Disk Review Site HAND IN GLOVE***
Jazz Review 01
since 2006/01/15

The Awakening
Ahmad Jamal Trio
1970/US 【Impulse!】
70年に「インパルス!」からリリースされた、アマッド・ジャマル(p)の名作です。
現在における本作の人気を決定付けたのは、何といっても数々のヒップホップ・クラシックでサンプル・ソースとして引用されたことが大きかったと言えるでしょう。NAS、コモン、ピート・ロックらが愛した聖典として紹介されたことで、クラブ・ミュージック世代にも大きく浸透したのです。また、本作でのジャマルのプレイにおける間(ま)を活かしたエアリィな質感とタイム感が、クラブ・ミュージック以降のファンにフィットしたことも高評価の一因となっていそうです(ジャジィなヒップホップのタイム感自体、先述の引用が生み出した産物だと考えることも出来そうですが)。
『Dolphin Dance』や『Wave』といった有名作品を独自の解釈で再構築して、知的かつリリカルに紡ぎ出すジャマルのピアノが素晴らしいのは言うまでもありませんが、個人的にはジャミール・ナッサー(b)のプレイに惚れ込んでおります。とりわけキラー・チューン『Patterns』におけるビリつくベース・フレーズはカッコ良すぎ!必聴です。 (Jul 2009)
Secret Dreams
Anne Thomas
1999/HOL 【Challenge】
オランダのジャズ・ヴォーカリスト、アン・トーマスがソロ名義でリリースした1stアルバムです。僕が購入したのは、2006年に「セレスト」が手掛けた新編成のCDで、クインテット名義でのアルバム『Sweet and Singing』からの3トラックが追加されています。
オリジナル盤が出た1999年当時は彼女の存在を知りませんでした。どうしても新録音のヴォーカル・ジャズというのはなかなか手を出さない傾向がありまして、こうしてセレストさんにカタログされたことで幸福な出会いを果たすことが出来ました。中身はと言えば、このレーベルがプッシュするに相応しい、アコースティックな音が透明感を伴って響く素敵なジャズ・アルバム。しかもこの美しいジャケですから悪いハズがないです。
楽曲単位では『Summer Samba』辺りが人気がありそうですね。意外な選曲と思いきや、アンのヴォーカルとの相性は悪くありませんし、後半の踊るようなスキャットも素晴らしいです。個人的には、呟くような歌声と饒舌なパーカッションのコントラストが楽しめる『Love Is』や、クインテット時代のトラック(1998年録音)が好きです。わざわざ選ばれただけある、そう思える作品ばかりです。
ただし、感情を込めて歌い上げるような曲では、彼女の魅力が半減してしまうと思うのは僕だけでしょうか。アンは静かに抑えるように歌っても、その声に品と張りがあるのです(例えばポップでグルーヴィな『You Wouldn't Be you』みたいな作品でも、アンは張り過ぎずに、それでいて楽しげにその歌声を聴かせてくれているのです)。そこが稀有な素質であり、彼女の最大の魅力だと思います。ですから、わざわざ力む必要はないように思えるのですが・・・。その点から、敢えて曲数をぐっと減らしてでも、キャラクターに一貫性(つまり「張らない」という制約の中で作るとか)を持たせるプロダクションもあったのかな、なんて贅沢なことも考えてしまいました。 (Nov 2007)
Free For All
Art Blakey &
The Jazz Messengers
1964/US 【Blue Note】
アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズが1964年、「ブルーノート」に復帰してレコーディングした快作です。3管を形成するのはフレディ・ハバード(tp)、カーティス・フラー(tb)、そしてウェイン・ショーター(ts)。さらに、ベースにレジー・ワークマン、ピアノにシダー・ウォルトンという豪華な布陣で臨んだ1枚だけあって、その出来栄えには舌を巻くしかありません。
ジャズ・メッセンジャーズと言うと何となくオールド・ファンに支持されているイメージもありますが、本作はぜひクラブ・ジャズ以降の世代にも推薦したい逸品です。もちろん、ブレイキーの怒涛の手数と凄まじい“圧”も体感して頂きたいところですが、ここで注目したいのはショーターのプレイ。モーダルなセンスをグループに持ち込んだショーターのブロウは、ハードに攻めたり緊張感を漂わせたりしながら、サウンドの品質を1ランク上の次元に押し上げています。彼のペンによるタイトル曲も完成度が非常に高い!11分間、まったくテンションが衰えることがありません(これはブレイキーの超人的なドラミングがあってこそとも言えますが)。本作録音の同年、ショーターはソロ作『Night Dreamer』や『JuJu』といった傑作を次々とドロップしています。ブレイキーの元を離れ、マイルスのクインテットへと移る時期とも重なる当時のショーターは、感性が研ぎ澄まされていたに違いありません。
本作には4トラックが収められていますが、素晴らしいのは先述のタイトル曲だけではありません。ハバートが手掛けた『The Core』もまったく引けをとらないカッコ良さですし、ジャズ・ボサの定番にして超名曲『Pensativa』における秘めた情熱にも毎回感動してしまいます。本当に素晴らしいアルバム作品だと思います。 (Dec 2010)
Basso=Valdambrini Sestetto
Basso=Valdambrini Sestetto
(Sestetto Basso Valdambrini)
1962/ITA 【RCA】
ジャンニ・バッソ(ts)とオスカー・ヴァルダンブリーニ(tp)の双頭グループがセクステット編成でイタリア「RCA」に残した名作。恐らく62年のリリース当時は、ここ日本ではあまり知られていなかったハズですが、クラブ・ジャズ界隈での評価を受けて新たな価値が生まれたこともあり、今では不動の人気を獲得しました。
ここでのキラーと言えば、やはり『Monotonia』。引き締まったラテン・グルーヴ、3管とドラムスのソロがクールに疾走する文句なしのトラックです。しかし声を大にして言いたいのは、本作の魅力は『Monotonia』に限らないということです。ユーロ・ジャズ特有の、淀みのないスタイリッシュな音質と演奏は『Monotonia』以外にも共通しており、また要所で3管を重ねてスパっと切れ込んでくる様や全体のアレンジもカッコよく、いわゆるモダン・ジャズのファンであれば、きっとこの作品をDJに独占させておくことはしないでしょう。テーマとソロとが共に充実した、正統(?)なハード・バップが展開する聴き応えのある1枚なのです。 (Sep 2007)
Happenings
Bobby Hutcherson
1966/US 【Blue Note】
ジャズに限らず、ヴァイブはとても好きな楽器です。とりわけ『Happenings』におけるボビー・ハッチャーソンのプレイは秀逸で、元々はジャケ買い(と言うにはあまりに有名な作品ですが・・・)だったのですが、聴いて以降しばらくハマる結果となりました。
ボビー(vib)、ハービー・ハンコック(p)、ボブ・クランショウ(b)、ジョー・チェンバース(d)という、いわゆる「新主流派」ファンならば放っておけないパーソネルが紡ぎ出すサウンドは、『Aquarian Moon』はじめ知的で美しい調べに満ちています。
最大の聴きどころは、やはり『Maiden Voyage』。ハンコックのリーダー作品におけるそれよりも遥に豊潤で雄大な、「定番過ぎて・・・」なんて避ける事を許さない名演ですね。気高さすら漂わせるこの『Maiden Voyage』から、小気味良い『Head Start』へ続く流れも大好きです。 (Jan 2006)
Sounds Out Burt Bacharach
Cal Tjader
1968/US 【Skye】
カル・ジェイダーによるバカラックのカヴァー集。同じくヴァイブ奏者でもあったゲイリー・マクファーランドがオーナーを務めた「Skye」からの1枚です。
正直、個人的にこういったカヴァー企画は好きでないのですが、これにはすっかりやられてしまいました。一見、簡素で分かりやすいアレンジ過ぎて(その実、しっかり練りこまれているんですけど)、最初はちょっと肩透かしをくらった気にもなったのですが、その柔らかなラウンジ空間が次第にクセになってくるワケです。音楽好きの方には何となく共感して頂ける気がするのですが、「何も聴きたくないけど、何か流していたい」という気分の時ってありませんか?そんな我侭な時間帯にベスト・マッチでハマッてくれるのが、僕にとってはこの1枚なのです。決して聴き流すことは許さないのに、空気の様に馴染んでくれる穏やかさ。そんな、かけがえの無いサウンドです。
カル・ジェイダーのヴァイブが奏でる、皆が大好きなバカラックの美しくて楽しい旋律。だんだん、これ以上ない組み合わせだと実感してくるのです。 (Feb 2006)
Chris Meets Paris
Chris Woods
1973/FRA 【Futura】
アメリカのサックス/フルート奏者、クリス・ウッズがフランスで残した自身2枚目のアルバム作品です。この度待望のCDリイシューと相成りました。再発を手掛けたのは、オリジナル・レーベルである「Futura」です。
ジョルジュ・アルヴァニタス(p)とジャッキー・サムソン(b)、シャルル・ソードレ(ds)からなる名ピアノ・トリオのバックアップのもと、気持ちよさそうにブロウするクリスは、まるで水を得た魚のよう。この何とも心躍るハッピー・スウィンギンな名作にあって、とりわけ人気があるのが、明快かつ小気味のいいアレンジで聴かせる映画『キャバレー』のテーマです。しかも今回のCD化にともない、この『Cabaret』の別テイクがボーナス収録されました。もちろん本邦初お目見えとのことで、ファンには嬉しいニュースとなりました。ちなみに、個人的には『My Lady』というトラック目当てで購入しました。これは『Cabaret』と並んで人気が高い作品で、切ないフルートの旋律が実に美しい、クリスのペンによるモーダルです。こちらもぜひ注目してみて下さい。
最後になりましたが、今回のリイシューで残念な点が2つほどあります。ひとつは、曲順がオリジナルから大幅に変更されていること。そしてもうひとつは、ジャケが味気ないものに差し替えられていることです。その意図はわかりかねますが、事情があったにせよ、オリジナルと同じ「Futura」がリリース元なのですから何とかして欲しかったところです。特にジャケットに関しては、街のイラストを配ったオリジナルのデザインが最高にキュートなものですから、まったくもって勿体ない話ですよね。 (Oct 2009)
Curtis Fuller Vol.3
Curtis Fuller
1957/US 【Blue Note】
比較的若い世代のジャズ・ファン(つまりアシッド・ジャズや90年代のクラブ・カルチャーを経て、新たな価値観でジャズを楽しむ様な)にも改めてハード・バップの人気が高まる中、欠かせないアイテムとなりそうなのが、このカーティス・フラーの『Vol.3』です。
当時のフラーは20代前半の若造。NY進出を果たして間もなく頭角を現し、多くのリーダー作、セッションにて名演を残しています。本作もその中の1つで、アイディアとエネルギーに満ちていた若者・フラーの勢いを、けれど穏やかにパッケージしている名盤です。しかもほとんどの楽曲がフラーの自前。いかに音楽家として充実していたかを物語っています。
個人的にトロンボーンは大好きな楽器で、音色だけをとってみればサックスやトランペットよりも好きなくらいです。華麗でも器用でもない、ちょっと無骨な太い音色のトロンボーンを、素敵なソロで聴かせてくれる『Vol.3』でのフラーのプレイはひとつの理想です。
一番の聴きどころは、やはり疾走する1曲目『Little Messenger』でしょうね。僕のiPODでは、プレイ回数でソートするとこのトラックが必ず上位に食い込みます。かなりカッコいいキラー・チューンです。スウィング系の作品も決してファミリー向けなんて言わせません!味わい深くて、愛らしさもあっていい感じですよ。ぜひ先入観を捨てて楽しんでみて下さい。 (Nov 2006)
Dave Mackay
& Vicky Hamilton
Dave Mackay
& Vicky Hamilton
1969/US 【Impulse!】
デイヴ・マッカイとヴィッキー・ハミルトンが、「インパルス!」に残した1stアルバム。
ジャケットの透明感そのままといった趣の、本当に美しいアルバムだと思います。マッカイのピアノと柔らかなフェンダー・ローズ。涼しげなブラジリアン・フィーリング。そして多彩な変拍子を繋いでいくリズム・セクション。そのどれもが素晴らしいのですが、やはりマッカイとヴィッキー・ハミルトンのユニゾンの美しさは群を抜いています。僕はレーベル買い(そしてジャケ買いでもありました)をしたので、彼が盲目だということは後で知りました。一聴して感じた音楽の純度は、まるで僕らが見えていない本質、すなわちハートまでを音符に紡ぎ出しているかの様です。それ故に幸せさが、踊るような楽しさが、聴き手に伝わって来るのでしょう。
この後ヴィッキーは病に倒れてしまう為、2人の幸せな音楽的パートナー・シップは本当に僅かの時間でした。僕は2人が楽しそうに歌うトラックが、大好きです。 (Jan 2006)
Tender Feelin's
Duke Pearson
1959/US 【Blue Note】
かのアルフレッド・ライオンに愛された、BNブランドが最も似合うピアニスト、デューク・ピアソンの作品です。
後にプロデューサーやコンポーザーとしても敏腕を発揮する多才な男・デュークの初期を代表する作品で、スタンダード中心の選曲。『Tender Feelin's』というタイトルが物語るように、実に甘くてラウンジィな空気に溢れ、優しい時間を過ごせることを約束してくれます。他にも数々の名作を残している彼ですが、綺麗なピアノ使いはキャリアのごく初期から発揮されていたことが本作でよく分かります。
それにしても徹頭徹尾ポップで上品なイメージからブレない1枚ですね。爽やかで楽しい『Bluebird of Happiness』や『The Golden Striker』、ロマンチックな名演『I Love You』などが、軽やかな作風を決定付けています。 (Jan 2006)
Illumination!
Elvin Jones / Jimmy Garrison
Sextet
1963/US 【Impulse!】
エルヴィン・ジョーンズとジミー・ギャリソンの双頭グループが、セクステットで録音した人気の1枚です。何せ63年という良い時期(翌年には『A Love Supreme』セッションが行われるのですから)に「インパルス!」からリリースされただけでも価値があるのに、ピアノはマッコイ・タイナー!これはもう、僕の様に「インパルス!」時代のコルトレーンと黄金のカルテット・ファンであれば、放っておけるハズのないレコードなのです。
しかし正直、個人的なファースト・インプレッションはそれほどの好印象ではなかったことを思い出します。と言いますのも、僕がコルトレーン/マッコイ/ギャリソン/エルヴィンに求めてしまうのは、その緊張感みなぎる音のせめぎ合いであり、また、そこから生まれるオルタナティヴで研ぎ澄まされた空気であるワケです。コルトレーン不在が故か、アルバム『Illumination!』からはそうした緊張感はあまり感じられず、むしろリラックスした愛らしさが漂っています。今ではこの心地よさも受け入れられる様にはなりましたが、やはり「黄金のカルテット−(マイナス)コルトレーン」という単純な引き算では計り知れないのだと痛感したのも事実です。
それでも、やはり超一流の揃い踏みというのは凄みがあるものです。ドラムス、ベース、ピアノの音色はコルトレーンのレコードでのそれを彷彿とさせ、厚みと立体感が感じられます。プリンス・ラシャ(cl、fl)、ソニー・シモンズ(E.Horn)、チャールズ・デイヴィス(bs)という彩り豊かな編成の管楽器隊も、個々にオリジナル作を提供して奮闘しています。ラシャはコルトレーン風のプレイが目立ち、やはり意識していたことは間違いないでしょう。 (Mar 2009)
Tribute To Someone
Giorgio Azzolini
1964/ITA 【Ciao Ragazzi】
イタリアの名ベーシスト、ジョルジオ・アゾリーニのリーダー作です。
良いモーダルのヨーロピアン・ジャズを探している向きには打ってつけの名盤だと思います。トランペットにフランコ・アンブロセッティ、テナーにガトー・バルビエリらを擁し、艶やかな演奏を展開しています。
印象的なラインを持つ表題曲はハンコックの作品で、他にもマイルスの『So What』やバルビエリによる『Hiroshima』を収録していることでも知られています。『So What』ではアゾリーニのベース・ソロを楽しむことが出来ますし、『Hiroshima』は僕たち日本人にとっては特別な響きを持って伝わってくる作品と言えるでしょう。そんな中でも僕が特に好きなのは、疾走感のある『The Stroller』。ジャズ・ファンならずとも体を動かしてしまうこと必至の作品です。 (Apr 2006)
Speak Like A Child
Herbie Hancock
1968/US 【Blue Note】
ハービー・ハンコックが「ブルーノート」在籍時代に残した人気作品です。
友人が撮影したというジャケット写真に触発されたハービーが、そこからイメージを膨らませて、遂にはアルバム・コンセプトである「子供の様な無垢」に辿り着きます。そんな無垢さ・純真さを表現するという試みは大成功。この奇跡的なまでに美しい演奏の数々に繋がったわけです。
ロマンチックでムードがあって、それでいて何とも知的な音楽は、あるルールに則って形作られたと考えられます。それは、ハービー以外はソロをとらないということです。要するにハービーがここで表現したかったのは、ソリストの個人技が際立つ華やかさではなく、アレンジやアンサンブルの美しさだったのでしょう(とは言え、決してプレイヤーの個性が蔑ろにされているわけではありません。例えばロン・カーターのベースひとつをとってみても、つい耳で追ってしまうほど素晴らしいフレーズの連続です)。こうしたコンセプトから導き出されたであろうホーン・セクションの組み合わせ、すなわちフリューゲル・ホルン、ベース・トロンボーン、アルト・フルートという激シブな選択が何ともユニークで、しかもアルバム全体に落ち着きと高級感とを与えていることは特筆すべきでしょう。
タイトル・トラック及び、『Riot』の素晴らしさは、至宝のレベルです。 (Jan 2006)


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Inner Urge
Joe Henderson
1964/US 【Blue Note】
テナー・サクソフォニスト、ジョー・ヘンダーソンが「ブルーノート」時代に残した傑作。
別項でも書かせて頂きましたが、ジョーは個人的に最も好きなテナー・マンの一人です。彼がマッコイ・タイナー(p)、ボブ・クランショウ(b)、エルヴィン・ジョーンズ(d)とのカルテット構成にてレコーディングした1ホーン物でして、つまりは否が応でもコルトレーン作品を彷彿とさせる宿命を持ったアルバムなのです。しかもマッコイとエルヴィンは本作収録の数日後に、あの『A Love Supreme』をレコーディングしており、そのミュージシャン・シップが最高に研ぎ澄まされていた時代の作品であったとも言えるわけですね。この2人(これまた個人的に最も好きなピアニストとドラマーです)がフォロー・アップするジョー・ヘンダーソンの作品の出来が悪いハズもありませんが、唯一の懸念材料は、コルトレ−ン作品との無意味な比較によって本来の芸術性を見損ねてしまうこと。しかし多くのモーダル・ジャズ・ファンによる近年の『Inner Urge』評は実に高く(あるいはクラブ・ジャズ世代にも絶大な人気を誇ります)、既に巨人の影はいい意味で払拭できているとも言えそうです。
冒頭を飾るタイトル曲『Inner Urge』の出だしから、もうカッコ良すぎです!そこにはダークな空気が流れ、張り詰めたテンションが屈指の実力を誇る才人4人の拮抗を保ちます。その後マッコイとエルヴィンが相変わらずの鋭い感性を注ぎ込んだソロを聴かせてくれますが、ベースのボブも肉厚かつセンス抜群のフレーズで見せ場を作っており、まったく引けをとりません。スパニッシュ・モードの名曲『El Barrio』もタイトル・トラック同様ジョーのオリジナル。時折感情的なブロウが唸りますが、全体の質感はあくまでクール。ジャケット・デザイン(コチラもダーク&クールで非常に人気があります)を具現化したようなサウンドが魅力です。
当時の彼のアルバムは優れたものばかりですが、頭ひとつ抜けていると思しき『Inner Urge』が僕は一番好きです。 (Aug 2010)


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Off Limits
Kenny Clarke-Francy Boland
Big Band
1970/GER 【Polydor】
1970年に独・ケルンで録音されたクラーク・ボーラン・ビッグ・バンドの作品が、この度日の目を見ることとなりました。リイシューを担当したのは、DJのジェラルドを中心とした「スケーマ」の面々で、なるほどといった感じですね。
良いヨーロピアン・ジャズには、すっかり虜にさせられてしまいます。日に日に発見があり、しかもスタイリッシュなのがまた良い。さらに、この作品はクラブ映えも抜群ですし、グルーヴといい実験性といい、今日的な耳でジャズを楽しむ向きにはもってこいでしょう。
本作ではボーラン以外の作家の作品を4トラックに渡って取り上げているのですが、どれも素晴らしい作品ばかりで、例えばフランスのジャン・リュック・ポンティによる『Astrorama』後半などは抜群のカッコよさです。楽曲のよさに加え、名だたるメンバーの腕前と、やはりボーランのアレンジの力量も大きいのでしょう。
全編クールな名演ばかりです。銀色のまぶしいジャケットを見たら、即、聴いてみて下さい。 (Jan 2006)
Afro-Cuban
Kenny Dorham
1955/US 【Blue Note】
『Afrodisia』が収録されたアルバムとして、アシッド・ジャズ以降のDJ、リスナーにはあまりにお馴染みの1枚。
実際、この『Afrodisia』を含む前半の4トラックは格好よすぎで、同じくキラー・トラックの『Basheer's Dream』後半にピアノのリフが再び帰って来る瞬間、アルバムのピークを迎えます。エンドルフィン放出しまくりです。
勿論、ケニーのトランペットも好きですが、作品全体を熱くしているのは何といってもコンガを中心としたパーカッションでしょう。そうした理由から、後に加えられた後半3トラックには、個人的に思い入れが少ないという現実があります。コンガがありませんからね。
(その名もズバリ)アフロ・キューバン系ジャズにおいて、最も好きなアルバムです。ブーム中に聴かなかった方、今からでも絶対に遅くないですよ。必聴です。 (Jan 2006)
Jazz Under The Midnight Sun
Lars Lystedt Sextet
1964/SWE 【Interdisc】
スウェーデンはウメオ出身のヴァルヴ・トロンボーン奏者、ラース・リステットがセクステットを率いて64年にリリースした北欧モーダルの傑作です。ヨーロピアン・ジャズらしいスタイリッシュでスマートなプレイは見事なシンクロを見せて、白夜(それはまるで美しいジャケ写みたいな・・・)の空に溶けていく様を想像させます。
本作がクラブ・ジャズ世代にも高い人気を誇る最大の理由は、キラー・トラック『The Runner』を擁しているからに他なりません。このトラックのカッコよさについては既に語り尽くされたところもありますが、やはり少し言わせて下さい。サックス・ソロで幕を開けた高速4ビートが、一糸乱れぬホーン・セクションによるテーマの演奏に辿り着いた瞬間は、何度聴いても鳥肌が立ちます。ハイ・テンションとクールを見事なコントラストで描き出し、一瞬たりとも疾走間が失われることのない、パーフェクトなアレンジ。ドラムスとベースの質感も実に好みです。
さらに「セレスト」から2005年にリイシューされたCDでは大量のボーナス・トラックが追加されていて、その中には『The Runner』の別テイク(!)、さらに、同じくDJ人気の高いレア・トラック『Fanfar』も収録されているのです。この『Fanfar』は『The Runner』と同系統のアップ・テンポなモーダルで、2分半そこそこの中に旨みをギュッと凝縮した逸品。しかも、コチラも2テイク分が収められており(なお、どちらも同タイトルによる10インチに収録されていた本採用テイクとは別物らしいです)、さすがセレストさん、こだわりを感じずにはいられません。ハンパなものは出さないですね!
ピアノは近年の再評価著しいベント・エゲルブラダが担当し、コンポジションの根幹を担っている点も注目です。 (Jan 2009)
Les P' Tits Loups Du Jazz
Les P' Tits Loups Du Jazz
1992/FRA 【Enfance et Musique】
フランスの子供達がジャズのスタンダード・ナンバーを愛嬌たっぷりに歌う、何とも胸躍る企画盤です。このプティ・ルー・デュ・ジャズは本国ではなかなかの有名グループらしく、また日本でも子供向け音楽やトイ・ポップ好き中心に人気の様で、雑貨屋さんなんかで流れているのを何度か耳にしました。
それにしても可愛いですね。でも演奏は大人、しかもジャズ・ミュージシャンがしっかりサポートしているので、単なるお洒落アイテムだと思ったら結構本格的なんでびっくりするかもですよ。トランペット相手にユニゾンでスキャットをきめる、舌っ足らずな子供のフランス語だなんて、ちょっと他にないと思います。
最近リイシューされたばかりだというのに、もう廃盤だそうで(シリーズをまとめたベスト盤は買えるそうです。コチラも可愛いです)残念ですが、見かけたらぜひゲットして下さい。楽しい気分になれること請け合いです。 (May 2006)
Variety Is The Spice
The Louis Hayes Group
1978/US 【Gryphon】
近年、ますます再評価が高まるレーベル、「グリフォン」からリリースされた、ルイス・ヘイズのリーダー作がリイシューされました。
多くの識者やファンから異口同音に名盤と称えられるだけあり、素晴らしいの一言に尽きます。中でも白眉として知られるのが、定番『My Favorite Things』の超絶カヴァーです。ハロルド・メイバーンの疾走するピアノがカッコ良過ぎ!コルトレーンのそれに負けず劣らずの、必聴中の必聴トラックとなっています。もう何回聴いたか分かりません。
手数の多いルイスのドラミング、セシル・マクビーのベース、さらに『Little Sunflower』で独壇場を作るレオン・トーマスの歌声など、グっと来るポイント満載です。ホント、すごいメンバーですよね。 (Jan 2006)
Sama Layuca
McCoy Tyner
1974/US 【Milestone】
「インパルス!」「ブルーノート」で“超”が付くほどの名盤を数々リリースしてきたマッコイ・タイナー。彼の作品は大好きなものばかりなのですが、「マイルストーン」時代で特に好きなアルバムのひとつが、この『Sama Layuca』です。
ゲイリー・バーツ(as)、ボビー・ハッチャーソン(vib、marimba)、エイゾー・ローレンス(ss、ts)といった魅力的な顔ぶれが揃い、熱を帯びた名演を繰り広げています。本作の特徴として、無国籍というかエキゾチックというか、とにかくアフリカやアメリカを飛び出したムードに溢れている点が挙げられると思いますが、その演出上特に重要な役割を果たしているのが、ボビーのマリンバでしょうね。そもそも楽器が持つ温度感がヴァイブとマリンバでは大きく違うワケですが、それを上手に使い分けるボビーの知的さに惹かれます。また、『Desert Cry』におけるホーン・セクションのエスニックなアレンジも見逃せません。
もうひとつ、アルバムの特徴と言えそうなのが、『Sama Layuca』や『La Cubana』に顕著なドライヴ感です。マッコイのピアノを中心としたリフ的なプレイが生み出すグルーヴがいかにも70年代的で、本当にカッコイイ!クラブ世代やロック・ファンは特に注目のトラックと言えるでしょう。一方で、例えば『Above The Rainbow』ではマッコイとボビーという2つの“知”がコラボレーションしていて、奥の深さを感じさせるのです。
全体的に、いわゆる「ガッツのある音」でレコーディングされているところも好きです。 (Jul 2008)

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European Jazz Sounds
Michael Naura Quintet
1963/GER 【Brunswick】
ロシア出身のピアニスト、ミハエル・ナウラ率いるクインテットが63年、「Brunswick」に吹き込んだ1枚です。とんでもない高値で取引されているコトで知られていたレア盤が、例によって「澤野公房」よりアナログ復刻!限定だけにあっという間に完売しましたが、現在はCDで入手できます。欲を言えばCD盤のジャケも、オリジナルに近いデザインで復刻して欲しかった気もしますが、音も良いし、こうして手軽に聴ける様にしてくれただけでも感謝、感謝です。
クールに決めた5人(インナー・スリーヴの写真も決まってますね)のイメージそのままに、洒脱で知的なヨーロピアン・ジャズが流れ出した瞬間、誰しも、本作がコレクターやDJから高い支持を受け続けてきた理由を理解できてしまうでしょう。深みと艶を同時に感じさせる、明瞭な音と演奏。クラブ受けも抜群のグルーヴ感。楽曲の出来栄え(半分がミハエルのオリジナルです)も良く、文句のつけどころがない完璧なレコードと言えそうです。
中でもダントツ人気であろう『Down In The Village』は、タビー・ヘイズのライヴ盤(コチラも必聴ですよね)をも凌駕しそうな絶品。カッコ良すぎなスウィングを聴かせる『Three Seconds』では、ピアノとヴァイブを左右に振っての美しい競演が聴きどころ(明快すぎるテーマはそんなに好きじゃないんですが・・・)。そして全編に渡って注目したいのが、ラインケによるアルト・サックスです。ドラム、ベース、ヴァイブ、ピアノとどれをとっても最高のプレイを聴かせてくれるクインテットにあって、とりわけ目立つ存在なのがこのアルト。さり気ないフレーズにも輝きがあり、つい耳で追ってしまうのです。(May 2007)
Winds & Skins
Sabu Martinez / Sahib Shihab
1978/SWE 【Mellotronen】
すごいレア音源があったものです。1978年にスウェーデンのラジオ放送用に録音された代物で、サブー・マルチネス率いる5人のパーカッショニストとサヒブ・シハブとがセッションしている、ユーロ・ジャズ、アフロ・キューバン、スピリチュアル・ジャズ、クラブ・ジャズなどあらゆるジャズ・ファンに響きうるレコードです。地元・スウェーデンのレーベル「Mellotronen」が発掘・リリースしたことで、ついに陽の目を見ることとなったコチラの逸品、今日的な価値観をもってすれば、いかに鳥肌モノの企画であるかがわかると思います。
土台となっているのは、パーカション陣の生み出すオーセンティックなグルーヴです。この気持ちよさは、サブー個人名義によるレコードで体感済みの方であれば確実に共感して頂けることでしょう。そこへサヒブによるフルートとアンプリファイド・サックスが乗っかるワケですから、両者のファンである身からすれば、これはもうドキドキせずにはいられません。
全編、スピリチュアルと魔性とが混在した独特の空気に満ちていて、それはサブーが歌いあげるトラディショナル・ナンバーですら例外ではありません。この空気を吸い込みたい方には必携のアイテムと言えるでしょう。 (Apr 2009)
Sahib Shihab &
The Danish Radio Jazz Group
Sahib Shihab &
The Danish Radio Jazz Group
1959/DEN 【Oktav】
ジョージア州出身のサヒブ・シハブが渡欧後、「Oktav」に残した幻の名盤です。レア中のレアと言われ続けた本作が、「澤野工房」によって復刻されました。僕は特別ジャズに詳しいというワケではありませんが、少なくとも現時点では、最も好きなレコードの中の1枚と断言したいと思います。サヒブによる楽曲も、録音もアレンジも全て完璧!『ココまで良いのか〜』と唸ること必至です。
サヒブのバリトン&フルート(後者は特に好きです)が素晴らしいのはもちろんなんですが、それだけでなく、とにかく全てのパートがスマートかつスリリングにせめぎ合っていて、重厚な仕上がり。多くのポイントで曲を引っ張るニールス・ペデルセンのベースは、音質も含めて特にカッコイイですね。
美しくて爽やかなワルツ『Harvey's Tune』や、品があるのにグルーヴィな『Dance of the Fakowees』など、最高のトラックばかり。『Little French Girl』でのサヒブの唄は何だか馴染めないんですが、とにかくパーフェクトなヨーロピアン・ジャズと言えば、この作品だと思います。 (Jan 2006)
Eastern Sounds
Yusef Lateef
1961/US 【Prestige】
いわゆるクラブ・ジャズ世代から絶対のリスペクトを受けるユゼフ・ラティ−フ。数あるリーダー作の中でも断トツの人気を誇るのが、61年に「プレスティッジ」に残した『Eastern Sounds』です。
その人気の理由は、言うまでもなく『Love Theme From Spartacus』を収録していることに尽きるでしょう。映画のタイトル曲をシンプルに、そして優しく奏でるユゼフのオーボエとバリー・ハリスのピアノ。どこまでも美しく、ゆらゆらと空に立ち昇っていく旋律に、僕らは何度でも心を打たれるのです。
また、個人的にこの名曲と併せて推したいのが、冒頭を飾る『Plum Blossom』です。彼の非西欧的な思想を端的に表すような、民族楽器(ベーシストのエルニー・ファーロウが「rabat」なる楽器を演奏しているようなのですが、どんな楽器なんでしょう)の静かなリズムの上を、ユゼフの深くて低いフルートが唄いだす、なんとも不思議でのどかなトラック。ここに身を置くと、まるで時間の流れが変わったような気持ちになれるのがいいんです。他にも、『〜Spartacus』に人気では譲るものの、これまた映画音楽のカヴァー『Love Theme From The Robe』でも同様の穏やかな時間を得られますし、『Three Faces Of Balal』などでのストレンジな質感も魅力があります。
ユゼフ・ラティーフの代表作、万が一聴き逃していらっしゃる方はぜひ購入をオススメします。 (Jan 2008)


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