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Spiritual-Jazz Review 01
since 2006/01/15

Mutima
Cecil McBee
1974/US 【Strata-East】
1974年「ストラタ・イースト」よりリリースされた、セシル・マクビーの記念すべき初リーダー作です。僕が最も好きなベーシストのひとりであるマクビーが30代半ばに出した、この“遅れてきた”1stは既に高い完成度を誇っており、それはファラオ・サンダースはじめ数々のセッションで名を馳せてきた彼を思えば、あまりにも当然の結果でもありました。
しばらく聴いていなかった本作を、先日ふと思い出す機会がありました。それは音楽ライターの知人と交わした会話で、「1曲目から、延々とベース・ソロですよ。しかもアルコで、フリーキーで、ベースだけ!とんでもない1曲目ですよね」なんて他愛もないものだったんですが、懐かしくなって引っ張り出したら、何だか、その「とんでもない1曲目」にすっかり心酔させられてしまったわけです。元々、マクビーの作品中でも一番好きなタイトル・トラック『Mutima』や、たった2分なのに実に雄大な世界を描き出す『Voice of The 7th Angel』(ディー・ディー・ブリッジウォーターが参加!)などに惹かれていたアルバムだったのですが、どうやらマクビー究極の表現とも言えそうな「アルコで、フリーキーで、ベースだけ」な『From Within』が、今の僕には響くものがあったみたいです。
改めてインナースリーヴなどから資料を紐解くと、タイトルの『Mutima』とは「目には見えない力」であることがわかりました。何だかいろいろな事柄が繋がって感じた瞬間でした。僕はアルバム『Mutima』が、昔よりずっと好きになってしまいました。 (Dec 2006)
Alternate Spaces
Cecil McBee
1979/US 【India Navigation】
セシル・マクビーが79年に「India Navigation」レーベルからリリースしたリーダー作。
スピリチュアル・ジャズ・シーンにおいて、彼こそ最も信頼できる屈指のベース・プレイヤーだと言うことが出来るでしょう。サイドマンとしても演奏に深みを加え続けてきた彼だけに、リーダー作でのプレイはよりエモーショナルで、一層の深みを感じさせてくれます。得意の長尺ベース・ソロでは特にマクビーらしさを味わえますが、あるいはチコ・フリーマンやドン・プーレンがソロをとっている時でも、何故か存在を意識してしまいます(無論、ソロイストの魅力を相殺しているという意味では決してありません。念のため・・・)。
本作は多くの人にアピールし得るアルバムだと感じました。タイトル・トラックこそフリー・ジャズ度も高目ですが、それ以降はポップ(というと語弊がありそうですが)な展開も多く、それでいて決してマクビーの高い意識や想いが損なわれていないという、ある種の理想的なバランスを持った傑作だと思います。
どこまでも深く、どこまでも美しい『Consequence』、管楽器のソロがどれも秀逸な『Come Sunrise』は必聴です。 (Jan 2006)
Revelation
Doug Carn
1973/US 【Black Jazz】
西海岸のスピリチュアル・ジャズ・レーベルを代表する「Black Jazz」の顔である鍵盤奏者、ダグ・カーンが、同レーベルに残した3枚目のアルバムです。
本作は、ダグの奥さん(この後、離婚)であるジーン・カーンのヴォーカルを堪能するにも理想的な1枚と言えるでしょう。彼女のソウルフルで超スピリチュアルな歌声は、どこか神々しさも覚えるほど深みがあります。多くの同胞たちが選んでいるコルトレーンの『Naima』は、彼女の歌声と、ダグによる詞作とヴォーカル・アレンジによって、また新たな命が吹き込まれています。ダグのシンセとエレピも完璧ですね。また、ガリアーノでもお馴染みのキラー、『Power and Glory』のオリジナルはここに収録されています。イントロのテーマからいきなりやられます。ダグのオルガン独奏(これがまた泣かせるんです)から始まる大作、『Feel Free』も大好きです。
一連の「Black Jazz」紙ジャケ・シリーズは、パッケージの質感もいいですよね。リイシューしたチームの愛情とか想いがよく伝わってきます。 (Jan 2006)
Medasi
Haki R. Madhubuti
And Nation:Afrikan Liberation
Arts Ensemble
1984/US 【Rise】
詩人であり、現在も執筆業を続ける著名な作家としても知られるハキ・R・マドゥブティが、アフリカン・リベレーション・アーツ・アンサンブルと生み出した大傑作。もとよりアフロ・アメリカンの歴史などを執筆してきたハキ・R・マドゥブティですから、彼によるポエトリィ・リーディング(!)は、恐らく多くの人々に力を与えてきたことでしょう。日本人である僕らにも、その崇高なスピリッツは伝わってきます。
それにしても、本当に素晴らしいジャズ・アルバムです。スピリチュアル・ジャズ・ファンならずとも、完璧なまでの美しさ、ピースな空間に心奪われない人はいないでしょう。特にベースとパーカッションのコンビネーション、感動的な女性ヴォーカルは大好きです。
トラック単位では、幼い子供達による無垢なる「We Are African People!」の叫びが象徴的な『Children』が一番人気の様で、やはり特別なオーラを放っていますね。しかしこれに限らず、5曲全てが名曲と言って過言でない程の力作揃いです。これが大袈裟でないことは、聴いてもらえれば納得頂けることでしょう。アフリカの大地から沸き立つ強靭なスピリットが、ここには在るのです。 (Jun 2006)
The Skipper At Home
Henry Franklin
1974/US 【Black Jazz】
アコースティック・ベーシスト、ヘンリー・フランクリンのソロ作第2弾は、何度聴いても心を揺さぶられる、まさにパーフェクトなスピリチュアル・ジャズ・ファンクの決定版です。「Black Jazz」のファン、とりわけDJにとっては同レーベルのカタログ中でも1、2を争う重要な作品と言えるのではないでしょうか。
トロンボーンで参加のアル・ホールJrの作品が3曲。「Tribe」レーベルにリーダー作(ダグ・ハモンドとの連名)も残しているピアニスト、デヴィッド・デュラーの作品が2曲。チック・コリアのカヴァーが1曲と、全6トラックで構成されたアルバムです。爆発力を持った強烈なジャズ・ファンク『Blue LIghts』。知的で美しいラインを持ったワルツで、ソリストたちによる静と動のコントラストが感動的な『What Was』。ア・トライブ・コールド・クエストの『The Hop』ネタとしても有名な、澄み切ったスピリチュアル・チューン『Soft Spirits』。疾走感溢れる4ビートの名演『The Magic Boy』。カオティックな雰囲気から一気にフレーズが飛び出してくる様が印象的で、またキック&スネアの音がカッコ良すぎな『Venus Fly Trap』。約3分半のチル・アウト『Waltz For Boobuss』。そのどれもが楽曲として優れており、甲乙つけ難い名トラックばかりなのです。
そして、これらのトラックを支えているのは、紛れもなくフランクリンのベースに他なりません。『Blue LIghts』の様な“攻め”のベース使いから、オーソドックスなプレイまで、音色・フレージング共に申し分なし!彼のプレイが際立つミックスも嬉しいですね。特にトレブリーな部分では、他では味わえない感触が楽しめますよ。 (Dec 2007)
Mwandishi
Herbie Hancock
1971/US 【Warner Bros.】
ハービー・ハンコックほど長いキャリアを誇るアーティストになると、作品によって作風やクオリティ、世間的な評価は様々でして、今回取り上げる『Mwandishi』は、彼の膨大なカタログの中でも、これまであまり積極的に評価される機会が少なかったアルバムです。直前まで在籍した「ブルーノート」時代の諸作で得てきた名声を思えば、その差は歴然。不幸にも「暗黒時代」というレッテルが貼られてしまった「ワーナー3部作」の中の1枚なのですから、当然と言えばそれまでなのですが・・・。
しかし、酷評されていたのも今は昔。クラブ・ミュージックを通過した今日のジャズ・ファンであれば、きっと本作を「暗黒時代の駄作」だなんて感じる人は少ないでしょう。たしかに、後の大ヒット作『Head Hunters』の様な明解さはありませんが、時代の空気を感じさせるカオティックな構成と、ディープで重厚なアフロ・スピリチュアル・ジャズといった佇まいが魅力です。
収録されているのは全3トラック。個人的には、アナログA面にあたる『Ostinato (Suite For Angela)』と『You'll Know When You Get There』に大いにハマりました。前者は、反復する変拍子のリフがクセになるトラック。ハンコックのフェンダー・ローズと、エディ・ヘンダーソンのトランペットがエフェクティヴに飛び交う様子が実にスペイシーです。また、端正な美しさと内省的な深みとを同時に感じさせるテーマ部分があまりに素晴らしい後者は、まさにハンコック作品の面目躍如と言えるような知性と感性が融和したトラックです。
相通ずるところの多いマイルスの傑作『Bitches Brew』辺りが好きな人はもちろんのこと、あのスラム・ヴィレッジにもサンプリングされたことから、ヒップホップ・ファンにも愛されている本作。とてもじゃありませんが「暗黒時代」なんて代物ではありません。少なくとも僕にとっては、紛れもない名盤です。 (Oct 2009)

( →その他のHerbie Hancockレビューページ)
The Elements
Joe Henderson
Featuring Alice Coltrane
1973/US 【Milestone】
個人的に最も好きなテナー奏者のひとりであるジョー・ヘンダーソンが、「マイルストーン」時代に残した作品で、いわゆるスピリチュアル・ジャズの視点におけるジョー最高傑作のひとつに数えていい1枚だと思います。
本作における最大のポイントは、やはりアリス・コルトレーンをフィーチャーしていることでしょうか。アルバムの名義にもきっちりとアリスの名がクレジットされています。そこにジョン・コルトレーンの幻影を重ねるのは不毛なことだと理解しながらも、我々の様なジョン・フリークがふと、このスピリチュアルさにジョンの気配をみてしまうのは無理からぬことなのかも知れません。とは言え、相変わらずジョーのブロウにはワン・アンド・オンリーな個性が際立っていることは間違いありません。ましてディレイなどでエフェクティヴに演出されることで、その個性はますます浮き彫りとなるのです。
ハープやピアノで参加のアリスの他に、マイケル・ホワイト(vn)、ンドゥグことレオン・チャンクラー(d)、ケネス・ナッシュ(vo、perc、fl)といった面子がいい仕事をしています。とりわけ素晴らしいのが、チャーリー・ヘイデンの重いベースですね。
本作はコンセプチュアルな構成を持ち、全4トラックにはそれぞれ『Fire』、『Air』、『Water』、『Earth』の名が与えられています。つまり火・風・水・土という古代ヨーロッパにおける“四大元素”がテーマになっていると考えられるわけです。自然への慈しみと畏敬の念が、精神性を重んじるプレイへと無理なく繋がり、雄大でフリーキーな本作へと結実していったのでしょう。そこに重苦しさを感じる方も多いと思いますが(それもよくわかります)、例えば『Fire』の様な純粋にカッコいいテーマなどに音楽的魅力を見出して聴き込むのも一興だと思います。
もし未聴でしたら、ぜひ本作をチェックしてみて下さい。ジャケこそ今イチですが、中身の充実は保障いたしますよ。 (Sep 2008)

( →その他のJoe Hendersonレビューページ)
Ole
John Coltrane
1961/US 【Atlantic】
どのレーベルの作品であってもジョン・コルトレーンのレコードは素晴らしいものが多いのですが、個人的には「インパルス!」時代のコルトレーンにとりわけ惹かれるものですから、こうして「アトランティック」盤を敢えて取り上げるのは割と特別なことだったりします。とは言え、実はこの『Ole』が録音された61年5月はすでにコルトレーンが「インパルス!」との契約を交わした後であり、「アトランティック」に戻って最後のレコーディングを行った結晶が本作なのです。つまり、時系列で見るならば「インパルス!」時代のコルトレーン作品とほぼイコールであるとも言えるわけですね。
パーソネルはコルトレーン(ss、ts)、ジョージ・レーンことエリック・ドルフィー(fl、as)、フレディ・ハバード(tp)、マッコイ・タイナー(p)、レジー・ワークマン(b)、アート・デイヴィス(b)、エルヴィン・ジョーンズ(d)。眺めているだけでもテンションが上がる様な面子です。この7名で臨むタイトル・トラック『Ole』の凄まじい迫力に一度触れて頂きたくて、このアルバムを紹介することに致しました。この『Ole』は重心の低い地鳴りの様な覇気が18分強に渡って寄せては返す、コルトレーンのペンによるスパニッシュ・モードな大作。ツイン・ベースが効果的に配され、アルコ・プレイによるソロも登場します。ドルフィーのフルート、ハバードのトランペットも見せ場を作りますが、本作においてはソロを堪能するいうより、世界観や空間を共有する楽しみ方が向いているのではないかと考えます。例えるなら、近年の音響系リスナーに近い受け止め方と言いますか・・・。生粋のジャズ・ファンは眉をひそめるやも知れませんが、実は僕は一連のコルトレーン作品を、音響空間を楽しむ目的でプレイすることも少なくありません。
ちなみに本作ではマッコイのオリジナル作『Aisha』をコルトレーンが取り上げています。彼が愛妻に宛てた美しいバラードです。マッコイ・ファン(と同時にエルヴィン・ファン、ドルフィー・ファンでもありますが・・・)の僕としては嬉しいセレクトとなりました。 (Nov 2010)
Coltrane
John Coltrane
1962/US 【Impulse!】
多くの音楽ファンにとってそうであるように、コルトレーンは僕にとっても別格のカリスマ的存在です。ザ・スミスであったり、竹村ノブカズさん、リー・ペリー、ピクシーズといった面々と同様、恐らく未来永劫憧れの対象として揺るがないであろうヒーローの一人なのです。そんなコルトレーンが62年に「インパルス!」からリリースした傑作が、この『Coltrane』。アルバム・タイトルの表記が「プレスティッジ」時代の初リーダー作(57年)と同じなので、注意が必要です。
本作は、いわゆる“黄金のカルテット”、すなわちコルトレーン(ts、ss)、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(d)による最初のアルバムとしてあまりに有名です。実際、この4ショットが織り成す演奏は既にこの時点で驚異的な深みを感じさせ、好き嫌いに関わらず、どんな人でも一聴してすぐに特別なレコードであると気付くことになるでしょう。
本作は、後の名盤『A Love Supreme』へと繋がっていく素晴らしい緊張感を有していながら、同時に分かり易さも兼ねそろえていて、例えば、よりとっつき易かった「アトランティック」時代のファンをも魅了してしまうだけのキャッチーさがあったりもします。その向きには『Soul Eyes』なんかが人気みたいですが、僕は断然『Out Of This World』が好きですね。14分強とやや長尺(僕も含めて「インパルス!」時代のファンであれば、ちょうどフィットする長さであったりもするんですが・・・。ただし長さや難解さを有難がる風潮はキライです!)ながら、味わい深い至福の時間を約束してくれるので、もう何十回聴いたかわからない程です。
コルトレーンのアルバムには好きなものがたくさんありますが、この『Coltrane』は、その中でも常に上位にある1枚です。(Jun 2007)
Impressions
John Coltrane
1963/US 【Impulse!】
名盤揃いのジョン・コルトレーンの作品にあって1、2を争う傑作であると個人的に位置付けているのが、この『Impressions』です。4日間に渡って行われた、有名な61年のヴィレッジ・ヴァンガード公演から『India』、『Impressions』(共に11月3日録音)の2トラックを収めたアルバムでして、スタジオ録音作品も収録されていますが、やはり圧倒的なエネルギーを放つヴィレッジ・ヴァンガード音源がここでの目玉になるでしょう。
まず『India』ですが、コルトレーン(ts)、マッコイ・タイナー(p)、エルヴィン・ジョーンズ(d)に加えエリック・ドルフィー(bcl)と、さらにジミー・ギャリソン&レジー・ワークマンのツイン・ベースという編成による、秘めたアツさを感じさせる素晴らしいテイクです。コルトレーンとドルフィーがハモるテーマもいいし、ソロもいい。14分強に渡る、深くて重厚な名演です。
アルバム・タイトルにも採用されている『Impressions』は、僕がこれまでに最も多く聴いたコルトレーンの作品です。コルトレーンによるアドリブ・ソロの嵐と、エルヴィンの高速かつ濃厚なドラミング。2人の超人がぶつかり合う度に強烈なオーラが発せられ、何度聴いても心が揺さぶられる気がします。
誤解を恐れずに申し上げるなら、アルバム『Impressions』にはロック的ダイナミズムが溢れています。未だに「ジャズは小難しい」とか「コルトレーンは抹香くさい」とか思っているオルタナティヴ・ロック・ファンの人には絶対オススメのアルバムです(初心者に薦めるコルトレーン作品としてよく名前が挙がるのは『Ballads』とか『Giant Steps』なのでしょうが、少なくとも僕なら断然『Impressions』を推しますね)。その深みとカッコよさに、きっと心奪われることになると思いますよ。 (Jun 2009)
Kulu Se Mama
John Coltrane
1965/US 【Impulse!】
メジャーな作品を数多く残したジョン・コルトレーンのカタログの中では、それほど目立つアルバムではありませんが、この『Kulu Se Mama』こそ、コルトレーンがいよいよ未開の境地に踏み出そうとするその瞬間をコンパイルした、重要かつ濃い1枚であると断言したいと思います。
本作は『Kulu Se Mama』、『Vigil』、『Welcome』の3作品から成っています。それぞれが別の使命を持っているかの様に、そのベクトルは様々。2曲目(アナログではB-1)の『Vigil』は、エルヴィン・ジョーンズのドラムスと、コルトレーンのテナーのみで構成されるテンションの高い名演。まさに竜虎相打つ素晴らしいトラックです。後にラシッド・アリとのデュオでも作品を残したコルトレーンですが(こちらのアルバムも後ほど紹介させて下さい!)、エルヴィンとのフリーキーなやり取りは、また格別なものがありますよね。3曲目(アナログのB-2ですね)の『Welcome』は、打って変わって流麗なマッコイ・タイナーのピアノさばきから始まる、息をのむほど美しいバラード。ジミー・ギャリソンも交えた黄金のカルテットが送る、かつてのファンにもアピールしそうな安心感のある作品となっています。そして、何と言っても本作のキモはタイトル・トラックでもある『Kulu Se Mama』でしょう。アナログではA面全てを使い切る、19分弱に渡るスピリチュアルなこの“儀式”は、理屈を超えて聴き手のハートを揺るがすエネルギーを今日まで発し続けています。アフロ・アメリカンとしてのルーツの探求とアイデンティティの確立をここに託したとすら思える様なアフリカ民族音楽との融合が、音楽的にも精神的にも見事に機能し、あまりに感動的に響きます。ジュノ・ルイスの歌声、ファラオ・サンダースのテナー、ドナルド・ギャレットのバス・クラリネット、そして多くのパーカッションが有機的に絡み合って、かの地と宇宙とを貫き、結び付けます。
フラットな耳を持った若い層のリスナーには、特にオススメしたい1枚です。(Jun 2007)
Blues and the Soulful Truth
Leon Thomas
1972/US 【Flying Dutchman】
レオン・トーマスが「フライング・ダッチマン」に残した72年の傑作です。
レオンといえば、やはりあの奇怪(?)なヨーデル風のヴォーカル・スタイルが浮かぶところです。例の「およおよおよ・・・」「ひょひょひょ・・・」といった声にすっかり魅せられてしまっている身から言わせて頂ければ、あの奇怪ぶりこそがクセになるところでもあるワケですが、賛否両論が飛び交うのもよくわかります。ヨーデル唱法を賞賛する方向もアリなのでしょうが、ここでは拒絶反応を示す方にもぜひチェックして頂きたいアルバム『Blues and the Soulful Truth』を推すことにしました。つまり本作は、ヨーデル風以外の真っ当な(というのもおかしな話ですね)ヴォーカルにも最高の味わいがあるアルバムだと思えるのです。本作は使えるファンクやソウル、ブルーズがたっぷり詰まった、レア・グルーヴ的評価が高い1枚ですから、ひょっとしたらスピリチュアル・ジャズ系のファンには少々骨太過ぎて聴こえるかも知れませんが、ファンクやロックにマッチしたヴォーカルを披露する本作でのレオンに、地力の高さを感じずにはいられません。
もちろん、裏声全開のレオン・トーマス節も十分に堪能できるアルバムです。ガボール・ザボの『Gypsy Queen』あたりから「きたきた!」という感じ。最高なのは『Shape Your Mind to Die』で、中近東テイストの入った無国籍なトラックの上に、トーマスの不気味な高笑いが響き渡る作品です。例えば初期ミスター・バングルのファンの方にはぜひ注目して頂きたいトラックでもあります。
あらゆるジャンルのミュージシャンにリスペクトされる彼だけに、音楽性の幅が広いことを実感できる逸品だと思います。 (Jul 2007)
Astral Travelling
Lonnie Liston Smith
1973/US 【Flying Dutchman】
後に数々の名盤を吹き込むことになる「フライング・ダッチマン」(ボブ・シールが「インパルス!」を離れて興したレーベル)から、ロニー・リストン・スミス&ザ・コズミック・エコーズが最初にリリースした記念すべき1枚、それがこの『Astral Travelling』です。一昨年、初(!)の国内盤CD化が成されました。後のジャズ・ファンク/フュージョン的作風の方がコズミック・エコーズのイメージとしては根強いと思いますが、ここではスピリチュアル・ジャズの名作として見逃せない本作を取り上げてみたいと思います。
スミスはアコピ中心のプレイを披露。柔らかなグリスと、特に『In Search Of Truth』で感動的に響かせる高音の使い方があまりに絶妙です。かと思えば、『Aspirations』での無伴奏のフェンダー・ローズも息をのむほど美しくて、つい身を委ねてしまいたくなります。
全てがスミスのペンによる楽曲の完成度もさることながら、アルバムとしての構成美も見事の一言です。無重力をたゆたう様に浮かんだ後は、セシル・マクビーによるベースや、タブラのフレーズが大地に根を張り、やがてサックスの感情的なブロウを経て辿り着く『In Search Of Truth』の、なんと感動的なことか!真実の探求とはよく言ったものです。
ファラオ・サンダースらと渡り合ってきたスピリチュアルマンが出したひとつの回答。それがこの1枚なのだと思います。 (Apr 2007)
Maulawi
Maulawi
1974/US 【Strata】
「ストラタ」レーベルから74年にリリースされた一癖あるレア盤が、この度「Soul Jazz」より復刻して登場と相成りました。どうやらリリース当時は評価に結びつかなかったものの、近年のコンピレーション収録などを経て人気が高まり、リイシューに至った様です。
それにしても、DJが血眼になって探すのも納得の隠れた傑作ですね。1曲目から『Street Rap』なる、ファンキーでお賑やかな作品でブッ飛ばしてきます(タイトルにも先見の明が感じられて驚きですよね)。さらに、表情豊かなスピリチュアル・チューン『Root in 7/4 Plus』、疾走するサックスとパーカッションがカッコ良すぎな『Eltition』、名曲を大胆に解体・再構築した『Naima』、高速ハイハットとベースによるスタートからカオティックな展開へとスケールアップする『Sphinx Rabbit』まで、満足度の高いトラックで埋め尽くされています。
「Soul Jazz」のセンスには脱帽するばかり。そんな意義ある再発です。 (Jan 2006)
Inner Voices
McCoy Tyner
1977/US 【Milestone】
マッコイ・タイナー、77年の「マイルストーン」作品。
生粋のモダン・ジャズ・リスナーには今ひとつ評価を得られていないとも言われる(本当だとしたら信じられません・・・)タイナーですが、他ジャンルのファンや、何と言ってもコルトレーン時代を軸としたスピリチュアル・ジャズを求める向きには絶大な人気がありますね。僕もタイナーのプレイは大好きです。
彼の作品中でも異色とされるこの『Inner Voices』は、大所帯のホーン・セクションと、男女混声の合唱団を大胆に起用した作品として知られています。あまり一般的な名作として名が挙がる機会はありませんが、今日的な価値観で取捨選択を見直すなら、ぜひ注目したいアイテムです。
1トラック目の『For Tomorrow』から、タイナーのピアノとロン・カーターのベース(アルバム全編を通して、実に存在感のあるベース・プレイを披露してくれます)のみの演奏に重厚なコーラスが加わるという、何とも実験的な作り。でもこれが荘厳でスピリチュアルな空間を生み出す結果となり、アルバムに独自色を与えているのです。以降も、濃厚で高揚感のあるトラックが続き、ホーンやコーラスの分厚さも手伝って「意志の強さ」みたいなものが感じられるアルバムに仕上がっています。
実は僕が本作のファンになったのは最近でして、現行のCD(2000年に再発されたもの)で初めて購入したのですが、なぜもっと早くチェックしなかったのかとちょっと悔しい思いもしました。竹村ノブカズ氏に影響を与えたことは有名でしたが(氏もそのままズバリ『For Tomorrow』というタイトルの作品を発表していて、しかも傑作揃いの竹村作品でも1、2を争う素晴らしいトラックなのです)、彼のファンを自称しておきながら、元ネタ云々に興味が薄い性分もあって、タイナーの『For Tomorrow』のチェックを怠っていたわけです。いざ聴いてみれば、これはある種の「オーラ」の伝承でしたね(ちょっと大袈裟でしょうか)。ほんと、もっと早く聴くべきでした。 (Jul 2007)

( →その他のMcCoy Tynerレビューページ)
Journey into Nigritia
Nate Morgan
1983/US 【Nimbus】
ピアニスト、ネイト・モーガンの代表作で、「ニンバス(ウェスト)」より83年にリリースされた1枚です。
モーガンのピアノは全編通して文句のつけ様がありません。ブラックネス溢れる作品中でも異質の響きを持つピアノ・ソロ(!)『Morning Prayer』の再評価も近年ますます進むばかりです。
アルト・サックスのダディシ・コモラフェもため息が出る程カッコいいプレイを残していますが、思わず耳を傾けてしまうのが、ジェフ・リトルトンのベースです。アレンジも音色も痺れます。また、語弊があるのは承知の上で申し上げるのですが、ドラムやベースの録音・ミックスが良い意味でロック的でして、立体感や分離の良さを楽しめます。結果として、モーガンのピアノに伸びやかな広がりを与えている気がします。
楽曲の幅が広く、バラエティに富んでいる点も見逃せません。 (Jan 2006)
Thembi
Pharoah Sanders
1971/US 【Impulse!】
スピリチュアル・ジャズの代名詞的な存在、ファラオ・サンダース(ts、ss)が「インパルス!」に残した1枚です。ファラオの代表作として取り扱われる機会こそ少ない1枚ですが、実はかなりの傑作だと言えるでしょう。
本作にはロニー・リストン・スミス(p)やセシル・マクビー(b)が全面的に参加しているのですが、彼らの持ち味が遺憾なく発揮されていることで、本作の品位が格段に向上していることは間違いないと思います。ロニーは名曲を2トラック、すなわち『Astral Traveling』と『Morning Prayer』を提供(後者はファラオとの共作)し、また、得意の浮遊感溢れるエレピでコズミックな世界観を演出しています。マクビーは自作の『Love』で、崇高さも感じさせるフリーキーなベース・ソロを5分以上に渡って展開していますが、これが抜群にカッコイイ!もちろん、ソロに限らずマクビーの弾き出す音色とフレーズはどれも素晴らしいですけれど・・・。そんな2人のキーマンに支えられ、ファラオは時にフラジオ音で激しく、時にピースフルな程に美しく、そのブロウを聴かせてくれます。
そして、ファラオが命題として取り組んでいたであろう、民族楽器を多用した非西欧的でオーガニックな世界は、ここでも最高のカタチで体現されています。例えば『Bailophone Dance』はその好例ではないでしょうか。また、『Love』から『Morning Prayer』への移り方や、タイトル・トラック『Thembi』における穏やかさ、あるいはソプラノ・サックスとヴァイオリンとが競演する瞬間の素晴らしさなど、特筆すべきポイントをたくさん兼ねそろえたアルバム、『Thembi』。案外とっつき易い一面もあるので、これからファラオの世界に踏み込んでみようと計画している方にもオススメです。 (Apr 2008)
Love In Us All
Pharoah Sanders
1974/US 【Impulse!】
ファラオ・サンダース、1974年の歴史的名作です。
本作は「インパルス!」でのファラオとしては最後の1枚で、A面B面にそれぞれ1曲づつが収められた全2曲という構成になっています。2003年にリマスターされ、ファン待望の初CD化も成されました。
何は無くとも、とにかく1曲目の『Love Is Everywhere』は必聴です。あの『You've Got To Have Freedom』に勝るとも劣らないキラー・トラックで、とりわけクラブ・ジャズ世代への影響力は凄まじいものがあります(実際、この2作品は何だかんだ言ってファラオの最高傑作だと思いますし、個人的にも何回も何回も聴いた思い入れの強いトラックです)。イントロから繰り返されるセシル・マクビーのベース・ラインで期待感が高まり、徐々に盛り上がりを見せていく展開の中で、何とファラオは声で参加してきます。重厚なパーカッションが儀式の気高さを思わせ、やがて静寂を挟み、穏やかな後半へと突入。そして、ファラオのサックスが流れ出す瞬間、他に代えがたい美しい時間を感じることができるのです。動と静。高揚とリラックス。スピリチュアルでピースフルな、胸を打つ大作です。
一方の『To John』は師・コルトレーンに捧げた作品。20数分に及ぶ、インプロ度の高いトラックとなっています。フリーキーで難解な部分もありますが、これぞファラオらしい世界と評するファンも多い様です。 (Apr 2006)
Dedications
Sathima Bea Benjamin
1982/SAF 【Ekapa】
南アフリカ出身のヴォーカリストであるサティマ・ビー・ベンジャミン。夫でピアニスト/プロデューサーのアブドゥーラ・イブラヒムと共にNYに移り住み、そこで立ち上げた自主レーベル「Ekapa」から82年にリリースした傑作です。
一言で言うと、大人の音楽といった趣です。恐らく多くの方がそうであった様に、僕も彼女自身のペンによる名作『Africa』目当てで購入したのですが、前半のピアノ・ジャズにもすっかり心酔させられてしまいました。ムードがあって、お酒の席で聴いたらどんなに素敵でしょうか。本作を録音した時点で45歳であったというベンジャミン、酸いも甘いも知り尽くしたエレガントな歌声にはスタンダード・ナンバーが実にハマっていますね。彼女のヴォーカル、本当に大好きです。
とは言え、やはり『Africa』が主役であることも間違いありません。ベンジャミンは、差別に苦しむ故郷への想いをスピリチュアルに歌い上げます。トライバルな雰囲気のリズムも秀逸。多くのリスナーに愛される注目の1曲です。
他にも、グルーヴィなラテン・ジャズ『Say It Isnt't So』や、フルートやベルが素晴らしい『Music』といった傑作が並び、聴きごたえのあるアルバムだと言えるでしょう。 (Jan 2006)
Time Capsule
Weldon Irvine
1973/US 【Nodlew Music】
ア・トライブ・コールド・クエストら著名なヒップ・ホップ・アーティストの元ネタになったり、レア・グルーヴ的解釈で語られる機会が増えたことで、90年代に大いなる再評価を受けたウェルドン・アーヴィン。もはやこの分野では定番と言うことが出来るであろう、73年のセカンド・アルバムです。自身のレーベル「ノドゥルー」にてロウ・バジェットで制作されたと思われる本作ですが、アイディアに溢れ、アーティストとしてのオーラはキャリア中でも最高レベルに達しているのがわかる傑作アルバムに仕上がっています。
僕が特に気に入っているのは、レニー・ホワイトによるドラミングです。スピリチュアルさが評価される一方で、本作のもうひとつのキモとして見逃せないのが、ジャズ・ファンクのグルーヴ。レニーのタイトでウッディなドラムスがその中核を担っていることは間違いないでしょう。
本作には女性ヴォーカルによるメロウでエヴァー・グリーンなソウル・チューン『Feelin' Mellow』や、スピリチュアル・ヴァイブスほか多くのアーティストにカヴァーされている『Deja Vu』といった人気作品が多いのも魅力ですね。 (Mar 2008)


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