ヨーロッパビール事情 3


21 Apr., 2002

Hurrah! 英国マイクロブルワリ!

2002年4月17日は英国のマイクロブルワリ、CAMRA そしてリアルエールドリンカーにとって、勝利の日となった。この日は、ゴードン ブラウン蔵相が国家予算を発表する日で、英国内外のあらゆる分野の人々の関心事だったのだが、私も含めて、ビール産業、消費者団体、愛飲家たちは特に酒税について注目していた。結果は2年連続の税率据え置き、それに加えて生産量が年間 5,000 ヘクトリッター以下のマイクロブルワリに課されるビール税 (duty on beer/beer duty) が半分に引き下げられたのだ。インフレ率を考慮すると据え置きは実質上の引き下げであり、また、国内約 350 のマイクロブルワリが対象となるビール税50%引き下げは、消費者の側から見れば1パイントが14ペンスも安くなるということでもある。

これまでの課税法はマイクロブルワリには不利であった

なぜこの引き下げが歓迎されたか背景を説明しよう。マイクロブルワリにとって、大規模ブルワリと同じ税率を課されることは経営、存続を圧迫する重荷を背負うことであり、また大企業と競争する上で不利な条件であった。大規模ブルワリはビールの質より製造の合理化、効率化を優先するため製造過程を短くしたり、コストを出来るだけ抑えようと、安い原料を使用したりする。わずかなコスト削減も生産するビールの量が多いほど、全体としてはかなり大きな削減となる。利益を追求する企業としては当然やって然るべきことだ。しかし、リアルエールを造るマイクロブルワリーはビールの質を落とすことは出来ない。仮に安い原料を使用して、それから高品質のビールを造るための手間を考えると、そんなことはそもそもやる意味がないのである。大企業はこのコスト削減によって得た利益をさらに広告宣伝につぎ込み消費者にアピールする。すると、リアルエールを飲む人が減ってしまい、マイクロにとって更なる困難が生まれるという状況であった。この引き下げによってマイクロもようやく大企業と対等に競争できる土俵が与えられたというわけだ。

政府はなぜ引き下げを行ったか

政府としての引き下げの理由は2つある。英国の酒税は他のヨーロッパ諸国と比べて非常に高い。近隣の安い国から大量にビールなどを買って持ち込む人々(smugglers:スマグラー と呼ばれる)が絶えないのはそのせいである。それを防ぎ、英国の伝統的ビール産業を保護するのが1つめの理由。もう1つは、CAMRA の20年間の訴えにようやく政府が応えたのだと言ってよいだろう。これにより、マイクロブルワリは小規模ながらも競争力がつき、消費者にリアルエールを提供し続けることが出来る。ブラウン蔵相は実は熱心なリアルエールドリンカーではないかと思っているのだが。

喜ぶ人もいれば、怒る人も

喜んだ人は CAMRA をはじめ、当然、マイクロブルワリやブルーパブのオーナーである。これにより、彼らはビジネス発展のため、そして大規模ブルワリー相手の競争力をつけるための投資が可能になる。また、新しくマイクロブルワリが出来るきっかけになる可能性もある。マイクロブルワリの生産量は全部合わせても市場の2%を占めるに過ぎないが、数では英国のブルワリの9割を占め、全体としては 2,000 種類もの独自のリアルエールを造っている。リアルエールドリンカーも当然喜んだ。おいしいビールが安く飲めるようになるだけでなく、リアルエールブルワーが経営難に陥り閉鎖されていく恐れも減るからである。

一方、怒った人々はというと、中規模ブルワリーである。Spitfire などのエールで有名な300年以上の歴史を誇るインディペンデントブルワリ、Shepherd Neame はこの恩恵にあずかることができずいささかふてくされた風でもある。伝統的なリアルエールを造っていながら、なぜ自分たちがのけ者にされるのかと彼らの怒る気持ちも分かる。

ビールは文化、政府に更なる働きかけを

蔵相によるとこの引き下げはワールドカップに間に合うタイミングで実施されるという。ビールとパブとサッカーは英国民にとって互いに切り離すことの出来ないものであり文化と言って良いくらいだ。であるから、CAMRA は今回の引き下げに満足してしまうことなく、大陸とのビール税の差を縮めるべくさらに活動を続けなければならない。CAMRA の活動の主旨から言えば、今度は前述の Shepherd Neame のような中規模インディペンデント リアルエールブルワーにも歓迎されるような、生産量に合わせた課税法の導入を訴えるべきであろうと思う。

 

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