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フランキー堺主演、橋本忍脚本のドラマ「私は貝になりたい」が放送されたのは1958年。BC級戦犯の悲惨な運命を伝えて大きな反響を呼び、その後もリメークが繰り返された。
今回放送される「真実の手記 BC級戦犯加藤哲太郎 私は貝になりたい」は、このドラマのモチーフとなった「遺書」を書いた実在の元戦犯・加藤哲太郎の著作をドラマ化した。主演は中村獅童。
敗戦当時、陸軍中尉だった加藤は、新潟にあった捕虜収容所の所長を務めていた。部下が独断で犯した捕虜殺害の罪を一身に背負い、逃亡を続ける。部下は裁判で軽い刑を言い渡されるが、やがて逮捕された加藤は絞首刑を宣告される。
橋本脚本のドラマでは、主人公は死刑になるが、実際の加藤は、家族の必死の助命嘆願もあって再審の結果、減刑を勝ち取り、やがて釈放された。
減刑から釈放に至る間に加藤は、獄中で著作活動に励んだ。有名な「貝になりたい」の「遺書」は、この間にフィクションの形をとって書かれたものだ。
日本テレビの佐藤敦ドラマ制作担当部長は、「何回もドラマや映画になった作品なのに、基になった事実は意外と知られていない。部下をかばう美しい心を持った日本人がいたことを今の時代に伝えたい」と、制作意図を説明している。
加藤役を演じる中村獅童は最近、「男たちの大和/YAMATO」や「硫黄島からの手紙」などの戦争映画に立て続けに出演、いずれも兵士役を演じている。
「これまで演じた軍人は、『きさまぁー』と大声を出しているような役が多かった」。だが、今回の加藤は全くタイプが異なる。台本を読んだ印象は、「育ちが良くて、写真を見ても品格があり、優しい人」。部下をかばって逃亡したのは、その人間性の現れだと感じた。「役者冥利(みょうり)に尽きる役柄です」
撮影が始まってから、加藤の遺族と会い、加藤にまつわる資料や本の提供を受けた。目を通していると、何と小学校から高校まで通った明星学園(東京都三鷹市)の先輩であることがわかり、「運命的なものを感じた」と言う。
歌舞伎の舞台に立つ前にはいつも、先祖に「どうか見守っていて下さい」と祈る。今回のドラマでは、同じ祈りを、先祖でなく加藤にささげて収録に臨んだ。
「戦争ものを演じていると、もし自分だったらと無意識に考え、気持ちにずしんと来る。戦争を伝えることに責任を感じながら、これからもやっていきたい」
戦争を知らない世代が、演技を通して苦難の時代に生きた兵士を追体験できることに、俳優としてのやりがいを見いだしている。
(2007年8月21日 読売新聞)
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