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Shine Through
Aloe Blacc
2006/US 【Stones Throw】
「ストーンズ・スロウ」のコンピで耳にして以来気になっていたアロエ・ブラック、その1stソロ・アルバムはかなりヤバイ1枚です。
まず、楽曲の幅が広い点が素晴らしい。いや、実際は広ければいいってものじゃないんですが、決して散漫になることもなく、「ストーンズ・スロウ」らしい先進的なビートからフォーキーなサウンド、オーガニックなラテン〜アフロ・ミュージックまで自由に行き来しています。これらを、(2曲を除いて)アロエ・ブラック自らが手掛けていることが驚きです。彼は、このジャンルには珍しい“ミュージシャン”としての素養を強くもったMC/トラックメイカーなのです。
そして、全編に渡ってとにかく美しいです。エマノン(DJエグザイルとのユニット)名義の作品でも度々披露されてきた自慢のハイトーン・ヴォイスによる、唄の数々。そう、本作はラップよりも圧倒的に歌モノが多いアルバムになっています。上手いというよりは、歌心=ソウルを感じさせる彼のヴォーカル、これが何とも美しいのです。じわじわ「来る」感じをぜひ堪能してみて下さい。トラックも同様で、マッドリブ、オー・ノーが手掛けたスモーキー/アンダーグラウンドなトラックがカッコイイのは言うまでもないんですが、アロエ・プロデュースによるトラックの個性的な美しさは、注目に値すると思います。特に、ブラジルの地平へとフワリと連れて行かれるかの様な『Nascimento (Birth) - Scene II』での感激といったら、ちょっと言葉では説明できません。
さて、大変なのはショップの店員さん達でしょうか。純然たるヒップホップでもなければ、まんまソウルでもR&Bでも、ましてやラテンでもない。でも、そのどれをも内包しているのですから。どの棚に置いたらいいやらと迷うことになるでしょう。僕個人の意見としては、どの棚に飾られたとしても、多分その中で2006年一番素晴らしかったレコードだと断言したいと思います。 (Jan 2007)
3 Years, 5 Months,
And 2 Days in the Life of...
Arrested Development
1992/US 【Chrysalis】
アーシーなアプローチでヒップホップの新しい立ち位置を獲得してみせたアレステッド・デヴェロップメント。このデビュー・アルバム1枚で、世界的な成功を収めました。
この名盤の中核を成すのは、やはり大ヒット・シングル『Tennessee』、『Mr. Wendal』、そして『People Everyday』の3作品だと思います。まだ高校生だった92年当時には、オーガニックで土臭い手触りがかなり新鮮でした。イントロから抜群にカッコ良かった『People Everyday』は、個人的に、原作より先にスピーチ版を体験したのでした。歌心がある『Tennessee』も名作ですね。10数年が経過した今聴き返してみても、泣けるほどのスピリチュアルさは伝わってきます。流行り廃りが移り変わっても、気高いスピリットが偽物でなければ聴けるものなんですね(とは言え、それ自体ギミックだとする向きが多いですけれど・・・)。同様に、アフリカへの想いがトラックに結実した『Washed Away』も素晴らしいです。
そして、本作最大の武器はキャッチーさです。ポップス・フィールドまでも巻き込んだ「とっつき易さ」にこそ、彼らの真髄があるのだと思います。 (Jan 2006)
The Low End Theory
A Tribe Called Quest
1991/US 【Jive】
永遠のクラシックとして今なお愛される、ア・トライブ・コールド・クエストの2ndアルバムです。
先日、新宿のレコード屋さんをふらふらしていたら、ふいに店内に流れ出した聴き覚えのあるイントロ。大傑作へと導くウッド・ベースのフレーズは、あの当時とまったく変わらない、身震いするような衝撃を改めて僕に感じさせてくれました。久々に聴く、大音量の『Excursions』。勝負を一撃で決めるのは、一発目に「タン!」と鳴らされるスネアです。・・・あぁ、やっぱりトライブはカッコイイ!急いで家に帰ると、棚から本作を引っ張り出してさっそくiPodに仕込みました。それを繰り返し聴きながら思い出すのは、90年代前半、ネイティヴ・タンに傾倒していたことです。デ・ラ・ソウルからはパーティの楽しさを、ジャングル・ブラザーズからはアフロとファンクのスピリットを、そしてトライブからはジャズ・ネタの味わい深さを学んでいた気がします。
身体の軸が疼くようなグルーヴ、コクのあるディープな質感。サンプルのセレクトにしても、ロン・カーターをフィーチャーするセンスにしても、とにかく時代をリードしていたア・トライブ・コールド・クエスト。多くの模倣者を出した『Scenario』も収録した、ヒップ・ホップの金字塔的作品です。 (Mar 2008)
The Beatnuts
The Beatnuts
1994/US 【Relativity】
ネイティヴ・タンの“ビート狂”ことザ・ビートナッツの1stで、サイコ・レス、ジュジュ、ファッションの3人編成としては唯一のアルバム作品。通称『Street Level』です。
ディガーとして知られる彼らが織り成すトラックの数々は、厳選されたネタを見事に活かした味わい深いものばかり。そのサンプリング・センスはアートワークに至るまで行き届いており、前年にリリースしたEPにてハンク・モブレーのジャケで有名な矢印を引用し、この1stアルバムでも引き続きフィーチャーしています。こうしたオマージュからもわかる通り、ジャジィな質感が本作最大の特徴になっています。同じくジャジィなトラックを武器としたア・トライブ・コールド・クエストにも引けをとらないくらいドープで完成度が高くて、今改めて聴き返してみても、ちっとも経年劣化を感じません。大傑作だと思います。
有名な『Props Over Here』もいいんですが、全曲ハイ・クオリティ(だけどロウ・ファイ。埃っぽさがたまりません)なので、アルバム単位で長く愛聴できるのでしょう。ちなみに、個人的には『Yeah You Get Props』のベースの気持ちよさにやられております。 (Jul 2009)
With Lasers
Bonde Do Role
2007/BRA 【Domino】
あのディプロが仕掛けるレーベル「マッド・ディセント」からリリースしたEPが話題になり、前評判が高かったボンヂ・ド・ホレの1stアルバムが昨年遂にリリース!期待通りの楽しい1枚となりました。
ボンヂ・ド・ホレは女1人・男2人から成る、バイレ・ファンキ・ユニット。ここ2〜3年はM.I.Aらの大活躍や傑作コンピの流通によって世界中がバイレに沸いていたこともあり、「グループ形態でバイレをやるボンヂ・ド・ホレってのが、かなりスゴイらしい」なんてウワサを聞くにつれ、僕らも耳にする日を心待ちにしていました。
僕が彼らを好きな理由は2つあります。ひとつは男女の2MCが魅力的なことで、2人とも能天気でお下品な感じがして(リリックを調べたワケではないので、もしシリアスな内容なのでしたらごめんなさい)、そこがすごくイイ!映像で観ると、特にマリナのハジケっぷりが見事ですね。元来バイレ・ファンキはファヴェーラというスラムで生まれた、リスクと不安とセックスとハッピーとが複雑に入り組んだ性格を持つパーティ・ミュージックとのことですから、ボンヂ・ド・ホレのパフォーマンスは言わば必然なのかも知れません(ただし彼らはクリチバ市出身らしいです)。もうひとつは、ロックとの相性の良さです。度肝を抜くような大ネタ使いが特徴のバイレ。彼らが得意とするネタはスタジアム系のハード・ロックでして、ディストーションの掛かったブ厚いリフや、ライト・ハンドが頻繁に登場します。これがチープなリズムと組み合わされると独特の面白みを生み出すのです。
ただ、実に惜しいことに、紅一点のマリナが脱退してしまいました。彼女の何とも言えない魅力こそがユニットのキモであったことは否定のしようがなく(特に『Solta O Frango』のPVでの彼女はカワイ過ぎでしょう!ビデオとしても良く出来ていて大好きです)、正直言ってバンドの存続が危ぶまれる大ピンチだと思います。バイレというスタイルも、マスコミや僕らの様な身勝手なリスナーによって消費され尽くされてしまう可能性もあるので(もちろん、コアなユーザーがキチンとフォローしていくことでブラッシュ・アップされていく可能性だってありますが)、残ったメンバーには、バイレをさらに進化させる新たな仕掛けをぜひ成功させて欲しいと思います。新生ボンヂに期待してますよ。 (Jul 2008)
Be
Common
2005/US 【Geffen】
原点回帰を掲げて、よりベーシックなスタイルに立ち返った、コモン渾身の1枚です。
カニエ・ウェストが作品の大部分を手掛けたアルバムでして、彼の2ndソロがあまりに良かったので、期待大でハードル上げて聴いたのですが、これまた傑作でした。いかにもカニエらしい良質なトラックが並び、またMCとして頻繁にラップも披露しています。また、本作には話題のレーベル「Getting Out Our Dreams」も噛んでおり、シカゴ最強コンビ、コモン&カニエの絆が何とも強固に感じられます。
コモンのアルバムとしては、6作目にあたる本作。一度は去った、シカゴへの想いの再燃が伝わってくる内容となっています。その意味でも『Chi-City』での力強さはハイライトと言えるでしょう。有名な『The Corner』や『Go!』も、聴きどころ満載の素晴らしいトラックです。特に前者では、何とラスト・ポエッツをフィーチャーしており、コモン→カニエ→ラスト・ポエッツと繋がる流れがすごく好きです。『Go!』はメロウなトラックがいい感じですね。 (Jan 2006)
Two/Three
Dabrye
2006/US 【Ghostly International】
タッド・ムリニックスがダブリー名義で「Ghostly International」からリリースした1枚は、個人的にあらゆるヒップホップのレコードの中でも5本の指に数えられるほどの傑作だと思います。
デトロイトの血としか言いようがないと思われる、重心の低いところでドクドクと脈打つドープさ。先進的なビート。デトロイト・テクノやハウス、エレクトロニカを自然に消化し、デジタルとアナログを自由に行き来する立ち振る舞い。映像を想起させる立体的でスモーキーなサンプル/音色使い。そのどれもが一級品です。ただし決して品行方正で上等な代物なんかじゃなく、ひどくくすんだロウな美学における一級品なのです。もし『Two/Three』のヤバさを今感じ取れない人がいるのならば、どこかのアンテナが機能不全を起こしていることを一度疑ってみるべきかも知れません。そんな乱暴な仮説を立てたくなるくらい、ダブリーは今最も注目すべきプロデューサーだと思うのです。
恐ろしくクオリティの高いトラックの上を彩るのは、ジェイ・ディラ、MFドゥーム他、豪華MC陣です。その人選の良さはぜひクレジットで確認してみて下さい。正直、ダブリーの新作では多くのトラックでMCがフィーチャーされているという情報を聞いた時は、少なからず不安も感じました。ですが、実際こうして手にしてみれば、決してタッドのビートを相殺してしまう様な無残な結果になっていないことがわかり安心しました。
とにかく、コンプとフィルタリングで完璧な音色に磨き上げられた『Special』でのブリブリとしたベースや、『Pressure』でのズシャっとしたキック+ハット同時打ちの音色を、まずは体感してみて下さい。音フェチならずとも、脳天とハラワタの奥底を揺さぶられる感覚を味わえること間違いなしですよ。 (jul 2007)
Endtroducing.....
DJ Shadow
1996/US 【Mo'Wax】
既にDJシャドウの1stアルバム『Endtroducing.....』の凄さはさんざん語り尽くされましたが、やはり“サンプルネタのみで構築されている”という事実は、改めて驚異だとしか言いようがありません。その事実を知った時の衝撃は、10年以上を経てなお鮮明に思い出されます。
膨大なヴァイナル盤が次々と彼のテクニクスの上でかつての輝きを取り戻し、その断片がMPCやDAWに吸い込まれては緻密なエディットを施され、新たなグルーヴやエモーションを宿してDJシャドウの新曲として生まれ変わる。この行程に、いかに手間とセンスと愛情とが注ぎ込まれているかは、想像に難しくありません。アルバム丸ごと1枚、その些細な1音1音に至るまで、そんな大変な行程を踏んでいるわけです。本当に頭が下がります。
とは言え、求められるものは“過程”ではなく“出音”です。例え偏執的なディグとエディットの行程を経てようとも、音楽やアートとしての魅力に欠けては本末転倒になってしまいます。その点、DJシャドウの1stからは、ミュージシャン・シップを感じさせる素晴らしい出音が響いてきます。ドープなトラックではより深く、ファンキーなトラックではより軽快に、(当時の流行語を敢えて持ち出すならば)アブストラクトなインスト・ヒップホップを聴かせてくれます。
リズム・トラック、とりわけドラムスのプログラミングでは、彼の真骨頂を味わうことができます。ドラム・スティックがリムも同時に捕らえた「カン!」という気持ちのいいスネアも絶妙に織り交ぜながら、或いはフィルタをかませて変化をつけながら、実に“ドラム魂”のこもったリズム・トラックを聴かせてくれるのです。僕の拙い表現力では説明し切れないのがもどかしいのですが、何と言うか、まるでドラマー側から音像を捉えている気分にさせてくれます。それはつまり、ハットが左に定位してあるとかそんな意味ではなく、人が叩くドラムスの旨みみたいなものまで打ち込まれている気がして、結果としてドラマー特有のエンドルフィンが溢れ出している様まで、彼の構築するリズム・トラックには感じられるのです。例えアブストラクト・ヒップホップ・ライクなつんのめったビートにおいても、それは確かに存在していると思います。
その上彼は、上モノに関しても、あたかもダビングしたかの様な自由さでコントロールしてみせるのです。大概、音程のあるサンプル(まぁSEやナレも多いんですが)も複数が同時にレイヤーされており、しかも自然であるあたり、音楽的IQの高さを感じさせます。
とにかく、90年代を代表する作品のひとつと言って過言でないでしょう。『The Number Song』や、人気の『What Does Your Soul Look Like (Part 4)』あたりが白眉と言えそうです。 (Jul 2008)
A Lil' Light
Dudley Perkins
2003/US 【Stones Throw】
今よりもっとマッドリブが活動的だった当時、興味深いエピソードから生まれたトラックが注目を浴びました。つまりこうです、酔っ払ったディクレイムがスタジオ「ボム・シェルター」で録音した鼻歌を、マッドリブがあれこれ手を施して、後に名作と呼ばれるまでになるトラックに仕上げてリリースしました。それが『Flowers』です・・・なんて今さら説明するまでもない話でしょうか。
これに端を発して立ち上がったであろう、このダッドリー・パーキンス名義での1stは、マッドリブ・プロデュースの数ある作品の中でも、個人的に特に気に入っている作品のひとつです。かえってマッドリブの方が酔っ払ってるんじゃないか?と思わせるドープでラリったビートが例によって最高。こうした、メジャー・レーベルでは味わえない質感が、ますます「ストーンズ・スロウ」への信頼を高めるのです。一方、歌うディクレイムも実にユルくていい感じです。ソウルフルだなんてマジメに捉えるのもどうかと思う“脱力ソウル”が何とも個性的で、アブなっかしくてカッコイイです。
個人的には『Flowers』より、『Momma』なんかの方がずっと好きですね。ケムたく、くぐもったトラックとヴォーカルが抜群の相性を見せてくれます。また、唐突に美しく突き抜けた空間に出会う『Falling』との遭遇もハイライトのひとつと言えるでしょう。 (Apr 2007)
Done By The Forces Of Nature
Jungle Brothers
1989/US 【Warner Bros.】
革新的な1stアルバム『Straight Out The Jungle』でシーンに衝撃を与えてから僅か1年後、さらに完成度を高めた2nd『Done By The Forces Of Nature』はリリースされました。レア・グルーヴを中心としたバラエティ豊かなサンプル使いは緻密を極め、それでいて難解さは微塵も感じさせない大らかなトラック・メイキングは前作を凌ぐクオリティに進化。そしてジャングル・ブラザーズ最大の魅力とも言える、アフロセントリックなカラーを絶妙にミックスしたプロダクション・ワークはますます洗練され、まるでNYとアフリカをダイナミックに行き来する様な自由さがここにはあります。同じくネイティヴ・タン一派を形成したデ・ラ・ソウルやア・トライブ・コールド・クエストらと比較しても、JB'sの方がよりアーシーでファンキーな印象ですよね。
ゲストとして先述のデ・ラ・ソウルやトライブのQ-ティップ、KRS-ワンなど豪華な面子が参加。中でもテイ・トイワ氏が携わることで得られた効果は大きく、スタイリッシュなプログラミングからアート・ワークに至るまで、コンセプトの根幹に直接影響し得る部分で存在感を発揮しています。時は89年、まさにディー・ライトの華やかなデビュー前夜というワケですね。
収録楽曲も『What U Waitin' 4?』、『Good Newz Comin'』、『Done By The Forces Of Nature』、『J. Beez Comin' Trough』、『Doin' Our Own Dang』などなど、キャッチーな名曲ばかり!とりわけ冒頭の『Beyond This World』から『Feelin' Alright』へと続く流れには当時から夢中になっておりました(と言っても、僕は2年ほど後追いで聴いていたのですが・・・。ただ91年の時点でも、過去の音源という雰囲気はまったくありませんでした)。ここに挙げたトラック以外も、総じて角のとれた中域重視のリズム・トラックを堪能することが出来る逸品ばかりです。言わば、アナログの良さが全部詰まっている様な音質が最高です。
ニュー・スクールを代表する名盤と言って過言でないでしょう。 (Feb 2010)
Late Registration
Kanye West
2005/US 【Roc-A-Fella】
現在の米ヒップホップ・シーンのキー・パーソンと言えば、やはりカニエ・ウェストと言うことになるでしょう。前作の大成功を受けてのリリースとなった、ソロ2作目です。
実はこれまで今ひとつ興味が湧かなくて、ずっと彼を敬遠していました。しかし、たまたま購入したのでちゃんと聴いてみたら、すごく良いですね。食わず嫌い(店舗なんかのBGMでさんざん耳には入ってきてましたけどね)でした。
印象から言うと、まず全編に渡ってギラギラと派手なアルバムです。カニエが狭義の「ヒップホップ像」に縛られていないからでしょうか、ラップ中心かつヒップホップのフォーマット上に立ったアルバムにも関わらず、枠を飛び越えたダイナミックさを感じさせます。それに、トラックに歌心があるところも面白い。名プロデューサーの手腕を実感できますね。
フィーチャーされている面々もさすがに派手です。目玉のJay-Zは言うに及ばず、CommonやBrandyといった超有名人ばかりです。カニエ自信のラップは随分と酷評もあるみたいですが、個人的にはラップの上手い/下手は重視していないので、気になりません。
これまた派手なサンプルに引っ張られる楽曲群も、なかなかに粒揃いです。広くブラック・ミュージックを愛する在り方が、個々のトラックを立たせています。『Gold Digger』、『Touch The Sky』、『We Major』といった代表作はどれもカッコイイですし、『Late』なんかも大好きです。 (Jan 2006)
Rhythm
Luke Vibert
2008/UK 【Sound Of Speed】
ジェイ・ディラの急逝は、アンダーグラウンドなヒップホップを愛するファンには特に悲しい出来事でした。ワゴン・クライストを始め、数多くの名義にて「ワープ」「モ・ワックス」「ニンジャ・チューン」といった名門から作品をドロップしてきたルーク・ヴァイバートにとってもその衝撃は大きかった様で、この悲劇をきっかけにヒップホップ色の強い本作の制作に取り掛かったと言われています。
本作を聴いた第一印象は、純粋に音楽作品として非常にクオリティが高いということでした。味わい深いヒップホップのビートを軸にしながら、これまで幅広い音楽的アプローチを繰り広げてきたルークならではのアドバンテージが生きた、色彩豊かな上モノが次々と展開するリスニング・ユースな1枚です。テクノ、ジャズ、レゲエ、モンド、ソウルなどを自由自在に経由していく様は一聴の価値アリですよ。
どのトラックも個性的で、熟練のスキルに裏打ちされた高い完成度を誇るものばかりですが、とりわけ僕が夢中になっているのが『Wow! It's Now!』です。メロウでラウンジィなダウン・テンポ作品でして、温かみと浮遊感のある摩訶不思議な世界を楽しめます。
総じて閉塞感のない、優しさとか柔らかな光を感じさせる作りになっていて、何だか胸が打たれた気がしました。 (May 2009)
Shades of Blue
Madlib
2003/US 【Blue Note】
名プロデューサーであり、ラッパーでもあるマッドリブが「ブルー・ノート」からリリースした企画盤で、70'sBN音源のリミックス集。ジャケもすっかりBNしてますよね。
イエスタデイズ・ニュー・クインテット名義での高評価を受けて実現したというこの企画。BNが許した条件がまずスゴイです。つまり「BN過去の音源すべてをマルチ・トラッカーで自由に使用OK」というものなのですが、趣旨から言っても当然とは言え、何とも胸躍る権利だと思いませんか。
こうしてマッドリブが趣味・嗜好の贅沢の限りを尽くしたリミックスが、盤面にぎっしり刻まれたワケです。ドナルド・バードを、ウェイン・ショーターを、ロニー・フォスターを、ホレス・シルヴァーを次々と解体/再構築。足元の覚束ないマッドリブ特有のうねるリズムと、ファットなロウ・エンドが利いた素晴らしいヒップホップとして機能しながら、また同時に超強力なジャズ・アルバムでも在り得る。『Shades of Blue』はそんな稀有の存在なのです。
企画の性格上、オリジナリティを発揮できる機会が少ない中で、しっかり独自色を混ぜ込ませるあたり、さすが現在最も勢いのあるプロデューサーですね。単なるジャズ好きの為の遊び、なんていう範疇を楽々超えてみせるのがマッドリブという男なのです。 (Mar 2006)
Beat Konducta
Vol.1-2 : Movie Scenes
Madlib
2006/US 【Stones Throw】
今から6年前、マッドリブがDJループディガなる架空のキャラクタに扮してリリースした『ビート・コンダクタ』の続編が、2005年にヴァイナル限定で登場、『Movie Scenes』と名付けられたVol.1と2がまとめられて、CDにてリリースされたものが本作です。
まさに「待ってました!」と祝福すべきスタイルの1枚でして、短めのインスト・トラックが35篇も収められています。マッドリブの場合、僕たちファンからすれば、別に1曲ごとを完結させるという“テイ”なんてもうどうでもよくて、アイディアをどんどん投入してくれて、良質のビートを断片的に提供してくれれば事足りてしまうんですよね。冗長なものより、マッドに濃縮されたヤツが欲しいわけです。
それにしても、スモーキーでイルなビートとサンプルの数々が、ホントカッコイイです。「マッドリブの打ち込み技術が向上したが為に小奇麗になってしまった」とか「我々の耳が慣れてしまった」とか、「旬を過ぎてしまった」とか、口さがない人たちからは色々と言われ始めているかも知れませんが、彼の生み出すブレイクビーツが今もって有効であることは、例えば、コンプ感がヤバ過ぎな『The Payback (Gotta)』辺りを聴けば自ずとわかる気がします。
インナースリーヴも必見です。彼の作業部屋(?)がパノラマ展開していて、こういうのってテンション上がるんですよ。 (Dec 2007)
Respect M.E.
Missy Elliott
2006/US 【Goldmind】
ミッシー・エリオットが昨年リリースしたグレイテスト・ヒッツが本作です。ミッシーのアルバムは例外なく傑作ばかりだと思いますが、もし1枚だけを選出するとしたら、あの『Miss E...So Addictive』や『This Is Not A Test』を差し置いても、アディダスとのコラボと同じタイトルが冠された『Respect M.E.』をチョイスせざるを得ないようです。何故ならここに並べられた大ヒット曲の数々はどれもあまりに強力かつ魅力的ですし、「アルバムを揃えていれば不必要な1枚」「シングルのミックスを収録するべきだった」といったもっともな非難をも覆すだけの1枚となっているからです。ベスト盤は無粋という意見には大概賛同しますが、まぁそれだけ彼女とティンバランドが築いてきた歴史が凄すぎたのだというコトで、本作を「アリ」としたいと思います。
今さら説明の必要もないであろう名作ばかりがこれでもかと続きます。『Get Ur Freak On』、『Lose Control』、『Work It』、『The Rain (Supa Dupa Fly)』、そして中でも最も好きな『Pass That Dutch』。非現実的な世界観を作り出す、シンコペする“チキチキ”ビートと奇妙な音色のセレクト。かと思えば大ネタで度肝を抜くサンプル使いがあったり。また、ミッシーのフロウもワン・アンド・オンリーそのものです。こうした最も先進的な音楽が、最も売れているという奇跡は本当に特筆すべきで、アンダーグラウンドな音楽ファンにももっともっと評価して欲しいアーティストだと常々思っています。 (Apr 2007)
Mindstate
Pete Philly and Perquisite
2005/HOL 【Unexpected】
アムステルダムの若きトラックメイカー、パークィジットと、カリブ海はアルバ島出身のMC、ピート・フィリーによる1stアルバム。元々はインスト中心だったパークィジットでしたが、後に高い支持を受けることとなる『Mindstate EP』でMCとして迎えたピートとの相性がよかったのでしょう、こうして連名でのアルバム・リリースに至ったわけです。
実はウワサに聞く『Mindstate EP』は未聴のまま、本作で初めて本腰を入れて彼らの音に接したのですが、予想以上の完成度の高さにビックリでした。いわゆるヒップホップ然としたトラックからはみ出たサウンドまでフォローしている為か、聴いている最中に時折引き離されそうになったりもするのですが、最終的には、スムースの極みをいくパークィジットのトラックに夢中にさせられてしまいました。ちなみに『Mindstate EP』収録作品(名曲ばかりですね!)は、本作でその全てをカバーしており、アルバムの根幹を担っています。
しかしパークィジットという男、かなりやりますね。よく言われる様にジャジィでメロウ、そしてクールな佇まいの芸術的なビート、しかも生音中心なので飽きもこない。「こんな音が欲しかった」という音楽ファンの欲求を満たすのに充分です。中でも『Grateful』や『Amazed』後半はヤバイです。超ロマンチックなトラックが泣ける『Hope』は、「P-VINE」による国内盤のみMitsu The Beatsのリミックスも楽しめます。 (May 2006)
One Word Extinguisher
Prefuse 73
2003/UK 【Warp】
エレクトロニカからもヒップホップからもはみ出したサウンドで、今や押しも押されもせぬ人気者となったスコット・ヘロンのセルフ・ユニット、プレフューズ73。その2ndです。これまでにリリースされた主要作品はどれも愛聴してきましたが、本作には別格のオーラがありました。当時は「これしか聴けない!」ぐらいハマりまして、出掛ける時にも必ずヘッドフォンにセットしていたのを思い出します。
前作の代名詞ともなった“ヴォーカル・チョップ”は引き続き威力を発揮してはいますが、本作の主役はそれではありません。ますます高まった再構築力と、磨き抜かれた音色。それこそが、本作の核であると思います。ですから手法の斬新さではなく、トラックそのものの深みにこそ、語られるべき『One Word Extinguisher』の本質があるのではないでしょうか。
トミー・ゲレロが参加している『Storm Returns』以降、後半数曲のクオリティは半端じゃありません。中でもドラマチックな『Styles That Fade Away With A Collonade』は、キャリアでも最高のトラックだと思います。また、音色の面で言うと、シンセやサンプル、特にパシッと決まるスネアの気持ちよさだけで聴けてしまうほど素晴らしいです。
ジャケも1stに負けないくらいイイですね。21世紀に入っての「ワープ」、ちょっと恐ろしいです。 (Jan 2006)
Light'em Up,
Blow'em Out
Up.Bustle and Out
1997/UK 【Ninja Tune】
エイン&ルーディを中心としたブリストルのユニット、アップ・バッスル・アンド・アウトの2ndアルバムです。
96年前後の僕は完全に「ニンジャ・チューン」に入れあげており、レーベル・サンプラーで聴いた彼らの音楽には特に夢中になっていました。イギリス特有のタイトなブレイク・ビーツ、それでいてアメリカの黒いヒップホップのフィーリングもあって、とてもカッコイイ!名士が集うコンピにあって、UB&Oは際立った輝きを放っていたのです。
何より気に入っていたのは、リズムの音色の良さと、無国籍な上モノの組み合わせです。実際このアルバムでも、インドやチベット高原、アフリカ、スペイン、そしてブリストルと国境を越える旅を楽しめます。民族楽器などオーガニックな素材の使い方が実に上手いですよね。例えば、ジャジィな『Apple Strudel(イントロ死ぬほどカッコイイです)』なんかも勿論好きなんですけど、『The Beautiful Lure』や『Emerald Alley』、『Y Ahora Tu』といったボーダーレスなサウンドにより強く惹かれてしまうわけです。特に、後半いかにもブリストルっぽいシンセの16分フィルター・プレイが登場し、シタールとの競演を果たす『Emerald Alley』から雨音で繋いだ『Rain In Tibet』への流れは、泣けるほど素晴らしいです。逆に、ラップを立てられると何だか気乗りがしません。やはり「らしさ」で押して欲しかったですね、勝手言いますけど・・・。まぁ、それでも結局MCをフィーチャーした『Compared To What』なんかもカッコイイんですから、まいってしまいます。 (Jan 2006)
Rio Baile Funk
More Favela Booty Beats
V.A.
2006/BRA 【Essay】
今や世界中で認知されるようになった、ブラジルのゲットーから生まれたダンス・ミュージック、バイレ・ファンキ。本場のバイレ・シーンはそもそもレコード製作に結びつき難い現状があるようで、流通の事情は相変わらずよくないらしく、こうしたお手軽で、しかもファヴェーラ直送の熱気を湛えた良質コンピレーションの存在は本当にありがたいです。実際、これほどバイレ・ファンキに人気が集まるようになったのも、このシリーズ1作目(と、当然M.I.Aの『Bucky Done Gun』ですね。僕もこれきっかけで入りました)の影響力が大かったようで、続編である本作にも高い関心が寄せられました。その期待に見事こたえる21トラックが、スムースなミックスで次々と現れては、高揚感を煽ってくれます。
今回、特に気に入っているのがIsaac DJ『Jiu Jitsu(Montagem)』やMC Cula『E So Sentar』、Mr. Catra『Vem NhaNha』、Os Magrinhos『Japonesa』といった、ベーシックなビート+面白ネタ+個性的なMCで構成されたトラック。クセになる様なバカらしさにやっぱり惹かれます。ファンク、ヒップホップ、マイアミ・ベースなどからの影響を独自に消化し、昔からブラジルに根付いてきたサウンドだけあって、彼らにとっては良い意味で当たり前に、僕らにとっては衝撃的なほど新鮮に鳴り響く、陽気でアブないエレクトロ・サウンド。本っ当に気持ちいいです。日本人には及びもつかないくらい治安が悪い地で生まれた強靭なユーモアが、ビートをますますギラリと光らせます。 (Apr 2007)
Peanut Butter Wolf Presents
Stones Throw Ten Years
V.A.
2006/US 【Stones Throw】
常に先進的でアンダーグラウンドなヒップホップを世に送り出してきた、あの「Stones Throw」が10周年を迎えたそうです。これを記念してコンパイルされた本作には、名だたる豪華メンバーがクレジットにその名を連ねています。J・ディラ、マッドリブ、ジェイリブ、カット・ケミスト&m.e.d、カジモト、ダドリー・パーキンス、勿論ピーナッツ・バター・ウルフも。基本的にはこれまでにリリースされた作品のコンピレーションなのですが、改めてレーベルの質の高さを実感できると共に、神業ターンテーブリスト、J・ロックによるミックスCDが付いている点でも価値があります。
大好きなジェイ・ディー、マッドリブ絡みはやはりどれもいいですね。特に、今回収録の目玉ともなったマッドヴィランの『Figaro (Madlib Remix)』は素晴らしい出来。他にもアロエ・ブラックは異彩を放っていて、注目だと感じました。
この先も「Stones Throw」がシーンを牽引していきそうな、そんな予感を感じさせる作品です。 (Oct 2006)


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