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21世紀の資本主義…投機、戦争、貧困の時代

 
2013年9月随時情報を追加 
日野 学


 2008年9月、アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズが破産し、「100年に1度」と言われる世界同時株安、世界同時不況の引き金が引かれました。その後の世界の動きを見てみると、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が08年11月に量的緩和第1弾(QE1。正式には大規模資産購入LSAPを発動し、アメリカの銀行などが保有していた住宅ローン担保証券などを買い取り、その代金として155兆円という巨額のマネーを銀行などに供給しました。

 アメリカの需要激減や銀行の貸し渋りは、09年6月に世界最大の自動車会社GMを破産させます。09年10月には、アメリカの住宅バブル崩壊と並んで住宅バブルが破裂していたギリシアで、政権交代を期に新政府が財政赤字を約3.8%から12.7%へと大幅に増加修正、国債が売られてギリシアの債務危機が発生します。これを受けてスペインやイタリアなど南欧各国の国債が売られて価格が下落、EU中央銀行(ECB)は10年5月、ギリシアなどの国債買入を開始しました。

 経済危機は中東や北アフリカにも波及。食料品の値上げなどに反対して中東や北アフリカでデモが発生。11年2月にはエジプトのムバラク大統領が辞任、「アラブの春」と呼ばれます。3月には、「独裁者」と言われていたカダフィ大佐暗殺を狙って仏英米軍がリビア空爆を開始しました。アメリカではリーマンショックからの回復過程で富裕層と貧困層の格差がさらに拡大。11年9月にニューヨークで、ウォール街占拠運動が始まりました。

 2013年に入って6月、アメリカのFRB議長が量的緩和策第3弾の縮小を示唆するとアメリカの株価が下落。新興国に投下されていた資本がいっせいに引き上げられ、新興国の株と通貨が下落しました……。

 リーマンショックから5年間の主な動きを見ただけですが、これらの動きのほとんどは21世紀の「資本主義」の視点、すなわち「資本」=「増殖する貨幣」の視点からみると、ほとんどすべての出来事が“貨幣の増殖のために引き起こされた”と言えます。では、なぜこれらの出来事が貨幣の増殖のために引き起こされたのか? それを述べるために以下でまず、「資本」とは何かについて見ていきます。

 

●資本とは何か

 ドイツの経済学者カール・マルクスは、資本とは「貨幣を生む貨幣」(『資本論』大月書店国民文庫、1867年、1巻272頁)、すなわち「増殖する貨幣」であることを明らかにしました。ではなぜ貨幣は増殖できるのか。マルクスは「運動によって…貨幣は,資本に転化する」(1巻258頁)と述べています。貨幣は「運動」によって増殖を始め、「資本」となるのです。


 では貨幣の「運動」とは何か。それは「貨幣」と「商品」の「交換運動」です。マルクスは貨幣と商品の「交換運動」の違いによって、資本を大きく二つに分けました(実際にはマルクスは「商業資本」を含めた3種類を資本の基本型としています)

 第1の資本とは「産業資本」です。貨幣を、労働力や材料といった商品と交換し(つまり貨幣で労働者と材料を買い)、労働者が材料を加工して作った新しい商品を貨幣と交換する(つまり商品を売って貨幣を得る)ことです。こうした交換運動によって最初の貨幣Mは、M’に増殖することができます。現代でいうと、自動車の生産や兵器の生産がこの「産業資本」にあたります。

 第2の資本は「貸付資本」です。貨幣Mを、国債などの借用証書=商品と交換し(つまり貨幣を貸し付け)、一定期日後に国債や借用証書と貨幣M’とを交換する(利子の付いた貨幣を受け取る)ことです。マルクスは「利子生み資本」とも呼んでいます。

 マルクスが『資本論』を書いた19世紀半ばにはこの「産業資本」と「貸付資本」が主要な資本の運動形態でした。しかし現代ではさらに巨額で、かつ瞬時に貨幣が増殖することができる資本が動き回っています。それを「投機資本」と名付けます。投機資本では貨幣Mを商品(株、国債、通貨、金、原油、穀物など)と交換し(つまり貨幣で商品を買い)、その商品の価格が「変動」して値上がりした瞬間に商品を貨幣M’と交換する(つまり商品を売って貨幣を得る)ことです。投機資本では貨幣と商品の「交換運動」に加え、商品の価格の「変動運動」が重要な役割を果たしています。つまり投機資本では貨幣と商品の2種類の「運動<交換運動+変動運動>」が資本の増殖を支えているのです(注)。現代でいえば、米欧日の株価の変動や国債価格の変動、通貨の変動などに投機して巨額の利益を得ることがそれです。

(注)貨幣は自動的に増殖する訳ではもちろんありません。貨幣を実際に増殖させているのは人間(労働者)の「労働」です。労働こそが「価値」を生み出し、この価値が貨幣を増殖させる源となり、運動を通じて貨幣を資本とするのです。マルクスは価値とは人間労働の「結晶」(『資本論』、1巻77頁)だと述べています。 


現代では株式や国債の価格変動に投資する「投機資本」が巨大な規模に膨張している。

 

●貨幣は資本の増殖率の高い所に流れ込む

「産業資本」も「貸付資本」も「投機資本」も、すべては「いかに貨幣を増殖させるか」のために動いています。そこで、大量の貨幣を所有している資本家(注)は、自分の貨幣を増殖させるために資本の増殖率(=利潤率)が最も高い「資本」に貨幣を投下します。


(注)野村證券金融研究所に勤めた宮島秀直氏によれば、現代の"資本家”は有名企業の起業家を始めとする「…個人富裕層、私的年金、企業財団をはじめ、英国、スウェーデン、ベルギー、オランダ、スペインなど欧州の王族、皇族」(『ヘッジファンドの興亡』、東洋経済、28頁)などが挙げられると言います。またアメリカの経済誌「フォーブス」が2015年3月に発表した記事によると、億万長者(資産1000億円超)の資本家の数は世界で1826人、合計資産は前年より10%も増えて約800兆円(日本の国家予算の約8倍!)といいます(「NHKニュース」2015年3月3日NGOのオックスファムは2016年1月、世界で最も裕福な62人の富豪が持つ資産は、世界最貧困層35億人の資産を上回ると発表しました(「ニューズウィーク」2016年1月18日)。さらに16年6月7日、アメリカのボストンコンサルティンググループが発表した報告書によれば、世界の約1850万世帯(全世帯の1%)が持つ資産は約8400兆円に上り、これは世界の総資産の47%(約半分)といいます。彼らの資産の約8分の1(1070兆円)はタックスヘイブンにあり、この額は年々増えているといいます。
 ちなみに米スタンフォード大学などの調査によれば、平均余命も貧困層(最下位1%)より富裕層(最上位1%)の方が15年も長生きとの結果が出たといいます(「CNN」2016年4月12日)
 こうした資本家たちは社会の前面に出てきません。そのことをマルクスは以下のように説明しています。「…資本所有者…の貨幣資本そのものが…銀行に集中されて、もはやその直接の所有者からではなく銀行から貸し出されるようになることによって、…資本家はよけいな人物として生産過程から消えてしまうのである」(『資本論』、7巻130頁)


 例えば産業資本の増殖率はだいたいGDP(国内総生産)の「経済成長率」で見ることができます。アメリカや日本など先進資本主義国の経済成長率は 〜数%で、これに対して中国やインドなど新興国の成長率は数%〜10%ほどです。そこで産業資本は先進国より増殖率が高い新興国に多く投下されます。つまり資本が輸出されます。
 2015年1月に国際通貨基金(IMF)が発表した主要国の2013年〜2016年の経済成長率(予測含む)によると、日本の4年間の平均成長率は0.8%、アメリカは2.8%、ドイツ1.1%に対して新興国の中国は7.1%、インドは5.9%となっています(「AFP」2015年1月21日)

 貸付資本の一例としては銀行の長期プライムレート(長期の優良貸出利率)があります。これは現在1%強です。また個人貸出の利率は数%から15%ほどになっています。なお貸付の利子も先進国より新興国の方が高く、貸付資本も新興国に多く投下されています(注)「1998年6月末時点で、…各国銀行の海外債権…のうち、工業国(先進国)向け債権は19.3%にとどまっており、残りの80.7%が東ヨーロッパをふくむ新興市場に向けられている」(高田太久吉『金融恐慌を読み解く』新日本出版社、162〜163頁)

(注)産業資本および貸付資本ともに先進国より新興国・途上国のほうが増殖率(利潤率)が高いことが、多国籍企業・多国籍銀行が1970〜90年代に世界をまたにかけてグローバル化していった大きな理由です。「途上国向け融資の拡大で先頭を切った<アメリカの>銀行は、…アメリカ国内向け融資と比較して2倍以上の利鞘をあげることができた」(高田太久吉『金融グローバル化を読み解く』新日本出版社、71頁)。三井住友銀行の場合、2014年度の国内の貸出利鞘は約0.9%なのに対して海外の利鞘は約1.2%になっています(「しんぶん赤旗」2015年6月6日)。新興国のほうが利潤率が高い理由は、「これらの後進諸国では利潤が高いのが普通である。なぜなら、そこでは資本が少なく、地価は比較的低く、賃金は低く、原料は安いからである」(ウラジーミル・レーニン『帝国主義論』大月書店10巻選集、第6巻249頁)


 投機資本の増殖率は、投機資本家(米欧日の巨大銀行やヘッジファンド(注)など)によってさまざまです。宮島氏によれば「クォンタム・ファンド(は)…過去29年間の平均投資利益率(≒資本の増殖率)が25%を上回る」(『ヘッジファンド』、2頁)、「LTCMは…2年連続で40%以上の運用成績をあげた」(53頁)。タイガー・ファンドに至っては、増殖率は「69%」(55頁)といいます。(投機資本の下で働く労働者の賃金は、産業資本や貸付資本の下で働く労働者の数倍ありますが、これも投機資本の増殖率が高いことの一証左です。)

(注)リーマン・ショック以降の先進国の超低金利で、高利回りを求める投機資本のヘッジファンドへの流入が過去最高になっています。「ヘッジファンドが膨張している。…(2014年)3月末の世界の資産残高は…約280兆円。リーマン・ショックで減った2008年末の約2倍に増えており、過去最高だ。」(「日経」2014年5月3日)

資本の増殖率

資本の形態

資本の増殖率

 産業資本

 先進国で 〜数%、新興国で数%〜10%くらい

 貸付資本

 長期プライムレートで1%強、個人貸付で数%〜15%ほど

 投機資本

 数10%

 


 以上3資本の増殖率を見れば、資本家が自分の所有する貨幣を主にどの資本に投下するかは明らかでしょう。現代では「投機資本」が最も“儲かる”、最も“効率の良い”資本であり、ここに大量の貨幣が投下されているのです。例えば2013年の世界の債券発行残高は1京円(1兆円の1万倍)(「SankeiBiz」2014年3月11日)、15年の世界の株式市場の時価総額は約9000兆円(「日経」2015年5月5日)と見積もられています。また投機資本家が買う金融派生商品(デリバティブ)の想定元本は11年で7京円(高田太久吉ほか『現代資本主義とマルクス経済学』新日本出版社、198頁)にも達しています。ここに多額の貨幣を投下することで、アメリカの巨大銀行は4半期(3ヶ月)ごとに5000億円〜1兆円もの投機利益を稼ぎ出しているのです。この額は巨大銀行の全収益の2〜3割にも上っています。(なおアメリカでは貸付資本を扱うのは原則として商業銀行、投機資本を扱うのは投資銀行と1999年にグラス・スティーガル法が廃止されるまで決められていました)(最近の銀行は資本の増殖率の低い産業資本への貸し付けより、増殖率の高い国債売買などの投機に貨幣を優先的に投下しています(注)

(注)「三菱UFJは利益の6割を海外部門<後述>証券部門<投機資本>など…であげている。リーマン危機前の08年3月期は6割強を国内銀行業務<貸付資本>で稼ぎ出していたのと比べ、収益構造は変わった。…証券部門は稼ぎ手になりつつある」(「日経」2014年5月15日)。<後述部分:「同社の国内企業向け貸し出しの利ざやは0.6%だが、海外企業向けは1.06%と高い」(「日経」2014年12月22日)>。


 なお、筆者は3種類の資本について「産業資本」、「貸付資本あるいは利子生み資本」、「投機資本」という用語を用いました。筆者は用語にはこだわりませんが、現代の経済理論では「貸付」と「投機」の区別があいまいな場合があるようです。貸付と投機では貨幣と商品の運動の仕方が全く異なりますので、厳密に区別して考える必要があります。

 

●投機資本は10万分の数秒で貨幣を増殖させる

 投機資本は貨幣Mと交換した商品、例えば国債、株、通貨、金、石油、穀物などの商品の価格が「変動運動」し、価格が上昇したときに商品を売って貨幣M’を得る資本のことをいいます。つまり商品を買い、商品の価格が高くなったら売ってその差額で貨幣を増殖させるのです。

「変動運動」を株価で見た場合、それはプラスの変動(値上がり)とマイナスの変動(値下がり)があります。値上がりが大きく、大きなリターンが見込まれる場合は、大きな値下がり、大きなリスクにも見舞われる可能性があります。つまりハイリターンな投機商品は常にハイリスクといえるのです。そこで金融工学を使って、今後どのくらいの損失に見舞われる可能性があるかを統計的に示す数字「バリュー・アット・リスク(VaR)」を計算してリスクに備えますが、VaRが設定している市場変動性よりももっと大きな揺れが市場を襲った場合にはそのリスクに対処できません。これが現実に起きたのが1998年のヘッジファンド・LTCMの破綻でした。(倉都康行『「金融工学」講座』PHP、98〜102頁)

 資本家にとっては、株を買おうと、国債を買おうと、通貨を買おうと、そこには何の本質的な違いはありません。それらの商品が「値上がりが見込まれる」なら貨幣を投下し、その商品が下落を始めると資本家は商品を売るのです。現代では投機資本が世界主要国の株、国債、通貨、原油、穀物市場の間を絶えず行き来し、貨幣を増殖させているのです。金融工学では、資産を分散させることで収益率(リターン)が最適化されることが示されており、その意味からも投機家は自分の貨幣を株や国債、通貨市場の間に分散投資しているのです。

 なお、株と国債、原油、穀物市場では投機資本の増殖率に違いがあります。株式市場の投機資本の増殖率は平均すると1日あたりプラスマイナス0.数パーセント。これに対して国債市場では平均して1日当たりプラスマイナス0.0数パーセントです。株式市場での投機資本の増殖率は国債市場の10倍ほどありますが、株式市場では元本が保証されていないのに対して国債市場では元本が保証されている違いがあります。つまり株式はハイリターンだがハイリスク、国債はローリターンだがローリスクなのです。

 

◆コラム@ 連動する市場

 2013年6月19日にFRBのバーナンキ議長(当時)が量的緩和第3弾(毎月アメリカ国債や住宅ローン担保証券を8兆円購入)の縮小を示唆すると、アメリカ国債の買いが減るとみた資本家が国債の売却を始め、国債価格が急落(利回りは上昇)しました(右上図)。
 ニューヨーク株価も急落した後、不安定な上下動を繰り返し始めました(右中図)。
 国債を売った資本家はその貨幣を原油先物市場に投下。原油先物価格が急上昇を始めました(右下図)。

アメリカ10年物国債利回り

図3

ニューヨーク・ダウ平均株価

図5

 WTI原油先物価格

図7

(出所:三井住友銀行、QUICK、
http://fund.smbc.co.jp/smbc/qsearch.exe?F=mkt_stock_detail&KEY1=SINDU/USE&ctype=2ほか)

 

 

◆コラムA 投機資本の“誕生”

 投機はマルクスの時代にも存在していましたが、その動きはまだ小さく、マルクスも投機についてはほとんど分析していません。
 現代の投機資本が“誕生”したのは、1971年8月15日にアメリカのニクソン大統領がドルと金の交換を停止し、通貨ドルの価値が“変動”を始めたのがきっかけでした。翌72年にはシカゴ・マーカンタイル取引所にドルと円、ドルとポンドなどの通貨の交換・先物市場が作られ、通貨の価値の変動を利用した通貨投機が始まります。そしてさらに翌73年、ロイター社がコンピュータと通信を使った通貨の取引情報システムを開発。コンピュータを使って通貨の価値の変動情報をいち早く入手し、通貨投機が一気に拡大していったのです。

 

 

 

 

 

 

シカゴ・マーカンタイル取引所

 

 

 

 投機資本は商品の価格が右肩上がりで上昇している時には、ほぼ誰もが利益を得ることができます。今日の商品の価格Cより、明日の商品の価格C’の方が高いので、C’−Cは常に利益になるからです。しかし投機資本は、商品の価格が「値下がりを続ける」ときにも増殖することができます。その手法を「空(から)売り」といいます。空売りとは、値下がりを続けそうだと思われる商品を借りてきてその商品を売り<自分の商品ではないので空売りし>ます。そして商品の価格がずっと下がったときにこの商品を買い戻して借りてきた商品を返却し、“安く買って”“高く売った”差額から儲けを得るのです。

 具体的には例えば、「日産自動車の株式をロング(買い持ち)する…ルノー側の株式をショート(空売り)する…この結果、…<筆者注:ルノーの日産への>資本参加が発表された段階で日産の株価は急騰し、ルノーの株価はやや弱含んだ。この取引で、ヘッジファンドは日産の株価上昇分と、ルノーの株価下落分の両方から利益を手にすることができた」(『ヘッジファンド』、59〜60頁)という具合です(注)

(注)空売りは、安く買い戻した株を再び売る手口と組み合わせると、死体の肉から滋養を得るハイエナを思わせる投機手法となります。「OK! 500万ドル<5億円>をショート<空売り>だな? いや、1000万にしておこうか」。…これ<A社の社債>を10口分借りて市場で売り、あとは社債の価値が下落するのを待つわけだ。…<A社の>社債は10セントまで落ち込んだ。…40セントの時点でショート・ポジション<空売り持ち>を半分解消し、この取引から500万ドル<5億円>の利益を得た。…価格が10セントまで下落すると、売りに出されていた<A社の>社債を根こそぎ買いあさった。…<買いの>噂を聞きつけた市場は、…社債価格を上昇に転じさせた。価格が25セントに達したとき、わたしたちは社債を売り抜けた。…これによりわたしたちの<A社>関連の収益は400万ドル<4億円>分増加した。」(ローレンス・マクドナルド他『金融大狂乱』徳間書店、140〜141頁)

 

 この空売りを使うとバブルの崩壊からも利益を得ることができます。「(ゴールドマン・サックス<世界最大級のアメリカの投資銀行>の)在庫一掃作戦の一つは、ハドソン・メザニン(注)…と名付けられた20億ドル<2000億円>分の合成CDO<投機商品>の組成・販売だった。…2007年10月、<バブルが崩壊し>ハドソンの事実上すべての証券が大幅に格下げされ…た。…ところがゴールドマンは投資家たちに、…精算を先送りすると告げたのだ!…理由は、もちろん、ゴールドマンがその<ハドソンの>証券をショート<空売り>していたことにあった。価格が下がれば下がるほど、それだけ多くの富が投資家からゴールドマンに移転する結果になったのだ」(チャールズ・ファーガソン『強欲の帝国』早川書房、175〜177頁)

(注)「ハドソンは25の投資家に販売されたが、そのなかで最も大きな投資を行った顧客がモルガン・スタンレー<投資銀行>である。…モルガンはゴールドマンにハドソンの資産の精算を再三求めたものの、ゴールドマンはその要求に応えず精算を遅らせたため、モルガンは…9億6000万ドル<960億円>近い損失を出すことになる。一方…ゴールドマンはハドソンのショート<空売り>ポジションで2007年には17億ドル<1700億円>近くの利益を得ており、さらに…管理業務から手数料を得ていた」(『現代資本主義とマルクス経済学』、220〜221頁)


「大手
ヘッジファンドが、バブルに逆張りする<崩壊から利益を得る>ことを思いついた。…ジョージ・ソロス、ジョン・ポールソンなどの大手ヘッジファンドは、バブルが終わるとき住宅ローン関連商品<投機商品>のデフォルトに賭けて<空売りして>、…500億ドル<5兆円>を超えるかもしれない利益を手にした…」(『強欲の…』、163〜164頁)
「金融崩壊が起きた2008年、多くのヘッジファンド・マネジャーはそれぞれ10億ドル<1000億円>を超える利益を得た。…ジョージ・ソロスは33億ドル<3300億円>、…ジョン・ポールソンは23億ドル<2300億円>である」(ヘドリック・スミス『誰がアメリカンドリームを奪ったのか?』朝日新聞出版、上巻152頁)

ヘッジファンドは“空売り”を使ってバブルの崩壊から利益を得た。



 投機資本では国民の貯金や年金を投機資本家が収奪しています。1992年に、下落する株価を買い支えるため導入されたのが厚生年金・国民年金、郵便貯金、簡易保険などの国民の財産(公的資金) で株式を買う、いわゆるPKO(Price Keeping Operation =株価維持活動)でした。この結果、厚生・国民年金で6兆円(02年度)、郵貯・簡保資金では9兆円の運用損が発生しました。合わせて15兆円もの国民の年金・貯金が投機資本家に吸い取られてしまったのです。
 『金融資本論』を表したドイツの理論家ルドルフ・ヒルファディングは「かれら<投機資本家>の利得は…差益にすぎず、これにたいしては、それと同じだけの損失が対応せざるをえない。…投機は、ただ多数の局外者たちが参加して損失を負担するばあいにだけ、さかえる(『金融資本論』大月書店国民文庫、1910年、1巻307頁)と述べていますが、投機資本家は「局外者」である私たち日本国民から多額の年金や郵便貯金などを吸い取ってしまったわけです。

 2014年8月、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、130兆円ある全資産の18%までと定めていた国内株式の保有上限を撤廃することを決めました。(「日経」2014年8月10日)。14年秋には、国内株式に25%、海外株式に25%を投資できるように変更されました。株は先に見たように国債に比べてハイリターンですが、ハイリスクです。もし株式投資で失敗した場合は、かつてのPKOのように運用損を国民に押しつけることに踏み出したのです。アメリカでも全国民共通の年金部分は全額が国債で運用されているのにです。GPIFの年金資金は銀行や証券会社によって運用されており、儲かろうが損失となろうが「運用手数料」がこれらの会社に国民の年金から支払われています。2015年度の手数料は383億円にもなっています(「しんぶん赤旗」2016年9月3日)
 またゆうちょ銀行も株や外国債券などの投機商品にかける投資を、現行の46兆円から17年度には60兆円にまで増やす計画を発表しました(「日経」2015年4月2日)

国民の年金や貯金が投機資本家に吸い取られる。

 

 投機資本による国民からの収奪はこれ以外にも通貨投機を利用するものがあります。1992年のヨーロッパ通貨危機では、世界の投機家たちが中心になって大規模なイギリスのポンド売り・ドイツのマルク買いが仕掛けられました。イギリスの中央銀行はこれに対してポンド買い・マルク売りの市場介入を行いましたが介入資金が枯渇し、ユーロ市場から130 億ドル =約1兆3000億円の借入を行いました。イギリス国民は為替投機で多大の損失を被っただけでなく、1兆円以上の借金まで押し付けられたわけです。「イングランド銀行は外貨準備を犠牲にして投機筋に対抗しようと、為替市場でドイツマルクを売り、何十億ポンドとかけて買い支えに入った。…それは単に、国民の税金を投機筋の手に移すだけの愚挙だった。…<ゴールドマンの>外国為替部門はほんの数週間で2億ドル<200億円>を稼ぎ出した」(リサ・エンドリック『ゴールドマン・サックス』早川書房、231頁)

 投機資本では投下する貨幣の「量」がものをいいます。仮に1万円の株を買い、株の価格が100円値上がりし1万100円になったときに株を売って1万100円−1万円=100円の利益を得たとします。しかしこの株を100万株買っていたらどうなるでしょう。1万円×100万株=100億円が1万100円×100万株=101億円になり、差し引き1億円!の利益が得られるのです。資本家の得る利益は投下する貨幣の「量」に比例し、利益を百倍近くも増やすことができます。

 このため投機家は、金融機関から貨幣を借りて(すなわち貸付資本を利用して)、自分の貨幣を増大させて投機にのぞみます。このことを「レバレッジ(テコ)を利用する」と言います。宮島氏によれば、レバレッジは「ヘッジファンドの武器」(『ヘッジファンド』、176頁)、「魔法の薬」(179頁)です。レバレッジの大きさ、すなわち利益を何倍まで増大させられるかは、「米国債などのAAA格付けの債券に投資する場合、金融機関は1〜2%程度の担保金で資金を貸し付けるので、レバレッジは理論上は最高100倍までかけることができる」(『ヘッジファンド』、54頁)といいます。

 投機資本にとってものをいうのは「量」のほかに「時間」があります。例えば上記の1万円の株が1万100円に値上がりし、この株を売買して差し引き100円の利益を得るのに数秒の時間がかかったとします。数年前の米欧日の株式取引所では、投機資本の増殖に実際に数秒の時間がかかっていました。(しかし産業資本の増殖には数ヶ月かかりますし、貸付資本の増殖には半年から年単位の時間がかかります。投機資本が数秒で増殖できることは、投機資本の“優れた”性質といえます)

 しかし現代の東京証券取引所は最先端のコンピュータを導入して、1000分の数秒で売買を完了させるようになっています。ロンドンとニューヨークでは1万分の数秒、シンガポール証券取引所ではなんと10万分の数秒で売買を完了させるシステムを稼働させています。これが「高速度(高頻度)取引」です。こうなると理論上は、同じ数秒の間に以前の1000倍から10万倍の利益を上げることが可能になったわけです。
 ちなみに売買の値段が提示されるオファーの時間は、「10億分の2秒間」(ジョセフ・スティグリッツ『世界の99%を貧困にする経済』徳間書店、248頁)だといいます。10億分の2秒ごとにコンピュータは株の売買の判断をし、実際に売買が行われることで株の価格が変動していきます。「瞬間的トレーディング<高速度取引>が…市場のボラティリティー<変動性>を高めている」(同書、249頁)のです。

「株式が値上がりしたら売る」。この単純な売買を1秒間に数千回から数万回行う高頻度取引(HFT)は確実に儲けを挙げることができます。アメリカの投資会社バーチュ・ファイナンシャルは2009年から13年末までの5年間1238日で損を出したのはたった1日だけだったといいます(「日経」2014年4月6日)。高頻度取引は売買の回数を飛躍的に高めるので、売買量を必然的に増やします。日本取引所グループの最高経営責任者(CEO)は「HFTの拡大で東証はようやく世界と伍する売買量に復活した」と喜んでいるほどです。
 この高頻度取引が全取引の半分ほどになっているアメリカでは、この取引に意図的に0.00035秒の時間を加える私設取引所IEXが急成長しており、ゴールドマン・サックスなどの金融大手からも支持を得ているといいます(「日経」2016年3月14日夕刊)

東京証券取引所のコンピュータは1000分の数秒で売買を完了させることができる

 

 このように証券取引所が超高速の処理を要求されることは、投機にとって本質的な点です。ルドルフ・ヒルファディングは次のように述べています。「この敏速さは短期間のわずかな価格動揺<変動>をも利用しようとする投機の要求から主としてうまれる。…ここでは時は貨幣(かね)なり…である」(『金融資本論』、1巻282頁)またヒルファディングは、「投機は価格差の利用であり、そして価格差は時間のうちにうまれる。…売買しない時間は、すべての投機にとって単なる損失にすぎない」( 『金融資本論』、1巻301頁)と述べていますが、現代の取引所はいかに早く売買を完了してムダな時間をなくし、巨額の利益を得るために作られているのです。

 1000分の数秒から10万分の数秒は、人間が対応できる速度を大幅に超過しています。そこで現代の米欧日の株式取引所では、主要な取り引きはコンピュータたちによって行われています。このコンピュータたちが24時間休むことなく取引を行っているのです。ロシアの政治家ウラジーミル・レーニンはその著『帝国主義論』の中で、「たとえ商品生産は従来どおり『支配』していて、全経済の基礎と考えられるとしても、しかし実際には、それはすでに破壊されており、主要な利潤は金融的術策の『天才たち』の手に帰するようになるほどに、“資本主義の発展”は進行した」(1917年、岩波文庫、45頁。“ ”は筆者) と述べました。資本主義は現在、資本家に莫大な利益を与えるところまで"発展”してきているのです。

 実際、アメリカの株式取引所は、「2007年には、…単にデータセンターにあるひとそろいのコンピューターにすぎなくなっていた。そこで行われる取引の速度は、もはや人間による制約を受けなくなった」(マイケル・ルイス『フラッシュ・ボーイズ/10億分の1秒の男たち』文藝春秋、19頁)のです。
 なお
人間の知能に似た働きをするコンピュータ・プログラムのことを「人工知能(AI)」と言いますが、元『フォーブス』誌のアジア太平洋支局長ベンジャミン・フルフォード氏は、株式取引所で稼働しているコンピュータ・プログラムを「人工知能」と呼んでいます。「…ウォール街やシティ、東京など、世界中の市場を席巻している金融系の人工知能」(『アメリカが日本にひた隠す日米同盟の真実』青春出版社、116頁)

 現代の超高速株式売買の様子をアメリカの金融ジャーナリスト、マイケル・ルイス氏が『フラッシュ・ボーイズ/10億分の1秒の男たち』の中で活写しています。大手投機資本家(投資信託会社、年金基金、ヘッジファンドら)はまず、投資銀行(ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、クレディ・スイスら)に株の売買の指示を出します。投資銀行は自ら設立した私設取引所(ダークプールという。“濁って”いるので売買の中身が見えない)で売買するか、アメリカに13カ所ある公共の取引所(ニューヨーク証券取引所、ナスダック、BATSグローバル・マーケッツなど。2014年時点で大半がニュージャージー州にある)に売買注文を出します。それらすべての取引に要する時間は1000分の数十秒だといいます。

 



ニューヨーク証券取引所。実際の売買は人間ではなく超高速コンピュータが行っている。

 

 「時間」の短縮は、証券取引所の売買用コンピュータと投機資本家の売買指示用コンピュータとの間の情報伝達時間を極限まで短縮することに及んでいます。証券取引所の売買用コンピュータがいま株をいくらで売買しているかという情報を誰よりも早く入手し、誰よりも早く次の売買の指示を出せれば必ず儲けを得ることができるからです。そこで証券取引所は大手の投機資本家のために、取引所の売買用コンピュータの置いてある隣の部屋を大手投機資本家のコンピュータ設置用に貸し出すサービスを提供しています。取引所から離れた建物にあるコンピュータより、隣の部屋にあるコンピュータのほうがほんのわずかですが早く情報を入手して早く売買指示を出すことができるからです。これを「コロケーション・サービス」と呼んでいます。現在の東京証券取引所では、コロケーション・ルームに設置されたサーバの数は「数百台」(山田博文『99%のための経済学入門』、210頁)にも及び、そこからの注文は全注文の7割を占める日もあるといいます(「ブルームバーグ」2015年3月5日)

 現在のコロケーション売買では、部屋の中のコンピュータの位置までが重要になっています。「証券取引所の中にコンピュータを設置したある超高速取引業者は、…取引所のマッチング・エンジン<売買用コンピュータ>にいちばん近いケージを確保した。そこはもともとトイザらス…の場所で、…エンジンに数十センチも近づいたとまわりに悟られないよう、<トイザらスの>ロゴはそのまま残しておくよう指示してきた」(『フラッシュ・ボーイズ』、87頁)

 こうして投機資本をあやつる大銀行などの金融機関は、「製造業を追い越して、アメリカ経済最大のセクターとなった」(『誰がアメリカン…』、上199頁)、「<05年には>アメリカの企業収益総額の…46%になった」(同)というように、全資本家の利益の半分近くを稼ぎ出すまでになっているのです。

 

●投機資本は戦争を増殖に利用する

 投機資本が増殖するエネルギー源は、商品価格の「変動」にありました。株式市場、国債市場などでは株や国債の価格が常に変動しており、この変動が投機資本増殖のエネルギー源になっています。またこれらの価格の変動は、現代の金融経済を時々刻々変動する非常に不安定な経済に変えてしまっています。こうして中央大学名誉教授の高田太久吉氏によれば、「1970年代以降の…実物投資<産業資本>の停滞で…経済循環波動が比較的緩やかになる『大いなる平穏』と、…過去30年間で100回を超える国際通貨・金融危機に象徴される金融市場の極度の不安定性が並存する複雑な状況」(高田太久吉『マルクス経済学と金融化論』新日本出版社、243頁)が生まれているのです。

 この「変動」は投機資本にとって決定的に重要です。なぜなら商品の価格変動がなければ投機が成立しないからです。「円高になろうと円安になろうと為替ディーラーは痛痒を感じない。かれらにとって困る問題があるとすれば、相場が動かないことである。上下動がなければ利食いができない」(加藤仁 『ディーリングルーム25時』講談社文庫、21頁)のです 。そこでヒルファディングは次のように述べています。「投機業者にとって…眼目とするところは“変動“だけである。…かれの関心は、収益ができるだけ安定し、できればたえず上昇することをのぞむ産業資本家のそれ<関心>とは、まったく別のものである」(『金融資本論』、1巻264頁。“ ”は筆者)

「変動」をもたらす最たる例は、「戦争」です。戦争時にはさまざまな商品の価格がめまぐるしく変動します。投機資本はこの「戦争」を餌食に莫大な増殖を行っています。

 2003年4月に始まったイラク戦争でも投機資本の増殖が行われました。当時のアメリカの株価を見たのが下図です。2001年のITバブル崩壊後(01年3月)、アメリカの株価は右肩下がりに下がっていきます。アメリカへの同時多発「テロ」で株価は急落しますが、ジョージ・ブッシュ大統領が軍事行動を表明すると(9月20日)株価も急騰します。しかしその後も株価は下落を続け、米議会が対テロ戦争予算を承認したり(02年7月23日)、イラク攻撃を容認する(10月11日)たびに持ち直しますが、やっと2003年3月13日、アメリカは国連安保理決議がなくてもイラクへの先制攻撃を開始すると宣言すると株価が反転、急騰を始めたのです。このグラフを見る限りアメリカは、イラク戦争を起こすことでようやく株の暴落を防いだことが分かります。


(出所:日野学、『アメリカ株価急落』、../kyoukou/kyoukou.html

 

 戦争は産業資本である兵器の生産でもアメリカに莫大な利益をもたらし、そうした軍需産業に融資する貸付資本にも多額の利益をもたらしましたが、投機資本である株価の急騰によってもアメリカに巨額の利益をもたらしたのです。ジョージ・ブッシュ大統領が「イラクは大量破壊兵器を持っている」と嘘をついてまでイラク戦争を行った理由は以上で明らかです。

 2014年も、IS(イスラム国。)への空爆という“戦争景気”で株価のつり上げが行われました(下図)。連日、史上最高値を更新して不安定になっていたアメリカ株価は7月31日、アルゼンチン国債のデフォルト懸念などから317ドルの急落を起こします。8月に入っても株価は下がっていきます。これを受けてオバマ大統領は8月7日夜、イラクとシリアにまたがる地域に独立国家の樹立を宣言していた反政府武装組織「IS」のイラク領内への空爆を開始すると述べると、翌8日の株価は185ドルと急騰しました。その後もオバマ大統領は、空爆を継続するための財源を議会に要請することを示唆し(8月22日)、米国人ジャーナリストの“殺害”を受け(注)「正義の鉄槌を下す。…しかしISのような悪を取り除くのは、すぐにというわけにはいかない」と述べ(8月26日)、国防総省は空爆に1日8億円を消費していると公表し(8月29日)、戦争を長期に渡って継続させ戦争景気を膨らませて株価の上昇を促しました。

 なお「ISなど全てのテログループは、世界各地で、いつでも可能な時期に戦争を引き起こすためのアメリカとその同盟国の戦略の一部である」と、9.11同時「テロ」事件の独立調査委員会の設立者であるオーストリアのウェブレン・ヴィッセル氏は2016年1月にタスニーム通信とのインタビューで述べました(「ラジオ・イラン」2016年1月21日)。同氏によれば、「テロ組織の多くは西側諸国の情報機関によって結成されており、テロリストの存在は、世界各地で戦争を継続し、各国での自由を奪うための口実だ」としています。

ニューヨーク・ダウ平均株価


(出所:三井住友銀行、QUICK、前出)

(注)ちなみにISはイラクとシリアにまたがる反政府武装組織で、軍事力で支配地域を広げています。かつてはサウジアラビア、クウェートなどから資金援助を受けてアメリカやヨーロッパ製の武器を保有しています(ロレッタ・ナポリオーニ『イスラム国』文藝春秋、67頁)。つまりアメリカは、かつて自国の兵器を売り込んだ相手を空爆しているわけです。ISの指導者は、アメリカから新兵1人当たり600ドルの資金援助を受けたとまで述べています(「ロシアの声」2015年1月29日)。ベンジャミン・フルフォード氏によれば、ISの正体は「イスラムとは関係ない欧米人主体の傭兵集団」だといいます(『超陰謀論』青林堂、195頁)
 ISの指導者アル・バグダディは、04年にアメリカ軍に拘束され収容施設に入っていましたが、アメリカ軍に協力的な姿勢を見せていたとして釈放されたということです(「NHKニュース」2015年2月1日)。彼はアルカイダ(注)のオサマ・ビンラディンとよく比較されます。ビンラディンは「CIAの秘密活動に従事していた人物で…資金の多くは…サウジアラビアの王族から提供されていた」(『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』早川書房、3巻209頁)からです。フルフォード氏によれば、アル・バグダディの正体は「サイモン・エリオットというモサド(イスラエルの諜報機関)の工作員」(『超陰謀論』、195頁)だといいます。

(注)ISによる米ジャーナリスト“殺害”ですが、シリア大統領府が英BBCラジオに語ったところによると(「シリア・アラブの春」2014年8月26日)一人目の殺害は昨13年に行われていたが最近になってビデオがインターネットに公開された、国連もそのことを知っているとのことです。国連が昨年の処刑を知っているということは米国もそのことを知っている訳で、今になって大げさに取り上げてはジャーナリスト殺害を戦火拡大の口実に使っています。

 

 さらにオバマ大統領は米同時多発テロ13年目の前日に当たる9月10日夜、テレビを通じて国民へ演説を行い、「持続的な対テロ戦略を駆使しISを弱体化させる。シリアにいるISに対して行動することもためらわない」と、シリアを空爆し新たな対テロ戦争に入ることを表明しました。しかし翌11日の株価は19ドル下落。世界の投機資本家はイラクやシリアへの空爆だけでは満足していないことを示したのです。
 オバマ大統領が9月10日にシリアへの空爆に踏み切る考えを示すと翌11日、これに呼応してシリアの反体制派組織「シリア国民連合」が「シリアを過激派のいない地域にするには、アサド政権の排除が不可欠だ」との声明を出しました。国民連合はアメリカから武器や軍事訓練の提供を受けている組織です(米国から武器を提供されている組織はこのほかにも「自由シリア軍」などがあります)。ベンジャミン・フルフォード氏によると、アメリカの狙いは最初からシリアのアサド政権を倒して親米政権を打ち立てることだと言います。2013年8月にシリア政府軍が化学兵器を使ったとしてアメリカがシリアへの軍事攻撃を表明し、国際的支援が得られずに未遂に終わったのはその失敗例です。
 アメリカは2003年のブッシュ政権下で「中東拡張構想」を発動しました(下図)。「民主化」の名のもとに中東・北アフリカ全域に親米政権を打ち立て、この地域をアメリカの支配下に置く計画です。エジプトの「アラブの春」はこの計画の一環として仕組まれたといいます(、ベンジャミン・フルフォード『勃発!サイバーハルマゲドン』KKベストセラーズ、150〜151頁)

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(『勃発!サイバーハルマゲドン』、151頁)

(注)アルカイダに関しては、「全世界で合計300人にのぼるアルカイダの幹部のうち、アフガニスタンにいるのはじつは50人〜100人にすぎず、はなはだ弱体化したアルカイダ勢力の残りはパキスタンを拠点とし…サウジアラビア、クウェート、イエメン、アラブ首長国連邦の…援助におもに頼って活動している」(『もうひとつのアメリカ史』、3巻392頁)といいます。そこでアメリカ海兵隊戦争大学によれば、アメリカはアフガニスタンのアルカイダ幹部1人への攻撃に「毎年15億ドル(1500億円)」(同書、394頁)を支出しているといいます。

 

 2015年5月になって、有志連合から空爆を受けているISがイラクの州都ラマディを制圧したり(19日)、シリアの世界遺産パルミラを支配したり(21日)と、戦争を有利に進めている報道がされています。アメリカにとっては空爆で戦争景気を持続させること、シリアのアサド政権を倒すことが目的であり、ISを殲滅してはアサド政権を利することになるからです。IS掃討に参加しているイラン軍司令官も「米大統領は何もしていない。ISに立ち向かう意思がないことを示している」(「東京」2015年5月26日)と述べています。さらにアメリカの国防長官は15年7月、アメリカがトルコ、ヨルダンで軍事訓練を行うと述べていた穏健な反体制派の人数が60人にとどまっていると証言しました。IS打倒に向けたアメリカの意気込み?が示されています(「シリア・アラブの春」2015年7月7日)。これを受けてアメリカは10月9日、シリア反体制派への支援見直しを発表、軍事訓練は一時停止し、反体制派に武器を直接供与することになりました。12日には米軍が反体制派に輸送機から100箱以上の武器を投下。この武器投下に関して米国防総省の報道官は、「現地には他の反体制派組織もおり、これらの組織が武器の一部を手にし得る可能性はある」と述べ、米軍の武器がISなどに渡って内戦を悪化させる可能性があることを認めました(「シリア・アラブの春」10月16日)

 15年8月アメリカは、ISと戦闘中のシリアの「穏健な反体制派」が、IS以外のシリア政府軍などから攻撃を受けたら反体制派支援の空爆を実施すると発表しました(「ウォールストリート・ジャーナル」2015年8月3日)。アメリカの対シリア戦略が新たな段階に入りました。穏健な反体制派が攻撃の矛先をISからシリア政府軍に移せば(もともとシリア政府軍と戦っていたので)、米軍が空爆で協力することになったわけです。ホワイトハウスの報道官は、シリア政府は米軍のシリア領内での作戦に介入すべきでない、もし介入したら「さらなる措置」を講ずると述べました(いったいアメリカはどんな権利があって、独立国家シリアにこのような脅迫を行えるのでしょうか?)(「シリア・アラブの春」2015年8月3日)。これに先立つ7月29日には、シリアと国境を接するトルコが同国南部の軍事基地をアメリカ軍に使用させることを認めました。アメリカの空爆はこのトルコ基地から行われるものと思われます。早速8月25日、穏健な反体制派はシリア北部にある同派の拠点数カ所がシリア軍の戦闘機によって空爆され1人が負傷したと主張しました(「シリア・アラブの春」2015年8月25日)
 さらに米軍はシリア北部のアレッポ県などの上空に「安全保障地域」を勝手に決め、その上空にシリア軍機を近づけないようシリアに要請するとのことです(「シリア・アラブの春」2015年8月5日)。この要請をシリアに認めさせれば、トルコ南部の基地を離陸してシリア北部の安全保障地域を通過し、首都ダマスカスに向かう米軍機に対してシリア軍は迎撃ができなくなってしまいます。8月13日付けの「スプートニク」によれば、シリア北部に米軍が設置しようとしている安全保障地域は、「自分たちが管理下に置いている反政府勢力<ISなど>の中心地をつくるためにシリア北部に安全な場所を構築しようとしている」ものだと分析しています。

 一方8月8日の「シリア・アラブの春」によると、シリアの国民安保会議議長とサウジアラビア高官の会談が7月7日に行われ、その席でサウジ側から、イラン軍がシリアから退去すればサウジはシリア反体制派への支援を停止し、国連監視下で大統領選挙、国会選挙を進めることを提案したといいます。これは6月にロシアのプーチン大統領がサウジのムハンマド国防大臣と会談し、IS打倒のためにシリア、トルコ、サウジアラビア、ヨルダンの4カ国で同盟を結成する提案がなされ、この提案を受けてロシアの仲介でシリア議長とサウジ高官の会談が行われたということです。
 以上の報道を見る限り、アメリカはトルコの基地を利用してシリアを爆撃しようとしており、ロシアは中東4カ国で同盟を結成してIS掃討に当たるよう提案しているようです。

 これに関連してフランスのオランド大統領は9月7日、フランス空軍がシリア領内のISの空爆を検討していると発表しました(「日経」2015年9月7日)。これはシリアを含め中東・北アフリカからヨーロッパを目指す難民が増加しており、これを解決するにはシリア情勢の安定が不可欠だと判断したといいます(しかし難民はシリアだけでなくさまざまな国で発生しており、なぜシリアへの空爆が必要なのでしょうか? 一因として9月2日に発生したシリア人難民の子どもの溺死?事件がありますが、これも@事件当日のうちにトルコのメディアに写真が掲載された、A髪の毛や衣服や靴にほとんど乱れがない、など不自然な点も指摘されています)。イギリスのキャメロン首相も7日、英空軍が8月に無人機でシリア空爆を既に行っていたことを明らかにし、議会に対してシリア空爆の承認を得ていくと述べました(「AFP」9月8日)。オーストラリアも9日、シリア空爆に加わる方針を表明(「ウォールストリート・ジャーナル」9月9日)、14日にシリア政府の許諾なく空爆を実施しました(「シリア・アラブの春」9月16日)。これに対してシリア政府は国連事務総長宛に、米英仏豪がシリアの許可なく領土を空爆するのは主権侵害であり、軍事行動を行うのであればシリア政府の許可を得るようにと表明しました(アメリカはシリア政府の許諾なくシリア空爆を続けています)(「シリア・アラブの春」9月17日)。それにもかかわらずフランスは9月27日、シリアの同意なく勝手にシリア領内のISを空爆しました(「時事」9月27日)。国際問題を見る視点として、「立場を逆転させて見る」視点があります。もしシリア空軍がフランスの了解なしにフランス領内を空爆したらオランド大統領はどう思うでしょうか。
 オランド大統領は空爆はシリアのアサド大統領を利するものではなく、「シリアの安定はアサド政権の退任なしには、なし得ない」と説明。同様の立場を取る米英と連携してシリアを空爆し、どさくさに紛れてシリア政府を空爆しようとしているのではないかと指摘されています。

 以上の動きを受けてロシアがシリアで、政府軍を支援するためISとの戦闘に入ったとの記事を9月9日付け「ロイター」が報道しました。ロシア兵の数はまだ少人数とのことです。アメリカのケリー国務長官はロシアのラブロフ外相に電話で、ロシア軍の動きに懸念を表明、内戦の悪化につながると警戒感を示したといいます(米仏英豪のシリアIS空爆は内戦の悪化にはつながらず、なぜロシアのシリア政府支援が内戦を悪化させることになるのでしょうか?)。ロシアのラブロフ外相は「ロイター」の記事を否定、ロシアはシリアに軍備品と人道物資を搬送しており、ロシア製兵器の使用方法をシリアに教練していると述べました(「シリア・アラブの春」9月10日)。さらに9月から10月にかけてロシア海軍がシリア沿岸で実弾演習を行うこと(「AFP」9月24日)、シリアの軍用飛行場にロシアが滑走路を建設中であることが報道されました(「AFP」9月14日)

 シリアのアサド大統領は9月15日、対ISのためにシリア、米、仏、サウジ、トルコ、カタールが大連合を形成することを提案しました(「米フロントライン」9月16日)。またロシアのラブロフ外相は16日、アメリカのケリー国務長官にシリアでの軍事衝突回避のため米ロ両軍の対話を実施することを提案しました(「東京」9月17日)。これを受けて18日、米ロの国防相が電話で会談し、対ISで両軍が対話することで一致しました(「東京」9月19日)。さらにケリー国務長官はインタビューで、アサド大統領が早期退陣したらシリアの社会的生活が失われるだろうと述べ、大統領の早期退陣を求めてきたアメリカの立場を修正し始めたようです(「スプートニク」2015年9月30日)

(注)アサド大統領についてジャーナリストの堤未果氏は、『政府は必ず嘘をつく』の中で次のように説明しています。「ロンドンのIT会社に勤務するシリア人、イサム・アリー・カトゥラミーズは…指摘する。『アサド政権は独裁的な性質を持っていますが、大統領は自由な選挙で選出された指導者であり、国民の人気が高い人物です。私たちシリア国民が彼を支持するのは、…欧米の支配に屈しない姿勢からです』」(同書、126頁)

 9月21日には、米英軍から軍事訓練を受けた「穏健な反体制派」の新シリア軍75人がシリアに侵入した際、アルカイダ系のヌスラ戦線に“通行料”として所有していた武器の多くを提供したことが明らかになりました(「テレグラフ」9月22日、「時事」9月26日)。これでは穏健な反体制派は、穏健でない反体制派へ米欧の武器を提供する“内戦を悪化させる”役割をしていることになります。

 9月30日、ロシアはISやアルカイダ系のヌスラ戦線などに対象を限定して空爆を開始しました(「東京」2015年10月1日、「NHK」10月2日)。この空爆に対してアメリカなどでは、ロシア軍は反政府勢力を無差別に攻撃している、一般市民を巻き添えにしている、と報道しています(しかし空爆10日目の10月9日現在、具体的にいつ、どの地域のどの人たちが巻き添えになったとの報道はされていません)。これに対してプーチン大統領は「市民の間に犠牲者が出ているとする最初の情報は、我々の航空機が空中に飛び立つ前に報じられた。…我々は、この情報攻撃に対する準備が整っている」と発表しました(「スプートニク」2015年10月1日)。一方で米空軍は10月3日、アフガニスタン北部にある「国境なき医師団」の病院を誤爆したと報道されました。この爆撃で病院の患者含め22人が死亡、爆撃は病院が被害を受けているとの情報が米国に通知された後も止まらず1時間以上続いたとのことです。医師団によれば、病院の座標はわれわれがどこで働いているかを知らせるためにオープンにされていたとのことです(「AFP」「スプートニク」2015年10月5日)。その後の米軍の初期調査で、病院の座標は米軍データベースに入っていたこと、病院や学校は空爆できない場所に設定されていること、が明らかになりました(「CNN」10月17日)。10月26日にはイエメンの国境なき医師団の病院が空爆を受けたと、同組織のTwitterに掲載されました(「スプートニク」2015年10月27日)。さらに10月29日付けの「シリア・アラブの春」は、シリアにある国境なき医師団の病院12箇所が空爆され、合わせて35人が死亡したと報道しました。
 また10月24日のCNN報道によるとシリアの病院が10月24日までに空爆を受け、十数人が死亡したということです。病院運営者はロシア軍機が爆撃したと述べました。これに対しロシア国防省は27日、米英仏独とサウジアラビア、トルコの駐在武官を呼び、空爆の正式な根拠を提出するか声明を撤回するよう求めました。これに対しアメリカはロシアの病院空爆資料の提出を拒否しているとのことです(「スプートニク」2015年11月3日)。ロシア国防省は同国に対する情報攻撃が強まっていると述べました(「スプートニク」2015年10月28日)

 シリア空爆に関して米ロ両国は軍事衝突回避のための情報交換を開始していますが、米国はISの拠点に関する情報の交換を拒否していると報道されています(「シリア・アラブの春」10月7日)。これに関してロシア側は「ISを殲滅すべき真の敵とみなす国々は基地などについての情報で我々を支援してくれている。しかし米国はこのテロ組織に関して異なる見解を持っているようだ」と述べています。これに関連して、アメリカが支援している「穏健な反体制派」の一部が、シリアのアルカイダ支部である「アル・ヌスラ戦線」に合流していることを米国務省が認めました(「スプートニク」2015年11月5日)

 11月13日夜、フランスのパリ中心部で「テロ」が起き、少なくとも128人が死亡しました。問題はどのグループが犯行を実行したかです。NHKは「ISを“名乗る”グループ」がインターネット上に「パリの聖なる攻撃」との犯行声明を出したと報じています。一方、「毎日」は犯行声明は襲撃犯が8人だと述べているが実際は7人だったこと(実行犯7人は自爆するか射殺されました)、パリの10、11、18区で犯行を行ったとしているが実際は10、11区だったことなど微妙な間違いがあると指摘しています(2015年11月15日)。さらにISとは別の組織ですがイスラム軍は声明を出し、パリのテロは各国諜報機関が過激なテロリストを操って実行に移し、シリア国民とフランス国民の信頼を揺るがそうとするものだと主張しています(「シリア・アラブの春」11月14日)。11月22日の「東京」によると、フランスの情報当局は8月に拘束していた男から、主犯のアブデルハミド・アバウド容疑者から「最大限の犠牲者を出すためにコンサート劇場を攻撃せよ」との指示を得ていたとの情報をつかんでいたといいます。また15年1月にはベルギー警察が、主犯のアバウド容疑者が同国でテロを計画していたとして逮捕していたといいます(「CNN」2016年2月9日)
 テロを受けフランス国防省はシリア空爆を再開、首相は「われわれは戦争状態にある」、国防相は「ISの全ての拠点を爆撃する」と述べました(「シリア・アラブの春」11月16日)。シリアをめぐっては、アメリカ、ロシア、サウジアラビア、トルコ、イラン、国連特別代表などが会議を行い、6ヶ月以内にシリア国内での停戦、信頼できる政府の樹立のためにシリア人による「移行プロセス」を開始、18ヶ月以内をめどに公正な選挙を実施する、ところまで合意しました(「シリア・アラブの春」11月14日)。ロシアのIS空爆によって情勢が急展開を始めているわけですが、一部で今回の「テロ」を口実に米仏などがIS空爆を強め、和平会議での主導権を握ろうとしているのではないかとも指摘されています。16日にはオランド大統領が演説を行い、テロは国際ネットワークで計画・準備・実行された。IS打倒も国際社会全体に関わると述べ、国際社会の結束を訴えました(「AFP」2015年11月17日)
 オランド大統領は16年1月、3ヶ月間実施してきた「非常事態宣言」をさらに3ヶ月延長することを決めました(「日経」2016年1月24日)。非常事態宣言下では国民の集会やデモが禁止され、令状なしでの家宅捜査や逮捕ができます。これでは自分たちに都合の悪い勢力を勝手に逮捕拘禁できてしまいます。

 2016年5月27日の「日経」は、15年のフランス兵器の輸出額が過去最高の2兆円(160億ユーロ)に達したと報道しました。理由はイラク、シリアへ実戦投入した仏製兵器の実績をアピールして売り込んだとしています。フランスで起きた「テロ」は仏製兵器の輸出増に“貢献”したのです。15年の世界の軍事費は前年比1%増の1兆7000億ドルに達したともいいます。その理由としてウクライナや中東での紛争を受け、各国が国防費を拡大しているからだとしています。

 シリアのアサド大統領は15年11月のテレビのインタビューで、ロシアは2ヶ月でアメリカが1年で成し遂げたことより多くのことを成し遂げた、テロリストは空爆の続くシリアからトルコ、イエメン、欧州へ数千人単位で逃げ出していると述べました(「スプートニク」2015年11月22日)。またイラクの通信社は、ロシアなどの空爆でISの基地は残り34箇所に激減した、近い将来に完全に瓦解する可能性があると述べました(「スプートニク」2015年11月23日)

 イギリスの「サンデー・タイムズ」はオズボーン英財務相がIS攻撃のために新たに138機の戦闘機を1800万ドル(18億円)かけて購入すると報道しました(「スプートニク」2015年11月22日)。ISの基地が完全に瓦解する可能性がある今になって戦闘機を130機以上購入するとは、どういうことなのでしょうか? パリの「テロ」を自国の軍拡のために利用しようとしているのでしょうか? さらにキャメロン首相は23日、@対テロ用に5千人規模の2旅団を新設する、A5兆8千億円かけて4隻の核兵器搭載原子力潜水艦を更新する、と演説しました(「東京」2015年11月24日)

 11月24日、IS空爆任務に就いていたロシアの戦闘爆撃機スホイ24がトルコの戦闘機F16によって撃墜されました。トルコ軍は領空を侵犯した国籍不明機に10回警告を行ったが、領空から退出しなかったため撃墜したと述べています。一方、スホイ24からパラシュートで脱出した乗組員は無線でも視覚的にも警告は一切なかったとしています(「スプートニク」2015年11月25日)。この事件と関係がありそうな記事が27日付けの「スプートニク」と「BBC」で報道されました。トルコの新聞「クムフリイェット」の編集長が、同紙に5月、トルコからシリアのISに武器を供給していたトルコ情報部「国家情報機構」のトラックの写真を掲載したとして逮捕されたのです。トルコの情報部がISに武器を輸送? トルコ軍機がロシア軍機を撃墜? 両者は深く関連しています。この件に関連してイラクの元国家安全保障補佐官は、ISがトルコの闇市場でイラク産の石油やガスを8ヶ月間で8億ドル(国際価格の半分)で販売していると述べました(「スプートニク」2015年11月29日)。またアメリカ財務相は12月10日、ISがシリアにも石油を販売していると述べました(「日経」2015年12月12日)

 トルコとISが武器と石油の物々交換を行っている疑惑が浮上していますが、12月7日シリア外務省は、6日の夜に同国東部のシリア軍基地が米軍戦闘機4機による空爆を受けたと発表しました(「シリア・アラブの春」2015年12月7日)。一方、アメリカ国防総省は連合軍によるシリア軍基地攻撃を否定し、6日の空爆はすべて油田に対して行ったと述べました(「NHK」12月8日)。しかし8日付け「AFP」は連合軍が7日もシリア北東部の村を空爆、市民少なくとも26人が死亡したと報じています。しかしその後、米軍機によるシリア軍空爆はマスコミで報道されなくなりました。

 アメリカ、ロシア、サウジアラビア、トルコそして国連は、シリア内戦問題を集結させることで合意していますが、このほどシリアで欧米の支援を受けている反政府勢力が一同に会し、シリアとの話し合いに向けて統一組織を発足させることで合意しました(「NHK」2015年12月11日)。同勢力は政権移行が始まる時点でアサド大統領が退陣することを求めていますが、大統領の退陣を決められるのは反体制派ではなくシリア国民の選挙ではないでしょうか? これに対しシリアのアサド大統領は11日、テロ組織などの武装勢力とは政治的話し合いをしないと述べました(「しんぶん赤旗」2015年12月13日)

 12月28日、イラク国営テレビはイラク軍が、ISの支配してきた州都ラマディを奪還・解放したと報じました(「ロイター」2015年12月28日)。ISに対するイラク軍の大規模な勝利はこれが初めてです。これに関連して同日付け「スプートニク」はイランのFars通信がシーア派武装組織司令官の話として、アメリカ軍がヘリでIS幹部をイラクから避難させていると報道したと紹介しました。また2016年1月19日付けの「スプートニク」は、有志連合の空爆によりISの地下金庫が破壊され紙幣が消失した。これを受けてISの財務省は戦闘員に払っている給料を半減させると発表したとのことです。ISは金で買われた各国の傭兵集団からなっていますが、給料の半減でISの戦闘力は急激に低下するかもしれません。

 イラクの隣国サウジアラビアは2016年1月2日、11年から13年にかけて反政府活動を行ったとするシーア派指導者のニムル師と、03年から06年にアルカイダの攻撃に関与したとされるスンニ派あわせて47人の死刑を執行しました(「ニューズウィーク」1月3日)。サウジが集団死刑を執行したのは1980年以来36年ぶりと極めて異例です。これに反発したイラン・シーア派の民衆がテヘランのサウジ大使館に投石や火炎瓶を投げて抗議するとサウジは3日、イランとの断交を表明しました。4日にはスンニ派国のバーレーン、スーダンもイランとの断交を表明しました。
 これに対してイラン外務省は4日、「サウジはこの事件を利用して、緊張感を高めようとしている」(「ニューズウィーク」1月4日)と述べました。実はサウジは、原油価格の低迷で16年度予算の財政赤字を10兆5千億円計上しています。欧米からの経済制裁が解かれるイランからの原油輸出が始まれば、価格はさらに下落する可能性があります。4日付けの「スプートニク」は、サウジとイランの衝突で週明け4日の石油価格は3%上昇し、今後両国の緊張が高まれば石油価格はさらに押し上げられるだろうと述べました。今回の衝突でどの国が利益を得るかは明白です。
 さらに7日にはイランが、イエメンにある同国大使館がサウジ軍に空爆を受けたと発表しました。サウジは「調査する」としていますが、サウジ・イラン間の緊張は日に日に高まってきています。

 アメリカのカーター国防長官は16年1月22日、シリアとイラクのIS掃討に向けて有志連合の陸軍を投入する計画があると述べました。同日付け「スプートニク」が報じました。2月12日にはトルコの外相が、サウジアラビア軍の戦闘機が有志連合の利用するトルコ南部の基地に到着したと述べるとともに、サウジとトルコの地上部隊がシリア領内のISとの戦闘に参加するだろうと述べました(「シリア・アラブの春」2016年2月13日)
 またトルコ軍は16年2月13〜14日、トルコ領内からシリア北部のシリア民主軍の拠点に越境砲撃を行いました(「シリア・アラブの春」2016年2月14日)。シリア政府は国連に対し、越境砲撃を止めさせるよう要請しました。米国も越境砲撃を止めるようトルコに対して要請しました(同2月13日)。またトルコからは重火器を持った反体制派武装集団約350人が国境を越えてシリアに潜入したと同紙は報じています。トルコからの越境砲撃についてロシア外務省は「トルコからこの地域を経由してISに武器や食料を供給し続けるのが目的だ」と述べました(「シリア・アラブの春」2016年2月16日)。これに対してトルコのエルドアン大統領は、米軍がシリア民主軍と連携するクルド人民主連合党(PYD)を支援するなら、トルコの空軍基地の使用を封鎖すると述べました(「シリア・アラブの春」2016年2月19日)
 シリア北部では「国境なき医師団」が運営する病院5箇所と学校2箇所がミサイル攻撃を受け、50人近くが死亡したと報道されました(「東京」2016年2月16日)。医師団の関係者はロシア軍かシリア軍の攻撃だと述べましたが、シリアの駐ロシア大使は米軍が空爆したと主張し、国連大使はシリアにおけるフランス諜報機関の支部だったと述べています(「スプートニク」2016年2月17日)。シリアでは5日にも医師団が運営する病院が空爆を受けていました。

 米ロ主導でシリアでは16年2月27日から一時停戦が発効していますが、米中央軍司令官は3月8日、オバマ大統領に「穏健な反体制派」への軍事訓練再開の許可を求めました(「シリア・アラブの春」、2016年3月8日)。同司令官は「戦線を退いた者たちを再動員すれば、より大規模なグループの一部をなすことができる」と述べていますが、米軍はシリアの一時停戦を内戦終結のためのステップと見ているのか、反体制派を再構築する期間と見ているのかが疑われます。
 またイラクのテレビが3月9日に報じたところによると、IS(イスラム国)はイラク北部のキルクークで化学兵器を使用し、住民4人が死亡したとのことです(「ラジオイラン」、2016年3月9日)。使用した化学兵器は「塩素ガス弾」だとしています。またISは4月8日にもシリア北部のアレッポで塩素ガスを使用したとレバノンのテレビが報じました(「ラジオイラン」2016年4月8日)。アメリカはシリア政府軍が化学兵器を使用した疑惑に対してはシリア政府を空爆すると脅したにもかかわらず、ISが化学兵器を使用しても何も言わないのはどういうわけでしょうか。

 16年4月24日の「イラン・パルス・トゥデイ」は、サウジアラビアの関係者がアメリカのケリー国務長官に語った話として、サウジはまずテロ組織アルカイダを、次いでISの基盤を築いた、これはCIAにとって周知の事実だとのイギリスの新聞「フィナンシャルタイムズ」の報道を紹介しました。さらにアメリカのロン・ポール共和党議員は、CIAとアメリカ国防総省はシリアのアサド大統領を辞任させるためにISを必要としていたと述べたとのことです。
 さらに同日付けの「イラン・パルス・トゥデイ」は9.11同時多発「テロ」に関するアメリカ議会の調査報告書に28頁にわたる機密部分があり、それにはテロへのサウジアラビアの関与が記されているが、ブッシュ元大統領、オバマ現大統領の圧力により公表されなかったとするニューヨークタイムズの記事を紹介しています。タイムズ紙は「アメリカ国民は、この事件の航空機ハイジャック犯19名のうち、15名がサウジアラビア系テロ組織アルカイダのメンバーであり、サウジアラビア人がこのテロ事件で役割を果たしていたことを現在も知らない」と報じているといいます。

 16年5月23日、イラク軍はISが占拠するファルージャへの攻撃を開始しました。また6月4日付けの「スプートニク」は、ロシア空軍の支援を受けたシリア政府軍が、ISが首都と宣言したラッカ県の境界線を越えたと報じました。イラク・シリア両国の対IS作戦が好戦に転じています。6月8日にはイラク軍がファルージャ南部をISから奪還し、17日には同市中心部を奪還しました。しかし一方で隣国トルコから多数のトラックがシリア国内に移動している様子がロシアの無人機によって撮影されており、このトラックの中には戦闘員や武器が積み込まれているとの懸念が出されています(「スプートニク」6月4日)

 

●産業資本は賃金の切り下げを狙う

 産業資本は貨幣Mを労働者の賃金や材料の購入に使い、労働者が材料を加工して作った新しい商品を販売して貨幣M’を得て貨幣を増殖させています。産業資本で資本家が常に狙っているのが、労働者の賃金の「切り下げ」です。「現代企業が利潤を確保する最大の方途は可能な限り雇用と賃金を削ること」(高田太久吉『現代資本主義とマルクス経済学』新日本出版社、276頁)だからです。
 最近では大企業が“積極的に”賃金を切り下げています。ソニーが導入した「ジョブグレード制度」は、仕事の役割に応じた等級グレードで賃金を払うというもので、労組の7割が賃下げとなったと回答しています(「しんぶん赤旗」2016年5月11日)。またルネサスエレクトロニクスでは各種手当ての縮小廃止、基本給の一律7.5%の削減で100億円もの人件費を削減しています。

 さらに現代の日本では非正規労働者の賃金は2015年で正規労働者の35.2%、大企業内の非正規労働者にいたっては27.1%しかありません(「しんぶん赤旗」2016年12月4日)。非正規労働者が作った商品は正規労働者が作った商品と同じ価格で売れますので、資本の増殖分には本来の剰余価値=利潤(最初の資本Mの増加分。M’−M)に加えて、労働者に支払われなかった賃金が上乗せされます。日本の産業資本の“正規の”増殖率は 〜数%ほどですが、非正規労働者を使うと資本の増殖率を高くすることができるのです。(アメリカでは非正規労働者よりさらに賃金が安い囚人労働者が大規模に使われています。(堤未果『貧困大国アメリカU』岩波新書))。マルクスもこう述べています。「…労働者そのものを安くする…のは、資本の内的な衝動であり、不断の傾向なのである」(2巻163頁)

「ロイター紙」はこの非正規労働者が全体に占める割合は37.5%になっており、これが日本の個人消費の低迷を招いているとしています。彼らが食費や家賃などを支払うと消費や貯蓄に回せる金額はほんのわずかとなってしまい、住宅や自動車などの耐久消費財の販売が日本で低調である原因だと指摘しています。


 マルクスによれば、現代の非正規労働者の存在は次のように説明できます。資本家たちは安い商品をつくる競争戦において、機械などの生産手段を増やしてその分、労働者をリストラします。こうして一部の労働者は生産過程からはじき出されます。彼らが再雇用される時には賃金は下がり、社会保障が削られるのです。こうして彼らは、「自由に利用されうる…いつでも搾取できる人間材料」(『資本論』、3巻219頁)である「非正規労働者」にされてしまうのです。

 日本の非正規労働者の数は2014年11月に初めて2000万人を突破し2012万人となりました(「東京」2014年12月26日)。全労働者に占める割合は38.0%に達しています。15年国会には派遣期間は最長で3年としていた労働者派遣法を改悪し、部署を変えれば生涯派遣=生涯非正規労働者化を狙う法案が提出されています。またアメリカでは「ここ5年間<07年〜12年>、住宅市場が下降して、2500万人のアメリカ人が安定したフルタイム<≒正規労働者>の職を失う」(『誰がアメリカン…』、上146頁)ことになったといいます。国際労働機関(ILO)は2015年5月、非正規労働者を正規労働者に是正すれば需要不足が解消され、世界のGDPを3.6%押し上げるとの試算を発表しました(「日経」2015年5月20日)

正規労働者と非正規労働者間には厳然とした格差が設けられている。

 

 マルクスによれば、貨幣を増殖させるのは人間(労働者)の「労働」です。この「人間労働」が価値を生み出し、それが貨幣を増殖させ資本の増殖分になるのです。この資本の増殖部分=利潤=剰余価値はすべて資本家が分捕ります。さらに、労働者の賃金を切り下げることで資本家が手にする分け前は、本来の利潤=剰余価値を超えてさらに大きくなるのです。

 剰余価値を超えて資本家が労働者から搾取するさまを労働総研の藤田宏常任理事が次のように記述しています。「大企業の付加価値<≒利潤>は、98〜07年度にかけて…12.5兆円増えて…います。しかし…抜群の伸びを示しているのが営業純益で…16.7兆円増…です。…減っているのは、人件費で…3.9兆円…減少しています。つまり…営業純益が16.7兆円も増加したということは、付加価値が増加した分の12.5兆円すべてを企業の取り分にしたうえ、さらに人件費削減分3.9兆円もまるまる懐に入れたということを意味します」(『財界戦略とアベノミクス』本の泉社、27〜28頁)

 こうして労働者の賃金はさまざまな理屈をつけながら切り下げられていき、その切り下げられた分が資本家の資本の増殖分に付け加えられていくのです。日本では労働者の賃金は、消費税が5%に引き上げられた97年の翌年から右肩下がりに低下してきています(下図)。こうして労働者の賃金は年々切り下げられていき、逆に資本家の資本の蓄積分は加速度的・雪だるま式に増えていきます。例えばアメリカでは、「1980年、<資本家である>CEO<最高経営責任者>の報酬は平均的会社員<労働者>の給与の40倍だったが、00年には400倍近くに急増していた」(『誰がアメリカン…』、上162頁)といいます。
 そこでマルクスは、「…拡大された規模での再生産、すなわち〈資本の〉蓄積は、拡大された規模での資本関係を、一方の極に…より大きな資本家を、他方の極により多くの賃金労働者を、再生産する(注)(1巻190頁。<>は筆者)、「一方の極での<資本家の>富の蓄積は、同時に反対の極での、…<労働者の>貧困…の蓄積なのである」(241頁)と述べたのです。労働者の貧困こそ資本家の富の源泉なのです。マルクスも述べています。「社会が…富裕化の状態にあるのはどんなときにか? …労働者の生産物がますます多く彼の手から奪い取られ、…ますます多く資本家の手中に集中されることによって」(『経済学・哲学手稿』大月書店国民文庫、34頁)

(注)ノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大教授のジョセフ・スティグリッツ氏もこう述べています。「金持ちはもっと金持ちになり、…貧乏人はもっと貧乏になり、もっと数が増え、中流層が空洞化していく(『99%…』、44頁)

 

 アメリカでも労働者の賃金・所得は下落か、ほとんど横ばいが続いていると言います。「米商務省によると、米国民の所得はピークの1999年から12年までに9%下がった」(「日経」2014年6月18日)、「実働時間数補正後の1時間あたりの平均所得は、過去30年間ほとんど変わっていない」(『強欲の帝国』、402頁)。国際労働機関(ILO)は、一部の先進国では賃金が低下しており、2013年の日本、英国、イタリアの実質賃金は07年レベル以下まで低下していると発表しました(「AFP」2014年12月5日)

 

(出所:厚生労働省『毎月勤労統計調査』)

 

 日本では「賃金が支払われているだけマシ」という異常事態が常態化しています。「サービス残業」です。サービス残業は、@終業時刻を終えた夜、Aタダで自分の労働力を働かせて、Bタダで資本家の資本を増殖させてあげているものです。2013年度、厚生労働省の指導でサービス残業を是正させて支払われた賃金は123億円!、14年度は142億円にも上っています(「しんぶん赤旗」2014年12月26日、2016年3月4日)。政府はサービス残業を合法化し残業代をゼロとする「ホワイトカラー・エグゼンプション(名称:高度プロフェッショナル制度)」を、当面は「年収1075万円以上」の専門職に限定するとは言っていますが2015年の通常国会で成立させようとしています。

 2013年、年収200万円以下のワーキングプア(働く貧困層)が1100万人を突破しました。一方、年収400万円超800万円以下の「中間層」は10%も減少しました。中間層が崩壊し、貧困層が益々増えてきているのです(「しんぶん赤旗」2014年9月30日)

 ちなみに資本家は労働者の賃金を切り下げるのと同時に、自分たちにかかる税金も切り下げます。アメリカの投資家ウォーレン・バフェット氏は「力仕事や重労働で額に汗してお金を稼ぐと、税率はどんどん上がります。…大金持ちが支払っている税金が、彼らのオフィスを掃除する人たちより少ないということが、きわめて高い確率で起こりうるのです」(『誰がアメリカン…』、上158頁)と述べています。またアメリカのブッシュ大統領が2001年に行った大規模減税では、「最上位5%のアメリカ人に1兆ドル<100兆円!>以上をもたらした」(『誰が…』、上180頁)のです。

 こうした大規模減税を勝ち取るためにアメリカの資本家たちが「経済団体」を作って活用していることを、『誰がアメリカンドリームを奪ったのか?』の著者ヘドリック・スミス氏が活写しています(同書、上180〜183頁)。@アメリカ商工会議所、Aビジネス・ラウンドテーブル、B全米製造業者協会、C全米独立企業連盟、D全米レストラン協会、E全米卸売業流通協議会は、「減税連合」という“6人組”団体を作り、ブッシュ大統領、ジョージ・オニール財務長官、カール・ローブ大統領政策・戦略担当上級顧問とサシで減税について打ち合わせました。この減税連合はアメリカの大中小企業180万社を代表しているといいます。日本では日本経団連、経済同友会がこの任にあたっています。

 こうして世界で最も発達した資本主義国家アメリカの「貧困率(世帯の所得が平均世帯所得以下の世帯の割合)」は、「OECDに加盟する31カ国中、…29位」(『もうひとつのアメリカ史』、3巻335〜336頁)とほぼ最下位となっています。またアメリカでは「企業の所得のうちどの程度が雇用者<労働者>に報酬としてまわっているかを示す労働分配率が…『2011年に戦後最低を記録』」(藤井彰夫『イエレンのFRB』日経新聞出版社、156頁)しました一方、日本の「“企業分配率”<企業所得のどれほどが企業に回っているか>」は「最高時の2006年度には…28.7%」(『財界戦略とアベノミクス』、27頁)といいます。つまり日米の資本家は21世紀に入って以降、労働者の賃金をこれまでで最も切り下げてきているのです。

 資本主義が発展するほど資本家には富が蓄積され労働者は益々貧困になることを別の言葉で言ったのが、資本家階級と労働者階級(注)の「格差の拡大」です。「格差」はマルクスが上で述べたように、資本主義が発展して資本の拡大再生産が繰り返され、資本の蓄積が進めば進むほど拡大します。上位約1パーセントが政治・経済を支配する現在のアメリカ(注)の両階級の格差は、世界大恐慌時を上回っていると言われています(注)。格差の拡大は現在、世界規模で発生しています(注)。2014年12月には経済協力開発機構(OECD)が、「所得格差は経済成長を損なう」とのレポートを発表しました(注)

(注)生産・貸付・投機資本を所有している人たちを「資本家階級」、資本を所有せず資本家の下で労働する人たちを「労働者階級」と言います。同じ階級に属する人たちの経済的利害は一致しています。資本家階級と労働者階級のように「階級」はいまも客観的に存在していますが、「階級」という言葉は今や”死語”に追いやられています。アメリカでもそうだと、コロンビア大学教授のスティグリッツ氏は述べています。「従来、アメリカ人は階級的な分析を敬遠してきた。…<しかし>資本家と労働者のあいだにも、格差が存在するべきではないのだ」(『99%…』、22頁)

(注)ジャーナリストの堤未果氏によれば、「アメリカでは寡占化した業界のトップに君臨する少数企業とウォール街が形成する1パーセントと、その傘下で低賃金と増税、医療や教育費に苦しむ99パーセントの二極化が完成している」(『沈みゆく大国アメリカ』集英社新書、179〜180頁)といいます。

(注)「2012年、アメリカでは上位10%の世帯の所得が、国民の総世帯所得の50.4%を占めた。これは1917年<世界大恐慌は1929年>以降で最大の割合だ…」(『日米同盟の真実』、154頁)

(注)2006年12月の調査では「豊かな1%が世界の富の40%を所有(『もうひとつのアメリカ史』、3巻320頁)しています。スイスの銀行UBSなどが2014年11月に発表した報告によると、世界の総資産の13%(約3,528兆円)は、世界の成人人口のわずか0.004%の資本家によって保有されているといいます(「AFP」2014年11月21日)

(注)レポートによれば、「イタリア、英国、米国では、所得格差が拡大していなければ、<過去20年間の>累積成長率は6〜9%高」かっただろうといいます。その理由として「貧しい社会経済的背景を持つ子どもの教育機会を損ない、…技能開発を阻害することによる」と述べています。

OECDは格差が経済成長を阻害するとのレポートを出した。

 

 特に資本家は恐慌期に労働者や中間層<零細企業など>から富を奪い取り格差を拡大します。恐慌期には株や土地などの資産の価格が暴落しますが、資本家はこの暴落した資産をただ同然で買い取るからです。事実、「上位1%の超富裕層は、…2010年、08年の金融崩壊後に景気が回復してから丸1年後、国全体の利益の93%を獲得した」(『誰がアメリカン…』、上151頁)のです。

 労働者の貧困化は政治を保守化すると、ニクソン大統領時代の共和党の戦略立案にかかわったケヴィン・フィリップス氏は次のように述べています。「投票所にこないドロップアウトの大半は、年間所得2万5000ドル<250万円>以下の人たちである。…この人たちが、二大政党の経済政策のどちらも自分たちの暮らしをたいしてよくはしてくれないと考えている。…<こうして>西側経済大国は、産業界と金融界のエリートや高所得層の票を土台とする保守派指導者に支配された」(『富と貧困の政治学』草思社、56〜58頁)

 こうして産業資本家の手元には莫大な利益が集中されますが、彼らはこの利益を労働者の賃上げには使わず(そうすれば資本の増殖率が下がってしまいます)、生産手段の更新にも使わず(商品を生産する工場は労働力の安い東南アジアにつくっており、日本国内の設備需要が低迷しています)、「内部留保」に回して「財テク」で投機資本に投下して増殖させているのです。

 内部留保とは企業の中に貯め込まれた「利益剰余金」や「資本剰余金」などを言います。トヨタ自動車は2013年4〜12月期に1兆8559億円の営業利益を上げましたが、利益の約6割にあたる1兆1300億円を内部留保の利益剰余金に回しています。このように産業資本家が多量の利益を内部留保に回している理由として、産業資本(本業)の増殖率より投機資本(内部留保の運用)の増殖率の方が高いことがあります。「非金融企業による金融商品への投資は、機械や労働力への生産的投資よりも急速に増大した」(マウリツィオ・ラッツァラート『<借金人間>製造工場』作品社、133頁)のは、そのためです。産業資本家が、変動が激しい経済環境下で内部留保を運用する際に欠かせない手法が、「デリバティブ(金融派生商品)」の利用です。

 デリバティブとは、「為替レートや金利の目まぐるしい変動は、一方で、変動リスクを回避する(ヘッジする)新しい商品を生み出しました。それが「金融派生商品(デリバティブ)」です。金融派生商品とは文字どうり、@通常の金融取引から派生した、A商品です。「@通常の金融取引から派生した」とは、通常の外国為替や国債、株式を売買するのではなく、将来のそれを売買したり(先物)、それらを将来に売買する「権利」を売買したり(オプション)、それらの金利を交換したり(スワップ)するものです。…金融派生商品はまた「A商品」ですから、それを購入する人は、それを売る人(金融機関)にお金を払います。金融派生商品の販売益は、銀行の重要な収益源になりつつあります」(日野学『マネー+コンピュータ=投機資本主義』、../touki/touki.html

 そしてデリバティブは、企業が所有している内部留保=金融資産が変動するリスクをヘッジすることができるのです。「企業や金融機関は、金融資産そのものを売買することなく、そこから自分がヘッジしたいリスクだけを分離する…。リスクを回避したい経済主体は一定のコストを支払うことでそのリスクを売却する」(「現代資本主義と…」、新井大輔、200頁)ことができるのです。

トヨタ自動車は利益の6割を内部留保に回した。


 こうして大企業が貯め込んだ内部留保の額は2016年3月末時点で366兆円にも達しています。この額は日本の国家予算の3倍以上です(なお企業は、内部留保以外に普通の「現預金」を229兆円<2014年6月時点>所有しています)。経団連は「内部留保を原資とした賃上げは企業の競争力や成長力の低下をもたらす」と賃上げに反対しています(「しんぶん赤旗」2015年9月4日)
 内部留保の蓄積は、産業資本家が貸付資本家からの融資へ依存する割合を低下させています。「企業部門は、…必要な資金を内部留保によってほぼ充足することが可能であった。…言い換えると、現代資本主義のもとでは、企業財務の銀行信用からの『独立』が相当高い程度に達しているのである」(『マルクス経済学と…』、18頁)
 こうして産業資本家=大企業の経常利益に占める財テク利益の割合は、13年度には20.2%にもなり、産業資本家は利益の5分の1を投機で稼ぎ出すまでになっているのです(『財界戦略とアベノミクス』、41頁)

 労働総研の藤田宏常任理事によれば、日本企業の1998年までの10年間の内部留保増加額は年間5兆円でしたが、98年度以降10年間の年間増加額は21兆円に急増しています。その理由は、@98年以降の正規労働者の右肩下がりの賃金切り下げ、A98年の労働者派遣法「改正」による非正規労働者(賃金は正規の約半分)の急増、により浮いた賃金を内部留保に振り向けていったからです。こうして貯め込んだ内部留保は「証券購入や金融部門での運用<注:投機!>、海外投資等にふりむけている」といいます(『内部留保をめぐるいくつかの議論について』、http://www.yuiyuidori.net/soken/ape/2011/data/110608_01.pdf)。事実、大企業の98年度から13年度への内部留保増加額は141.7兆円ですが、この期間の大企業の有価証券投資額もちょうど141.6兆円増えているのです(『財界戦略とアベノミクス』、38頁)

 一方、設備投資である土地や工場・機械などの「有形固定資産」への投資は、「1998 年度の 498.5 兆円から、2009 年度は 459.1兆円へと 39.4 兆円も減」(同上)らしています
。つまり大企業は利益を設備投資に回さずに内部留保に振り向けて、投機資本に投下して内部留保を増殖させているのです。

 また藤田氏は、これら内部留保を急増させた「賃金破壊」によって、労働者の「給与総額は<98年の>222.8兆円から<2007年の>201.3兆円と、11.5兆円も減っています。内需の6割近くを占める個人消費の大半を占める労働者の賃金がこれだけ減少したわけですから、…デフレ不況が続くのも当然です」(『財界戦略とアベノミクス』、20〜21頁)と、日本のデフレ不況の原因として挙げられる「需要の減少」が「賃金破壊」に他ならないことを数値を上げて指摘しています。

 

●投機資本は富を収奪する。格差が拡大し“投機バブル”が生まれる

 産業資本では労働者の労働で新しい商品に価値が付け加えられていきます。また貸付資本でも、貨幣を貸し付けられた産業資本家の下で、労働者によって価値が商品に付け加えられていきます。ところが投機資本では価値は作られません。「かれら<投機資本家>の利得は…差益にすぎず、これにたいしては、それと同じだけの損失が対応せざるをえない」(『金融資本論』、1巻307頁)からです。つまり投機資本家は、別の資本家や労働者=国民から価値=富を奪い取るのです。こうして「各国の…所得分布は…1970年代初頭までは、経済成長にともなって徐々に平準化する傾向にあった。しかし、<現代投機資本が生まれた1971年を経て>70年代の中頃には、多くの国でこうした平準化傾向が停止し、その後70年代末になると、…所得分布における格差が、…傾向的に拡大するようになった」(高田太久吉『金融グローバル化を読み解く』新日本出版社、175頁)のです。

 さらに産業資本でも、資本の拡大再生産が繰り返されればされるほど、労働者階級が労働で生み出した価値=貨幣はますます搾り取られて労働者は貧しくなり、搾り取られた貨幣=価値は資本家階級の手にますます集中して行きます。ところで「資本家」とはマルクスによれば「価値の増殖――が彼の主観的目的なのであって、ただ抽象的な富をますます多く取得することが彼の操作の唯一の起動的動機である」(1巻、268頁)ことから、入ってきた価値=貨幣を再び産業資本・貸付資本・投機資本に投下します。「価値の増殖は、…絶えず更新される“運動”の中だけに存在する」(1巻、266頁、“”は筆者)からで、資本は休ませるわけにはいかず、絶えず「運動」させなければ増殖しないのです。マルクスもこう述べています。「価値の無休の増殖、これを……資本家は、貨幣を絶えず繰り返し流通<運動>に投げこむことによって、…なしとげるのである」(1巻268〜269頁)

 ところが産業資本においては、商品を購入する消費者=労働者が「格差の拡大」でますます貧しくなっており、商品の販売は低迷し産業資本の運動は停滞せざるを得ません。いわゆる“実体経済の低迷”です。マルクスも次の有名な言葉でこれを表現しています。「社会の消費力は…敵対的な分配関係<資本家と労働者の間の敵対的分配関係>を基礎とする消費力によって規定されているのであって、これによって社会の大衆の消費は、…狭い限界のなかでしか変動しない最低限に引き下げられている」(6巻、400頁)
 産業資本が停滞すれば、それに貨幣を貸し付ける貸付資本も停滞します。こうして「格差の拡大」の結果、資本の有望な投下先は投機資本に限定されてきてしまうのです。もともと投機資本は産業資本や貸付資本より増殖率が高いので、放っておいてもより多くの資本を引きつけます。こうして「格差の拡大」で資本家階級の手元に流入してくる増大した貨幣は、ますます多く投機資本に投下され、株や国債などが買われてバブルを形成していくのです(注)
 マルクスは先に述べたように、「一方の極での<資本家の>富の蓄積は、同時に反対の極での、…<労働者の>貧困…の蓄積なのである」(1巻、241頁)と見抜きました。つまり「格差の拡大」で貧困な労働者が蓄積されていく一方、反対の極では労働者から搾り取られた価値が資本家の下に富として蓄積されてバブルを形作っていくのです。皮肉なことにバブルの“原資”は、労働者が労働で生み出した“価値=貨幣”なのです。

(注)バブルの破裂を、「投機資本の恐慌=投機恐慌」と呼ぶとします。マルクスは恐慌の究極の原因は、「…大衆の窮乏と消費制限…」(7巻297頁)と述べました。現代のバブルの生成・破裂も、大衆の窮乏=「格差の拡大」に一因を求めることができるのです。

 

アメリカのサブプライム・バブルの破裂の様子。07年10月9日に1万4165ドルの史上最高値(当時)を記録してから下降に転じ、リーマンブラザーズが破綻した2008年9月15日には504ドル下落しバブルが崩壊した(日野学『アメリカ株価急落』)

 

 現時点(2015年1月)でアメリカの株価や国債価格はどうなっているでしょうか? アメリカでは貧困率がOECD加盟31カ国中29位で、貧困が“蓄積”されています。反対に上位10%の世帯に全世帯の所得の50.4%が集中されて富も“蓄積”されています。そのうえアメリカのFRBは、リーマンショック後の2008年11月に「量的緩和(後述)」を実施し、投機資本家が所有していた価格の下落した投機商品(住宅ローン担保証券や国債など)を大量に高値で買い取り、投機資本家に大量の貨幣を提供しました。また12月には「ゼロ金利(後述)」を実施し、貸付資本家である銀行にゼロ金利付近で貨幣を大量に貸し出してきました。これらの貨幣はニューヨーク株式やアメリカ国債などと交換されて株や国債が購入されたため、両者の価格はいま史上最高値圏にあります(下図、注)。またアメリカのダウ平均株価やS&P500種株価指数は、投機資本家の指示による自社株買いで高値につり上げられてもいます<後述>。株と国債の価格はバブルと呼ばれてもおかしくないほどにつり上がっているのです。

 2015年5月22日の「日経」によれば、米国では格付けが低い企業への高金利融資「レバレッジド・ローン」や、そうした企業が発行する高利の社債「ハイイールド債券」への投資が4月末で過去最高の2兆2600億ドル<220兆円>に膨らんでいます。FRBが行っている低金利政策では物足りない投機家が、ハイリターンだがハイリスクの商品への投資を増やしているわけです。レバレッジド・ローンを行った銀行は、サブプライム・ローン同様、債券を証券化して投機家にリスクを押しつけています(後述)。年内にFRBが行う予定の利上げで、レバレッジド・ローンの金利は高くなりハイイールド債券の価格は下がるので、債券を発行している企業や投機家に多大の損失が発生する可能性が高くなっています。

 また同日の「日経」は、自動車版の「サブプライムローン」が増加しており、14年の貸出額は1400億ドル<14兆円>とリーマンショック前の水準を超えたといいます。自動車版サブプライムローンも、最初は利率が低く設定されていますが、数年経つと利率が急上昇する高利の貸し付けです(後述)。自動車版サブプライムローンを投機商品化した証券化商品は高利回りなので投機家が多量に購入しています。しかしローン(貸付)の焦げ付きが既に始まっており、滞納率は2%前後と金融危機時の水準に近づいているといいます。このようにアメリカでは信用度の低い企業や家計への高利回りの貸し付け、およびそれを投機証券化した投機商品の販売が懲りもせずに繰り返されているのです。
 2016年1月6日付け「日経」夕刊は、15年の米国の新車販売が1700万台余りと過去最高になったと報じました。リーマンショック前も住宅の販売数は過去最高でしたが、住宅バブルの破裂で販売数は一気に落ち込みました。15年の自動車販売台数もサブプライム自動車ローンの影響を冷静に見ていく必要があります。

 アメリカの株価・ニューヨークダウ平均は5月19日にピークの1万8312ドルを付けたあと、傾向的に低下を始めました。8月14日付けの「ロイター」によると、今年1月から7月の7ヶ月間で米株式ファンドから流出した資金額は790億ドル<約8兆円>と、リーマンショック時も含めて過去数年で最大になっているといいます。7月以降、米日の国債相場が上昇を始めており、アメリカ株から資金が流出し米日の国債に資金が逃避し始めています。

2012年1月26日から15年1月26日までの3年間のニューヨーク株価の推移。ほぼ右肩上がりで株価が上昇しており、いつバブルが破裂してもおかしくないといえる。

上図と同じく過去3年間のアメリカ国債10年物の利回り(価格は利回りが低いほど高い)。2012年7〜8月に史上最高値をつけたが、13年6月に量的緩和第3弾の縮小が示唆され国債が一斉に売られて価格が急落した。しかしその後は一本調子で価格の上昇が続いている。

     (出所:三井住友銀行、QUICK、前出)

 

 国際情勢解説者の田中宇氏は、現在のアメリカ市場は「金余りと低金利の中で投資家が高リスクな金融商品を高く…買い、バブルを膨張させ」ており、市場の平静さは「FT<フィナンシャル・タイムズ>の…記事は、…リーマン危機発生前の『グレート・モデレーション』と呼ばれる…時期の平静さと同様で、いずれリーマン危機のようなバブル崩壊につながる」と述べています(『金融世界大戦』朝日新聞出版、43〜44頁)。また「株価が実体経済の悪さと関係なく上昇していること」が危険だと指摘しています(同、51頁)

 一方、GDP世界第2位の中国の株価である上海総合指数は、15年3月現在ほぼ間違いなくバブルの状態にあります(下図。5年間の株価を示す)。14年の6月頃から中国株価は急上昇を始め(これは昨年4月に上海と香港間の株式相互取引制度が発表され、上海で直接中国株を購入できるようになったからです)、「中年男性・女性から在学中の大学生に至る国民的な株投資ブーム」(「中国網」2015年3月31日)が発生しています。中国では格差も急激に拡大しており、労働者世帯間の比較ではありますが、最上位20%と最下位20%の2014年の所得格差は約18倍(日本は3. 5倍)になっているといいます(「東京」2015年4月7日)
 米欧の投機家はこの中国市場から撤退を始めました。「海外投資家は30日までの1週間に上海・香港の証券取引所接続プログラムを通じて中国株を17億元(約330億円)相当売り越した」(「ブルームバーグ」2015年3月31日)。大手の投機資本家が撤退を始めるのはバブル崩壊の前兆です。ヒルファディングはこう述べています。「大投機業者が…大がかりな買いにまわって市場をかため、相場水準を高める。…そして価格は大投機業者がすでに手を引いているのに、ますます上がる。…大投機業者が…すでに利得を実現して引き揚げてもなお…とどまっている多数の一般大衆、いまこそ最高景気の果実の分けまえにあずかるべき時機がきたと信じているこれら素人たち…こそが損失をせおわねばならないのだ」(『金融資本論』、1巻268〜269頁)

上海総合指数

(出所:三井住友銀行、QUICK、前出)

 

 ではバブルはなぜ形成され、崩壊するのでしょうか? 株や国債は貨幣で購入される一つの「商品」です。商品は、別の人に高値で購入されるかどうかは買った時点では分かりません。つまり「商品…を売れるかどうか、これは、大変な難事業」(不破哲三『「資本論」全三部を読む』新日本出版社、1巻207頁)なのです。そこでマルクスは「商品の販売」を「命がけの飛躍」(同、208頁)と呼びました。つまり商品の販売の中にはもともと、「売れるか/売れないか」という「対立」(同、217頁)、「矛盾」(同、218頁)が潜んでいるのです。株価が右肩上がりで上昇している時には、「『明日は他の人が今日よりも高値で買うだろうと』いう予想にもとづいて、人々は投機にはげみ」(塚崎公義『なぜ、バブルは繰り返されるのか?』祥伝社、75頁)、「命がけの飛躍」が次々成立してバブルを形成していきます。つまり株を買う人は、明日は株という「商品」を、誰かがさらに高値で「貨幣」と交換して買ってくれるだろうという“思惑”で買うのです。しかし「明日は今日より値下がりするかもしれないと人々が考えるようになると、売りが売りを呼び、株価は急激に値下がりして」(同、75〜76頁)いきます。“高値での販売”が対立物に急転化し、株という「商品」をとにかく「貨幣」に転化させようと“安値での投げ売り”に変わってしまったり、あるいは“買い手が全くいなくなって”株や国債はただの“紙切れ(株も国債も既に電子化されていますが…)”になってしまうのです。

 ちなみに恐慌には、投機資本にかかわる「投機恐慌(バブルの崩壊)」以外に、産業資本にかかわる「生産恐慌」と貸付資本にかかわる「金融恐慌」があります。
 社会科学研究所の不破哲三氏はマルクスが明らかにしつつあった「生産恐慌(生産物が過剰に生産されすぎて販売が止まってしまう、産業資本に関わる恐慌)のメカニズム」を次のように説明しています。「資本家Aが、彼の商品を、最終消費者にではなく、商人資本に販売した場合、商品そのものはまだ消費者に届いてはいないが、資本家としては、商品の貨幣への転化を完了したこと…が可能になる。…それによって、流通過程が短縮され、再生産過程が加速される。…こうして全生産過程が繁栄のさなかにあるというのにもかかわらず、商品の一大部分は、…売れないまま転売者たち<商人>の手のなかにある…ということがありうる。…以前の流れを捌<さば>くことができないでいるのに、それの買い手<商人>には支払期限がやってくる。彼らは、破産を宣言せざるをえない。…そこで…恐慌が勃発する」(「マルクスの恐慌論を追跡する」『前衛』2015年1月号、133〜135頁)

 貸付資本にかかわる「金融恐慌」は、銀行に預けた預金(利子がつく貸付資本)が返って来ないのではないかと預金者が銀行に殺到して「取り付け」が発生し、引き出しが不可能になって銀行が倒産してしまう恐慌です。金融恐慌では各国の中央銀行が銀行に貸付資本を無制限に提供することで破産を防ぐことが行われます。中央銀行は民間銀行への“最後の貸し手”
になるわけです。
 08年のリーマンショックの際には、価格の急落した住宅ローン担保証券<投機商品>を大量に抱えたリーマンブラザーズに対する短期大量貸し付けが「レポ市場(短期の大規模貨幣貸し借り市場)」で停止されるとともに、リーマンへの短期大量貸し付けの「取り付け<回収>」が貸付資本家によって行われたため<これを「密かな取り付け」という(『マルクス経済学と…』、284頁)、リーマンは資金繰りがつかずに破産してしまったのです。

 一方、投機恐慌(バブルの崩壊)に対しては、中央銀行が投機資本家の売れ残った投機商品の“最後の買い手”となり、量的緩和(QE。あるいは大規模資産購入LSAP)で投機商品を大量に買い取ってやるのです。

日本でも1927年に金融恐慌が発生した。

 マルクスは、貨幣は「運動」によって増殖を始めて資本となること、その場合の「運動」とは貨幣と商品の「交換運動」だと述べました。貨幣と商品の交換運動についてマルクスはさらに次のように述べています。「価値は…この過程のなかで絶えず貨幣と商品とに形態を変換しながらその大きさそのものを変え、…自分自身を増殖するのである」(1巻270頁)
 つまり貨幣と商品の交換の根底にあるのは、労働者が労働で生み出した「価値」であり、この価値が貨幣や商品に形態を変えながら労働を通じて自己増殖し資本となるのです。マルクスも別の角度から以下のように述べています。「貨幣そのものはここではただ価値の一つの形態として認められるだけである。というのは、価値が…商品形態をとることなしには、貨幣は資本にはならない」(1巻271頁)

 つまり「価値」である現代の膨大な貨幣や商品は、これまでの労働者が生み出してきた「価値の総体」を表しているといえます。貨幣の側面から見ると、この膨大な貨幣は「過剰流動性」と
呼ばれています。バブルの崩壊時には、この膨大な貨幣=過剰流動性が投機資本家の手元で、商品である株式や国債に形を変えています。しかしもはや誰もこれらの株や国債を買って貨幣と交換してはくれません。そこでバブル崩壊時には投機資本家の手元に株や国債などの商品が売れ残り、手元にあった貨幣=過剰流動性は一気に消失してしまうのです。この現象は「流動性消失」または「流動性パラドックス」と呼ばれています。

 バブルの崩壊はサブプライム・バブルの時のように、「…住宅価格上昇が止まりサブプライム・ローンの焦げ付きをもたらしたことが発端」(『なぜ、バブルは…』、163頁)のように原因が特定できる場合もありますが、「何のきっかけもなく株価が暴落した」(同、84頁)1929年の世界大恐慌バブルのように自然に崩壊する場合もあるのです。

 

●投機資本は大企業を“管理”する

 投機資本家は大企業の株価が常に上昇するよう、大企業の経営者(CEOなど)に常にプレッシャーを与えています。これをアセットベストパートナーズの経済アナリスト、中原圭介氏は「株主資本主義」と呼んでいます。株主とは投機商品である株を大量に保有している投機資本家のことで、彼らは株価の上昇で投機利益を得ています。この投機資本家が大企業の経営を“管理”しているわけです。

 以下は中原氏の『格差大国アメリカを追う日本のゆくえ』(朝日新聞出版)からの引用です。アメリカのキャタピラー社は2013年通期の純利益が33%減少しました。しかし株価は上昇しました。なぜか? キャタピラー社は利益の減少に先立ち、1年間で労働者を1万人削減するとともに、自社株を175億ドル<1兆7500億円>も買い、株価を引き上げたからです(同書、64頁)。大企業が自社株を買えば発行済み株式数が減って1株当たりの利益が膨らみ、株価が上昇します(66頁)。これが「自社株買い」です。この自社株買いなどによって、アメリカの大企業500社の株価を示すS&P500種株価指数は2013年に30%、14年には11.4%上昇しました。この上昇分の半分は自社株買いによるものだろうと言われています(66頁)

 大企業はこの自社株買いのための資金を調達するために借金までしていると中原氏は言います。IBMやフェデックスなどは自社株買いのために社債を発行。発行額は13年だけで200億ドル<2兆円>に達しています(67頁)。さらに大企業は経営幹部への報酬を自社の株式で支払う「ストック・オプション」を8割の企業が採用しており、株の上昇は経営幹部の報酬を増大させているのです。さらにこの株式発行増を帳消しにするため、大企業は借金してまで自社株買いを行っているというのです(70頁)

 なぜ借金までして自社株買いを行い大企業の株価を引き上げねばならないのか? 中原氏によれば、企業経営に注文をつけて株価の上昇を狙う資本家たちが1980年代から資金を出し合ってファンドを作り、このファンドが「アクティビスト」と呼ばれているといいます。アクティビスト・ファンドの資産は14年で1000億ドル<10兆円>といいます。このアクティビストが大企業の株価を引き上げるよう企業トップに注文を付け、株価が上がらなかった場合は大企業トップを交代させてしまうと言うのです。事実、カナディアン・パシフィック鉄道では2012年にCEOが交代させられてしまいました(74頁)

 つまり大企業のトップといえども資本家の命令には逆らえず、株価を上げろとの指示を受けて数千人から数万人の労働者の首を切ったり、借金して自社株買いを行い、株価を引き上げているのです(大企業トップの報酬の大部分はストックオプションで支払われているので、株価の上昇は資本家だけでなく企業トップにとっても多大のメリットがあります)。この「株主資本主義」は労働者の首を切って貧困と格差をさらに拡大し、大企業による自社株買いでアメリカの株価を実力以上に高止まりさせているのです。
 2015年6月の「ブルームバーグ」によれば、15年1〜3月期のS&P500社は、自社の営業利益を超えて自社株買いと配当を行ったといいます(2015年6月26日)。その比率は利益の104.1%にもなっています。前回100%を超えたのはリーマンショック前の07年4〜6月期で、その後に強気相場が終了したと述べています。

 日本ではアベノミクスで株主への配当が急増しています(「しんぶん赤旗」2015年10月18日)。2012年度から14年度までの2年間を比較したところ、国内個人投資家への配当は30,4%増、国内企業は42.7%増、海外投資家に至っては67.2%も増えています。一方、社員の賃金は4.4%増えましたが物価上昇率が4.6%あり、実質マイナスになっているのです。

 

産業資本は戦争で莫大な利益を得る

 産業資本家が“利益を上げ続ける”ためには、商品は絶えず“売れ続けなければ”なりません。これは投機資本でも貸付資本でも同じです。投機資本は投機を続け、貸付資本は貸付を続けなければならないのです。先に述べたようにマルクスは「価値の増殖は、…絶えず更新される“運動”のなかだけに存在する。」(1巻、266頁。“ ”は筆者)と述べています。人口が減少を始め市場が縮小し始めた日本の産業資本家は、商品を売り続けるために市場を海外に広げ、従来の商品(家電製品や自動車など)に加えて原発や新幹線、都市インフラまでアジア諸国に売りつけ始めています。このアジアのインフラ投資に向けて中国は、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)の2015年設立を進めています。同銀行の資本金は1000億ドル<10兆円>を予定しています。また日本は、アジア開発銀行(ADB)、国際協力機構(JICA)、国際協力(JBIC)などから5年間で13兆円を投資する計画を発表しました。

 絶えず売れ続ける“特殊な商品”が「兵器」です。兵器の購入者は「国家」であり、国家は兵器を毎年買い取り、産業資本家に莫大な利益を与えています。兵器の資本増殖率(利潤率)は普通の商品より高く設定されているからで、これを「超過利潤」と言います(注)。ここに産業資本家が「戦争経済」を求める理由があります(注)。自衛隊(日本軍)のイージス・ミサイル護衛艦は1隻約1400億円、次期主力戦闘機F35は約150億円と高額な兵器の生産・輸入が続けられています。こうした高額の兵器の購入資金を確保し、さらに国家が資本家からもらう税金を安くするために(法人税減税、所得税の最高税率の引き下げなど)、国民が支払う消費税率を引き上げ、社会保障を削減することが続けられてきています。

(注)15年戦争時の1939年から40年にかけて、兵器を生産する軍需産業の利潤率は50%を超えていたといいます(『日本歴史 下』新日本新書、72頁)。つまり兵器生産では100の資本が1年間で150以上にも増殖できたのです。

(注)1973年のオイルショックで不況が長期化する中、経団連の稲山嘉寛副会長は77年11月の記者会見で、「どこかで戦争でもないと、不況脱出はむずかしい」と述べて物議をかもしたということです。(「しんぶん赤旗」2014年11月19日)

 2015年12月15日、日本がアメリカから輸入するステルス戦闘機F35の日本での組み立てが開始されました。自衛隊(日本軍)が輸入するF35 42機のうち38機が日本で組み立てられることになっています(「中国網」12月20日)。日本の軍事企業はF35の重要部品の製造も請け負っており、同機の組み立て経験を経ることによってステルス戦闘機の構造を学び、将来的には日本で組み立てたF35を海外に輸出しようとしています。

 

自衛隊(日本軍)のあたご型イージス・ミサイル護衛艦(左)。米空母をミサイルから護衛する。米軍のF35戦闘機(右)。米軍最強のF22より一回り小さく、垂直離着陸可能なタイプもあり、自衛隊のヘリ空母いずもに搭載すれば小型空母からの離着陸が可能となる。

 

 兵器が絶えず売れ続けるためには、兵器の「消費」すなわち戦争や紛争が必要です。こうして米ソ冷戦が終結して21世紀に入っても、2001年のアフガン戦争、03年のイラク戦争、06年のガザ侵攻、レバノン侵攻、08年のグルジア紛争、11年のシリア内戦などが続けられてきているのです 

 第二次大戦中にアメリカの軍需産業ジェネラル・エレクトリック(GE)の社長はこう述べたといいます。「我が国が必要としているのは、永久的な戦争経済である(ベンジャミン・フルフォード『ナチスの亡霊』KKベストセラーズ、237頁)。そしてアメリカは「ベトナム戦争以来、半世紀以上にわたって断続的に戦争をしてきた国」(『イスラム国』、125頁)なのです。パレスチナへ度重なる攻撃を行っているイスラエルの著名な知識人も「イスラエルの権利は永続的な戦争を必要とする」(『もうひとつのアメリカ史』、3巻420頁)と述べています。

 またアメリカ海兵隊のスメドリー・バトラー将軍は戦争の目的について次のように述べました。「私は…軍務についていた…ほとんどの間、大企業やウオール街や銀行家たちの高級用心棒として働いた。…われわれの兵隊…が戦場に行って殺し合いをしなくてはいけない、その本当の理由は“金のため”だ」(ジョエル・アンドレアス『戦争中毒』合同出版、12〜14頁。“ ”は筆者)

  21世紀に入ると戦争の「民営化」の動きが始まり、民間企業に莫大な“戦争利益”を保証する仕組みが急進展しています。イラク戦争で連合国暫定当局長や軍事施設の警備で多大の収益を得たのがアメリカのブラックウォーター社(現アカデミー社)などの民間警備傭兵企業です(ジェレミー・スケイヒル『ブラックウォーター』作品社)。同社の要員には米軍兵士より高い「1人につき1日1222ドル<約12万2千円>の税金」(34頁)かけられています。そこで「給料に誘われて、一部の兵士がブラックウォーターで働くために米軍を除隊している」(35頁)といいます。「07年夏の時点で、イラクには正規の米軍兵士(16万人)よりも…『民間契約要員』(18万人)の方が多く存在した」(58頁)。「警備活動契約は…イラク『復興』資金の30%以上を占めていた」(156頁)。そして2004年4月に起きたイラク・ナジャフでのイラク人レジスタンスたちとの戦闘では、「ブラックウォーターの傭兵が現役米兵に命令を出す」(201頁)ことまで起きたのです。

これら民間警備傭兵企業に利益を与えるため、今後益々戦争や紛争が“ねつ造”されていくものと思われます。ウクライナ東部での親ロ派義勇軍との紛争で、ウクライナ政府軍には「1千人を超える外国人傭兵が参加している。…傭兵の多くは米国の民間軍の出身」(「ロシアの声」、2014年12月5日)といいます。また国連はシリアとイラクに計2万2000人の外国人戦闘員、アフガニスタンには6500人、イエメン、リビア、ソマリア、パキスタンには数百人の外国人戦闘員が活動していると発表しました(「シリア・アラブの春」2015年4月1日)

ヘリコプターで監視を行う旧ブラックウォーター社員。


 アメリカは過去に何度も戦争を“ねつ造”してきたことが知られています。太平洋戦争では真珠湾の旧式の戦艦を日本に攻撃させ、ベトナム戦争ではアメリカの軍艦が北ベトナムから魚雷攻撃を受けたと嘘を言い、イラク戦争ではイラクが大量破壊兵器を持っていると言って戦争を行ってきたのです。

 兵器を生産している日本の産業資本家は、市場を拡大するために兵器を海外に輸出しようとし始めています。こうして日本政府は従来の「武器輸出三原則」を投げ出して、兵器を輸出するための「防衛装備移転三原則」を採用しました。15年6月には武器輸出を担う「防衛装備庁」の新設法が成立しました。また武器の消費市場である紛争や戦争を海外に求めて、「海外で戦争できる国」に日本を作りかえようとしています。アメリカなどとともに海外で戦争できるようにする「集団的自衛権」の行使容認、アメリカと戦争に関する情報を共有し開戦を決定する「国家安全保障会議(日本版NSC)」の設立、戦争に関する情報を国民から秘匿する「特定秘密保護法」が制定されました。


 15年通常国会では日本が武力攻撃されていないのに米軍などと海外で戦争できるようにする「安全」保障関連法案の審議が進められています(注)。提出されている「自衛隊法改正案」には米軍等の「武器等防護」が新設されており、米軍艦へのミサイルや火器による攻撃に自衛隊(日本軍)のイージス艦がミサイルや火器で迎撃できるかが7月8日の衆院安保法制特別委員会で共産党によって質問され、防衛省は「可能性はある」「当然考えられる」と答弁しました(「しんぶん赤旗」2015年7月9日)。10日の委員会ではその迎撃の前提となる集団的自衛権発動の条件として、「ミサイル警戒中の米艦が攻撃される明白な危険がある時点」と首相が答弁。日本への攻撃も無く米国への攻撃も無いが、米艦が攻撃される「明白な危険」があると国家安全保障会議(日本版NSC)が判断すれば集団的自衛権が発動できることが明らかになりました(「米フロントライン」2015年7月10日)
 そもそも自衛隊(日本軍)が米艦を防護することを決めたのが15年4月に決定された「日米軍事協力の指針(新ガイドライン)」です。新ガイドラインは自衛隊(日本軍)に、「武力の行使を伴う適切な作戦を実施する」とし、「武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とうたった「日本国憲法」に明白に違反するものです。米海軍制服組トップのグリナート作戦部長は講演で、「(日本の)集団的自衛権行使容認は海上自衛隊を(米軍の)空母打撃群…に統合することを可能にし、…実際に一つの部隊としてともに作戦できる」と述べているのです(「しんぶん赤旗」2015年7月10日)。米軍は自衛隊(日本軍)を、自軍防御の軍隊として使おうとしています。

(注)2015年5月27日防衛省はアフガン戦争でインド洋、イラク戦争でサマワ・クウェートに派遣された自衛隊員(日本軍人)のうち54人が自殺したと発表しました。米国ではアフガン・イラク戦争で戦死する兵士より自殺する兵士の数の方が多くなっています(12年に戦死311人、自殺320人)(「東京」2015年5月28日)。米空軍参謀幕僚で心理学者のデーヴ・グロスマン氏によれば、「人間には同種殺しに対する強力な抵抗感が生来備わっている」「これを克服するために戦闘訓練で恐るべき“条件づけ”が行われ、…ベトナム戦争で例を見ない大量殺人を可能にした」(『戦争における「人殺し」の心理学』筑摩文庫、30頁)といいますが、それでも多くの兵士が人殺し(自衛隊員はまだ敵兵を殺してはいません)の恐怖に苦しんで、自分で自分の命を絶っているのです。


 さらに米軍は自衛隊(日本軍)を、ミサイルなどの兵器の運搬にも使おうとしています。8月5日の参院安保法案特別委員会で中谷防衛相は、「核兵器の運搬も法文上は排除していない」と答弁。戦争が発生した場合、米軍のために自衛隊(日本軍)が核兵器を運搬する場合があることを認めました。防衛相は「わが国は非核三原則があるのでありえない」とも述べましたが、非核三原則とは「国内で」「持たず、作らず、持ち込ませず」というもの。武器・弾薬の輸送は海外の戦闘地域での話で、非核三原則は理論上通用しません。

 今回の新ガイドラインは次のような恐るべき点も明記しています。「日米両政府は、情報共有を強化し、切れ目のない、実効的な、全ての関係機関を含む政府全体にわたる同盟内の調整を確保するため、あらゆる経路を活用する」。あいまいな表現ですが、日米両政府は「情報共有を強化」して特定秘密保護法で戦争関連情報を国民には秘匿するが米国と共有し、「政府全体にわたる同盟内の調整」で政府の全機構に米国の監視・調整を受け入れ、「あらゆる経路を活用する」ことで米国の諜報機関CIAなどの活動も認める、とも読めるのです。
 この「同盟内の調整」については8月11日の参院安保特別委で共産党が、日本の自衛隊の統合幕僚本部が法案の8月成立を前提に作成した日米新ガイドライン具体化「計画」を暴露しました(「しんぶん赤旗」2015年8月12日)。その「計画」には日米間に「同盟調整メカニズム(ACM)」が設けられ、「ACM内には、運用面の調整を実施する“軍軍間”の調整所が設置される(“”は筆者)」と明記されており、平時から自衛隊(幕僚本部は「軍」と呼んでいますが)を米軍の指揮下に組み込む仕組みが作られることが判明しました。「平時から」ということは1年365日、米軍と自衛隊(日本軍)が共同行動を取るということで、今回の安保関連法案の狙いの一つは「日米統合軍」を作ることにあるといえます。このACMは米軍と自衛隊(日本軍)だけでなく、空港や港湾を管轄する国土交通省や外務省など政府のあらゆる機関も参加して日米共同軍事作戦の調整に当たるものと考えられます(「しんぶん赤旗」2015年8月19日)
 今回の新ガイドラインは自衛隊(日本軍)を米軍の防護・兵站軍に使うだけでなく、日本の全国家機構に平時から米国の監視・干渉を受け入れる恐るべき「指針」となっています。これでは敗戦後に日本が米軍に占領され(注)、GHQ(連合国総司令部。実際は米軍)に全国家機構を監視・指導された時代に逆戻りすることになります。

(注)実際は日本は現在も米軍に“占領”されている様子が『本当は憲法より大切な日米地位協定入門』(前泊博盛、創元社)で活写されています。例えば「横田基地は首都東京にあり、…首都圏の上空にも『横田ラプコン』といわれる、1都8県の上空をおおう巨大な米軍の管理空域があります。…<米軍管理空域の方が民間空域より優先度が高いので>羽田空港から大阪などの西方面へ向かう…飛行機も、4000〜5500メートルの高さがある『横田ラプコン』を超えるために、一度房総半島(千葉)方面に離陸して、急旋回と急上昇を行わなければならない」(62〜71頁)のです。


 この「安全」保障法案の審議で明らかになった極めて重要な点として、憲法学者の9割が「違憲」としている「安全」保障法案が(「東京」2015年7月9日)、政府が「合憲」と判断すれば合憲とされてしまうことがあります。かつてヒトラーは1933年3月23日、わずか1日の審議で「全権委任法」を成立させ、自分で勝手に法律を作り国民を弾圧しました。この全権委任法は@政府が法律を作ることができる、Aその法律は“憲法違反でも構わない”、というものです。「安全」保障法案で示した日本政府の「合憲」判断は、ヒトラーの全権委任法をそのまま踏襲するものといえます。

 この安全保障関連法案をめぐっては、15年7月に出版された上智大学国際教養学部の中野晃一教授の『右傾化する日本政治』(岩波新書)がきわめて重大な指摘を行っていますので以下列挙します。
 @法案審議をめぐっては「国会の場での議論や世論に耳を傾ける機会は最小限に抑え、最後は強行する」(160頁)
 A「立憲主義の縛りを外してでも首相と…ごく少数の統治エリートたちだけで国家の安全保障に関わる重大な意思決定を行う…。いわゆるアーミテージ報告…の提言に沿った動きである」(162頁)
 B「日本が攻撃されていない事態でも、…明白な危険がある…と国家安全保障会議において判断すれば武力行使が可能…。日米などのグローバル企業が活動する『市場経済秩序』が揺らぐような事態をもって『存立危機事態』…とみなすことは十分に可能だろう。」(163頁)
 C「安保法制整備の次は、…9条よりも着手しやすい『緊急事態』条項からはじめるものと見られている」(163〜164頁)。自民党の改憲案によれば「緊急事態の宣言が発せられたときは、…内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」(158頁)。緊急事態はヒトラーの全権委任法と同じ役割をするものといえます。

 集団的自衛権の行使容認で日本の自衛隊(自衛隊は@日本が攻撃されていなくても他国と戦争できるようになったこと、A首相が「わが軍」と見なしていること、から名実ともに「日本軍」になっています)は、米軍と海外で共同作戦を行う道に踏み出しました。2014年8月に刊行された『米軍と人民解放軍』(布施哲、講談社現代新書)は、米軍から見た日本の自衛隊(日本軍)の位置づけを実にリアルに描いています。米軍が想定している最強の仮想敵国は中国です(GDPも国防費もアメリカに次いで世界第2位)。近い将来、中国と戦争することを想定して米軍は「エア・シー・バトル構想」を打ち出しました。米中戦争が始まった場合、中国はミサイルで在日米軍基地や自衛隊(日本軍)基地を攻撃してくることが想定されます。そこで米軍は戦力を日本やグアム、サイパンに分散配置するとともに、これらの基地及びさらに遠方のハワイやオーストラリアなどに戦闘機や空母を退避させます。
 中国の海空軍が東シナ海から太平洋に進出しようとするのを琉球列島ラインで阻止するのが海空の自衛隊(日本軍)の役目です。この間に米軍は本土からの増援を待ち、次世代長距離爆撃機などで中国のミサイル発射基地や司令部を破壊、中国に反撃を開始するというシナリオです。これがエア・シー・バトル構想です。ポイントは日本の米軍基地や自衛隊(日本軍)基地がミサイルで破壊されること、それに生き残った自衛隊(日本軍)が中国軍を琉球列島ラインで阻止することです。この書籍を読むと日本の自衛隊(日本軍)は、米軍の“捨て駒”として想定されていることが良く分かります。

 在日米軍は中国との戦争を想定して日本の基地や兵備の強化を進めています。新型輸送機オスプレイの日本配備もその一環です。オスプレイは従来のヘリコプターに似て、滑走路が無くても垂直離着陸ができる新型の輸送機で、現在日本には沖縄県の米軍普天間基地に海軍仕様のMV22が24機配備されています。このほど特殊作戦用の空軍仕様CV22を10機、東京都の米軍横田基地に配備すると日本に通告してきました(「時事」2015年5月9日)。同時に空軍の特殊部隊400人を横田基地に配備することも検討しています。特殊部隊とは他国への侵略の際に真っ先に投入される部隊です(注)。ちなみに国際問題を考える一つの視点として「立場を逆転させてみる」という視点があります。米国の首都ワシントンに自衛隊(日本軍)の基地がもしあり、そこにオスプレイを配備すると日本が言ったら米国はどう思うでしょうか?


 オスプレイは事故の確率が高い輸送機で、横田配備通告のほぼ1週間後の15年5月17日にも海兵隊のMV22がハワイの空軍基地で着陸に失敗、炎上して隊員2人が死亡しました。オスプレイの事故による死者はこれで計41人になります(「しんぶん赤旗」2015年5月19日)。空軍の特殊作戦用CV22は海軍のMV22に比べて3.4倍も事故が多発しています。ところがこうしたオスプレイを自衛隊(日本軍)も3600億円かけて17機を購入することになっています。15年度の社会保障予算削減分が3900億円ですので、これがほぼオスプレイの購入に使われる計算になります。
 米海兵隊は16年5月16日、15年5月にハワイで起きたオスプレイ着陸失敗事故を受け、エンジンの吸気口から砂を吸い込みにくくする研究を進めていると述べました。フィルターの改良も進めており、それらが完成すればオスプレイの改修に踏み切る様子です。これで米軍はオスプレイの構造的欠陥を認めることになります(「しんぶん赤旗」2016年5月18日)


米軍の新型輸送機オスプレイ。

 

 2015年7月21日、静岡県小山町の中学校の校庭に米軍ヘリから機関銃の空包3発が落下しました。この事件により、問題を起こした米軍ヘリは「陸軍特殊部隊」の訓練を行っていた可能性があることが分かりました(「しんぶん赤旗」2015年7月29日)。機関銃の空包が落下したのは、機関銃が据え付けてあるヘリ側面のドアが全開になっていた可能性があるからで、側面ドアが全開になっている様子は当日、神奈川県厚木基地で目撃されているからです。厚木基地に展開していた米陸軍特殊部隊「ナイト・ストーカーズ」は、11年にパキスタンでビンラディン暗殺作戦に投入された精鋭部隊です。そんな精鋭特殊部隊が日本で日常的に訓練をしている一端が、今回明らかになった可能性があるのです。
さらに8月12日には米軍の特殊作戦ヘリMH60が沖縄県うるま市沖で米艦艇に接触して墜落、7人が負傷しましたが、そのうち2名が陸上自衛隊員であることが分かりました。この2名は陸自中央即応集団で対テロを担う特殊部隊「特殊作戦群」に所属し、武装勢力に乗っ取られた艦艇を奪還する訓練を“視察”していたといいます。米側は特殊部隊「グリーンベレー」が参加、墜落したヘリは陸軍のナイト・ストーカーズ所属で、上記の空包落下事故を起こした部隊に属していました(同じヘリの可能性もあり)。この事故で米軍特殊部隊は、自衛隊特殊部隊と日常的に共同訓練を行っていることが判明したのです。(「米フロントライン」2015年8月13日、「東京」「しんぶん赤旗」8月14日)。8月25日には中谷防衛相が、ヘリが着艦ミスをした米海軍艦艇には自衛隊員8人が乗船していたこと、日米特殊部隊による共同訓練は「09年度より例年実施している」ことを認めました(「しんぶん赤旗」2015年8月26日)

 2016年2月29日の衆院予算委員会で共産党は、自衛隊がPKO法改定で行使できるようになった「駆け付け警護」で、「武装集団が文民等を誘拐・拉致」した場合、「必要により敵監視要員を狙撃・射殺して、突入部隊の突入…を容易化」するとの「PKO法改正に向けた検討(12年3月)」を作成していることを暴露しました。自衛隊員が敵戦闘員を「狙撃・射殺する」との想定を示したのは初めてのことです。この作戦は「特殊な部隊のみ実施可能」として、陸自の特殊部隊である「中央即応集団・特殊作戦群」を2003年のイラク派遣時にも自衛隊に随行させてきていることも明らかになりました。

 また米軍は最新鋭のステルス戦闘機F35を2017年から米軍岩国基地に配備する予定です。岩国基地に配備するのは海兵隊仕様で垂直離着陸ができるF35Bで、これとは別に航空自衛隊(日本軍)は空軍仕様のF35Aを購入することになっています。さらに日本にはアジア太平洋地域のF35の整備拠点が愛知県の三菱重工と東京都のIHIに作られます。これらの軍事工場には韓国やオーストラリアのF35が搬入・修理されることになっています。

 11月22日付け「しんぶん赤旗」によると、沖縄本島の米軍伊江島補助飛行場を拡張し、CV22オスプレイとF35Bステルス戦闘機の駐機場を新設する計画を米軍が進めていることが判明しました。垂直離着陸するF35Bとオスプレイのジェット噴射などに耐えられるアメリカ製の耐熱コンクリートで滑走路を延長する計画です。オスプレイは2019年以降、東京横田基地に10機、F35Bは17年に山口県岩国基地に16機配備される計画になっており、本土から沖縄伊江島に飛来して訓練を行うものと思われます。また佐世保基地には、米海軍の最新鋭ズムウォルト級ステルスミサイル駆逐艦とアメリカ級強襲揚陸艦が配備されることが2017会計年度予算案に盛り込まれました(「時事」2016年2月12日)

 米国防総省の高官は15年5月21日、海での航行の自由を確保するため、中国が埋め立てをしている岩礁の12カイリ(約22キロ)内に米軍の航空機や艦船を進入させるのが「次の段階」と発言しました(「東京」2015年5月22日)。中国(海南島)、ベトナム、フィリピン、マレーシアで領有を主張している南シナ海ではいま、軍事的緊張が急速に高まっています。米第七艦隊は5月10日、マレーシア軍と共同の軍事演習を同地域で実施しました。また自衛隊(日本軍)も5月12日、フィリピン軍と共同で初めての軍事演習を実施しています(自衛隊の集団的自衛権発動の例として、この地域が挙げられています)。フィリピンは南シナ海のパグアサ島に70年代から滑走路を保有していますし、ベトナムはウエストロンドン礁に軍事施設を新設しています(「日経」2015年5月13日)。これに加えて中国が岩礁の埋め立てなどを行っているので緊張が高まっているのです。
 中国が建設しているのは灯台で、海難救助や防災などが目的で将来的には米国などが利用することも歓迎すると述べています。また12カイリは国連海洋法条約によって規定された領海線で、この中に侵入するなどの「いかなる冒険や挑発の行動も取ることのないよう」求めています。これに対して米国は、南シナ海を監視するし、自衛隊(日本軍)にも共同で監視するよう要求してきているのです(ご存じのように日米の領海ははるか東方です)。日本の中谷防衛相は5月30日、4月の日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定で日米の協力が地理的に拡大したことを説明し、南シナ海でアメリカと共同訓練を行うなど同地域の安定に関与していくと述べました(「ロイター」2015年5月30日)
 モスクワ国際関係大学の所長は、米国が日本を東アジアにおける主要な突撃部隊として利用することは米国の課題で、そうなれば米国は自国の地上部隊を使用する必要がなくなると述べています(「スプートニク」2015年5月29日)。事実、日本の中谷防衛相はシンガポールで開かれたアジア安全保障会議で、北朝鮮がアメリカにミサイル攻撃を行った際には、日本が攻撃されていなくても北朝鮮のミサイル基地を自衛隊(日本軍)が攻撃する<敵基地攻撃>と述べました(「スプートニク」2015年5月31日)。さらに安倍首相は、当該国が「日本を攻撃する意図はない」と言っていても攻撃する可能性を否定しませんでした(「時事」2015年6月1日)
 5月22日、米軍は南シナ海南沙諸島付近上空に偵察機を飛行させました。これを受けて中国は「挑発的な行動を控えるよう」米国に求めました。さらに米政府は5月28日、中国の人工島に砲撃装置が2基備え付けられていたが、このほど撤去されたとウォールストリート・ジャーナル紙に明らかにしました(2015年5月29日)。米政府関係者は「軍事的な脅威はないが、象徴的な意味がある」と述べ、中国が人工島の埋め立ては防災目的だと述べてきたことと矛盾している点を指摘しました。これに関して中国国防省の副総参謀長はアジア安全保障会議で、人工島の埋め立ての目的を複数上げ、その中に「軍事防衛」を含めました。
 中国とASEAN諸国は6月3〜4日、南シナ海問題について協議を行い、同海の領有権紛争は直接の当事国同士の話し合いによって解決するが、南シナ海の平和と安定についてはASEAN10カ国と中国が共同で責任を持つことを確認しました(「しんぶん赤旗」2015年6月8日)

 しかし米海軍のイージス駆逐艦が10月27日、南シナ海南沙諸島の中国人工島の12カイリ内に侵入しました。中国は人工島は主権の範囲内としていますが、アメリカは人工島は領海の基点にならないとしています。中国は領海侵犯と激しく反発しています(「NHK」2015年10月27日)。12月28日付けの「しんぶん赤旗」は海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」が2014年10〜11月に米空母機動部隊に巡航する共同訓練を行い、南シナ海を通過したと報道しました。中谷防衛相は15年11月に米太平洋軍司令官との会談で、南シナ海での共同巡航訓練を推進すると伝達したと言います。米中間で緊張が高まっている南シナ海に自衛艦が出て行くことは非常に危険です。

 16年2月16日に米FOXニュースは、中国が南シナ海の西沙諸島に地対空ミサイルを配備したと報道しました。これが事実とすると、これまで中国が述べてきた南シナ海の施設は「海難救助や防災などが目的」との言説に完全に反することになります。中国外交部は同日、「中国は島に必要な国土防衛施設を設置する。これは…自衛権の行使に当たる」との声明を出しました(「中国網」2016年2月17日)。また18日付け「中国網」は、西沙諸島へのミサイル配備は米国が同諸島へイージス駆逐艦を派遣し挑発を行ったことへの反応だと報じました。16日はアメリカとASEANが、航行・飛行の自由、軍事拠点化回避、紛争の平和解決などに取り組むとした共同声明を発表していました。しかし19日になって米国防総省は、西沙諸島の永興島には過去も2回、演習のために中国がミサイルを配備したことがあると認めました(「日経」2016年2月20日夕刊)。今回の同島へのミサイル配備が演習なのか永久配備なのかが今後の焦点になります。

 

 

 防衛省は中国との戦争を想定して、「対中防衛の考え方」との計画を2012年に策定していたことが15年4月1日の衆院外務委員会で共産党によって暴露されました(「しんぶん赤旗」2015年4月2日)。同計画によれば対中有事が発生した場合、日米「共同」で沖縄の南西諸島に機動展開する、中国のミサイル攻撃に対して弾道ミサイル防衛で対処するなどとなっています。

 レーニンは『帝国主義論』の中で、「戦争の真の社会的な性格は、…支配階級の客観的立場の分析のうちに存する」(『レーニン10巻選集』大月書店、6巻205頁)と述べていますが、現在の日本で急速に進められている軍国主義化の動きは、日本の資本家=支配階級が望む「兵器の輸出」や「海外の紛争市場へのアクセス」にその経済的根源を見て取れるのです(注)

(注)「東京新聞」2014年5月8日付けによれば、武器輸出は政府の成長戦略の「切り札」だと言います。「安倍晋三首相が大型連休中に…北大西洋条約機構(NATO)の加盟国を歴訪した。…国内の武器禁輸政策転換を踏まえて、防衛産業を成長戦略の『切り札』(官邸筋)とする狙いだ。」

 

 「支配階級の客観的立場」を日米独の経済成長率で見たのが下図です。日本の経済成長率(≒産業資本の増殖率)は、2012〜13年を除くとほぼ日米独の中で最低であることが分かります。IMFが2015年1月に発表した2013〜2016年の経済成長率(予測含む)によっても、アメリカの年間平均成長率2.8%、ドイツ1.1%に対して日本は0.8%しかありません。ここに日本の産業資本家が急いで兵器の製造・輸出を狙う背景があります。兵器の資本増殖率は先に述べたようにきわめて高く設定されているからです。
 安倍政権の『「日本再興戦略」改訂2014』にも「支配階級の客観的立場」が正直に書かれています。「日本企業の生産性は欧米企業に比して低く、…これが日本経済全体の足を引っ張っている状況にある。…我が国企業が厳しい国際競争に打ち勝って行くためには、…グローバル・スタンダードの収益水準・生産性を達成していくことが求められている。」(「日本再興戦略」改訂2014
、2014年6月24日、4頁)

 

 日本の軍国主義化を進めるためには、「戦争は悪いもの」ではなく、「時には戦争もやむを得ないもの」とのイメージの転換を国民に植え付ける必要があります。日本の過去の侵略戦争を「アジア解放のため」と主張する靖国神社に首相が参拝したことや、南京虐殺は無かった、日本軍が東アジアの女性を従軍慰安婦(性奴隷)にしたことなど無かった、などの「歴史の修正」が進められている背景がここにあります。

 兵器の生産を続けるために使われる言葉が、他国の「脅威」です。アメリは北朝鮮、イラク、イラン、アフガニスタン、リビアなどを「脅威」=「ならず者国家」と決めつけ、地球上の2カ所で同時に戦争が起こっても戦いぬくことを可能とする「2正面作戦」を国防方針としてきました(このうちイラク、アフガニスタン、リビアはアメリカから実際に軍事攻撃を仕掛けられました)「…フランスの歴史学者エマニュエル・トッドは『世界最強の軍事経済超大国アメリカがイラク、イラン、北朝鮮などの…三流弱小国を「悪の枢軸」とか「世界的脅威」などと大げさに…言いたてるのは、強大なアメリカ…を維持するための神話にすぎない』」(前坂俊之『メディアコントロール』旬報社、267頁)と述べています。

 このためアメリカの国家予算の2割は兵器を生産する国防費に支出され、対テロなど安全保障関連の支出を含めると国家予算の4割になり、アメリカの軍事支出は世界の軍事支出の約4割を占めています。さらにアメリカは世界に約800の軍事基地を持ち(その他の国の海外基地はすべて合わせて約30箇所ほど)、25万5000人の兵隊を海外配備し、この費用だけで「年間2500億ドル(25兆円!)」(『もうひとつのアメリカ史』、3巻426頁)を費やしているのです。

 

図13

 

 「テロ」も兵器の生産を続けるために使われる言葉にされました。「ブッシュは<9.11以降>、これ<対テロ戦争>は新種の戦争だと明言した――戦争の相手は国家で…なく、テロリズムという戦術だった。…ブッシュは…<対テロ戦争を>アメリカ人に受け入れさせるため、政権は国民に、ひっきりなしの警告や、…その日のテロの危険に応じて変動する色分けされた5段階警報システムの集中砲火を浴びせた」(「もうひとつのアメリカ史」3巻、242〜243頁)。こうしてアメリカでは2002年11月にテロ専門の省庁・国土安全保障省まで作られました。米の経済平和研究所によれば、2000年から13年にかけて世界のテロ件数は6倍以上に増えたといいます(「しんぶん赤旗」2015年3月2日)


 こうして9.11同時多発「テロ」以降、「<アメリカ>議会は2012年までずっと、1兆4000億ドル<毎年140兆円!>をイラクとアフガニスタンの戦争の予算<国防予算とは別の国外作戦経費>として、じかに割り当ててきた」(『誰がアメリカン…』、下187頁)のです。さらにアメリカは「対テロ」を口実にアフガンやイラクに戦争をしかけておきながら、対テロ作戦が終了すると今度は「民主主義を打ち立てる」と口実をすりかえて戦争を継続しています。「…戦争が長引いているもうひとつの理由は、軍幹部が『ミッション・クリープ(任務拡張現象)』と呼ぶものだ。…イラクでは、サダム・フセイン政権を転覆させ、大量破壊兵器を発見して破壊するのが、当初の任務だった。大量破壊兵器がないことが判明すると、イラクに民主主義を打ち立てるのが<米軍の>任務になった」(『誰がアメリカン…』、下189頁)

 こうした軍事費の“垂れ流し”で作られた財政赤字のために、2013〜15会計年度の3年間、国防費を含む政府予算の強制削減が行われました。しかしアメリカは、このほど方針を大転換して2016会計年度のアメリカの国防予算案(国外作戦経費除く)に過去最高の約5300億ドル<53兆円!>を計上しました(「日経」2015年2月3日)。ハイテク兵器の調達拡大を再開し、F35ステルス戦闘機や新型超距離爆撃機、原子力潜水艦などを購入・増強します(注)。さらに米空軍は敵のミサイルを撃墜するレーザー兵器をF-35やF-22などに搭載する実験を2016年から始めることにしています(「スプートニク」2016年2月9日)
 ちなみに国防費が強制削減されていた間にアメリカは、兵器の輸出を増やしてきました。ストックホルム国際平和研究所が2015年3月に発表した10年〜14年の国際武器取引に関する報告書によると、武器輸出国のトップは米国で05年〜09年の5年間に比べて23%増、世界の輸出量の約3分の1を輸出しています。報告書は「米国は…近年の軍事支出削減に伴い国内の軍需産業支援のために輸出の必要性が高まっている」と指摘しています(「しんぶん赤旗」2015年3月18日)

(注)アメリカ軍などが開発・配備を進めている最新兵器が「無人ロボット兵器」です。米軍はこれまで、@武器は米国製、兵士は米軍人で戦ってきましたが、兵士に米軍人を使うことは本国での反対が強いため、A武器は米国製、兵士は外国人(イラク人、シリア人など)にして彼らの訓練に米国軍人を使うようになっています。その先として進めているのが、B武器は米国製、兵士も米国製無人ロボット、です。例えば無人ロボットの一種である「無人偵察機プレデター」は機首の下に目=カメラを持ち、「3000メートル上空から車のナンバープレートが読める。…カメラやレーダーがとらえた目標にレーザーを照射して、誘導弾をその照射点に向けて誘導する。…パイロットはアメリカにとどまり、…操縦席に座って操縦している」(ピーター・シンガー『ロボット兵士の戦争』NHK出版、55〜56頁)、「2008年、米軍が保有する無人機の数は全部で5331機と、有人機の2倍近くに達した」(同、61頁)という具合です。アメリカ国務省は15年2月17日、無人攻撃機の輸出を同盟国向けに認めると発表しました(「ウォールストリート・ジャーナル」2015年2月18日)。アメリカの防衛機器メーカーは翌日、兵器の売り上げが増加すると歓迎の姿勢を示しました(「ロイター」2015年2月19日)
 アメリカの国防高等研究計画局(DARPA)では、被験者の大脳の表面に電極を埋め込み、被験者の思考だけで戦闘機F35の操縦を行う実験まで行っていると同局の長官が発表しました(「ロシアの声」2015年3月5日)
 プレデターによる攻撃を米国民の60%以上が支持していることがこのほどの世論調査で明らかになりました(「スプートニク」2015年5月29日)。これに対してプレデターによる無人攻撃が実際に行われているパキスタンのジャーナリストは「ドローンによる攻撃は多くの民間人を犠牲にするものであり、米国人の60%もが支持しているというのは信じがたい。ドローンの襲撃は憎しみをあおり、敵意を生むだけだ」と述べています。

米軍の無人ロボット偵察機プレデター。

 

 さらにアメリカは15年2月6日に、新しい「国家安全保障戦略」を発表しました。「ロシアの声」(15年2月7日)によるとこの戦略は、@米国あるいは同盟国が脅威にさらされた場合、米国は一方的に軍事力を行使する、Aテロとの戦いにおけるパートナー国に武器・兵器を供与する(注)、Bそうしたパートナー国の軍や治安部隊をアメリカが訓練する(注)、ものだと指摘しています。こうしてアメリカは世界に、「対テロ」「対脅威」のために兵器を増産し、パートナー国に売りさばき、他国の軍隊を訓練して“戦争景気”を拡大することを明言したのです。

(注)2015年5月に開かれたアメリカと湾岸協力会議の会合で米国は、イランの「脅威」が高まっているとして協力会議に武器を供給する特別使節団を派遣し、同地域にミサイル防衛システム(MD)を構築することを約束しました(「スプートニク」2015年5月15日)また米国務省はイスラエルにミサイル3000発、サウジアラビアにレーダーおよび武装ヘリそれぞれ19億ドル<1900億円>分を供与すると発表しました。「スプートニク」によるとこの計画は、アメリカが進めるイランとの核開発協議の“代償”として、イランに強く対抗している両国に武器を提供するものだといいます(「スプートニク」2015年5月21日)
 さらにアメリカはロシアの「脅威」を理由に、かつてソ連勢力圏だった東欧・バルト3国に冷戦後初めて戦車や重火器を配備することを15年6月、カーター米国防長官が明らかにしました(「ウォールストリート・ジャーナル」2015年6月24日)。米軍の駐留は含まれていませんが、当面、配備された武器の管理に当たるといいます。
 さらにアメリカはイギリスに次世代戦闘機F22を配備すること、欧州に中距離ミサイルおよびミサイル防衛システム(MD)を配備する検討も進めているといいます(「スプートニク」2015年6月16日、7月23日)。このMDの最初のテストをアメリカはイギリスやフランス、ドイツなどと15年10月に行うとの報道がありました。イギリス沖の艦艇から発射されたミサイルをアメリカの30隻のイージス艦で追尾するというものです(「スプートニク」2015年10月18日)
 これに対してロシアは、40基を超える大陸間弾道ミサイル(ICBM)を全土に追加配備すると6月16日、プーチン大統領が明らかにしました(「日経」2015年6月16日)

(注)アメリカ国防総省は15年5月、シリアの穏健な反政府勢力にトルコで軍事訓練を始めたと発表しました(「CNN」「時事通信」2015年5月7日)。武器も支給する計画です。目的はIS(イスラム国)打倒だといいますが、シリア政府軍への攻撃も危惧されています。米軍はヨルダンでも穏健なシリア反政府勢力の訓練を開始しました(「シリア・アラブの春」15年5月7日)。米国防総省は、これら穏健な反政府勢力に250〜400米ドルの月給を支払っていると発表しました(「シリア・アラブの春」2015年6月23日)
 米軍はすでにイラクに軍事顧問団を2600人余り派遣し、イラク軍の訓練に当たっています。15年6月24日に米アリゾナ州で発生した戦闘機F16の墜落・炎上事件は、イラク政府軍パイロットが墜落機を操縦していたことが判明しました(「AFP」2015年6月26日)。米国で訓練を受けているイラク軍パイロットは計36人といいます。墜落・炎上事故を起こしたことで、外国人兵士の米国での訓練に疑問が出されそうです。
 さらに米軍は15年4月20日、ウクライナに派遣していた欧州陸軍旅団290人がウクライナ国家親衛隊への軍事訓練を開始しました(「東京」2015年4月22日
。これを受けてウクライナ政府軍と親ロ派武装勢力の間で20日に戦闘が再開されたと、監視に当たっていた欧州安保協力機構(OSCE)が発表しました(「時事」2015年4月22日)

 

 アメリカ以外でも対テロなどを口実に“戦争景気”の拡大が進められています。フランスでは2015年1月7日に起きた風刺紙襲撃事件(犯人を全員射殺!)を受けて13日、首相が「テロに対する戦争」を議会で宣言。18日には中東海域に空母シャルル・ドゴールを派遣する方針を打ち出して、米国のIS空爆を支援することを表明しました。財政難を理由に進めていた数万人に及ぶ兵力削減計画も撤回しました(「日経」2015年2月5日)
 またアメリカ、フランス、イギリス、ドイツなどが参加する北大西洋条約機構(NATO)は、ウクライナをめぐるロシアの“脅威”に対抗するとして、@加盟国の軍事費をGDPの2%に引き上げる、Aウクライナに18億ユーロ(2500億円)を融資する、B対ロ緊急部隊を5000人規模で設立し、その司令部をロシアを囲むブルガリア、ルーマニア、ポーランド、バルト3国に設置する、ことを15年1月から2月にかけて決定しました(「ロシアの声」2015年2月1日、「しんぶん赤旗」2015年2月6日)
 15年2月11日に発表された「ミリタリー・バランス2015」によれば、14年の世界の軍事費は4年ぶりに増加に転じ、前年比で3.6%増加しました(「日経」2015年2月12日)。これを受けてドイツの国防相は15年2月27日、「安全保障上の環境は2014年にはっきりと変わった」と述べ、進めていた主力戦車レオパルト2の削減計画(2,000両を200両に)を中止することを明らかにしました(「東京」2015年3月1日)


 現在の日本では北朝鮮や中国が「脅威」と宣伝されています。20年ほど前はロシアが「脅威」とされていました。マスコミを使って国民を「洗脳」するのは資本家の常套手段であり、本当にこれらの国が「脅威」なのかを私たちは冷静に判断していく必要があります(注)。(朝鮮半島では同じ民族が南北に分断され、相手を「脅威」とみなして多額の予算が国防費につぎ込まれています)(注)

(注)各国の動きを冷静に判断していくのに役立つのが、日本語で読める主要国の新聞・通信などです。例えば以下のようなサイトがあります。
 ・アメリカ ウォールストリート・ジャーナル
 ・ロシア  スプートニク(旧・ロシアの声)
 ・イギリス ロイター
 ・フランス AFP
 ・ドイツ  NNA.EUドイツ
 ・中国   中国網
 ・韓国   聯合ニュース
 ・北朝鮮   朝鮮新報
 ・シリア  シリア・アラブの春
 ・イラン  PARS TODAY

(注)韓国・北朝鮮間や日本・中国間に「危機」を作り出して地域を不安定化させているアメリカ軍などの動きについて、ベンジャミン・フルフォード氏の『ファイナル・ウォー/アメリカが目論む最後の「日本収奪計画」』(扶桑社)が詳しく記述しています。
 北朝鮮の外相は2014年8月10日、ASEAN外相会議で日本の外相に対して、「核やミサイル開発は日本を対象としているものではない」と述べました(「NHKニュース」2014年8月14日)。最近の北朝鮮は、アメリカ軍が核搭載可能な戦略爆撃機や原子力空母を使って米韓軍事練習を北朝鮮近海で行っている時にロケット弾を発射しています。2015年1月9日には北朝鮮が、15年の米韓軍事演習を中止すれば核実験を停止すると提案しました(「聯合ニュース」2015年1月11日)
 また中国は「過去20年間に…陸軍の規模や空軍所有の航空機の数、潜水艦の保有数などを大幅に縮小・削減したことや、GDPに占める防衛費の割合が日本や韓国や台湾と大差がないこと」(『もうひとつのアメリカ史』、3巻429頁)は日本では報道されていません。
 アメリカの国務省副長官は16年4月28日、「米国の国防予算は中国の3倍だ。米軍の技術、経験、能力は世界のいかなる国よりも強大であり、それには中国も含まれる」と語りました(「レコード・チャイナ」16年5月2日)

 

●貸付資本は貧困層から高利をむさぼる

 貸付資本は貨幣Mを貸し、一定期日後に利子を付けた貨幣M’として返してもらう資本です。現代では貸付資本の主要な形態である国債が、各国で膨大な量にまで膨張しています。日本では国債の発行残高が880兆円(2014年度末)を突破、国民一人当たり 700万円の借金をさせられています。この異常に膨れあがった国債発行により利払い額は年間10兆円にも上り、1日当たり270億円以上もの利子が貸付資本家である銀行などに支払われているのです。
 これは労働者の税金が国債を所有する貸付資本家に流れていることを意味します。「予算のなかで<国債の>利払いにあてられる額は、…アメリカ史上かつてなかったほどの規模で、富が労働者から資本家へ移転していることを意味する。税は平均的アメリカ人から徴収されて国債の買い手に与えられる」(『富と貧困の政治学』、138頁)
 ちなみにアメリカ国債の売買でも高頻度取引(HFT)が行われており、現時点で売買の51%がわずか3社のHFT業者に牛耳られているといいます(山田博文「現代の資本主義と金融寡頭制」『経済』2016年5月号、81頁)

国債の利払い費で1日に数百億円が貸付資本家に支払われている。



 貸付資本家は、相手が金持ちほど“低く”、相手が貧しいほど“高く” 利子を設定します。日本の銀行が日銀から借りる金利は現在わずか0.3%、銀行の優良企業への貸出利率は1%強ですが、個人への貸出利率は数%から15%ほどになっています。アメリカではまだ働いていない大学生への貸し出し、「学資ローン」を学生の4分の3が抱え、ローンの残高は9兆円にものぼり、15%以上というクレジットカード並みの利息を支払わされています(堤未果『貧困大国アメリカU』)。貸付資本は、貧困層のなけなしの貨幣を“合法的に”貸付資本家が巻き上げる手段となっているのです。

 利率が高いので有名なのがアメリカのクレジットカードです。信用力の高い労働者で20%近く、信用力が低いと40%を払わされます(チャールズ・モリス『なぜアメリカ経済は崩壊に向かうのか』日経新聞出版社、169頁)。アメリカの貧困層はクレジットカードからの借金で生活している人が少なくありません。1978年にクレジットカードの上限利率規制が撤廃されると銀行は「クレジットの民主化」と呼んで大歓迎したそうです(『誰がアメリカン…』、上142頁)。これで「リスクが高すぎるためにローン<貸し付け>が認められなかった連中<貧困層>に、30%の金利を請求できるぞと。銀行にとって、そういう無防備な借り手が、一番儲かる借り手だ」(同142頁)といいます
 ではなぜ貧困層が最も儲かる借り手なのでしょう。「彼らは借金から抜け出せなくなり、最低支払額を支払って銀行にいつまでも利益をもたらす」(『誰が…』、上142頁)からで、「クレジットカードの収益の75%以上は、月々わずかな最低支払額を支払っている人々によるもの」(同、上143頁)なのです。

 リーマンショックの引き金となった「サブプライムローン」も、高利の貸付を貧困層や中間層へほとんど説明もせず押しつけたものでした(これを「略奪的貸付」と言い、「ほとんどの人が読めないような細かい字で手数料の詳細を隠して割高な住宅ローンを売りつける…貸付」(『99%…』、285頁)。アメリカの住宅ローン貸付会社は、最初は低い金利ですが数年すると10%近くも利率がアップする貸し付けを、移民などのサブプライム層に十分説明することなく貸し付けました。こうして返済の急上昇と住宅バブルの破裂による住宅価格の急落で、金利も払えず住宅も売れずにアメリカの貧困・中間層は住宅を取り上げられ、数兆ドル<数百兆円>を失ったと言われています。一方、「大手銀行は納税者のお金で救済され…たにもかかわらず、…自宅が『水面下<住宅の売値が買値を下回った>』にある住宅所有者2200万人を救うどころか、670万世帯の住宅を自動的手順で次々と差し押さえた」(『誰がアメリカン…』、下42頁)のです。こうした無謀貸し付けで、「ミドルクラスの富の中核そのものが、住宅所有者から銀行へ歴史的な大移動をとげた」(同書、下18頁)、「アメリカ人数百万人が差し押さえを食らって家から追い出され、さらに数百万人が9兆ドル<900兆円!>分のお金を失った」(同書、下21頁)のです。

 ちなみにサブプライム層への貸付ローン(貸付商品)は数千件ほど集めて束ねられ、投機商品に組み替えられて高利の住宅ローン担保証券(投機商品)として年金基金やヘッジファンドなどの投機資本家に販売されました。自然界の弁証法によれば、量が集まると質が変わることが知られています。貸付商品を多数集めることで投機商品への組み替えが行われたのです。このように、貸付商品(ローン)を投機商品(資産担保証券など)に組み替えることを「ローンの証券化」といいます。
 この組み替えを行ったのは「リーマン・ブラザーズ、ベア・スターンズ…などの大手投資銀行であり、バンク・オブ・アメリカ…シティ・バンク他の大手銀行」(『マルクス経済学と…』、200頁)でした。さらにこれらの金融機関は「自動車ローン、学生ローン、カードローンなど、民間金融機関が提供するあらゆる種類の債務を担保とする証券の組成・販売に従事するようになった。他方、…証券を購入する主要な投資家は、保険会社、年金基金、地方銀行、投資信託、ヘッジファンドなど莫大な投資資金…を抱える機関投資家であった」(同、200〜201頁)というように主としてアメリカでは、個人への貸付商品が投機商品に組み替えられる動きが大規模に進展していたのです。

 貸付商品を投機商品に組み替えて作られる証券を「仕組み証券」といいます。高田氏によると「仕組み証券市場では、主要な資金の需要者<提供者>はもはや企業ではなく、住宅ローン、消費者ローン、カードローンなどさまざまなローン<貸付商品>を利用する家計部門である。こうして家計部門の債務の増加は、仕組み証券市場膨張の最重要な前提となる。…なぜなら、家計…に対するローンは、…信用リスク(借り手が返済不能になる危険性)が大きく、…高い金利設定が期待できるからである」(『金融恐慌を読み解く』新日本出版社、88頁)。すなわち、貸し倒れリスクが高い家計への貸付商品(ローン)だからこそ、高い利回りの証券化商品(住宅ローン担保証券など)を作ることができたのです。こうして「従来は証券市場での売買ができなかった家計と企業の債務(住宅ローン、消費者ローン、…その他)を、機関投資家が購入できる魅力的証券に転換するための証券化の技法と仕組みが発展」(同書、96頁)していったのです。

 当時はITバブル崩壊を受けて、米国の金利が極端に引き下げられており、高利回りの投機商品への需要が極めて多くありました。そこで「金融機関と機関投資家の旺盛な需要が…安全資産を上回ったために、金融機関はこれまでに証券化してこなかったハイリスクの資産(サブプライムローンや中小企業向けローン)をトリプルAの証券に転換するためのスキームを開発する必要にせまられた」(『マルクス経済学と…』、108〜109頁)と高田氏は指摘しています。

 この貸付商品の投機商品化である「証券化」によって、銀行は大きく変質していきました。資金を貸し付けて金利を得るのではなく、「証券を発行して投資家に販売することによって、最初に不動産の取得のために投じた資金を回収し、…<その後の>銀行の主たる収益源は、自己資金の投資<貸付や投機>から得られる利子や配当ではなく、証券の発行手数料と、<不動産担保証券の場合は>不動産の利用者から投資家に支払われるレンタル料などのキャッシュフロー(資金支払いの流れ)を仲介することから得られる手数料」(同書、137頁)に変わったのです。

 なお高田氏は、「1970年代以降、投資銀行をはじめとする大手金融機関が証券化業務を展開するために利用するようになった、さまざまな組織上<簿外投資ビークル(SIV)など>、取引上<資産担保証券(ABS)など>の仕組みの総称」(同、201頁)を「シャドーバンキング」と言うと説明しています。そしてこのシャドーバンキングは「規制・監督を回避し、従来銀行に制限されていたか、存在していなかった新しい業務<証券化業務>を展開しようとする大手銀行組織(投資銀行を含む)のビジネス戦略に他ならなかった」(同、164頁)といいます。こうしてシャドーバンキング・セクターは、アメリカでは銀行セクターを上回るまでに膨張していったと分析しています。「シャドーバンキング・セクターの規模(負債ベース)は、1990年代初頭には銀行セクターを上回るようになり、90年代後半期以降両者の差は次第に拡大するようになった」(同、165頁)

 貧困層に行われたサブプライムローンなどの高利の貸し付けですが、マルクスによれば「利子」とは資本の増殖分(剰余価値)の配分をめぐる貸付資本家と、貨幣を貸し付けられた相手との剰余価値の“分捕りあい”です。利子が高いほど貸付資本家は相手から多くの剰余価値を受け取ります。その正反対の例が現代の”超低金利”です。労働者は銀行=貸付資本家に貨幣を預けても、つまり貨幣を貸しても、年0.0数%しか利子が得られません。貸付資本家はこの預金を産業資本家に貸し付けて年 〜数%の利子を得ているわけですから、貸付資本家はただ同然で丸儲けしているわけです。こうしてバブルが崩壊した後の1992年から2005年の13年間だけで合計250兆円!が家計から貸付資本家に分捕られたと計算されています(2007年4月、参議院予算委員会調査室)。また16年3月の参院財政金融委員会での共産党の質問に対し政府は、91年から14年までの24年間では合計392兆円の利子が分捕られたと回答しました(「しんぶん赤旗」2016年4月7日)

 現在の米欧日の中央銀行が行っている「ゼロ金利政策」も、国家が貸付資本家である銀行にゼロ金利付近で貨幣を貸すものです。欧州中央銀行(ECB)の場合、「民間銀行への融資は、1%程度(2014年6月時点では0.15%)のきわめて低い利率で行っている。民間銀行は、融資を受けると、市場金利で政府に金を貸す(=国債を購入する)。市場金利は…スペインやイタリアでも5〜7%という十分な率だ」(『金持ちが…』、53頁)といいます銀行は0.15%で貨幣を借りて5〜7%の利子を得ているのですから労せずして丸儲けです。米国も同様です。「銀行がFRBからほぼゼロ金利で無制限に資金を借り、ずっと高い金利でアメリカ政府(もしくは外国政府)に貸し付ける」(『99%…』、99頁)
 つまり米欧日の投機・貸付資本家は、投機や貸付用の資金をタダ同然で膨大に調達できるのです。貸付資本家は、産業資本家に貨幣を貸しても 〜数%の利子しか得られませんので、国債を購入するか国債売買などの投機で貨幣を増殖させています。こうして「銀行は、世帯や企業に融資するという銀行としての主要な機能をもはや果たしていない」(同、53頁)というように質的な変化を遂げつつあるのです。

 

左からアメリカのFRB、日銀、EUのECB。これらの中央銀行は貸付資本家である民間銀行にゼロ%付近で貨幣を貸し出し、莫大な利益を与えている。

 

 貸付資本家への国家の優遇措置は、これにとどまりません。リーマン・ショックが起きた際、「連邦準備制度だけで、16兆ドル(1600兆円)が、秘密融資の形で、米国の銀行だけでなく、多数の外国銀行にも提供されていた」(『金持ちが…』、47頁)といいます。リーマン・ショックの際には、企業は金を借りることができずに倒産した企業もあったのですが、米欧の大銀行にはFRBが“秘密裏に”貨幣を貸し付けていたのです(注)。その額は「シティグループだけで、2兆5000億ドル(250兆円)、モルガン・スタンレー、メリルリンチはそれぞれ約2兆ドル(200兆円)、バンクオブアメリカ、1兆3000億ドル(130兆円)(『金持ちが…』、47〜48頁)といいます

(注)2008年のリーマンショック時のFRBからの秘密融資は、銀行だけにとどまりません。軍需企業のGEは「FRBから161億ドル(1兆6000億円)の資金提供を受けていた」(『もうひとつのアメリカ史』、3巻343頁)といいます。

 

 ちなみに米欧日が行っている「量的緩和(Quantitative Easing)」(FRBは大規模資産購入LSAPと呼んでいる。14年10月にFRBはLSAPを終了した)とは、投機資本家が保有している価格の下落した「投機商品(住宅ローン担保証券や国債など)」を高値で買い取ってやることです。「日経」(2015年1月23日)によれば、「中銀<中央銀行>が民間銀行などから国債や金融商品<投機商品>を買い取り、その代金として民間銀行に資金を供給する。…米国は住宅ローンを担保とする証券も大量に買い取り、ローン金利の低下<証券価格上昇>を直接働きかけた」と説明しています。
 アメリカの経済学者で財務省のローレンス・サマーズ元長官は、「債券など金融資産を購入してその価格を押し上げ…る手法は間違っている。金融資産の価格を押し上げれば、それを保有している人々を助けることになるが、金融資産を持っている人々はすでに社会で最も裕福な人々だ」(『イエレンのFRB』、175頁)と述べています。またノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学教授のスティグリッツ氏も、ゼロ金利などの「金利の引き下げは株式所有者<高所得者層>の助けとなる一方、国債保有者<低・中所得者層>には痛みとなる」、また量的緩和は「資本家が所有する資産へ特異的に恩恵を与える」と述べ、ゼロ金利も量的緩和も格差をさらに拡大したと主張しています(「ウォールストリート・ジャーナル」2015年6月5日)

 また田中宇氏は次のように説明しています。「これ<量的緩和>は、米金融界が抱えるすべての不良債権やリスクを連銀と財務省が引き受けることにつながっている。米金融界は、…ゼロ金利政策を続ける連銀から事実上マイナス金利で金を借り、企業や個人に融資するのではなく金融商品<投機商品>に投資して利ざやを稼ぎ、…巨額の利益を出している」(『米中逆転』角川oneテーマ21、85頁)

 日銀が行っている量的緩和は13年4月より買い取り量が増やされ、「異次元の金融緩和」と呼ばれています。14年10月には買い取り量をさらに増やし、国債を年80兆円買い入れて貨幣供給量を年80兆円に増やすとしています。日銀は投機資本家で貸付資本家である銀行に大量の貨幣を供給することで、個人や企業への貸付を増やして景気を拡大するとしていますが、銀行の貸付金はこの2年間わずか4%しか増えていません。代わって増えているのが「日銀当座預金」で3倍にも拡大しました(「しんぶん赤旗」2015年4月15日)。日銀当座預金は日銀が量的緩和で銀行から買い取った国債の代金が振り込まれる口座です。通常の当座預金の利率はゼロなので銀行はこの資金を貸し付けに回すのですが、リーマンショック後の08年11月に「補完当座預金制度」が導入され0.1%の金利をつけることになりました。つまり銀行は、日銀が量的緩和で振り込んだ貨幣を産業資本家にはほとんど貸し付けず、日銀当座預金に預けたまま0.1%の金利を稼いでいるのです。利子が付く超過準備預金の額は約140兆円ですので、その0.1%の1400億円の利子を銀行は毎年得ているのです。

 貸付資本家に貸すゼロ金利の貨幣も、投機資本家の投機商品を買い取ってやる貨幣もすべて私たち国民の税金です。歳入が足りなくなれば国家はとりあえず輪転機を回して貨幣を刷り、国債を増刷して借金をし、後ほど増税して私たち国民に帳尻を合わさせているのです。

中央銀行は大量の貨幣を印刷し、貸付・投機資本家に与えている。

 

●21世紀の資本主義はどこまで“発展”したか

 以上、資本には貨幣の運動の仕方から「産業資本」「貸付資本」「投機資本」の3種類がありました(注)。21世紀の現在、資本の増殖率が最も高い投機資本には多量の貨幣が投下され、貨幣は1000分の数秒から10万分の数秒で増殖できるまでに資本主義は”発展”してきています。

(注)これら3資本の国外との流出入を示すのが「国際収支」です。財務省は15年2月9日に2014年の国際収支速報を発表しました(下図)。産業資本が生産した商品・サービスの「輸出」は74.1兆円で伸び率は9.3%増、「輸入」は84.5兆円で伸び率が10.3%増となりました。日本の産業資本家は安い労働力を求めて海外特に東南アジアに工場を造り、そこで生産した商品の逆輸入が増えています(アメリカでは中国からの逆輸入で260万人分の雇用が消滅したといいます(『誰がアメリカン…』、下71頁)。日本でも同様、国内の雇用と設備投資が低迷しています)。2011年の東日本大震災で東北の工場が被害を受けて輸出は低迷しましたが、輸入は増え続けたため同年に輸入が輸出を逆転しました。
 貸付資本や投機資本が海外に持つ債券や株式の利子・配当の受払を示すのが「第一次所得収支」で、額にして18兆円の黒字、8.8%増とこれも増加しています。なお第一次所得収支の中には、産業資本家が海外に設立した子会社から得る配当金などの「直接投資収益」も含まれています(「日経」2015年2月9日)


 産業資本では、労働者の賃金をできるだけ切り下げて資本の増殖率が増やされ、貸付資本では貧しい者からより多くの利子をまきあげています。労働者の貧困こそ資本家の富の源泉なのです。戦争が産業資本と貸付資本、投機資本を増殖させるためにねつ造されています。国家は産業資本家から高額の兵器を買い、貸付資本家に貨幣をゼロ金利付近で貸し、投機資本家から価格の下落した投機商品を高値で買い取ってやっています。

 2008年以降をもう一度見てみると、アメリカで住宅バブルが破裂すると投機資本家はサブプライムローンを組み込んだ投機商品(住宅ローン担保証券)を売り始め、売り切れなかった投機商品は量的緩和でFRBに155兆円で買い取ってもらいました。貸付資本家はリーマン・ブラザーズはじめ多くの企業への融資をストップさせ、南欧各国の国債を売ってきました。産業資本家のGMはいったんは破産しましたが、労働者への賃金や年金などを大幅にカットして復活しました。中東や北アフリカではアメリカの新しい“戦争ねつ造装置”にもなるソーシャル・ネットワーク(注)がテストされ、デモを大規模に拡大させたと言われています。リビアやシリアでは、反政府組織に米欧が多量の兵器を売りつけ、内戦を拡大しています(注)

(注)アメリカはキューバ政府を弱体化させるため、ツイッターに似た「スンスネオ」という名のソーシャル・ネットワークを秘密裏に立ち上げ、そこに政治関連のコンテンツを掲載して若者と政府の対立を画策していると報道されています。(「AP通信」2014年4月3日)

(注)米国とサウジアラビアはシリアの反政府組織に米国製の最新式対戦車ミサイルの提供を始めました(「ウォールストリート・ジャーナル」2014年4月19日)。この対戦車ミサイルTOWが、今ではISの手中にあるといいます(「ラジオイラン」2015年12月26日)。米国防総省はシリアの“穏健な”反政府組織にサウジアラビア、トルコ、ヨルダンで軍事訓練を行うため、米軍教官400人と数百人の兵士の派遣を決めました(「CNN」2015年1月17日)。「シリア反政府勢力の参加者のほとんどはシリア国民ではなく、ほかのアラブ諸国やパキスタン、欧州などから流れてきた勢力だ。トルコやヨルダンの基地などでアメリカ軍やフランス軍などから軍事教練を受け、サウジアラビアなどから資金を提供された事実上の『傭兵団』である(『日米同盟の真実』、65頁)

 

 以上の事柄のほとんどは「資本」=「貨幣の増殖」のために引き起こされています。残念なことに「21世紀の資本主義」は、投機と戦争と貧困の時代をもたらしているのです。

 

●「資本」主義を超えて

 以上に見たように、21世紀の資本主義は投機と戦争と貧困の時代をもたらしていました。その理由は、投機も戦争も貧困も、社会の一部の人々=少数の資本家に莫大な利益をもたらすものだからです。しかも時が立つにつれてこの利益はますます増大し(なぜなら利益とは労働者の労働が生み出す“価値”だからで、価値は時間とともに増大します)、資本家の数はますます少数化しつつあります(マルクスも述べたように資本の蓄積は「拡大された規模での資本関係を、一方の極に…より大きな資本家」を生み出すからです)。

 その結果、中央大学名誉教授の高田太久吉氏が指摘するように、投機の分野では少数の資本家の手ではもはや処理しきれない、きわめて複雑な事態が進行中だといいます。「イングランド銀行が公表した2006年の調査によれば、世界で1兆ドル超<100兆円超>の資産を持つ金融機関の数は13社で、それらの子会社は平均で1110社、活動している国は平均で47カ国に上っている。こうした状況は、…巨大金融コングロマリットが、外部者だけではなく、その経営陣にとってももはや十分には組織と活動を把握できない巨大なブラックボックスになっていることを意味している」(『マルクス経済学と…』、288頁)

 もはや少数の資本家では把握困難な複雑な“何か”が巨大金融コングロマリットを動かしている……。その“何か”とは「資本」すなわち「増殖する貨幣」であり、平易にいえば「金儲けの理念」といえるでしょう。私たちはいま、「資本」主義=「金儲け至上主義」に代わる新たな理念を打ち立て、それにもとづく経済社会を作り出していくべき時代に来ているのではないでしょうか(注)

(注)「正義や正直といった徳が、実は市場そのものの存立の大前提であったことをわれわれは<サブプライム・ローンで>再認識させられた…この複雑な産業社会にあって、その貪欲さを制御する有効な『システム』をいまだデザインしていない、というところが問題なのだ(猪木武徳『戦後世界経済史』中公新書、364頁)

以上

 

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