甘い国産イチゴを 365日収穫
「地域から挑む「食」の成長」
日経電子版 2015/9/28 より引用しました。
日本では、一般的にイチゴ収穫時期は
冬〜春に向けて生育栽培されます。
農業法人 GRA社 (宮城県山元町)は、
その常識を覆され、IT(情報技術)を
駆使されて、難しいといわれる
夏〜秋収穫のイチゴ栽培に
挑戦されています。
年間を通じて イチゴ栽培が実現すれば
農家の所得向上、従業員の安定雇用に
つながります。

GRA社は 震災後の 2012年1月に
設立されました。社長は同町の出身で、
震災当時は東京でIT企業を
経営されていました。
震災後、ボランティアとして故郷で
がれき処理などに あたられましたが、
地元住民から
「経済をなんとかしてほしい」
と依頼されました。
山元町の農業生産額の約5割を占める
イチゴ農業は津波で壊滅的な被害を
受けました。
社長は農業経験がなかったのですが、
経営ノウハウとIT技術を生かされて、
「イチゴ農業の先進モデルを作ろう」
と決意されました。
独自ブランド 「ミガキイチゴ」は、
首都圏の百貨店などで 1粒1000円で
販売され、高い評価を得ています。

ITを活用して生育環境を制御し季節外れの秋にイチゴ収穫
(9月8日撮影)
GRAの社長は、
「夏の栽培は初めてだが、順調に
育った。冬〜春にとれるイチゴに
かなり近いものができた」
と話されます。
一般的にイチゴの収穫時期は、早くて
11月に始まり 3〜4月ピークを迎え、
6月には ほとんどが収穫を終えます。
夏〜秋の時期も一部で栽培されますが
たいていは、スーパーなどの店頭に並ぶ
通常のイチゴと種類が異なります。
「もういっこ」や「とちおとめ」など、
冬〜春に栽培される「一季成り性品種」
に比べると、味は劣るといわれています。
「一季成り性品種」は日照が一定時間を
上回ると花が咲かず、実がなりません。
そのため 夏〜秋収穫の生育栽培には、
気温や日照時間の調整が課題でした。
技術的な難しさから、「一季成り性品種」の
栽培は全国的に あまり例がありません。
GRA社は、20アールの土地に 約2億円を
投じて「ICHIGO WORLD」を建設されました。
投資額の半分は、経済産業省の補助金
でまかなわれました。
施設の特徴は、ITを駆使して気温や
日照時間を管理する点です。
施設内の2カ所に気温や湿度、
二酸化炭素の濃度などを測定する
モニタリングポストを設置され、
データは常時パソコンに送られます。
スマホからでもアクセスでき、外出時も
施設内の状況を確認できます。
コンピューターにイチゴの栽培に適した
気温や日照時間などを入力すると、
施設内の冷房設備や、暗幕が自動的に
作動する仕組みになっています。

イチゴの株の根元を効率的に冷やす「クラウン冷却技術」
主力の冷房装置として、水の気化熱を
利用して光熱費を抑えた温度管理システム
「パッドアンドファン」を導入されました。
施設の片側の壁にファン(換気扇)を設置され、
反対側の壁には 水で湿らせたパッドを取付け
換気扇を回し、外部の暖かい空気がパッドを
通して施設内に吸い込まれる際に、水が蒸発し
その気化熱で室内を冷やします。
他にも、イチゴの株の根元(クラウン)に冷たい水
を流して、効率的に冷やす先端技術
「クラウン冷却技術」を導入されました。
また、暑くなると自動的にミスト(霧)を噴射する
装置を取り入れられました。
社長は、
「電気代がかさむクーラーではなく、
このような設備を使うことで、光熱費は
むしろ冬〜春の栽培に比べて低く
抑えられている」
と話されます。
天井には自動で開閉する暗幕を設置して、
日照時間を制御しています。
イチゴは日照時間が13時間を超えると
実がなりません。
室内の日照時間を11時間に設定し、
暗幕を使って人工的に「夜」を作ります。
GRA社は、一季成り性品種の「もういっこ」の
夏収穫の栽培に成功されました。
社長は、
「これまで夏〜秋に栽培されてきたイチゴに
比べてはるかにおいしいものができた。
実は やや小さかったが、今後の技術改善で
さらに冬〜春のイチゴに近づけることは可能」
と意欲を見せます。

通年栽培に踏み切られた目的は、
2つ挙げられます。
1つは、経営の安定です。
イチゴの出荷できる期間は約半年間だった
のが、これを延ばすことで年間を通して
収益を上げられる体制になります。
従業員の通年雇用につながります。
もう1つが、国産イチゴの価格が高騰する
夏〜秋の需要を開拓することでした。
この期間に国内で出回るイチゴは、
ほとんどが カリフォルニア産など輸入物で
国内産は希少価値がありました。
GRA社が夏収穫されたイチゴは、
町内の洋菓子店では 通常の2〜3倍の
価格で売れたといわれます。
通年栽培の技術を含め、蓄積された
イチゴ栽培のノウハウを新規就農者や
農業への参入を検討する企業に
提供される方針です。
2014年3月、営農支援を専門にした
子会社「GRAアグリプラットフォーム」を
設立されました。
アグリ社は 2015年3月に、GRAのほかに
産業革新機構、NEC、JA、三井リースから
計5億円の出資を受けてスタートされました。
社長は、
「来年以降も新しい技術がここで生まれる。
それを継続的に提供することで、
新規就農者が安定的に収益を得られる
仕組みを作っていく。
それが農業の産業化、安定につながる」
と話されます。
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