マイケル・ジャクソンに会った
24 Aug, 2002
まだ会ったことない
GBBF の前日、パーソンズグリーンにある White Horse というパブでロンドン在住の友達と久しぶりに会った。このパブには、たくさんのカスクエールはもちろんのこと、外国のビールもいろいろとある。そして、よく女性が注文するハーフパイントはなんとワイングラスで出てくるという、おしゃれなパブなのだ。天気もよかったので、私達は最初の1杯は外のテラスで飲んだが、その後中に入って食事をした。料理もいわゆるパブめしではなく、イギリスにしては洗練されたメニューの数々で感動してしまったほどだ。しかも、料理に合わせるビールとワインのおすすめが書いてある。うーん、あなどれん。
そんなおしゃれなところに GBBF の期間中は、一見して CAMRA と分かるTシャツ短パン姿(ついでに鼻ひげ)のビール腹のおじさんたちが集まって一種異様な雰囲気をかもしだす。一緒にフェスティバルで働いている人たちが多くやってくるので、だいたい顔見知りばかりだ。しかし、店に入ってくるおじさんというおじさんが皆わたしに「ハロー」と言うので、一緒にいた友達は面白がっていたようだ。
ドイツ在住のアメリカ人、トマスが通りがかりに私を見つけて言った。「上においでよ。」 「何があるの?」、トマスはちょっと近づいて小声で 「ビアライター達が集まって話をしてるから、それを聞きに。ただでビールも飲めるよ。」と教えてくれた。私達は、じゃ行こうか、とそのつもりでいたが食事の会計をするのにウェイトレスを探しつつおしゃべりしていたら、時間が過ぎてしまった。
しばらくして、私が働く外国ビールのバーのマネジャーをしているイアンと、もう一人おじさん、リチャードが私達のテーブルに座った。「みんな上にいたんだよ。」
「ああ、トマスがおいでよって言ってた。でも、ビアライターって誰が来てんの?」
「マイケル・ジャクソンとかロジャープロッツとか...。マイケルには会ったことある?」 「ない。」
「じゃ、明日どうせうちのバーに来るからそのとき紹介するよ。」とイアン。「ああ、彼に話したいことがあったから、そりゃちょうどいい。」
ちょうどいいと思ったのも事実だが、ビール好きなら一度は会って話してみたいビアハンター、マイケル・ジャクソンである。私はマイケルのアシスタントとは去年の GBBF で会ったが、彼のボスとは会う機会がなかった。毎年フェスティバルには来てる筈なのに。会ったことのある人から「ただの飲兵衛のおっさんだよ」とか「たいしたことなかった」とか聞いたことがあるが、果たしてどういう人なんだろうと、とても興味があった。
'Something American'
フェスティバルの初日、ベルギービールのバーで働いてるとイアンがやってきた。「ヒサコ、今マイケルがあっちにいるから紹介するよ。」あっちって、アメリカのバーの前である。早速紹介してもらった。当然のことだが、有名人の彼の周りにはいつも誰かしらがいて話をしていたり、熱心なビールファンがマイケルの著書を持ってきてそれににサインをしてもらったり、質問をぶつけたりしている。私はそれまでの彼らの会話を中断させたくなかったので、最初はちょっと黙っていた。するとマイケルが気を使ってくれたのか、なにか日本に関する質問をしてきた。何だったかは忘れた。
3、4人で話をしていると、ある男性がマイケルの空になったグラスに気づいて、もう1杯なにか持ってきましょうかと聞いた。「何がいいです?」
なんとマイケルは「Something American」と答えていた。私は、これが「Never ask for a
beer...」といった人の言葉かと、驚いたと同時に親近感が沸いた。ビールのエキスパートでもそういう時はあるんだな、と。
「何がいいか、言ってください。」
「きみのお勧めでいいよ。」と、ジャクソン氏。「ミスタージャクソン、あなたはエキスパートじゃないですか!」確かに。でも、彼も人間だ、私は気に入った。
Go for American
マイケルは、彼の記事の中でも最近よく言っているように、ホップの効いたアメリカのビールが好きである。話をしてても、ベルギービールなんかの話題はつまらなそう。ビアハンターである彼は、今では簡単に手に入るベルギービールやドイツビールなんかにはもうエキサイトしないのではないか。最近ではウィスキーの本も出しているマイケル、「スコッチウィスキーに一番忠実に造っているのはニッカだ。」とやたらと「ニッカ」、「ニッカ」と言っていた。ああ、もうヨーロッパのビールには飽きてしまったんだな、と思った。
しかし、それはマイケルだけではない。私は5年間 GBBF で働いているが、今年は特にアメリカのビールが人気だった。年々そういう傾向にある。しかも、いろいろ飲みつくした人ほどそうなのだ。アメリカのクラフトビアは全体的にかなりエクストリームである。ホッピーなのは言うまでもなく、原材料に使うものの幅広さ、発想の豊かさ、イマジネーション、ビールの名前の面白さ、などなど。伝統的なヨーロッパのビールをありがたく十分に堪能した人々 のさらなる興味は、新しいもの、変わったもの、面白いものを求めて、アメリカのビールへと移っていく。
次は日本のビール?
せっかくだから日本の地ビールについての話もした。マイケルはビアコンペティションの審査のために何度か日本に行ったことがある。「日本の地ビールはお好きですか?」応えはもちろんイエス。日本人の私に面と向かってノーと言うわけがないし、だいだい審査されるビールはおいしいはずだ。もう少し突っ込んで話をしようと思った。
「私は日本の地ビール産業について心配してるんです。」それに続いて、ブームが去っていったこと、経済による影響、ビール税の高さ、会社組織のマイクロブルワリー、ブルワーと消費者の傾向、地ビール協会の活動などについての私の意見を話した。意識して、心配の種になるようなことを言った。CAMRA のある国に住む彼が少しは何かポジティブなことを言ってくれるかと期待して。しかし彼は反対するでもなく賛成するでもなく、彼自身の日本の地ビールに関する印象を話してくれた。
ドイツ人に教わった日本のブルワー
1994年に規制が緩和されて地ビール解禁になったとき、こぞって地ビール産業に参入した人々は、おきまりのようにドイツからブラウマイスターを呼んだ。業界ではそれがいわゆる正攻法だったのだろうか。マイケルはそれに対して懐疑的であった。わたしはドイツに住んでいるので彼の意味することがよく分かる。マイスターの国ドイツには、醸造を専門的に学んだブラウマイスターがたくさんいる。おそらくドイツ内の需要よりも多いであろう。卒業したばかりの若いブラウマイスターや、大手のビール会社に勤める雇われマイスターは、呼ばれれば日本にも行くのである。マイスターの仕事は素晴らしい、それは私も認める。しかし、プライドが高く、融通が利かないことが多い。優秀で妥協をしないという点では、ビール造りにも必要な要素であるが、果たして日本の生まれたばかりの地ビール業界にとって適任であっただろうか。ドイツのビールしか知らない典型的なマイスターに、バラエティと新奇さを好む日本人消費者の舌を満足させることの出来るビールを造り、素人の日本人ブルワーを指導することが出来たのであろうか。
マイケルはまたこうも言った。「日本のブルワーに以前は何をしていたのか尋ねるとね、驚いたことに、全く関係ない畑の仕事なんだよ。アメリカだとこれが、ホームブルワーなんだけど。」彼が言いたかったのは、これから日本の地ビール界を担うブルワーたちに、どれほどの情熱があるのだろうか、ということである。アメリカであれだけマイクロブルワリーが繁栄してきたのは、一般の人のホームブルーイングが盛んなことと、ブルワーの情熱、消費者の支持によるものである。これこそ、日本の地ビールに必要だったものではないかと、そういう意味だ。ドイツに住んでいる日本人の私にマイケルは尋ねた。「日本人とドイツ人は似ていると思うかい?」
日本地ビール協会 JCBA
話し始めて30分も経ったであろうか、話題は地ビール協会に至った。「私のように外国にいると、地ビール協会がどういう組織で何を目的に活動しているのか、明確に見えてこないんです。」ホームページを見る限り、「地ビールの振興と普及」のためにビアテイスターを大量生産している非営利団体にしか見えない。もちろん、見えないところで活動してらっしゃる方々はいるのだろうけれど。知り合いで地ビール協会会員、ビアテイスターも何人かはいるが、彼らからも会員としての何かは伝わってこない。活動をしていても、その目的、内容と成果をもっと具体的に知らせてくれないと、本当に協会の方針に賛同した会員は増えないのではないでしょうか。テイスターの資格を取得するためには入会することが必要だから、それでみんな会員になっているような、そんな印象しか伝わってこない。閉鎖的とでも言うのであろうか。会員の方、運営に携わっていらっしゃる方、どうぞ今後の方向性をもっと明確に示してください。これは私だけの意見ではないと思います。
マイケルも少なからず同意見であった。JCBA は CAMRA (ヨーロッパビール事情−2 参照)のように消費者団体でもないし、業者の団体でもない。ねらいがはっきりしない。もちろん、彼は日本地ビール協会会長の小田氏と知り合いである。それを承知で、私はマイケルが私に言った言葉をここに書く。「私はミスターオダが何をしようとしているのか理解したことはなかった。」
いつかマイケルに「Something Japanese」 と言わせて見たいと思う。
また会いたいと思わせる人柄

マイケル・ジャクソンは素敵な人だと思った。ビアハンター、ウィスキーチェイサーとしてまだまだ情熱を持っている。そして何よりとても人間的だ。後でイアンのところに行った。「マイケルに紹介してくれてありがとう。」
「どうだった?」 「いい人じゃん。」
「マイケルはどんなに飲みながら話していても、また会ったときに覚えていてくれる人だよ。」と、笑顔を浮かべて彼は言った。
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