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Blacks And Blues
Bobbi Humphrey
1973/US 【Blue Note】
女流フルート奏者・ボビー・ハンフリーが73年にリリースした「BN-LA」シリーズの人気アイテムです。
プロデュースはスカイ・ハイ・プロダクション。マイゼル兄弟ほか、チャック・レイニー、ハーヴィ・メイソン、デヴィッド・T・ウォーカーといった“間違いのない”顔ぶれによる都会的でメロウ、かつグルーヴィなトラックがあまりに素晴らしい1枚です。個人的に、本作におけるアープの音色とプレイが一時期苦手だったんですが、今ではすっかり好きな要素になりました。彼女によるフルートも伸びやかで、フレージングも抜群!しかも歌声まで超キュートときています。
ソウル、ジャズ・ファンク、クロスオーヴァー、フュージョン、R&Bといった多くのクラブ/ブラック・ミュージックと地続きであり、またレア・グルーヴやヒップホップ、アシッド・ジャズとコネクトしていった先進的なDJたちによって、80年代後半以降、その価値を一気に花開かせた『Blacks And Blues』。真のクラシックとして、改めて聴き続けていきたい作品です。 (Mar 2007)
Country Fried Chicken
Bubbha Thomas &
The Lightmen
1975/US 【Lightin'
ドラマーのブッバ・トーマスが、自ら立ち上げた「Lightin'」レーベルからリリースした4thアルバム。これまでの作品にも増して濃厚なファンク色を見せる本作は、キャリアの最高傑作との呼び声も高い1枚です。
まず、冒頭『Country Fried Chicken』のイントロでノックアウトされること間違いなし!「いいアルバムに出会えた」ことを即座に実感できるドラム・ブレイクからスタートすることで、聴き手の集中力もぐっとアップさせられます。3トラック目の『Survival Song』も最高のミッド・ファンク・チューン。この2作品でとりわけ好きな要素は、ビーターの弾力まで感じさせる独特なキックの音色。実に気持ちいいです。続く『Herbs (Of Life)』や大作『Sweet Ray』もジャズ・ファンク好きなら放っておけない好トラックですが、個人的にイチオシしたいのが『Famous Last Words』。あまり話題には上がりませんが、エレピとフルートがリードするメロウ&グルーヴィな隠れた傑作だと思います。
激レアで知られるこのアルバムも、お馴染み「ストーンズ・スロウ」のイーゴン監修のもと、遂にCDでのリイシューが成されました。感謝したいです。 (Jul 2009)
Big Band Machine
Buddy Rich
1975/US 【Groove Merchant】
あらゆる音楽ファンから知られる凄腕ドラマー、バディ・リッチ。とりわけオールド・ジャズ・ファンには馴染み深い存在だと思いますが、バディ・リッチ・ビッグ・バンド結成後の70年代の作品群は、レア・グルーヴ周辺での人気が非常に高く、本作もその内の1枚と言えるでしょう。
ビッグ・バンドによるジャズ・ファンク。この響きだけで、もう僕の期待値はマックスにまで振り切ってしまいます。そんな風に勝手にハードルを上げまくっている僕みたいなファンに対して、出音のカッコよさで期待をさらに上回る答えを提示してくれた本作に出会えて、本当にラッキーでした。大人数で生み出すファンキー・グルーヴというのも良いものですね。
とにかく素晴らし過ぎるのが、ドライヴするキラー・チューンである冒頭の『Three Day Sucker』と続く『Tommy Medley』。ダイナミック・レンジの広さと手数の多さがハンパないバディのドラム・ソロ。そこに追従するコンガのグルーヴ。ワウ・ギターと漆黒のエレキ・ベースが織り成す70年代特有の匂い。一糸乱れぬホーン・セクションのキレ味。これらが渾然一体の波となって押し寄せてくる様は圧巻の一言です。もし生で体感していたら、どんなに感動的であったでしょうか。想像だけで鳥肌が立ちます。
加えて「P-VINE」のリイシュー盤では、『Nik-Nik』と『Layin' It Down』という同年にレコーディングされた超ファンキーなボーナス・トラックが2曲も楽しめてしまうのです。コチラはよりエッジの利いたハイ上がりの録音で、本編とは違った肌触りが魅力です。 (Oct 2008)
Return To Forever
Chick Corea
1972/US 【ECM】
世界中で最も知られるレコードのひとつであり、70年代ジャズの定番中の定番。それが、チック・コリアの『Return To Forever』です。
テクニカルな展開を見せつつも、スリリングというよりは開放的で、爽やかですらあります。チックがプレイするローズや、ジョー・ファレルによるフルートの透明感、あるいはアイアート・モレイラ&フローラ・プリム夫妻が呼び込んだブラジルの風がそうさせるのでしょうか、木漏れ日のように穏やかな太陽が差し込んだ空間がここにはあります。その明るさと温かみが僕たちを惹きつけて放さないわけです。
90年代中盤くらいから、クラブ・シーンにおいて急速に高まった“フュージョン”というキーワードへの再評価の波で、当然ながら本作もその象徴のひとつとなったことは記憶に新しいところです。ただしこのアルバムに限って言えば、もっと普遍的な人気をも勝ち得ており、少なくともリアルタイムで体感したオールド・ファンの皆さんは、もっと恒久的な輝きを感じられていることでしょう。いずれにせよ、素晴らしい音楽がとても多くの人たちに浸透しているという事が素敵ですよね。
チックによる楽曲も力作ばかり。スタンリー・クラークによる壮絶なエレキ・ベースのフレーズや、フローラの瑞々しい歌声も聴きどころでしょう。 (Dec 2007)
Street Lady
Donald Byrd
1973/US 【Blue Note】
スカイ・ハイ・プロダクションによる「BN-LA」時代のドナルド・バードの作品は個人的にどれも大ファンなのですが、まずはジャケが最高な73年の傑作『Street Lady』からとりあげさせてもらいます。
針を落とした瞬間から軽やかなカッティング・ギターと柔らかいスネア使いのドラムスが踊りだし、印象的なリフを形成していきます。このあまりに素晴らしい演奏の主はご存知、デヴィット・T・ウォーカーとハーヴィ・メイソン!チャック・レイニーのベース・ラインも最高です。そこにフルートやトランペットが絡みだす瞬間の爽やかな高揚感は、筆舌に尽くしがたいものがありますね。そんなエヴァーグリーンなジャズ・ファンク・チューン『Lansana's Priestess』を聴く為だけでも、本作を買う価値があります。
しかし、そのクリエイティヴィティが最高潮に達していた当時のスカイ・ハイ・プロダクションの手掛けた作品ですから、冒頭の1曲でアイディアが尽きる様なことはありません。他の5曲においても時にアーバンに、メロウに、ピースフルにその表情を変化させながらも、一貫してタイトでグルーヴィなプレイを展開していきます。そして、いかにもマイゼル兄弟らしいキャッチーなリフが反復される気持ちよさも特徴的でして、この辺りが後にクラブ〜レア・グルーヴ・シーンで再評価を受けた所以とも言えるでしょう。
ところで、バップ時代のバードを愛するが故か、フュージョン時代のバードを「マイゼル兄弟の作品であって、バードの作品ではない」として過小評価する向きがありますが、長いソロがないとリーダー作にならないという考えなのでしょうかね。僕にはちょっと理解できませんが・・・(ちなみにバッパーだった頃のバードも僕は大好きです)。当時のスカイ・ハイとバードとの間に見られる“フィーチャリング”的な発想もまた、今日のクラブ・ミュージックと相通ずるものがあるから、きっと90年代以降に再評価が進んだのでしょう。 (Mar 2010)
Music Is My Sanctuary
Gary Bartz
1977/US 【Capitol】
スカイ・ハイ・プロダクションが手掛けた、ゲイリー・バーツ77年の作品です。確かにプロデューサーとしてマイゼル・ブラザーズがクレジットされているものの、アルバム半分にあたる3曲でゲイリーがコンポーズとアレンジを担当していたり、ホーン・セクションは全てゲイリーがアレンジしていたりと、彼が主導権を握る場面も多く、この事が双方の持ち味を絶妙なバランスで活かす結果をもたらしました。
個人的に、とにかく心底惚れ込んでいる1枚です。人選、楽曲、アレンジ、プレイ、ミックス、空気感。そのどれもが、躊躇なく「完璧!」と断言できるレベルにあります。この時代のソウル色とジャズ色を良いトコ取りしたフュージョンの名盤は数在れど、本作は僕にとって理想的な造形美をもったスペシャルな1枚なのです。
タイトル・トラック『Music Is My Sanctuary』は、この時代のバーツを代表する人気曲。バーツらの男声陣も味がありますが、後半リフレイン部分、シリータ・ライトのヴォーカルがキュート過ぎで本当にヤバイです。続く『Carnaval De L'Esprit』はバーツのペンによるブラジリアン・フュージョン。軽快に宙を舞うブラス&ストリングスと饒舌なパーカッション、控えめながら効果的なコーラスの兼ね合いが最高です。『Love Ballad』は洗練の極みをいくメロウな作品。バーツのサックスとシリータのエンジェリック・ヴォイスが泣きのメロディを紡いでいきます。デヴィッド・T・ウォーカー印としか言い様のないギター・ワークも見事なハマリ具合ですね。後のヒップホップやR&Bを思わせるモダンなリズム・トラックの入り方が印象的な『Swing Thing』は、本作唯一のマイゼル作品。チョッパーとハイハットの裏打ちで進行する場面があったり、またテンポが段々速くなる遊びが利いたアウトロがあったりと、表情豊かなトラックです。『Oo Baby Baby』はタイトル通りの「Oo Baby Baby」というソウル風男声コーラスでスタートする3連のバラードです。ラストを飾る『Macaroni』は、重厚で物々しいストリングスから始まる意外性が面白いバーツの作品。その後サックス・ソロを挟んで、シリータをフィーチャーしたメロウ・フュージョンへと突入していきます。サックスとヴォーカルが奏でるテーマは実に美しく、どこか切ない余韻も残してこの傑作アルバムは幕を閉じるのです。
ヒップホップやアシッド・ジャズ、レア・グルーヴ以降のアーティストやDJからは絶大な支持を受ける一方で、スピリチュアル時代(コチラも素晴らしい!)のバーツ・ファンや、スカイ・ハイに食傷気味の方からは、ややもすると評価が振るわないきらいもある『Music Is My Sanctuary』ですが、それだけ議論に上ること自体が特別な作品であることの証明とも言えるでしょう。 (Oct 2008)
Chevere
Jorge Dalto
1976/US 【United Artists】
ジョージ・ベンソンの大ヒット作『Breezin'』における名演で知られるアルゼンチン出身の鍵盤プレイヤー、ホルヘ・ダルトの1stソロ・アルバムです。クラブ人気の高い『I've Got You On My Mind』を収録していることでニーズがあったにも関わらず、今年タワーレコードの復刻レーベルからリイシューされるまでCDリリースはありませんでした。それだけに、今回のCD化はまさに待望のニュース!早速購入し、この夏はかなりのペースで聴いていました。
件の『I've Got You On My Mind』を始め、ラテン・フレイヴァー漂う極上のメロウネスを全編に渡って堪能することができます。ロニー・フォスター(ミニモーグ)やバーナード・パーディ(ドラムス)といった、わくわくする様な面子が織り成すフュージョン・トラックに、ホルヘの変幻自在なアコピ、ローズ、シンセ、クラヴィが時にスペイシーに、時にリゾートっぽく彩りを加えます。長い間、主役を惹き立てながらも個性の発揮を求められてきたホルヘだけに、アレンジの妙味を知り尽くしているのでしょうね。さらに、時折フィーチャーされるホルヘの奥様・アデラの涼しげなスキャットも最高です。
頭でっかちになり過ぎることなく、主張し過ぎることなく、夏の暑さを和らげてくれる洒脱で気持ちのいい一枚。リゾート気分も満たしてくれるのに、グルーヴは実に都会的なのも魅力です。 (Sep 2009)
Who Is This Bitch, Anyway?
Marlena Shaw
1974/US 【Blue Note】
“ヴォーカル・アルバムの聖典”の誉れ高いこれほどの名作に、おいそれと形容する言葉も思い浮かびませんが、多くの音楽ファン、それもジャズ、ソウル、レア・グルーヴ、ポップスとあらゆる分野のリスナーに30年以上愛され続けてる事実が、何よりもその素晴らしさの証になっていると思います。
例に漏れず、僕も『Who Is This Bitch, Anyway?』の虜です。しかも聴くたびに新しい発見があるので、いつまでたっても古典にならず、僕にとっては常に最新のアルバムなのです。つまりこうです、今日は特にローズに耳を傾けようとか、キックとベースの関係に注視しようとか、まぁ頭でそう考えて聴いているワケでもないのですが、気分によってその時々の楽しみ方を自然と満喫出来る。そう考えると、味わい尽くす日なんて、きっといつまでも来ない気がしませんか?
マリーナ・ショウのゴスペル/ブルーズに根ざしたヴォーカル・トラックも素晴らしいのですが、完璧過ぎるこのバッキングこそ注目たるポイントでして、例えばジェイ・ディラの『Welcome 2 Detroit』みたいにインスト版があったら是非欲しい・・・なんて妄想をしてしまう程です。もっとも、デヴィッド・T・ウォーカー、ラリー・カールトン、ハーヴィ・メイソン、チャック・レイニー、ラリー・ナッシュ、デニス・バディマーといった名うてのミュージシャンが紡ぎ出す極上のトラックは、マリーナの歌を優しく、それでいて強力にサポートするものであって、決して独りよがりなテクニック合戦になど陥ってはいません。しかも一発録りが多いとのことで、渾然一体の形で楽しむのが一番ということなのでしょうね。
とにかく、ドラムとベース、エレピ、そして左右に振られたギターを中心としたアレンジの美しさは、他のどんなレコードをも凌駕していますね。この時代のバッキングには良いものが多いとは言え、飛び抜けています。『Feel Like Makin' Love』とか『You Been Away Too Long』は究極の出来栄えですよね。かと思えば『Prelude for Rose Marie』みたいなクラシカルなサウンドがあったり、冒頭のダイアログでソフィスティケイトされた雰囲気を取り込んだりと、変化にも富んでいます。整理されたミックスも大好きです。楽曲も軒並み素晴らしいし、ズルイくらい完全無欠な1枚ですね。 (Jan 2007)
Soul Club
Memphis Black
1969/GER 【Sunset】
ドイツのハモンド・プレイヤー、イングリッド・ホフマンを中心としたメンフィス・ブラック。この名義で残したアルバムは唯一本作のみ、しかも短期間に限って結成されたバンドらしく、そのレア度はかなりのものでした。が、ドイツの「Sonorama」によるリイシューが実現し、近所のレコード屋さんでも入手できる様になりました。
僕は完全にジャケ買いで、今ひとつ知識も乏しい中購入しました。その第一印象は「意外とリズムがファットだな」といったもの。ウッディな質感は予想通りでしたが、ヨーロッパのジャズ・ファンクということもあり、もう若干タイトな出音を想像していたワケです。この、ちょっとロック/モッド色が強い感じが購入当時の自分のブームとズレてたんですが、聴き進めていくうちに、ハーフ・オープン・ハイハットとのコンビネーションが利いた大き目なスネアの音とタイム感(絶妙な溜め!)が気持ちよくなってきて、段々と好きになりました。
スタジオ・ミュージシャンによるバンドでしょうから、安定感は抜群。楽曲に関して言うと、ポイントとなっているのがドン・コヴェイ、ジミ・ヘンドリックス、バーケイズらのカヴァー曲の数々。いかにもこのテのレコードらしい企画ですね。どれもハモンドがグリュグリュと唸り、ファンキーかつロッキンなサウンドで録音された好トラックばかりです。インスト・オンリー。 (Sep 2007)
The Awakening
Mike Longo
1972/US 【Mainstream】
ディジー・ガレスピーのクインテットでその才能を存分に発揮したことで知られるピアニスト、マイク・ロンゴ。「グルーヴ・マーチャント」などでも傑作ソロを残した彼が、72年に「メインストリーム」からリリースしたのが、この『The Awakening』です。近年、豊富なタイトルがCDリイシューされている両レーベルだけに、改めてこの辺りの音源に傾倒している方も多いのではないでしょうか。
結論から申し上げて本作はとんでもない傑作なわけですが、さもありなん、ドラムスにミッキー・ローカー、ベースにロン・カーター、他にもカーティス・フラーや、なんとガレスピーがパーカッションで名を連ねるなど、とにかく面子が凄い。とりわけローカー&カーターのリズム隊のカッコよさは特筆すべきだと思います。高速なトラックが多いにも関わらず、ローカーはかなりの手数を見せ、カーターはしっかりグルーヴとコシの強さを生み出しているのです。正直、ロンゴのエレピよりも、手練たちによる切れ味鋭いホーン隊よりも、リズム・トラックに夢中ですね。スネアやエレキ・ベースの音色だけで、僕はもうやられてしまいます。
いかにも70年代ジャズ・ファンクの真骨頂をいく、ロンゴ自身のペンによる楽曲はどれも素晴らしい出来で、しかも実用性の高い打ってる作品ばかり。そんな中で、ラストを飾る『Just To Let You Know』だけはフルート(『A Piece Of Resistance』でのフルートも好きです。ベテラン、ジェイムス・ムーディのいい仕事ですね)とリム・ショットが心地よいブラジリアン・ジャズ。最後まで楽しませてくれます。 (Apr 2008)
If
Nathan Davis
1976/US 【Tomorrow International】
今から2年前、まさに待望のCD化(例によって『Return of Jazz Funk』の流れです。「P-Vine」さん、いつも本当にありがとう!)を果たした、レアにしてジャズ・ファンク界のマスター・ピ−スでもある『If』。レア・グルーヴ〜アシッド・ジャズ・シーンでの再評価を受けて以降、何年もの時間を経過してなお、その輝きは増すばかりです。
ユーロ・ジャズやスピリチュアル・ジャズ界隈でも人気のネイサン・デイヴィスだけに、60年代の録音を中心に聴くべき作品やプレイは多いわけですが、この『If』で注目したいのはむしろ彼のサックスやフルート(も、もちろんイイんですけどね)よりも、ベース、ドラムス、パーカッションのリズム隊だったりします。タイトかつグルーヴィで、存在感のある音色も実に好み。気持ちよい帯域が出てきて、モタつく帯域はマスキングされている感じです。ネイサン自身のレーベル『Tomorrow International』からのリリースにして、敢えて『イントロデューシング・アブラハム・ラボリエル』なんて掲げてるあたりを見ても、ネイサンはベーシストのアブラハムを立てたかったのでしょう。実際、彼の超絶エレベ捌きは圧巻で、「速くて上手いほど良い」なんてハードロック的価値観を持ち込むつもりは毛頭ありませんが、アブラハムの高速プレイに触れると、あまりのカッコ良さに思わず笑ってしまうほど。そういった意味でも、『African Boogie』や『Bahia』といった疾走感溢れるトラックこそ注目だと思います。ですから、以前「Luv'n Haight」からリリースされた12インチ盤でこの2作品が選曲から漏れ、ミドル・テンポのファンク作品中心に構成されていたことが、今思えばちょっと不思議です。もちろん12インチに収録された『Tragic Magic』なんかも好きではあるんですが、どちらかというとこのパーソネルだと、ミッド・ファンクのキモでもある重心の低さとか深いウネりよりも、軽快なグルーヴを出す方が向いている感じですから。・・・まぁ好みは人それぞれですし、事情があったのかも知れませんが。
それにしても、本当にカッコイイ1枚です。もし未聴でしたら、ぜひ体感してみて下さい。 (Sep 2007)
Wings Of Spring
Olivier Peters Quartet
1980/GER 【Village Music】
長く陽の目を見ることのなかったレア盤がふとしたきっかけで掘り出され、フィーチャーされ、瞬く間に皆が飛びつく人気レコードに早変わり。本作もそんな数奇な運命を辿った1枚だと言えるでしょう。フランス生まれ、ドイツ在住のサキソフォニスト、オリヴィエ・ピータースの初リーダー作『Wings Of Spring』。その収録曲で、現在屈指の人気を誇るブラジリアン・ジャズ『Full Moon』が、ミュンヘンのレーベル「Spinning Wheel」の名コンピレーションにてフィーチャーされたのがそもそもの始まりであったと見ていいでしょう。ついには熱い要望に応えるカタチでアルバムの再発が成され、こうして誰でも楽しめるようになったんですね。嬉しいことです。
それにしても、とんでもない傑作が眠っていたものです。幻想的な月明かりの風景が一気に開けて高速サンバ・チューンになだれ込む、件の『Full Moon』。そしてそれをハイ・トーンで歌い上げる女性ヴォーカリスト、ジョアン・E・ジョンソンの素晴らしさは、もうさんざん語り尽くされていることでしょう。たしかに彼女が参加しているトラックは例外なく“超”がつく程の名作ばかりで、このアルバムに一層の美しさと気高さを与える存在であったことは間違いなさそうです。高速ブラジリアン・フュージョンに乗せるスキャットがカッコ良すぎな『Kekay』での存在感も最高ですし。そして何より驚かされるのが、これらのヴォーカル入り作品は彼女自身のペンによって作られている点です(それ以外はオリヴィエのオリジナル)。コンポーザーとしてのレベルもハンパじゃない高さであったことになります。
ただ、オリヴィエのセンス抜きに本作は語れません(意外と彼への評価が蔑ろにされている気もしますが・・・気のせい?)。クラシックをベースに持ち、サックスのみならず様々な楽器をこなすというオリヴィエ。実際、本作でも叙情的なフルートを聴かせてくれています。彼の確かな音楽的素養があればこそ、ブラジリアン・フュージョンやモーダルといった幅広く意欲的な楽曲を、高品位にまとめ上げることが出来たのだと思います。そんなオリヴィエに敬意を表してというワケでもありませんが、ここでは、ジョアン抜きのタイトル・トラック『Wings Of Spring』を一押しにしたいと思います。風通しのよい、爽やかさと洗練を兼ね揃えた疾走感溢れるトラックで、今の季節、ヘッドフォンに仕込んで出掛けるのには最高のセレクトとなることでしょう。
全体として、情熱的なトラックであっても、クールな知性を感じさせるところも大好きです。ヨーロピアン・ジャズならではの温度感が、そう思わせるのかも知れませんね。 (May 2008)
A Tear To A Smile
Roy Ayers Ubiquity
1975/US 【Polydor】
数多くのアーティスト、リスナーから今もリスペクトされ続けるヴァイブ奏者、ロイ・エアーズ。とりわけクラブ界隈、レア・グルーヴ周辺で圧倒的な支持を受ける彼が、75年にロイ・エアーズ・ユビキティ名義で「ポリドール」からリリースした1枚です。知名度では他のアルバムにやや劣るかも知れません。しかし、本作における黒く粘りながらもサラリとした後味のファンクネスは筆舌に尽くしがたいほど素晴らしいのです。
ディーゴ(4ヒーロー)主催のレーベル名にも使われている「2000 Black(ロイのサウンドは実に多くのサンプリング・ソースになっていることでも有名ですが、名前までサンプリングされたワケです)」は、冒頭を飾る完成度の高いファンク。70年代ならではの濃さを持った『Ebony Blaze』では、彼の高速ヴァイブが堪能できます。ダサカッコイイ展開が最高です。『Time And Space』は恐らく本作随一の話題曲であろう、メロウなトラックです。ハスキーで美しい歌声を聴かせてくれているのはディー・ディー・ブリッジウォーター!『The Way Of The World』はEW&Fのカヴァー。ジャジィなヴァイブを織り込み、心に染み入る仕上がりになっています。『Miles (Love's Silent Dawn)』はヴァイブをゆったりと聴かせる小作品。ヴァイブが登場しない曲もありますが、このトラックでじっくり浸ることが出来ますね。そしてオーラスはタイトル・トラック『A Tear To Smile』。これは『Show Us A Feeling』らと並んで、硬くて重いキックが印象的なミックスになっています。
ここに挙げていないトラックも、総じて素晴らしい出来栄えです。キャッチーでありながら、聴くほどにクセになる味わいも持っている本作を体験すれば、きっとロイが世代を超えて愛され続けている理由が見えてくると思います。(Jun 2007)
Inner Feelings
Roy Porter Sound Machine
1975/US 【Bel-Ad】
レア・グルーヴという概念で音楽を語るとき、欠かせない存在なのがロイ・ポーター・サウンド・マシーンです。ジャズ・ドラマー、ロイ・ポーターがこのユニット名義で残した僅かな音源は、後に高い評価を得、発売当時ではおよそ考えられなかったほどの需要を生み、DJやコレクターが大枚をはたいてようやく手にしてきたわけです。こうしてレア・グルーヴ・シーンの主役にまでなった西海岸の1マイナー・レーベル「Bel-Ad」に残された2枚のサウンド・マシーンのアルバムが、ついにCD化を果たしました。
肝心の中身ですが、もう文句なし。言わずと知れた極太ジャズ・ファンクの宝庫です。タイトなプレイがファットに録音された、まさに理想的なドラム(ロイ本人ではないトラックも多いです)とベースを軸に、パーカッション、エレピ、ホーン、シンセ(『Jessica』でのアープによるプレイ、何気ないアレンジなんですが最高です)、ギターが、シンプルかつファンキー、そしてジャジィに彩っていきます。フリー・ソウル的な聴き方にもフィットしそうな唄モノがあったり、ジョビンのカヴァー(初めて聴いたときは戸惑いましたが、今では愛らしくて好きになりました・・・)があったり、なんとも珍妙な味わいを出すロイのヴォーカルが聴けたりと、エンターテイメント性が高いところも面白いですね。
これまたB級感がたまらないジャケも大好きです。写真に納まったロイは、この時点で52歳!かつてビ・バップの真っ只中にいた男の衰えないミュージシャン・シップが、ここに結実したのですね。 (Apr 2007)
Tarika Blue
Tarika Blue
1977/US 【Chiaroscuro】
アーバンなフュージョンという、敢えて今求めたいキーワードを満たす良質の1枚として、欠かせないアイテムとなったのがタリカ・ブルーの2nd。ジャケも一周まわって実にカッコイイです。
川崎燎、ジェイムズ・メイソンが在籍していたことでも知られるタリカ・ブルーは、セッション・マン系のメンバーによるグループ。僅か2枚のアルバムを残し、リアルタイムでは評価されることなく消滅したようです。しかしメロウでリリカル、時にアンニュイなローズやソプラノ・サックス、ハイハットとクリーン・トーン(時折、歪み系のエフェクトも)のギター・カッティングによる、抜けの良い軽やかなグルーヴは実に魅力的で、90年代以降の再評価に繋がったことも頷けます。ただ、個人的にはケヴィン・アトキンスのドラムスに、ちょっと乗り切れないフィーリングも感じてしまうのですが、それ以外は気に入っています。
キラー・トラックが多いのも素晴らしいですね。爽やかな疾走感を味わえる『Things Spring』辺りが特にオススメ。切ない『Dreamflower』も大好きです。
ちなみに現行のCDでは、1stもカップリング(1曲を除く)されているのでお得ですよ。 (Dec 2007)
And In This Corner
Tom Lellis
1981/US 【Inner City】
ジャズ・ヴォーカリスト、トム・レリスの1stアルバムです。
サバービア系のリスナーにはあまりに有名な超キラー・トラック『Lucky Southern』を収録しています。この『Lucky Southern』、キース・ジャレットのペンによる作品にトムが詞をつけた様ですが、ヴォーカルもさることながら、疾走感溢れる演奏が実に爽やか!フルートにヴァイブ、トライアングル、そしてソロをとるピアノの軽やかさは、ブラジル系ジャズ好きなら一発でやられてしまいます。
その他のトラックもアレンジが良過ぎです。『E.S.P.』でのアコースティック・ベースの高速ソロなど、まさに必聴もの。名うてのジャズ・マンたちが名を連ねるだけに、聴くほどに新しい発見がある感じです。もちろん、トムも負けていません。例えば『Lluvia』で無国籍なヴォーカル・スタイルを披露するなど、一介のジャズ・ヴォーカリストの枠を軽々超越してみせてくれます。さらに彼自身が弾くピアノも味があります。
ジャケ画さながらにKOされること間違いなしの1枚ですよ。 (Jan 2006)
The Oimels
Wolfgang Dauner Quintet
1969/GER 【MPS】
ピアニスト、ウォルフガング・ダウナーが1969年に「MPS」よりリリースした1枚です。
ジャイルス・ピーターソンのフック・アップによって90年代に評価を得るという、まさにレア・グルーヴの王道を歩んできたことで知られる本作。元々モーダルやフリー・ジャズで名を馳せてきたダウナーが、時代の潮流を意識してか思い切った路線転換を行い、サイケデリック、プログレッシヴ、アヴァンギャルドといった要素を内包したジャズ・ロック・アルバムに仕上げました。
とりわけ面白いのがシタールを前面にフィーチャーするというアプローチで、今日ではクラブ・クラシックともなった『Take Off Your Clothes To Feel The Setting Sun』はその好例と言えるでしょう。このトラックが世に知れ渡った90年代半ばと言えば、折りしもモンド/ラウンジへの飽くなき探求が日々行われていた時代。そういったフィーリングともマッチしたことで、ますます本作の評価はうなぎ上りとなり、遂にはCDでの復刻と相成ったワケですね。実際、サイケでモンドでグルーヴィな『Take OffYour Clothes〜』は、B級なヴォーカルの味わいも含めてかなりカッコいいトラックで、僕も大好きです。
シタール以外ではギターが目立っていて、オーヴァードライヴをかましてストロークしまくるという、かなりロックっぽい使われ方もしています。題材にビートルズの最高傑作『A Day In The Life』を取り上げるなど、当時のダウナーがロックやサイケに傾倒していたことは間違いなさそうです。
なお、この奇妙なジャケは本人の筆によるものだそう。多才な人なんですね。 (Aug 2009)
The Wooden Glass
Recorded Live
The Wooden Glass
Featuring Billy Wooten 
1972/US 【Interim】
ビリー・ウッテン率いるザ・ウドゥン・グラスのライヴ・アルバムは噂に違わぬ、いえ、噂以上に凄い1枚でした。「ストーンズ・スロウ」の最強ディガー、イーゴンやマッドリブ(2004年のリイシュー盤でボーナス・トラックとしてリミックスを担当)も思わず興奮の、まさにジャズ・ファンク史上に輝く名盤と言えるでしょう。
もはや有名であろうかとは思いますが、僕も含めて今回のリイシューで衝撃の出会いを果たした人は多いでしょうから、念のためにグループの経歴を簡単にご紹介いたしましょう。あのグラント・グリーンの「ブルー・ノート」盤などで名前を見ることが出来るのが、グループの主役でヴァイブ奏者のウッテンです。彼が結成したウドゥン・グラス名義にて72年にインディアナポリスのクラブ『19th Hole』で行ったライヴの様子を収めたのが本作です。
編成はヴァイブ、オルガン、ギター、ドラムス。この4人が生み出すファンキー・グルーヴが本当ヤバイんです。ベースはいませんが、代わりにエマヌエル・リギンズによる歪んだハモンドが厚みとグルーヴのコシを支え、重要な役割を担っています。ウィリアム・ローチのギターも、グリュグリュにワウを利かしてバッキングを担当したり、クリーン・トーンでソロを歌ったりと変幻自在のプレイを披露。
とりわけザ・ウドゥン・グラスが優れている点は、とんでもなく長い時間に渡って、音とグルーヴの“ピーク”を作り出せるところだと思います。アゲてアゲて、もう天井という部分がこれでもかと続くんです。これに呼応して、観客が「すげぇ!」てな感じで引き込まれていく様子がよく伝わってくるんですが、実は、これこそが本作における一番のキモかも知れません。というのも、「19th Hole」はおそらく小さなナイトクラブですから、名演を目の前で繰り広げられた人たちの熱狂ぶり、また一体感がハンパじゃないワケです。それにまた応えるようにプレイは熱を帯びるでしょうし、理想的な相乗効果を生んでいたハズです。まさに奇跡の一夜だったに違いありません。かくして小さなハコで起こったこの夜の狂騒は盤面に刻み込まれ、数十年の時を経ても、僕たちリスナーの心拍数を急上昇させるんですね。 (Jan 2008)


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