5.生命倫理と環境倫理の相克
以上のような,生命倫理と環境倫理の生まれてきた背景,およびそれらの今日的意義と課題を踏まえて両者の関係を比較してみる。
生命倫理学の基本的立場は個人の自由意志を最大限尊重することである。
環境倫理の基本的立場は将来にわたる人類存続のためにその基盤となる地球生態系をも含んで全地球生命圏の保全を図るべく,現代の人間は個々人の欲求や自由意志も何らかの規制を容認することを求めるものである。つまり, 我々現世代の欲求や自由と将来世代の生存が天秤の両方に乗っている構造を認めざるを得ない。この天秤を全体として持ち上げることが技術の進歩である。しかし,技術の進歩はほとんど見られず,地球温暖化など返って悪化している。
両倫理は言い換えれば,
生命倫理…個人主義的要素 環境倫理…全体主義的要素 といえる。
この点については北尾高峰は,生命倫理と環境倫理とは一見共通点が多いかに見えながら対極にあるとまではいかないが対蹠的関係にあるといわざるを得ないと述べている。
生命倫理において無限の自由が許されるのではなく将来世代の生存基盤を大きく損なうような場合には現世代の幸福は将来世代の幸福に直結する。という前提が崩れているm,という現実がある。我が国では両倫理について哲学的思考がまだ深くないが,社会の価値観や文化に密接に関連する倫理概念について日本の固有性に立った議論の中からいずれ独自のものが生まれることを期待している。