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格差社会と『資本論』

2006年6月
日野学
 

 小泉・自公政権の「構造改革」によって、「格差社会」が大規模に生み出されています。“ヒルズ族”といわれるように30〜40歳代で年に数千万円から億の金を手にする一握りの人たちが生まれる一方、リストラで首を切られたり、派遣やアルバイト、パートの安い賃金に甘んじなければならない人たちが多数います。なぜ「格差社会」が生み出されるのか? その基本的なメカニズムは、今から約140年前に書かれた、経済学者マルクスの『資本論』の中に触れられています。

マルクスは『資本論』の「第23章 資本主義的蓄積の一般的法則」(国民文庫B巻、大月書店)で、「この章では、資本の増大が労働者階級の運命に及ぼす影響を取り扱う」(188頁)とことわった上で、「単純再生産が資本関係そのものを、一方に資本家、他方に賃金労働者を、絶えず再生産するように、拡大された規模での再生産、すなわち〈資本の〉蓄積は、拡大された規模での資本関係を、一方の極に…より大きな資本家を、他方の極により多くの賃金労働者を、再生産する。」(190頁)と指摘しました。

単純再生産とは、資本家が例えば1億円を投資して材料を購入し、労働者を雇って商品を作らせ、それを販売して1億2000万円の売り上げを得る。次にこのうちの1億円をまた投資して1億2000万円を得るというように、同額の投資を続けることです。投資を続けることによって資本家の手には絶えず1億2000万円という資本が入ってくるのに対して、労働者は支払われた賃金、例えば20万円を衣食住に使ってしまうので、次月にまた労働して賃金を得なければ生活していけません。つまり単純再生産は「一方に資本家、他方に賃金労働者を、絶えず再生産する」のです。

これに対して拡大再生産は、1回目は1億円、2回目は(得られた利益2000万円のうち1000万円を加えて)1億1000万円、3回目は1億2000万円というように投資額を拡大していくことです。現在、成功している大企業はこの拡大再生産を行っています。拡大再生産=資本の蓄積は、「一方の極に…より大きな資本家」を生み出すと同時に「他方の極により多くの賃金労働者を、再生産する」ことをマルクスは見抜いたのです。マルクスはこの法則を「一方の極での富の蓄積は、同時に反対の極での、…貧困…の蓄積なのである」(241頁)とも表しています(*)。

このようにマルクスは、資本の拡大再生産=資本の蓄積=資本主義の発展によって、一方に小数のますます富んだ資本家が生み出され、他方にますます多くの貧しい労働者が拡大再生産されることを明らかにして、「格差社会」が生み出される基本的メカニズムを当時すでに見いだしていたのです。


(*)社会の富が少ないゆえに貧困に苦しんでいる国はアフリカ諸国に見ることができますが、富が大規模に蓄積されている"ゆえに”貧困が生みだされている国々として、5大先進資本主義国を見ることができます。下の図は5カ国の国内総生産(GDP)と貧困率(世帯の所得が平均世帯所得以下の世帯の割合)を示したものです。富が大規模に蓄積され生産されているアメリカや日本になるほど、貧困率も高いことを見ることができます。


 ここまではマルクスが明らかにした、資本家と賃金労働者間での格差拡大を見ました。以後は、労働者間での格差拡大を『資本論』をもとに見ていきます。

資本主義の発展=資本の蓄積は、「一方の極に…より大きな資本家を、他方の極により多くの賃金労働者を、再生産」(国民文庫B巻、大月書店)しました。マルクスはこのことを次のように言いかえています。「資本主義的蓄積は、…絶えず、相対的な、…よけいな、したがって過剰な、または追加的な労働者人口を生み出す」(216頁)と。そしてこの過剰な労働者人口は、「自由に利用されうる産業予備軍を形成する。…いつでも搾取できる人間材料を…つくりだす」(219頁)とマルクスは述べています。

「産業予備軍」とは、「自由に利用されうる」「いつでも搾取できる」人間材料であり、今の言葉で言えば、日にち決めで雇用される「派遣社員」、時間決めで雇用される「パート・アルバイト」が一種の産業予備軍といえるでしょう。産業予備軍=派遣・パート・アルバイトは正社員に比べて安い賃金を押しつけられ、正社員=賃金労働者との間に厳然とした格差を設けられています。

産業予備軍は資本家に「自由に」使われるだけではありません。それは正社員をいつでも産業予備軍に置き換える「自由」を資本家に与えています。このことをマルクスは「この過剰人口は、資本主義的蓄積の梃子に、じつに資本主義的生産様式の一つの存在条件に、なる」(219頁)と説明しています。つまり、資本の蓄積によって生み出される過剰労働者人口=産業予備軍は、正社員をいつでも産業予備軍に置き換える「自由」を資本家に与え、資本家による、さらなる資本蓄積の「梃子」に使われてしまうのです。こうして「労働者階級の極貧層と産業予備軍とが大きくなればなるほど、公認の受救貧民層〈注:現代のホームレス〉もますます大きくなる。これが資本主義的蓄積の絶対的な一般的な法則である」(239〜240頁)とマルクスは指摘しています。

以上、資本の拡大再生産=資本の蓄積が、資本家と賃金労働者間の格差を拡大させ、労働者間での格差を拡大することを見てきました。これらの分析は、今から約140年前に書かれた『資本論』の「第23章 資本主義的蓄積の一般的法則」の中で述べられています。そこでマルクスはこの章の冒頭で、「この章では、資本の増大が労働者階級の運命に及ぼす影響を取り扱う」と断っていたのです。

以上

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