2002 ビアライゼ − ケルン、デュッセルドルフ (第 3日) 


21 Nov., 2002


アルトと日本食

朝8時半、ロルフから電話があった。今日はデュッセルドルフにアルトを飲みに行くつもりで、昨日その話をしたらロルフが私のビアライゼに付き合ってくれることになったのだ。Why not? The more the merrier. (人数は多い方が楽しい。)しかし、ドイツ人というのは朝早いよなあ。9時半に電話してって言ったのに...。9時半に駅で待ち合わせにした。10時にしとけばよかったかな。

デュッセルドルフは「リトルトーキョー」と呼ばれるエリアがあるほど日本企業やレストランが集まっている。そこで日本食を食べない手はない。ベルギーやドイツの料理には飽き飽きだ。ご飯が食べたい。目的は2つ。アルトビアと日本食。昨日ロルフにたずねたら、日本食はおろか Sushi すら食べたことがないそうだ。「生の魚?オェーッ!」の世界である。少々気の毒には思ったが、それを承知で来るんだから、「私は絶対食べるからね、まあ、勘弁してくれやっ」ってな具合である。

思ったとおり、ホテルを出たのがすでに9時半過ぎであった。天気はよくなかったが、かろうじて雨は降っていなかった。大聖堂の横を通り、駅がもう目の前というとき、ロルフから電話がかかってきた。「ごめん、ごめん、あと1分で着くから。」 ... 「遅れてごめん。」 彼はニコニコしている。大人だな。

ケルンからデュッセルドルフに行くには、Sバーンと DB (鉄道)とがあり、DB のほうが所要時間が少ない。しかし、このときは到着時刻がほぼ同じなので Sバーンでのんびり行くことにした。途中、ギルデン(ケルシュを造っている)の醸造所がある付近を通るよと、彼は教えてくれた。「おととい、飲んだよ。あれって、どんなブルワリーなの?」 曰く、「ファブリクビア (Fabrikbier)」を造っているところだそう。ファブリクとはドイツ語で「工場」という意味。醸造所ではなく、ビール工場といったイメージだ。
「うん、わかる。そんな味がしたもん。」 デュッセルドルフにも、ハウスブラウアライ、醸造所、ビール工場がある。私達が行くのはもちろんハウスブラウアライである。

さあ到着

デュッセルドルフも2度目だが、前回のは正直言ってあまり印象がない。なんたって、2時間で3軒という、まさに駆け足でまわっただけだから。それでも4軒のハウスブラウアライのうち3軒も行っていたようなので(連れて行ってもらっただけ...)、今回はじめて行くところは「イム フュックスヒェン(Im Fuechschen)」のみだ。さて、駅をでてすぐの大通り「イマーマンシュトラーセ」に入る。ここが、リトルトーキョー。ははあ、ある、ある。日航ホテルに、日本食レストラン、ラーメン屋、日本食材店、日本の旅行会社、日本企業ばかりが入ったビル、ベビーカーを押した日本の奥様方までが...。ウワサどおりだ。「ためしに日本食材店を覗いてみるか。」 うわぁ!すごい。何でもある。魚も、野菜も、お菓子も、菓子パンも、食器も...。ロルフ君、キミにはこのすごさが分かるまい。いっぱい買い物して帰りたかったが、それはムリ、なんとか欲望を抑えた。あ、ビールもある。キリンでしょ、アサヒに、あ、一番絞り... 「ね、ロルフ、イギリスで造ったキリンだよ。」

文化体験

心をまた呼び戻して、さあ、アルトを飲みに行こう。まずは、アルトシュタット(旧市街)から外れた Brauerei Schumacher (ブラウアライ シューマッハ)だ。ここでも「2杯」と注文するだけ。実に簡単でいい。

ケルンとは違って、1杯が250mlである。それでもバイエルンの普通サイズに比べると半分。バイエルン人が非常な大酒飲みで田舎もんのような気がしてきた。こっちの人はお上品だ。運ばれてきたアルトはよく冷えていた。上面発酵で低温貯蔵、比較的低温で飲まれるのはケルシュと同じ。窓から差し込む自然の光にかざしてみると、美しい赤みがかった茶色だ。澄んでいる。グラスに鼻を突っ込むようにしてアロマを確かめるが、冷えているので私の嗅覚程度では最も顕著なホップと、ローストモルトくらいしか分からない。表面を覆う美しい泡を壊さないように一口目を飲んでみた。前回アルトを飲んだ時の記憶では、「思ったより苦い」イメージがあったが、あれ?Schumacher のは結構マイルドだったっけ?自分の味覚と記憶はあまり信用してない。

ロルフが言った。「こないだペーターと飲んだとき、ちょっと酸味を感じたと思ったんだけど、そんな味する?」 「酸味?どれどれ...うん、しないっ!」 真実はともかく、私が言い切ってしまったもんだから、彼は真剣になって確かめている。

「そんなにやってると、鼻も舌も慣れちゃって分かんなくなるよ。ハハハ。」

周りを見回してみると、我々自身のことはさておき、平日の朝っぱら(11時)からこんなにビールを飲む人々がいるとは、ドイツのビール文化には毎度の事ながら感心する。 そういう私も連続6日間、昼夜関係なしに飲んでいる。あと4日。帰ったら禁酒しよう。ビアライゼはいつも楽しいけれど、大変というか、demanding でもある。まあ、今日は一人じゃないから変化があっていいか。歩きながら、飲みながら、電車で移動しながら、ロルフは、ドイツのビールのいろんなことを教えてくれる。私はこのときとばかりにあれこれ聞きまくる。逆に、私が持っている情報や体験を話したり、ビールな情報交換をしながら飲み歩く。あれ?私ってこんなにドイツ語話せたっけ?

Schumacher を出て、また、イマーマン通りに戻る。日本食を食べるためだ。ロルフは大丈夫かなあ。「日本食だけど、本当にいいの?」ともう一度聞いた。「ヤー」とは答えるものの、「いいんじゃない?だってキミは絶対行くって決めてんだろ?」という感じの半ばあきらめたような返事である。通りには日本食レストランが何軒もあったが、ウロウロした後、よく知られた「日本館」という大きなレストランにした。私一人だったら迷わずラーメン屋に入っているところだったが、彼にはちょっと厳しいかなと思ってやめておいた。日本館は入ると水槽に海老が泳いでいたり、石庭風のディスプレイがあったかどうか定かではないが、ともかくとても日本風であった。広い店内を奥まで見てみて、お昼時のサラリーマンがいっぱいのまるで日本ではないかというようなところに座った。ちょっと、観察してみたかったのだ。 ところが、座るとまもなくタバコの煙が気になった。多少ならいいが、あまりにもすごかったからだ。観察はもう、どうでもいいや。お店の人に話したら、とても親切に和室に案内してくださった。暖かいおしぼりや丁寧なサービスもとても気持ちがよかった。

我々は相変わらずビールの話しをしていたが、ふと仕事の話になった。正確には、今までやってきたことの話。私はこんな風だから、いろんな人に聞かれるのでそういう話は慣れている。ロルフは、こんな平日に私に付き合ってビール飲みに来てるくらいだから、現在働いていない。それ以上は大きなお世話なので聞きもしなかったが、「前は何をやっていたの?」と聞いてみた。今思えばはっきりした答えは返って来なかったような気がする。話がどう展開したか覚えていない。しかし、彼には、何かやりたいことがあるけれども踏み切れないような、なにかを探しているような、そんなぎこちなさがあった。それとも、こんなわけの分からん 、ドイツ語も通じるんだかどうかあやしいレストランに連れて来られて、靴を脱いで「タタミ」に座らされ、ナイフ無しで肉を食べて、そこへ「失業」を思い出させる話なんかされた日にゃあ、居心地悪いに決まっとるって?

輪っか発見

あとの3軒はいずれもアルトシュタットにある。どういう順番でまわるかは場所にもよるけれども、味で決めた方がいい。一度に数種類のビールををテイスティングするときのように、アルコール度数やボディの軽いものからだんだんと強い、重いものを飲んでいく。よって、アルトの場合は一番ホップの効いている Zum Uerige を最後にしたい。それは彼も私と同意見だったので、2軒目に行くところは決めてもらった。「イム フュックスヒェン (Im Fuechschen) に行こう。」

ここもやはり、木の長いテーブルに、木のインテリア、クェーベスのおじさんという、いまさら珍しくも何ともない雰囲気のハウスブラウアライだ。テーブルにつくやいなや、ロルフはニコニコしてとても居心地よさそうだ。ああ、やっぱり日本人だらけのレストランは不気味だったんだ。

ここのアルトは Schumacher のよりも多少色が濃かったという記憶がある。(やっぱり、テイスティングノーツをつけておけばよかった。)それよりも印象的だったのは、一口飲むごとにできる泡の痕だ。これは泡持ちの良さの証拠である。泡はビールが空気中の酸素に直接触れるのを防いでくれる。ビールは酸素をとても嫌うのだ。

「ほら、見て!」グラスの内側にきれいに層になった泡を指して言った。「リンゲだ。」(Ring:「輪」、Ringe は複数)と、ロルフは私のグラスから自分のグラスに目を移した。「キミのリンゲのほうがきれいだね。」これを発見したあと、彼はビールをよく観察するようになったと言った。

「ここはペーターが研修をしたところだよ。」 「へ?彼ってアルト造ってたの?」このとき始めて知った。ペーターは、ロルフの友人で、ケルンでハウスブラウアライをやっているブラウマイスターである。なんだかピンと来なかった。あんなにおいしいケルシュ(ただし、未ろ過)を造る彼が、デュッセルドルフでアルトを飲んで育ち、アルトでキャリアを始めた人だったとは、ちょっと想像がつかなかった。いや、まてよ、違うことに挑戦するブラウマイスターだからこそ、ああいう店を造り、ああいうビールを造るのかな。きっとそうだ。

私はここのアルトが Schumacher のよりも好きだ。モルトの味が強いから。ビールのスタイルに限らずモルトの味が好きなモルトファンなのである。リンゲといい、モルトといい、わたしはここがとても気に入った。

「イム」とか「ツム」って?

次は Zum Schluessel (ツム シュルッセル)へ行った。前に一度来たことがある。他のハウスブラウアライとは違って明るいカフェのような雰囲気のところである。私はいつもどおり、店内を奥までぐるーっと見てまわってから一番落ち着けそうな席を選んだ。また「2つ」と注文して、一口目を飲む。思わず「ズュース」(suess:甘い)と言って、ロルフの顔を見た。「ヤー。」 彼も思ったようだった。砂糖のように甘いわけではないけれど、モルトの甘さが目立った。モルトファンの私も、正確に言えば、モルトの甘さではなく香ばしさ、干草のような麦っぽい味が好きなのだ。前回来たときの味の記憶はない。ふーん、こんな味だったんだ。 飲むたびに発見があって面白いじゃん。

今回のビアライゼでは、どこでも必ず2枚コースターを持って帰ることにしている。1枚は自分の家で使うため。コレクションはしていない。もう1枚は、静岡の清水市で日本酒、焼酎、ビールをたくさんそろえた店を経営する知人に送るため。そこで2枚取って、バッグにしまう前に眺めていた。「ね、Zum Schluessel の zum って何?よく見るけど。」ロルフにたずねた。「昔は、今みたいに○○通りの○番地っていう風に、一軒一軒に番号はついてなくって、代わりに名前がついていたんだ。ここは Schluessel (鍵)という名前で、その入り口に『Zum Schluessel (Schluessel へ)』と書いてあったのさ。それが、こういう店にだけ今でも残っているんだよ。」 はぁぁぁぁぁー。長年の疑問が解けた。「Im Fuechschen」も同じようなもんらしい。「キツネさんのお宅」って感じなのかなあ。

私のグラスには今度はリンゲではなく、レース模様ができた。「これ見て。レース。ドイツ語で何ていうの?ほら、ブリュッセルでみんなが小便小僧を見たあとに買って帰るやつ だよ。」 とても美しかった。

この店に入るときに、ロルフはいち早くシュティッケ (Sticke) の知らせが入り口の横に貼ってあるのに気が付いた。シュティッケとは、よく「秘密のビール」と言われ、通常のアルトよりアルコール度が高く、1バッチしか造らないのでなくなり次第終わりというちょっとドキドキするビールである。噂には聞いていたけど、なんだ意外とあっさり知らされるもんじゃない?「11月27日」、と彼はコースターの裏に書きとめた。

ホッピーなアルト

さあ、今日の締めは Zum Uerige だ。入るとすぐに目を引くのが、ピカピカの銅の天板のバーに並べられたたくさんのグラスとアルトの入った大きな木樽。そこから休む間もなくグラスが満たされていく。フワフワの泡だ。私はビールが注がれるところを見るのが好きである。その店がビールをどう扱っているか見る目的もあるが、何よりおいしそうだから。料理でも、キッチンで皿に盛り付けられて運ばれてきたものより、ワゴンでやってきてテーブルの横で取り分けられたものの方が数倍おいしそうに見える。私たちは、その木樽が見えるところに座った。

トレイにアルトをいっぱい載せてまわっていたクェーベスが、私たちを見つけると2杯置いていった。とてもフレッシュ。ホップが効いている。ロルフはここのアルトが1番好きらしい。何倍も飲んでいるのですぐに分かる。私はホップよりもモルトが好きなので、イム フックフヒェンのが一番好きだ。Uerige のはこの苦味が食欲をそそるアピタイザーとしていいと思った。

樽を観察してると、50Lと言えどもあっという間に空になる。空いた樽はゴロゴロ転がされていった。新しい樽はタップが付けられ、逆さまに床に置いてある。それを大きな男性2人が「せーのっ」で持ち上げ、空中でくるっと回転させて台にのせる。お見事。この樽は本物だ。樽には本物と見せかけとがある。地下に置いた金属製の樽(ケグ)からガスの圧力を使いビールを地上のバーまで押し上げてサービングする場合に、ハリボテの樽を経由してビールが、さも木樽に入っているかのように見せかけるずるいところが(バイエルンにはよく)あるのだ。本物の木樽の場合、注ぐときに余分なガスが入らないので、それを好むビール好きは多い。

店内は広く、幾つかの部屋に分かれている。それぞれが趣の異なる部屋になっているのもおもしろい。奥の方に行くとピカピカに磨き上げられたブルーケトルを見ることも出来る。こんなに流行ってて、こんなにたくさんの人が飲みに来てるにもかかわらず、ビールはここで造っているというのは素晴らしい。醸造を別の場所に移したりせずに、このまま新鮮なアルトをずーっと飲ませて欲しい。と、思っていたら、トイレから戻ってきたロルフが言った。「今トイレに行ってみなよ。ここで造ってるという証拠が見られるよ。」言われるがままに行ってみると、男子用と女子用の入り口の間の通路から「ビールを造っているにおい」がする。近寄ってみると、隅に大きな容器があって、そこにホカホカのモルトかすがいっぱい入っていた。まだ湯気が出ている。席に戻って、「見たよ」と言わんばかりにニコニコしながらウンウンとうなずいた。「あれ、なんて言うの?」 「トレーバー (Treber)。ペーターのとこは、あれでパンを作って出してるんだよ。」おいしそう。「私もホームブルーイングはじめたらやってみようかな。」

ホームブルーイングで思い出した。「あなたのビール、どんなのにするの?」ロルフにたずねた。彼はペーターから誕生日のプレゼントに「ビール造り」をもらったのだ。「うん、普通の。」  「普通のって、ケルシュ?」 おもしろい。ミュンヘンでは普通のビールと言えばヘレスなのだが、ケルンではもちろんケルシュ。「だけど、ろ過してないケルシュだよ。」  「じゃ、ヴィースね。」
「ただ、ホップをいっぱい効かせたいんだ。」 ああ、なるほどね。ここのアルトが好きな彼なら当然だろな。もう3杯も飲んでるし。「じゃ、ホップが好きならドライホッピングもすれば?香りもいっぱいになるじゃん。」

このハウスブラウアライはとても活気がある。出来立ての「フリカデレ」というハンバーグのようなものをたくさんお盆にのせて売りに来るクェーベスは本当に大声で「フリカデーレー!」と叫ぶ。そんな店内で行商しなくても...、おもしろいなあと思ってジーッと見てたら間違えられた。「いいえ、いりません...。」

今日は1リットル以内に抑えたぞ。

 

名前 住所 Tel (0211) 交通 営業時間
Brauerei Schumacher Oststr. 123 32 60 04 中央駅から徒歩10-15分、または地下鉄 U70, 76, 78, 79 Oststr. 下車 10:00-24:00
Im Fuechschen Ratinger Str. 28 137 470 中央駅から徒歩10-15分、または地下鉄 U70, 76, 78, 79 Heinlich-Heine-Allee 下車 09:00-24:00
金、土:11:00-03:00
Zum Schluessel Bolkerstr. 41-47 82 89 550 中央駅から徒歩10-15分、または地下鉄 U70, 76, 78, 79 Heinlich-Heine-Allee 下車 10:00-24:00
金、土:10:00-25:00
Zum Uerige Bergerstr. 1 866 990 中央駅から徒歩10-15分、または地下鉄 U70, 76, 78, 79 Heinlich-Heine-Allee 下車 11:00-24:00

デュッセルドルフ交通機関マップ (PDF)

デュッセルドルフ市街地マップ

 

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