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Talkie Walkie
Air
2004/FRA 【Astralwerks】
2004年、フランスのデュオ、エールがエレクトロニカ/ダウン・テンポの傑作『Talkie Walkie』をリリースしました。
本作では繊細な音響処理が施され、それがメランコリックな浮遊感とフューチャリスティックな立体感を生み出し、純粋なエレクトロニカ・ファンをも魅了。また、シンセ中心のトラックに有機的な生楽器を程よく溶け込ませたアレンジが、儚くも美しく楽曲を演出しています。
唄やシンセ・リードのメロディは実にポップな仕上がりです。これは個人的にとても嬉しく感じました。何故なら、やはりキャッチーさも兼ね揃えているところがエールの持ち味ですし、難解な作風に終始するよりもむしろ醒めた音場が際立ち、結果としてアート性が高まっていると思えるからです。しかもこのポップさは度の過ぎたコマーシャリズムなどとは一線を画した良質なものですから、全編通して聴かせる中毒性をも勝ち取っています。
キュートで切ないエレ・ポップ『Surfing On A Rocket』や『Cherry Blossom Girl』は多くの人々に受け入れられると思います。また、コッポラ映画で話題となった『Alone In Kyoto』も収録しています。 (Jan 2006)
More Happyness
Aluminum Group
2003/US 【Wishing Tree】
フランク&ジョンのネヴィン兄弟によるアルミナム・グループ。どうやら『Happyness』シリーズを3部作でリリースしていく構想の様で、前作『Happyness』に続く、2作目ということになります。
トータスやシー・アンド・ケイク(サムはヴォーカルも披露)を中心とした相変わらず魅力的な顔ぶれがゲスト参加していて、それが故にアレンジやプロダクション・ワークに幅があるのですが、ジョン・マッケンタイアが扱うことで統一感が生まれ、全曲通してイメージのバラつきはありません。いかにも彼の仕事らしくヴォーカル、シンセ、ドラムの音は特にカッコイイですし、英国や日本ではマネできない期待通りの“あの”質感を楽しめます。
余談ですが、ショコラのサイトで、ジョン・ネヴィンとショコラの2ショットが掲載されていたことがあります。本当に素敵なナイス・ガイみたいですね。それを書いていたショコラ共々ますます好きになってしまいました。ゲイの方は優しい才人が多いですよね。 (Jan 2006)
Draft 7.30
Autechre
2003/UK 【Warp】
今や「ワープ」レーベルの顔ともなったオウテカ。インテリジェンス・テクノ時代の没個性なイメージが強くて敬遠してきたんですが、『confield』から続く一連の作品群には強く惹かれるものがあります。本作『Draft 7.30』も然りです。
抽象的な空間に終始し、音像の演出に多くの比重が置かれています。恐らくアンテナに引っかかった音色やノイズを羅列するところから作品作りがスタートしているのではと想像します。もちろん規則的なループやリズムも存在してはいるのですが、全体的に受ける印象としては、アヴァンギャルドでフリーキーなノイズ・ミュージックといったところです。
ラップトップ・ミュージックの最新形として、またひとつのアートとして、むしろスタイルだけの現代パンクより雄弁です。ただし、オリジネイターのオウテカにのみ許される作風であって、奇をてらっただけのフォロワーは勘弁頂きたいものですが・・・。
例えばイメージの枯渇に悩むCGアーティストの方、必聴です。 (Jan 2006)
Unknown Territory
Bomb the Bass
1991/UK 【Rhythm King】
当時、ワールド・ワイドに活躍する2人のアジア人DJの台頭が話題となっていました。テイ・トウワとティム・シムノンです。そのティムのユニットで、UKクラブ・カルチャーを象徴する存在であったボム・ザ・ベースの2ndアルバムが、この『Unknown Territory』です。
とにかく当時ではブッチ切りの完成度を誇っていました。「勢いがあった1stの方が名作」という風潮もありましたが、個人的にはアイディアの質と量で1stを凌駕した2ndが大好きでした。
白眉は『Winter in July』の7インチ・ミックスと、『The Air You Breathe』です。前者は、あらゆるシンセの音色が感動的で、ヴォーカルの素晴らしさとも相まって感涙必至の超スピリチュアル・チューンです。後者は、映画『ブレード・ランナー』からのサンプリングが象徴的な、壮大でドラマチックなグラウンド・ビート。『Winter in July』同様、唄が良すぎです。
あれから時間は経ち、今ではあまり語られることのなくなった作品ですが、廃盤が惜しいくらいの傑作です。先述の2曲の為だけにセコハン店で購入するのもいいと思いますよ。 (Jan 2006)
Haha Sound
Broadcast
2003/UK 【Warp】
「ワープ」所属の“バンド”として知られるブロードキャストの2ndアルバムです。
いい加減本人たちは比べられ飽きたでしょうが、ステレオ・ラブとマイ・ブラッディ・ヴァレンタインからの影響はやはり色濃いという印象です。さらに「マーキュリー・レヴばりのドリーミー・サイケ」とか、「ポーティス・ヘッド辺りに通ずる映像的な音響処理」、あるいは「ニコの面影(ヴォーカリスト・トリッシュが彼女のファンらしいですね。ただしトリッシュの方がややハイトーンで女の子っぽいですけれど)」などなど、ブロードキャストの音を説明するに当たっては引用先に困ることはなさそうです。しかし、その全てを嫌味なく音に投影している様は、決して二番煎じなどという安っぽさとは無縁です。しかも、まるでA&Mポップスの様なメロディとアレンジ(音色はまったくもってワープ流ですが)は、本家とも言えるステレオ・ラブの上を行くものです。また、もともと影を帯びたサウンドが特徴の彼らですが、メンバーの脱退などを経て、突き抜けたキャッチーさを新たに手に入れている点も逞しくて好感が持てます。
本作の大きな特徴として、ジャズ・ドラマーの客演による“生ドラムス”を大胆に採用していることが挙げられます。『Man Is Not A Bird』などに顕著なこのサウンドはかなりクセになります。他にもヨーロッパの香りが静かな高揚を煽る『Color Me IN』。60'sポップスを現代に蘇らせる『Before We Begin』。リズムとフィードバック音がトリップ感に溢れた『Hawk』。琴線に触れるサウンド・スケープが美しいメロディを包む『Lunch Hour Pops』など、例外なく名曲ばかりです。実験的サウンドを武器にしたバンドでこの作曲能力・・・。まさに死角なしですね。 (Mar 2006)
Haunt
Cosiner & Capital
2005/US 【Beautiful Angry】
トラック・メイカーであるコサイナーが、ギタリスト・キャピタルを迎えてリリースした2ndアルバムです。
ジャジィでユルい感じが気に入っていて、時折引っ張り出しては聴いている作品なんですが、実は彼らのことはよく知らなかったのです。ですから、コサイナーがアメリカ在住の日系人だと最近知ってビックリしたところです。しかもキャピタルは、あのShing02との作品で知られるテラコッタ・トゥループのギタリストで、親日家だとか・・・。急に親近感(?)が湧いた瞬間でした。
内容はというと、ヒップホップとジャズをベースにした温かみのあるインストゥルメンタル。コサイナーによる丁寧でメロディアスなトラックに、有機的なエレクトリック・ギターのクリーン・トーンがフィーチャーされているスタイルが基本で、安直に例を挙げるなら、ナチュラル・カラミティやUMA UMA、あるいはトミー・ゲレロが好きな方ならばストライクでしょう。むしろ狭義にヒップホップを捉える向きには敬遠されてしまうかも知れませんね。
穏やかでチル・アウトな作品である一方で、妙に不安感を掻き立てる響きが多用されていて、サラリとは聴き流させない一面もあります。『Time Lapse In This City』での変拍子や、『Pearl』で強烈な印象を残すスネアの音色もまた同様で、単なるBGMには成り下がらないフックが配されているのがポイントです。 (Nov 2006)
D_Rradio
D_Rradio
2008/UK 【Distraction】
英国の3人組・DRレディオ(デス・ロウ・レディオ)、待望の2ndアルバムです。
簡単に言ってしまえば、要所で生音サンプルを取り入れたエレクトロニカ作品なのですが、その完成度がハンパなく高いことに衝撃を受けました。とりわけ上モノの充実は他の追随を許さない、豊潤で音楽的なそれに仕上がっています。かなりスキルが高いのだと推察できます。さらに特筆すべきなのが、シンセやサンプルの音色選びにおけるセンスの良さ!大袈裟かも知れませんが、本当にたったの1音も疎かにしていないと言うか、とにかくどの音色も全てカッコイイと思えるのです。
トラックごとに見てみても、切ないフィードバック音があったり、ポップなシーケンス・フレーズがあったり、アコピが歌っていたりとバラエティに富んでいて、どれもキャッチーかつ個性的。それなのに主張し過ぎることもなく、サラリと空気に溶け込ませることも出来るのがいいですね。用途を限定しない、実に使えるアイテムなのです。中でも1曲目『Papel Soul』は聴き逃し厳禁の名トラックではないでしょうか。
本作に触れて、久々にマイブームをエレクトロニカにぐっと引き戻されただけでなく、実際の話、最近はこればっかりリピートするに至っております。全編通してロマンチックでエモーショナル、なのにクールな佇まいってところも好みです。音もジャケットも美しいし、ぜひ購入することをオススメしますよ。大傑作だと思います。 (Jun 2008)
Oaks
Ethan Rose
2008/US 【Holocene Music】
イーサン・ローズ(スモール・セイルズ)のソロ・アルバム第三弾となる『Oaks』。かつて無声映画の伴奏に使われていたという楽器、シアター・オルガンが設置された古いローラースケート場に足繁く通い、コツコツとサンプリングした素材をふんだんに使った、エレクトロニカチックな1枚となりました。
ノスタルジックな雰囲気が漂うのは、このシアター・オルガンがウーリッツアー社製のヴィンテージ・マシンであることと無関係ではないでしょう。つまりイミテーションでは出せない“本物”の魅力が凝縮されているのだと思います。また素材を料理するイーサンも、ノスタルジックな音色やヴィンテージの風合いを用いることで、感性に訴えかける作風に仕上げたかったのだと思います。ただし、緻密なエディットが施された構成とアレンジは実に今日的であることも付け加えさせて下さい。
派手さはありませんが、温かみと切なさが同居する味わい深い作品です。 (May 2009)
Cradle Of History
Global Goon
1998/UK 【Rephlex】
1998年に、あの「Rephlex」レーベルからリリースされたグローバル・グーンの2ndアルバムです。
リチャード・D・ジェイムズとは旧知の仲という彼が生み出すエレクトロニカは、チャイルドライクで実に今日的。時代を3、4年先取っていた感じすらします。隠れた名盤として才人たちが愛している本作、あの竹村のぶかずがフェイバリットに挙げたこともあるんですよね。すごく相通じるものを感じます。
彼の歌声が何とも不気味(失礼)な『Dum Dar Dee』みたいなトラックもありますが(これはこれですごくイイですよ)、基本的には優しいトラックが中心です。得意のベンダー掛けまくりな『Funkydrunk』。チャイルディスク・ファンはマストの『Quirkytill』。声モノのサンプルが印象的な『Duck Soup』、『Afterlife』など傑作揃い。恐らく廃盤だと思いますが、ぜひ探して聴いてみて下さい。 (Jan 2006)
Ayres
Helios
2007/US 【Type】
ゴールドムンドとしての活動でも知られるキース・ケニフが、2007年に「Type」レーベルからヘリオス名義でリリースしたミニ・アルバムです。
本作最大のニュースと言えば、全編に渡ってキース自身がヴォーカルをとっていることでしょう。とは言え、本作を“唄もの”と捉える方はあまりいないのではないでしょうか。キースの歌声は儚げで実に魅力的ではありますが、敢えて主役を決めないというエレクトロニカらしい発想に基づいてか、あくまでヴォーカル・トラックも1素材として扱い、決して主張し過ぎて繊細な世界観を壊してしまうような野暮は犯していないのがさすがです。
冒頭の『A Rising Wind』は特に素晴らしい出来栄えです。消え入りそうなリヴァーブ感。8分のリズムを刻むシンセのクリック。幾重にレイヤーされたファルセット・ヴォイス。ジャケ画で水に浮かべられた紙の舟よろしく、たゆたう様に、ゆっくりと時間が流れていくかの様です。また、面白いところでは映画『イレイザーヘッド』で使われた『in heaven』のカヴァーなんかもあったりします。ピクシーズもライヴで重用していたアレですね。
切なげでリリカルで美しく、それでいてとても聴きやすい(この辺りがいかにも日本人ウケが良さそうな感じで、やはりと言うべきか、この国での人気は高い様ですね)。しかしこの際、「分かりやす過ぎる」といった類の意見は言いっこなしに致しましょう。幻想的な世界に浸りたい時に、即効性のある『Ayres』みたいな作品はとても有難いですし、この行き届いた丁寧な作りとセンスの良さは、他ではなかなか替えがきかないものですから。 (Sep 2008)
Snowbug
The High Llamas
1999/UK 【V2】
ソフト・ロック、アヴァン・ポップ、ポスト・ロックなど様々な要素を内包する高い音楽性が魅力のハイ・ラマズ。中でも僕が最も好きなこの1枚は、シカゴを経由した“音像の作り込み”が重要な鍵となっています。ジョン・マッケンタイアがミキシング、ジム・オルークがエンジニア、そしてステレオラブのメンバーがヴォーカルで参加・・・。これ以上ない魅力的な面子で、アコースティックな1音1音を、あるいはアナログ・シンセを、丁寧に繊細に紡いでいます。マルコス・ヴァーリやブライアン・ウィルソンの魔法を拝借しながら、絵画の様に美しいランドスケープを録音した成果、それがこの『Snowbug』なのです。
中でも1曲目を飾る『Bach Ze』は、透明な冬の日差しの様に、完璧なまでに綺麗な作品です。ストリングスが立ち上がる瞬間が特に好きです。こんなに優しい音空間を演出してしまう彼らはやはり只者ではありません。 (Jan 2006)
Inaccuracies
of the Mind Machine
Jet Black Crayon
2004/US 【Function 8】
トミー・ゲレロが、DJ/ドラマー/エンジニアのガジェット、Swellのベーシスト・モンティという気心知れたメンバーと結成しているバンドが、このジェット・ブラック・クレヨンです。ライナーなどによりますと、アイソトープ217のツアー・サポートの話をきっかけにバンドをスタートしたとあります。ここ最近のゲレロの作品、とりわけ「モ・ワックス」からの『Soul Food Taqueria』にすっかり心を奪われていた僕は、リリースと共にさっそく購入してしまいました。
内容はさすが!の一言です。ブラックネスをほどよくミックスしたインスト集で、メロウで品のある録音。淡々としながら今日的な音響処理でフックをつける、ポスト・ロック・ファンには堪らない風合いです。軽妙に動くベースと、シカゴ系にも通ずるドラムスがとりわけカッコよく、またシンセやメロディカの存在感も大きいですね。
全曲期待を裏切りませんが、アルバムの導入部としてあまりにパーフェクトな『The Mentalist』が一番のお気に入りです。ずっと飽きずに楽しめそうな1曲です。
ストリートへの密着度で言えばプロ中のプロであるゲレロの「ストリート観」が、見事に表現された1枚であると言えるでしょう。 (Jan 2006)
Lost Horizons
Lemon Jelly
2002/UK 【XL Recordings】
本国に遅れること1年あまり。日本でも見事ブレイクを果たしたイギリスの二人組、レモン・ジェリーの1stアルバムです。僕がこの1枚を気に入っている理由は、まずジャケットのアート・ワークが素晴らしいこと、そして『Elements』がとても良い曲であることです。
ジャケット(僕が所有しているのは、紙のカバー付きの輸入盤CDです)は、ここ数年で入手したレコードの中で一番好きかも知れません。カバーのオモテ面は海が見える田舎町の昼間の風景が描かれ、裏面の都会の風景まで地続きに繋がっています。カバーを外すと、同じ町並みの夜の光景へと変貌します。昼間はビル街に影が落ち、田園地帯が明るく、反対に夜の風景ではビル街に明々と明かりが灯り、田園地帯では僅かな家々の窓明かりと灯台の明かりのみで、あとは真っ暗。つまり、明暗が逆転する様が表現されたイラストなのです。これがとても心に響きます。
音楽面は、さすがベテランDJの作品らしく、手馴れた作りになっている印象です。自分の引出しから全てを賄っている感じがして、若々しい新鮮味や突飛な面白さはありませんが、ここ10年くらいに流行った手法をベースに手堅く組み立てられていて、安定感があります。でも本人たちが楽しんでいる感じはちゃんと伝わってきて好感が持てますよね。中でも、先に触れました『Elements』がロマンチックで好きです。 (Jan 2006)
Ron Riddim
Little Tempo
1999/JPN 【Cutting Edge】
メジャー移籍後、初のリリースとなったリトル・テンポのアルバムです。
元サイレント・ポエツの土生剛を中心としたリトル・テンポは、UA作品への参加などを経て、今や押すに押されぬ国内ダブ・バンドのエースにまでなりました。この分野のキーマンの1人、HAKASEもメンバーとしてピアノやヴァイブを担当(現在は正式メンバーから脱退している様です)。充実の1枚に仕上がっています。
脱力系リゾート・サウンドが気持ち良すぎな『Sky Stepper』始め、生演奏が織り成す清涼感は他に変えがたい魅力があり、また同時に哀愁も感じさせるのがたまりません。勝手なイメージとしては夏の夕暮れ、中央線沿いの部屋で鳴っていたら、さぞ似合うのではないでしょうか。もちろん、野外でしたらなお良いでしょうけれど。
ユルいはユルいんですが、BGMとして垂れ流しになってしまう様なB級品では決してありません。基本的にスティール・パンをメインとしたインストですが、2曲のヴォーカルものを収めた8cmCDも付いています。 (May 2006)
Plume
Loscil
2006/CAN 【Kranky】
カナダのアーティスト、スコット・モーガンのソロ・ユニットであるロスキル。2006年のアルバム『Plume』も、これまで同様「クランキー」レーベルからのリリースとなりました。
プロフィールによれば、カナダの名門であるサイモン・フレーザー大学在学中に、物理学や熱力学からインスパイアされて音楽制作に没頭するようになったとのこと。こうしたいかにもアカデミックな逸話は、彼の抽象的な作風をより思慮深いものに昇華させるばかりでなく、音楽に意味性を持たせようとしたり、アーティストの背景にドラマを見ようとする向きには格好のエピソードになっています。
僕は、このあまりに素晴らしいジャケに惹かれて購入したのですが、まるでジャケ写を具現化した様な出音にもすっかり魅せられてしまい、以来何度もリピートしています。アルバム・タイトル自体、煙が立ち昇るジャケ写を連想させますし、またトラックごとのタイトルを見ると、その殆どが風や大気などをテーマにしていることがわかります。おそらく音楽、タイトル、アート・ワークがひとつのコンセプトの上に形成されているのでしょう。そういった意味で、僕の様にアート・ワークにピンと来た人ならば、きっと音楽面や精神面でも惹かれる部分が多い1枚となるでしょう。例えば1トラック目の『motoc』中盤で、無機質に濛濛と煙を吐き出す煙突の気配を感じ、空恐ろしい気持ちがよぎる。あるいは冬の夕方、山手線の車窓ごしに流れていく見慣れた薄暗い雲と、ヘッドフォンから流れる『Plume』との異様なシンクロを感じる。・・・そんな感覚を共有できる方が大勢いるのでは、などと夢想してしまいます。
全体のトーンはひんやりとして温もりに欠け、それでいてノスタルジックでもあります。まるで曇天のサウンド・トラックといった様相の1枚にあって、肌寒さの中に薄明かりを点す『Halcyon』の穏やかさには、とりわけノスタルジアを感じました。 (Nov 2008)
Protection
Massive Attack
1994/UK 【Circa】
ブリストルの重鎮、マッシヴ・アタック渾身の2ndアルバム。トリップ・ホップ・ブームを生み出し、多くのフォロワーを輩出するに至った、この分野の金字塔とも言うべき大傑作です。
レゲエとヒップホップへの愛情溢れるダビーなダウン・テンポ/グラウンド・ビート(という表現は当時すでに流行っていませんでしたが・・・)といった様相は、同じく大傑作だった1stアルバム『blue lines』の延長線上にあるとも言えますが、よりソフィスティケートされたことでオリジナリティが際立ち、サウンド・デザインのスキル向上も伴って、これ程までのモンスターアルバムになったのだと思います。
また、豪華ヴォーカル陣が参加しているのも魅力のひとつ。ホレス・アンディやトリッキーに加え、エヴリシング・バット・ザ・ガールのトレイシー・ソーンらが客演し、それぞれ持ち味を生かしています。当時のマッシヴ・アタックの求心力が窺えますね。
全てのトラックに魅力がありますが、トレイシーが唄うタイトル・トラック『Protection』の出来栄えが群を抜いています。ヴォーカルも素晴らしいのですが、イントロ一発目の909キックだけで心を鷲づかみにされてしまう、ディープでエモーショナルなバッキング・トラックの完成度が異様に高い!すっかりお馴染みとなったループの抜き差しとフィルターの開閉で楽曲を構成していく作風の完成形と言って過言でないでしょう。最後に降り出す雨では、いつも感極まってしまいます。
以降、彼らはダークでシリアスな路線を突き進み、揺ぎ無いポジションを獲得していくこととなりますが、残念ながらこの『Protection』に匹敵する様な作品は、現時点ではちょっと見込めそうにありません。 (Jan 2006)
Skimskitta
Mira Calix
2003/UK 【Warp】
オウテカ・ショーンの奥さんでもある、「ワープ」が誇る女流アーティスト、ミラ・カリックスの2ndアルバム。
感性豊かな表現者である彼女にかかれば、身近なあらゆるものが楽器になってしまう様です。例えば、石。彼女が石ころのコレクター(僕ならそんなものは集めません!)であることは有名で、本作でも石ころの音が使用されています。擦ったり、叩いたり。これらの音にインスパイアされた彼女の類稀なセンスによって、シンセや有機的なサンプルと組み合わされて曲の一部になっています。・・・念のため申し上げますと、もちろん石ころばかりがフィーチャーされているわけではありません。要するに、聞き流してしまいがちな生活音やノイズでも、ミラ・カリックスにはアーティスティックに響いているのかも知れないと言いたいわけです。
静かで、どこか叙情的な電子音が、ピアノが、サンプルが、彼女の声が、いちいち物語じみたヴィジュアルを想起させてくれます。皆さんそれぞれの物語を『Skimskitta』から育んでみて下さい。 (Jun 2006)
Socialisme Ou Barbarie
Monade
2003/UK 【Drag City】
ステレオラブの中心人物、レティシア・サディエールのソロ・ユニット、モナードの1stです。
彼女が自宅で録りためた作品集で、そのほとんどが4トラックスMTRで制作されたとのこと。それだけに、肩の力の抜けた素敵な楽曲ばかりが並ぶ結果となりました。とは言え、本家のステレオラブにかなり近い手触りを感じさせるので、モナードにまったく新しい音楽を期待した人にとっては少し物足りないかも知れませんね。逆に、僕のようにステレオラブでのレティシアが大好きで、よりインディでラフなものを求めた人にとっては、とても嬉しい1枚になったはずです。
物憂げなメロディ。無機質が故に愛らしいヴォーカル(フランス語です)。ギターを中心としながら、チープでスペーシーなシンセやトロンボーン、チェレスタなどで彩ったポストロック的仕上がり。あぁ、やっぱりレティシアっていいなと再確認させられました。派手さはないけれど、時代の移り変わりに流されないインディ・ポップの名作だと思いますよ。 (May 2006)
Finally We Are No One
Mum
2002/ISL 【FatCat】
「ファット・キャット」からリリースされた、ムームの2ndアルバムです。
ビョークは別格でしたが、シガー・ロスやこのムームも台頭したことでアイスランドが一気に注目を集めたのは記憶に新しいところ。しかも、フォークトロニカという時代のキーワードを背負っていた部分もあり、その素朴な音楽性とは裏腹に、当時のムームは必要以上に派手に捉えられてしまっていたと思います。しかし逞しいことに、そんな期待に応えられるだけの優秀な作品をここに提示した彼らに、何だか拍手を送りたい気持ちになりました。
よく聴くと意外とファットなキックを使ってたりもするのですが、イメージとしては、角のとれた音色を多用して柔らかでドリーミーな空間を演出した、童話か絵本の様なエレクトロニカ。まるで夢の中の音楽です。
ベル・アンド・セバスチャンのジャケでもお馴染み、ギーザとクリスティンの双子の姉妹(惜しいことに現在はひとり脱退)はヴィジュアル面で魅力を発揮しているに留まらず、『Green Grass Of Tunnel』や『The Land Between Solar Systems』といった名曲で、あまりに儚いヴォーカルを披露し、チャイルドライクなムームのイメージを決定づけています。
北欧の子供用家具か玩具の様なアルバム『Finally We Are No One』は、手放すことの出来ない大好きな1枚です。 (Mar 2006)
Andalucian Moon
Natural Calamity
1995/JPN 【Toy's Factory】
初期ナチュラル・カラミティ、つまり杉本邦人在籍時(現在は森俊二のソロ・ユニットとして継続)の名作です。
一見(一聴)、知的かつ音楽的な作風に感じられるのですが、その実“音フェチ”としての感性が全体を支配していています。つまりはムードやフレーズ優先で、やや表層的なパッチワークというきらいもあり(うろ覚えで恐縮ですが、当時「理論に無頓着」といった趣旨のコメントが本人からあったと思います。個人的には、軽い失望もあったりしたのですが・・・。)、そこを良しとするかどうかは案外大きなポイントという気がします。
それはさておき、本当にいい音で録音されたアルバムだと思います。もちろんハイ・ファイという意味でなく、ふくよかで立体的な、空気感まで取り込んだ気持ちのよい音という意味です。程よくヴィンテージの風合いも加味されたウッディで風通しがよい音質と、メランコリックな曲調とが見事に調和し、おそらくリスナーそれぞれの情景に、気分を壊すことなく溶け込んでくれるでしょう。
女性ヴォーカリストを迎えた人気曲『After All Those Years』や、ファラオ・サンダース+レオン・トーマスの超名作『The Creator Has A Masterplan』、ギターのハーモニクスがあまりに切ないインスト『Day Dream』など名トラック揃いですが、僕が最高に気に入っているのは『And In The Darkness』のドラムです。ロンドンのスタジオでヴィンテージのコンプを通した何気ないフレーズが、あまりに気持ち良すぎて楽曲に発展していったのでは・・・。そんな風景が浮かんでくる、音フェチのみが共有できる小さな幸せが詰まったトラックだと思います。フレーズもいいですよね、ソラでコピーできますよ、コレ。ハイハットを開けるのをガマンしてガマンして、クラッシュと繋ぐのがポイントですよね。 (May 2007)
Western Water Music Vol.II
Nobody Presents Blank Blue
2008/US 【Ubiquity】
ヒップホップ系のプロデューサー/DJとして知られるノーバディですが、過去の諸作品においてもそうであった様に、本作でもヒップホップの枠に止まらない幅広いアプローチを展開しています。とりわけ、女性ヴォーカリストのニッキー・ランダを全編に渡ってフィーチャーした純然たる“歌モノ”アルバムである点は、新たなファン層の獲得に一役買ったに違いありません。
ニッキーは、ノーバディが地元のレコード店で知り合ったローカルなシンガーとのこと。彼女のヴォーカルに漂うクラシカルな雰囲気が、ノーバディの思い描く本作のコンセプトにハマった様で、大抜擢と相成りました。そのコンセプトとは、大地震によって水没した西海岸で一部の人たちが毒キノコを摂取することで海中でも呼吸が出来るようになり、次なる進化を得るというストーリーをなぞったアルバムにするというもの。また、自らのソング・ライティングの腕前に疑念を抱いていたノーバディが、より音楽性の高い作品作りに挑戦するというのも重要なコンセプトだったそうです。神秘的で、しかも音楽的なスキルが高かった彼女のヴォーカルに出会えたことは、まさにノーバディにとって幸運だったハズです。
さらに注目したいのは、ヒップホップのニュアンスは残したままサイケやソフト・ロック的な展開をみせるアレンジの豊かさです。ミュージシャンやアレンジャーを招聘し、生楽器も大幅に導入した点が功を奏しているのでしょう。元来、「Low End Theory」というパーティをオーガナイズしたり、プレフューズ73らと親交を深めたりとヒップホップ/クラブ・ミュージックにこだわりを持ちつつ、スピリチュアル・ジャズやインディ・ロック、ポスト・ロックなど広く趣味のいい音楽エッセンスを自らの作品に注入してきたノーバディだけに、アレンジ面でのさらなるレベル向上を願うのは極めて健全かつ必然の流れであったことでしょう。
有機的でコンセプチュアル、そしてどこか高尚さも感じさせる歌モノ作品として、多くの人に安心してオススメできる1枚です。 (Mar 2009)
Triangulum
One Star
1998/JPN 【Flavour】
音響系宅録ポップ・ユニット、ワン・スターの1998年リリース作品です。
ムームまでは良いとしても、彼女たちをエレクトロニカと捉えることってどうなんでしょう、そんな疑問を持たれる方もいらっしゃると思いますが、今こうして聴き返してみれば、後のフォークトロニカへの流れも垣間見える気がしませんか。
ジェントル・ピープルによるリミックスを除く後半3曲、すなわち『Astrolama』、『Silver Sodapop』、『Triangulum』はどれも素晴らしい出来栄え。ドリーミーでチャイルディッシュ、優しい電子音にリピート・ディレイがかかって、大森久美の歌を包みます。適度なスケール感もあるし、ノスタルジックな響きが切なくてとてもいい感じです。疾走感と脱力感が同居する『Journey To The South Paradise』も好きでした。
リリース当時、とにかくよく聴いた思い出のアルバムです。僕の中では、本作と翌年のユカリ・フレッシュ『New Year's Fresh』の2枚をもって90年代が幕を閉じるイメージが明確にあり、そうした世紀末感と相まって、ひとつの大切だった時間が終わっていく喪失感を感じる作品でもあります。
ギミックだスノッブだと穿った見方も出来るでしょうが、断然支持したい好盤です。 (Feb 2007)
U.F.Orb
The Orb
1992/UK 【Big Life】
時代に後押しされて届けられたオーブの2ndアルバムは、アンビエント・ダブの決定版として彼らの全盛期を象徴しました。
当時高校生だった僕が、スミスやピクシーズと並ぶとびきりのカルチャー・ショックを受けたのが、この『U.F.Orb』でした。それなりに好きだった前作を受けて何となく購入したに過ぎなかった作品でしたが、価値観をガラリと変えられてしまいました。
4つ打ちが出てくるまでの“宇宙遊泳”の時間帯はとりわけ好きでした。フューチャリスティックなシンセと、ディレイで飛ばしたSEが生み出すスピリチュアルな浮遊感が最高だったのです。ある友人が『グラン・ブルー』のサントラを「海の中にいるみたいだから好き」と言っていたのですが、その飾り気のない言い回しが僕には新鮮に聞こえました。思えば、『U.F.Orb』は「宇宙の中にいるみたいだから好き」だった気がします。それがロマンや恐怖心を駆り立て、多くのクリエイターの感性を研ぎ澄ませてきたのだと思います。
しかし、当時あんなに好きだったアレックス・パターソンの作品を購入する機会はすっかりなくなっていました。そんな折、かの名門インディ・レーベル「コンパクト」のコンピにてオーブとの再会を果たし、驚きと感動を得ました。無論、こうした新音源で改めて成功を収めて欲しいという気持ちはありますが、時折立ち返りたくなる場所はやはりこのアルバムなのです。経年劣化はあれど、『Blue Room』こそ僕にとってのアンセムです。 (Jan 2006)
Dummy
Portishead
1994/UK 【Go!Beat】
ジェフ・バーロウとベス・ギボンズが、港町「ポーティスヘッド」にて結成したユニット。その1stである本作は、同年に発表されたマッシヴ・アタックの2nd『Protection』との相乗効果でブリストル・サウンドを一躍ブームに押し上げ、日本でも多くのメディアとファンが熱狂したのでした。
リアルタイムに『Dummy』の衝撃を体感した身としては、やはり特別な作品であったと言わざるを得ません。サンプリングやスクラッチを多用し、ドープな汚しを施すアプローチがありながらも、ブリストルのスモッグがそうさせるのか、ヒップホップの枠を大きくはみ出して、他の都市やアメリカとは違った個性が宿ってしまうのが面白いところです。ディープに沈み込むダウナーなサウンドや、不安感や切なさを増長させるベスの歌声といった特徴以上にポーティスヘッドを異質な存在たらしめていた要素と言えば、やはり映像的なサウンド・プロダクションにとどめをさすでしょう。この「映像的」というイメージは、彼らが短編映画を手掛けていたという情報によるところもありましょうが、個人的にはむしろフィルム的な感触以上に、テレビを思い描いてしまいます。真夜中、砂嵐を映し出すテレビの不気味な静寂感、電磁波とノイズが織り成す奇妙な立体感が、ポーティスヘッドのサウンドからも感じられる気がしてならないのです。
楽曲単位で注目したいのは、くぐもった薄暗いアルバムの中にあってハモンドが一筋の灯りを点す『It's a Fire』や、僕が大ファンの映画『猫が行方不明』で唐突に流れ出すのも印象的だった『Glory Box』あたりでしょうか。もちろん、人気の『Sour Times』も名作だと思います。 (Nov 2007)
One Bedroom
The Sea and Cake
2003/US 【Thrill Jockey】
初っ端の『Four Corners』から、もうどうしようもなく泣けるほど美しい。シー・アンド・ケイクの6作目は、ジャズ・ロックやブラジリアン・ミュージック、クラウト・ロック、エレクトロニカといった多様な音楽性を、スムースだけど少しだけ歪(いびつ)なポスト・ロック・サウンドで束ねた、彼ららしい高品位な傑作に仕上がっています。
当人達も語る様に、本作ではループに端を発して組み立てられたトラックも多く、なるほどエレクトロニクスの導入が目立つようになりました。しかしこの事で、多くのファンが指摘するような“イメージの低下”を招いたとは僕には思えません。最高傑作とも呼ばれる前作『Oui』で感じた、ブラジリアン・フィーリング漂う清楚な生々しさを本作でも感じ取ることが出来ましたし、良くも悪くも、打ち込みの比重が増えたことはシー・アンド・ケイクの根幹に大きな影響を与えてはいないのではないでしょうか。それだけサム・プレコップのたゆたう様な唄声と、ジョン・マッケンタイアが手掛けるサウンド・デザインの絶対的な個性は、揺ぎ無い普遍的な美しさに満ちているのです。
デヴィッド・ボウイがブライアン・イーノと作り上げた『Low』(僕も大ファンのアルバムです!)から、『Sound & Vision』をカヴァーしているところも注目です。 (Jan 2006)
Cobra And Phases Group Play
Voltage In The Milky Night
Stereolab
1999/UK 【Elektra】
実験的なスタンスをもって構築されるポップな耳触りの作品が、常に高い評価を受け続けているステレオラブ。その7thアルバムにして、最高傑作の誉れ高い1枚が本作です。
彼らが単なるインディ・ギター・バンドの枠を飛び越えてきた背景には、スペース・エイジ的なモンド感覚、ラウンジィな質感、ジャーマン・ロックのエクスペリメンタルでアートな側面などを巧みにものにしてきたセンスの良さが見てとれますが、何よりその評価を決定的にした事件と言えば、シカゴ一派との合体に他ならないでしょう。緻密なエディットと、アナログともデジタルともつかない独自の浮遊感、そしてブラジル音楽の良質なエッセンスだけを抽出したこの当時のステレオラブのサウンドは、いわゆるポストロックのアプローチを得意としたシカゴ勢の協力なくしては在り得なかったものです。本作では楽曲の半分をジョン・マッケンタイアが、もう半分をジム・オルークがプロデュースしており、言わばシカゴ2大スターのバックアップにより、ステレオラブの魅力は最大限まで引き出されています。
ジャズやブラジル音楽、ラウンジ・ミュージックを束ねる、未来的なポスト・プロダクション。静かに聴き手を覚醒させていく、高揚し切らないループ。体温を感じるのにどこか無機質なレティシアとメアリーの歌声。精密にしてどこか歪みもあり、知的で音楽的純度が高く、そしてどこまでも美しい。そんなアルバムです。
それにしても、僕など今でも時折この1枚を引っ張り出して聴いてしまうというのに、冷静に考えると本作リリースから9年が経とうとしているのですね。信じられません。音楽的な流行サイクルから言えば、「今聴くべきではない」時代の作品がこうしてすんなり耳に入ってきて、しかも十分に先進的であり、また刺激的であることは驚異的だとすら感じます。
ステレオラブの作品に駄作はほとんど存在しませんが、“ポップなサイエンティスト”たる彼らの真骨頂は、やはり本作にあると僕は思います。 (Nov 2007)
目の前にあったよ
Suppa Micro Pamchopp
1998/JPN 【Childisc】
「チャイルディスク」からデビューした、水越タカシ氏のソロ・ユニット、スッパ・マイクロ・パンチョップ。その1stです。
このページでも取り上げているレーベル・サンプラーに収録されていたスッパの音源『Toward Infinity』に衝撃を受けて、すぐに彼のファンとなりました。この『Toward Infinity』からは、どちらかと言うと“計算”を感じたので、コンセプチュアルなアートを想像してこのアルバムを聴いてみたのですが、予想は良い意味で裏切られました。非ミュージシャン的だけれど、それがかえって自由な立ち振る舞いに繋がっていて、鼻につく不思議キャラみたいなのを自己演出してしまうような輩も多いなか、リアルなピュアネスを感じさせる稀有な存在だったのです。
具体的にどんな作品かと言うと、レコーダーとサンプラーを使った即興の遊びを日記的に記録していったかのような、パーソナルなエレクトロニカといったところでしょうか。チープだけれど温かみのある作りは、子供の視点をひとつのキーワードに掲げる竹村さん好みだったに違いありません。なまじテクニックや「売れたい」という野望があったなら、こんなに優しい音にはならなかったことでしょう。
また、彼が詩人であることにも注目です。基本的に『目の前にあったよ』はインスト作品ですが、楽曲タイトルがすごく詞的なんです。例えば『あとにしてわかること』、『キ・ラ・ラ・スコープ』、『どこにも行かない木、どこへでも行く光』といった具合です。この感覚は後の唄モノ作品へと繋がっていきます。
『蛇口のテーマ』を聴きながら過ごせるような優しい時間をもっと大切にしたいと思えてくる、そんな1枚です。 (Jan 2008)
Soul Food Taqueria
Tommy Guerrero
2002/US 【Mo Wax】
トミー・ゲレロが「Mo Wax」からリリースした、ジャケット・アートも最高な3rdアルバムです。
ボーンズ・ブリゲードのスケーターとしてキャリアをスタートさせたゲレロですが、今や総合力の高いカリスマ・アーティストとしての活躍で知られる存在となりました。ここ日本では、キューピーのCMで曲が流れていた人というイメージが強いみたいですね。
本作は、そのキューピーのCMソング『It Gets Heavy』のヴァージョン違いも収録したゲレロの代表作のひとつ。間を活かしたユルいサウンドは、ヒップホップやポストロックの系譜を踏んでいます。タイトかつ繊細に、それでいてストリート感覚を失わない絶妙なバランスで楽曲を組み立てている辺り、さすがという他ありません。特にクリーン・トーン中心のギター(ホントに巧いですよね)とジャズ・ファンク系のドラムが気持ち良いこと極まりないです。特に、ベスト・トラックに挙げたい『Getting It Together (Featuring Lyrics Born)』イントロの軽妙なドラム・ソロが最高です。
他にも『Tatanka』や『Lost Unfound』といった名トラックを経由しながら、各インタールードを挟んで旅は進み(『Interlude Train of Thought』は名作!)、すっかり気持ちよくなった辺りでノスタルジックな『Falling Awake』が訪れて終焉。そんな、出来すぎの旅なのです。 (Feb 2006)
Childisc Vol.1
V.A.
1998/JPN 【Childisc】
竹村氏によるレーベル「チャイルディスク」の記念すべき1stカタログです。
この当時、個人的に最も嬉しかったニュースのひとつが、竹村氏がレーベルを始めて、しかもその音源が次々リリースされるというものでした。ですからこのコンピを手にした時の嬉しさはとても大きなものだったのです。水色のジャケも大好きでした。
ここに名前を連ねているのは、スッパマイクロパンチョップ、谷村コオタ、アキツユコといった、今日までレーベルの顔となっている面々ばかり。音楽的には、さすがに竹村さん色の強さが目立ちます。一言で説明するならば「チャイルドライクなエレクトロニカ」ということになりますが、敢えて個性を曲げてカラーを合わせているワケではなく、「好きな人たちが集まってきた」といった趣で、実に魅力的です。ブームに便乗するようなあざとさがない分、フォームはまさしく自由。象徴的なのがHyuの『Hyper Function』でしょうか。
竹村氏ご本人は当時よく「Rephlex」好きを公言していたので、ひょっとして理想のレーベル・イメージはそこにあったのかも知れませんね。しかし、今や「チャイルディスク」の在り方は唯一無二の存在として異彩を放つに至りました。 (Jan 2006)


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