電話の出かたに見られる国民性の違い(独/英)
私はよくイギリスとドイツを比較します。両方の国に住んでみて、ひとまとめにヨーロッパと言えどもこんなにも国によって違いがあるものかと驚くことがしばしばです。今回は電話の出かたについて。
私は現在ドイツに住んでいます。仕事で上司の出張の手配をするとき、ドイツ国内外に電話をかけますが、相手の第一声がドイツの場合やたらと長い。「グーテンモアゲン。ヒルトンホテル、フランクフルト。マイン ナーメ イスト クリスティアン・シュミット。ヴァス カン イヒ フュア ズィー トゥン?」と、だいたいこのような感じです。何をそんなに長々と言っているかというと「おはようございます。ヒルトンホテル、フランクフルトでございます。わたくしクリスティアン・シュミットと申します。ご用件は何でございましょうか?」という具合です。聞いているこちら側は受話器を耳にあてたままこの間約6〜7秒、窓の外をボーっと眺めていたり、コーヒーをすすったり...。はっきりとは聞いていません。向こうの人がしゃべり終えるまで待って、さあ、今度はこちらの番だ!「オハヨウゴザイマス。ワタクシ○○○○○社ノ、コイケトモウシマス。ヨヤクガカリニツナイデイタダケマスカ?」とこれをドイツ語で言うとなると、面倒くさい冠詞やら前置詞やらをくっつけて、やはり6〜7秒もかかってしまうのですね。そうして予約係の人がやっと電話に出ます。「オハヨウゴザイマス。ヒルトンホテル、フランクフルト。ヨヤクガカリデス。ワタクシ、ビルギット・ブラントナー、トモウシマス。ゴヨウケンハナンデショウカ?」という風に、部署名を追加してこれまた長々と挨拶/自己紹介(?)してくれるので、私もまた最初から同じことを繰り返し、私が何者であるかを(全て?)明らかにしてから用件に入らなくてはならない(ような雰囲気)なのです。
彼らは、ほぼ例外なく全員、フルネームで名乗ります。こちらとしてはどうせ聞き流してるし、苗字だけで十分よ、と思うのですが、彼らも機械的にそう言ってしまうのかもしれません。
これが英国だとどうでしょうか。グラスゴー(スコットランド)のヒルトンにもよく予約をしますが、彼らの電話のでかたはだいたいこうです。「グッモーネン、ヒルトン グラースガゥ。(グラスゴーのこと)ハゥキャナイヘルプュー?」と、必要最低限の出かたで、個人名は言いません。私も、「ハロー。ヨヤクガカリニツナイデクダサイ。」としか言いません。必要最低限です。相手が「ヒルトン」と言って、私が「ヨヤクガカリ」と言ったことはつまり、私は彼らのホテルに部屋の予約をしたいということが明白であり、それで十分なのです。私の名前や会社名は予約担当の人が分かればいいことだし、私は予約を取ってくれた人の名前を必要であればたずねますが、それより予約番号の方が重要なのでそれだけは再確認をして、相手の名前は知らないことが普通です。それでも私の上司は快適にヒルトンに滞在して、無事に出張を終えて帰ってきますから、こっちのやり方の方が無駄がなくていいなあと思います。
この両国の違いはいったい何なのでしょうか。私が(勝手に)思うに、どのタイミングで自分を明らかにするのが快適がという意識の違いではないでしょうか。
ドイツでは必要、不必要にかかわらず、まずお互いに名乗り合い、相手が何者であるか確認し合って初めて、安心して話が出来る、これはいかにもよそ者に牽制し合うドイツ人らしい考えのような気がするのですが、その意識に基づいてこのような長ったらしい電話でのやり取りが存在するのだと思います。他方、英国では、用件を伝えたい人にだけ身元を明かせばよい、他の人に知らせる必要はない、それでことは済むのだからという考えが人々の中にあるように感じます。そもそも、英国人は自分に用のない人の名前なんか興味もないとでしょう。いかにもイギリス人です。
会社としてではなく、個人として家庭で電話に出るときもやはり、ドイツ人は苗字を言いますし、かけたほうもまず名乗ってから「○○さんお願いします。」というのが普通です。英国では出る方も「ハロゥ?」のみで、かけたこちら側もいきなり「○○さんいますか?」です。もちろん、出た相手がその家族の誰かですでに顔見知りだったりする場合は、自分の名前を言って「お元気ですか?」くらいの挨拶はしますが。
私個人は、最近ドイツ風に慣れてしまったせいか、イギリスに電話をかけるときもとりあえず最初に名乗ってから用件に入るのが普通になっています。まあ、もともとは日本人ですから、やはり名乗るのが失礼がなくて良いという感じです。しかし、出るときは、イギリス風に「ハロゥ?」だけです。会社で出るときもやはり個人名までは言いません。知りたけりゃ聞いてくれ、と思っています。
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