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House Review 01
since 2006/01/15

Andres
Andres
2003/US 【Mahogani Music】
「マホガニ・ミュージック」からリリースされた、アンドレス名義としては初のアルバム作品です。プロデュースを手掛けるのは当然ケニーですが、ムーディーマンの作品に比べて抜けが良くて、軽いというわけではないのだけれど、どこかポップ。でもディープさは引けを取りません。
匿名性が高かったアンドレスが、スラム・ヴィレッジのDJ Dezによる変名セルフ・ユニットだと判明してみれば、そこかしこに感じるヒップホップ譲りのアプローチも頷けようというものです(特にアルバム中盤ではヒップホップ色が強くてカッコイイ!)。彼はコモンなどの作品でパーカッショニストとしても活躍しているらしく、リズムに対する感覚も鋭くて、比較的BPMの速いトラックでも重いグルーヴを混在させるなど、見事なセンスを発揮しています。
ハウス、ヒップホップ、そしてソウルのスキルを持ったDJ Dezならではの質の高いブラック・ミュージックに仕上がったこの1枚。どのトラックも音楽的で、かつ引き出しが多いことにも感心してしまいました。傑作! (Apr 2006)
That Something
Atjazz
1998/UK 【DIY】
英国のハウス・レーベル&パーティ集団「DIY」での活動を通して徐々に知名度を上げ、この『That Something』でブレイクを果たしたアットジャズことマーティン・イヴソン。リリース当時は「ソニー」がクラブ・ミュージックに力を入れていたこともあり、「キューンレコード」から国内盤が流通し、店頭でもよくバカボンのジャケを目にした記憶があります。
1stアルバムである本作では、タイトなディープ・ハウスが目立ちます。タイトと言っても、キックと図太いシンセ・ベースは豊かなロー・エンドを湛えており、ずっしりと重みがあります。その上をUKらしいブレイクビーツが饒舌かつ軽やかに満たし、ボトムとのコントラストが明瞭であるが故に、タイトさを感じるのだと思います。上モノとして展開するピアノやシンセ、またジャジィなサンプルなども、これまたスッキリと聴かせるセンスがあって、個人的にとても好みの音像です。
全体を通してテック風の硬質な音が多いのですが、その良さが最も出ているのは『Mass Up』でしょう。手数の多いスネアの硬い音とディープなベース・ライン、そしてエモーショナルなシンセの兼ね合いがこの上なく気持ちよく、それでいて切なさも感じさせる名トラックだと思います。 (Mar 2009)
Feil Knapp
Bjorn Torske
2007/NOR 【Smalltown Supersound】
僕も大好きなリンドストロームらの台頭によって活況を極めたノルウェイのダブ・ハウス/ディスコ・ダブ・シーンに、独自の視点を持ったリスニング・ユースな傑作アルバム『Feil Knapp』を投下し、シーンの新たな可能性を示してみせたビョーン・トシュケ。「Telle」レーベルなどで90年代からリリースを重ねてきたベテランなのですが、個人的にじっくり聴き入った彼の作品はこの3rdアルバムが初めてでした。繊細なトラック・メイク、穏やかさとユーモアが交錯するセンスの良さにすぐにファンになってしまい、2007年の冬はこればかり聴いていたことを思い出します。
オーロラの移ろいの様な、静かに乱反射するダイヤモンドダストの様な、いかにも北欧らしい質感のエレクトロニカ作品である『Hemmelig Orkester』を聴いただけで、素晴らしいアルバムであることを直感します。極太のベースと、軽快なコンガ風パーカッションが印象的なダブ・ハウス『Hatten Passer』は、温もりのある音色とスペーシーな音色とを同居させるシンセ使いが独特です。クソゲーと呼ばれつつも多くのユーザーに愛されるアイレム社のファミコン・ゲーム、スペランカーのサウンドをほぼそのままサンプリングした『Spelunker』は、ストーン!と響くワン・ドロップ・スネア(?)が何とも気持ちいいダビーな異色作。このセンス、リアルタイムでスペランカーを体験していた僕らの世代にはたまりません。さらにこの後も、とぼけた味わいの『Tur I Maskinparken』、バレアリック系のファンにも受け入れられそうな高揚感が魅力の『Loe Bar』、大げさな鍵盤使いのイントロからシリアスなダブになだれ込む『Kapteinens Skjegg』などなど個性的な名曲が続き、まったく飽きさせません。ビョーンの音楽的スキルの高さは疑う余地がありませんね。音色にも強いこだわりが感じられ、妥協の跡が見えませんし、とにかく完成度が高いアルバムです。そして全編に渡って優しさとか愛らしさが感じられるところもいい。彼の人柄が滲み出ているのでしょうかね。 (Dec 2010)
Red Tape
Brooks
2004/UK 【Soundslike】
アンドリュー・ブルックスの2ndアルバムは、「Soundslike」レーベルからのリリースとなりました。アット・ジャズ等でお馴染み「DIY」からのデビュー以来、着々と名声とスキルを向上させてきたブルックス。この作品ではデトロイト、エレクトロニカ、ニューウェーブといった要素を消化し、新たな局面を提示してみせました。
また、変化という意味では、彼がゲイであることをカミングアウトした経験が強く影響しているようです。PJハーヴェイの『Man-Size』をブルックス本人のヴォーカル入りでカヴァーしていますが、敢えて端的かつ挑戦的なやり方を選んだのであろうことは想像に難しくありません。彼は怒りや苛立ちを表現したかったのです。
個人的なベスト・トラックを挙げるなら、『Enormous Members' Club』。結局、地に足のついた4つ打ちは強いですね。上モノも好きです。 (Jan 2006)
Homework
Daft Punk
1996/FRA 【Virgin】
同時代にブレイクしたケミカル・ブラザーズもそうですが、シーンの牽引役を担った者の、音楽的な旬とも言える"輝かしい時間"の何と短いことか。恐らく、多くの方がダフトパンクの2ndアルバムに少なからず失望したのではないでしょうか。それほど、この1stは完璧な1枚でした。セールスすなわちポピュラリティと、アートとは相反するもの。そんな現実が重く圧し掛かります。
フィルタリングやボコーダー、TB-303など、どれをとっても決して彼らが特別な使用法を発明したワケではありませんでした。ただ、飛び抜けて巧く使ったのです。そうして生まれた、脳がとろけ出す極上の空間は、今もって他の追随を許しません。90年代のクラブ・ミュージックは凄かった!そう回顧させる決定打なのです。
代表曲となった『Around The World』や『Da Funk』、そして名曲『Revolution 909』、『Fresh』などなど、とんでもないクオリティのトラックが目白押しです。キックが、ハットが、ベースが、快楽となって押し寄せてきます。
ディスコでファンキーで、ポップでオバカ。そういえば、ユニット名は『バカげたパンク』ですもんね。ローランド社のサンプラー、S-760で作っているというセンスも大好きでした。 (Jan 2006)
This Thing Of Ours
Fanatix
2008/UK 【BBE】
ニール&アーロンから成るファナティックスは、ブレイズら大御所の好リミックスでその名を轟かせたハウス・ユニット。この『This Thing Of Ours』は「BBE」からリリースされた1stフル・レングスです。
実に全16トラックを収録していて、中にはブロークン・ビーツ寄りの作品やインタールードも含んではいるのですが、基本的にはそのほとんどが黒くてソウルフルなディープ・ハウス。目くるめく豪華なゲスト陣をフィーチャリングした唄モノは、例外なくどれも楽曲としてリスニングに耐えうる高い完成度を誇っています。それでいて現場に強いタフネスと、繊細な作り込みがもたらす豊かな音楽性とを兼ね揃えた強力なトラックも見事な出来栄えでして、まさに死角なしの傑作と言えるでしょう。
80年代後半から90年前後にかけてはソウルフルな4つ打ちハウスの傑作が多く生まれていた気がしますが、近年ではこのクオリティのディープ・ハウス(しかもアルバム単位で!)に出会えた記憶はほとんどありません。あの当時の胸躍る様なアツいヴァイブを思い起こさせる、そんな1枚なのです。念のため付け加えさせて頂くと、決して懐古趣味だなんて意味ではありません。もちろん今日の仕様にアップデートされていますから。
とにかくアガるトラックばかりがギッシリ並んだ、超お得な作品です。とりわけ饒舌なシンセ使いは素晴らしいですね。「やっぱりハウスが好き!」と再認識できること請け合いですよ。 (Jun 2010)
Beyond The Mix
Frankie Knuckles
1991/US 【Virgin】
アルバム・フォーマットでのリリースは自身初となった、フランキー・ナックルズ91年の作品。
ハウス・ミュージックの第一人者であり、ゴッドファーザー・オブ・ハウスの名を欲しいままにするナックルズですから、全盛を極めていた当時のアルバム『Beyond The Mix』が悪いハズもないのですが、個人的にここ最近は80年代〜90年代初頭くらいのハウスがマイ・ブームだったりするので、余計に素晴らしく響いてきます。決して懐古趣味なんて野暮なものじゃなく、むしろ今、改めてこのサウンドがフィットする時代が訪れているのだと思うのですが、いかがでしょうか。
TR-909の4つ打ちキックと手数の多いスネア。ディープな質感を生み出すシンセ・パッドとピアノ。ソウルフルなヴォーカル。こうしたハウスの“記号”を純粋に楽しめるのが本当に嬉しいですね。そして、そつのないプロダクション・ワークもさすがです。「デフ・ミックス・プロダクションズ」でのメジャーな仕事などを通して、これまでアンダーグラウンドな存在であったハウス・ミュージックを一躍世界の共通語にまで押し上げたナックルズだけあって、深みのあるサウンドを明瞭に表現する術を心得ています。一部のハウス・ファンは、ナックルズのメジャー仕事を評価していないとも聞きますが、彼の様なメジャー/マイナー問わずよく名の通った“ゴッドファーザー”が必要なんだと僕は思います。
何はなくとも、まずはキラー・チューン『Rain Falls』と『The Whistle Song』を堪能するところから始めたいところです。前者は今聴いても胸がしめつけられる、切なくもソウルフルな超名曲(雨のSEが入った曲に弱いんです。スミスの『Well I Wonder』とか、マッシヴ・アタックの『Protection』とか)!それでいてキャッチーな辺り、面目躍如ですね。そして後者はフルートのソロをフィーチャーしたインスト作品。大ヒットを記録したクラシックです。この2作品を収録しているだけでも、本アルバムの意義は大きいと思います。また、『Right Thing』や『Workout』なども純粋にいいメロディだと改めて実感しました。ただしラップものは今聴くのはキツイ感じですね。もうちょっと寝かせた方がよさそうです。 (Aug 2009)
A Mind Of Its Own
Karizma
2007/US 【R2】
あのジャイルス・ピーターソンがリコメンドしたことで一躍その名が轟いたカリズマ。彼は何とベースメント・ボーイズに参加(在籍?)していたというベテランで、プロデューサーとしてもクリエーターとしてもDJとしても、実績・評価とも申し分なしの存在なのです。そんなカリズマがこのタイミングでさらに大化けして見せた背景には、ジャイルスらの強力なフック・アップもさることながら、高い音楽センスを凝縮したトラックを発表し始めたことがある様です。
とにかく、ハイ・クオリティなトラックがズラリと並んだアルバムです。ベテランとは言え、個人名義としては初のアルバム作品なワケですから、この完成度とバラエティの豊富さは1stとしては異例とも言えるのではないでしょうか。テック・ハウス、ヒップホップ、ダウン・テンポ、ブロークンなど、かなり多彩なアプローチを繰り広げており、しかもそれらは目先を変える為の演出なんかじゃなく、しっかりと自分の身体の奥底からアウトプットしていることが感じられるので、フェイクな匂いはまったくしません。そういった意味で、僕はカリズマの音楽を“自らのルーツに基づいたスピリチュアルなもの”に感じることはありますが、よく評される様な“黒さ”に関しては、実はあまり印象に残っていません。いや、もちろんディープだとは思いますが、例えばムーディマンらと比べるとしたら、もう少しスッキリとしたイメージです。
それにしても、スキルが高いことはやはり大きなアドバンテージですね。リズム・プログラミングやベース・ラインのアレンジが巧いですし、ハービー・ハンコックをヒーローに挙げるだけあって、シンセやピアノのフレーズも表情豊かです。唄モノなしのオール・インストの場合、蛇足としか言い様のない1ショットのネタとかフレーズとか、得てして余分なものを被せてしまいがちなものです。その理由の大半は、音楽的な力量不足に他なりません。カリズマの場合、そんなものは一切ナシ!取捨選択がしっかり練られた上モノばかりなので、リスナーも心置きなく没頭出来るワケです。
人気の『Twyst This』を始めとするテクニカルな作品も素晴らしいですが、『Tha D』みたいなメランコリックでシンプルな4つ打ちハウスも大好きです。 (Aug 2008)
Lindstrom & Prins Thomas
Lindstrom & Prins Thomas
2005/BEL 【eskimo】
ノルウェーで、共に12インチ中心のダンス・ミュージック・レーベルを展開するリンドストロームとプリンス・トーマスによるアルバムが、ベルギーの「eskimo」からリリースされました。
リンドストロームと言えば、立て続けに宇宙的ディスコ・ダブの傑作をダンスフロアに投下し、一躍その名を轟かせた旬の人物。それだけにアルバムにもバリバリのディスコ・サウンドが期待されたところでしたが、蓋を開けてみれば、リスニング・ユースを意識したユルめのトラックが中心でした。一瞬ピンと来なかったのですが、次第に気だるくも美しいサウンドの虜になり、ついには欠かせないアイテムにまでなってしまいました。それはどうやら世界中のハウス・ファンも同様だったみたいで、今やアルバムでも高い評価を得るに至った様です。
最大の特徴と言えそうなのが、生音の多さです。後で知ったのですが、ほぼ全ての楽器演奏を2人でこなしているそうです。絶対サンプルだと思っていたのに、いやビックリです。シンセの音は言うまでもなく最高なんですが、ちょっとゆるい生ドラムとか、アシッド・フォークさながらのギターなんかもたまらなく気持ちいいんですよね。スキルの高い2人です。
今ではほとんどの曲が大好きになってしまいましたが、特に優秀な作品を挙げるなら『Suppegjok』や『Feel Am』だと思います。前者は中毒性の高いハウスで、後者はコード感が胸をしめつけるフォーキーで切ない1曲。この2作品に限らず、全体を通してとても音楽性が豊かです。
そしていよいよ、リンドストロームのシングル音源を集めたCDがリリースされるそうです。嬉し過ぎます!これを書いているのが2006年10月ですので、今から来月のリリースを心待ちにしているところなのです。 (Oct 2006)
It's a Feedelity Affair
Lindstrom
2006/NOR 【Smalltown Supersound】
2005年にプリンス・トーマスとの連名で傑作アルバムをドロップしたリンドストロームが、2006年に初のソロ・アルバムを発表しました。その内容とはなんと、自身のレーベル「フェディリティ」の傑作12インチ音源9枚からの厳選コンピレーション!リンドストローム名義に加え、プリンス・トーマスらとの連名作品、さらに変名ユニット、シックス・カップス・オブ・レヴェルでのシングルからも選ばれたフロア・クラシックスたちがギッシリ詰まった、豪華な1枚なのです。
派手なシンセ使いでサイケ&スペーシーなディスコ・ダブを展開していく様をこうしてまとめて、しかも家庭のCDプレイヤーで楽しめるとはなかなか贅沢ですよね。お馴染みの『There's a Drink in My Bedroom and I Need a Hot Lady』、『I Feel Space』、『Further Into the Future』といった曲者たちも最高なんですが、美しい情景が広がる『Another Station』が特に好きです。これぞ彼のバレアリック・サイドの傑作と言えるでしょう。
今やリミキサーとしても超売れっ子となったリンドストローム。旬な人物が放つ音には、別格のパワーが宿っていることを実感できる、そんな1枚です。 (Dec 2007)
Colorful You
Miguel Migs
2002/US 【Naked Music】
サンフランシスコのハウス系レーベル「Naked Music」。そのエース格でもあるDJ、ミゲル・ミグスの2ndアルバムです。
レーベル・カラーでもあるアーバンなディープ・ハウスを地で行く彼のサウンドをたっぷりと堪能できる内容です。とにかく上品でスムース。レーベル・メイトのリサ・ショウらを起用した唄モノなのですが、メロウ・グルーヴが似合うライトなソウル・ヴォーカリストばかりですので、ますます“大人向け”のアルバムに仕上がっている印象です。ヴォーカルが主張し過ぎないのでダサくならず、ほんといい感じですよね。フロアよりむしろ、部屋でのリスニングやドライブにフィットする気がします。「唄モノの気分だけど、重たいのは避けたい」とか、「R&Bほど歌謡チックなのはちょっと・・・」なんて時には最適!僕も含めたハウス・ファンには意外とこういうニーズが多いと思います。
個人的には、4つ打ちで押しまくる前半が好きです。しかも、4つ打ちのトラックでも漏れなく音楽的なアレンジが施されていて(ジャズ系フルートなどに顕著ですね)、スキルの高さを感じます。 (Feb 2006)
Silence in the Secret Garden
Moodymann
2003/US 【Peacefrog】
前作より約3年ぶりに届いたムーディ−マンの4thアルバムは、これまでに聴いたどんなハウスよりも優れたレコードでした。
そもそも2000年の3rdアルバム『Forevernevermore』は、あまりにも完璧な1枚でした。精神性はもとより、様式も音色も文句のつけ様のないハウス・ミュージックの最高峰と言って過言でなかったでしょう。ですが問題なのは、往々にして完璧な作品を作ってしまったアーティストというのは、以降、輝きを失っていくものと相場は決まっていることです。無論、そうでない稀な才人もいますが、果たして『Forevernevermore』の水準を保った新作などあり得るのかと懐疑的でもありました。
そしてこの『Silence in the Secret Garden』です。僕なんかの浅はかな心配などどこ吹く風。ケニー・ディクソン・ジュニアは、すごい作品をまたもお見舞いしてくれました。ある種、分かりやすさで言えば前作に分があるかも知れませんが、ただでさえ他と一線を画していた"深み"の深度をさらに掘り下げ、前作にも増してディープで、より実験的で、より黒い傑作に仕上げていたのです。
『LIVEINLA 1998』やタイトル曲『Silence in the Secret Garden』の硬質なキックを腹で受けとめたり、あるいは時にジャジィで時にソウルフルな上モノに包まれると、日本人である僕らにも、かの地からのメッセージが分かる時があります(きっと何分の一も分かっていないのかも知れませんが・・・)。また、そうしたメッセージに共振出来ずとも、その素晴らしい音楽性に惹かれるファンはこれからも増え続けるに違いありません。 (Jan 2006)
Introduction
Mr.Fingers
1992/US 【MCA】
ラリー・ハードがミスター・フィンガーズ名義でメジャーからリリースした傑作。
先日このCDを見かけて、懐かしさのあまり買い直してしまいました。ハウス・ミュージックの古典とは言え、今聴いても洗練された都会的ブラックネスの艶やかさ、セクシーさは色褪せることなく、唸らせてくれるのに充分な内容でした。それもそのハズ、当時最先端をリードしていたアレックス・パタースンをして「ラリー・ハードはゴッド」と言わしめた人物なのですから。僕らもさんざん彼の音楽に傾倒しましたし、現在もムーディーマンやセオ・パリッシュといったデトロイト勢と交流を持つなど、絶対のリスペクトを受けるラリーこそ真のオリジネイターの一人だと思います。
R&Bやソウルの歌心をたっぷり吸収し、ジャズのフィーリングも交えたシルキーなサウンドで、シカゴ・ハウスの器の大きさを提示してみせたラリー・ハード。冒頭のクラシック『Closer』は必聴です。 (May 2006)
Mahogani Music
Nikki-O
2005/US 【Mahogani Music】
ムーディーマンことケニー・ディクソン・ジュニア主催の「マホガニ・ミュージック」。何と、そのレーベル・コンピCDの2枚目として封入されているのが、ケニーの一押しアーティスト、ニッキー・Oのアルバムなのです。ですから紹介の仕方には迷ったのですが、その出来栄えに惚れ込んでしまい、こうして単品として取り上げることにしたのです。
これを書いている時点(05年末)では、正直彼女がどういったアーティストなのか、あまりわかっていません。2005年のケニー来日時には帯同して、ステージでその歌声が披露されたらしいのですが・・・。
いずれにしても、レコードとしてこの1枚は抜群の出来栄え!恐らくケニーが手掛けたであろうトラックに、スピリチュアルな女声が乗っかるわけですから悪いハズがないのですが、それにしたってデトロイト・ファン、ハウス・ファンはテンション上がること請け合いのド直球です。漆黒のキック&ベースにエレピといった定番が実に嬉しい、そんな贅沢な1枚なのです。 (Jan 2006)
Do You Overstand?!
Soulphiction
2008/GER 【Sonar Kollektiv】
ジャックメイトやマンメイド・サイエンスとしての活動でも知られるドイツのトラック・メイカー、マイケル・ボーマン。いわゆるデトロイト・ビートダウン色の強いソウルフィクション名義で、名門「ソナー・コレクティヴ」からリリースした2ndアルバムが、この『Do You Overstand?!』です。
ここに聴くことが出来るソウルフィクションのサウンド・メイクは、漆黒のディープ・ハウスといった様相。また、同時にヒップホップへの接近も感じさせます。重心の低いロウ・エンドがドープにうねり、スピリチュアルでスモーキーな構造美を描き出す様は、やはり先駆者、ケニー・ディクソンJr.やセオ・パリッシュからの影響があるのかも知れませんね。とは言え、そこは世界に名を馳せたベテラン。例えばテックなビートにジャズ系のサンプルを掛け合わせるフロア仕様のトラックを手堅くまとめるなど、単なるフォロワーとは一線を画した大人の実力をキッチリ提示しているのが流石です。
完成度の高い本作にあって、とりわけ抜きん出た出来栄えを誇るのは、無国籍ムードが妖しくも魅惑的な『Ghana Wadada』。同様に、アブない緊張感を醸し出す『Sun Children』も大好きです。
ちなみに僕が所有しているのはドイツ盤のCDなんですが、インナー・スリーヴに「Used Gear」という項目があって、AKAI MPC 3000やSequential SixTrack、KORG CX-3などといった機材名が細かく書かれています。個人的に、こういう情報があると何だか嬉しくなってしまいます。 (Dec 2009)
Blue Notes In The Basement
Ultra Nate
1991/US 【Warner Bros.】
名トラック『Free』(あれから10年が経つんですね)で世界的な成功を収めるなど、押しも押されもせぬディーヴァとして知られる存在になったウルトラ・ナテ。その記念すべき1stアルバムです。
ベースメント・ボーイズ・プロデュースによる本作は、唄モノのガラージ・ハウスとして完璧とも言える出来栄えを誇っていると思います。大袈裟なリフが高揚感を高めるシンセ・ピアノ。ビキビキ、ブリブリと唸るシンセ・ベース。コーラスっぽい音色のシンセ・パッド。TR-909を中心としたリズム・トラック。いかにも“夜”の匂いが立ち込めるサックス。そのどれもが黒くエモーショナルなフレーズを奏で、しかもクールでインテリジェンスなイメージも同時に抱かせるのです。これらのフレーズやサウンドが、後に多くのケースで定番として受け継がれていく雛形となり、ハウスの存在をアンダー・グラウンドからメジャー・シーンへと開放していく橋渡しのひとつにもなったワケですから、いかに本作が先進的かつ魅力的であったかが窺い知れようというものです。
ウルトラ・ナテのヴォーカルもまた最高です。後のR&Bっぽいバッキングで伸びやかに歌い上げる彼女よりも、むしろ、必ずしも歌いやすいワケではなかろうハウス・トラックの上で、制限ギリギリのメロディを攻める彼女にこそ、その真骨頂を見るのです。バッキングとヴォーカルの噛み合わせの妙という部分でも、ハウス史上でも屈指のレコードだと僕は思います。
『Is It Love?』、『Deeper Love (Missing You)』、『Scandal』、『Rejoicing (I'll Never Forget)』といった名曲がズラリと並ぶ中で、個人的には、インストゥルメンタルであるイントロダクションと同じトラックをバックに彼女が語りを乗せるエンディング『Funny (How Things Change)』に、毎回感極まって泣きそうになってしまいます。他にも、ダウン・テンポな作品に好きなものが多いですね。
当然、今の耳で聴けば粗が見えてしまうことは否定しません。しかし真のクラシックとして色褪せない恒久的な輝きを放っていることも確かです。最近、本作や当時のブレイズなんかを聴き直しているんですが、懐かしさだけでなく、思いがけない発見もあったりして感動してしまいます。 (May 2008)
The Afro House of Irma
Afrodesia Vol.2
V.A.
2001/ITA 【Irma】
イタリアの名門「イルマ」がリリースしたアフロ・ハウスのコンピレーションです。コンパイルを担当したのは、DJ/プロデューサーのFabrizio Carrer。ファブリツィオは「イルマ」の人気コンピを数々手掛けている敏腕で、この『Afrodesia Vol.2』もまとまりの良い1枚に仕上げています。
得てして、このテのコンピやレーベル・サンプラーは“敢えて”選ぶ決定打に欠けるものが多くて、まぁせいぜい1、2トラックの目玉があって、後は1軍半トラックの寄せ集め、といった感があるものです。正直、本作もそのきらいが無いワケでもないんですが、それでも「イルマ」らしいアヴェレージの高さで凡百のコンピとは一線を画しているのでご安心を。
Monday満ちる、U.F.O、Su-Paka-Poohといった日本勢も名を連ね、特にSu-Paka-Poohは『Spiral』で結構本格的なアフロ・ビートを展開しています。でも結局気持ちがいいのはギミック丸出しのパターンだったりするのが不思議ですね。断然、Mysterious Traveller『Green Africa』やUnitedeye vs Soul Drummers『Sambana』に軍配があがると思います。 (Feb 2007)
Mahogani Music Compilation
V.A.
2005/US 【Mahogani Music】
僕たち多くの音楽ファンが尊敬してやまないデトロイトの才人、ケニー・ディクソン・ジュニア。彼が手掛けるレーベル・コンピレーション第一弾が本作です。
僕が所有しているのは2枚組CDで、2枚目は別項で取り上げているニッキー・Oの音源集です。2年前、本作を購入した時はニッキーの作品に心を奪われすぎて、1枚目のコンピレーションを若干お座なりにしていた気もします。しかし改めて聴き込んでみて思うのは、やはりコチラも大傑作であるということです。
ミックスCD風に展開していく各作品には、思いの外統一感は少ない気がしました。深みのあるベース音や漆黒のグルーヴ、そして高い精神性など共通項はあるのですが、要はジャンル的なふり幅が大きく、豊富なアイディアに溢れている為に統一感を感じさせないのでしょう。実際、クラブ・ジャズやネオ・ソウル、あるいはどこかブリストルチックな匂いをほのかに漂わせるものまで、そのアプローチは実に多彩。後半は4つ打ちも増え、聴き終える頃には充足感でいっぱいになります。面子もアンドレス、ポール・ランドルフらが持ち味を発揮している他、聞きなれないアーティストも多数参加。その誰もがムーディマン直系のブラックネスを軸に持っていることが分かります。
クオリティの高いトラック揃いの中で、特に嬉しい収録となったのが、ピラーナヘッドとのコンビネーションやセオ・パリッシュによるスピンでお馴染み、ディヴィニティの『Find A Way』。その歌声も素晴らしいですが、トライアングルなどのパーカッション陣が生み出すグルーヴの良さには目から鱗が落ちました。
デトロイトにおける、ドープでスピリチュアルなブラック・ミュージックの現在進行形を知る上で、ぜひ体感しておきたいコンピレーションです。 (Aug 2007)


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