社説2 自浄能力示した比の政変
 フィリピンはアジアで唯一、米国の植民地になった経験を持つ。その影響からか、民主主義を守ろうとの意識はアジアのどの国に比べても強いといわれる。エストラダ前大統領の辞任は、民衆の民主主義の建前や意識を軽視した結果でもある。大統領の疑惑を裁くはずの弾劾裁判が大統領派の横暴で正しく機能しないのに反発した民衆の怒りが、短期間で大統領を退陣に追い込んだ。

 大統領の不正疑惑の表面化から弾劾裁判、それに続く大統領の辞任を求める抗議の輪の広がりという一連の動きは、良くも悪くもフィリピンの政治状況を象徴している。弾劾裁判の開始時にはフィリピンの民主主義の成熟度を示す機会との期待が強まったが、利権で結び付いた大統領派の数の論理によってその期待は裏切られた。

 弾劾裁判の理由も違法とばく組織からの献金疑惑、たばこ税の不正流用など、権力を乱用した古典的な汚職である。よくアジアの強権的な政治指導者は民主主義の弊害として、フィリピン、タイの政局混乱、汚職の横行を例に挙げる。まさに、フィリピンの一連の混迷は民主主義の負の側面だろう。

 ただ、非暴力・平和的な直接行動によって民主主義を正しい方向に導こうとする民衆の行動力は、フィリピン社会の自浄能力を示している。民主主義で裏付けられた人々の権利や行動が、社会安定のための最後のとりでであることを改めて示したのではないか。

 フィリピンの「ピープルズパワー」による政変は、1986年のマルコス政権打倒に続く2回目である。共通するのは大統領の不正、横暴・独裁である。権力者の不正を生みやすい体制をどう改革していくのか、特に政治家は真剣に考えるべきではないのか。エストラダ前大統領を生んだ土壌は、フィリピン固有の部分が多いようにみえる。

 権力者の経済権益に群がる政商、利益誘導を生みやすい有力者同士の深い関係、社会のひずみを生むエリートと貧困層との階層格差、なかなか減らない汚職など、政治課題は多い。アロヨ新大統領は今回の民衆の怒りをどう社会・政治改革に生かすのか手腕が問われている