お客様は神様どころか・・・


24 Dec, 2003

「なんであんたたちそういう態度なん?買い物ぐらい平穏にさせて欲しいんだけど。」クリスマスが近づきどこの店もプレゼントを買おうという人々でごった返すこの時期、店員はみな殺気立っている。そりゃあんたたちも人に物売ってる場合じゃないっつうことくらい、わたしにだって察しがつくがね、それって仕事やろ?ここが一番の稼ぎ時なんだし、その態度どうにかならんの?

その態度とは、客であるこちらが気分わるーくなってレジを離れた瞬間周りに睨みをきかせながらずんずん歩いていくような接客のことである。ドイツで日本のような行き届いたエクセレント・サービスを期待しているわけでは決してない。「これくらいならOK」なディースント・サービスを提供するのがお互いのためではないかと常日頃思うのである。私の基準ではどれくらいがOKかというと・・・。

まず店に入る。すぐそこにお店の人がいれば「グリュース・ゴット」でも「ハロー」でも、アメリカ人のように How are you doing? でなければ何でもいいから笑顔で挨拶する。「私は客だ」と、相手に認識させることが大切である。万が一こちらの笑顔の度が過ぎた場合(例えば銀行残高が思ったより多かったことを発見した直後など)、すぐに「何をお探しですか?」と店員にアプローチされることがある。私はこれが嫌いだ。店内に入ったとたんにそう言われるとまるで「買うもん買ったら店ん中うろうろせんととっとと出て行きな」と言われているように感じるからである。もちろん店員さんはそんなつもりはない(と思う)。なぜなら「Kann ich Ihnen helfen?」(Can I help you?) と言うからである。純粋に私の買い物のお手伝いをしたいだけなのだと信じるようにしている。それまで店員同士のおしゃべりに夢中になってても、である。しかしこれを素直に受け取らない私は、「ほっといてくれると非常に助かります」と発したくなるのを抑えて「Danke. Ich schaue.」(どうも。見てるだけです。)と無難に答える。すると店員さんもそれ以降は構わないでいてくれる。思う存分おしゃべりしてもらっても問題ない。そしてこちらが必要としているときのみ適切なお手伝いをしてくれる、これが「OK」レベルのサービスだ。

店内をうろうろして買いたいものが見つからなかった場合でも、「こんにちは」と挨拶をした店員さんには「さよなら」とあいさつをして店を出る。お互いにその日を気持ちよく過ごすためだ。ところが、仕事が大変だったとかそんな日に限って、たまたま入った店でたまたま応対した店員の機嫌が悪かったりする。彼女たちは誰が入ってこようが挨拶などしない。考えているのはさっさと店を閉めて帰ることだけ。普段は見てるだけの私がたまたま店員のお手伝いが必要だったりする。「かくかく、しかじか、こうこうこうこう、こういうのが欲しいんですけど。」と説明するが、彼女たちの表情はすでに怒っている。ラッキーならばその怒った店員から探していたものを買うことができるが、そうでなければ「そんなものは置いてない。」の一言で暗に「とっとと帰れ」と命令されるのだ。粘ろうものなら逆切れされてしまうのがオチだ。

イギリスなんかに比べると一般の店員も仕事に必要な知識や能力をよく備えているほうだと思われるドイツだが、なんせ自分で勝手に「ここまで」と決めてしまった領域から超えて余計な仕事をすることなどまず考えも及ばない人々が働いているからして、それがサービス業だろうとなんだろうと融通の利かなさは推して測るべし。客に対してもあくまでも自己主張を押し付け、客に融通をきかせようとする。

実際に体験した例を挙げてみましょう。フランクフルトから成田行きのフライトに乗ったとき。長距離フライトでは私はいつも通路側に座る。チケットを手配したときからすでに通路側を確保しておいた。さらにチェックイン時にも「通路側になってますよね」とダブルチェックをした。さて席に落ち着くと女性の客室乗務員がつかつかとやってきてこう言った。「Can you move to another seat?」いきなりである。へっ?はっ???言ってることはわかってもその意図が計り知れず「Sorry?」と聞き返さなければならなかった。なんでも赤ちゃんを連れた乗客のために他の乗客を移動させようとした結果、私にどけということだった。「その席は通路側ですか?」とたずねると窓側だと言う。もう彼女の口調は命令である。そもそも最初の頼み方が気に入らなかった。いくらドイツ人で英語が母国語でないからといって、客に対してお願いをする立場でありながら Can you 〜? の表現はない。せめて「Could I ask a favour of you? I wonder if you could possibly move to another seat?」くらいの表現で切りだし、その理由をきちんと説明してさらに窓側の席だけれども申し訳ないくらいのことはプロフェッショナルとして言うべきである。まあ、私は以前英語を教えていたことがあったので言葉の使い方に関しては人より敏感に反応してしまうのかもしれない。かの客室乗務員にしてみれば頼んだ相手も悪かったということだ。日本人だからなんでもハイハイ言うかと思ったら大間違い、残念でした。「窓側でしたら、残念ですができません。」淡々と断った。彼女はあからさまにむっとした表情をなぜか私に向け、さらに説明を始めた。「You see, I have a lady with a baby, and ...」客に対して頼みごとをするのに You see もない。口調からして「あんた、わかんないの?」状態である。こんなヒステリー・スッチーに付き合ってる暇はない。「あのですね、私は通路側の席が必要で前もってわざわざ予約しておいたんです。誰かほかの人に頼むこともできるでしょう。」と断った。キーッとなりそうなその乗務員を見かねた私の隣の乗客が「窓側ならOK」と替わってくれて一件落着。ヨーロッパを代表する航空会社というよりは、いまだに「ドイツの」会社である。まあ、それはさておき、客ごときには絶対に譲らない彼らに対してはこちらも同じくらいの主張をし、どこで両者が合意するかを見つけるのがコミュニケーションである。

これは極端な例で、もちろんこんなサービスばかりではない。例えば、ドイツで買い物をしていて気持ちがいいのはレジで「テューテ(袋)必要ですか?」と聞いてくること。無駄な包装はしない。客もちゃんと袋を持参してきているので「いりません」と答える。不必要なものまで提供することはない。ただし自分に必要なことは客にだって要求する。お客様は神でもなんでもない。

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