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『1Q84 Book3』を読んで

2010年5月
日野学
  

 『1Q84 Book3』のタイトルと巻数は数字とアルファベットだけからなる。数字だけからなるものには、たとえば本の頁がある。『1Q84 Book3』は、『Book1』『Book2』がそうだったように、本の頁がきれいな数になるときに、本作で重要なことが語られるのだ。

『Book3』は、『Book1,2』で重要ではなかった登場人物が物語の前面にあらわれる。それが「牛河」だ。牛河は、青豆と天吾とならんで物語の語り手となる。「第1章 牛河」「第2章 青豆」「第3章 天吾」‥のように。

 牛河は、さきがけのリーダーを殺害した青豆を追跡し、青豆が子どものころに通っていた千葉県市川市の小学校で、彼女が川奈天吾と同級生だったことを突き止める。天吾は牛河が『Book1,2』で既に接触していた人物である。牛河は天吾の近辺に青豆が現れるはずと踏んで、天吾のアパートに潜伏する。

 青豆は自分が隠れているマンションの正面にある公園の滑り台を毎日観察している。その滑り台の上に天吾が座っていたからだ。ある日青豆はこの滑り台の上に牛河=「福助頭」が座っていることを発見する。福助頭はタマルの電話によると、マダムの屋敷をかぎまわっていた人物だ。青豆は福助頭の後を追い、彼が入っていったアパートの表札に「川奈」の文字を見つける。

 このことを青豆から電話で聞いたタマルは、福助頭=牛河が天吾及び青豆を探索していることに気づき、牛河を殺害することを決める。それが第25章だ。タマルは牛河にビニール袋をかぶせて窒息死させたあと、さきがけに電話して殺害を知らせる。さきがけが牛河の死体を回収するのが、555頁だ。

「死体は‥(教団の)敷地の中にある大型焼却炉に運び、速やかに処理をする。‥煙は空に吸い込まれ、灰は畑に撒かれて野菜の肥料になる」(555

 このシーンは「Book2」で青豆が、死んだあゆみを思う場面(100頁)と対応している。

「この世界にはもうあゆみはいない。…簡単な葬儀があり、そのあとで火葬場に運ばれ、焼かれてしまう。煙となって空に立ち上がり、雲に混じる。そして雨となって地表に降り、どこかの草を育てる」(100)

 運ばれた牛河の死体の口から、リトルピープルがあらわれるのが567頁だ。

「最後の一人だけが違う行動を取った。‥牛河のいびつなかたちをした頭に手を伸ばし、そこに生えている縮れた毛髪を一本ちぎった。‥その五本の空中の糸と、一本の牛河の頭髪を、最初のリトル・ピープルが慣れた手でひとつに紡いだ」(567

 こうして牛河はリトル・ピープルによって”再生”されていく。『Book3』にはもう一人”再生”された人物が存在する。それが天吾の父が入院していた病院の看護婦の安達クミだ。安達クミが自分の再生について天吾に語るのが第9184頁、1(9)84頁だ。

「「再生についてのいちばんの問題はね…人は自分のためには再生できないということなの。他の誰かのためにしかできない」」(1(9)84)

 安達クミも一度死んだ? だとすると彼女もリトル・ピープルによって再生したのだろうか? 彼女は何のために再生したのか? 彼女はリトル・ピープルと天吾と青豆を結びつける役割を果たすのだろうか? それが恐らく『1Q84』の最後の巻、「Book4」で語られることとなるのだろう。

 
『1Q84』を読んで--数の呪縛の物語

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