大阪でドタバタ。絶対に間に合わない、その時どうする?
■国際グランプリ大阪
毎年5月上旬、大阪の長居スタジアムで、国際陸上競技連盟主催のグランプリレースが行われている。グランプリ、というのは、世界を転戦して年間を通じた総合ポイントを競うもので、多くはヨーロッパで開催され、総合ポイントが高ければ高額な賞金が支払われる。日本で開催される陸上競技のイベントでは最も格上の国際大会だ。毎年秋に横浜・日産スタジアムでスーパー陸上が開催されるが、これは「パーミット大会」といって一般招待試合にあたり、着順に重要性がないため、国際的な評価としては低いランクだ。スーパー陸上に出場するほとんどの外国選手は、招待されるにあたって支払われるお金が欲しくて日本にやってくる。
さて、2003年の大阪グランプリのこと。私は外国選手対応の大会役員として参加していた。私は家に早く帰りたい人だ。競技は、NHKの放送が終了する午後4時くらいに全日程が終了する事がわかっていたので、1ヶ月以上も前に関西国際空港(関空)午後7時発を特割1万円であらかじめ購入していた。予約の際には、このレースに出場し、帰る家が近い高橋和裕と新井(現姓小島)初佳の二人も同じ便でチケットをとっていた。この金額はかなり安い。しかし、キャンセルや変更をすると料金が別にかなりかかってしまう、というリスクもあった。
■物語がはじまる、こんなことってある?
そして当日。競技も順調に消化し、トラック種目(走る種目)がすべて終わり、あとは女子の棒高跳びの終了を待つだけとなった。残っているのは、二人だけでウクライナと中国の選手だ。私は時計を見てその後の予定を頭で組み立てた。
「ホテル(リーガロイヤル)に荷物をとりに戻って、大阪駅に行って、快速か特急に乗り込んで空港に向かう。よし、シャワーを浴びる時間もありそうだな。」という具合にその時点では余裕しゃくしゃくだった。ところが、棒高跳びの2選手、こともあろうか、最後の跳躍に、ひとりずつ違う高さを選択した。棒高跳びはセッティングに時間がかかるので、ひとつの高さを二人で跳ぶよりもはるかに時間を消費する。と、ご丁寧に二人ともすべて失敗したのだ。ここで、ルールにより順位決定の試技をすることになった。グランプリだから、1位と2位ではポイントが違う。1位ポイントをとることは大切なのだ。私自身は、「あ〜シャワーを急いで浴びる時間はないな」くらいだった。
すると、ウクライナ選手の代理人が、突然「私の選手が1位だろう?どうして順位決定をするんだ?お前たちはルールを知らないんだ!」と抗議を始めたのだ。国際担当は私だが判断を担当はしない。審判をする競技役員は、「しっかりとルールに則って順位決めをし、それを何人もの役員で確認をしているのでどうみても順位判定に間違いない」と主張した。私も最新のルールを把握していたが、その代理人の抗議は到底認められず、無茶苦茶だった。「日本の役員はルールを知らない!国際陸連に提訴するぞ」と怒りまくって、15分もその場を離れなかった。結局、本来抗議する権利の無いその代理人を無視して、競技を再開した。
今度は選手の方に問題がおきた。ふたりとも待ち過ぎて気合いが抜けている。観客はというと、長い時間の抗議、しかも他にレースはやってないので、5万人収容の大スタンドでもほとんどの人が帰って人影はまばら。場内はくら〜い雰囲気。で、順位決定戦をしてもクリアできず、さらにバーの高さを下げても失敗を繰り返したのだ。結局バーを下げながら、決定戦に入って6回目の試技でようやく決着はついた。
時計は予定の時間を大幅に過ぎている。一緒に帰ろうと、高橋、新井のふたりはホテルで待機していたが、その場で電話をした。「ごめん、飛行機に間に合わないかもしれない。先に空港に向かってくれ!」
■To be or not to be.
そこから私の勝負は始まった。ホテルまで一番早いのは、タクシーだ。長居競技場からリーガロイヤルホテルまでは、かなりの距離があるが、事情を察してくれた主催者担当の方から、タクシーチケットをいただいた。しかし、タクシーに乗っている間に、飛行機に間に合うために、絶対に乗らなければいけない大阪駅発の特急出発時間になってしまった。やっぱりダメだった。しかも、次の特急は30分後で、これに仮に乗っても飛行機はもう離陸時間だ。しかもこの特急さえもギリギリ乗れるかどうか。
タクシーの中で考えた。「どうしよう?あきらめてゆっくりと帰ろうか、どうあがいても今日は帰れないや!」と悪魔の声が聞こえてきた。と同時に、「特急のスピードが突然速くなるかもしれないしなあ」と私特有の、ありえないけど0.1 %の可能性は、残しておくクセが顔を出した。タクシーの中で、特急の時間を調べる。ホテルから大阪駅に向かっても、駅周辺は混んでいるし駅が大きいので移動の時間が余分にかかる。間に合う可能性がきわめて低い。時刻表をよく見る。大阪駅の次、西九条駅に止まる事がわかった。
タクシーがホテルに着く。特急の時間まであと15分。ホテルに着くやいなや、スーパーダッシュで荷物を受け取り、西九条駅が近いかどうか尋ねる。ビンゴ!大阪駅よりも近かった。タクシーに飛び乗る。「近くてごめんなさい、西九条駅までお願いします!」運ちゃんは大急ぎの私に察してくれて、ビューンと飛ばしてくれた。特急到着5分前に駅到着!なんと、奇跡的に特急に乗れた!
たのむ、特急よ、時刻表よりも速く走ってくれ!
一度くらいは、「早く着き過ぎてすみません」という車内アナウンスを聞かせてくれ!
りんくうタウンを過ぎて、海に浮かぶ巨大な空港島が見えてきた。無常にも、列車の運行は時間通りだ。ムダだ、とはわかっていた。無理なんだ、とわかっていた。でも、私の性分は、なぜか急がずにはいられない。関西国際空港駅に到着する。すでに飛行機の離陸時間となってしまった。
空港ターミナルまで一直線だ。荷物を肩にかついで、ダッシュする。無理だと思っていてもダッシュする。ダッシュしているのは私だけだ。ANAのカウンターに着く。「あれ?」高橋和裕が カウンター前でニコニコしている。
高「平岩さん、間に合いましたね!」
私「どうしたの?」
高「飛行機が到着遅れで、30分延びてるんですよ。今から搭乗ですよ」
私「俺、大丈夫かな?」
高「荷物は持ち込みですけどね、お疲れさまです」
そうだ、列車は時刻通りでも、飛行機は遅れる事が頻繁にあるんだよ。あ〜、頑張ってよかった。すべて努力した甲斐があった。ダッシュが得意で良かった。
これ以降、空港の表示板で「DELAY」(遅れて出発)の文字が出ても、ありがとう、と思えるようになったのです。あきらめない事は、人生にとってとても重要です。