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「オバマ・ショック」で投機資本を押さえ込めるか
2010年1月
2010年1月21日、アメリカのオバマ大統領は世界の歴史に残るであろう画期的な発表を行いました。アメリカ発金融危機を2度と繰り返させないとして、米国の巨大銀行に、@自行の資本を使った「自己勘定トレーディング」という投機活動を止めること、A投機機関であるヘッジファンドへの投資や融資を止めること、を求めたのです。この内容を一言でいうと、アメリカの巨大銀行に、もう博打=投機は止めて、銀行本来の融資=貸付を行うよう求めたといえます。 この「オバマ・ショック」を受けてアメリカのダウ平均株価は3日連続で下落、下落幅は500ドルを超えました。この声明がなぜ、米国の巨大銀行をはじめアメリカ株式市場そのものにも甚大な影響を与えたのか、その理由を見ていきます。 アメリカの巨大銀行は、資本の貸付・融資活動を減らして、投機活動へと活動の軸足を移してきました。その理由は、貸付より投機の方が、短期間で莫大な利益を上げられるからです。貸付は通例、利子を付けた元本の返済におよそ年単位の期間が必要になります。ところが投機は、数秒(最近の高速トレーディングでは0.001秒)というきわめて短い時間に巨大な利益を上げることができるからです。 例を見てみましょう。ある巨大銀行A社がアメリカのX社の株を1株=100ドルで購入したとします。この購入はコンピュータのマウスをクリックするだけで済みます。その株価はX社の業績をはじめ、アメリカの失業率、経済成長率、国債の利子率などさまざまな数値の変動を受けて変動しています。 仮にX社の株価・1株=100ドルが、1株=110ドルに値上がりしたとします。その瞬間に巨大銀行A社のコンピュータは自動的にX社の株・1株=110ドルを売り抜けるのです。そうするとA社は、100ドル→X社の1株→110ドルという「交換運動」を通じて、110-100=10ドルの利益を得ることになるのです。マルクスは『資本論』の中で、「運動によって貨幣は,資本に転化する」と述べました。資本とは「増殖する貨幣」のことです。巨大銀行A社の貨幣(100ドル)は、X社の株と交換され(交換運動をし)、続いて貨幣(110ドル)と再交換されることで10ドル増殖したわけです。交換運動によって、貨幣は資本(増殖する貨幣)になったのです。 ここでは単純にX社の株1株を買う場合を考えました。しかし実際には、A社は自行の資本を使って1千万株(=10億ドル)を売買するかもしれません。1千万株を売買していれば利益は10ドル×1千万=1億ドルにもなるのです。このように投機においては「量」が圧倒的にものをいいます。自行の資本を使って株を売買するのが「自己勘定トレーディング」です。 さらに巨大銀行は、他の金融機関から10億ドルを借りて、X社の株を売買することもあります。借り受けによって売買額を増やすことを「レバレッジ(てこ)を効かせる」といいます。 オバマ大統領は、この「自己勘定トレーディング」を止めることを巨大銀行に迫ったのです。金融機関は短時間で莫大な利益を上げられる「投機活動」から撤退し、銀行本来の「融資・貸付活動」に戻るよう促されたわけです。投機資本が跋扈しているアメリカ株式市場に、この「オバマ・ショック」がいかに甚大な影響を与えたかが理解できます。(なおこの投機資本によって国民からいかに巨額の掛け金が奪われているかについては、拙文「マネー+コンピュータ=投機資本主義」を参照ください。) 「オバマ・ショック」の衝撃は、今から39年前の1971年8月15日にニクソン大統領によって発表された「ニクソン・ショック」の衝撃に匹敵します。「ニクソン・ショック」はアメリカの通貨ドルと金の交換を停止することを表明したものですが、金の裏付けを失ったドルの価格は変動を始め、この「変動運動」を利用した投機活動を大規模に生み出すこととなりました。さらに「オバマ・ショック」は77年前の1933年に、世界大恐慌の教訓から銀行業務と証券業務を区分けしたグラス・スティーガル法が成立したことに匹敵するともいえます。同法は銀行が「証券業務=投機業務」を行うことを禁止したからです。 オバマ発言を受けた26日、欧州中央銀行のトリシェ総裁は「われわれと同じ方向に向かっている。実体経済へ資金を供給することに銀行セクターの焦点を当てることだ」と指摘、さらに「提案に対して国際的に協調する必要がある」と述べました。29日には米国国家経済会議委員長のサマーズ氏が、この金融規制案を20カ国・地域のG20に導入するよう働きかけると表明しました。アメリカや欧州(EU)、そして日本の当局が協調して巨大銀行に投機を止めるよう働きかけることが求められます。 筆者は拙文「アメリカ株価急落−世界金融危機から「投機恐慌」へ」の最後で、「私たちは今後も、株や国債、外国為替が目まぐるしく変動する投機資本の世界に住むのか、あるいは変動=運動を抑えて投機資本の成長を規制した、より安定した時代に生きるのかの選択を迫られている」と指摘させていただきましたが、投機を抑制した「安定した時代」が1日も早くやってくることが期待されます。
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