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Favourite Worst Nightmare
Arctic Monkeys
2007/UK
いつの時代にも、歴史を塗り替えるとんでもないニュー・カマーの登場が待たれていて、時にそれは、頭打ちになった音楽業界の経済的な活性を意図したレコード会社とメディアの結託によって、度量もないのにシーンの主役に担ぎ出された“張りぼての大型新人”(当人がその気になっているのがまた哀しいのですけれど)の登場などという無理くりな仕立て上げを生み出してしまうワケですが、「今度こそ本物です」の触れ込みの元、2年ほど前に主役に抜擢されたのが、このアークティック・モンキーズでした。デビューに先駆けて、Web上に楽曲が出回って人気に火が点いたり、あるいは1stアルバムが驚異的なスピードで売れていったりと話題に事欠かず、各メディアや幅広い音楽ファンが一斉に注目した存在でもありました。決して天邪鬼なつもりもないのですが、このテの担ぎ上げには辟易していたこともあり、個人的にはすっかり傍観を決め込んでいたのですが、たまたま手にした2ndアルバム『Favourite Worst Nightmare』が段々と自分の中で大きくなっていき、ついには「しまった、今度ばかりは本当にやる連中だった!」などと改心した次第なのです。
冒頭から畳み掛けるような『Brianstorm』、『Teddy Picker』、『D Is For Dangerous』。いや、ホントカッコイイですね!多くの皆様は1stアルバムの頃に議論されたでしょうから今さら分析するのも照れますが、リフやメロディがリズミックであり、しかも元よりポジションごとのシンクロ感に注意が払われているであろう音作りが奏功し、リズム隊、ギター、ヴォーカルが渾然一体となっているのが素晴らしいですね。それがロックのダイナミズムにも直結し、気持ちよさに繋がっているのだと思います。脈々と受け継がれる2000年代らしいタイトな録音もキマっていて、例えばストロークスあたりが出てきた時のような、一見クラシカルなロック・サウンドを斬新な視点から切り取った感覚を思い出しました。どの楽器も、キモの帯域がしっかりフィーチャーされているところも好みです。
中盤で時折顔を出す音頭みたいなフレーズには「ちょっと、ご勘弁を・・・」なんて思ってしまいましたが、総じてロック然としたカッコイイ音でスピード感たっぷりにドライヴするこの1枚はとても気に入りました。二十歳そこそこの青年らしい柔軟かつ新鮮な解釈と、二十歳そこそこの青年とは思えないプロフェッショナルなスキルとが混在して成り立っている楽曲も実に魅力的で、とっくの昔にティーンエイジャーを卒業してしまった僕らの様な世代にまで響いてくるのです。 (Aug 2008)
Between 10th and 11th
The Charlatans(UK)
1992/UK
ハモンド好き即死のキラー・チューン『Weirdo』の為だけに購入しても絶対に損をしない必携盤、それがこのシャーラタンズの2ndアルバム『Between 10th and 11th』です。マンチェスター・ムーブメントの波に乗って好セールスを記録した前作、そして本格派に変貌する後日の彼らとの狭間にあって、地味な扱いを余儀なくされている作品でもあります。しかし個人的にはこの2ndにしか興味がないくらい好きです。タイトにしてグルーヴィ、それでいてUKならではの気だるいヴォーカルも同時に楽しめるのが嬉しいですね。
それにしても、奇跡の傑作『Weirdo』の何とカッコイイことでしょう。ロブ・コリンズによるハモンドのリフ(こんなの一生出会えない気すらします)はもちろんですが、レスリーの絶妙な使い方やグリスには、もうため息しか出ません。さらにこの曲がスゴイ点は、他の全パートもこれ以上ないくらいの名アレンジでせめぎ合っていることです。ギターのリフやトレモロ、終盤のカッティングも素晴らしい。ベースのフレーズも、それだけで売りになるほど通好みで素晴らしい。キックのタイミングも気持ちよくて素晴らしい。マルチトラッカーのテープを入手してじっくり味わいたいくらいです。唯一不満なのは、アウトロが次のトラック『Chewing Gum Weekend(コチラも力作)』とクロス・フェードしてしまうところ。シングル版『Weirdo』は幾つかの点でアルバム版に劣っていますが、クロスフェードはないので、波形編集が出来る方はシングル版のアウトロをアルバム版に繋げて楽しむ手もあるかも知れませんね。
他にも、同様にアシッドな魅力満載の『Tremelo Song』を収録しています。こちらもロブ・ファンは聴き逃せない名作です。 (Jan 2006)
Eleventeen
Daisy Chainsaw
1992/UK
デイジー・チェインソウ衝撃のデビュー・アルバムは92年、「ワン・リトル・インディアン」からリリースされました。世界的なグランジ・ブーム、シューゲイザー・ブームという、彼らにとってこれ以上ないシチュエーションを背景に登場したデイジー・チェインソウは、シーンを席巻するが早いか、ヴォーカリストのケイティ・ジェーン・ガーサイド脱退をもって、あっという間に勢いを失ってしまうのでした。
それでもこの1枚が持つ圧倒的なエネルギーは今もって生きていると言えるでしょう。ガリッガリに歪ませたギター&ベース、キャッチーなリフ、パンキッシュな立ち振る舞い、コケティッシュとクレイジーが同居するケイティの存在感。その全てが魅力的で、他のバンドには出せない個性が感じられたのです。無責任なことを言うようですが、結果的に短命(ケイティ脱退後も新ヴォーカルが加入して活動は継続されたのですが、ここではまったくの別物として話を進めます)であったからこそ希少性が生まれ、今もこの1枚を愛するファンが多いのだと思います。逆に言えば、ケイティ脱退が致命傷になるくらい、彼女のカリスマ性は高かったことになります。さもありなん、抜群のルックスを持ちながら、半裸でステージを飛び回ったり絶叫したりするインパクトは絶大でしたから。しかも92年の時点でパンク+ゴス+ロリータという出で立ちをしていたのも、今思えばなかなか先進的だったのかも知れません。・・・話がケイティにばかり偏ってしまいましたが、クリスピン・グレイ(g)のミュージシャン・シップ、とりわけソング・ライティングとリフ作りのセンスも高いレベルにあったと思われます。つくづくいいバンドでしたね。
代表曲でもあるシングル2作品『Love Your Money』、『Pink Flower』に加え、『I Feel Insane』、『Natural Man』など傑作ばかりが並んだ、素晴らしいデビュー・アルバムです。ちなみに最近、久々にクリスピンとケイティがバンドを結成するなどデイシー絡みのニュースも耳に入ってきますし、興味のある方はそちらもチェックしてみて下さい。 (Feb 2008)
Scorpio Rising
Death In Vegas
2002/UK
デス・イン・ヴェガスの3rdアルバムで、02年度のベストに推す声も多く聞かれたほど人気の高い1枚です。
中心人物リチャード・フィアレスによれば、コンセプトは「サイケデリック・ラヴ・アルバム」だそうで、実際、たくさんのゲストが客演し、愛について歌う(僕の所有品は輸入盤のため、歌詞の中身はわかりませんが)ヴォーカル・アルバムに仕上がっています。この「客演」が前作に続いて話題の中心となり、フィアレスは「ゲストのネーム・バリューに頼っている」という意地悪な評価にナーバスになったとも言われています。しかし、話題になるのも無理はないのです。なにしろポール・ウェラー、ドット・アリソン、マジー・スターのホープ・サンドヴァル、極め付けにオアシスのリアム・ギャラガーらがフィーチャーされているのですから。ただし、ゲストの持ち味をよく引き出し、しかも優れた楽曲揃いの歌モノアルバムにまとめた腕前は、決してネームバリュー頼りなんて揶揄されるレベルにはないと思います。とりわけ話題となったリアムが歌う『Scorpio Rising』なんて、既に飽和状態にあった本家のバンドにおけるリアムより、こちらの方が掛け値なしにカッコいいほどです。
この『Scorpio Rising』を聴く度に、2000年代に入って初めてプライマル・スクリームの『Screamadelica』や、マッシヴ・アタックの初期作品と同じ効能を持つイギリスのロック・アルバムが誕生したのだと実感します。例えば『Screamadelica』はアシッド・ハウスを、マッシヴ・アタックはダブやヒップ・ホップを下敷きにしながらロック・スピリットを感じさせるハイブリッドな仕上がりを提示し、結果広い層のリスナーに音楽的覚醒を促したわけですが、テクノDJ出身のリチャード・フィアレスもまた、その絶妙なミックス感覚をもって、多くのリスナーに受け入れられることに成功したのです。 (Nov 2006)
Here Comes The Wind
Envelopes
2008/SWE
4人のスウェディッシュと、紅一点のフランス人・オードリーによる5人組インディ・ポップ・バンド、エンヴェロープス。その2ndアルバム『Here Comes The Wind』が今、注目を浴びています。その中身を言い表すならば、凝った構成とユルめの演奏がこの上なくポップに同居する、ストレンジなガレージ・ロックといったところでしょうか。
一聴して感じるのは、もろにピクシーズの影響を受けていることです。ベースの音色やラインもそっくりですし、テレキャスの使用や女性メンバーが一人だけ混じっていること、ファニーな在り方、ポップなメロディを捻ったアレンジの上に構築する手法、果ては男性ヴォーカル・ヘンリックのシャウトの仕方まで、とにかくピクシーズを彷彿とさせる要素は枚挙に遑がないほどです。個人的な話ですが、ルーツの“コピー”に留まっている音を聴くと不快に感じる性質(たち)でして、最初はエンヴェロープスも鼻につきかけたんですが、それを補って余りある彼ら独自の魅力に気付き、いつの間にかファンになってしまいました。
では、エンヴェロープスならではの個性は何かと言えば、やはりヘンリック&オードリーが色彩豊かに繰り広げる男女ヴォーカルではないでしょうか。声質もピクシーズのチャールズ&キムとはまったく違いますし、とりわけオードリーのチャイルディッシュなヴォーカルに魅力を感じる人は多いと思います。
一度レコーディングした内容に不満があった為、あのタンバリン・スタジオにて再録音を行ったというエピソードから、音へのこだわりも高いことがわかります。ヴォコーダーをかましたり、その名の通りエンヴェロープにこだわりが感じられるシンセ音を積極的に取り入れるなど、アイディアも豊富で飽きさせません。楽曲も良いですね。
この文章を書くにあたって公式サイトに辿り着いてみたら、何とつい最近まで日本ツアーで来日していたとか!うーん、エンヴェロープスなら観に行きたかったかも。残念です。 (Jun 2008)
Perverse
Jesus Jones
1993/UK
延びに延びていた発売日。国内盤の宣伝文句も「待つ喜び」か何かに変わっていたりして、それでも僕達の手元に無事届いたジーザス・ジョーンズの3rdアルバムは、待たせた時間を穴埋めするかの様にギッシリとハイ・クオリティな音楽が詰まった、後々までさんざん聴き続けるに値するとんでもない代物だったのです。
前作『Doubt』で世界規模の成功を収めただけに、ここ日本でも大いなる期待をもって迎えられたジーザス・ジョーンズの新作は、残念ながら正当な評価を受けることはなかった様に思います。限られたごく一部の感覚の鋭いリスナーこそ「Perverseが彼らのベスト」としていましたが、後のバンドの失速を見るに、やはり相当なファン離れが本作をきっかけに進んだものと思われます。
マイク・エドワーズは当時、辛辣な批評家でもあり、それが故に自らに高いハードルを課してしまう一面もありました。例えば、常に過去を高速で引き離していくスピード感こそを良しとする物差しで他人を扱き下ろすわけです。当然ジーザス・ジョーンズもこの価値観に基づいて勝負をかけざるを得ないわけですが、過去の遺産・・・例えばロックの巨匠達をも踏襲できないルールの中で世界のチャートと対峙しようというのですから、自らのアイディアが枯渇したらそこまでというあまりにも無謀な挑戦でありました。それだけにこの『Perverse』の先進性に「有言実行」という言葉が浮かびましたし、売れることは間違いない前作のスタイルを捨て去ったマイクの潔さに痺れたのでした。
狭い了見でものを言いますが、このアルバムがたいして売れなくて良かったとすら思います。これ程のアートが、その時代にたちまち広く受け入れられる事は滅多にあり得ないと思うからです(僕はポップスが大好きですけれど、アートもまた大好きで、後者の分野に『Perverse』を収めることで持論のバランスは保たれていたりします)。
では中身を振り返ってみましょう。『Zeroes And Ones』は“デジタル全盛”を謳歌し、標榜し、ゆくゆく朽ち果てていく自らをまるでテーマにしていたかの様です。『Devil You Know』は彼らの最も優れたシングルであると同時に、ミュージック・シーンの至宝とも言える芸術品。『Get A Good Thing』は、その実ポップスのレコードをこよなく愛するマイクのメロディ・センスが光る作品。クリーン・トーンの何気ないギター・フレーズも大好きです。『From Love to War』と『Yellow Brown』はハードなシンセの音色が使用されながら何故か切なく、とりわけ儚くも美し過ぎる後者は、思わず泣けてしまう作品です。ファルセットのハモリの使い方とか、ちょっとした技もいちいち心得ているのがマイクの凄さなんですよね。後半の、まるでリヴァーブ成分だけみたいなファルセットにも心を締め付けられます。『Caricature』は国内盤のみのボーナス・トラックで、イントロの導入部は世界屈指のカッコ良さ。また、キモで使われるディレイの効いたシンセの駆け上がりフレーズも素晴らし過ぎです。現在流通しているのは輸入盤のみですので、これから聴かれる方は絶対セコハン店で国内盤をゲットして下さいね。「BEAT UK」で見た、メンバーが横一列で歩くPVも懐かしい『The Right Decision』は、アルバムの娯楽性を高める重要な役割を担っています。『Your Crusade』はハードで畳み掛けるメロディが印象的。全編に言えることですが、マイクは言葉選びが絶妙だと常々思います。メロディに乗せる語感がいい、という意味ですが(僕は英語が不得手なものですから・・・)。聴いても歌っても、メロディと単語との調和が気持ち良いんですよね。この『Your Crusade』でもそれは強く感じます。『Don't Believe It』も派手さこそありませんが、例外なく良い楽曲を書くなぁと感心してしまいます。マイクの注目すべきエピソードのひとつに、自らを「優れたソングライター」として評価されたいと語っていたことが挙げられます。常に先進性を追い求めながらも、音楽の究極は「良い楽曲」なのだとする考えは、とても愛すべきものだと思います。そしてここで主張したいのは、良い曲を書く行為と、先進性やアート性とは両立し得るものだということです。中期ビートルズもジーザス・ジョーンズも、とびきりのメロディを最先端のサウンド・プロダクションのなかで活き活きと表現しています。『Tongue Tied』は特に好きなミドル・テンポの作品。ハードコア・テクノ調のリフを用いながらも、タブラの効果的な導入などでハイブリッドかつ知的なサウンドに仕上げています。暗く重い『Spiral』は英国ならではのサウンド。そして旋廻地獄を抜け出して、突き抜けた開放感すら感じる『Idiot Stare』へ。マイクは後日、この楽曲を「気に入らない」と語ったそう。たしかに他の楽曲に比べて単調なフレーズが多い作品ではあります。ですが、やはり『Perverse』のラストはこの作品しかあり得なかったと思うくらいハマっています。シンセ・ストリングスのフレーズやロック的なメロディが国民性に合っていたのか、日本では人気が高かったそうです(かくいう僕も大好きです)。
こうして振り返ってみると、やはりどのトラックも鋭く時代の先を見据えています。それが故、流行の鉄則である「半歩前」を大きく踏み誤ってもいます。つまり、先を急ぎ過ぎたのです。
果敢な挑戦意欲と知性に満ちた『Perverse』を、隠れた逸品として、強く推薦いたします。 (Nov 2006)
Red Thread
Keith
2006/UK
「ザ・スミスの影響のもと、マンチェスターから新鋭ギター・バンドが登場」なんて店頭ポップに引き寄せられて購入したキースの1stは、僕個人の感覚で言わせてもらえれば、ザ・スミスっぽさなんてちっとも感じない、だけどUKインディ・ロックとしてとても良く出来た1枚です。
タムを8分で刻むイントロからいきなりもっていかれる『Back There』で、早速ソング・ライティングとアレンジのセンスを実感させられます。でも喜ぶのは早い、この手のバンドは偶然出来すぎてしまった奇跡の1曲を冒頭にもってくるものと相場は決まっています。しかし続く曲続く曲、どれも高水準のポップでエッジなサウンドばかり。ダンサブルなボトムを押し出してきたかと思うと、極上のサイケデリアを彩る繊細極まりないギター・サウンドにスウィッチするなど、若くして博識な、なかなか聴かせるバンドです。かなり音楽を広く聴き込んでいないと、こうはならなかったハズで、マンチェスターという土壌がそうさせるのでしょうか、とにかくミックス感覚が抜群に優れているわけです。
それにしても、スミスっぽさって何でしょうか。キースの印象をいろいろと検索してみたところ、いや、もう例外なく「スミスっぽい」と・・・。恐らく雑誌なんかの謳い文句に影響された刷り込みのせいかとも思ったのですが、いかんせん多勢に無勢。スミスっぽさを感じない僕の感覚の方がズレているという結論にせざるを得ないのですが、う〜む、どこか解せない。仮に僕がキースを大々的に取り上げていたであろうロック雑誌の読者であっても、絶対に「スミスの影響のもと・・・」なんて言わなかった気がします。
ただし唯一、バンド名のつけ方だけはスミスと同様であったと付け加えておきます。 (Jan 2007)
King Of Bongo
Mano Negra
1991/FRA
後に世界的な成功を収めることになるマヌー・チャオというカリスマ的フロントマン擁するマノ・ネグラ。フランスで活動した多国籍大所帯バンドです。
彼らの魅力は何と言ってもその多様性。フランス語、英語だけでなく、アラビア語やスペイン語のリリックもあり、歌とラップの表情が何とも豊かです。また、扱うジャンルの幅はもっと豊か。スカ、フレンチ、アフリカ、パンク、ラテン、ロカなどなど、ロックやフォークロアの雑多なフォーマットを実に自然に消化し、緩急を使いながら飽きさせずに全曲を聴かせます。クラッシュなんかへの憧れも見て取れますね。考えてみればクラッシュも単調なパンクに飽き足らず、次々と違う血を取り入れて音楽性を強化していったバンドですし、他のクラッシュ・フォロワーとは一味違う部分で影響を受けていて素晴らしいと思います。
本作を初めて聴いたのは僕が高校生の頃だったのですが、こういう雑食かつ良質なサウンドに出会えたことで、いわゆるオルタナティヴ・ロックという狭い世界に留まらず、あらゆるジャンルからカッティング・エッジなものを取捨選択していこうという意欲が生まれた気がします。小西康晴さんの「ロックしか聴いてない人は、ロックを卒業できなかった人」という発言や、井上薫さんの「エスノやワールド・ミュージックに出会って、80年代末にはロックには興味が持てなくなった」という発言にシンパシーを感じることが出来るかどうかは、新たな視野を獲得するための導線に出会えたかどうかが大切だと思うワケです(もちろん、キース・リチャーズみたいにブレなくロックし続ける姿勢なら大好きです。念のため)。きっかけはカヴァー曲からルーツを遡るのでも、ヒップ・ホップの元ネタ探しでもサバービア的レア・グルーヴ探求でも何でもいいんですが、例えば『King Of Bongo』みたいな作品にも導線になりうる要素があると思うんですよね。少なくとも僕にとってはエポック・メイキングなアルバムでしたし、多感な時期に出会えて本当にラッキーだったと思ってます。
色々と七面倒くさいことを書いてしまいましたが、根底にあるのはキャッチーでパンキッシュな、親しみやすいバンド・サウンドです。今改めて聴いても十分わくわく出来るマノ・ネグラの3rdアルバム、オススメです。(Jun 2007)
Frengers
Mew
2003/DEN
北欧・デンマークから世界規模でのブレイクを果たしたバンド、ミューの1stアルバムです。
まず何より、まるで女声の様なヨーナス・ブジェーリの歌声に耳を奪われます。澄み切った美しいソプラノはミュー最大の武器と言っていいでしょう。シューゲイザー直系のギターとシンセ、それに饒舌なドラムスがこの美しいヴォーカルを支えます。
また、楽曲もよく出来ています。1曲の中でドラマチックに次々とスタイルを変化させる展開の上手さを会得しており、ベテラン・バンドでもない彼らが、そうした技をものにしていることに驚きを隠せません。「これで1枚目!?」と思わず感心してしまうくらい完成度が高いのです。
スウェーデンのヴォーカリスト、スティーナ・ノーデンスタムが客演する作品も収録しています。後に知ったのですが、ヨーナスは彼女のファンらしいですね。すごく分かる気がします。
この年のベスト・シングルとも言えそうな『Am I Wry? No』、美しく壮大な『Comforting Sounds』、消え入りそうな導入部が泣かせる『Symmetry』、ハネるリズムを膨大な手数で作り出す『Snow Brigade』などなど、良作が並びます。
そして、(これを書いている時点で)つい先日リリースされた2ndをチェックしようと思ったら、衝撃の悪趣味ジャケ!聴くのはやめました。 (Jan 2006)
【EP】Glider
My Bloody Valentine
1990/UK
マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン1990年リリースの4曲入りEPです。
まさに90年代の幕開けに相応しいこのシングルの冒頭を飾ったのが、アルバム『Loveless』ではオーラスを務める『Soon』。オルタナティヴでダンサーという、時代の気分を十分に満たすオリジナリティ溢れるキラー・トラックです。2曲目の『Glider』はフィードバック・ノイズで作り上げたモチーフが気持ちよすぎて、そのまま1トラックとして独立させた感じでしょうか。そして、エレアコのストロークとケヴィン・シールズのヴォーカル・ラインを明瞭に感じ取ることが出来るキャッチーな『Don't Ask Why』、来る『Loveless』の作風を予感させる名作『Off Your Face』と、どれをとってもアーティスティックな逸品ばかり。
この『Glider』と『Tremolo』の2枚のEPは、ある意味『Loveless』以上に宝物という感覚が強くて、アイテムとしての価値をすごく感じます。このイメージは、手に入れて10数年が経過した今でも、まるで変わることはありません。 (Feb 2006)
【EP】Tremolo e.p.
My Bloody Valentine
1991/UK
マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン1991年リリースの4曲入りEPです。
前シングルの『Glider』同様、4トラックのうち実に3曲がアルバム『Loveless』未収録という贅沢極まりない1枚です。しかも全曲に渡って、完璧なまでの質の高さを誇っています。民族音楽のエッセンスを用いた『Swallow』はとりわけ素晴らしい出来栄えで、マイブラ流サイケデリアの奥深さを示す結果となっています。アルバムに先行して収録されたのは『To Here Knows When』で、『loveless』でも一際美しく「気だるさ」を演出していた名曲を、また違った役割で聴かせてくれています。
『Loveless』以降根強い「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインは赤〜ピンク」という色彩イメージは、この時点で既にファンには定着していたと思います。それだけ印象に残るジャケだったわけです。 (Jan 2006)
Loveless
My Bloody Valentine
1991/UK
マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『Loveless』は、後にシューゲイザーと呼ばれるインディ・ギター系のフォロワーを世界規模で生み出したモンスター・アルバムです。制作過程にまつわるドキュメントや歴史的意義など、今も多くのアーティストや評論家、ファンに語られ続けていることを考えても、本作がいかに不世出の傑作であったかがわかります。賛辞はとっくに出尽くしてしまっているであろう一枚ですが、その狂騒をほぼリアルタイムで体感した身であり、しかも例に漏れず大ファンである僕としても改めてここで取り上げさせてもらいます。
前作『Isn't Anything』でもその骨子は見えつつあった、気だるい空気感とギターの掻き鳴らしというスタイルは踏襲しつつ、本作で花開いたのが「くぐもったノイジィな轟音に埋もれた、ぼんやりと輪郭のないミックス」という手法でした。これこそがマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのオリジナルな発明品だったワケです。カオティックなフィードバック・ノイズと、その背景で見え隠れするメランコリックで美しいメロディ・ライン。両者が描き出すコントラストが僕たちを甘美なサイケデリアへと導き、不安定な幸福感で満たし、骨抜きにしてしまったのです。
その執拗な作り込みによって、莫大な時間と予算とが費やされ、インディペンデント・レーベルの名門「クリエイション」を破綻寸前にまで追い込んだことは有名ですが、結果として『Loveless』が以降のロックの雛形を生み出し、多くの才人(凡人はもっと多いことでしょうが・・・)を触発するに至った意義は、とても大きなものであったと断言したいと思います。一方で、ひとつの到達点に達してしまったことで、次回作を完成させることが出来ないまでに自らを追い込んでしまったバンドの皮肉な運命もまた、ドラマティックなものと言えそうです。 (May 2009)
Screamadelica
Primal Scream
1991/UK
プライマル・スクリームの3rdアルバムで、最高傑作の名を欲しいままにする90年代最強のアンセムです。
かつてはガレージやギターポップを奏で高評価を得てきたボビー・ギレスピーがここに選んだコンセプトは、言わば「ローリング・ストーンズとアシッド・ハウスの融合」。そんなドラッギーなテーマを具現化すべく人選されたプロデューサー陣が期待通りの腕前を振るっています。かつて、良き時代のストーンズに“悪魔”を憑依させたジミー・ミラー。アシッド・ハウスを噛み砕くためのアレックス・パターソン&アンディ・ウェザオール。起用の意図が実に明確。つまり、最高のトリップを得るための最善策がとられたワケですね。
セカンド・サマー・オブ・ラヴの余波がそこかしこに燻っていた当時、正にこんな“幸福の1枚”が待たれていました。近年、「ロックとダンスの融合」が何度目かのブームを迎えていますが、『Screamadelica』に相等する至福の瞬間は訪れていない様に思います。それほど、本作が飛びぬけた出来栄えを誇っていたんだと思います。
まさに『Inner Flight』な、脳内麻酔分泌しっ放しの11曲。気だるいボビーの声まで含めて、あまりに完璧な、1音の過不足もない作品です。最後の『Shine Like Stars』で、オルガンが波音に溶けていくのを聴きながら、我に戻る瞬間が本当に惜しいのです。 (Jan 2006)
【EP】Dixie Narco Ep
Primal Scream
1992/UK
プライマル・スクリーム最高傑作にして90年代を代表する名盤『Screamadelica』。このパーフェクトな1枚の姉妹盤とも呼ぶべきEP作品が、『Dixie Narco Ep』です。
収録作品は4曲。同様にアルバム『Screamadelica』でもリード・トラックを務めた『Movin' On Up』で本作も幕を開けます。ジミー・ミラーがプロデュースに携わった、まさに20余年の時を超えて全盛のストーンズが甦った様な高揚感溢れる逸品です。続く『Stone My Soul』はアコースティック・ピアノとスライド・ギターがボビー・ギレスピーの儚げなヴォーカルを支える、待望の『Damaged』路線の新曲。ゴスペルチックな女声コーラスが加わるなど、コチラも『Beggars Banquet』〜『Let It Bleed』時代のストーンズを彷彿とさせますが、そこはアンディ・ウェザオール・プロデュースですから、ディレイの効いたシンセをSE風に鳴らすなど独自色を出してくる辺りがさすがです。3トラック目の『Carry Me Home』はビーチ・ボーイズのデニス・ウィルソンのペンによる作品のカバーで、『Stone My Soul』に匹敵する切ないバラードに仕上げています。低音を担う弦やあらゆるシンセのサウンドがあまりに物悲しくて、胸が締め付けられるようです。カオティックな後半部分を経て、いよいよラストを飾る『Screamadelica』の登場です。アルバム・タイトルを冠した1曲がEPの最後に現れるのは、ボビーが意外性を求めたのか、あるいは何がしかの必然性があったのかは不明ですが、この10分を超えるアシッド・ハウス+インディ・ダンスといった趣の1曲が、まるでアルバム『Screamadelica』を凝縮したかの様な密度と完成度を持ち合わせていることだけは間違いありません。当時のバンドとウェザオールがいかにシーンとシンクロし、またクリエイティヴィティに溢れていたかが窺い知れます。なお、ストーンズに宿った悪魔を現代に降臨させたプライマル・スクリームの魔力を、さらに拝借してみせた小山田圭吾さん(当時フリッパーズ・ギター)がコーネリアス名義の1stで『Screamadelica』を元ネタにした『The Back Door To Heaven』を展開してますが、こちらも必聴の名曲です。 (Sep 2010)
Suede
Suede
1993/UK
当時のニュー・アクトで抜きん出た人気を誇ったスウェードの記念すべき1stアルバムです。
彼ら、とりわけギタリストのバーナード・バトラーが大のスミス・フリークであることは有名ですが、なるほど、スミスの影響はありありと音楽ににじみ出ています。しかし音楽性以上にスミス(の1st)に似た要素がここにはあります。それは拙さ故の、若さ故の、他のどんなタイミングにも見ることが出来ない儚さや、気恥ずかしいくらい青臭い、背伸びをした発想です。誰でも一瞬は必ず持ち得るこの感覚をレコードにプリント出来たバンドは意外と少ないと思うのです。そこに価値を見出す人にとっては、きっとかけがえのない1枚でしょう。
とは言え、このスウェードの1stの方がスミスのそれよりもずっとプロっぽく、アンサンブルもしっかりしています。特筆すべきはバーナードのプレイで、アルペジオもいいですが、サウンドの壁を構築するコード掻き鳴らしがかなり気持ちいいです。楽曲もなかなか粒が揃っていて、中でもアクセントの利いたシングル作品はどれもハイ・クオリティ。でもやっぱり、『So Young』で幕を開けるこの青っぽい感覚がキモですね。
以降はバーナード脱退もあって、個人的にはバンドへの興味が薄れてしまいました。もうひとりのカリスマ、ブレッド・アンダーソンの中性的なヴォーカルには魅力を感じますが、僕にとってバーナード不在の影響は大きかったみたいです。 (Jan 2006)
Caughtintheactof
enjoyingourselves
Sunshot
1992/UK
ディストーション系エフェクトで歪ませたギターの壁と、ダンサブルなロック・ドラム、そして明瞭な女性ヴォーカルというスタイルで活動していたサンショットのアルバムです。当時活躍中だったカーヴとデイジー・チェインソウを足した様なサウンドで、楽曲も立っているし、押しの強さもあります。将来性に期待していたんですが、以降の足どりがまったくわかりません。解散したのかも知れませんね。
実はほとんど情報を持ち合わせていないのですが(スリーヴも裏は真っ白!)、クレジットに「Matt(Coldcut)」の文字を発見しました。あの「ニンジャチューン」のマットでしょう。実際に関係があったのかはわかりませんが、意外な組み合わせでした。
恐らく現在では廃盤ではないかと思いますが、拙文を読んで下さって「懐かしい!」なんて感じられたら、探してみるのも一興ではないでしょうか。 (Jan 2006)
【EP】byp/ctrl
Telex
2005/UK
「Fortune&Glory」よりリリースされた、テレックスの5曲入り1stEP。
このテレックスという新鋭バンド、どうやら一部で例のベルギー産テクノ・ポップと混同して扱われている様ですが、実際はイギリスの4人組です。僕も前知識なしで何となく輸入盤店で購入しただけですので、どんなバンドなのかといざ検索をかけてみると・・・国内のサイトでは驚くほど情報がないんですね。ほとんどゼロです。
本作を聴く限りでは、インディ・ギターにエレクトロニックな要素が絡む、言わばレディオヘッド・フォロワー的な存在。ギタリストがシンセ(とテルミンも!)を扱う様です。温度の低いシンセ音や声質がなかなかカッコイイです。また、荘厳なパイプ・オルガンの音色を取り入れたり、クリック・テクノを下敷きにしたりとアレンジに幅もあります。
今後に期待できるバンドと見ました。恐らく近々、バンド名のお尻に「(UK)」と付ける日が来るのではないでしょうか。これを書いている時点ではEP1枚しか確認出来ていませんが、日本でも人気が出るタイプだと思いますので、1〜2年後には検索にバババっと名前が引っ掛かる様になるでしょう。 (Feb 2006)
Days Before The Day
Yuppie Flu
2003/ITA
イタリアのインディ・ロック・シーンで一際目立つ存在、ヤッピー・フルー2003年の3rdアルバムです。
基本的にはインディ・ギター/ポストロック系のサウンドで、多分にフレーミング・リップスの影響を感じます(中にはそっくり?の作品も)。調べてみると、やはりフェイバリットの対象としてフレーミング・リップスを始め、米国インディ・ロックのバンドを挙げているようですね。英語で歌うヴォーカルの声質もリップスと似ているので、余計そんな印象が残るわけです。ですが、決してヤッピー・フルーにオリジナルな個性がないワケではありません。サウンドのアプローチには英米の連中とは明らかに違う美学が見えますし、独特のメロディ・センスも抜群。高い才能を感じさせます。
エレクトロニカ、ポストロック的な味付けもうまく消化しています。美しい大作『Drained By Diamonds』などはその好例で、ストレートなギター・サウンドの楽曲に比べて芸術性が高く、切ないメロディとも相性がいい感じです。また、ヴォーカルにリピート・ディレイなどの追っかけフレーズが多用されていて、最初はその演出がちょっと気恥ずかしかったのですが、次第にクセになっていきます。かなりお気に入りの1枚です。 (Apr 2006)


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