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1 はじめに
ものの形には機能と材料の二つの側面があります。つまり、機能的特性と材料的特性が、物の形態のなかに統一されて具体的な形となっているのです。したがって、機能が追加・修正されれば、または、構成の材料が変われば、当然、その形も違ってきます。
例えば、貨幣には硬貨と紙幣があります。硬貨は金属製の小さな円板であり、紙幣は紙の比較的大きな長方形です。これが逆に、硬貨が大きな長方形で、紙幣が小さな円板であったら、使いものになりません。また、生物の場合にもあてはまります。環境が変化して、進化が起こる場合、機能(能力)と形態が変化してきました。猿あるいは類人猿から人間への進化を考えれば、よくわかります。
このように、材料的性質と機能的性質は、形態に対して大きな要因となっています。しかも、それらは渾然一体となって、道具や建築などの形に溶け込んでいるのです。
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2 力と部材
建物に用いられている部材(構造の要素)を大きく分けると、柱と梁になります。柱は鉛直の部材であり、主に上から下向きの力(圧縮力)を受けます。梁は柱間をつなぐ横材であり、柱まで荷重を伝達します。
左図の鉄棒で考えますと、左右に二本ある鉛直の部材が柱であり、その柱をつなぐ水平の棒が梁です。この横棒(梁)に、人がつかまると、その重さを柱に伝えます。横棒は人の重さでわずかに曲がります。曲がるということは、棒の上側が縮んで、下側が引張られていることを示しています。消しゴムなどを指で挟んで曲げたときと同じです。曲げられた外側は引張られ、内側は圧縮されて縮んでいます。梁のように曲げられる部材を曲げ材といいます。
したがって、梁(曲げ材)は圧縮と引張の両方によく耐えられる材料でなければなりません。石やコンクリートは引張に弱いため、梁には適した材料とはいえません。なお、このコンクリートの弱点を鉄筋で補強したものが、鉄筋コンクリート構造です。
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3 石と木の性質
(A) 石
石は自然の材料の中で、もっとも硬く、圧縮力に強く、耐久性に優れています。このことは、岩石の歴史が数億〜数十億年であり、その間、想像を絶する高圧、高熱に耐え抜いたことを考えれば、うなずけることであります。だから、われわれは、岩石などに不変性や悠久さを感じるのだと思います。しかし、硬くて加工しにくく、重いという欠点があります。また、引張られた時の強さ(引張強さ)が、圧縮された時の強さ(圧縮強さ)の1/20〜1/40であり、引張力に対して極端に弱いという性質があります。このことから、構造材料として、引張力が生じる梁材には適していません。
(B) 木
木の幹は、地面から鉛直に伸び、そこから枝を伸ばし、葉をつけています。風を受けると、枝が揺られ、幹もわずかに曲がります。そうです、木は自然界に曲げ材として存在しているのです。圧縮強さは、弱い岩石(砂岩)に匹敵し、引張強さも鉄材(鋳鉄・銅)と肩をならべます。その上、軽くて、加工がしやすいという特長があります。したがって、木は自然材料のなかで、柱にも梁にも適した唯一の材料なのです。しかし、石に比べ耐久性に乏しく、可燃性であるという短所があります。
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4 ピラミッド
石そのものの構造物として、エジプトのピラミッドがあります。紀元前3200〜2200年に造られた王の墳墓であり、そのうちクフ王のピラミッドが最も大きく、底辺の幅b=230m、高さh=146mあります。
その高さhと底辺の幅bの比h:b=1:1.58が、黄金分割の比(1:1.6)に近い四角錐となっています。また、底辺の周長(4b)が高さの2倍に円周率を掛けた値(2πh)にほぼ等しいといわれています。
ちなみに、4 x b=920 m、2 x π x h=917m です。
数値的なことはさておき、広大な砂漠を背景にして、230万個の石を積み上げたこの形は、石本来の重厚かつ悠久な感じがします。
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5 パルテノン
ギリシア建築を代表するパルテノン神殿は、紀元前440年頃につくられました。大理石の円柱は、プロポーションや間隔などに細かい心づかいがされており、約2400年を経た今も優美な彫像のような姿を見せています(写真上)。
この優美な建築に対して、フランク・ロイドライトは「ギリシア人は臆面もなく石を侮辱した」と書いています。梁に石材を使用したことについての指摘です。
一方、ギリシア人がこの土地に来たのは紀元前13、14世紀のころで、前の土地で慣用していた木造建築を原型として、石で建築をつくり始めたといわれています。良質の木材がない状況で、石造柱列式の建築を極めたのでしょう。
ギリシア人たちは、きっと、石の長所も短所も十分に認識していて、その短所をカバーする様々な工夫をしたはずです。そうでなければ、約2400年後の今、その姿はなかったでしょう。
しかし、英知を尽くしてつくられたパルテノンにとっても、長い年月の自然の摂理はきびしく、材料的にハンデのある梁は弱点をあらわしはじめました。今では、梁の多くの部分が崩れています(写真下)。でも、それらによって、パルテノンの価値がさがることはなく、かえって柱列の美しさを強く表しているように、私は感じています。
写真は筆者が1993年に撮ったもので、正面からの全景および側面の柱・梁部分です。
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6 アーチ・ヴォールト・ドーム
長いヨーロッパ建築史の中で、主要な構造となったのは、アーチ・ヴォールト・ドームです。ローマのサンピエトロ寺院、コロセウム、イスタンブールのアヤソフィア、パリのノートルダム寺院、凱旋門等などすべてこれらの構造の組合せでできています。石の重さと耐圧縮性を十分に生かし、引張力を最小にする構造形式といえます。
アーチには円弧形・尖頭形があり、ヴォールトにも筒状形、交差形、リブ形などがあります。ドームはご承知のようにアーチが回転したときにできる空間です。これらの構造を巧みに組合せ、大きな空間や小さな空間が構築されています。
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7 鳥居
神社の鳥居は、二本の柱と二本の横材(笠木(島木)と貫)で構成されている単純・明快な構成である。建築ではないという理由からか、日本建築史にはほとんど記述がありません。しかし、わたしは木造構築物を代表するものと考えています。見る人にすがすがしさや快い緊張感を与えてくれます。この心地よい緊張は、横材の比率のよって生まれているのではないでしょうか。すなわち、柱間を1.0としたとき、張出し部分の長さはほぼ0.4となっております。この鳥居が、造りなおされるとき、変にデフォルメされているのを見ると、悲しくなります(かたち・バランスの研究と一部重複してます)。
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8 唐招提寺金堂
「大寺のまろき柱の月かげを土に踏みつつものをこそ思え」(会津八一)と詠まれた唐招提寺金堂は、奈良時代末期(八世紀後半)の天平様式の代表的建築です。ご承知のように、唐招提寺は鑑真和上がつくられた寺であり、わたしがはじめて感動した建築です。深い軒と木造円柱の奏でる格調は、パルテノンに通じるものがあります。事実、円柱の間隔は中央が広く、左右にゆくにしたがい狭まっているなどの共通点が見られます。
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9 おわりに
ものをつくることは、要求事項(機能)と制約事項(材料)の狭間で、苦渋の選択(創作)をすることだと思います。ここでは、材料の代表的な例として、石と木をとりあげてみました。しかし、現代はあまたの材料があふれ、要求はさらに複雑になっています。創作にあたって、ある意味では、カオス(混沌)が急速に拡大し、右往左往している状態ではないでしょうか。人とものが心地良い関係を保つためには、基本にたちかえって、かたちについて考えることが大切なのではないかと思います。
なお、この「石と木」は随分前に書いた同じ題目の文章を修正・加筆したものです。
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