1 学校帰りすれ違った人は、いったい誰

2 「速度を落とせ」という声…誰?
3  布団をかけてくれる人は誰?
 私が小学校四年生のときでした。学校帰りは何時も道草をし、家に入るのが六時半から七時ころでした。
 秋のある日のことでした。もうあたりは暗く、女の人では一人では歩けないほど暗くなっていました。道の周りはぎっしり木が茂っていて、そこを通るときはいつも無口になるのでした。声を出せばお化けが出てきて話をし出すようで怖かったからです。
 家まではあと三百メートルくらいのところまで来たときでした。向こうから荷物を背負ったおじいさんが来ました。近くまで来て分かったのですが、そのおじさんは僕にいつも優しくしてくれる山下さんでした。体を左右に振りながら重そうな荷物を厄介そうに背負っているのでした。近くまで来ると、
「おぉ、今帰ったのかい」
 と、声をかけてくれました。「はい」とだけ答えてすれ違いました。実はそのおじさんの娘さんと僕の兄(長男)との結婚が決まっていました。結婚式は何時なのかは僕には分かりませんでした。そのうちにこのおじさん家とイトコになるんだな、それは僕にとってはうれしいことなのです。山下さんは村でも一番僕に優しくしてくれるからです。
 二歩三歩歩いてから後ろを振り返るとそのおじさんはもういませんでした。
「えっ早いなもう見えなくなるくらい早く歩いて行ったんだ」
 その時はそのくらいにしか思っていませんでした。
 それから二三分で家に着きました。入り口ではお父さんと誰か酒を飲んでいました。ところが驚いたことにそのおじさんはさっき会ったばかりの山下おじさんでした。じゃさっき会ったあのおじさんは一体誰だったろう。
山下さんは僕を見ても何も言わず、お父さんと笑いながら話をしています。大分前から飲んでいたようで真っ赤な顔をしていました。山下おじさんはさっき出会った格好のまま、いつもの恰好ですが…。
 僕は三日ほど前にお母さんから幽霊の話を聞かされたばかりでした。じゃさっきの山下さんは、幽霊で、今ここにいるおじさんは本当の山下さんなんだ。五分ほど前をふり返ってみると。すれ違った後あんなに早く見えなくなるように歩ける訳がないし、今思うとあの時の山下さんの顔の色も透き通っているようにも見えました。近くには山下おじさんに似た人はいませんし山下おじさんを間違うことは絶対にありません。道も一本道で途中横道に入いる道もありません。やっぱり幽霊は居るんだ。幽霊の話は、聞いているときは怖いのですが、幽霊と実際に会っているときは幽霊だと知らないのだから怖くないものです。それからはいつも暗くならないうちに家に帰るようになりました。                             
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