ロンドンとブリュッセルはそっくり


24 Nov. 2002

私は毎年、最低一度はロンドンとブリュッセルに行く。ロンドンは、8月の GBBF (Great British Beer Festival) で働くために約一週間滞在し、ブリュッセルはビールを飲みにベルギーに行くとき必ず降り立つところである。どちらも楽しむために行くのであるが、楽しいと同時にストレスを感じるところでもある。なぜか?ついこの間、ブリュッセルの街を歩いているときに突然2つの都市の共通点が浮かんだ。

天気が悪い

ロンドンもブリュッセルもとにかく雨が多い。冬などは窓の外を眺めるといつも「どよーん」とした灰色の重く低い空がのしかかっている。朝から気が滅入るというもんだ。日も短いので、曇りや雨の日は午後3時くらいから暗くなり始める。そうなると、心までどよーんと曇ってくるのだ。いや、そういうのは気の持ちようだとポジティブな人はおっしゃるかもしれない。しかし、こう毎日だとムリである。無関心になるか、文句を言って気を晴らすかが関の山。

汚い

清潔なミュンヘンに住んでいると、ロンドンは街中どこもかしこもばばっちくて、どこにも触れられない。落書きなどの見た目の汚さはどうでもいい。地下鉄の手すり、つり革、シート、窓、どれをとっても一度も掃除されていないのではと思うほどの汚さである。そして、街中のごみ。誰もわざわざゴミ箱を探したりしない。捨てたいときに、その場でポイッである。持ち帰るなどあり得ない。かと思えば、繰り返し鼻をかんで、もういい加減捨てなよと言ってやりたくなるようなティッシュを、またポケットにしまうのだから全くこちらの理解を超えている。ブリュッセルも同じ。風の強い日は吹き溜まりに落ち葉ではなくゴミ。そうして毎日のように雨がしとしと降り続くと、歩道のゴミと、犬のフン、並木の落ち葉が全部一緒くたになってドロドロになり、靴を履いていても歩きたくなくなる。(ヨーロッパ)大陸の人々は家では室内履きにはき替えることが多いが、イギリスではそのドロドロの靴で平気で家の中をウロウロする上、床に座ったりもする。

臭い

車やバスの排気ガスなら(環境には悪いが)まだいい。2年前の8月ロンドンのチャイナタウンに行ったとき、どこからともなくプーンと生ゴミの腐った悪臭がした。こっちは鼻が曲がりそうなのに、みんな平気な顔して歩いている。彼らは、味覚だけじゃなく、嗅覚もないのかと思わずにはいられなかった。それとも、また得意の無関心か?一方、ブリュッセルの南駅でのこと。広い構内をトイレを探して歩いていたとき、「あ、このニオイ」と、元をたどっていったら、そこはトイレではなくホームレスがたまる場所だった。

仕事のできない駅員

ロンドンの駅の窓口で切符を買うときは、あらかじめいくらか調べておいてから行かなくてはならない。駅員を信用してはこちらが馬鹿を見るのだ。なぜなら、彼らは仕事に必要な知識がない上にいい加減だからである。

数年前のこと。ロンドン市内のゾーン1(中心)からゾーン4(郊外)まで有効な1日券(One Day Travel Card)を買った。同時に、スタンステッド空港までの切符が必要だったのでそれも買った。後になって気付いたら、1日券でカバーしているはずのゾーン1から4の運賃込みのチケットだった。つまり、その区間を二重に払わされたのである。観光客だと思ってなめられたのか、本当にいいかげんな駅員だったのか、金額にするとたいしたことではないが、私は彼らの仕事の出来なさのために、たとえ1ペニーたりとも払うつもりはなかった。

最寄の駅に行って説明したところ、やはりその駅員のミスだと言われた。じゃあ、差額を返してくれと言うと、「買った駅に行け」と言う。その言い方も気に入らなかったが、ここで粘っても埒があかないので怒りを抑えてその駅に行った。そして窓口でまた同じことを説明したら「その駅員はもう帰ってしまったので分からない。」と言う。怒りが頂点に達した私は、「じゃ、そのあんたの同僚に今すぐ電話して聞いてよ。じゃなかったら、このチケットを同封してロンドントランスポート(ロンドン市交通局)に苦情の手紙を書くからね。」何とかお金は返してもらえることになり、「ああ、終わった。」とほっとしたのもつかの間、なにやら書類に記入して投函すれば後日返金されると言う。「あのね、私はドイツに住んでて、3時間後のフライトで帰るのよ。そんなことやってる暇はないの。何でここですぐに返してくれないの?」と言っても「できない。」の一点張りである。「あなたのミスじゃないのは知ってるけど、でも、あなたは私が二重に払わされたことを知ってて何もしないの?私はあんた達のお粗末な仕事の為にお金を払うつもりなんてないんだから。」そしてさらに、「私はね、ホリデーで来てるの。誰だってホリデーで嫌な経験はしたくないの分かるでしょ?」と、思いつくだけのことを言った。結局、自分のせいじゃないのに私に怒鳴られた気の毒な駅員は、差額を現金で返してくれた。「なんだ、やればできるじゃん。」と思ったが、彼には思いっきり笑顔で「どうもありがとう。」とお礼を言った。

ブリュッセルはここまでひどくないと願っているが、やる気のない人はどこにでもいて、不思議なことにそれでつとまっているのである。夜10時近く、中央駅の列車案内カウンターで翌日の列車の時刻を尋ねた。窓口の駅員はコンピューターで調べてくれたが、その駅に行く列車は無いと言った。そんなはずは無い。夏に来たとき、乗ったんだから。「じゃあ、南駅発ならありますか?」と聞いたところ、なんと彼は「知らない。(I don't know.)」と平気な顔で言った。全くあきれてしまう。「あなたは知らないかもしれないけど、コンピューターで調べることはできるでしょう?」と、何で私がこんなこと言わなきゃいけないのだと思いつつ、このやる気の無い駅員に向かって言った。彼は、いやいやながら調べてくれたが、やはりその列車は無いと、画面に表示された。「ほら、ないんだよ。それに、もう10時だからここは閉まるんだ。明日の朝また南駅で聞いてくれ。」と私を追い返そうとしている。これ以上きいても、どうせあんたには何も分からんだろね、と思ったので「ああ、そう。サイナラ。」と、さっさとその場を去った。翌日、別の駅員さんが「今日は日曜だからその路線は走ってません。バスがあります。」と教えてくれた。ほらね、できる人はできるんだよ。

それでも人が集まってくる

それぞれが自分の仕事をきちんと果たし、それぞれが自分の街を清潔に保とうとすれば、ここまでひどくなることは無いと思う。しかし、いろんな人種が集まって、いろんな価値観、生活習慣、文化が混じると、そうはいかないようだ。日常の基本的な生活の中で、よけいなストレスがたまる。私はこれに嫌気がさしてロンドンからミュンヘンに移ってきた。文句を言いながらそれでもロンドンに住んでいる人には、住む理由がある。仕事だったり、勉強だったり、チャンスだったり、活気だったり。彼らは、この不便さに対し、半ばあきらめ、無関心になる。短期滞在者も多い。観光客や語学留学生で年中溢れている。数日、数週間、数ヶ月でまた帰ってしまうのだから、その滞在中に起こったことはただの「思い出」となり、嫌なことはいつの間にか忘れる。楽しかったとすら思えるのである。

ブリュッセルには、EU を運営する EC 本部がある。私の友人の一人が数年の予定でそこへ派遣されているが、EU 各国から来ている人々はやはり、数年間で任務を果たしたら自分の国に帰っていき、また別の人が送られてくると言う。EC 本部の建物は大きく、いったい何人の人が働いているのだろう。派遣されている人は家族も連れてくるだろう。この街に来る移民も、観光客も多い。歩いているだけで、いろんな言語が耳に入ってくる。

どちらの都市にも、人々をひきつける魅力があり、外部からの人々を受け入れる雰囲気がある。人が入れ替わるので、サービスの悪さや交通の不便さは、問題にはなっても基本的なところで改善はしない。本当に嫌になった人は黙って出て行き、たまに遊びにやって来て「この街は相変わらずだな。こんなところに住んで無くてよかった。」と、また帰っていくだけである。

 

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