心がもっとも震えた日 神秘に出会えたひとり旅
■1.カンゲルルスアークにて
10時半、空港に着いた=ホテルに着いた。初日に会ったガイドのレイナイさんとすぐおちあった。空港内の案内係である女性職員にも、「お帰り、またお会いしましたね」と声をかけられた。外の気温は-16度だ。
噂どおり、空港と直結しているこのホテルは長い。チェックインした部屋は一番遠い端から4番目だった。歩く。本当に長い。しかもシングルの部屋としては広かったが、北側山向きで景色が悪い。事前に調べたところオーロラベルトは南にあるから、これは良くない。すぐにフロントに戻り、南側の部屋にしてほしい、と頼む。即、変更してくれた。ちょっと近くなるかな?と淡い期待はあっというまに砕かれ、さらに奥の端から2番目になった。北側よりもずいぶん狭いが、ながめはかなりいい。
レイナイさんのMosk Oxという店が空港前にあり訪ねた。私自身の病気もあって、なんでもかんでも忙しく遊ぶ、ということはしない。今日は何もなし。明日、内陸に氷河ツアーへ出かけよう。このツアー、日本で事前に調べた料金よりも幾分安いようだ。聞いてみた。「そうだよ、日本のエージェントを通せばマージンがとられるからね。こっちで直接話をすればずっと安くて済むよ」。
カンゲルルスアークは基地があった町だ。グリーンランド最大のハブ空港だが、町自体はイルリサットと違って形成されていない。空港の前にスーパーが一軒あるだけだ。高い食事をしたくないし、今日はゆっくりと夜を待つだけだから買出しをする。レイナイさんが注意してくれた。「グリーンランドの法律で、アルコールは平日が13時まで、休日は14時までしか買えないよ」。今は、、、11時40分。小瓶ビール6本とサンドイッチを買う。
レイナイさんに尋ねた。
私「オーロラは南に出るの?」
レ「そんなことないよ、どこからでも現れるよ」
私「オーロラベルトは南でしょ?」
レ「さあ?でもオーロラは北だって南だって西にも東にも真上にも出るんだよ」
私「前兆とかあるのかな?」
レ「ここでは暗くなれば、午後5時だって朝7時だって見られるから、頻繁に外をチェックするといいよ。今晩は晴れ時々曇りだよ」
ホテルに戻る。わかっていたがこのホテルは三流だ。ポットもない。困った。持参したお茶もコーヒーも飲めない。フロントに内線で確認。フロント近くのカフェテリアにポットがおいてあるらしい。また戻るのか。長い道のりを歩く。カフェテリアで借りる。ん?電器ポットでない!毎度ここまでお湯をもらいに来なければいけない、、、面倒だ。
ランチ。サンドイッチと、日本から持参したとん汁を飲む。ビールを飲む、紅茶も飲む。夜のために昼寝をする。
■2.夜になる
午後6時、6時半と外に出て空をチェックした。一番端が幸いして、出口があるのだ。オーロラってどう見えるのかわからないが出ていない。夕食はカフェテリアでカレーライスをK54(1080円)で食べる。自分でよそうので、大盛りにする。まずい。ソースをかける。まずい。さらに醤油があったのでかける。少しなんとかなった。外を見た。月がおぼろだ。雲がかかっていてはダメだ。昼寝したのに、また眠くなってきた。2時間ウトウトする。日本にいる夢をみた。
午後8時半、なんだか別な部屋でコンコンとノックする音が聞こえる。もしかしたら他のグループがオーロラが出た、と知らせているのか?窓の外を見るがよくわからないので、意を決して完全装備をし、ホカロン6個付きで-15度の闇に突入。ホテルの灯りなどで薄く見えるので、人気のない方へ道をたどって歩く。圧雪された道に10センチほどの雪が積もっている。3,4分でちょうど滑走路の延長部あたりに、腰掛けてください、といわんばかりの横木があったので座る。日本から持参した小さな水筒に入れたコーヒーを少しずつ飲みながら、南西の方を見続ける。時に後ろを見る。が、出ない。30-40分座っているが、雲がとれる感じがしない。オーロラが出るというのは、きっと神秘的なんだろうな。どんなに美しいんだろう、と思う。時々、車がとおる。何も起こらない。
全てがうまくいくことはない。
水筒のコーヒーがなくなったところであきらめよう。もう一度くればいいか。と思って立ち上がると、バランスを崩し、その場で倒れる。そのひょうしに、左のお尻を強打する。いたい!!でも右ポケットにはいっていたカメラを壊さないでよかった。とても寒いが、寒いことは気にならない。痛いのでゆっくり、ゆっくり戻る。時々振り返るが、空には何もない。部屋に入る。不思議に何の感情もおこらず、防寒具をはずす。やはり部屋の中は暖かい。9時55分。また眠くなってきた。
■3.そのとき
午後11時50分、ふと目がさめた。いつものように外を眺める。ん?星?星がポツン、ポツンと見える。あれ?急に星の数が増えてきた。なんだか胸騒ぎがする。
もう居ても立ってもいられない。
準備していたものを、星空を見ながら身につける。靴下を二重に。クレーマー長袖Tシャツ、トレーナー、ベスト、ベストの上にサーキュレーション(防寒、可動性にサイコウ)、厚いウインドブレーカー。下半身はジャージ、サーキュレーション、ウインドブレーカー。そして襟巻き、ウインドブレーカー付属の頭をかぶり、さらにスキー帽。コーヒーを水筒に入れてビニール袋にタオルとスキーグローブをともに入れる。寒くなると電池の減りが早いので三脚をあらかじめつけてカメラを胸の中にしまい、ホカロンを6個あちこちに。最後にクレーマーコートをはおり、野球用の皮手袋をして空を見る。星の数はかなり増えている。ん?あれは?
■4.Nothern Light Says "Welcome"
もう、心と足は動いている。外に出る。急ぐ。あわてる。さっき座ったあたりに急ぐ。
南の空に、薄く青く雲らしくないものが縦S字状に見える。オーロラだ!カメラの用意をする。と、消えている。私はホテルの南を走っている。今度は北側、私からするとホテルの方に緑色の筋状が見える。山の向こうだ!私はホテルから離れて滑走路のフェンス沿いを走る。さきほどの地点よりもさらに南へいく。道路ではないので粉雪が20センチくらい積もっている。ラッセルしながら空を見る。見える!オーロラだ!はっきり見える。北の山沿いに、横へオーロラが流れている。
写真を撮る。デジカメをベストショットモードにし、花火撮影モードにセット、ISO400の高感度で2秒間(もっと長くしたかったけどこれが最長)撮影。
月が明るいことに気がついた。オーロラを探す。
ひとつの形が、2秒から5秒で、次々と出ては消える。
オーロラが出そうで出ないこともある。
光が集まっているのだ。
北側にオーロラの白いカーテンが見える。長いカーテンだ。(写真左)
今度は西に、月に近いところで縦のオーロラが。(写真右)
北に、横に、長く、「つ」の字をした様なものも。
「逆く」の字状のオーロラがすーっと現れ、そのまま左側に流れていき、ゆっくりと消えてゆく。
ゆるやかな縦の白い雲が、徐々にゆるい縦型のSになってオーロラとなり、すぐに消えてゆく。
カーテンの形は一瞬だ。すぐにまた消える。
気がつくと写真には撮れない真上に、オーロラが。雲ではない。横一文字に光が不思議な状態で集まっている。私はその真下で、ただ、眺めるのだ。ようやく右往左往していた興奮状態がおさまってくる。そしてコーヒーを飲む。あたたかい。幸せだ。
あ〜、みんなに見せたい。何を表現しようか、と考え、そしてありのままに見る。
写真の限界
この間、三脚が立ち易いように、粉雪をのけたり、そこらを行ったり来たり。全く落ち着かない。カメラは2秒のシャッター後、撮ったものがカメラに写されるのでそれを確認しながらまたシャッターを切る。
気がつくと1時20分だ。座ってコーヒーを飲み干す。
これが当たり前の姿?カングルルスアークの人はみな、オーロラを「very often(しょっちゅう)」といっていた。なんという感動だろう。
ありがとう、と念じ、部屋へゆっくりと戻る。服を脱ぎ、まず電話をしよう!
■5.余韻
ここの電話ときたら、つながらない。電話をしながら、ibookを起動し、すぐに写真を取り込む。うまく撮れていないものを捨てる。が、30-40枚は撮れている。はっきりとしているのも、10枚以上ありそうだ。(注:オーロラの写真撮影はとっても難しいです)
何度も国際電話をかけようとトライする。電話に書いてある通りにすれば、ダメなのだ。今までの海外旅行や生活の勘と経験で何とかなるかな?おっ、「プルルルルル、」日本の呼び出し音だ!ママ(私の嫁さん)にこの喜びを伝えたかった!
「見えたよ!ありがとう!」ほかに言葉が見つからない、、、、、、、、
そしてこの文章を書いている。もう3時だ。最後にビールを飲んで、寝よう。このとき、さらに翌日起きる「スゴイこと」を想像することも出来なかった。
わかったこと
何もしなければ、何も得られない
何かをすれば、何かが起きる
だから、動くのだ。正しく動くのだ。