意外と簡単。ビアテイスティングをしてみよう。
Beer Tasting by Lorenzo Dabove and Teo Mussi
訳:小池ひさこ
ビアテイスティングは喜び、楽しみ、癒しをもたらすもの
ビアテイスティングは、ビールを味わうこと、つまりテイスティングすることによって喜び、楽しみ、癒しを得ること、であるべきだと思います。私達はこれまで、どこかの醸造大学の教授たちのやる面白みのない、堅い雰囲気のテイスティング セッションに数多く参加しました。そうして得た結論がこれです。
これらのちょっと真面目くさったテイスティングを経験して気づいたことがあります。学術的にテイスティングをする場合には、ビアテイスティングという作業がどんなものであるかという理解と見解を得るために、感情的な要素を入れない方が良いのです。しかし、私達の行うテイスティングにおいては、何が一番の喜びかと言うと、私達のビールに対する情熱を人々に伝えることなのです。
私達のセッションに参加した生徒が、これまでのビールに関する考えや態度が変わったと打ち明けるとき、私達はこれを最高の賛辞だと受け取ります。彼らは、もう、ただ喉の渇きを癒すためや酔っ払うためにビールを飲むことはしないと言います。泡の状態を評価し、ブーケのような香、フルーティな香をとらえるのに集中し、少し口に含んで甘味、苦味、酸味などの溶け合った複雑な味を確かめ、そして最後に後味を楽しみながらビールを飲まずにはいられなくなったと言います。
テイスティング セッションに、ちょっとした「出来事」的要素を盛り込むことは、テイスティングそのもののドグマや客観的な要素を無視するものではなく、満足感を得ることも可能にすることなのです。そうして、テイスティングをする人の個性と非協調性を開放してあげることでもあります。
私達はビアテイスティングにおいて自らの身体と魂を捧げます。1杯のビールを目の前にし、鳥肌が立つほどの興奮と、忘れがたい感情を抱くことも可能なのです。では、テイスティングの方法についてお話しましょう。
ビアテイスティングは、人の持つ感覚、特に視覚、嗅覚、味覚を必要とする技です。そして、正しいテイスティングのために従わなければならないいくつかの基本的な決まりがあります。
外観
グラスはきちんと洗い、よくすすがなくてはなりません。油分がグラスについているとビールの泡がすぐに消えてしまいます。グラスの縁についた口紅の油分によっても泡の持ちが悪くなります。
ボトルに入ったビールは正しく保存されていなければなりません。高温、日光を避け、ラベルも記載内容(製造年月日、賞味期限、製造者のデータ、原材料、およびアルコール度数)が読めるよう、汚れや敗れのないものが理想的です。もしさらに、詳細な情報、例えばそのビールの名前の由来、産地の歴史的、文化的背景などが分かればより興味深いことでしょう。
では実際にビールを注いでみましょう。グラスはビールの香と味の質が際立つよう、ふさわしいものを選んでください。グラスを45度に傾け、ボトルはできるだけ水平に近く持って注ぎ始めます。注ぎながらグラスを徐々にまっすぐに立てていき、きれいな泡が出来るようにします(ビールの種類にもよりますが)。そうして、ほんの少しの時間、泡を落ち着かせた後、専用のヘラを使ってグラスの縁に沿って素早く泡を切ります。
このようにして出来た厚く、密度の高いクリーミーな泡がふたの役目をし、ビールのアロマを閉じ込めておくことが出来ます。このような種類の泡は、ガスを多く含んだ大きな泡とは違い、胃を膨張させません。
ビールを注いだらいよいよ第一段階、観察と定義です。まず、色合い(濃淡)、透明度、濁り度を見ます。そして次に、泡の質、粘り度、持ちを観察しましょう。
香(アロマ)
それでは、アロマの特徴へと進んでいきましょう。ここで、ひとつ前提があります。私達の嗅覚は、長い時間ある匂いにさらされると、それに慣れてしまいます。ある一定時間が過ぎると、私達の嗅覚は匂いの情報を脳に送るのを止めてしまうのです。ここで必要なことはビールのアロマをかぎ続けることではなく、どのような香かを確認することですから、素早くかぎ分けなくてはなりません。そしてこれは、ビアテイスターとしての本当の挑戦でもあります。よって、グラスの中のビールが私達ビアテイスターに与えてくれるアロマという贈り物をしっかりと掴むため、一瞬のうちに香を十分に嗅覚に浸透させることが不可欠なのです。
ビールのアロマは3つの異なるレベルに分けられます。最初のレベルでは、もっとも優位的なアロマ(最初に嗅覚を圧倒し、そして消えていくアロマ)を確認することが出来ます。第2のレベルでは、第1レベルのアロマが消えた後に感じる第2のアロマを確認しましょう。そして、第3のレベルでは、最後に残ったアロマ(第1、第2のアロマの残りが混じったもの)を確認します。
ビールのアロマはブーケ(花束)に例えられます。個々の花それぞれの香りがあり、それらが集まってブーケとしての複雑な香りがするように、ビールも様々な香が一緒になってそのビールとして特徴的なアロマを持っています。
私達の経験では、香りのかぎ分けは4つの段階に分けるのがよいという結論に至りました。第1段階では、原材料を確認します。まずモルト香に集中し、それからホップ香をかぎ分けます。第2段階では、フローラル香つまり植物や花の香りをかぎ分けます。子供の頃に花を摘んだりして遊んだ時の記憶をたどればよいでしょう。そうして次(第3段階)は、フルーティ香のかぎ分けです。これは、個人的な要素の強いもっとも興味深く、面白い部分でもあります。
外国のビール(例えばベルギーなど)には、素晴らしいフルーティ香を持った優れたビールがあります。この香はふつう、発酵の過程で生まれます。有機酸がこれらのフルーティなアロマのもととなる酸と作用し合うのです。これらのアロマは、ビールに含まれる各成分のアロマ的特徴にしたがっていくつかのグループに分類することも可能です。このアロマ的特徴を評価するのに指標を使うことが出来ます。この指標は通常、0から5まであり、0は、例えば標準的なラガーのように、香が顕著でないものを示し、5はトラピストのように非常に強いアロマを持ったビールに使用されます。
第4段階は、私達のオープンな心でかぎ分けるちょっと変わった香りです。これは非常に楽しい瞬間であり、生徒と先生との心を開くのにも役立ちます。
味(テイスト)
さあ、これからビールを味わってみましょう。幸運なことに私達は、嗅覚よりも、味蕾(みらい)という味覚器官を通してより多くを知覚することが出来ます。4つの主な味覚をあげてみましょう。甘味、塩味、酸味、苦味です。これらの異なる味覚は、私達の舌の異なる部分で知覚します。
甘味は舌先で知覚します。塩味は舌の両側後方で、酸味は両側中央、苦味はずーっと後方のどの近く部分で知覚します。私達が主に集中する味覚は2つで、甘味と苦味です。ビアテイスティングでは塩味はまれにしか知覚しません。ある特定タイプのビールにしか塩味を感じません。これはまた後で説明します。
私達のテイスティングではふつう、甘味を感じることから始めます。舌先の方です。ここで私達はモルトの甘味や蜂蜜の甘味(詳しくは、また後で述べます)を確認します。砂糖のような味は舌の先で知覚しますが、甘味全体は口蓋の奥でとらえることが出来ます。
塩味のするビールは、塩化ナトリウムを多く含む水を使用していない限り、ほとんどありません。よくあるのは、非常に強い苦味を塩味と勘違いすることです。苦味は舌の奥のほうで知覚しますが、塩味を知覚する部分にまで及ぶ場合があります。(例:オルヴァル)また、ときに Pilsner Urquell で塩味を感じることもあるでしょう。
それ以外で塩味を感じる場合、製造過程における何らかの理由で(衛生、管理など)ビールが変質した可能性があります。酸味を感じるビールが全て変質しているとは限りません。ベルギーにはもともと酸味のある素晴らしいビールもあります。
最後に、より複雑なテイスティング:苦味のテイスティングをしてみましょう。ビールの苦味は主に3つの典型的な出所があります。イースト、ローストされたモルト、そして明らかにホップです。先ほど述べたように、苦味は、舌の奥の方、喉に近いところで知覚されます。一方、口蓋の上部奥は焼いたような苦味により敏感です。ビールの苦味のうち最も重要なのはホップの苦味です。よりアロマの強い種類のホップを例にあげると、ボヘミア地方で取れるザーツ、英国産のファグルズやゴールディング、バイエルン産のハラタウ、そしてアメリカ産のカスケードなどがあります。
ボディとアフターテイスト
香と味を分析した後は、テイスティングの最後の段階であるアフターテイストに入っていきましょう。私達はフレーバーの強さを、ビールが喉を過ぎた後に評価します。
最初は、苦味がビールの味の主な特徴であることがよくあり、その苦味が消えていくとともにほかのフレーバーを感じます。しかしこれらのフレーバーも一度現れてまた消えていきます。そうしてまた、それらが表面に現れるときそれを私達はアフターテイストと呼んでいます。アフターテイストは個々のビールによって異なります。
また、残った香も忘れてはいけません。ひと口、ひと口から得るこのセンセーションに集中しなくてはなりません。時には、熟していないかりんや柿のような、なじみのないフレーバーを感じることもあるかもしれません。
ビアテイスティングにおいて最も重要なのは、ボディです。ボディを評価する簡単な方法は、少量のビールを口に含んで左右に移動させながら舌の中央上部に神経を集中させます。モルトのフレーバーがより強く、残りやすければ、そのビールはより強いボディを持っています。
心を開放する
私達はテイスティング セッションにおいてグラフや分類表を使用したくありません。その日にテイスティングしたビールを特徴づける成分や特質を理解するのに必要な簡単なファイルを使用するだけです。あなたの心と想像力を開放してフルーティなフローラルなフレーバーを探求してください。
ここからはあなた方自身にお任せします。このテイスティング法で、あまりフレーバーの複雑でないビールから始め、他の人とそれぞれのコメントを比べてみましょう。驚くべきことに、あなたのコメントが他の人のコメントと似ていることに気がつくでしょう。そうしてそれは、あなたの信念を強くし、また、これからステップごとに正しい方向へ進むために必要な動機付けを与えてくれることでしょう。
よいビアテイスターの秘密は、「心を開放する」、それを自由に歩き回らせる、そしてあなたが世界中で出会う異なったタイプのビール(大手ビールだけでなく、職人のビールも)を味わうことを決して止めないことなのです。
訳者注:
著者の一人、Lorenzo Dabove
氏は私の素晴らしい友人でもあり、ビールの師匠でもあります。彼はミラノ生まれのミラノ育ちですが、両親の出身地ジェノアの料理を愛し、サッカーももちろんジェノア ファンです。
ビアテイスターとしてはイタリア代表のキャプテンです。彼の鼻はこれまで一度も間違ったことがなく、一度テイスティングしたビールは二度と忘れない、使用されているモルトやホップの種類まで分かるという、すごい人。ロレンツォの最も愛するビールは、カンティヨンのランビックで、これまで何十回ベルギーを訪れたか知れません。
イタリアでは、ロレンツォの啓蒙活動の成果もあり、ビールに興味を持つ人が増えてきています。ここ数年のうちに新しい若いブルワーもどんどん出てきています。ビールを作り始めた人は必ずロレンツォにテイスティングの依頼をしますが、おかげで彼は「毎日まずいビールを飲まされる」そうです。(私もそのうちの1本を飲まされましたが、気持ちは分かりました。)しかし、「決して味わうことを止めない」精神で、これからもイタリアのビールの発展に貢献してくれることでしょう。
© 2002 Hisako Koike. All rights reserved.