ハリーの謎で登場願った山田さんが続編をCHART NETWORK(数研出版)に
 投稿してくれました。今回は言葉遊びに関するテーマです。その前編を
 ぜひお読み下さい。
                              




続・英語で読むハリー・ポッターシリーズ


言葉遊びの日本語訳に見る翻訳の意義とその可能性

 1.はじめに

筆者は、本誌No45に掲載いただいた「英語で読むハリー・ポッターシリーズ −ハリー・ポッターの謎はウロボロスで解ける−」という拙論をもって「ハリー・ポッターシリーズの真相理解には様々な形態をとって現れる蛇に注目すべきである」という自説を発表させていただきました。その拙論をお読みいただいた方には、「オリジナル作品の持ち味の理解にはその作品が書かれた言語の理解が必要不可欠である」という筆者の主張は明白なことであると思います。しかし読者の側にそのオリジナル作品が書かれた言語を読解する能力が無い場合、その「作品鑑賞」は読者が理解可能である言語へと訳された「翻訳作品」に頼らざるを得ません。しかし、そういった「翻訳作品」による鑑賞では「オリジナル作品の持ち味」は犠牲になっているはずです。そのことはいかんともしがたいことなのでしょうか。また、「本来の持ち味」を犠牲にする「翻訳」とはいかなる作業なのでしょうか。
 そこで今回は「続・英語で読むハリー・ポッターシリーズ」と銘打ち、シリーズ内に見られる「言葉遊び」を「オリジナル」および「翻訳」で確認しながら「翻訳の意義とその可能性とはいかなるものであるのか」という拙論を展開してみたいと思います。

なお、本拙論で引用するハリー・ポッターのオリジナルテキストとは、全てBloomsbury社発行のもの、並びに翻訳テキストとは全て静山社発行のものを指します。

2.ハリー・ポッターシリーズにおける多彩な言葉遊び

オリジナルテキストには、実に多彩な「言葉遊び」が随所に施されています。それら「言葉遊び」はおおよそ以下の3種類に分類できます。そこでこの章では、それら3種類の「言葉遊び」の代表例をオリジナルテキストおよび翻訳テキストより抜き出し、それらに関する考察を試みることとします。

 @韻律を用いた言葉遊び
 ハリー・ポッターシリーズにおいて最も注目すべき韻律は「頭韻」(alliteration)です。その顕著な例は第2巻(オリジナルテキスト名Harry Potter and the Chamber of Secrets 以下the Chamber of Secretsおよび翻訳テキスト名『ハリー・ポッターと秘密の部屋』以下「秘密の部屋」)第4章(オリジナルテキストAt Flourish and Blots、および翻訳テキスト フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店)で登場したギルデロイ・ロックハート教授の著書名において確認することができます。では、その例をオリジナルテキストならびに翻訳テキストに見てみることにしましょう。

Break with a Banshee      泣き妖怪バンシーとのナウな休日

Gadding with Ghouls        グールお化けとのクールな散策

Holidays with Hags      鬼婆とのオツな休日

Travel with Trolls      トロールとのとろい

Voyage with Vampire     バンパイアとバッチリ船旅

Wandering with Werewolves   狼男との大いなる山歩き

Year with the Yeti           雪男とゆっくり一年

(下線筆者以下同じ)

翻訳者は、本来オリジナルテキストには存在しない語句を故意に追加することにより「頭韻」による「言葉遊び」を翻訳テキストにも再現しています。
オリジナルテキストにおいて使用された「頭韻」を翻訳テキストにおいても再現した例は、それぞれの巻における章のタイトルにも見られますが、特に注目すべきなのは第5巻(オリジナルテキスト名Harry Potter and the Order of The Phoenix 以下the Order of the Phoenixおよび翻訳テキスト名『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』以下「不死鳥の騎士団」)第13章のタイトルです。以下にその例を確認しましょう。

 Detention with Dolores  アンブリッジのあくどい罰則

 オリジナルテキストのタイトルと翻訳テキストのそれは全く別物であることは一目瞭然です。オリジナルテキストに忠実に「翻訳」するならば「ドローレスとの罰則」とすべきです。しかし翻訳者は本来従うべき「忠実さ」を棄て「アンブリッジのあくどい罰則」という自らの「創作」を「翻訳」に替えたのです。その理由が使用された「頭韻」の再現であるということは言うまでもないことでしょう。

“Dolores”とはホグワーツと完全に決別した魔法省から、その解体のために「高等尋問官」として送り込まれた上級次官Dolores Jane Umbridge(ドローレス・ジェーン・アンブリッジ)のことです。この第13章では、ハリーは彼女から大変な「苦痛を伴う罰則」を課せられることになります。そして、その「罰則の内容」を踏まえたタイトルを付けるならば、やはり「ドローレスとの罰則」とすべきだというのが筆者の主張です。その理由に関しては項を改め、後に詳述します。

 A同音異義語を用いた言葉遊び

 英語にも同音異義語を利用した言葉遊びは存在します。そして、ハリー・ポッターシリーズにおいてもこの同音異義語を非常に効果的に用いた言葉遊びが登場しています。それは、第4巻(オリジナルテキスト名Harry Potter and the Goblet of Fire以下the Goblet of Fireおよび翻訳テキスト名『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』以下「炎のゴブレット」)

第13章(オリジナルテキストMad-Eye-Moody、および翻訳テキスト マッドーアイ・ムーディー)に現れたトレローニー先生が担当する「占星術」の授業でのロンの台詞です。以下に引用してみましょう。

 “It is Uranus, my dear,” said Professor Trelawney, peering down the chart. “Can I have a look at Uranus, too, Lavender?” said Ron.

冥王星、最後尾の惑星ですわ」トレローニー先生が星座表を覗き込んでいった。「ドンケツの星か・・・。ラベンダー、僕にきみのドンケツ、ちょっと見せてくれる。」
 オリジナルテキストにおいてトレローニー先生は”Uranus”つまり「天王星」と述べています。しかし、翻訳テキストでは「冥王星」と書き換えられており、しかも、「最後尾の惑星ですわ」という台詞まで付け加えられています。さらにロンの台詞では「ドンケツの星か・・・」という追加と「きみのドンケツ」などという「一風変わった」訳出がなされています。この理由は何なのでしょうか。
 これは、”Uranus”の発音が”your anus”(「君の肛門」)との「同音異義語」であることを利用した少々下品な「駄洒落」になっているからです。
 英語においては「同音異義語」を利用した「ギャグ」であっても日本語では少しも「同音異義語」になっていません。そこで翻訳者は太陽系第7惑星を第9惑星に「すり替える」という「トリックプレー」を用いたのです。なおこの「ギャグ」はthe Order of the Phoenix第35章Beyond the Veilで、さらに「不死鳥の騎士団」の同章ベールの彼方に)では、「木星」を表す「臭い星」ならびに「モー・クセー」として再登場します。

 次号では、多義語を用いた言葉遊びをご紹介しつつ、更なるハリー・ポッターシリーズ の面白さ、なびに翻訳という作業の意義を考察したいと思います。ご期待ください。

引用文献

J.K.Rowling  Harry Potter and the Chamber of Secrets  Bloomsbury 1998
J.K.Rowling  Harry Potter and the Goblet of Fire       Bloomsbury 2000
J.K.Rowling Harry Potter and the Order of the Phoenix Bloomsbury 2003
J.K.Rowling著、松岡佑子訳『ハリー・ポッターと秘密の部屋』静山社 2000
J.K.Rowling著、松岡佑子訳『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』
上・下巻 静山社 
2002
J.K.Rowling著、松岡佑子訳『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』上・下巻静山社 2004

                         春日丘高等学校教諭  山田 正人