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Guitar-Pop Review 01
since 2006/01/15

0898
Beautiful South
1992/UK
英国では国民的人気バンドだったというビューティフル・サウスの3rdアルバムです。
本作における強烈なアートワークが話題にはなりつつも、ここ日本ではバンドの知名度や人気は今ひとつパっとしませんでした。実際、僕も『0898』以降の彼らの作品をフォローすることなく、最近たまたま本作を見かけて懐かしさのあまり購入するまで、すっかり忘れていた存在でもありました。しかし改めて聴きなおしてみたら、かなりよく出来た1枚ですね。メロディ・メイカーとしての実力は、例えばプリファブ・スプラウトにも匹敵するのではないでしょうか。3人のヴォーカリストの声もそれぞれに魅力的で、とりわけこの後脱退するプリアナ・コリガンの美声ぶりは注目に値するでしょう。92年当時の僕も「良い楽曲揃い」という印象を持ったのですが、もっと風変わりなサウンドに傾倒していたこともあってのめり込むことはありませんでした。あの頃、高田馬場に45°なるCDレンタル・ショップがあり、勝手に「馬場のジャニス」みたいに位置づけ(つまり当時のレンタル店としては輸入盤を品揃えよくラインアップしていたのです)、高校生だった僕は愛用していました。そこのスタッフがソニック・ユースやピクシーズと並べて『0898』をレコメンドしていたのが、僕にとっての出会いでした。レンタルしたのは輸入盤でしたから、彼らの魅力だとされる「ポップなメロディとシニカルな歌詞の呉越同舟」という要素は、あいにく僕の英語力ではあまり作用しなかったワケです。ちなみに、改めて購入した『0898』も輸入盤ですが、大人になったからでしょうか、良質のメロディが素直に楽しめて、当時よりも好きになってしまった感じです。
明瞭なサウンドと美しい楽曲。ギター・ポップやインディ・ポップのファンから、チャート好きなライト・ユーザーまでを巻き込む、広い視野を持ったプロフェッショナルなアレンジ。やっぱり彼らはいいバンドだったのですね。
屈指の人気曲『Bell-Bottomed Tear』はじめ、聴き逃せない楽曲ばかりの『0898』。もし僕と同じように忘れかけていたのなら、ぜひもう一度チェックしなおしてみて下さい。 (Oct 2007)
Fold Your Hands Child,
You Walk Like A Peasant
Belle And Sebastian
2000/UK
ベル・アンド・セバスチャン通算4作目のオリジナル・アルバムです。ムームの双子をジャケで起用したことも話題になりました。
グラスゴーに文学性の高いギター・ポップ/ソフト・ロックの大所帯バンドがいて、しかも中心人物は中古レコード屋で働きながらフェルトやらオレンジジュースを聴いていたらしい。・・・こんな情報が舞い込めば、カレッジ・チャート系のリスナーは喰いつくに決まっています。全てのキーワードに惹きがありますから。しかも、ジャケットもメロディも抜群に良いっていうんですから、例に漏れず僕もベル・セバに喰いつき、そして夢中になったわけです。
出すレコード出すレコード、いちいちツボを心得た秀作ばかりの彼らがひとつの頂点を極めた瞬間はこの作品にあると思います。これまでのアルバム3作品とも(あるいは全シングルとも)それぞれに異なった良さがあり、例えば『ホワイト・アルバムが一番か、ラバー・ソウルか』とか、『ハットフル・オブ・ホロウが一番か、クイーン・イズ・デッドか』などと同様に、尽きない論争がファンそれぞれにあることでしょう。それでも、楽曲の粒立ちの良さとアレンジの豊かさで他と一線を画していると感じる本作を、僕は迷いなく一番に挙げたいと思います。この手のバンドだと豪華な装飾がある方が気が滅入ってしまう性質(たち)ではありますが、そんなこだわりも忘れるほど、アレンジに華がある本作に魅力を感じます。
線の細い歌声。主張し過ぎない、気持ちのよいスネア。知的な管弦楽器やピアノ、ハープシコード。それぞれがよく練られたスコア上で交錯し、美しい空間を紡いでいきます。もちろん、充分の余白を残しながら。
余談ですが、彼らの作品は“モノとしての魅力”にも溢れていて、特にシングルは何だか買い逃したくない気持ちにさせてくれます。これはスミスが持っていた「7インチへのこだわり」みたいなニュアンスをベル・セバにも感じるからでしょう。レコード好きはこのノリには本当に弱いんですよね(実際、楽曲単位で見た場合の最高傑作はEP『Jonathan David』収録の『Take Your Carriage Clock And Shove It』だと思いますし・・・。シングルがいいバンドは本当に好きです)。
ちなみにこれを書いている時点での最新作『Dear Catastrophe Waitress』は、トレヴァー・ホーンをプロデューサーに迎えて制作されました。当然、これまでのイメージを覆すこととなり、何かと物議を醸し出す結果となりました。正直僕は、「インディ路線で行って欲しかった」と嘆いた保守派の一人です(なにしろトレヴァー・ホーンって派手なイメージですから)。ただし、これまでの彼らとは別モノとして、やはり素晴らしい作品が届いたので、良しとするべきなのでしょうね。 (Jan 2006)
Another Music
In A Different Kitchen
Buzzcocks
1978/UK
ザ・スミスやジョイ・ディヴィジョン、ニルヴァーナから少年ナイフまでがリスペクトする存在として名前を挙げる、バズコックスの1stアルバム。パンク・スピリットの基本ともいえるD.I.Yの精神を持ち、そして何より、ひん曲がった奇妙な感性と愛すべきキャッチーさを併せ持つ音楽性が魅力的であるが故に、多くのフォロワーが敬愛してやまないのでしょう。
バズコックスを聴いて最も印象に残る要素と言えば、やはりほとんどのトラックでヴォーカルを務めるピート・シェリーの声ではないでしょうか。カン高くて素っ頓狂なそのヴォーカル・スタイルで『No Reply』や、代表曲『I Don't Mind』を歌われると、楽曲とピート両方の個性がますます引き立ち、バズコックスならではの強い中毒性が発生するのです。
さらにソング・ライティングもアレンジもなかなか面白くて、同時期にブレイクした初期パンクスの雄たちと比べても、オリジナリティの部分で突出しています。もちろん演奏力は高くないのですが、スタイルに束縛されない自由な発想がダイレクトに楽曲構成に反映されることで、奇妙ながらもポップな作風に繋がっています。
開放感に満ちた先述の『I Don't Mind』や、大作『Moving Away From The Pulsebeat』は一聴の価値アリです。 (Jun 2009)
The Meeting After The Meeting
Citified
2008/US
米国「eskimo kiss records」よりリリースされた、シティファイドの7曲入りミニ・アルバムです。
バンドに関する知識を持ち合わせていないので(少なくとも現在、日本ではほとんど情報がない様です)、スリーヴに記載された僅かなデータを頼りにするしかないのですが、ギター&ヴォーカル(時にはピアノも)を担当するクリス・ジャクソンを中心とした4人編成バンドの様です。基本的にギター、ベース、ドラムスで構成された正統派ギター・ポップを聴かせてくれる彼らですが、メンバーはそれぞれヴァイブやバンジョーも兼任するなど、なかなか芸達者な感じでして、完成度の高いアンサンブルや安定した演奏力からも、ぽっと出の新人ではないことは想像がつきます。
1stアルバム『Citified』では若干ウェットな質感もありましたが、本作ではリヴァーブ感がよりナチュラルになっています。彼らが持つ爽やかな作風を思えば、こうしたシンプルなミックスで正解だと思います。そんな中で、例えば『March Through Mayday』ではフィードバック音を上品に取り入れるなど、アプローチの幅があるのも魅力。ただし、どんなアレンジを採用していても、抜群のメロディ・センスを持ったクリスのヴォーカルが中心であることはブレていません。その辺も安心して聴けるポイントなんですよね。かなり気に入っている1枚です。 (Jun 2008)
Treasure
Cocteau Twins
1984/UK
「4AD」レーベルを代表するアーティストと言えば、多くのファンが80年代のコクトー・ツインズを挙げるに違いありません。とりわけプロアマを問わず人気が高い3rdアルバム『Treasure』は、レーベルのみならず、当時のUKインディ・シーン全体を象徴する作品であったと言って過言でないでしょう。
ロビン・ガスリーとエリザベス・フレイザーの二人に、ベーシストのサイモン・レイモンドも加わってエジンバラとロンドンで制作されたという本作。無機質なリズム・マシンによるベーシック・トラックが採用され、その上をギター・ストロークやアルペジオ、シンセ・パッドなどが浮遊します。そして“天使の歌声”とも称されるエリザベスのヴォーカルとコーラスが幾重にも重ねられ、たっぷりのリヴァーブ、ディレイ、モジュレーションをもって拡散していく様は、まさに浮世離れした天上の音楽です。欧州の神話をテーマにしたと思しきコンセプチュアルな作風が、ますます神々しさを際立たせています。また、少々のゴシック趣味と内省的な佇まいが、いかにも時代のニーズを捉えている点も見逃せません。『Treasure』における、こうした幻想的で耽美的な世界は、これまでのポスト・パンク/ニューウェーヴの在り方に一石を投じたに留まらず、英ナショナル・チャートに名を連ねるなど、大きな波を起こすに至ったのです。
ディテールにまで美意識のよく行き届いた繊細なアルバムにあって、中でも『Pandora』は白眉と言えるのではないでしょうか。ギター・サウンドの膨らみ、コード感、数パートに渡って並行するヴォーカルのメロディ・ライン、その歌声・・・。どれをとっても、この世のものとは思えない美しさです。
サウンドやコンセプトの切り口が斬新であったことに加え、荘厳さとキャッチーさを両立できるセンスや、類まれなカリスマ性を感じさせるエリザベスのヴォーカル・パフォーマンスといった要素を有していた点で、コクトー・ツインズは本当に優れたグループでした。特にエリザベスのヴォーカルは、ファルセットばかりの“雰囲気モノ”なんかでお茶を濁すことなく、地声で歌い込んでもどこか神秘的である辺り、例えばケイト・ブッシュなどのごく限られた稀有な才能に匹敵すると、ここに断言したいと思います。 (Nov 2008)
Why
Discharge
1981/UK
ハードコア・パンクの元祖であるディスチャージの1stミニ・アルバム。
個人的には普段まったく縁のない分野のレコードなのですが、勢いが有り余って、思わずとびきり速くてガリガリしたヤツをかけてしまう時もあります。そんな時にはこの、とびきり速くてガリガリしたディスチャージの『Why』だったりします。
でもそんな生半可な気持ちでチョイスすることが躊躇われるほど、歌われているテーマは重い。ヴォーカリストのCALがデザインしたというジャケットは、もっと重い。残酷な戦争の写真を、こともあろうにジャケットになんて選んでしまうノリが僕はとてもとてもキライで、後日、当時のディスチャージが徹頭徹尾“反戦・反暴力”を歌っているのだと聞かされるまでは、ちょっと許せなかったくらいです。まぁ、この分野のオリジネイターであるディスチャージが自らの主張を際立たせる手段としてこうした写真を用いた、という事なのでしょうからまだ納得も出来ますが、フォロワーがファッション感覚でマネをするのは勘弁して欲しいところです。かつて甲本ヒロトが「どっかのボウズが親のスネかじりながら、原発はいらねえってよ。どうやらそれが流行りなんだな。明日は一体何が流行るんだろう」なんて辛辣に歌ってましたが、そう言いたい気持ち、何だかわかります(ディスチャージの項で甲本ヒロトの引用なんてあると、双方のファンから叱られてしまいそうですが・・・)。
ほとんどの曲が1分半未満、最長でも2分足らず。潔いほどコマーシャルな音楽との迎合を拒み、メッセージだけを延々がなる、正にハードコアな1枚です。 (Jan 2007)
The Splendour Of Fear
Felt
1984/UK
「チェリー・レッド」からリリースされた、フェルトの2ndアルバムです。
80年代ニューウェーヴ・ムーヴメントの一翼を担ったバンド、フェルト。本作のジャケット・イメージがそうさせるのか、悪意をもって「ゴシック趣味」とか「ヴィジュアル系」なんて論じられることもありますが、ここには良質ギター・ポップの礎と、当時のUKインディ・レーベル特有のアート感覚があって、耽美性よりもむしろ語られるべきはそちらだと思うわけです。そうしたバンドの功績にフォーカスを合わせている方であれば、少なくとも「ヴィジュアル系」などと言い出すことはあり得ないと思うのですが、いかがでしょう。
本作は6曲の内、実に4曲がインスト。名作『Mexican Bandits』は、クリアなエレクトリック・ギターによるアルペジオを主役に据えたインストで、バッキング・トラックの様な佇まいながら、何度も聴けてしまう大好きな作品です。ジョニー・マーがこんな作品をたくさん残してくれていたら、どんなに素晴らしかったか・・・などと空想してしまいます。もちろん、モーリス・ディーバンクのギター・ワークも文句無く素晴らしいんですけどね。
ベル・アンド・セバスチャンのスチュアートの例を挙げるまでもなく、彼らのサウンドを血肉にしながら素晴らしい作品を輩出している才人は多いんですよ。ミュージシャンズ・ミュージシャンでもあったんですね。 (Apr 2006)
Your New Favourite Band
The Hives
2002/SWE
スウェーデンが誇るガレージ・バンド、ハイヴスの世界進出は、この1枚によってなされました。実はオリジナル・アルバムではなく、これまでにリリースされた2枚のアルバム、2枚のシングルから抜粋された編集盤というのが本作の実体なのですが、凝縮されてよりアルバム然としたと見る向きも多い様です。UKでは実質1stアルバムとして扱われています。
とにかく疾走感がハンパじゃありません。全曲、全力投球、休みなし!ここまでしてくれたら笑っちゃいます。・・・いや、笑ってはいますけど本当にカッコイイです。12曲あって、3分を超えるのは1曲のみ。文字通りあっと言う間に駆け抜けていってしまいます。ロックンロール・リヴァイヴァル、ガレージ・ブームの時流に見事マッチし、あのアラン・マッギーの目に留まったこともあって大成功を収めたわけです。しかし決して浮ついた存在でなく、一過性のものでは終わらない「本物の強さ」を感じさせる辺りが頼もしいですね。 (Jan 2006)
The Plague That Makes
Your Booty Move... It's
Infectious Grooves
1991/US
当時スイサイダル・テンデンシーズ、ジェーンズ・アディクションらに在籍した面々で結成されたバンド、インフェクシャス・グルーヴスの1stアルバムです。
先日、CDラックの整理中に再会。あまりの懐かしさに「おぉ!」と唸り、早速聴いてみたら思いのほか新鮮なカッコよさ!僕が高校生の頃(つまり本作リリース時)、メジャー・シーンをも席巻していたアメリカのミクスチャー・ロック・ブームがあったことに思いを馳せつつ、試しにネットで検索をかけてみたら色々なことが見えてきました。以降もバンドは継続し、数枚のアルバムをリリースしていたこと。だけど本作は廃盤であること。サウンドのキーマンであるベーシストが何とメタリカ(!)に加入したこと。そして本作を個人のサイトで取り上げている方々の好みや思考、感想が驚くほど僕と一致しないことなどです。
どうやらマッチョな一面ばかりが目立ってしまうきらいがある様ですが、突き抜けた娯楽性、抜群のテクニック(まぁこれは音楽的マッチョイズムの典型でもあるところですが・・・)によって、「単純なヘヴィメタルって言われない様に、ファンキーにしてラップも乗せちゃいました」みたいな低俗さとは一線を画しています。もっとも、「低俗」なんて彼らにはホメ言葉なのかも知れませんが。
とにかく、ロバート・トゥルジロのベースは注目です。のっけからベースのタッピング&スラップ・プレイで幕を開け、スケーターズ・ロック御用達の高速フレーズ、ウォーキングなど超絶プレイの連続。コンビを組むドラムスの録音がもう少しタイトだったらもっと良かったのでしょうが、こればっかりは時代のニーズがあるので責められないですね。ヘヴィかつポップな各楽曲の展開もメリハリが効いていて、よく出来ていると思います。 (Nov 2006)
Fried
Julian Cope
1984/UK
リヴァプールが生んだ才人にして奇人、ジュリアン・コープがティアドロップ・エクスプローズ解散の後にリリースしたソロ2作目です。
裸で亀の甲羅を背負うジュリアン。そんな奇抜で異様なジャケット・アートがあまりに有名な本作を、彼のベストに挙げる人は多いでしょう。実を言うと、僕はジュリアンの音源は少ししかチェックしていないので他との比較でものは言えないのですが、この『Fried』がネオ・サイケデリック/ニュー・ウェイヴ時代を代表する大傑作であることだけは断言したいと思います。僕の場合は後追いで聴いたのですが(リリース当時、小学生でしたから)、リアルタイムで本作を目の当たりにした方の捉え方にとても興味をおぼえます。さぞ衝撃であったことでしょう。
牧歌的な作品を中心にしたポップなアルバムなのですが、その裏に狂気を宿した、かなりLSD色の強い魔性の1枚でもあります。その狂気こそが最大の魅力でもあり、只ならぬ空気に惹き寄せられてしまうのです。彼にシド・バレットの面影を見る風潮は、ここに起因するのでしょう。
『Laughing Boy』、『Sunspots』、『Torpedo』など大好きなトラックが目白押しなのですが、何と言っても『Holy Love』にて一気に突き抜けていく感触には、筆舌に尽くしがたい感動があります。また、『The Bloody Assizes』でのシンプルながらツボを押さえたギター・ストロークとベース・ラインのコンビネーションや、『Search Party』を美しく彩る管の入り方やコーラス・パートのリヴァーブ感なんかにも見るべきものがあると思います。 (Mar 2008)
Sound Of Silver
LCD Soundsystem
2007/US
NYCから世界中のミュージック・シーンに影響を与え続けているジェイムズ・マーフィー。「DFA」の顔役でもある彼が立ち上げたユニット、LCDサウンドシステムの2ndアルバムです。
自ら手掛けたラプチャーやレディオ4のサウンドや、あるいは前作『LCD Soundsystem』をもって体現してきた、あるべきポスト・パンクの姿をさらに押し進める形となった本作。ロックとダンスの幸福な出会いを、これ以上ない快楽性とともに演出してくれたこの1枚は、まったく新しいものではないけれど、多くのファンに愛される、とても意義のある作品となりました。
少数精鋭で作り上げられた、有機性と無機性とが奇妙に同居するグルーヴ。俯瞰から捉えているようなクールさがありながら、それでいてテンションの高い歌声。ポスト・パンクやニューウェイヴの質感を今日的にミックスしていくセンスの良さ。フェス全盛時代におけるオーディエンスのニーズを的確に把握した、キャッチーな楽曲。そのどれをとっても、やはり一流の仕事と言えるでしょう。とりわけシンセやパーカッションの使い方はツボを心得ていて本当に素晴らしいです。
なお、リリックについてに触れないと、彼の政治意識やユーモアを無視することにもなり、ひとつの本質をも見落しかねないかも知れませんが、あいにく手元には輸入盤しかありませんので悪しからずご容赦下さい。開き直るわけではありませんが、この“気持ちよさ”があれば、僕には充分みたいです。だって、彼は尾崎豊か何かじゃないですものね。 (Apr 2008)
Spooky
Lush
1991/UK
コクトー・ツインズのロビン・ガスリーがプロデュースを手掛けた、ラッシュの1stアルバム。
ロビン起用は大成功で、物憂げでドリーミーなギター・ポップというラッシュならではのイメージがここに定着しました。同時代のシューゲイザー勢と比較しても断然個性が感じられたわけです。ヴィジュアル面でも、ミキ・ベレニー、エマ・アンダーソンという女の子2人が共にギターを弾きながらファルセットで歌う姿が何とも魅力的でした。しかも彼女たちはメロディ・メイカーでもあり、いかにもインディ・ギター・ファンにフィットする楽曲を提供してくれていたのでした。そんなミキとエマの存在は、浮遊感があって霧がかったサウンドを得意としたロビンとの相性が良かったことは言うまでもありません。
しかし、後にメンバーの離脱や自殺、サウンドの方向転換などの紆余曲折がバンドに起こり、ラッシュは消滅してしまいます。元々寡作だった為、残した作品もごく僅かでした。サウンド同様、儚い印象が強いのはそのせいかも知れません。
ラッシュは個人的にとても思い出深いバンドで、高校時代に夢中で聴いていました。当時はインターネットもなかったので、情報収集ひとつ取ってもなかなか苦労したことを思い出します。高校が新宿に近かったので、足繁く西口界隈のレコ屋さんやブート専門のビデオショップに通っては、細かい新情報を得て、悦に入っていたものでした。日本語表記の「ラッシュ」という文字に躍らされて、実はRUSHの方だったり・・・。まぁ、そんな躓きも何だか懐かしいですけれど。 (Feb 2007)
Nikki And The Corvettes
Nikki And The Corvettes
1980/US
80年に「BOMP!」レコーズよりリリースされた、ニッキー・アンド・ザ・コルヴェッツの1stアルバムです。もともと(特にパンク人気の高い、ここ日本では)根強い人気があり、また2000年には同レーベルからCD化が成されたことで、もはや必携アイテムにまでなりました。それも当然でしょう、この激キュート・ガールズ・ポップ・パンクには理屈を超えた中毒性があり、その上77年と81年にリリースされたシングル音源までカップリングされてるとあっては食指が動かないわけがありません。
ニッキー・コルヴェットのロリータ・ヴォイスが最高なのは今さら言うまでもありませんが、録音もすごくいいと思います。カリっとしたギター・サウンド、そしてベースとドラムスにおいてはテープ・コンプによる中身の詰まった濃厚な中域が本当に気持ちいいんですよね。適度にガレージっぽいラフな録音も、演出として計算されていそうなプロフェッショナルなコントロールを感じます。また、よく言われていることですが、彼女たち本人がプレイしているとは思えませんから(巧すぎですしね)、録音からプレイに至るまでスタッフ陣の確かな手腕が演者の持ち味を活かした好例ということになるのでしょう。とは言え、例えば初期の少年ナイフが下手さも魅力であった様に、意外とヨレヨレのバッキングにニッキーたちのキャンディ・ヴォイスが乗る、なんて構図も面白かったかも知れませんね。
どれもシングルで行けそうなほどキャッチーなポップ・パンク/ロックンロールがズラリと並んだ、強力な1枚。男性ファンはインナー・スリーヴの写真にもノック・アウトされること間違いなしでしょう! (Nov 2008)
Illumination
The Pastels
1997/UK
グラスゴーのインディ・シーンを代表する存在、パステルズの4thアルバムです。長いキャリアを考えれば、1997年の時点で4枚目(編集盤は含んでいません)というリリースのペースは何ともスローですが、そこもまたパステルズらしいですよね。現在はさらに寡作ぶりに拍車が掛かっています。
本作は、ごく初期から一切変わらない「これぞUKインディ」たるユルさを持ちながら、“音響系”という時代のキーワードをどこか匂わせた1枚になっています。カトリーナやアギのヴォーカルが好きな僕としては(もちろんスティーヴンだって好きですが)、彼女たちによる唄モノが多い本作は特にお気に入りです。中でもシングル・カットもされた『Unfair Kind of Fame』は屈指の名曲。トリップ感に溢れた『Cycle』もよく聴いたトラックです。他にも『Remote Climbs』におけるギターとベースのフレーズも最高ですし、『Rough Riders』での愛らしいリフや、ラストを飾る『Mechanised』の儚さなど、好きなポイントはたくさんあります。本当に大切な1枚です。
うろ覚えですが、確か図書館員か何かをやりながらパステルズを結成しているんですよね。そのナチュラルかつマイペースな姿勢まで含めて、オールタイム・ベストに推したいバンドのひとつが、このパステルズなのです。 (Apr 2006)
Protest Songs
Prefab Sprout
1989/UK
プリファブ・スプラウトの4作目(実際は3rdより先に作られましたが、リリース順がテレコになったのでした)で、熱心なファン以外にとっては地味な存在ですが、ギター・ポップやカレッジ・チャート系リスナーからの評価が高い作品です。僕もプリファブのアルバムの中で一番好きな作品はずっと変わらずこれです。
本作最大の魅力は、普遍的な輝きに満ちていること。これは、どうしても時代掛かってしまうトーマス・ドルビーのプロデュースを離れたことと無関係ではないでしょう。また、パディのペンによる楽曲群も例によって美しいメロディに溢れ、しかも素晴らしいアレンジやナチュラルなサウンドと渾然一体となり、聴けば聴くほど魅力的に心に響いてきます。
『Talking Scarlet』はため息ものの美しさ。SEが印象的な『'Til The Cows Come Home』から、スネア・ロールが感動的な『Pearly gates』へと流れる終盤の展開には、何度聴いても胸をしめつけられます。 (Jan 2006)
Flowers Of Romance
Public Image Ltd
1981/UK
パブリック・イメージ・リミテッドの3rdアルバム。
告白いたしますと、僕は健全な男子と比べて、いわゆる“パンク”への関心が遥かに低い方だと思います。もはや反抗精神から成り立つパンクというスタイルが形骸化したから、なんて屁理屈を捏ねるつもりはありませんが、大概が音楽として真っ当過ぎて、むしろ優等生な音楽に聴こえてしまう点で退屈なワケです(もちろん気分によってはイイなと思う時はありますし、例外的に好きなものもあるんですが・・・)。メッセージでなく音楽そのもの、或いは音楽的構造や音色に関心が高い人間にとっては、ステレオタイプなパンク・サウンドよりも、音楽的発展が見られるポスト・パンク的なサウンドに心惹かれるのは自然なことだと思います。そういった意味で、ダブやダンス・ミュージック、トライバルなサウンドと積極的に結びついていった冒険者たちの音楽への愛情は強いものがあります。スリッツしかり、P.I.Lしかり。
この『Flowers Of Romance』は革新的なサウンドに終始する、まさに音楽的冒険に挑んだ問題作です。傑作だった『Second Edition』より、さらに不穏で実験的な1枚となりました。ベーシストのジャー・ウーブル脱退に端を発し、ベースレスという変則的な編成で望んだ本作では、ドラムスがかなり強調され、結果的に最もメロディを感じさせるのがドラムスという興味深いサウンドとなっています。宗教的な雰囲気を醸しだすライドンの呪術的な唸りと無国籍なリズム・パターンは、おそらく当時としてはかなり実験的に捉えられたでしょうし、かつてのファンを突き放すものでもあったでしょう。それが、今日のリスナーにはオルタナティヴでポップ(は言い過ぎかも知れませんが)に感じられ、まさに聴くべき価値のある1枚となっています。
ただ、ライドンのことですから、おそらくこの実験的スタイルも成り行きから生まれたものであろうことが想像できますし、例えば呪術的な匂いをマジメに捉えて美化してしまうのは早計かもしれません。でもそれがギミックだったからと言って、思い切ったスタイルで攻めに徹した“パンクス”であったことは、誰もが認めざるを得ないと思うのです。 (Sep 2007)
Stealing Of A Nation
Radio 4
2004/US
ストロークス、!!!、ラプチャー、アニマル・コレクティヴと、今日の様々なシーンを担うエース級が次々とニューヨークから登場しています。2000年代前半、ロック・シーンの中心は明らかにNYだったワケです。このレディオ4もそうした系譜で語られる重要バンドで、「DFA」にプロデュースされたことなどから一気に注目の的となりました。
本作では、ポスト・パンク、ディスコ・パンクといった旬のキーワードをベースに持ちながら、ラフなだけでなく完成度が向上。唸りを上げつつも整ったリズムや、かつてのUKダンス・ロック風のメロディで聴きやすさも抜群です。あれもこれもと欲張っていない分、ターゲットが明確になっていると思います。
ミックスも流行のモロNY風ではなく、どこかUK色を感じます。クラッシュやP.I.Lをルーツに持つことも起因しているのでしょうか。ただし、歌詞(僕の所有しているCDは輸入盤なので、正直内容はわからないのですが・・・)はNYを題材にしているらしく、政治的言及も話題の彼らですから「UK的」という表現は的外れなのかも知れませんけれど。
強靭な4つ打ちにダンサブルなベース・ライン。大ヒットの『Party Crashers』を中心に、かなり気持ち良いグルーヴで溢れた一枚です。 (Jan 2006)
The Stranded Whale
Seaside Stars
2006/GER
ハンス&アンディの2人組、シーサイド・スターズの2ndアルバムが、前作から実に5年もの月日を経て僕らの手元へと届きました。
内容はと言えば、これでもかというくらい直球のギター・ポップ。カラっとしたセミ・アコの音を中心に据えた、疾走感のある爽やかな楽曲が次々と飛び出す、(必ず引き合いに出される)ティーンエイジ・ファンクラブ直系のアルバムと言えるでしょう。これだけティーンエイジの名前ばかり出されたら、さぞかし気分も悪いのではと思えば、ハンスは彼らのオープニング・アクトも務めたのだとか…。
ジャケ写からも分かる様に、テーマはズバリ夏。元気よく夏に向かっていくサウンドは、必ずやインディ・ギター・ポップ好きのストライク・ゾーンを捉えることでしょう。若いアンディはともかく、30歳を超えたハンスが青春真っ只中なサマー・ソングを奏でるのは結構気恥ずかしいものもあるのでは、なんて考えてもしまいますが、やっぱり良いものは良い、歳なんて関係ないなと実感できます。そう言えばパステルズもヨ・ラ・テンゴも、ずっと素敵ですもんね。
ヴォコーダーで軽いフックをかませたりする辺りは、キャリアの成せる技でしょうか。ただ、曲によってはシンバル系の音が頂けないですね。ここが引っ掛かってのめり込めない人は絶対いると思います。 (Jul 2006)
Cut
The Slits
1979/UK
ポップ・グループの傑作1stアルバム『Y』を手掛けたデニス・ボーヴェルがプロデュースした、ガールズ・パンク・ダブ・バンド、スリッツの1st。何と彼女たち、リリース当時は高校生くらいだったらしいですね。びっくりです。
ライオット・ガールズの元祖として90年代に再評価され始めた時点では、個人的にはサラっと聴いただけで終わってしまっていました。しかし近年のポスト・パンクの台頭、ニューウェーブの新解釈の流れでようやくピンときたのが本作の音像でした。2000年になって聴き直して、その新鮮な空間にすっかりやられてしまいました。『スリッツ良いってみんなが言ってたのはこういう事か!?』なんて・・・、遅いですね。お恥ずかしい話です。
ブーストされたベース、チャカチャカした硬いギター、そして特徴的な音色のドラム。まさにニュー・ウェーヴ、パンク、ダブの良いトコ取り。アリ・アップもこうして再度スポットが当たって、改めてすごく魅力的な人だと認識しました。
象徴的な『So Tough』、キャッチーな展開が気持ち良い『Typical Girls』、死ぬほどカッコイイ『I Heard It Through The Grapevine』など、名作揃い。ジャケも含めて必携アイテムです。 (Jan 2006)
The Peel Sessions
The Slits
1988/UK
僕にとってザ・スリッツは掛け値なしに「カッコイイ!」と思える数少ないガールズ・バンド。彼女たちのファンになって以来夢中で聴いているレコードのひとつが、この77年、78年、そして81年のセッションをコンパイルしたBBC放送「ジョン・ピール」音源、『The Peel Sessions』です。
現行品には全10トラックが収められていますが、そのうち実に7曲目までが、何と1stアルバム『Cut』リリース前のセッションだったことになります。デビュー前からクラッシュのツアーに同行したりと、シーンの注目株だったことを踏まえても、やっぱりたいしたものだと驚かざるを得ません。これら初期の7作品はどれも若い躍動感に溢れ(実際に若い!10代半ばですよ!)、レゲエ色を深めてダウン・ビート化された『Cut』での諸作に比べて、よりパンキッシュでストレートな内容。『FM』のイントロなんて血が騒いで仕方がありません(意味のわからないカウントも愛らしいです)。アリ・アップのハスキーな歌声も最高です。しかも、77年と78年のセッションではアリ、ヴィヴ、テッサ、そして後にレインコーツに移籍するパルモリヴという構成によるレアな演奏を楽しむことが出来るのです。
また、ポップ・グループのブルース・スミスがドラムスを務め、ネナ・チェリーがコーラスで参加している81年のセッションも素晴らしい内容でして、パンク+レゲエ+ダブというスタイルを完全に自分たちのものとして消化したバンドの充実が伝わってきます。(Jun 2007)
The Smiths
The Smiths
1984/UK
スミスのバンド名を冠した1枚が店頭に並んだ1984年2月は、ロック・カルチャーにおける重要な瞬間だったと言えるでしょう。デビュー・シングル『Hand In Glove』でのチャート・アクションが華々しいとは言えなかったバンドの門出を思えば、9ヶ月後に全英2位にランクインしたこの1stアルバムのリリースは大成功であったとも考えられました。
しかし、当時のメディアやリスナーの声と言えば、酷評ばかりだった様です。それはそうでしょう。『This Charming Man』の様なフックは皆無。じめじめとした歌詞に平坦なメロディ・ライン。全編通して山場らしい山場もなく、淡々と経過していく10曲に重要性をいきなり見出すことなど、大概不可能だったはずです。
しかし、この『The Smiths』がそっと聴衆の心に残した傷跡は、後々になって効いて来るのです。僕たちの心の中で、いつの間にか、一番大切な1枚になってしまっているのです。
3分ポップスへのシンパシーを誰より声高に叫んでいるにも関わらず、モリッシーとジョニー・マーの表現方法がこんなに歪(いびつ)であったことは、今もって衝撃だとしか言い様がありません。「音楽の専門的なスキルのなかったモリッシーが、若さと才能を無鉄砲に振りまわし、こんな特異な作風にしてしまったのだ」。そんな風に解釈すれば説明こそつきますが、結果として「歪でありながらも歴史的な名作」に仕上げてしまったのですから、そうそう他に例が見当たりません。そして、その歪さこそが、スミスを愛さずにはいられない衝動を共振させるのです。
この1枚があるからこそ、スミスは文学なのであり、アートなのであると思います。僕個人の感覚で言えば、「スミスが好きで、この1stが好きでない」人を、僕は信用できないのです。

( →『The Smiths』全曲レビュー) 
Hatful of Hollow
The Smiths
1984/UK
モリッシーやマー、「ラフ・トレード」レーベル、それにファンにとっても、ザ・スミスの1stアルバムはもっと別格のモンスターでなければいけませんでした。その想いが、この1枚を『The Smiths』から僅か9ヶ月という短いインターバルでのリリースに踏み切らせた様です。シングルの収録作品や、既成曲のライヴ音源(ラジオ用の録音)で構成された「編集アルバム」であるにも関わらず、その内容が実に優れていたがために、『Hatful of Hollow』は正式な2ndアルバムであるかの様に扱われています。かくしてスミスの“格”は、1stに落胆した人々にとっても、すぐさま高い位置へと再修正されたのでした。
全16曲の内、ラジオ用のヴァージョンが実に9曲にも及んでいます。今もなお、貴重音源の正式リリースがないことを考えても、ファンにはとても嬉しい構成だと言えるでしょう。1stアルバムの価値が再考されている現在でも、この『Hatful of Hollow』が重要視されているのは、やはりラジオ・セッションに尽きるかと思います。少ない音数での不自由なアレンジ、それでいかに効果を上げるかというテーマに挑むマーとロークの手腕も聴きどころです。
アルバムとしての整合性で言えば一歩譲らざるを得ませんが、曲順はなかなかに味わい深いです。A面を『Still ill』が、B面を『Please Please Please Let Me Get What I Want』がシメる辺り、唸るものがありますし、傑作シングルのひとつである『William, It Was Really Nothing』で幕を開けるのも、このアルバムの大きなインパクトとなっています。
ちなみに現行のジャケットは、モデルの男性が拡大されたものに差し替わっているのですが、僕は断然ライトブルーのバックが好きなので、敢えて写真も古いヴァージョンをスキャンしました。音は絶対、現行品の方がいいんですけどね。

( →『Hatful of Hollow』全曲レビュー) 
Meat Is Murder
The Smiths
1985/UK
本作をもってスミスは全英1位の栄誉を遂に獲得し、事実上の成功者となります。前作(実質2ndアルバムとしての役割を担った『Hatful of Hollow』)が「帽子いっぱいの空虚」という文学的なタイトルであったのに対して、本作は「肉食は殺戮」、ちなみに次作が「女王は死んだ」と、直接的で攻撃的な言葉が掲げられていることを見ても、スミスはもはや弱者ではなくなったことは明らかです。例えモリッシーが、本作を象徴する楽曲『The Headmaster Ritual』において「逃げ帰りたい」と歌っていても、その歌声とバンドの力量は強靭さを増し、自信に溢れ、また攻撃にせよ主張にせよターゲットが明確になり、的を射てきています。スミスはこれまでの役割を終え、成功者としてシーンをリードしていく立場へと姿を変えたのです。
かくして、アルバム『Meat Is Murder』のサウンドは変幻自在のスタイルでファンを楽しませ、1stの時の様な「どこをとっても似かよったサウンド」なんていう酷評とは無縁の存在となりました。
しかし、僕はいつまでたっても、この作品を好きになれずにいます。丁度、ピクシーズの3rd『Bossanova』と同じ感覚なんですが、商業的には成功を収め、また多くのファンに支持される人気作でありながら、バンドのキャリアにおけるエアポケットみたいに僕には感じられるのです。楽曲単体で見れば、『Well I Wonder』の様に好きな作品はたくさんあるのですが、何故かアルバムとしては僕の心に別段事件を起こしてくれませんでした。「『Barbarism Begins At Home』の完成度の低さは正気の沙汰か?ライヴでの魅力の半分も伝えられないのではないか?マイクにはグルーヴが理解出来ていないのか?」。「『What She Said』は目先を変えることに比重を置きすぎていないだろうか?あのサウンドはそもそも必要だったのか?」。・・・意地悪な疑問ばかりが浮かんでしまいます。悪い意味で“当時のアメリカン・ヒットチャート向けの音楽”、そんな風に聴こえてしまうのです。
スミス・ファン失格かも知れませんが、このアルバムは過渡期の作品と考えています(それだけに当のジョニー・マーの『Meat Is Murder』評が高いことが尚更心苦しいです)。哀しいくらいに1985年という時代の負の遺産たる音質をまとってしまっている『Meat Is Murder』。しかし、会心の大逆転弾となる1枚の登場は、もう既に1年半後に迫っているのです。
The Queen Is Dead
The Smiths
1986/UK
マネージメントやレコード会社とのトラブル。ロークのドラッグ問題。度重なる受難がバンドを襲う中、恐らく80年代に発表された全てのレコード中でも屈指の名盤と言えそうな『The Queen Is Dead』はリリースされました。どんな賛辞を以ってしても言い尽くせない、最強の1枚とここに断言したいと思います。
ただし、最強という言い回しが本作に相応しいかどうかは難しいところです。と言いますのも、スミスが本来放棄してきたハズのマッチョイズムを、前作『Meat Is Murder』や、この時代のライヴ音源で僅かに感じさせる最悪の出来事を思えば、少なくともここでは本来的な繊細さを取り戻している以上、妙に力感のある表現が似つかわしくないのでは、なんてどうでもいいコトまで考えてしまったりもするわけです。いずれにせよ、スミスNo.1の出来栄えであることだけは間違いないと思います。
僕が(前作『Meat Is Murder』を毛嫌いしていることを差し引いても)本作をここまで推す最大の理由は、音の良さにあります。単に高音質か否かという理論においても前作に比べ向上が見られますが(エンジニアは同じスティーヴン・ストリートですが、スタジオは違う様ですね)、なんと言ってもアンサンブルに決定的な差が感じられ、それが音の良さに繋がっています。この『The Queen Is Dead』ではジョニーの活躍がよく語られます。確かにプロデューサー的な役回りで言えば、彼の貢献あってこその本作なのですが、極論であることを承知で言いますと、サウンドの軸はむしろベースとドラムにあると僕は考えます。『Meat Is Murder』のサウンドからは、「デジタルで端折った音域をEQで強引に持ち上げたときのような虚しさ」とか、単純な音の細さとはまた別な「錆びた針金のような荒廃した線の細さ」を連想させるに比べて、ここではざっくりと手ごたえがあり、中域に芯とコシを感じさせる、地に足の着いたサウンドを響かせています。その勝因とも言えるのが、彼らリズム隊の活躍なわけです。ロークはついに正当な評価を受けることがありませんでしたが、相当優れたベーシストだと思いますので別段驚くことでもありませんが、マイクはてんでリズム感のない力任せなドラマーでしかなかったコトを思えば、本作における彼の飛躍的な成長は、是非注視したいポイントです。
ただし僕が言いたいのは、『The Queen Is Dead』でのジョニーのプレイが精彩を欠いた、としたいのではなく、最初から優れたプレイヤー/アレンジャーであったジョニーに対して、他の3人のミュージシャン・シップがようやく向上してきて、目立ちやすくなったのだということなのです。兎にも角にも、バンドの軸が安定することがどれだけグルーヴや音質、果てはミックスに至るまでに好影響を与えるのかがわかる例だと言えそうです。
スミスのアルバムを語るに、音質やアンサンブルに終始するのはナンセンスな気もしますが、逆に言うと、これまでの例に漏れず、相変わらず楽曲も世界観も文句のつけようがなく素晴らしい。ですから、バラエティ豊かなアイディアを一本の強靭な軸に纏め上げる、言うなれば“バンド力”の向上にこそ、本作のキモがあると思えるのです。前作では、単純にとっ散らかってしまいましたからね。
個人的位置づけで言うと、1st『The Smiths』はいちばん好きなアルバム、そして『The Queen Is Dead』はいちばん完成度が高く、人にオススメしたいアルバムといったところでしょうか。 (Mar 2007)
【Boot】
The Troy Tate Sessions
The Smiths
1984/UK
スミスの1stアルバム『The Smiths』に幻のお蔵入りヴァージョンが存在する。ファンにとってはあまりにも有名なこのミステリーの正体とは、ジョン・ポーターでなく、トロイ・テイト・プロデュースによるセッションです。数多くのブート盤で耳にすることが出来るトロイ版『The Smiths』ですが、ここでは比較的最近出回っているジャケットのものを取り上げています(ちなみに僕の所有品はデジパックです)。
正規盤の項をご参照頂ければお分かりの様に、僕はかなりの1st信者です。それだけにと言うべきか、それなのにと言うべきか、とにかくトロイ版もどうしようもなく大好きなのです。もしトロイ版がそのまま正規盤としてリリースされていたら一体どんな曲順で、どの楽曲のどのテイクが採用されたのかは知りませんが(詳しくなくてごめんなさい)、例えばこのCD同様の内容であったとしたら、恐らく今と同じ様にスミス・フリークになり、また1stを一番好きになっていたでしょう。それほどトロイ版も素晴らしいわけです。
まず嬉しいのが、僕が大のお気に入りの『Jeane』、『Wonderful Woman』が収録されている点。他にも『Handsome Devil』、『These Things Take Time』といったお馴染みの作品が採用されています。逆に『The Hand That Rocks The Cradle』及び『Still Ill』は入っていません(後者が無いことは致命的なマイナスでしょうね)。
アレンジ面でも、決して正規盤ヴァージョンに引けを取っていません。有名なポイントとしては『Suffer Little Children』のラスト。その物悲しさを一層引き立てるピアノとグロッケンシュピールのモノローグが聴こえてきます。『Pretty Girls Make Graves』もトロイ版に分があるでしょう。グルーヴは難ありですが、ギターの装飾プレイやリヴァース音、それに何と言ってもチェロ(?)のダビングは絶対に正解だったと思います。これらは当時のモリッシーにすればオーヴァー・プロデュースに感じられたのかも知れませんが、良いフックになっていただけに、ボツになったのが惜しいところです。感情が入って聴こえる『Hand In Glove』も泣けるほど素晴らしいですし、妙にラウドな『These Things Take Time』も、曲調を考えたらこのヴァージョンが一番良いくらいかも知れません。ただし、僕が最も好きなマーのプレイが飛び出す『What Difference does It Make?』は、10歩も20歩もジョン・ポーター版が勝っていますし、また、どれも正規盤ありきで、つい新鮮味で評価が高くなってしまう側面も否定は出来ませんが・・・。
いずれにせよ、『The Smiths』のアナザー・サイドとして併せて楽しむのに最適な、もはやブートでは済まされない必携アイテムだと思います。
【EP】Live At Amsterdam
Meervaart 1984
The Smiths
1984/UK
小さな紙のスリーヴに入った8cmCD、この雰囲気のよさに惹かれて購入したEPの正体は、その名の通り84年アムステルダムでのライヴ音源でした。
後にもう少し詳しく調べてみると、どうやら87年にイタリアでリリースされたバイオグラフィの付録みたいなものらしいですね。84年4月21日に「ヴァイナル誌」主催のライヴが行われており、その時のセットから4テイクを抜き出したものの様です。実際には10曲以上が演奏されているので、おそらく全ての模様が収められたブートなんかもあるのでしょう(例によって勉強不足で申し訳ありません)。
ファン心理の悲しい性か、スミスのブート盤を見かけると結構な割合で買ってしまうので、もう何枚もラックに収めてありますが、数点を除いてなかなか特別な思い入れが出来ることもありません。そういう意味では本作もそれほど重要な作品とは言えないかも知れませんが、音質は良好で、リズム隊、特にライヴでは絶対の信頼性を誇るローク(無論、オーヴァー・ドーズが過ぎる時はダメでしょうが・・・)のベースが気持ちよく鳴ってくれるサウンドはお気に入りです。
『This Charming Man』、『Still Ill』、『Miserable Lie』、『What Difference does It Make?』という選曲も魅力的です。 (Aug 2007)
Suicide
Suicide
1977/US
ニューヨークのアンダーグラウンド・シーンで一部の熱狂的支持を集めた、マ−ティン・レヴとアラン・ヴェガから成るスーサイド。その1stアルバムです。
本作を、敢えてインダストリアルや初期テクノとは捉えずに、パンクそのものだとして扱う風潮が僕は好きです。ありふれたパンクスが如何にスタイルのみに固執していたかを皮肉ったニュアンスも感じますし。まぁ、最もスタイルに重きを置く自分への自戒も込めて、なんですが。
それにしても何故こんなにチープな音に多くのロック・ファンが惹かれてしまうのでしょうか。ミニマルに鳴らされる曇ったリズム・ボックス、薄いシンセ、そして静かな狂気を湛えたヴォーカル。ほとんどそれだけで構成されたシンプルなサウンド。しかし実際にスーサイドのレコードはどうしようもなくオルタナティヴであり、ロックン・ロールであり、オーディエンスの心を駆り立てて止まないのです。ストゥージズやソニック・ユース、そしてヴェルヴェッツらと同等のエネルギーを有していると言ったら暴論でしょうか。ただ、こうした面子が持つエネルギーがスタイルによって得られていたワケではなかった事を、スーサイドが教えてくれている様にも思えるのです。
現行品のCDはライヴ音源が付いた2枚組で、チープが故の凶暴さを、より長時間に渡って堪能できる仕様となっています。 (Feb 2006)
Colossal Youth
Young Marble Giants
1980/UK
英国はウェールズで結成された3人組、ヤング・マーブル・ジャイアンツ。80年にあの「ラフ・トレード」からリリースされたバンド唯一のアルバム作品『Colossal Youth』は、当時こそ大きな注目を浴びることはありませんでしたが、今日では“アート性の高い名盤”、“ネオ・アコースティックの礎”という評価が定着しています。
個人的にもとにかく大好きな一枚です。拙くもキャッチーなプレイ。極限まで削ぎ落とされた、余分のないミニマルなアレンジ。キッチンで鼻歌でも歌うかの様に力みがない、飾らないヴォーカル。でもちょっとひねくれた眼差し。そのどれもがあまりに魅力的で、何回リピートしても飽きません。
彼らのトラックで面白いのは、リズム・マシンが大いに活用されていることです。当時のリズム・マシンが持つチープで淡々とした味わいをファニーに活かしていた彼らは、ひょっとしたら後年このテのサウンドが脚光を浴びることを予見できていたのでしょうか。・・・まぁそんなこともないのでしょうが、今に通ずるセンスを持っていたのは間違いないでしょう。コンプをかけたリズム音が本当に愛らしいです。
そうしたリズム・マシンとコンビを組むのは、フィリップ・モクサムのベース。実質、YMGサウンドの軸となっているのはこのベースで、時に饒舌に歌ったりしながら、楽曲を引き締めています。そこへ彩りを加えるのが、フィリップの兄でYMGのキーマンでもあるスチュアート・モクサムのエレクトリック・ギターとオルガンです。歪ませないギターで時にハっとするリフで切り込んできますが、同じくノン・エフェクトに近いベースとの競演を聴いていると、友人の部屋で楽しくセッションしているような、学生時代のリラックスした雰囲気を思い出します。また、チープでラウンジィなオルガンも実に僕好み。そして、どのパートも決してテクニカルでないところが、インディ好きにはたまらないワケです。
そうしたバッキング・トラックに乗るのが、紅一点であるアリソン・スタットンの朴訥なヴォーカルです。彼女はツアーに疲弊して体調を崩してしまい、YMGは解散に向かうのですが、そうしたナイーヴなエピソードまで含めて、アリソンこそいかにもバンドを象徴する存在だった様な気がします(余談ですが、YouTubeにアップされている『Colossal Youth(タイトル曲にして名曲!)』のライヴ映像をみて、おさげ髪で淡々と歌うアリソンの魅力にすっかりやられました)。
近年では7インチ音源などを別ディスクにコンパイルしたデラックス・エディションCDが流通しており、新しいファンの方でも簡単にYMGの全体像を把握できるようになっています。嬉しいことですね。 (May 2010)
Urban Gamelan
23 Skidoo
1984/UK
近年、ポスト・パンクやニュー・ウェイヴの需要が高まったことで、23スキドゥの音源を求める声も次第に大きくなりました。それを受けるカタチで、この度主要作品が嬉しいリイシュー(僕が持っているのは輸入盤CDですが、何と紙ジャケで国内盤もリリース済みです)!ここでは1984リリースの3rdアルバムを紹介いたします。
井上薫らのスピンで一部では話題だった本作でしたが、最も注目されたのは、やはりケミカル・ブラザーズの元ネタとして『F.U.G.I.』が紹介された時でしょう。この『F.U.G.I.』は、人気の12インチ『Coup』と同じトラックを下敷きにした中毒性の高い1曲。ロック、ハウス、ファンクをクールにミックスし、得意のパーカッションをふんだんに散りばめた構成は、まるで後のブレイク・ビーツ全盛を予見していたかの様です。さらに全体を見渡せば、インダストリアル、ダブ、エスノといった実に幅広い音楽要素が登場し、また、アルバム・タイトルにも象徴的な擬似ガムランがフィーチャーされていたりと、まさにNW時代ならではの自由なミックス感覚が発揮されていることがわかります。たとえ技術や知識の裏付けがなくても、アイディアが沸いたら照れずに様々な要素を注ぎ込んでいくスタイルが、一周まわって今日の風潮にフィットしたのだと考えられます。
今回のリイシュー盤で最も嬉しいのは、先述の『Coup』もボーナス収録されていることです(個人的には『F.U.G.I.』の方が好きですけれど)。さらに『Language』の12インチ音源もコンパイルされており、ファンには申し分のないアイテムとなっております。ジャケもカッコイイですしね。 (Aug 2009)


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