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Climb Up
Apse
2009/US
マサチューセッツのバンド、アプスの2ndアルバムです。彼らに関しての情報が乏しくて詳しいことはわかりませんが、少なくともこの『Climb Up』を聴く限り、近い将来ブレイクを果たして日本でもインフォメーションが増えていくことが想像できます。それほど本作の完成度は高く、またバンドのポテンシャルに無限の可能性を感じさせるのです。
冒頭の『Blown Doors』ですっかりアプスに夢中になってしまいました。強靭なリズム隊と、か細くて浮遊感のあるヴォーカル(マーキュリー・レヴ風と言えば伝わりやすいでしょうか)とのコントラストが魅力的で、また、よく練られた構成からは壮大なドラマが始まったことを感じさせてくれます。続く2曲目『3.1』は、打って変わってキャッチーで疾走感のあるシングル作品。幾重にも重ねられたギター・サウンドと達者なドラムスが聴きどころです。以降も、バンド・アンサンブルを前面に出したインディ・ロック・チューンと、エレクトロニカ〜ポスト・ロック的なアプローチを自在に織り交ぜながら、高いクオリティを保ったまま全12曲を聴かせてくれます。
ロマンチックで幻想的、時に切ないほど陰鬱なスペース・ロックとでも形容するべきでしょうか。とにかく2ndアルバムとは思えない質の高さに驚かされました。これは次作も絶対チェックですね。 (May 2010)
Funeral
The Arcade Fire
2004/CAN
本国カナダはもとより全米、全英、果ては日本でまで巻き起こる、新鋭バンド・アーケイド・ファイアへの賞賛の嵐。「彼らの1stアルバムがよもや、これほどまでに素晴らしいとは!」と。今さら新譜でここまでの衝撃を与えてくれるバンドなんてアニマル・コレクティヴか、このアーケイド・ファイアくらいではないでしょうか。
ストリングスやシロフォンまで繰り出す大所帯バンドで、しかもベル・アンド・セバスチャンよろしく担当楽器を都合によって持ち回りしてしまうらしい。そんな心躍る情報を得て実際に聴いてみたところ、壮大にうねるグルーヴに、無垢の叫びに、打ちひしがれてしまったのです。また、個人的に運が良かったのは国内盤を購入したことでした。なぜなら、訳詞が何とも胸を打つからです。「詞が胸を打つ」なんていかにも安っぽく聞こえるかも知れませんが、僕はすっかり感動してしまいました。迂闊にも号泣です。物語に感動したとか共感したとか、そんな陳腐なものではないのですが・・・。とにかく、本作は是非国内盤を推薦しますよ。
音楽面ではインディ・ロックとクラシック、ニューウェーブ、それに恐らくトラッドからも影響を受けているでしょう。その相乗効果を楽曲にダイレクトに活かすセンスを持っています。とりわけ上手いのは8分を刻む音を使って、荘厳に広がっていく世界観を演出するテクニック。冒頭の2曲は、それで完全にやられます(しかもハットは裏打ちでポジティヴさを演出したりするんですよね。そこもすごくいいです)。
英米を躍らせた『Neighbourhood#3(Power Out)』のこみ上げるエネルギーからは、今最も注目すべきバンドの勢いを推し量ることが出来ようというものです。また、哀愁のあるメロディは日本人好みだと思います。
中心人物ウィンとレジーヌが夫婦になったからでしょうか、愛情への誠実さが根底に流れていて、そこになにより感銘を受けたことも付け加えさせて下さい。 (Jan 2006)
Let The Blind Lead Those
Who Can See But Cannot Feel
Atlas Sound
2008/US
アトランタのバンド、ディアハンターのフロントマンであるブランフォード・コックスがソロ・ユニットを立ち上げました。その名もアトラス・サウンド。彼の内なるサイケデリアを、バンド形態とは異なる方法論をもって表現したと思しき、メランコリックで抽象的な作品となりました。
教科書は間違いなくマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン『Loveless』でしょうが、そこは2008年型のラップトップ・ミュージックですから、時代を反映してか、エレクトロニカやクリックからの影響も見て取れます。覚えたてのアプリケーションをもって短期間で制作されたと伝えられる通り、ラフなところもあるのですが、そこがかえって個性的とも言えますし、何れにしても「初心者」と感じる様な稚拙さはありません(ディアハンターでのキャリアも人脈もありますから当然ですね)。むしろ、ノイズやドローン、リヴァーブで充満した音空間の演出は見事とも言える出来栄えです。そして、彼の甘くて脆弱な歌声がまた切なくて、アトラス・サウンドが持つ白昼夢の様な世界に浮かんでは溶けてなくなり、その度に痛みと快楽を同時に体感するのです。
この美しいけれどアブなっかしいサウンドを手っ取り早く味わうのであれば、4つ打ちの歌モノ『Winter Vacation』や、トレモロが印象的な『Ready, Set, Glow』辺りをオススメいたします。 (Oct 2008)
Teen Dream
Beach House
2010/US
ヴィクトリア・ルグランとアレックス・スカリーから成るボルチモアの男女ユニット、ビーチ・ハウスの3rdアルバムです。どうやら各メディアやファンが絶賛しているそうで、おそらく年末年始の恒例行事である“2010年のベスト・アルバム”といった類の企画ではその名を挙げる人がさぞ多いことでしょう。実際、僕も本作にどっぷり浸かっているひとりです。
教会スタジオで制作されたという、この『Teen Dream』。いわゆるチャーチ・リヴァーブが加わることで幻想的なサウンド・デザインが完成度を増し、また、彼らのイノセントなイメージをますます強固にしたのです。霞掛かっていながらも透明感があり、陰鬱というよりもドリーミー。この辺りがUKインディとの決定的な差でしょうか(どちらが上という意味ではないんですが。ただ2000年代に入ってからはUSモノにアーティスティックな傑作が多い気がしますね)。本作が放つ美しいサイケデリアにひとたび触れてしまうと、抜け出すのは非常に困難です。とりわけUSインディ、サイケ・ポップ、エレクトロニカなどのリスナーであればその傾向は顕著になるハズです。ニコが参加していた初期ヴェルベッツの音源に感じられた白昼の静かなる狂気を抽出して、この上なく高い純度で再結晶したのだとすれば、褒め過ぎでしょうか。
ギターやコーラス、オルガンを中心としたシンプルながらも芸術性の高いアレンジ、起伏に富んだメロディ・ラインも賞賛に値するものですが、ビーチ・ハウス最大の武器と言えばやはりヴィクトリアの声ということになるでしょう。儚げでハスキー、どこか少年性を感じるユニセックスな彼女の声色には、生まれながらに宿命付けられた音楽家としての資質と魅力が溢れています。そう言えばヴィクトリアはフレンチ・ジャズ/映画音楽の大家、ミシェル・ルグラン(彼のジャズ・アルバム『Le Jazz Grand』は素晴らしい作品で、僕もファンです)の姪なのだとか!陳腐な発想で恐縮ですが、血は争そえないというコトなのでしょうね。 (Dec 2010)
Pod
The Breeders
1990/US
ピクシーズのベーシスト、キム・ディールがヴォーカルを務めるブリーダーズの1stで、スローイング・ミュージズのタニヤ・ドネリーもギターとヴォーカルで参加しています。
ピクシーズにとにかく夢中だった当時(今でもそれは変わっていませんが・・・)、キムのサイド・プロジェクトのバンドがあると聞いて、ひとり色めきたった記憶があります。しかもタニヤがメンバーとして加入していて、レコーディングをスティーヴ・アルビニが手掛けていると言うのですから、否が応でも期待は高まろうというものです。
かくして、音も期待通りのものでした。アルビニ時代のピクシーズにとても近い質感で録られていて、また、キムのペンによる全トラックは、その様式までがフランクのそれに近いセンスなのです。この“ピクシーズ臭さ”を良しとするかは難しいところでしょうが、正直、多くのリスナーが素直に喜べる最良の形と言えるものでした。インディペンデントで、且つポップ。唯一のカヴァーである『Happiness is a Warm Gun』はオリジナルに忠実なアレンジで、キムのヴォーカルもジョンに近い、静かなエネルギーに満ちています。
余談ですが、近年「Pヴァイン」からCDが再発されていたんですね、知らなかったです。未聴の方はそちらでチェックしてみて下さい。音楽的風化も感じないと思います。 (Jan 2006)
Push The Heart
devics
2006/US
「Bella Union」の男女デュオ、デヴィックスの4作目です。
ギター、ピアノ、シンセ、グロッケンシュピールなど何でもこなすダスティンはかなりの才人の様で、ソング・ライティング、プロデュース・ワークで抜群のセンスを発揮し、たまに歌うその声まで魅力的ときています。サラのヴォーカルもとてもいい感じで、わびさびを思わせるデヴィックスの音楽にベストマッチとも言える、ある種の憂いを帯びています。
とにかく曲が良すぎです。コードとヴォーカル・ラインの合わせ方が絶妙で、かなり質の高い楽曲ばかりが並びます。アレンジに関しましても、物憂げで美しいアコギやピアノを中心としたベーシックな構成の上に、そっとエレクトロニクスを絡ませたりするセンスが光ります。特にノスタルジックな『Secret Message To You』での、古いタイプライター音(?)のループとアコーディオン、チェロの絡みは泣けました。その他、『Distant Radio』も傑作ですね。
最近はもう、このアルバムばかり聴いています。良い女性ヴォーカルものを探している方、まずはチェックしてみて下さい。 (Mar 2006)
King for a Day
Fool for a Lifetime
Faith No More
1995/US
カオティックな構成とヘヴィネス、そしてマイク・パットンの超強力な個性で、米オルタナティヴ・シーンの一時代を築いたフェイス・ノー・モア。メジャーでの通算5作目のアルバムです。
ミスター・バングルの項でも書きましたが、僕はマイクのヴォーカルが何より好きでして、それだけにFNMにも随分とのめり込みました。名作の誉れ高い『Angel Dust』も勿論オススメなんですが、ここでは、一見地味な本作を取り上げることにいたしましょう。
FNMにヘヴィメタルの要素を付加していたギタリスト、ジム・マーティンがバンドを離れ、本作ではパットンの顔馴染みであったトレイ・スプルアンスが加入。このことがバンドのバランスに大きく影響した様で、ラウドだけれどソリッドな彼のギターが、パットンのヴォーカルと並んで主役を張るに至っています。そして、トレイのギター・スタイルに呼応する様にストレートでパンキッシュな楽曲が次々飛び出すのですが、そこに見るタイトさは、プログレッシヴなサウンドを得意としてきたこれまでのバンドには無かった新鮮なものでした。パットンの個性的な声も、より生々しく活きてくるという二次効果も生まれました。
それでも中盤以降は醍醐味である大仕掛けが登場しますから、従来からのファンの方もご心配には及びません。特にオーラスの『Just a Man』は、言わばFNMの全てが凝縮した圧巻のトラックですよ。
FNMはこの辺りから失速し始めますが、考えてもみれば、こんなごちゃごちゃしたバンドが一時的とは言えメインストリームを張ったことの方が、よっぽど特異な事件だったのではないでしょうか。 (Jan 2006)
The Reality Of My Surroundings
Fishbone
1991/US
フィッシュボーン最高傑作の誉れ高い4thアルバムです。
時代はグランジ全盛。ミクスチャー・ロックの旗手と目されていたフィッシュボーンも、メタリックな要素を増やしていくことが必然という流れでした。以降、ハードなエッジが目立つ様になる彼らを知る今となっては、本作は“過渡期”を奇跡的に美しいバランスで迎えたバンドの、刹那の輝きをコンパイルしたレコードであったのだと評することが出来そうです。ロック、ファンク、スカといった彼らの骨子は、どれかひとつが過剰に主張することなく頑丈に噛み合い、高い身体能力も手伝ってか、重心の低い骨太なサウンドとなってスピーカーを震わせます。
これだけの傑作でありながら、チャート・アクションではライバルらに一歩も二歩も譲らなければならなかった不遇のアルバム『The Reality Of My Surroundings』。もしかしたら、あまりにもロック・ファンの認知が高かったことが、一つの敗因となったのではないでしょうか。つまり、本作は全盛期のファンカデリックやパーラメント、スライ&ザ・ファミリーストーンの作品に匹敵する、歴史的なファンク・ロック・アルバムであるワケです。ですから、むしろ熟成したファンク系のリスナーにこそ体感してもらうべき作品であったと思えるのです(ひょっとしたらレア・グルーヴ・ファンも意外とマッチングがいいかも知れません)。暴論かも知れませんが、恐らく後にスカコアとかハードコアとかに走るであろうファンが当時のフィッシュボーンを支えていたハズで、その辺りのクラウドでは、本作の核心たるコシの強いファンク・グルーヴに共振するとは到底思えません。要するに、メディアのカテゴライズとバンドの戦略とに開きがあったのではないでしょうか。
とにかく、今こそ再評価を促したい作品です。懐かしむだけでは勿体ないと思います。軽妙なスネア・ワークに絡みつく、腹に響くベース・ラインと黒光りするホーンによるイントロが最高な『So Many Millions』。キャッチーなファンク・ロック的様相が人気の『Everyday Sunshine』。効果的にアルバム各所に配され、構成美に一役買っている小作品『If I Were A... I'd』は、回を重ねるごとに楽しみが増してきます。最後を飾る『Sunless Saturday』は、静と動のコントラストが見事で、アコギのカッティングとトランペットでシメる辺りは感動的ですらあります。どのトラックもアイディアと表現の意欲に溢れ、素晴らしい楽曲ばかり。中でもファンキーな掛け合いや、コロコロとしたスラップ・ベースが魅力の『Naz-Tee May'en』が個人的に一番のお気に入りです。
一見、アグレッシヴでラフな録音ながら、聴かせどころのツボを外さないミックスもしたたか。ぜひリマスターを聴いてみたい作品ですね。 (Jul 2009)
All is Dream
Mercury Rev
2001/US
ニューヨークのアート感覚と、まるでUK作品の様なロマンチシズムが混在する、マーキューリー・レヴ屈指の傑作です。
前半の荘厳で儚い作品群が、サイケデリックかつスピリチュアルなイメージの本作を象徴しています。中盤以降ではポップ度と押しの強さが増してきて、ここまでの流れが一度途切れてしまい、それが個人的には惜しく感じてもしまったのですが・・・。まぁそれでも、例えば『Nite and Fog』の開放感であったり、『A Drop in Time』のピチカートであったりが、アルバムのアクセントとして重要な役割を果たしていたことも理解できますけれど。
いずれにせよ、前半4作品の美しさは飛び抜けています。ドヒューの歌声にしても、大袈裟な展開になるほど線の細さが魅力的に際立つだけに、前半の方がハマっているのでしょう。『All is Dream』たるコンセプトは、前半によって成立していることは間違いなさそうです。 (Jan 2006)
Come On Pilgrim
Pixies
1987/US
ピクシーズのデビュー・ミニアルバムです。
恐らく単独では国内盤化されたことがないと思うのですが、後の1stフル・アルバム『Surfer Rosa』にカップリング(CD盤のみ)されているので、ファンの誰もが音源として所有していると思います。しかし、このお得なカップリングが災いしてか、どうも単独で『Come On Pilgrim』が評価されて語られているのはあまり耳にしないですね。まるで『Surfer Rosa』の一部の様に扱われてしまっているからでしょう。ですが僕がピクシーズのレコードの中で一番好きなのは、断然この『Come On Pilgrim』なのです。
言わばデモ音源集から切り出された、厳選の8トラック。その全てに当時のピクシーズの個性と勢いが宿っていて、捨て曲ナシで知られる彼らのキャリアにおいても別格のオーラを今なお放ち続けています。その異端たる個性はあたかもクラシックとなることを拒絶する様です。
1曲目に泣きの『Caribou』を持ってくる辺り、一筋縄でいかないバンドのスタートとしては上々です。ライブでは常に主役となる『Vamos』。得意のスペイン語の響きが無国籍っぽさを演出する『Isla de Encanta』。エンディングが個性的な『Ed Is Dead』。シングル向きな“カッコイイ系”ロックの『The Holiday Song』。チャールズのアコギにジョーイのレスポールが加わった瞬間がスリリングな『Nimrod's Son』。ポスト・パンク的な軽やかなギターと、サビでのハードな展開とのギャップが素晴らしい『I've Been Tired』。実にクライマックスらしい、感動的な展開を見せる『Levitate Me』。この8トラックは、そのままピクシーズのベスト10に丸ごと送り込みたいほど、例外なく大好きです。プロデューサーもスティーヴ・アルビニでなくゲイリー・スミスですし、『Surfer Rosa』とは別物として聴くことをぜひオススメいたします。 (Mar 2006)
Surfer Rosa
Pixies
1988/US
ピクシーズの1stフル・アルバム。
あのスティーヴ・アルビニをプロデューサーに迎えたことで、強いインパクトを世間に与え、後の成功への第一歩となる高い評価を得ました。ピクシーズの全カタログ中で最もパンキッシュな一面を持っていて、これはガレージ・サウンドを得意とするアルビニの音作りによるところが大きいと思います(・・・ガレージ・パンクだなんて書くと誤解されそうなので一応注釈を入れさせてもらいますが、現代アートの域に達したピクシーズのひん曲がった個性はパンク的単調さなどとは無縁であり、1stである本作の時点で既に、その個性はハッキリと楽曲・演奏に表れています)。
ジリジリとしたガレージ・サウンドに丸みは皆無ですが、メロディ・ラインや進行は実にポップ。もしかしたら中には「ノイジーで難解」と捉える人もいるでしょうが、少なくともピクシーズに興味を抱く様な方にとっては、快適な時間を過ごすことになるのは間違いありません。
ちなみにクレジットではキム・ディールがミセス・ジョン・マーフィーとなっています。離婚前のキムはそんな風に名乗っていたのですね。 (Mar 2006)
Doolittle
Pixies
1989/US
フル・アルバムとしては2枚目にあたる、ピクシーズの代表作。
元ビッグ・ブラックのスティーヴ・アルビニ・プロデュースによる前作が、カレッジ・チャート中心に好評を博したにも関わらず、敢えてプロデューサーを変えてこの『Doolittle』のレコーディングは行われました。白羽の矢が立ったのはギル・ノートン。ピクシーズとは何かと縁が深いスローイング・ミュージズや、エコー&バニーメンらの仕事に携わっていた彼との出会いは、結果的に言って、ピクシーズがオルタナティヴ・ロック・シーンに多大な影響を与えるに至る、最も幸運な出来事であったと言えるでょう。それほどノートンのプロデュース・ワークはピクシーズにハマっていたワケです。
具体的には、アートでアンダー・グラウンドなシーンに向けられた感があったアルビニの音作りに比べ、ノートンのそれはより大衆を意識したものになっており、だからと言ってピクシーズが“大衆音楽”に迎合することなど起こり得ないワケで(当のメンバーが、どれだけの成功を目指していたかは別にしてです)、正に理想的なバランスで、オーヴァー/アンダー・グラウンドを行き来できるという元来バンドが持つポテンシャルの高さを形にして見せてくれたのでした。こうしたノートンの功績は、後のミュージック・シーンを大きく路線変更させるくらい、大きなものだったのです。
そんなノートンですが、ピクシーズが持つ奇妙なエッジには理解を示しながらも、チャールズの楽曲の短さには悩んだそうです。例えばある曲において「2コーラス目を追加してサビをもう一度繰り返せば、それらしい尺と構成になって聴きやすくなるハズだ」とするノートンのもっともな意見は、彼のプロフェッショナルなプロデューサー性によるものでしょう。しかしチャールズはこの助言を聞き入れません。こうして意見が対立したときに、チャールズはバディ・ホリーのCDを買ってきてノートンに渡したそうです。2分にも満たないのに素晴らしいエネルギーを湛えたバディ・ホリーのレパートリーの数々を聴いて、楽曲の長さが良し悪しを左右することはないと改めて理解したノートンは、以後「ポップスは4分あってしかるべし」という業界の通例に拘らなくなったそうです。とても好きなエピソードです。
こうして、2分そこそこの素晴らしい楽曲がズラリとラインアップされた『Doolittle』が完成しました。『Debaser』、『Wave of Mutilation』、『Here Comes Your Man』、『Monkey Gone to Heaven』、『Hey』といった日本でも人気の代表曲が綺羅星のごとく並ぶ様は圧巻です。ライヴでの再現性を最優先したというアレンジ面でも、「何故こんなコトに?」と聞きたくなってしまう様な奇抜なアイディアが、ごく自然に(ここ重要ですね。奇をてらってるのでなく、特殊な感性が集まっているんでしょう)反映されていて、曲ごとの個性が際立っています。特に『Dead』なんかは、全パートカッコ良すぎのアレンジが本当に素晴らしいです。
もしこれからピクシーズを初めて経験する人がいたら、やはり推薦すべき最初の1枚はこの『Doolittle』で間違いないと思いますね。(Jun 2007)
【EP】Gigantic
Pixies
1988/US
ピクシーズの4曲入りCDシングルです。
ブラック・フランシスことチャールズによれば、バンドはシングルのリリースに関しては常にノータッチで、良いアルバムを製作することに専念していた様ですね。ですから、ここに収録された『Gigantic』、『River Euphrates』も、レーベルである「4AD」の依頼で再録音が行われ、シングル化されたとのことです。アルバム『Surfer Rosa』とはヴァージョン違いである上記2曲が楽しめる他、ライヴでのクライマックスを担当する2作品『Vamos』と『In Heaven(Lady In The Radiator Song)』が、ライヴ音源にて収録されています。オフィシャルの音質でライヴ音源が楽しめるのは本当に嬉しいものです。
ちなみにこの『In Heaven〜』は映画『イレイザーヘッド』の挿入歌で、チャールズはしばしばデヴィッド・リンチからの影響を語っています。 (Mar 2006)
【EP】Dig For Fire
Pixies
1990/US
チャールズ本人のシングル観はといえば、アルバムに比べて意識が低かったことは間違いないでしょうが、ファンにとってのピクシーズのシングルは、アルバムでの完成度の高い彼らとは違った、よりラフでリラックスした音源を楽しめる有難いものだったりします。もちろん、この『Dig For Fire』も例外でありません。
表題曲はアルバム『Bossanova』とはミックス違い。トライアングルで幕を開けるアルバム版とはアレンジも違います。『Velvety Instrumental Version』は歌モノのイントロだけが延々続いているかの様な代物なんですが、何だか愛らしい。『Winterlong』は、チャールズも大好きなニール・ヤングのカヴァー。冒頭から真っ当なメロディをキムとハモるというちょっと貴重な音源で、多分元ネタを知らなくてもこれを聴いてピクシーズのオリジナルだと思う人はいないでしょう。ニールへのトリビュート作品にも収録された様です。最後の『Santo』はテンションの低いサビが奇妙な作品で、ハデさはないけどピクシーズらしい佳作です。 (Jan 2007)
【EP】Head On
Pixies
1992/US
日本オンリーの編集で発売された4曲入りシングル。
英国では、ほぼ同じジャケで『Alec Eiffel』を冠に据えたシングルがリリースされており、その翌年の1992年に『Alec Eiffel』を『Head On』に挿げ替えた本作が出たわけです。それ以外は同じ3曲が収録されていることから、『Head On』の方が日本では受けると判断したのかもしれません。ちなみに『Alec Eiffel』は、まったく違う編集のUS盤がリリースされてたりします。なんだか複雑ですね。
『Head On』と『Motorway To Roswell』は、傑作アルバム『Trompe Le Monde』からのカットで、嬉しいライヴ音源モノでは『Planet Of Sound』と『Tame』が選ばれています。この2作品は、どちらもチャールズの絶叫が(特に英米で)人気の様で、ピクシーズにラウドなサウンドを求めるファンにはもってこいの選曲と言えるでしょう。とは言え、僕らみたいなアヴァンギャルドでポップな一面を期待するリスナーにとっても、結局、彼の絶叫は大好物なのですが。 (Mar 2006)
【EP】Debaser Live
Pixies
1997/US
背表紙には『Debaser(2)』と表記された、デジパックのシングルCDです。一度目の解散から数年が経過した97年にリリースされました。
内容は、89年シカゴでの秀逸なライヴ音源を編纂したもの。『Debaser』、『Holiday Song』 、『Cactus』、『Nimrod's Son』という、初期のアルバムからのバランスよい選曲が成されていて大満足です。特に注目したいのが『Nimrod's Son』。途中のテンポ・チェンジの機会から、かなりスローにした遊び心(?)溢れるヴァージョンを楽しめます。
コアなファンには真新しい音源ではないかも知れませんが、こうして正式リリースされたことに意義があるのではないでしょうか。全4トラックで10分に満たないところもピクシーズらしくて潔いですよね。大好きな1枚です。 (Mar 2008)
【boot】Return of the Fatman
Pixies
1989/US
スリーヴの記載を信じるならば、89年8月5日ブリストルでのライヴの模様を収めたブート・レコードです。まぁ日にちは正しいのでしょうが、タイトル表記はデタラメばかりですね。『In The Doubt』、『Debase』といった具合です(もちろん正解は『Into The White』と『Debaser』)。よくあることですけれど。
ブート系にはあまり食指が動かない僕ですが、本作はかなり聴き込みました。たまたま手にした作品なんですが、予想を裏切る高品質!このテのものとしては音質も充分ハイ・レベルですし、何と言ってもラフな演奏がカッコ良過ぎです。どちらかと言えばカッチリした演奏が多いイメージの後期と違って、『Doolittle』時代のピクシーズは場数の問題でしょうか、結構ヘタです。そこがすごく味わい深くて、各曲に新しい命が宿ってすら聴こえます。あのデヴィッドでもタイム感に苦戦していて新鮮です。
『Come On Pilgrim』、『Surfer Rosa』、『Doolittle』から万遍なく、たっぷりチョイスされた全23曲。ちっとも飽きずに通して聴けてしまうのがスゴイです。チャールズがテレキャスターからアコギ(この音色、大好きです)に持ち替えてのラスト4曲、特に『The Holiday Song』や『Nimrod's Son』なんかは最高の時間帯ですね。・・・ラスト4曲と言っても、実は『Nimrod's Son』と表記された21トラック目の後半に『Vamos』が入っています(ですから実質5曲というワケです)。コレなしでは終われないですよね。
飾り気はないけれど、ピクシーズのライヴ映像や音源はホント好きです。 (Mar 2006)
Gish
Smashing Pumpkins
1991/US
おそらく耳の肥えたリスナーの人には、このスマッシング・パンプキンズを大衆的なスタジアム・バンドと捉えて素通りしてしまっている向きも多いかと思います。でも待って下さい。彼らの1stアルバムである本作は、ロック雑誌に独占させておくには勿体無い一枚なのです。
何より魅力的なのは、質の高いドラムスです。後にバンドを離れるドラマーのジミー・チェンバレン(Zwanで再度、ビリー・コーガンとの合体を果たします)は、どうやらジャズのドラミングを学んでいた経緯があるらしく、ロック畑のドラマーとは一線を画したスネア・ワークや音質(録音も絶妙と言えるでしょう)が抜群にカッコいいのです。真骨頂は『Suffer』でのドラミングですが、『I am One』や『Tristessa』といったいわゆるロック然としたアップ・テンポな作品でもドラミングの妙をたっぷり感じさせるセンスは非凡です。ジャズ・ファンク系の作品でなく、ロックでここまでドラムを楽しませる『Gish』でのジミーは、このジャンルの最高峰に位置していると言わざるを得ません。スカン!というリム込みのスネアは必聴です。
さらに『Gish』が優れているのは、作品の約半分を占めるサイケデリックな楽曲の芸術性です。どうしようもなく気だるい雰囲気に、この時代の他のレコードには絶対に真似の出来ないロックの本質を垣間見ることが出来ます。
個人的に、2nd以降は急に肌に合わなくなり、興味が薄れてしまいましたが、『Gish』だけは他に替えがきかない、絶対的な一枚となっています。 (Jan 2006)
Sister
Sonic Youth
1987/US
1981年の登場以来、今日に至るまで常にNYアンダーグラウンド(時にはオーヴァーグラウンドでも)シーンの最前線にてオルタナティヴ勢を牽引し続けるカリスマ、ソニック・ユース。彼らが87年にリリースしたインディーズ時代の傑作が、この『Sister』です。
翌88年にリリースされ、ソニックス最高傑作と評されることも多い『Daydream Nation』と並んで人気があるアルバムなんですが、両者には大きな性格の差が見受けられます。すなわち、カオティックな大作である『Daydream〜』に対して、この『Sister』はガレージ色の強い、コンパクトでパンキッシュなアルバムと言った具合です。また、本作にはキャッチーなキラー・チューンが多数収録されており、個人的にはソニックス初体験の人に最初にオススメしているアルバムでもあります。変則チューニングのギターをかき鳴らすことで生み出される独特のコード感やノイズ、ドローンを凶暴かつ知的に楽曲に取り込んでみせた彼らの実験精神は、まさに時代の先を行くものでありましたが、ソニックスが切り開いた地平に多くのフォロワーたちが飛び出していったこともあり、おそらく今日ではほとんどの音楽ファンの方が抵抗なく本作を受け入れられることでしょう。
特徴的なタム使いが目立つスティーヴ・シェリーのドラミングはガレージ・サウンドとの相性抜群で、レンジの狭さも含めて実にカッコいいですね。これまでドラマーの人選に苦労してきたバンドの歴史を思えば、前作からの彼の加入は非常に意義深いものであったと言えそうです。こうして確立した、サーストン・ムーア、リー・ラナルド、キム・ゴードン、スティーヴ・シェリーによる黄金の布陣は、後に多くの名作を生み出していくことになります(ちなみに、一部で話題となったジム・オルークの加入は、結果的に長くは続かなかった様ですね)。
カヴァー曲である『Hot Wire My Heart』だけはどうしても馴染めないのですが、それ以外は全曲文句なし!とりわけカレッジ・チャート系のファンにとっては聴き逃し厳禁の必携アイテムです。 (Mar 2009)
So Jealous
Tegan and Sara
2004/CAN
カルガリー出身のティ−ガン・クイン&サラ・クインによる双子デュオ、ティーガン&サラの4thアルバムです。
もはや、「かのニール・ヤングに見出された10代のパンク好き少女」といったかつての宣伝文句を前面に出す必要はないでしょう。ニールや、あるいは本作でシンセを担当している元ウィーザー/レンタルズのマット・シャープの名前を出すことで“保険”をかけたりしなくても、時に逞しく、時に脆く揺れながら、等身大のロックを聴かせてくれる彼女たちに、多くのファンはのめり込むハズです。
どこを取っても良いメロディがあって、良いギター・サウンドがあって、本当に素敵なアルバムだと思います。風貌のインディっぽさとは裏腹に、何ならアメリカのヒット・チャートでも相手に出来そうな明瞭感、メジャー感すら漂わせていて、今後さらに多くのリスナーを獲得できそうな気がします。つい最近知ったのですが、本作収録の名作『Walking With A Ghost』がホワイト・ストライプス(!)にカヴァーされているそうですね。これは日本でもますます認知され、また高評価に繋がるのでは・・・!?
元々は2004年リリースの本作、実は翌2005年にエンハンスド仕様で再リリースされています。5曲のライヴ映像が納められているんですが、これが超かわいい!ルックスに惹かれた僕の様な不届きファンは絶対に買い換えて損なしです。ギター抱えて歌うだけのシンプルな映像(スイッチングこそあれ、カメラ・ワークはプロっぽくないです。近年の流行りですね)ですけど、それがイイんですよね。アルバム同様、アコギが心地よいバンド・サウンドです。
肝心の楽曲ですが、どれも好きでオススメを絞りきれませんが、『Walking With A Ghost』、『So Jealous』、『Speak Slow』と続く流れは特に注目と言えるでしょう。 (May 2006)
Alopecia
Why?
2008/US
「アンチコン」のキーマンであるヨニ・ウルフ。ワイ?名義での3rdアルバムです。
前作『Elephant Eyelash』が大きな話題となり、満を持して3年振りのアルバム・リリースとなりましたが、日本でのリアクションは前作に比べてやや大人しかった様な気もします。個人的には本作の方が気に入っているのですが、ひょっとしたら少数派なのでしょうか・・・?
この『Alopecia』最大の特徴と言えば、もはや完全にヒップホップの枠組みを超えた、ロック・バンド然としたサウンドに他なりません(実際、現在のワイ?はバンド形態なのです)。前作の時点で既にこうしたベクトルは明確ではありましたが、本作をもってこのスタイルを完全に自分たちのものにした印象です。ヨニは元々ヒップホップと並列にボブ・ディランなんかも愛聴していたらしいですから、彼にしてみれば、ヒップホップもフォークもインディ・ロックもエレクトロニカも全て地続きなのでしょう。おこがましいですけれど、そうしたジャンルレスな姿勢に一音楽ファンとしてシンパシーを感じます。
それにしても、ソング・ライティングの高いスキルに驚かされました。どのトラックも掛け値なしに、楽曲として優れていると思います。ヨニの声質もインディ・ロックとかアシッド・フォーク向きなので、ますます楽曲ごとの魅力が増しています。それでいてトラック・メイキングやアレンジにおいてはナードなヒップホップ/エレクトロニカの色味が加わっており、サイケでドープな質感を求める向きにも十分対応し得るところが大きな魅力ですね。
全体にエモーショナルな空気が漂う中で、覚めた佇まいが一層際立つ『Good Friday』は、ポストロック的なミックスまで含めて必聴の激ヤバトラックです。 (Oct 2009)


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