「プライバシー」つってもいろいろあって・・・
20 June, 2003
先日、何やおもろいニュースでもないかいなと、ニュースサイトをサーフィンしていて「ヘッ?」と、ブラウザの「戻る」ボタンを押したニュースがあった。英国の新聞のオンライン版で見たその文字は「privacy law」。ついに!Finally! とうとうあの国でも!いや、まてよ、ほんまかいな?
英国のメディアと言ったら「言論の自由」を掲げ、王室だろうとスターだろうとおかまいなしにパパラッチで追いかけまわし、彼らのプライベートの写真をバンバン載せ、スキャンダル暴露などは得意中の得意とするところである。最近の例では、マイケル・ダグラスが「Hello!」という雑誌を訴えたとかなんとか、しかしそんなものは「へ」でもないだろうと私は思っている。ちなみに、Hello! はスターがたくさん登場するえげつないゴシップ誌だけれども、ベッカム様やウィリアム王子ファンの女性には最高かもしれない。
そんな英国のメディアを「自主的に規制させる」(つまり、やりたい放題)のではなく、法によって規制しようなんぞ、どこの(英国の)誰が言い出した?そんな法律が実際にできるかいな?できたところでどの程度の効力があるって?MP - Member of Parliament、つまり国会議員が委員会を作ってこの「プライバシー法」を求めているらしい。確かにあの国のメディアには、ちと行き過ぎた感がある。悪いことをしてもいないのに追い回される有名人は気の毒だ。ただし、世の中には影で悪いことをしている人たちが(うようよ)いて、メディアはこれらを調査し、世間に知らしめ、結果として相当の償いをさせるという役目を持っているのも事実だ。
そして「悪いこと」をしているのはだいたい、金持ちや政治家、役人だったりするわけで、「プライバシー法」をなんとしても阻止したい新聞社や他のメディアはこれを「金持ちの武器」だとして非難ゴウゴウ、政府も急いで「そんな法を導入するつもりはない」と発表。自主規制が最良の規制システムとの見解。
ふーん。ここまでニュースを読んでて、ドイツでのある出来事を思い出した。今年の初めだったか、イギリスのタブロイド紙「メイル・オン・サンデー」がシュレーダー首相の女性問題記事を掲載した。そのころの首相と言ったら、国内にさまざまな難問を抱え(今でもだが・・・)、今やEUの足手まといとけなされるばかり。ヨーロッパを代表する政治家の一人として、国際舞台で確固とした態度を示し、名誉回復を図りたい、その真っ只中のことであった。離婚を繰り返したシュレーダー首相の結婚生活の破綻や女性問題は格好の餌であったにちがいない。それでも、スキャンダル慣れした英国民にとって、この程度のものは言わばたわいもない部類で、ほうっておけばすぐに消えてしまったであろう。 所詮よその国のこと、ドイツにおける自国の政治家のスキャンダル報道とは、人々の捕らえ方が違うのである。そもそも、英国人はドイツに興味がない。
しかしながら、タダでさえ公約違反や失業率の増加などで非難の矢がグサグサささっている首相にとっては、たとえ他国であっても、今このような私生活のマイナス面を報道されてはたまったものではない。一方、英国ほど行き過ぎではなくとも、ドイツ国内でもこの問題の報道がなされていたため、首相はすぐにこれを法廷に持ち込み、法の力で独英両方のメディアによるこのスキャンダル報道を止めさせようとした。おかげでドイツでは再びこの話題が取り上げられることはなくなったが、その力が英国にまで及ぶと思ったのが誤算であった。
ドイツの法による禁止命令が英国では効力をなさなかったばかりでなく、憤慨すればするほど、首相自ら「ジョークの通じないドイツ人」(イギリス人はこの話題が大好きである)を証明することになり、かえってこのタブロイド紙を面白がらせてしまったのである。首相が法に訴えたことに対し、喜んで応酬した同紙は、さらに2ページの記事を掲載した。見出しはこうである。「シュレーダーさん、悪いけどあなたは英国を統治してはいません。少なくとも、まだ。」・・・さすが英国。
ここに英国とドイツのプライバシーの違いが見えてきた。英国では有名人や権力者ほどそのプライバシーが興味の対象とされどんどん暴かれる。一般市民など家に表札はないし、電話でも名乗らないし、近所の人がどんな人だかそもそも知りたいとも思わないが、スターのゴシップはよく知っている。一方、ドイツでは政治家のプライバシーを面白がって報道しないのが暗黙の了解であるらしい。そうして一般市民はというと、あるときテレビを見ていて度肝を抜かれたことがある。ある番組で、ゴミ捨ての取り締まりをなにやら偉そうにやってる人たちがいた。コンテナの外に 捨ててあるゴミ袋や分別をきちんとしていないゴミ袋を(なんと!)開けて郵便物や何かの「捨て主」が分かるものを探し出し、それを持って家まで厳しく注意しに行くという信じられないことが起こっていた。ゴミなんて、プライバシーのかたまりではないか!あっけに取られながら、一般市民として住むな らプライバシーが暴露されるに値しないイギリスの方がいいなと思ったのは言うまでもない。
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