょう。志が高かったからこそ、今なお響くものがあるのですね。 (Jan 2008)
Liquid V Club Sessions Vol.1
V.A.(Mixed by Bryan G)
2005/UK 【Liquid V】
『V Recordings』傘下にトップDJ・ブライアンGが立ち上げたレーベル、「Liquid V」。その音源を、ボスであるブライアン自らがミックスした1枚がコレです。
門外漢の僕ですら、じわじわとドラムンベースが勢いを取り戻しつつあることを実感していた数年前、いいミックスCDがあると薦められたのが本作でした。後に入手して納得、アップリフティングかつ、どこか叙情的なトラックがズラリと並んだ傑作だったワケです。しかも、面子に有名どころが多く、例えばDJ Marky&XRS、TC1 And Stress Level、T Power、あるいは丁度チェックしたいと渇望していたJenna Gがフィーチャリングされていたことも僕の中でポイントでした。それらを料理するブライアンGは同業者たちも認めるDJですし、煽りを入れる2シャイのMCも素晴らしくて、買いの1枚だと実感できました。
先日、ドラムンベースに詳しい有名なDJの方に聞いたら、やはり90年代中盤の勢いを超える作品に近年出会えないと嘆いてました。そんな状況を打開すべく、「Liquid V」みたいな新進気鋭のレーベルが、ドラムンベース復権をメインストリームに印象付けていくべきだと思いました。 (Feb 2007)


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