「原書」って、どんな雰囲気?

*恐ろしくリアルな原書のハリポタ世界*

 時々、日本語版しか知らない方から「原書でもこうなんだと思ってました」という声を聞きます。変なしゃべり方をするキャラクター、古くさい言い回し…。

 でも、ローリング女史の描くハリポタ世界は、魔法というエキスを除けば、まるで現実のイギリス社会のようにリアルで、それが欧米での、多くの大人ファンをも含むハリポタ人気の基本にあります。
 ロンドンの街を歩けば、「マグルの自分には見えないけど、このへんにパブ漏れ鍋があるのかもしれないな」、スコットランドのハイランド地方を旅行すれば、「あの山かげにホグワーツが隠れてるのかもしれないな」……そんなことを思わされてしまうぐらい、ローリング女史の描く原書ハリー・ポッターはとてもリアルな世界なのです。

 そして、そこに出てくる登場人物たちも、現実の現代イギリスに住んでいるイギリス人たちとなんら変わりのないしゃべり方をしています。
 もちろん読者層に若い子供たちも多い小説ですし、原作者が言葉をとても大切にする方ですから、耳障りな流行語や、汚いののしり言葉などは使わないよう、細心の注意が払われています。長く読み継がれるべき文学作品としては当然の配慮でしょう。

 でも、それ以外は現実の現代イギリス人同様、普通の話し言葉による会話が交わされているのが原書版のハリー・ポッターです。
 現実のイギリス社会同様、それぞれの出身地や育ってきた環境などによって多少の訛りや方言が使われたり、使用する語彙が違ったり、というバリエーションは多少ありますが、それも現実にある訛りや表現方法となんら変わることはありません。
 ハリポタに出てくる登場人物のほとんど(!)誰もが、自分の周りに実際にいてもおかしくないような現実味のある人間たちなのです。もちろん「魔法」を使える、という要素は除いてですが(笑)。

 だから、登場人物たちが現実の人間たちのように生き生きと息づいている。
 それゆえに、読者たちはそういったリアルな登場人物の感じる喜びや怒り、悲しみ、葛藤などに自分の心を重ね合わせながら物語の世界に入ってゆくことができるのです。
 さらに、読者を物語の中にどんどん引き込み、また何度も何度も読み返したくなるほどの巧みなローリング女史の文章。これが英語圏の国で「ハリー・ポッターは単なるファンタジー小説ではない」と高い評価を得、多くの成人ファンたちに支持されている理由です。

 ところが、日本語版に出てくるキャラクターたちの話し方はどうでしょう。
 あなたの周りに、自分のことを真面目に「俺様」、「我輩」と呼ぶ人が一人でもいますか?
 「ざんす」「ざーます」などという言葉を使う女性に会ったことありますか?
 「驚き、桃の木」「おったまげー」などという言葉を普通の会話の中で使ってるティーンエイジャーの男の子を知っていますか?
 「おやおや」「後生だから」などという古めかしい言い方をする若い女の子が周りにいますか?

 そのように、現実ではありえないような話し方をする登場人物がいたるところに出てくる小説。そんな風に書かれた本を読みながら、あなたはその世界に入り込むことができますか?これが、原書と日本語版の大きな違いだと思うのです。


*原書は大人をも魅了する*

 ご存知のようにイギリスでは大人版ハリー・ポッターが通常版とは別の表紙で出版されていますが、これは出版社の「これは大人にも売れそうだ」という商魂から始まったわけではありません。

 原書出版社である英ブルームスベリー社は、はじめ「児童文学」のつもりでハリー・ポッターを出版しました。
 イギリスの家庭では夜、子供たちがベッドに入ると、お父さんやお母さんが本を読み聞かせたり、あるいは自分で本を読める年齢の子供なら、その子が音読するのを親が聞いてあげるのが習慣です。
 そうやって子供と一緒にハリー・ポッターの世界に出会った親たちが、自分の子供同様、人によっては子供以上にローリング女史の描く世界に夢中になりました。
 そんな親たちが、自分の同僚や友人といった他の大人たちに「この本、すごく面白いから読んでごらん」と薦めたことがきっかけで、イギリスでは大人たちの間でもハリー・ポッターは静かなブームを引き起こしました。

 一時は「通勤電車の中で児童書を読む大人たち」の様子が珍現象としてマスコミに何度もとりあげられたぐらい、成人層へのハリー・ポッター人気の浸透が急速に進み、そうした大人ファンたちから「いかにも児童書っぽい表紙の本を人前で広げるのはやはり恥ずかしい。表紙だけ大人向けデザインのを出してくれ」という要望がブルームスベリー社に多く寄せられたことから、イギリスでも前代未聞の通常版・大人版の二種類表紙発行(中身は全く同じ)が始まりました。出版社による販売促進方針ではなく、あくまでも「消費者主導」の動きだったのです。

 そして、そうした多くの大人ファンたちが、さまざまなファンサイトのフォーラムでいろいろ検証を繰り返しながら謎解きや登場人物分析を楽しんだり、知り合いの子供たちにハリー・ポッターを薦めたりする……。
 そんなことを繰り返しているのが、英語圏諸国でハリー・ポッターが根強い人気を保ち続けている大きな原因だと思います。
 イギリスでもアメリカでも親子2代、3代でハリポタ・ファンという人がたくさんいるのです。原書版のハリポタはそれほどに「大人にとっても充分読み応えある」作品なのです。

 でも、日本語版のハリー・ポッターを読んで「おっ、これはただの子供向け小説ではないな」と思う大人がどれだけいるでしょうか?
 周りの大人の人たちに、「自分はハリポタ・ファンなんだ」と恥ずかしがらず、胸をはって言える成人ファンはどれだけいるでしょうか?
 大人であるあなたは邦訳版ハリー・ポッターを人前で堂々と広げて読み、大人の友人に勧めることが出来ますか?
 もし「いや、うーん…」と思ってしまったなら、それはなぜなのでしょうか?

寄稿 : DAメンバー(イギリス在住) 


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