| 【飽食社会への警告】(2)メタボリックシンドロームの告げるもの (飽食社会取材班) 産経新聞 |
■病気の元凶「内臓肥満」
心筋梗塞(こうそく)などを起こす動脈硬化の原因になるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)。その元凶である「内臓肥満」の様相を世界で初めて見たのは日本人である。
現在、大阪府高槻市の高槻社会保険健康管理センターでセンター長を務める徳永勝人医師。約二十五年前、X線により人体の輪切り画像が見られるCT(コンピューター断層撮影法)を使って観察を可能にした。
当時、徳永医師は阪大第二内科で肥満と病気の関係を研究していた。たまたま肥満患者の胆石をCTで検査したところ、皮下脂肪層が予想外にはっきりと見えた。そこで脂肪量の測定に使おうと、患者のCT写真を比較分析するようになった。
その翌年に成功の機会はめぐってくる。
五十五歳の女性を診察したときだ。手足に比べ腹部だけが異常に太っていたのだ。皮膚をつまんだ感じでは皮下脂肪は少ない。「何か異常がある」。そこでCT撮影すると、肝臓や腸の輪切り画像の間に黒く大きく写る部分を見つけた。それこそ内臓脂肪だった。
肥満と病気の関連を調べる肥満学は米国で六〇年代に誕生した。日本では慈恵医大と大阪大が積極的に取り組んだ。
しかし、肥満は外形から分類するしかなかった。それでも、米国のA・キーセバー博士のように「上半身肥満」という名称で、尻回りに対して胴囲の比率が高い人に糖尿病が多い−と発表し、内臓部分の肥満に着目する学者はいた。
「いかにして体内の脂肪量を量るか」。肥満学の突破口を開くための大きな課題が立ちふさがった。
それまで皮下脂肪をつまみ、その厚さから全脂肪量を推計するなどの方法が試みられていた。
徳永医師の方法は、実測に近いが手間がかかった。CT写真のコピーを方眼紙に張ったうえで脂肪部分をハサミで切り抜き、その合計の面積などから全体の脂肪量を推計した。この方法は国際肥満学会誌に発表し評価された。
「深夜の研究室でチョキチョキ切りながら、こんなこと世界でだれもやっていないだろうなと、胸がわくわくした」と振り返る。
研究のターゲットが内臓肥満と病気の関連へと核心に迫るなかで、懸案はCTの確保だった。高価で台数が少ないうえ、がんや脳梗塞など重病の発見という本来の目的のために放射線科ではフル稼働状態。徳永医師らの肥満者に対する使用は早朝や夜間に限られた。「CTを求めて阪大以外にも、大阪、兵庫の病院に勤める医局の先輩を頼って渡り歩く日々が続いた」という。
努力のあげく、五十例に近い症例が集まり、八六年の国際肥満学会で発表した。内容は糖尿病や高脂血症が内臓肥満の患者に多いということを明らかにしていた。
その後も内臓肥満になれば、高血圧▽心臓病▽脂肪肝▽睡眠時無呼吸症候群などが起きやすいことを突き止めていく。
「それでは何が内臓肥満を促すのか」
ここまできて根本的な課題にぶつかったとき、阪大グループのリーダーだった松澤佑次医師(現住友病院長)が、とんでもない提案をした。
「力士の腹部をCTで撮ろう。脂肪の付き方が違うはずだ」
徳永医師が上京し、元横綱の曙がいた東関部屋に協力を依頼した。若手力士を中心にCT写真など基礎データをとった。
結果は図に当たった。がっちりと太った力士の腹部は、CTで見ると一目瞭然(りょうぜん)に内臓肥満はほとんどなかった。
内臓脂肪は皮下脂肪に比べて消費されやすいため、運動量の激しい力士にはつきにくく、内臓脂肪が引き起こす病気もみられないことが分かったのだ。二つの脂肪の違いを松澤医師は「内臓脂肪は普通預金、皮下脂肪は定期預金」という表現で説明する。
阪大グループの緻密(ちみつ)で大胆な発想による研究。その成果は、CT写真により計算できる内臓脂肪の断面積が百平方センチ以上▽胴囲で男性八五センチ以上▽女性九〇センチ以上あれば、内臓肥満の「危険水域」とする日本独自の診断基準に結びついていく。 (飽食社会取材班) 産経新聞