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21世紀の資本主義…投機、戦争、貧困の時代
2008年9月、アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズが破産し、「100年に1度」と言われる世界同時株安、世界同時不況の引き金が引かれました。その後の世界の動きを見てみると、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が08年11月に量的緩和第1弾(QE1。正式には大規模資産購入LSAP)を発動し、アメリカの銀行などが保有していた住宅ローン担保証券などを買い取り、その代金として155兆円という巨額のマネーを銀行などに供給しました。 アメリカの需要激減や銀行の貸し渋りは、09年6月に世界最大の自動車会社GMを破産させます。09年10月には、アメリカの住宅バブル崩壊と並んで住宅バブルが破裂していたギリシアで、政権交代を期に新政府が財政赤字を約3.8%から12.7%へと大幅に増加修正、国債が売られてギリシアの債務危機が発生します。これを受けてスペインやイタリアなど南欧各国の国債が売られて価格が下落、EU中央銀行(ECB)は10年5月、ギリシアなどの国債買入を開始しました。 2013年に入って6月、アメリカのFRB議長が量的緩和策第3弾の縮小を示唆するとアメリカの株価が下落。新興国に投下されていた資本がいっせいに引き上げられ、新興国の株と通貨が下落しました……。 リーマンショックから5年間の主な動きを見ただけですが、これらの動きのほとんどは21世紀の「資本主義」の視点、すなわち「資本」=「増殖する貨幣」の視点からみると、ほとんどすべての出来事が“貨幣の増殖のために引き起こされた”と言えます。では、なぜこれらの出来事が貨幣の増殖のために引き起こされたのか? それを述べるために以下でまず、「資本」とは何かについて見ていきます。
●資本とは何か
●貨幣は資本の増殖率の高い所に流れ込む
貸付資本の一例としては銀行の長期プライムレート(長期の優良貸出利率)があります。これは現在1%強です。また個人貸出の利率は数%から15%ほどになっています。なお貸付の利子も先進国より新興国の方が高く、貸付資本も新興国に多く投下されています(注)。「1998年6月末時点で、…各国銀行の海外債権…のうち、工業国(先進国)向け債権は19.3%にとどまっており、残りの80.7%が東ヨーロッパをふくむ新興市場に向けられている」(高田太久吉『金融恐慌を読み解く』新日本出版社、162〜163頁)。
資本の増殖率
●投機資本は10万分の数秒で貨幣を増殖させる 「変動運動」を株価で見た場合、それはプラスの変動(値上がり)とマイナスの変動(値下がり)があります。値上がりが大きく、大きなリターンが見込まれる場合は、大きな値下がり、大きなリスクにも見舞われる可能性があります。つまりハイリターンな投機商品は常にハイリスクといえるのです。そこで金融工学を使って、今後どのくらいの損失に見舞われる可能性があるかを統計的に示す数字「バリュー・アット・リスク(VaR)」を計算してリスクに備えますが、VaRが設定している市場変動性よりももっと大きな揺れが市場を襲った場合にはそのリスクに対処できません。これが現実に起きたのが1998年のヘッジファンド・LTCMの破綻でした。(倉都康行『「金融工学」講座』PHP、98〜102頁)。 なお、株と国債、原油、穀物市場では投機資本の増殖率に違いがあります。株式市場の投機資本の増殖率は平均すると1日あたりプラスマイナス0.数パーセント。これに対して国債市場では平均して1日当たりプラスマイナス0.0数パーセントです。株式市場での投機資本の増殖率は国債市場の10倍ほどありますが、株式市場では元本が保証されていないのに対して国債市場では元本が保証されている違いがあります。つまり株式はハイリターンだがハイリスク、国債はローリターンだがローリスクなのです。
(出所:三井住友銀行、QUICK、
投機資本は商品の価格が右肩上がりで上昇している時には、ほぼ誰もが利益を得ることができます。今日の商品の価格Cより、明日の商品の価格C’の方が高いので、C’−Cは常に利益になるからです。しかし投機資本は、商品の価格が「値下がりを続ける」ときにも増殖することができます。その手法を「空(から)売り」といいます。空売りとは、値下がりを続けそうだと思われる商品を借りてきてその商品を売り<自分の商品ではないので空売りし>ます。そして商品の価格がずっと下がったときにこの商品を買い戻して借りてきた商品を返却し、“安く買って”“高く売った”差額から儲けを得るのです。
この空売りを使うとバブルの崩壊からも利益を得ることができます。「(ゴールドマン・サックス<世界最大級のアメリカの投資銀行>の)在庫一掃作戦の一つは、ハドソン・メザニン(注)…と名付けられた20億ドル<2000億円>分の合成CDO<投機商品>の組成・販売だった。…2007年10月、<バブルが崩壊し>ハドソンの事実上すべての証券が大幅に格下げされ…た。…ところがゴールドマンは投資家たちに、…精算を先送りすると告げたのだ!…理由は、もちろん、ゴールドマンがその<ハドソンの>証券をショート<空売り>していたことにあった。価格が下がれば下がるほど、それだけ多くの富が投資家からゴールドマンに移転する結果になったのだ」(チャールズ・ファーガソン『強欲の帝国』早川書房、175〜177頁)。
ヘッジファンドは“空売り”を使ってバブルの崩壊から利益を得た。
2014年8月、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、130兆円ある全資産の18%までと定めていた国内株式の保有上限を撤廃することを決めました。(「日経」2014年8月10日)。14年秋には、国内株式に25%、海外株式に25%を投資できるように変更されました。株は先に見たように国債に比べてハイリターンですが、ハイリスクです。もし株式投資で失敗した場合は、かつてのPKOのように運用損を国民に押しつけることに踏み出したのです。アメリカでも全国民共通の年金部分は全額が国債で運用されているのにです。GPIFの年金資金は銀行や証券会社によって運用されており、儲かろうが損失となろうが「運用手数料」がこれらの会社に国民の年金から支払われています。2015年度の手数料は383億円にもなっています(「しんぶん赤旗」2016年9月3日)。
投機資本による国民からの収奪はこれ以外にも通貨投機を利用するものがあります。1992年のヨーロッパ通貨危機では、世界の投機家たちが中心になって大規模なイギリスのポンド売り・ドイツのマルク買いが仕掛けられました。イギリスの中央銀行はこれに対してポンド買い・マルク売りの市場介入を行いましたが介入資金が枯渇し、ユーロ市場から130 億ドル =約1兆3000億円の借入を行いました。イギリス国民は為替投機で多大の損失を被っただけでなく、1兆円以上の借金まで押し付けられたわけです。「イングランド銀行は外貨準備を犠牲にして投機筋に対抗しようと、為替市場でドイツマルクを売り、何十億ポンドとかけて買い支えに入った。…それは単に、国民の税金を投機筋の手に移すだけの愚挙だった。…<ゴールドマンの>外国為替部門はほんの数週間で2億ドル<200億円>を稼ぎ出した」(リサ・エンドリック『ゴールドマン・サックス』早川書房、231頁)。 投機資本では投下する貨幣の「量」がものをいいます。仮に1万円の株を買い、株の価格が100円値上がりし1万100円になったときに株を売って1万100円−1万円=100円の利益を得たとします。しかしこの株を100万株買っていたらどうなるでしょう。1万円×100万株=100億円が1万100円×100万株=101億円になり、差し引き1億円!の利益が得られるのです。資本家の得る利益は投下する貨幣の「量」に比例し、利益を百倍近くも増やすことができます。 「株式が値上がりしたら売る」。この単純な売買を1秒間に数千回から数万回行う高頻度取引(HFT)は確実に儲けを挙げることができます。アメリカの投資会社バーチュ・ファイナンシャルは2009年から13年末までの5年間1238日で損を出したのはたった1日だけだったといいます(「日経」2014年4月6日)。高頻度取引は売買の回数を飛躍的に高めるので、売買量を必然的に増やします。日本取引所グループの最高経営責任者(CEO)は「HFTの拡大で東証はようやく世界と伍する売買量に復活した」と喜んでいるほどです。
このように証券取引所が超高速の処理を要求されることは、投機にとって本質的な点です。ルドルフ・ヒルファディングは次のように述べています。「この敏速さは短期間のわずかな価格動揺<変動>をも利用しようとする投機の要求から主としてうまれる。…ここでは時は貨幣(かね)なり…である」(『金融資本論』、1巻282頁)。またヒルファディングは、「投機は価格差の利用であり、そして価格差は時間のうちにうまれる。…売買しない時間は、すべての投機にとって単なる損失にすぎない」( 『金融資本論』、1巻301頁)と述べていますが、現代の取引所はいかに早く売買を完了してムダな時間をなくし、巨額の利益を得るために作られているのです。 実際、アメリカの株式取引所は、「2007年には、…単にデータセンターにあるひとそろいのコンピューターにすぎなくなっていた。そこで行われる取引の速度は、もはや人間による制約を受けなくなった」(マイケル・ルイス『フラッシュ・ボーイズ/10億分の1秒の男たち』文藝春秋、19頁)のです。 現代の超高速株式売買の様子をアメリカの金融ジャーナリスト、マイケル・ルイス氏が『フラッシュ・ボーイズ/10億分の1秒の男たち』の中で活写しています。大手投機資本家(投資信託会社、年金基金、ヘッジファンドら)はまず、投資銀行(ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、クレディ・スイスら)に株の売買の指示を出します。投資銀行は自ら設立した私設取引所(ダークプールという。“濁って”いるので売買の中身が見えない)で売買するか、アメリカに13カ所ある公共の取引所(ニューヨーク証券取引所、ナスダック、BATSグローバル・マーケッツなど。2014年時点で大半がニュージャージー州にある)に売買注文を出します。それらすべての取引に要する時間は1000分の数十秒だといいます。
「時間」の短縮は、証券取引所の売買用コンピュータと投機資本家の売買指示用コンピュータとの間の情報伝達時間を極限まで短縮することに及んでいます。証券取引所の売買用コンピュータがいま株をいくらで売買しているかという情報を誰よりも早く入手し、誰よりも早く次の売買の指示を出せれば必ず儲けを得ることができるからです。そこで証券取引所は大手の投機資本家のために、取引所の売買用コンピュータの置いてある隣の部屋を大手投機資本家のコンピュータ設置用に貸し出すサービスを提供しています。取引所から離れた建物にあるコンピュータより、隣の部屋にあるコンピュータのほうがほんのわずかですが早く情報を入手して早く売買指示を出すことができるからです。これを「コロケーション・サービス」と呼んでいます。現在の東京証券取引所では、コロケーション・ルームに設置されたサーバの数は「数百台」(山田博文『99%のための経済学入門』、210頁)にも及び、そこからの注文は全注文の7割を占める日もあるといいます(「ブルームバーグ」2015年3月5日)。 現在のコロケーション売買では、部屋の中のコンピュータの位置までが重要になっています。「証券取引所の中にコンピュータを設置したある超高速取引業者は、…取引所のマッチング・エンジン<売買用コンピュータ>にいちばん近いケージを確保した。そこはもともとトイザらス…の場所で、…エンジンに数十センチも近づいたとまわりに悟られないよう、<トイザらスの>ロゴはそのまま残しておくよう指示してきた」(『フラッシュ・ボーイズ』、87頁)。 こうして投機資本をあやつる大銀行などの金融機関は、「製造業を追い越して、アメリカ経済最大のセクターとなった」(『誰がアメリカン…』、上199頁)、「<05年には>アメリカの企業収益総額の…46%になった」(同)というように、全資本家の利益の半分近くを稼ぎ出すまでになっているのです。
●投機資本は戦争を増殖に利用する (出所:日野学、『アメリカ株価急落』、../kyoukou/kyoukou.html)
戦争は産業資本である兵器の生産でもアメリカに莫大な利益をもたらし、そうした軍需産業に融資する貸付資本にも多額の利益をもたらしましたが、投機資本である株価の急騰によってもアメリカに巨額の利益をもたらしたのです。ジョージ・ブッシュ大統領が「イラクは大量破壊兵器を持っている」と嘘をついてまでイラク戦争を行った理由は以上で明らかです。 2014年も、IS(イスラム国。注)への空爆という“戦争景気”で株価のつり上げが行われました(下図)。連日、史上最高値を更新して不安定になっていたアメリカ株価は7月31日、アルゼンチン国債のデフォルト懸念などから317ドルの急落を起こします。8月に入っても株価は下がっていきます。これを受けてオバマ大統領は8月7日夜、イラクとシリアにまたがる地域に独立国家の樹立を宣言していた反政府武装組織「IS」のイラク領内への空爆を開始すると述べると、翌8日の株価は185ドルと急騰しました。その後もオバマ大統領は、空爆を継続するための財源を議会に要請することを示唆し(8月22日)、米国人ジャーナリストの“殺害”を受け(注)「正義の鉄槌を下す。…しかしISのような悪を取り除くのは、すぐにというわけにはいかない」と述べ(8月26日)、国防総省は空爆に1日8億円を消費していると公表し(8月29日)、戦争を長期に渡って継続させ戦争景気を膨らませて株価の上昇を促しました。 なお「ISなど全てのテログループは、世界各地で、いつでも可能な時期に戦争を引き起こすためのアメリカとその同盟国の戦略の一部である」と、9.11同時「テロ」事件の独立調査委員会の設立者であるオーストリアのウェブレン・ヴィッセル氏は2016年1月にタスニーム通信とのインタビューで述べました(「ラジオ・イラン」2016年1月21日)。同氏によれば、「テロ組織の多くは西側諸国の情報機関によって結成されており、テロリストの存在は、世界各地で戦争を継続し、各国での自由を奪うための口実だ」としています。 ニューヨーク・ダウ平均株価
さらにオバマ大統領は米同時多発テロ13年目の前日に当たる9月10日夜、テレビを通じて国民へ演説を行い、「持続的な対テロ戦略を駆使しISを弱体化させる。シリアにいるISに対して行動することもためらわない」と、シリアを空爆し新たな対テロ戦争に入ることを表明しました。しかし翌11日の株価は19ドル下落。世界の投機資本家はイラクやシリアへの空爆だけでは満足していないことを示したのです。
2015年5月になって、有志連合から空爆を受けているISがイラクの州都ラマディを制圧したり(19日)、シリアの世界遺産パルミラを支配したり(21日)と、戦争を有利に進めている報道がされています。アメリカにとっては空爆で戦争景気を持続させること、シリアのアサド政権を倒すことが目的であり、ISを殲滅してはアサド政権を利することになるからです。IS掃討に参加しているイラン軍司令官も「米大統領は何もしていない。ISに立ち向かう意思がないことを示している」(「東京」2015年5月26日)と述べています。さらにアメリカの国防長官は15年7月、アメリカがトルコ、ヨルダンで軍事訓練を行うと述べていた穏健な反体制派の人数が60人にとどまっていると証言しました。IS打倒に向けたアメリカの意気込み?が示されています(「シリア・アラブの春」2015年7月7日)。これを受けてアメリカは10月9日、シリア反体制派への支援見直しを発表、軍事訓練は一時停止し、反体制派に武器を直接供与することになりました。12日には米軍が反体制派に輸送機から100箱以上の武器を投下。この武器投下に関して米国防総省の報道官は、「現地には他の反体制派組織もおり、これらの組織が武器の一部を手にし得る可能性はある」と述べ、米軍の武器がISなどに渡って内戦を悪化させる可能性があることを認めました(「シリア・アラブの春」10月16日)。 15年8月アメリカは、ISと戦闘中のシリアの「穏健な反体制派」が、IS以外のシリア政府軍などから攻撃を受けたら反体制派支援の空爆を実施すると発表しました(「ウォールストリート・ジャーナル」2015年8月3日)。アメリカの対シリア戦略が新たな段階に入りました。穏健な反体制派が攻撃の矛先をISからシリア政府軍に移せば(もともとシリア政府軍と戦っていたので)、米軍が空爆で協力することになったわけです。ホワイトハウスの報道官は、シリア政府は米軍のシリア領内での作戦に介入すべきでない、もし介入したら「さらなる措置」を講ずると述べました(いったいアメリカはどんな権利があって、独立国家シリアにこのような脅迫を行えるのでしょうか?)(「シリア・アラブの春」2015年8月3日)。これに先立つ7月29日には、シリアと国境を接するトルコが同国南部の軍事基地をアメリカ軍に使用させることを認めました。アメリカの空爆はこのトルコ基地から行われるものと思われます。早速8月25日、穏健な反体制派はシリア北部にある同派の拠点数カ所がシリア軍の戦闘機によって空爆され1人が負傷したと主張しました(「シリア・アラブの春」2015年8月25日)。 一方8月8日の「シリア・アラブの春」によると、シリアの国民安保会議議長とサウジアラビア高官の会談が7月7日に行われ、その席でサウジ側から、イラン軍がシリアから退去すればサウジはシリア反体制派への支援を停止し、国連監視下で大統領選挙、国会選挙を進めることを提案したといいます。これは6月にロシアのプーチン大統領がサウジのムハンマド国防大臣と会談し、IS打倒のためにシリア、トルコ、サウジアラビア、ヨルダンの4カ国で同盟を結成する提案がなされ、この提案を受けてロシアの仲介でシリア議長とサウジ高官の会談が行われたということです。 これに関連してフランスのオランド大統領は9月7日、フランス空軍がシリア領内のISの空爆を検討していると発表しました(「日経」2015年9月7日)。これはシリアを含め中東・北アフリカからヨーロッパを目指す難民が増加しており、これを解決するにはシリア情勢の安定が不可欠だと判断したといいます(しかし難民はシリアだけでなくさまざまな国で発生しており、なぜシリアへの空爆が必要なのでしょうか? 一因として9月2日に発生したシリア人難民の子どもの溺死?事件がありますが、これも@事件当日のうちにトルコのメディアに写真が掲載された、A髪の毛や衣服や靴にほとんど乱れがない、など不自然な点も指摘されています)。イギリスのキャメロン首相も7日、英空軍が8月に無人機でシリア空爆を既に行っていたことを明らかにし、議会に対してシリア空爆の承認を得ていくと述べました(「AFP」9月8日)。オーストラリアも9日、シリア空爆に加わる方針を表明(「ウォールストリート・ジャーナル」9月9日)、14日にシリア政府の許諾なく空爆を実施しました(「シリア・アラブの春」9月16日)。これに対してシリア政府は国連事務総長宛に、米英仏豪がシリアの許可なく領土を空爆するのは主権侵害であり、軍事行動を行うのであればシリア政府の許可を得るようにと表明しました(アメリカはシリア政府の許諾なくシリア空爆を続けています)(「シリア・アラブの春」9月17日)。それにもかかわらずフランスは9月27日、シリアの同意なく勝手にシリア領内のISを空爆しました(「時事」9月27日)。国際問題を見る視点として、「立場を逆転させて見る」視点があります。もしシリア空軍がフランスの了解なしにフランス領内を空爆したらオランド大統領はどう思うでしょうか。 以上の動きを受けてロシアがシリアで、政府軍を支援するためISとの戦闘に入ったとの記事を9月9日付け「ロイター」が報道しました。ロシア兵の数はまだ少人数とのことです。アメリカのケリー国務長官はロシアのラブロフ外相に電話で、ロシア軍の動きに懸念を表明、内戦の悪化につながると警戒感を示したといいます(米仏英豪のシリアIS空爆は内戦の悪化にはつながらず、なぜロシアのシリア政府支援が内戦を悪化させることになるのでしょうか?)。ロシアのラブロフ外相は「ロイター」の記事を否定、ロシアはシリアに軍備品と人道物資を搬送しており、ロシア製兵器の使用方法をシリアに教練していると述べました(「シリア・アラブの春」9月10日)。さらに9月から10月にかけてロシア海軍がシリア沿岸で実弾演習を行うこと(「AFP」9月24日)、シリアの軍用飛行場にロシアが滑走路を建設中であることが報道されました(「AFP」9月14日)。 シリアのアサド大統領は9月15日、対ISのためにシリア、米、仏、サウジ、トルコ、カタールが大連合を形成することを提案しました(「米フロントライン」9月16日)。またロシアのラブロフ外相は16日、アメリカのケリー国務長官にシリアでの軍事衝突回避のため米ロ両軍の対話を実施することを提案しました(「東京」9月17日)。これを受けて18日、米ロの国防相が電話で会談し、対ISで両軍が対話することで一致しました(「東京」9月19日)。さらにケリー国務長官はインタビューで、アサド大統領が早期退陣したらシリアの社会的生活が失われるだろうと述べ、大統領の早期退陣を求めてきたアメリカの立場を修正し始めたようです(「スプートニク」2015年9月30日)。
9月21日には、米英軍から軍事訓練を受けた「穏健な反体制派」の新シリア軍75人がシリアに侵入した際、アルカイダ系のヌスラ戦線に“通行料”として所有していた武器の多くを提供したことが明らかになりました(「テレグラフ」9月22日、「時事」9月26日)。これでは穏健な反体制派は、穏健でない反体制派へ米欧の武器を提供する“内戦を悪化させる”役割をしていることになります。 9月30日、ロシアはISやアルカイダ系のヌスラ戦線などに対象を限定して空爆を開始しました(「東京」2015年10月1日、「NHK」10月2日)。この空爆に対してアメリカなどでは、ロシア軍は反政府勢力を無差別に攻撃している、一般市民を巻き添えにしている、と報道しています(しかし空爆10日目の10月9日現在、具体的にいつ、どの地域のどの人たちが巻き添えになったとの報道はされていません)。これに対してプーチン大統領は「市民の間に犠牲者が出ているとする最初の情報は、我々の航空機が空中に飛び立つ前に報じられた。…我々は、この情報攻撃に対する準備が整っている」と発表しました(「スプートニク」2015年10月1日)。一方で米空軍は10月3日、アフガニスタン北部にある「国境なき医師団」の病院を誤爆したと報道されました。この爆撃で病院の患者含め22人が死亡、爆撃は病院が被害を受けているとの情報が米国に通知された後も止まらず1時間以上続いたとのことです。医師団によれば、病院の座標はわれわれがどこで働いているかを知らせるためにオープンにされていたとのことです(「AFP」「スプートニク」2015年10月5日)。その後の米軍の初期調査で、病院の座標は米軍データベースに入っていたこと、病院や学校は空爆できない場所に設定されていること、が明らかになりました(「CNN」10月17日)。10月26日にはイエメンの国境なき医師団の病院が空爆を受けたと、同組織のTwitterに掲載されました(「スプートニク」2015年10月27日)。さらに10月29日付けの「シリア・アラブの春」は、シリアにある国境なき医師団の病院12箇所が空爆され、合わせて35人が死亡したと報道しました。 シリア空爆に関して米ロ両国は軍事衝突回避のための情報交換を開始していますが、米国はISの拠点に関する情報の交換を拒否していると報道されています(「シリア・アラブの春」10月7日)。これに関してロシア側は「ISを殲滅すべき真の敵とみなす国々は基地などについての情報で我々を支援してくれている。しかし米国はこのテロ組織に関して異なる見解を持っているようだ」と述べています。これに関連して、アメリカが支援している「穏健な反体制派」の一部が、シリアのアルカイダ支部である「アル・ヌスラ戦線」に合流していることを米国務省が認めました(「スプートニク」2015年11月5日)。 11月13日夜、フランスのパリ中心部で「テロ」が起き、少なくとも128人が死亡しました。問題はどのグループが犯行を実行したかです。NHKは「ISを“名乗る”グループ」がインターネット上に「パリの聖なる攻撃」との犯行声明を出したと報じています。一方、「毎日」は犯行声明は襲撃犯が8人だと述べているが実際は7人だったこと(実行犯7人は自爆するか射殺されました)、パリの10、11、18区で犯行を行ったとしているが実際は10、11区だったことなど微妙な間違いがあると指摘しています(2015年11月15日)。さらにISとは別の組織ですがイスラム軍は声明を出し、パリのテロは各国諜報機関が過激なテロリストを操って実行に移し、シリア国民とフランス国民の信頼を揺るがそうとするものだと主張しています(「シリア・アラブの春」11月14日)。11月22日の「東京」によると、フランスの情報当局は8月に拘束していた男から、主犯のアブデルハミド・アバウド容疑者から「最大限の犠牲者を出すためにコンサート劇場を攻撃せよ」との指示を得ていたとの情報をつかんでいたといいます。また15年1月にはベルギー警察が、主犯のアバウド容疑者が同国でテロを計画していたとして逮捕していたといいます(「CNN」2016年2月9日)。 2016年5月27日の「日経」は、15年のフランス兵器の輸出額が過去最高の2兆円(160億ユーロ)に達したと報道しました。理由はイラク、シリアへ実戦投入した仏製兵器の実績をアピールして売り込んだとしています。フランスで起きた「テロ」は仏製兵器の輸出増に“貢献”したのです。15年の世界の軍事費は前年比1%増の1兆7000億ドルに達したともいいます。その理由としてウクライナや中東での紛争を受け、各国が国防費を拡大しているからだとしています。 シリアのアサド大統領は15年11月のテレビのインタビューで、ロシアは2ヶ月でアメリカが1年で成し遂げたことより多くのことを成し遂げた、テロリストは空爆の続くシリアからトルコ、イエメン、欧州へ数千人単位で逃げ出していると述べました(「スプートニク」2015年11月22日)。またイラクの通信社は、ロシアなどの空爆でISの基地は残り34箇所に激減した、近い将来に完全に瓦解する可能性があると述べました(「スプートニク」2015年11月23日)。 イギリスの「サンデー・タイムズ」はオズボーン英財務相がIS攻撃のために新たに138機の戦闘機を1800万ドル(18億円)かけて購入すると報道しました(「スプートニク」2015年11月22日)。ISの基地が完全に瓦解する可能性がある今になって戦闘機を130機以上購入するとは、どういうことなのでしょうか? パリの「テロ」を自国の軍拡のために利用しようとしているのでしょうか? さらにキャメロン首相は23日、@対テロ用に5千人規模の2旅団を新設する、A5兆8千億円かけて4隻の核兵器搭載原子力潜水艦を更新する、と演説しました(「東京」2015年11月24日)。 11月24日、IS空爆任務に就いていたロシアの戦闘爆撃機スホイ24がトルコの戦闘機F16によって撃墜されました。トルコ軍は領空を侵犯した国籍不明機に10回警告を行ったが、領空から退出しなかったため撃墜したと述べています。一方、スホイ24からパラシュートで脱出した乗組員は無線でも視覚的にも警告は一切なかったとしています(「スプートニク」2015年11月25日)。この事件と関係がありそうな記事が27日付けの「スプートニク」と「BBC」で報道されました。トルコの新聞「クムフリイェット」の編集長が、同紙に5月、トルコからシリアのISに武器を供給していたトルコ情報部「国家情報機構」のトラックの写真を掲載したとして逮捕されたのです。トルコの情報部がISに武器を輸送? トルコ軍機がロシア軍機を撃墜? 両者は深く関連しています。この件に関連してイラクの元国家安全保障補佐官は、ISがトルコの闇市場でイラク産の石油やガスを8ヶ月間で8億ドル(国際価格の半分)で販売していると述べました(「スプートニク」2015年11月29日)。またアメリカ財務相は12月10日、ISがシリアにも石油を販売していると述べました(「日経」2015年12月12日)。 トルコとISが武器と石油の物々交換を行っている疑惑が浮上していますが、12月7日シリア外務省は、6日の夜に同国東部のシリア軍基地が米軍戦闘機4機による空爆を受けたと発表しました(「シリア・アラブの春」2015年12月7日)。一方、アメリカ国防総省は連合軍によるシリア軍基地攻撃を否定し、6日の空爆はすべて油田に対して行ったと述べました(「NHK」12月8日)。しかし8日付け「AFP」は連合軍が7日もシリア北東部の村を空爆、市民少なくとも26人が死亡したと報じています。しかしその後、米軍機によるシリア軍空爆はマスコミで報道されなくなりました。 アメリカ、ロシア、サウジアラビア、トルコそして国連は、シリア内戦問題を集結させることで合意していますが、このほどシリアで欧米の支援を受けている反政府勢力が一同に会し、シリアとの話し合いに向けて統一組織を発足させることで合意しました(「NHK」2015年12月11日)。同勢力は政権移行が始まる時点でアサド大統領が退陣することを求めていますが、大統領の退陣を決められるのは反体制派ではなくシリア国民の選挙ではないでしょうか? これに対しシリアのアサド大統領は11日、テロ組織などの武装勢力とは政治的話し合いをしないと述べました(「しんぶん赤旗」2015年12月13日)。 12月28日、イラク国営テレビはイラク軍が、ISの支配してきた州都ラマディを奪還・解放したと報じました(「ロイター」2015年12月28日)。ISに対するイラク軍の大規模な勝利はこれが初めてです。これに関連して同日付け「スプートニク」はイランのFars通信がシーア派武装組織司令官の話として、アメリカ軍がヘリでIS幹部をイラクから避難させていると報道したと紹介しました。また2016年1月19日付けの「スプートニク」は、有志連合の空爆によりISの地下金庫が破壊され紙幣が消失した。これを受けてISの財務省は戦闘員に払っている給料を半減させると発表したとのことです。ISは金で買われた各国の傭兵集団からなっていますが、給料の半減でISの戦闘力は急激に低下するかもしれません。 イラクの隣国サウジアラビアは2016年1月2日、11年から13年にかけて反政府活動を行ったとするシーア派指導者のニムル師と、03年から06年にアルカイダの攻撃に関与したとされるスンニ派あわせて47人の死刑を執行しました(「ニューズウィーク」1月3日)。サウジが集団死刑を執行したのは1980年以来36年ぶりと極めて異例です。これに反発したイラン・シーア派の民衆がテヘランのサウジ大使館に投石や火炎瓶を投げて抗議するとサウジは3日、イランとの断交を表明しました。4日にはスンニ派国のバーレーン、スーダンもイランとの断交を表明しました。 アメリカのカーター国防長官は16年1月22日、シリアとイラクのIS掃討に向けて有志連合の陸軍を投入する計画があると述べました。同日付け「スプートニク」が報じました。2月12日にはトルコの外相が、サウジアラビア軍の戦闘機が有志連合の利用するトルコ南部の基地に到着したと述べるとともに、サウジとトルコの地上部隊がシリア領内のISとの戦闘に参加するだろうと述べました(「シリア・アラブの春」2016年2月13日)。 米ロ主導でシリアでは16年2月27日から一時停戦が発効していますが、米中央軍司令官は3月8日、オバマ大統領に「穏健な反体制派」への軍事訓練再開の許可を求めました(「シリア・アラブの春」、2016年3月8日)。同司令官は「戦線を退いた者たちを再動員すれば、より大規模なグループの一部をなすことができる」と述べていますが、米軍はシリアの一時停戦を内戦終結のためのステップと見ているのか、反体制派を再構築する期間と見ているのかが疑われます。 16年4月24日の「イラン・パルス・トゥデイ」は、サウジアラビアの関係者がアメリカのケリー国務長官に語った話として、サウジはまずテロ組織アルカイダを、次いでISの基盤を築いた、これはCIAにとって周知の事実だとのイギリスの新聞「フィナンシャルタイムズ」の報道を紹介しました。さらにアメリカのロン・ポール共和党議員は、CIAとアメリカ国防総省はシリアのアサド大統領を辞任させるためにISを必要としていたと述べたとのことです。 16年5月23日、イラク軍はISが占拠するファルージャへの攻撃を開始しました。また6月4日付けの「スプートニク」は、ロシア空軍の支援を受けたシリア政府軍が、ISが首都と宣言したラッカ県の境界線を越えたと報じました。イラク・シリア両国の対IS作戦が好戦に転じています。6月8日にはイラク軍がファルージャ南部をISから奪還し、17日には同市中心部を奪還しました。しかし一方で隣国トルコから多数のトラックがシリア国内に移動している様子がロシアの無人機によって撮影されており、このトラックの中には戦闘員や武器が積み込まれているとの懸念が出されています(「スプートニク」6月4日)。
●産業資本は賃金の切り下げを狙う 「ロイター紙」はこの非正規労働者が全体に占める割合は37.5%になっており、これが日本の個人消費の低迷を招いているとしています。彼らが食費や家賃などを支払うと消費や貯蓄に回せる金額はほんのわずかとなってしまい、住宅や自動車などの耐久消費財の販売が日本で低調である原因だと指摘しています。
日本の非正規労働者の数は2014年11月に初めて2000万人を突破し2012万人となりました(「東京」2014年12月26日)。全労働者に占める割合は38.0%に達しています。15年国会には派遣期間は最長で3年としていた労働者派遣法を改悪し、部署を変えれば生涯派遣=生涯非正規労働者化を狙う法案が提出されています。またアメリカでは「ここ5年間<07年〜12年>、住宅市場が下降して、2500万人のアメリカ人が安定したフルタイム<≒正規労働者>の職を失う」(『誰がアメリカン…』、上146頁)ことになったといいます。国際労働機関(ILO)は2015年5月、非正規労働者を正規労働者に是正すれば需要不足が解消され、世界のGDPを3.6%押し上げるとの試算を発表しました(「日経」2015年5月20日)。
マルクスによれば、貨幣を増殖させるのは人間(労働者)の「労働」です。この「人間労働」が価値を生み出し、それが貨幣を増殖させ資本の増殖分になるのです。この資本の増殖部分=利潤=剰余価値はすべて資本家が分捕ります。さらに、労働者の賃金を切り下げることで資本家が手にする分け前は、本来の利潤=剰余価値を超えてさらに大きくなるのです。 剰余価値を超えて資本家が労働者から搾取するさまを労働総研の藤田宏常任理事が次のように記述しています。「大企業の付加価値<≒利潤>は、98〜07年度にかけて…12.5兆円増えて…います。しかし…抜群の伸びを示しているのが営業純益で…16.7兆円増…です。…減っているのは、人件費で…3.9兆円…減少しています。つまり…営業純益が16.7兆円も増加したということは、付加価値が増加した分の12.5兆円すべてを企業の取り分にしたうえ、さらに人件費削減分3.9兆円もまるまる懐に入れたということを意味します」(『財界戦略とアベノミクス』本の泉社、27〜28頁)。 こうして労働者の賃金はさまざまな理屈をつけながら切り下げられていき、その切り下げられた分が資本家の資本の増殖分に付け加えられていくのです。日本では労働者の賃金は、消費税が5%に引き上げられた97年の翌年から右肩下がりに低下してきています(下図)。こうして労働者の賃金は年々切り下げられていき、逆に資本家の資本の蓄積分は加速度的・雪だるま式に増えていきます。例えばアメリカでは、「1980年、<資本家である>CEO<最高経営責任者>の報酬は平均的会社員<労働者>の給与の40倍だったが、00年には400倍近くに急増していた」(『誰がアメリカン…』、上162頁)といいます。
アメリカでも労働者の賃金・所得は下落か、ほとんど横ばいが続いていると言います。「米商務省によると、米国民の所得はピークの1999年から12年までに9%下がった」(「日経」2014年6月18日)、「実働時間数補正後の1時間あたりの平均所得は、過去30年間ほとんど変わっていない」(『強欲の帝国』、402頁)。国際労働機関(ILO)は、一部の先進国では賃金が低下しており、2013年の日本、英国、イタリアの実質賃金は07年レベル以下まで低下していると発表しました(「AFP」2014年12月5日)。
日本では「賃金が支払われているだけマシ」という異常事態が常態化しています。「サービス残業」です。サービス残業は、@終業時刻を終えた夜、Aタダで自分の労働力を働かせて、Bタダで資本家の資本を増殖させてあげているものです。2013年度、厚生労働省の指導でサービス残業を是正させて支払われた賃金は123億円!、14年度は142億円にも上っています(「しんぶん赤旗」2014年12月26日、2016年3月4日)。政府はサービス残業を合法化し残業代をゼロとする「ホワイトカラー・エグゼンプション(名称:高度プロフェッショナル制度)」を、当面は「年収1075万円以上」の専門職に限定するとは言っていますが2015年の通常国会で成立させようとしています。 2013年、年収200万円以下のワーキングプア(働く貧困層)が1100万人を突破しました。一方、年収400万円超800万円以下の「中間層」は10%も減少しました。中間層が崩壊し、貧困層が益々増えてきているのです(「しんぶん赤旗」2014年9月30日)。 ちなみに資本家は労働者の賃金を切り下げるのと同時に、自分たちにかかる税金も切り下げます。アメリカの投資家ウォーレン・バフェット氏は「力仕事や重労働で額に汗してお金を稼ぐと、税率はどんどん上がります。…大金持ちが支払っている税金が、彼らのオフィスを掃除する人たちより少ないということが、きわめて高い確率で起こりうるのです」(『誰がアメリカン…』、上158頁)と述べています。またアメリカのブッシュ大統領が2001年に行った大規模減税では、「最上位5%のアメリカ人に1兆ドル<100兆円!>以上をもたらした」(『誰が…』、上180頁)のです。 こうした大規模減税を勝ち取るためにアメリカの資本家たちが「経済団体」を作って活用していることを、『誰がアメリカンドリームを奪ったのか?』の著者ヘドリック・スミス氏が活写しています(同書、上180〜183頁)。@アメリカ商工会議所、Aビジネス・ラウンドテーブル、B全米製造業者協会、C全米独立企業連盟、D全米レストラン協会、E全米卸売業流通協議会は、「減税連合」という“6人組”団体を作り、ブッシュ大統領、ジョージ・オニール財務長官、カール・ローブ大統領政策・戦略担当上級顧問とサシで減税について打ち合わせました。この減税連合はアメリカの大中小企業180万社を代表しているといいます。日本では日本経団連、経済同友会がこの任にあたっています。 こうして世界で最も発達した資本主義国家アメリカの「貧困率(世帯の所得が平均世帯所得以下の世帯の割合)」は、「OECDに加盟する31カ国中、…29位」(『もうひとつのアメリカ史』、3巻335〜336頁)とほぼ最下位となっています。またアメリカでは「企業の所得のうちどの程度が雇用者<労働者>に報酬としてまわっているかを示す労働分配率が…『2011年に戦後最低を記録』」(藤井彰夫『イエレンのFRB』日経新聞出版社、156頁)しました。一方、日本の「“企業分配率”<企業所得のどれほどが企業に回っているか>」は「最高時の2006年度には…28.7%」(『財界戦略とアベノミクス』、27頁)といいます。つまり日米の資本家は21世紀に入って以降、労働者の賃金をこれまでで最も切り下げてきているのです。
特に資本家は恐慌期に労働者や中間層<零細企業など>から富を奪い取り格差を拡大します。恐慌期には株や土地などの資産の価格が暴落しますが、資本家はこの暴落した資産をただ同然で買い取るからです。事実、「上位1%の超富裕層は、…2010年、08年の金融崩壊後に景気が回復してから丸1年後、国全体の利益の93%を獲得した」(『誰がアメリカン…』、上151頁)のです。 労働者の貧困化は政治を保守化すると、ニクソン大統領時代の共和党の戦略立案にかかわったケヴィン・フィリップス氏は次のように述べています。「投票所にこないドロップアウトの大半は、年間所得2万5000ドル<250万円>以下の人たちである。…この人たちが、二大政党の経済政策のどちらも自分たちの暮らしをたいしてよくはしてくれないと考えている。…<こうして>西側経済大国は、産業界と金融界のエリートや高所得層の票を土台とする保守派指導者に支配された」(『富と貧困の政治学』草思社、56〜58頁)。 こうして産業資本家の手元には莫大な利益が集中されますが、彼らはこの利益を労働者の賃上げには使わず(そうすれば資本の増殖率が下がってしまいます)、生産手段の更新にも使わず(商品を生産する工場は労働力の安い東南アジアにつくっており、日本国内の設備需要が低迷しています)、「内部留保」に回して「財テク」で投機資本に投下して増殖させているのです。 内部留保とは企業の中に貯め込まれた「利益剰余金」や「資本剰余金」などを言います。トヨタ自動車は2013年4〜12月期に1兆8559億円の営業利益を上げましたが、利益の約6割にあたる1兆1300億円を内部留保の利益剰余金に回しています。このように産業資本家が多量の利益を内部留保に回している理由として、産業資本(本業)の増殖率より投機資本(内部留保の運用)の増殖率の方が高いことがあります。「非金融企業による金融商品への投資は、機械や労働力への生産的投資よりも急速に増大した」(マウリツィオ・ラッツァラート『<借金人間>製造工場』作品社、133頁)のは、そのためです。産業資本家が、変動が激しい経済環境下で内部留保を運用する際に欠かせない手法が、「デリバティブ(金融派生商品)」の利用です。 デリバティブとは、「為替レートや金利の目まぐるしい変動は、一方で、変動リスクを回避する(ヘッジする)新しい商品を生み出しました。それが「金融派生商品(デリバティブ)」です。金融派生商品とは文字どうり、@通常の金融取引から派生した、A商品です。「@通常の金融取引から派生した」とは、通常の外国為替や国債、株式を売買するのではなく、将来のそれを売買したり(先物)、それらを将来に売買する「権利」を売買したり(オプション)、それらの金利を交換したり(スワップ)するものです。…金融派生商品はまた「A商品」ですから、それを購入する人は、それを売る人(金融機関)にお金を払います。金融派生商品の販売益は、銀行の重要な収益源になりつつあります」(日野学『マネー+コンピュータ=投機資本主義』、../touki/touki.html) そしてデリバティブは、企業が所有している内部留保=金融資産が変動するリスクをヘッジすることができるのです。「企業や金融機関は、金融資産そのものを売買することなく、そこから自分がヘッジしたいリスクだけを分離する…。リスクを回避したい経済主体は一定のコストを支払うことでそのリスクを売却する」(「現代資本主義と…」、新井大輔、200頁)ことができるのです。
労働総研の藤田宏常任理事によれば、日本企業の1998年までの10年間の内部留保増加額は年間5兆円でしたが、98年度以降10年間の年間増加額は21兆円に急増しています。その理由は、@98年以降の正規労働者の右肩下がりの賃金切り下げ、A98年の労働者派遣法「改正」による非正規労働者(賃金は正規の約半分)の急増、により浮いた賃金を内部留保に振り向けていったからです。こうして貯め込んだ内部留保は「証券購入や金融部門での運用<注:投機!>、海外投資等にふりむけている」といいます(『内部留保をめぐるいくつかの議論について』、http://www.yuiyuidori.net/soken/ape/2011/data/110608_01.pdf)。事実、大企業の98年度から13年度への内部留保増加額は141.7兆円ですが、この期間の大企業の有価証券投資額もちょうど141.6兆円増えているのです(『財界戦略とアベノミクス』、38頁)。 また藤田氏は、これら内部留保を急増させた「賃金破壊」によって、労働者の「給与総額は、<98年の>222.8兆円から<2007年の>201.3兆円と、11.5兆円も減っています。内需の6割近くを占める個人消費の大半を占める労働者の賃金がこれだけ減少したわけですから、…デフレ不況が続くのも当然です」(『財界戦略とアベノミクス』、20〜21頁)と、日本のデフレ不況の原因として挙げられる「需要の減少」が「賃金破壊」に他ならないことを数値を上げて指摘しています。 ●投機資本は富を収奪する。格差が拡大し“投機バブル”が生まれる 産業資本では労働者の労働で新しい商品に価値が付け加えられていきます。また貸付資本でも、貨幣を貸し付けられた産業資本家の下で、労働者によって価値が商品に付け加えられていきます。ところが投機資本では価値は作られません。「かれら<投機資本家>の利得は…差益にすぎず、これにたいしては、それと同じだけの損失が対応せざるをえない」(『金融資本論』、1巻307頁)からです。つまり投機資本家は、別の資本家や労働者=国民から価値=富を奪い取るのです。こうして「各国の…所得分布は…1970年代初頭までは、経済成長にともなって徐々に平準化する傾向にあった。しかし、<現代投機資本が生まれた1971年を経て>70年代の中頃には、多くの国でこうした平準化傾向が停止し、その後70年代末になると、…所得分布における格差が、…傾向的に拡大するようになった」(高田太久吉『金融グローバル化を読み解く』新日本出版社、175頁)のです。 さらに産業資本でも、資本の拡大再生産が繰り返されればされるほど、労働者階級が労働で生み出した価値=貨幣はますます搾り取られて労働者は貧しくなり、搾り取られた貨幣=価値は資本家階級の手にますます集中して行きます。ところで「資本家」とはマルクスによれば「価値の増殖――が彼の主観的目的なのであって、ただ抽象的な富をますます多く取得することが彼の操作の唯一の起動的動機である」(1巻、268頁)ことから、入ってきた価値=貨幣を再び産業資本・貸付資本・投機資本に投下します。「価値の増殖は、…絶えず更新される“運動”の中だけに存在する」(1巻、266頁、“”は筆者)からで、資本は休ませるわけにはいかず、絶えず「運動」させなければ増殖しないのです。マルクスもこう述べています。「価値の無休の増殖、これを……資本家は、貨幣を絶えず繰り返し流通<運動>に投げこむことによって、…なしとげるのである」(1巻268〜269頁)。 ところが産業資本においては、商品を購入する消費者=労働者が「格差の拡大」でますます貧しくなっており、商品の販売は低迷し産業資本の運動は停滞せざるを得ません。いわゆる“実体経済の低迷”です。マルクスも次の有名な言葉でこれを表現しています。「社会の消費力は…敵対的な分配関係<資本家と労働者の間の敵対的分配関係>を基礎とする消費力によって規定されているのであって、これによって社会の大衆の消費は、…狭い限界のなかでしか変動しない最低限に引き下げられている」(6巻、400頁)。
現時点(2015年1月)でアメリカの株価や国債価格はどうなっているでしょうか? アメリカでは貧困率がOECD加盟31カ国中29位で、貧困が“蓄積”されています。反対に上位10%の世帯に全世帯の所得の50.4%が集中されて富も“蓄積”されています。そのうえアメリカのFRBは、リーマンショック後の2008年11月に「量的緩和(後述)」を実施し、投機資本家が所有していた価格の下落した投機商品(住宅ローン担保証券や国債など)を大量に高値で買い取り、投機資本家に大量の貨幣を提供しました。また12月には「ゼロ金利(後述)」を実施し、貸付資本家である銀行にゼロ金利付近で貨幣を大量に貸し出してきました。これらの貨幣はニューヨーク株式やアメリカ国債などと交換されて株や国債が購入されたため、両者の価格はいま史上最高値圏にあります(下図、注)。またアメリカのダウ平均株価やS&P500種株価指数は、投機資本家の指示による自社株買いで高値につり上げられてもいます<後述>。株と国債の価格はバブルと呼ばれてもおかしくないほどにつり上がっているのです。 2015年5月22日の「日経」によれば、米国では格付けが低い企業への高金利融資「レバレッジド・ローン」や、そうした企業が発行する高利の社債「ハイイールド債券」への投資が4月末で過去最高の2兆2600億ドル<220兆円>に膨らんでいます。FRBが行っている低金利政策では物足りない投機家が、ハイリターンだがハイリスクの商品への投資を増やしているわけです。レバレッジド・ローンを行った銀行は、サブプライム・ローン同様、債券を証券化して投機家にリスクを押しつけています(後述)。年内にFRBが行う予定の利上げで、レバレッジド・ローンの金利は高くなりハイイールド債券の価格は下がるので、債券を発行している企業や投機家に多大の損失が発生する可能性が高くなっています。 また同日の「日経」は、自動車版の「サブプライムローン」が増加しており、14年の貸出額は1400億ドル<14兆円>とリーマンショック前の水準を超えたといいます。自動車版サブプライムローンも、最初は利率が低く設定されていますが、数年経つと利率が急上昇する高利の貸し付けです(後述)。自動車版サブプライムローンを投機商品化した証券化商品は高利回りなので投機家が多量に購入しています。しかしローン(貸付)の焦げ付きが既に始まっており、滞納率は2%前後と金融危機時の水準に近づいているといいます。このようにアメリカでは信用度の低い企業や家計への高利回りの貸し付け、およびそれを投機証券化した投機商品の販売が懲りもせずに繰り返されているのです。 アメリカの株価・ニューヨークダウ平均は5月19日にピークの1万8312ドルを付けたあと、傾向的に低下を始めました。8月14日付けの「ロイター」によると、今年1月から7月の7ヶ月間で米株式ファンドから流出した資金額は790億ドル<約8兆円>と、リーマンショック時も含めて過去数年で最大になっているといいます。7月以降、米日の国債相場が上昇を始めており、アメリカ株から資金が流出し米日の国債に資金が逃避し始めています。
(出所:三井住友銀行、QUICK、前出)
国際情勢解説者の田中宇氏は、現在のアメリカ市場は「金余りと低金利の中で投資家が高リスクな金融商品を高く…買い、バブルを膨張させ」ており、市場の平静さは「FT<フィナンシャル・タイムズ>の…記事は、…リーマン危機発生前の『グレート・モデレーション』と呼ばれる…時期の平静さと同様で、いずれリーマン危機のようなバブル崩壊につながる」と述べています(『金融世界大戦』朝日新聞出版、43〜44頁)。また「株価が実体経済の悪さと関係なく上昇していること」が危険だと指摘しています(同、51頁)。 一方、GDP世界第2位の中国の株価である上海総合指数は、15年3月現在ほぼ間違いなくバブルの状態にあります(下図。5年間の株価を示す)。14年の6月頃から中国株価は急上昇を始め(これは昨年4月に上海と香港間の株式相互取引制度が発表され、上海で直接中国株を購入できるようになったからです)、「中年男性・女性から在学中の大学生に至る国民的な株投資ブーム」(「中国網」2015年3月31日)が発生しています。中国では格差も急激に拡大しており、労働者世帯間の比較ではありますが、最上位20%と最下位20%の2014年の所得格差は約18倍(日本は3. 5倍)になっているといいます(「東京」2015年4月7日)。
ではバブルはなぜ形成され、崩壊するのでしょうか? 株や国債は貨幣で購入される一つの「商品」です。商品は、別の人に高値で購入されるかどうかは買った時点では分かりません。つまり「商品…を売れるかどうか、これは、大変な難事業」(不破哲三『「資本論」全三部を読む』新日本出版社、1巻207頁)なのです。そこでマルクスは「商品の販売」を「命がけの飛躍」(同、208頁)と呼びました。つまり商品の販売の中にはもともと、「売れるか/売れないか」という「対立」(同、217頁)、「矛盾」(同、218頁)が潜んでいるのです。株価が右肩上がりで上昇している時には、「『明日は他の人が今日よりも高値で買うだろうと』いう予想にもとづいて、人々は投機にはげみ」(塚崎公義『なぜ、バブルは繰り返されるのか?』祥伝社、75頁)、「命がけの飛躍」が次々成立してバブルを形成していきます。つまり株を買う人は、明日は株という「商品」を、誰かがさらに高値で「貨幣」と交換して買ってくれるだろうという“思惑”で買うのです。しかし「明日は今日より値下がりするかもしれないと人々が考えるようになると、売りが売りを呼び、株価は急激に値下がりして」(同、75〜76頁)いきます。“高値での販売”が対立物に急転化し、株という「商品」をとにかく「貨幣」に転化させようと“安値での投げ売り”に変わってしまったり、あるいは“買い手が全くいなくなって”株や国債はただの“紙切れ(株も国債も既に電子化されていますが…)”になってしまうのです。 ちなみに恐慌には、投機資本にかかわる「投機恐慌(バブルの崩壊)」以外に、産業資本にかかわる「生産恐慌」と貸付資本にかかわる「金融恐慌」があります。 一方、投機恐慌(バブルの崩壊)に対しては、中央銀行が投機資本家の売れ残った投機商品の“最後の買い手”となり、量的緩和(QE。あるいは大規模資産購入LSAP)で投機商品を大量に買い取ってやるのです。
マルクスは、貨幣は「運動」によって増殖を始めて資本となること、その場合の「運動」とは貨幣と商品の「交換運動」だと述べました。貨幣と商品の交換運動についてマルクスはさらに次のように述べています。「価値は…この過程のなかで絶えず貨幣と商品とに形態を変換しながらその大きさそのものを変え、…自分自身を増殖するのである」(1巻270頁)。 バブルの崩壊はサブプライム・バブルの時のように、「…住宅価格上昇が止まりサブプライム・ローンの焦げ付きをもたらしたことが発端」(『なぜ、バブルは…』、163頁)のように原因が特定できる場合もありますが、「何のきっかけもなく株価が暴落した」(同、84頁)1929年の世界大恐慌バブルのように自然に崩壊する場合もあるのです。 ●投機資本は大企業を“管理”する 投機資本家は大企業の株価が常に上昇するよう、大企業の経営者(CEOなど)に常にプレッシャーを与えています。これをアセットベストパートナーズの経済アナリスト、中原圭介氏は「株主資本主義」と呼んでいます。株主とは投機商品である株を大量に保有している投機資本家のことで、彼らは株価の上昇で投機利益を得ています。この投機資本家が大企業の経営を“管理”しているわけです。 以下は中原氏の『格差大国アメリカを追う日本のゆくえ』(朝日新聞出版)からの引用です。アメリカのキャタピラー社は2013年通期の純利益が33%減少しました。しかし株価は上昇しました。なぜか? キャタピラー社は利益の減少に先立ち、1年間で労働者を1万人削減するとともに、自社株を175億ドル<1兆7500億円>も買い、株価を引き上げたからです(同書、64頁)。大企業が自社株を買えば発行済み株式数が減って1株当たりの利益が膨らみ、株価が上昇します(66頁)。これが「自社株買い」です。この自社株買いなどによって、アメリカの大企業500社の株価を示すS&P500種株価指数は2013年に30%、14年には11.4%上昇しました。この上昇分の半分は自社株買いによるものだろうと言われています(66頁)。 大企業はこの自社株買いのための資金を調達するために借金までしていると中原氏は言います。IBMやフェデックスなどは自社株買いのために社債を発行。発行額は13年だけで200億ドル<2兆円>に達しています(67頁)。さらに大企業は経営幹部への報酬を自社の株式で支払う「ストック・オプション」を8割の企業が採用しており、株の上昇は経営幹部の報酬を増大させているのです。さらにこの株式発行増を帳消しにするため、大企業は借金してまで自社株買いを行っているというのです(70頁)。 なぜ借金までして自社株買いを行い大企業の株価を引き上げねばならないのか? 中原氏によれば、企業経営に注文をつけて株価の上昇を狙う資本家たちが1980年代から資金を出し合ってファンドを作り、このファンドが「アクティビスト」と呼ばれているといいます。アクティビスト・ファンドの資産は14年で1000億ドル<10兆円>といいます。このアクティビストが大企業の株価を引き上げるよう企業トップに注文を付け、株価が上がらなかった場合は大企業トップを交代させてしまうと言うのです。事実、カナディアン・パシフィック鉄道では2012年にCEOが交代させられてしまいました(74頁)。 つまり大企業のトップといえども資本家の命令には逆らえず、株価を上げろとの指示を受けて数千人から数万人の労働者の首を切ったり、借金して自社株買いを行い、株価を引き上げているのです(大企業トップの報酬の大部分はストックオプションで支払われているので、株価の上昇は資本家だけでなく企業トップにとっても多大のメリットがあります)。この「株主資本主義」は労働者の首を切って貧困と格差をさらに拡大し、大企業による自社株買いでアメリカの株価を実力以上に高止まりさせているのです。 日本ではアベノミクスで株主への配当が急増しています(「しんぶん赤旗」2015年10月18日)。2012年度から14年度までの2年間を比較したところ、国内個人投資家への配当は30,4%増、国内企業は42.7%増、海外投資家に至っては67.2%も増えています。一方、社員の賃金は4.4%増えましたが物価上昇率が4.6%あり、実質マイナスになっているのです。
●産業資本は戦争で莫大な利益を得る 産業資本家が“利益を上げ続ける”ためには、商品は絶えず“売れ続けなければ”なりません。これは投機資本でも貸付資本でも同じです。投機資本は投機を続け、貸付資本は貸付を続けなければならないのです。先に述べたようにマルクスは「価値の増殖は、…絶えず更新される“運動”のなかだけに存在する。」(1巻、266頁。“ ”は筆者)と述べています。人口が減少を始め市場が縮小し始めた日本の産業資本家は、商品を売り続けるために市場を海外に広げ、従来の商品(家電製品や自動車など)に加えて原発や新幹線、都市インフラまでアジア諸国に売りつけ始めています。このアジアのインフラ投資に向けて中国は、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)の2015年設立を進めています。同銀行の資本金は1000億ドル<10兆円>を予定しています。また日本は、アジア開発銀行(ADB)、国際協力機構(JICA)、国際協力(JBIC)などから5年間で13兆円を投資する計画を発表しました。
2015年12月15日、日本がアメリカから輸入するステルス戦闘機F35の日本での組み立てが開始されました。自衛隊(日本軍)が輸入するF35 42機のうち38機が日本で組み立てられることになっています(「中国網」12月20日)。日本の軍事企業はF35の重要部品の製造も請け負っており、同機の組み立て経験を経ることによってステルス戦闘機の構造を学び、将来的には日本で組み立てたF35を海外に輸出しようとしています。
兵器が絶えず売れ続けるためには、兵器の「消費」すなわち戦争や紛争が必要です。こうして米ソ冷戦が終結して21世紀に入っても、2001年のアフガン戦争、03年のイラク戦争、06年のガザ侵攻、レバノン侵攻、08年のグルジア紛争、11年のシリア内戦などが続けられてきているのです。 第二次大戦中にアメリカの軍需産業ジェネラル・エレクトリック(GE)の社長はこう述べたといいます。「我が国が必要としているのは、永久的な戦争経済である」(ベンジャミン・フルフォード『ナチスの亡霊』KKベストセラーズ、237頁)。そしてアメリカは「ベトナム戦争以来、半世紀以上にわたって断続的に戦争をしてきた国」(『イスラム国』、125頁)なのです。パレスチナへ度重なる攻撃を行っているイスラエルの著名な知識人も「イスラエルの権利は永続的な戦争を必要とする」(『もうひとつのアメリカ史』、3巻420頁)と述べています。 またアメリカ海兵隊のスメドリー・バトラー将軍は戦争の目的について次のように述べました。「私は…軍務についていた…ほとんどの間、大企業やウオール街や銀行家たちの高級用心棒として働いた。…われわれの兵隊…が戦場に行って殺し合いをしなくてはいけない、その本当の理由は“金のため”だ」(ジョエル・アンドレアス『戦争中毒』合同出版、12〜14頁。“ ”は筆者)。 21世紀に入ると戦争の「民営化」の動きが始まり、民間企業に莫大な“戦争利益”を保証する仕組みが急進展しています。イラク戦争で連合国暫定当局長や軍事施設の警備で多大の収益を得たのがアメリカのブラックウォーター社(現アカデミー社)などの民間警備傭兵企業です(ジェレミー・スケイヒル『ブラックウォーター』作品社)。同社の要員には米軍兵士より高い「1人につき1日1222ドル<約12万2千円>の税金」(34頁)がかけられています。そこで「給料に誘われて、一部の兵士がブラックウォーターで働くために米軍を除隊している」(35頁)といいます。「07年夏の時点で、イラクには正規の米軍兵士(16万人)よりも…『民間契約要員』(18万人)の方が多く存在した」(58頁)。「警備活動契約は…イラク『復興』資金の30%以上を占めていた」(156頁)。そして2004年4月に起きたイラク・ナジャフでのイラク人レジスタンスたちとの戦闘では、「ブラックウォーターの傭兵が現役米兵に命令を出す」(201頁)ことまで起きたのです。
今回の新ガイドラインは次のような恐るべき点も明記しています。「日米両政府は、情報共有を強化し、切れ目のない、実効的な、全ての関係機関を含む政府全体にわたる同盟内の調整を確保するため、あらゆる経路を活用する」。あいまいな表現ですが、日米両政府は「情報共有を強化」して特定秘密保護法で戦争関連情報を国民には秘匿するが米国と共有し、「政府全体にわたる同盟内の調整」で政府の全機構に米国の監視・調整を受け入れ、「あらゆる経路を活用する」ことで米国の諜報機関CIAなどの活動も認める、とも読めるのです。
この安全保障関連法案をめぐっては、15年7月に出版された上智大学国際教養学部の中野晃一教授の『右傾化する日本政治』(岩波新書)がきわめて重大な指摘を行っていますので以下列挙します。 集団的自衛権の行使容認で日本の自衛隊(自衛隊は@日本が攻撃されていなくても他国と戦争できるようになったこと、A首相が「わが軍」と見なしていること、から名実ともに「日本軍」になっています)は、米軍と海外で共同作戦を行う道に踏み出しました。2014年8月に刊行された『米軍と人民解放軍』(布施哲、講談社現代新書)は、米軍から見た日本の自衛隊(日本軍)の位置づけを実にリアルに描いています。米軍が想定している最強の仮想敵国は中国です(GDPも国防費もアメリカに次いで世界第2位)。近い将来、中国と戦争することを想定して米軍は「エア・シー・バトル構想」を打ち出しました。米中戦争が始まった場合、中国はミサイルで在日米軍基地や自衛隊(日本軍)基地を攻撃してくることが想定されます。そこで米軍は戦力を日本やグアム、サイパンに分散配置するとともに、これらの基地及びさらに遠方のハワイやオーストラリアなどに戦闘機や空母を退避させます。 在日米軍は中国との戦争を想定して日本の基地や兵備の強化を進めています。新型輸送機オスプレイの日本配備もその一環です。オスプレイは従来のヘリコプターに似て、滑走路が無くても垂直離着陸ができる新型の輸送機で、現在日本には沖縄県の米軍普天間基地に海軍仕様のMV22が24機配備されています。このほど特殊作戦用の空軍仕様CV22を10機、東京都の米軍横田基地に配備すると日本に通告してきました(「時事」2015年5月9日)。同時に空軍の特殊部隊400人を横田基地に配備することも検討しています。特殊部隊とは他国への侵略の際に真っ先に投入される部隊です(注)。ちなみに国際問題を考える一つの視点として「立場を逆転させてみる」という視点があります。米国の首都ワシントンに自衛隊(日本軍)の基地がもしあり、そこにオスプレイを配備すると日本が言ったら米国はどう思うでしょうか?
2015年7月21日、静岡県小山町の中学校の校庭に米軍ヘリから機関銃の空包3発が落下しました。この事件により、問題を起こした米軍ヘリは「陸軍特殊部隊」の訓練を行っていた可能性があることが分かりました(「しんぶん赤旗」2015年7月29日)。機関銃の空包が落下したのは、機関銃が据え付けてあるヘリ側面のドアが全開になっていた可能性があるからで、側面ドアが全開になっている様子は当日、神奈川県厚木基地で目撃されているからです。厚木基地に展開していた米陸軍特殊部隊「ナイト・ストーカーズ」は、11年にパキスタンでビンラディン暗殺作戦に投入された精鋭部隊です。そんな精鋭特殊部隊が日本で日常的に訓練をしている一端が、今回明らかになった可能性があるのです。 2016年2月29日の衆院予算委員会で共産党は、自衛隊がPKO法改定で行使できるようになった「駆け付け警護」で、「武装集団が文民等を誘拐・拉致」した場合、「必要により敵監視要員を狙撃・射殺して、突入部隊の突入…を容易化」するとの「PKO法改正に向けた検討(12年3月)」を作成していることを暴露しました。自衛隊員が敵戦闘員を「狙撃・射殺する」との想定を示したのは初めてのことです。この作戦は「特殊な部隊のみ実施可能」として、陸自の特殊部隊である「中央即応集団・特殊作戦群」を2003年のイラク派遣時にも自衛隊に随行させてきていることも明らかになりました。 また米軍は最新鋭のステルス戦闘機F35を2017年から米軍岩国基地に配備する予定です。岩国基地に配備するのは海兵隊仕様で垂直離着陸ができるF35Bで、これとは別に航空自衛隊(日本軍)は空軍仕様のF35Aを購入することになっています。さらに日本にはアジア太平洋地域のF35の整備拠点が愛知県の三菱重工と東京都のIHIに作られます。これらの軍事工場には韓国やオーストラリアのF35が搬入・修理されることになっています。 11月22日付け「しんぶん赤旗」によると、沖縄本島の米軍伊江島補助飛行場を拡張し、CV22オスプレイとF35Bステルス戦闘機の駐機場を新設する計画を米軍が進めていることが判明しました。垂直離着陸するF35Bとオスプレイのジェット噴射などに耐えられるアメリカ製の耐熱コンクリートで滑走路を延長する計画です。オスプレイは2019年以降、東京横田基地に10機、F35Bは17年に山口県岩国基地に16機配備される計画になっており、本土から沖縄伊江島に飛来して訓練を行うものと思われます。また佐世保基地には、米海軍の最新鋭ズムウォルト級ステルスミサイル駆逐艦とアメリカ級強襲揚陸艦が配備されることが2017会計年度予算案に盛り込まれました(「時事」2016年2月12日)。 米国防総省の高官は15年5月21日、海での航行の自由を確保するため、中国が埋め立てをしている岩礁の12カイリ(約22キロ)内に米軍の航空機や艦船を進入させるのが「次の段階」と発言しました(「東京」2015年5月22日)。中国(海南島)、ベトナム、フィリピン、マレーシアで領有を主張している南シナ海ではいま、軍事的緊張が急速に高まっています。米第七艦隊は5月10日、マレーシア軍と共同の軍事演習を同地域で実施しました。また自衛隊(日本軍)も5月12日、フィリピン軍と共同で初めての軍事演習を実施しています(自衛隊の集団的自衛権発動の例として、この地域が挙げられています)。フィリピンは南シナ海のパグアサ島に70年代から滑走路を保有していますし、ベトナムはウエストロンドン礁に軍事施設を新設しています(「日経」2015年5月13日)。これに加えて中国が岩礁の埋め立てなどを行っているので緊張が高まっているのです。 しかし米海軍のイージス駆逐艦が10月27日、南シナ海南沙諸島の中国人工島の12カイリ内に侵入しました。中国は人工島は主権の範囲内としていますが、アメリカは人工島は領海の基点にならないとしています。中国は領海侵犯と激しく反発しています(「NHK」2015年10月27日)。12月28日付けの「しんぶん赤旗」は海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」が2014年10〜11月に米空母機動部隊に巡航する共同訓練を行い、南シナ海を通過したと報道しました。中谷防衛相は15年11月に米太平洋軍司令官との会談で、南シナ海での共同巡航訓練を推進すると伝達したと言います。米中間で緊張が高まっている南シナ海に自衛艦が出て行くことは非常に危険です。 16年2月16日に米FOXニュースは、中国が南シナ海の西沙諸島に地対空ミサイルを配備したと報道しました。これが事実とすると、これまで中国が述べてきた南シナ海の施設は「海難救助や防災などが目的」との言説に完全に反することになります。中国外交部は同日、「中国は島に必要な国土防衛施設を設置する。これは…自衛権の行使に当たる」との声明を出しました(「中国網」2016年2月17日)。また18日付け「中国網」は、西沙諸島へのミサイル配備は米国が同諸島へイージス駆逐艦を派遣し挑発を行ったことへの反応だと報じました。16日はアメリカとASEANが、航行・飛行の自由、軍事拠点化回避、紛争の平和解決などに取り組むとした共同声明を発表していました。しかし19日になって米国防総省は、西沙諸島の永興島には過去も2回、演習のために中国がミサイルを配備したことがあると認めました(「日経」2016年2月20日夕刊)。今回の同島へのミサイル配備が演習なのか永久配備なのかが今後の焦点になります。
防衛省は中国との戦争を想定して、「対中防衛の考え方」との計画を2012年に策定していたことが15年4月1日の衆院外務委員会で共産党によって暴露されました(「しんぶん赤旗」2015年4月2日)。同計画によれば対中有事が発生した場合、日米「共同」で沖縄の南西諸島に機動展開する、中国のミサイル攻撃に対して弾道ミサイル防衛で対処するなどとなっています。 レーニンは『帝国主義論』の中で、「戦争の真の社会的な性格は、…支配階級の客観的立場の分析のうちに存する」(『レーニン10巻選集』大月書店、6巻205頁)と述べていますが、現在の日本で急速に進められている軍国主義化の動きは、日本の資本家=支配階級が望む「兵器の輸出」や「海外の紛争市場へのアクセス」にその経済的根源を見て取れるのです(注)。
「支配階級の客観的立場」を日米独の経済成長率で見たのが下図です。日本の経済成長率(≒産業資本の増殖率)は、2012〜13年を除くとほぼ日米独の中で最低であることが分かります。IMFが2015年1月に発表した2013〜2016年の経済成長率(予測含む)によっても、アメリカの年間平均成長率2.8%、ドイツ1.1%に対して日本は0.8%しかありません。ここに日本の産業資本家が急いで兵器の製造・輸出を狙う背景があります。兵器の資本増殖率は先に述べたようにきわめて高く設定されているからです。
日本の軍国主義化を進めるためには、「戦争は悪いもの」ではなく、「時には戦争もやむを得ないもの」とのイメージの転換を国民に植え付ける必要があります。日本の過去の侵略戦争を「アジア解放のため」と主張する靖国神社に首相が参拝したことや、南京虐殺は無かった、日本軍が東アジアの女性を従軍慰安婦(性奴隷)にしたことなど無かった、などの「歴史の修正」が進められている背景がここにあります。 兵器の生産を続けるために使われる言葉が、他国の「脅威」です。アメリは北朝鮮、イラク、イラン、アフガニスタン、リビアなどを「脅威」=「ならず者国家」と決めつけ、地球上の2カ所で同時に戦争が起こっても戦いぬくことを可能とする「2正面作戦」を国防方針としてきました(このうちイラク、アフガニスタン、リビアはアメリカから実際に軍事攻撃を仕掛けられました)。「…フランスの歴史学者エマニュエル・トッドは『世界最強の軍事経済超大国アメリカがイラク、イラン、北朝鮮などの…三流弱小国を「悪の枢軸」とか「世界的脅威」などと大げさに…言いたてるのは、強大なアメリカ…を維持するための神話にすぎない』」(前坂俊之『メディアコントロール』旬報社、267頁)と述べています。 このためアメリカの国家予算の2割は兵器を生産する国防費に支出され、対テロなど安全保障関連の支出を含めると国家予算の4割になり、アメリカの軍事支出は世界の軍事支出の約4割を占めています。さらにアメリカは世界に約800の軍事基地を持ち(その他の国の海外基地はすべて合わせて約30箇所ほど)、25万5000人の兵隊を海外配備し、この費用だけで「年間2500億ドル(25兆円!)」(『もうひとつのアメリカ史』、3巻426頁)を費やしているのです。 「テロ」も兵器の生産を続けるために使われる言葉にされました。「ブッシュは<9.11以降>、これ<対テロ戦争>は新種の戦争だと明言した――戦争の相手は国家で…なく、テロリズムという戦術だった。…ブッシュは…<対テロ戦争を>アメリカ人に受け入れさせるため、政権は国民に、ひっきりなしの警告や、…その日のテロの危険に応じて変動する色分けされた5段階警報システムの集中砲火を浴びせた」(「もうひとつのアメリカ史」3巻、242〜243頁)。こうしてアメリカでは2002年11月にテロ専門の省庁・国土安全保障省まで作られました。米の経済平和研究所によれば、2000年から13年にかけて世界のテロ件数は6倍以上に増えたといいます(「しんぶん赤旗」2015年3月2日)。
こうした軍事費の“垂れ流し”で作られた財政赤字のために、2013〜15会計年度の3年間、国防費を含む政府予算の強制削減が行われました。しかしアメリカは、このほど方針を大転換して2016会計年度のアメリカの国防予算案(国外作戦経費除く)に過去最高の約5300億ドル<53兆円!>を計上しました(「日経」2015年2月3日)。ハイテク兵器の調達拡大を再開し、F35ステルス戦闘機や新型超距離爆撃機、原子力潜水艦などを購入・増強します(注)。さらに米空軍は敵のミサイルを撃墜するレーザー兵器をF-35やF-22などに搭載する実験を2016年から始めることにしています(「スプートニク」2016年2月9日)。
さらにアメリカは15年2月6日に、新しい「国家安全保障戦略」を発表しました。「ロシアの声」(15年2月7日)によるとこの戦略は、@米国あるいは同盟国が脅威にさらされた場合、米国は一方的に軍事力を行使する、Aテロとの戦いにおけるパートナー国に武器・兵器を供与する(注)、Bそうしたパートナー国の軍や治安部隊をアメリカが訓練する(注)、ものだと指摘しています。こうしてアメリカは世界に、「対テロ」「対脅威」のために兵器を増産し、パートナー国に売りさばき、他国の軍隊を訓練して“戦争景気”を拡大することを明言したのです。
アメリカ以外でも対テロなどを口実に“戦争景気”の拡大が進められています。フランスでは2015年1月7日に起きた風刺紙襲撃事件(犯人を全員射殺!)を受けて13日、首相が「テロに対する戦争」を議会で宣言。18日には中東海域に空母シャルル・ドゴールを派遣する方針を打ち出して、米国のIS空爆を支援することを表明しました。財政難を理由に進めていた数万人に及ぶ兵力削減計画も撤回しました(「日経」2015年2月5日)。
●貸付資本は貧困層から高利をむさぼる 貸付資本は貨幣Mを貸し、一定期日後に利子を付けた貨幣M’として返してもらう資本です。現代では貸付資本の主要な形態である国債が、各国で膨大な量にまで膨張しています。日本では国債の発行残高が880兆円(2014年度末)を突破、国民一人当たり 700万円の借金をさせられています。この異常に膨れあがった国債発行により利払い額は年間10兆円にも上り、1日当たり270億円以上もの利子が貸付資本家である銀行などに支払われているのです。
国債の利払い費で1日に数百億円が貸付資本家に支払われている。
リーマンショックの引き金となった「サブプライムローン」も、高利の貸付を貧困層や中間層へほとんど説明もせず押しつけたものでした(これを「略奪的貸付」と言い、「ほとんどの人が読めないような細かい字で手数料の詳細を隠して割高な住宅ローンを売りつける…貸付」(『99%…』、285頁))。アメリカの住宅ローン貸付会社は、最初は低い金利ですが数年すると10%近くも利率がアップする貸し付けを、移民などのサブプライム層に十分説明することなく貸し付けました。こうして返済の急上昇と住宅バブルの破裂による住宅価格の急落で、金利も払えず住宅も売れずにアメリカの貧困・中間層は住宅を取り上げられ、数兆ドル<数百兆円>を失ったと言われています。一方、「大手銀行は納税者のお金で救済され…たにもかかわらず、…自宅が『水面下<住宅の売値が買値を下回った>』にある住宅所有者2200万人を救うどころか、670万世帯の住宅を自動的手順で次々と差し押さえた」(『誰がアメリカン…』、下42頁)のです。こうした無謀貸し付けで、「ミドルクラスの富の中核そのものが、住宅所有者から銀行へ歴史的な大移動をとげた」(同書、下18頁)、「アメリカ人数百万人が差し押さえを食らって家から追い出され、さらに数百万人が9兆ドル<900兆円!>分のお金を失った」(同書、下21頁)のです。 貸付商品を投機商品に組み替えて作られる証券を「仕組み証券」といいます。高田氏によると「仕組み証券市場では、主要な資金の需要者<提供者>はもはや企業ではなく、住宅ローン、消費者ローン、カードローンなどさまざまなローン<貸付商品>を利用する家計部門である。こうして家計部門の債務の増加は、仕組み証券市場膨張の最重要な前提となる。…なぜなら、家計…に対するローンは、…信用リスク(借り手が返済不能になる危険性)が大きく、…高い金利設定が期待できるからである」(『金融恐慌を読み解く』新日本出版社、88頁)。すなわち、貸し倒れリスクが高い家計への貸付商品(ローン)だからこそ、高い利回りの証券化商品(住宅ローン担保証券など)を作ることができたのです。こうして「従来は証券市場での売買ができなかった家計と企業の債務(住宅ローン、消費者ローン、…その他)を、機関投資家が購入できる魅力的証券に転換するための証券化の技法と仕組みが発展」(同書、96頁)していったのです。 当時はITバブル崩壊を受けて、米国の金利が極端に引き下げられており、高利回りの投機商品への需要が極めて多くありました。そこで「金融機関と機関投資家の旺盛な需要が…安全資産を上回ったために、金融機関はこれまでに証券化してこなかったハイリスクの資産(サブプライムローンや中小企業向けローン)をトリプルAの証券に転換するためのスキームを開発する必要にせまられた」(『マルクス経済学と…』、108〜109頁)と高田氏は指摘しています。 この貸付商品の投機商品化である「証券化」によって、銀行は大きく変質していきました。資金を貸し付けて金利を得るのではなく、「証券を発行して投資家に販売することによって、最初に不動産の取得のために投じた資金を回収し、…<その後の>銀行の主たる収益源は、自己資金の投資<貸付や投機>から得られる利子や配当ではなく、証券の発行手数料と、<不動産担保証券の場合は>不動産の利用者から投資家に支払われるレンタル料などのキャッシュフロー(資金支払いの流れ)を仲介することから得られる手数料」(同書、137頁)に変わったのです。 なお高田氏は、「1970年代以降、投資銀行をはじめとする大手金融機関が証券化業務を展開するために利用するようになった、さまざまな組織上<簿外投資ビークル(SIV)など>、取引上<資産担保証券(ABS)など>の仕組みの総称」(同、201頁)を「シャドーバンキング」と言うと説明しています。そしてこのシャドーバンキングは「規制・監督を回避し、従来銀行に制限されていたか、存在していなかった新しい業務<証券化業務>を展開しようとする大手銀行組織(投資銀行を含む)のビジネス戦略に他ならなかった」(同、164頁)といいます。こうしてシャドーバンキング・セクターは、アメリカでは銀行セクターを上回るまでに膨張していったと分析しています。「シャドーバンキング・セクターの規模(負債ベース)は、1990年代初頭には銀行セクターを上回るようになり、90年代後半期以降両者の差は次第に拡大するようになった」(同、165頁)。 貧困層に行われたサブプライムローンなどの高利の貸し付けですが、マルクスによれば「利子」とは資本の増殖分(剰余価値)の配分をめぐる貸付資本家と、貨幣を貸し付けられた相手との剰余価値の“分捕りあい”です。利子が高いほど貸付資本家は相手から多くの剰余価値を受け取ります。その正反対の例が現代の”超低金利”です。労働者は銀行=貸付資本家に貨幣を預けても、つまり貨幣を貸しても、年0.0数%しか利子が得られません。貸付資本家はこの預金を産業資本家に貸し付けて年 〜数%の利子を得ているわけですから、貸付資本家はただ同然で丸儲けしているわけです。こうしてバブルが崩壊した後の1992年から2005年の13年間だけで合計250兆円!が家計から貸付資本家に分捕られたと計算されています(2007年4月、参議院予算委員会調査室)。また16年3月の参院財政金融委員会での共産党の質問に対し政府は、91年から14年までの24年間では合計392兆円の利子が分捕られたと回答しました(「しんぶん赤旗」2016年4月7日)。 現在の米欧日の中央銀行が行っている「ゼロ金利政策」も、国家が貸付資本家である銀行にゼロ金利付近で貨幣を貸すものです。欧州中央銀行(ECB)の場合、「民間銀行への融資は、1%程度(2014年6月時点では0.15%)のきわめて低い利率で行っている。民間銀行は、融資を受けると、市場金利で政府に金を貸す(=国債を購入する)。市場金利は…スペインやイタリアでも5〜7%という十分な率だ」(『金持ちが…』、53頁)といいます。銀行は0.15%で貨幣を借りて5〜7%の利子を得ているのですから労せずして丸儲けです。米国も同様です。「銀行がFRBからほぼゼロ金利で無制限に資金を借り、ずっと高い金利でアメリカ政府(もしくは外国政府)に貸し付ける」(『99%…』、99頁)。
貸付資本家への国家の優遇措置は、これにとどまりません。リーマン・ショックが起きた際、「連邦準備制度だけで、16兆ドル(1600兆円)が、秘密融資の形で、米国の銀行だけでなく、多数の外国銀行にも提供されていた」(『金持ちが…』、47頁)といいます。リーマン・ショックの際には、企業は金を借りることができずに倒産した企業もあったのですが、米欧の大銀行にはFRBが“秘密裏に”貨幣を貸し付けていたのです(注)。その額は「シティグループだけで、2兆5000億ドル(250兆円)、モルガン・スタンレー、メリルリンチはそれぞれ約2兆ドル(200兆円)、バンクオブアメリカ、1兆3000億ドル(130兆円)」(『金持ちが…』、47〜48頁)といいます。
ちなみに米欧日が行っている「量的緩和(Quantitative Easing)」(FRBは大規模資産購入LSAPと呼んでいる。14年10月にFRBはLSAPを終了した)とは、投機資本家が保有している価格の下落した「投機商品(住宅ローン担保証券や国債など)」を高値で買い取ってやることです。「日経」(2015年1月23日)によれば、「中銀<中央銀行>が民間銀行などから国債や金融商品<投機商品>を買い取り、その代金として民間銀行に資金を供給する。…米国は住宅ローンを担保とする証券も大量に買い取り、ローン金利の低下<証券価格上昇>を直接働きかけた」と説明しています。 また田中宇氏は次のように説明しています。「これ<量的緩和>は、米金融界が抱えるすべての不良債権やリスクを連銀と財務省が引き受けることにつながっている。米金融界は、…ゼロ金利政策を続ける連銀から事実上マイナス金利で金を借り、企業や個人に融資するのではなく金融商品<投機商品>に投資して利ざやを稼ぎ、…巨額の利益を出している」(『米中逆転』角川oneテーマ21、85頁)。 日銀が行っている量的緩和は13年4月より買い取り量が増やされ、「異次元の金融緩和」と呼ばれています。14年10月には買い取り量をさらに増やし、国債を年80兆円買い入れて貨幣供給量を年80兆円に増やすとしています。日銀は投機資本家で貸付資本家である銀行に大量の貨幣を供給することで、個人や企業への貸付を増やして景気を拡大するとしていますが、銀行の貸付金はこの2年間わずか4%しか増えていません。代わって増えているのが「日銀当座預金」で3倍にも拡大しました(「しんぶん赤旗」2015年4月15日)。日銀当座預金は日銀が量的緩和で銀行から買い取った国債の代金が振り込まれる口座です。通常の当座預金の利率はゼロなので銀行はこの資金を貸し付けに回すのですが、リーマンショック後の08年11月に「補完当座預金制度」が導入され0.1%の金利をつけることになりました。つまり銀行は、日銀が量的緩和で振り込んだ貨幣を産業資本家にはほとんど貸し付けず、日銀当座預金に預けたまま0.1%の金利を稼いでいるのです。利子が付く超過準備預金の額は約140兆円ですので、その0.1%の1400億円の利子を銀行は毎年得ているのです。 貸付資本家に貸すゼロ金利の貨幣も、投機資本家の投機商品を買い取ってやる貨幣もすべて私たち国民の税金です。歳入が足りなくなれば国家はとりあえず輪転機を回して貨幣を刷り、国債を増刷して借金をし、後ほど増税して私たち国民に帳尻を合わさせているのです。
中央銀行は大量の貨幣を印刷し、貸付・投機資本家に与えている。
●21世紀の資本主義はどこまで“発展”したか
以上の事柄のほとんどは「資本」=「貨幣の増殖」のために引き起こされています。残念なことに「21世紀の資本主義」は、投機と戦争と貧困の時代をもたらしているのです。
●「資本」主義を超えて 以上に見たように、21世紀の資本主義は投機と戦争と貧困の時代をもたらしていました。その理由は、投機も戦争も貧困も、社会の一部の人々=少数の資本家に莫大な利益をもたらすものだからです。しかも時が立つにつれてこの利益はますます増大し(なぜなら利益とは労働者の労働が生み出す“価値”だからで、価値は時間とともに増大します)、資本家の数はますます少数化しつつあります(マルクスも述べたように資本の蓄積は「拡大された規模での資本関係を、一方の極に…より大きな資本家」を生み出すからです)。 その結果、中央大学名誉教授の高田太久吉氏が指摘するように、投機の分野では少数の資本家の手ではもはや処理しきれない、きわめて複雑な事態が進行中だといいます。「イングランド銀行が公表した2006年の調査によれば、世界で1兆ドル超<100兆円超>の資産を持つ金融機関の数は13社で、それらの子会社は平均で1110社、活動している国は平均で47カ国に上っている。こうした状況は、…巨大金融コングロマリットが、外部者だけではなく、その経営陣にとってももはや十分には組織と活動を把握できない巨大なブラックボックスになっていることを意味している」(『マルクス経済学と…』、288頁)。 もはや少数の資本家では把握困難な複雑な“何か”が巨大金融コングロマリットを動かしている……。その“何か”とは「資本」すなわち「増殖する貨幣」であり、平易にいえば「金儲けの理念」といえるでしょう。私たちはいま、「資本」主義=「金儲け至上主義」に代わる新たな理念を打ち立て、それにもとづく経済社会を作り出していくべき時代に来ているのではないでしょうか(注)。
以上
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